6.議事の概要
(1)開会
○座長より、本日の審議について説明があった。
- 原子力利用に伴う放射性物質の環境影響について、及び、横断的事項ということで相互交流・機関連携、放射線教育、RIの利用などについてプレゼンテーションをお願いする。
- 今回は、分科会委員以外のプレゼンテーターとして、更田・(財)環境科学技術研究所会長をお迎えした。
○事務局より、配布資料の確認があった。
○座長より、前回の議事概要は次回会合で配布することとしたい旨の発言があった。
(2)横断的事項について
○座長より、プレゼンテーションを続けて行い、その後に全体討論を行う旨の発言があった。
(2−1)原子力利用に伴う放射性物質の環境影響−原子力の環境科学の観点から−
○小佐古委員より、資料1−1に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 環境影響(原子力関連施設の外にある環境を媒介にして公衆に影響)や健康影響への懸念、環境への放射性物質の放出、再処理施設などの立地による影響地域の拡大などにより、環境科学研究の必要性はますます高まっている。環境科学研究は、影響の科学的解明と予測、環境影響・健康影響の低減、社会の理解と受容性の向上を目指している。
- 環境影響研究は、気圏、陸圏、水圏に放出された放射性物質の移行・循環挙動、生態系への影響の解明と予測を主な研究分野にしており、保健物理研究や、より生体に近い健康影響研究とも密接に関連している。
- 環境や健康への影響についての因果関係の解明と予測は重要な課題。原子力発電所から放出されるテクネチウム−99は半減期が約21万年であり、その長期にわたる影響について科学的に解明し、予測することは大切である。
- 環境の保全・修復技術は、事故時や人形峠のウラン残土の処理などにおいて必要とされる。
- 社会の中での原子力利用の位置づけも重要であり、人文・社会科学的研究が必要とされる。
- 気圏では放射性物質の濃度が薄く、シミュレーションモデルによる移行予測のための数値実験やリモートセンシング技術、極微量分析技術による観測・実験によって、移行挙動の解明と予測を行う必要がある。
- 陸圏を移行する放射性物質の挙動は化学状態と土壌の性質に大きく依存しており、放射性物質中の放射能の濃度は薄いものの、放射性物質は、長い時間をかけて土壌中を移行し、食物に蓄積されて人間の体内に取り込まれる。国の安全審査等において、原子力施設や核燃料施設から放出される放射性物質が人間に与える影響を評価する際には、陸圏の物質移行モデルが重要な役割を果たす。
- 炭素−14は、中長期的に見て人類に対する最大のリスク源の一つであり、気圏、陸圏、水圏といった複雑な経路をたどって人類に移行するため、環境科学としての総合的な検討が必要とされる。
- 水圏では、プランクトンや魚介類を通じて放射性物質が人体に摂取されるが、その移行挙動は複雑であって、例えば、英国のセラフィールドにおけるプルトニウム摂取では、河口付近の複雑な地形の下で潮の干満の差が大きく、微生物が介在しているなどのため、その評価精度が悪かった。よって、移行挙動の評価には、これらのバリエーションを含む評価が必要となる。
- 食物や空気を通じて生体に取り込まれた場合の包括的な生態影響の研究も重要である。
- 環境放射線の防護という観点では、自然放射線のレベル調査、被ばく線量評価、放射線防護、疫学・リスク評価、放射生態学研究、ラドンに関連した研究、大深度地下や宇宙環境での影響調査・研究などを進めていく必要がある。
- 環境科学研究の推進において特に重要なのは、他の分野との協力と国際協力・国際貢献。東アジアでの海洋中の放射性物質の移行や、中国の砂漠からの気圏へのラドン放出のように、東アジア全域での評価が必要な場合も多く、国内のみならず国際的なスケールで研究することが必要である。
- 環境科学研究は、大学、研究機関、地方自治体等が相互に協力しながら進める必要がある。特に原子力発電所の環境安全は、地方自治体の衛生研究所で研究する少数の人々によっても支えられており、得られたデータを学問的に正確に評価できる体制づくりが重要である。
- 物質移行、被ばく・リスク線量評価、食物連鎖、健康影響、データベースなどそれぞれを得意とする研究機関が中心となって研究を進めるべき。特に、環境中の放射性廃棄物の移行評価に必要なデータベースの整備が重要。その評価にあたって、現状では、IAEA(国際原子力機関)による欧州の環境をベースにしたデータを用いている。更に、そのデータは放射性物質の移行の度合いを表すパラメータに千倍から1万倍も幅があり、より安全の立場に立つには最も厳しいパラメータを用いなければならず、日本固有の環境に合った、より合理的なデータベースづくりが必要とされる。データベースづくりを研究の視野に入れて機関連携を強化し、全体をまとめていくビジョンが必要である。
- 従来のような研究機関の横並びの体制ではなく、例えば、中核的な幹事機関が全体のレビューと推進を取り仕切り、その周りに各研究機関が連携していくような研究総合ネットワークの構築が望ましい。
- 放射性物質や核燃料物質を扱う際には、それらが環境を介して住民に影響を及ぼす可能性があり、人々の放射性物質などへの懸念に対応してこの研究分野を充実させるべきであって、研究機関のネットワークなどを構築して研究の包括性、一貫性、効率性を確保するとともに、研究成果の情報公開と他の分野への貢献を目指すべきである。
(2−2)相互交流・機関連携
○小佐古委員より、資料1−2に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 原子力関係者の人材育成プログラムや一般市民向けの教育課程が放医研(放射線医学総合研究所)、原研(日本原子力研究所)、日本アイソトープ協会、JICA(国際協力事業団)、大学等に用意されているが、プログラムを統括する協議会が存在しないため、各機関が個別バラバラに、かつある意味でプログラムの生き残りのために実施されているのではと思わせる面もあるのが現状。研究者がルーチンワーク的に教育担当となり、不満感のある場合もある。効果的な人材育成プログラムの整備が必要とされる。
- 東南アジアへの原子力協力やロシアへの支援については、科学技術庁、通商産業省、外務省がそれぞれ活動しているが、省庁間の連携が十分でない面もあり、大学や産業界にまで十分に浸透していない。
- 放射線審議会(放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的として、科学技術庁に設置されている諮問機関)でも省庁間の調整が必ずしも十分でない面があるように思う。例えばICRP(国際放射線防護委員会)勧告を受けて放射線作業従事者の最大許容被ばく線量は年間50mSvと定められているが、労災認定基準では白血病が発病して5mSvの被ばく経歴が確認された場合には労災と認定されており、これは昭和30年台の労働省の局長通達のままである。これでは、混乱が生ずる。また、1990年のICRP勧告では、フィルムバッチ等の線量計測器をつけていれば、低い放射線被ばくの下では健康診断は不要と明確に書かれているにもかかわらず、依然として健康診断が行われており、むしろ健康診断での腕からの採血の際に神経を傷つけて障害をもたらすリスクの方が懸念される。残念ながら、これらの点が十分に調整されているとは思えない。このような問題を解決するためにも機関間の連携を密に行うべきである。
- 機関連携がうまく機能し始めている場合もある。例えば、原研の研究専門委員会や日本原子力学会の部会制度、標準化委員会などにおいては機関連携機能がうまく働いてきている。
- 機関連携の課題の1つは組織間の壁であり、省庁間の調整がやりにくいといった実態を改める必要がある。資金と評価の面では、事業資金の適切な配分と成果の評価が重要。研究所、財団、大学、学会、官庁、産業界等の開かれた組織運用のためには、COE(中核的研究機関)を中心にした研究推進が重要であり、原子力委員会の強いリーダーシップが強く望まれる。
(2−3)放射線に対する理解の促進
○須藤委員より、資料2に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- JCO事故では1人の死者と多数の被ばく者を出したが、その背景に原子力に係る安全文化の欠如があったことは大変残念である。平成11年12月にNSネット(Nuclear Safety Network:JCO事故の反省を踏まえ、原子力産業界と研究機関など原子力関係者が一体となって安全文化の共有化と向上を図るためのネットワーク組織)が設立されたが、加盟会員相互の交流を通じて原子力産業全体の安全性が向上することを期待している。原子力に対する社会の信頼回復のために、引き続き原子力発電所における安全運転に努めたい。
- JCO事故では、大量の放射線被ばくがいかに危険なものかを如実に示した。一方、放射線は自然界にも存在しているにもかかわらず、極めて低い線量の放射線に対しても一般市民は警戒心を持っており、原子力発電のみならず放射線利用がなかなか進まないという現実がある。その背景には未知の物や人体影響に対する怖れがあり、原子力利用を進めるためには、放射線に対する理解の促進が重要である。
- 東北電力管内には多数の原子力関連施設があり、原子力発電や放射線に関する様々な疑問に答えるため、地域住民に対するPA活動に取り組んでいる。
- 具体的なPA活動として、インターネット上にホームページを設け、発電所の運転状況や環境放射能モニタリングの結果等を積極的に公開している。環境放射能については定期的に学識経験者などが評価し、発電所の影響がないことを確認している。発電所の見学会や各種イベントを通じて地域の人々との交流、次世代への教育などにも取り組んでいる。
- 原子力発電所の持つ閉鎖的なイメージを払拭するため、積極的に見学者を受け入れている。女川原子力発電所では今年度これまでに1万4千人もの見学者があった。見学の際には技術系の所員も同行し、お客様と直接コミュニケーションをするように心がけている。
- 次世代を担う子供たちにエネルギーや環境問題を身近なものとして正しく認識してもらうため、社会科の副読本を提供するとともに、数年前から小中高校へ積極的に出向いてエネルギー出前講座を開催しており、今年度はこれまでに延べ92回で5400人の生徒が受講した。
- 国やその他の機関等のPA活動として各種の講演会を開催しており、放射線に関する様々な話題をわかりやすく解説している。JCO事故では放射線に対する恐怖感や不信感が増大したが、放射線に関する客観的な情報の提供は住民の不安解消に非常に役立つ。
- 放射線は数多くの分野で利用されており、我々の生活に大いに役立っているが、多くの人はそれを認識していないのが現状。放射線の利用について、他の方法と比べた利点・欠点をはじめ、多くの情報を発信することによって、多くの人が身近に感じるようになろう。
- 原子力発電所における作業員1人あたりの平均線量当量は、線量当量限度50mSvの10分の1以下で、十分に小さい値。平成7年に国が行った原子力発電所の放射線業務従事者を対象とした疫学調査では、低線量放射線が健康、特にがんに影響を及ぼしたとする証拠は得られなかった。今後も適宜、調査結果について情報提供を行うべきである。
- 放射線の人体影響について悪い面ばかりが強調されやすいが、最近話題になっている「ホルミシス」では、低線量放射線に関するホットな議論が行われている。しきい値問題については学術的な結論がまだ出されていないが、基礎的研究を今後とも積極的に推進していくべき。また、得られた研究成果を公表していくことにより人体影響への怖れが解消されていくはずである。
- 放射線及び放射線利用に対する理解促進のためには、積極的な情報公開とPA活動により一般市民が自らの問題としてとらえるための素材を提供していくことが重要。人に役立つ技術としての放射線やエネルギー問題全般を理解するのに必要な学校教育の推進や、国や公的機関による中立的な立場での放射線影響研究の推進と成果の公表により、与えられた情報を適切に理解できる土壌づくりも必要である。
(2−4)放射線利用普及に関して原子力長期計画に望む
○更田説明員より、資料3−1、3−2に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 原子力に限らず、民主主義国家において大事業が健全に行われるためには公衆の理解と受容が不可欠であるが、そのために必要とされる公衆の教養レベルを確保するには教育が最重要課題である。
- 放射線や放射能に対する恐怖症の原因には、広島・長崎の原爆被災の他に戦後教育の怠慢がある。文部省や日教組(日本教職員組合)だけでなく、理工系専門家の大多数が教育への働きかけを怠ってきたと思われる。
- 放射線や放射能は、特殊な存在でなく、物質の存在と同様に自然に欠くことのできない要素である。ミクロとマクロの世界をつなぐものでもあり、エネルギーのやりとりに欠くことのできない自然界の基本的存在である。従って、放射線教育が適切に行われているかどうかは、理科教育が適切に行われているかの指標ともなると思われる。これまでの不適切な理科教育が理科離れの一因にもなっている。公害や地球環境問題、最近の様々な事故などによって科学技術への不信感が増大している。科学技術そのものに善悪があるのではなく、その適用の仕方と程度に問題があると考えるが、その認識が必ずしも素直に受け入れられていないのが現実である。
- 人間社会の問題は自然科学的合理性だけで解決できるわけではなく、自然科学的手法だけでこの世の全ての究極的な疑問に答えられるものでもないが、エネルギー需給と地球環境保全に対する最適な政策の立案に、まず自然科学的合理性が必要なことは疑う余地がない。原子力界は自然科学的合理性に基づく主張を続けることに弱気になっているのではないか。正しい考えを主張し、理解してもらう努力が必要であり、その意味で原子力長期計画は後退してはならない。
- 低線量放射線の健康影響について、1990年のICRP勧告では放射線はごくわずかでも危険であると明言しているわけではないが、直線仮説の採用によって結果的に誤解を生んでいる。直線仮説は放射線防護の上で安全サイドに立った考え方だとするのは、近視眼的と思われる。資料3−2は、最近の米国での動きを、あくまで参考として示すものである。
- 直線仮説の真偽やしきい値の有無については学問的に決着していないが、これまでに得られた知見を総合すれば、1990年のICRP勧告とは異なる踏み込んだ議論が可能であり、放射線規制について、大所高所からの見直しが必要。その際、議論を公開の場で行うことにより、放射線の規制の在り方やリスクなどについて国民の理解を深めていくことが重要。放射線の利用者の多くは、現在の規制レベルは低すぎるという認識をもっていると思われる。これと平行して、細胞・分子レベルのミクロの研究の推進が必要である。
- 加速器の進歩に伴うフロンティア領域の活性化は望ましいが、基礎研究については、国はよりよい研究環境づくりに力を入れるべきで、具体的な研究項目や研究の進め方は各機関の自主性に任せるべきである。
- 中長期的な視野で必要性が高いと予見されているが、種々の理由により研究開発の推進が困難であるもの、短期的に研究成果が出にくいものについては国による公的な支援が必要。フロンティア領域が生産性や創造性の点でしっかりとした研究開発分野に育って欲しいと思う。具体例として、自由電子レーザーを用いた同位体濃縮法の応用により、放射性廃棄物中から任意の核種を分離するという理想的処理法の開発が挙げられる。
(2−5)RIの利用、安定供給及び処分
○高田委員より、資料4−1に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 医療用のRI廃棄物は、日本アイソトープ協会茅記念滝沢研究所(医療用RI廃棄物の集荷、処理、保管を目的として昭和62年に建設された研究所)に集荷され処理されている。また、研究用RI廃棄物の一部は、原研東海研究所において処理されている。現在の課題は、処理された後の処分についてである。
- RIの利用の現状は、簡単にいうと次のとおり。(1)放射線障害防止法に基づき使用許可・届出が行われているRI・放射線施設の総数は、1999年3月31日現在、5046施設にのぼり、そのうち1902施設は民間である。(2)利用形態別の施設数は、密封線源取扱施設が4300弱、医療用非密封線源取扱施設が1300弱あり、1台以上の放射線発生装置を有する施設は約800に及ぶ。(3)非密封線源取扱施設については、研究機関が1995年をピークに次第に減少、教育機関が横ばい、医療機関は微増、民間機関が減少傾向にある。
- 密封線源取扱施設については、民間機関が最も多く、使用形態が標準化された表示付放射性同位元素装備機器(ガスクロマトグラフ用ECD(電子捕獲検出器))を使用する民間機関も多い。ガスクロマトグラフは、上下水道中あるいは環境中の有害物質検出に用いられているものが多い。1999年の放射線利用統計では、国内で使用されているガスクロマトグラフは5484台。そのうち、民間企業で使われているものが1688台、医療・教育・研究・民間以外の機関で使われているものが1815台ある。
- 医療機関での密封線源取扱施設が年々減少している反面、放射線発生装置を有する施設数が増加しており、密封線源から放射線発生装置への置き換えが進んでいる。
- RI供給について、原子炉で製造されるものは、そのほとんどが海外に依存しているのに対し、加速器で製造される医療用RIは、ほぼ国内で自給が可能である。2000年2月19日にはカナダのメープル原子炉が臨界に達し、日本の医療用RIであるモリブデン−99の将来の供給に大きく関係するものと予想される。世界のアイソトープ生産・供給の現状については資料4−2にあるとおり。
- 国内で販売されるRIの実績(金額)からみたRI供給源の比率は、密封線源の場合、72.7%が輸入、19.6%が国内加工(ただし輸入した原材料を使用)で、純粋な国産は7.7%にすぎない。非密封線源の場合には、研究用RIで輸入されたものが6.7%、診断用RIで輸入されたもの(モリブデン−99)が53.7%、国内のサイクロトロンで製造されて製薬メーカーが販売している診断用RIは39.7%である。
- 有機廃液等は各事業所で焼却処理が可能。固体、液体、フィルター等のRI廃棄物は日本アイソトープ協会が集荷し、その総数は200リットル容器に換算して1万6千本から1万7千本前後。そのうち、処理されたものは1万本程度で、集荷数との差の分は廃棄物として日本アイソトープ協会の倉庫で保管されている。
- RI廃棄物については、原子力バックエンド対策専門部会の報告書に沿ってRI・研究所等廃棄物事業推進準備会で検討を進めている。準備会では、事業主体の事業計画、組織・構成の検討、設立の推進、技術的検討などを行い、平成13年度に事業主体を設立する方向で準備が進められている。。
- RI・放射線利用を促進する上で重要な要因は、RI・放射線が潜在的にもつ科学的魅力と社会的ニーズ、これを支えるための人材確保、研究体制、施設設備の維持管理・更新改善があり、関連した技術として放射線計測・管理技術、原料の確保・安定供給がある。これらに国の安全規制政策、科学技術政策、廃棄物政策が大きく影響し、最終的に国民の理解が得られることによりRI・放射線利用が進んでいく。
- 科学的魅力を有するためには、RI・放射線のもつ科学的特性が種々の可能性を秘めていることが必要である。
- 技術の開発・継承に必要とされる人材確保と研究体制の整備のためには、教育と科学技術政策が重要。国内でのRI製造は弱体化しており、製造技術の開発・維持が課題。利用者の声を製造に結びつける体制も国内に必要。供給体制の整備には、人材確保と新たな研究開発への継続的な人材投入が必要。
- 放射線取扱主任者の資格取得やRI取扱のために行っている講習会への参加者が年々減少しており、安全規制に係る職に就こうとする人やRI利用技術を身につけようとする人が減っている。安全管理の重要性についての認識が甘くなり、安全管理への意欲を失っているのではないかと危惧している。
- 施設・設備の維持管理・更新改善のためには、安全規制と利用促進の科学的・技術的な整合性の確保が重要。また、安全基準については国民の理解が不可欠。施設・設備の利用条件に応じた合理的な安全規制を行うべきであり、同じ基準で画一的に厳しく安全規制を行う現在の方法は利用促進を妨げる原因になっている。危険度を定量化することにより、危険度に応じた安全基準を個々に設けるべき。更に、危機管理・被害管理システムの情報公開も重要。利用促進のためには法規制で定められた許認可手続きの簡略化が必要であり、省庁間のデータベースの共有化による規制の一元化はその解決策となりうる。
- 今後のRI利用促進のためには、RI廃棄物の処理・処分システムの確立が不可欠。廃棄物処分施設の立地のためは、国の支援と国民の理解が最重要。今後の処理技術開発の状況と貯蔵施設の容量等を考慮すると、クリアランスレベル(放射性物質として取扱う必要のないレベル)を含めた法体系整備と事業主体設立が早急に必要とされる。
- 国民生活に役立つRI・放射線利用を進めるにあたっての課題には、RIの安定供給から放射性廃棄物の集荷・処理・処分までの一元的体制の国による確保、利用促進と安全基準の整合ある標準化、多様な分野間での情報交換の推進、事故時対応の協力体制整備、RI供給の海外ルートの確保がある。事故時の対応については、例えば、法令に基づく届出をしていないRIの発見があった場合の回収や被ばく医療体制の整備が重要。医療用RIの供給については、カナダの労働組合がストライキを起こした場合の国のバックアップが必要である。
(2−6)全体議論
○これまでのプレゼンテーションについて議論が行われ、主な意見は以下のとおり。
- 1990年のICRP勧告では、広島・長崎のデータを基にして、固形がんの影響が見られるのは200mSv、白血病については50mSvで影響が見られ、25mSvでもわずかな影響が確認されている。通常0〜5mSvのグループはバックグランド・グループ(自然放射線による影響のみとみなせるグループ)とみなしてして除外しているので、その扱いについても議論がある。また、現段階で固形がんと白血病を分けて管理するのは不可能であり、ICRPは直線仮説を採用している。
- 公衆の1mSvの年線量による寄与生涯致死確率(一生涯にわたって被ばくした場合に、被ばくが原因で死亡する確率)は、米国で見積もられた発がん性化学物質に対するばく露量の公衆の寄与生涯がん死亡確率(一生涯にわたってばく露した場合に、それが原因でがんになり、死亡する確率)4×10−3と同等であり、ICRP勧告の基準のみが特に厳しい値というわけではない。
- 直線仮説には加算性があり、現場の管理がしやすい。
- 集団線量の適用は間違いが生じやすいため、ICRPでは極低線量で広大な地域、長い時間に対しての集団線量への適用に制約を課している。例えば、チェルノブイリ事故により世界中の人々が非常に少量の放射線を浴びて60億人のうち何人死亡するかという計算をしてはいけないと記述している。現在使われている集団線量は、総量規制として被ばく量をコントロールするために、将来、受けるかもしれない被ばく量を予測することを前提としている。その適用にあたっては、10万人程度を最大規模とし、時間と空間に制約を設けている。
- 1990年のICRP勧告では、女性の職業被ばくについて、「妊娠していない女性に対する職業被ばくの管理の基礎は、男性の職業被ばくの場合と同じである。委員会は女性一般に対する特別な職業上の線量限度を勧告しない。」と記述している。リスクを評価するモデルは男女兼用。従って、外国では線量基準を男女で区別していないのが一般的である。ところが、日本では女性に対してより厳しい基準で定めようとしており、原子力分野への女性進出の障害になる。
- 緊急時の被ばく線量限度について、ICRP勧告では約500mSvとしているが、日本では100mSvの限度として定められているのも問題である。
- 本来、個人線量計による管理ができていれば、血液像が変わるところまで被ばくすることはなく、健康診断は不要とされている。むしろ血液を抜く際のトラブルによるリスクの方が大きい。総じて専門家の理解が不十分である。
- 専門的な議論はさておき、放射線を実際に扱ってきた経験から素朴に感じる点をプレゼンテーションで説明した。広島・長崎のデータの解釈も1990年のICRP勧告以来この10年間で変わっているはず。以前は遺伝的影響が最も怖かった印象があるが、今や遺伝的影響が少ないことを示すデータが蓄積されているのではないか。
- 自然放射線の線量レベルは、世界の地域によって大きく異なる。自然放射線のレベルの高い地域が低い地域よりも健康上劣っているという事実は挙げられておらず、これは大きな疫学データといえる。自然放射線の線量の変動幅程度の線量の増加は全く心配するにあたらないと明確にいうべきある。
- 当初より集団線量の概念には疑問をもっていたが、最近ICRPでも再考していると聞いている。学問的な細かい議論は別として、実用上の問題である規制について、実害が明らかでないレベルより低いレベルに、厳しく規制する必要があるのだろうか。
- これまでのところ、人間に対しての遺伝的影響を示す証拠は何もない。これは、この10年間に学問が進んだためではなく、広島・長崎のデータが明確になった1980年以降、新たなデータが出ていないことによる。従来は広島・長崎の被ばく者の人権問題や被ばく者自身の賛同が得られなかったために研究が進んでいなかったが、最近になって了解が得られ、今後、生化学的なアプローチによる遺伝的影響の研究に着手するところである。
- ショウジョウバエやネズミ、培養細胞等を使った動物実験の結果には直線仮説を支持するものが多いが、ショウジョウバエのデータでも0.05Sv以下の低線量については何もわかっていない。従って、機械的に低線量部分を直線で外挿していいものかどうかは議論があるところで、ホルミシス等について反論を唱える人もいるが、そういった実験データはなく、今後も大規模な実験は無理であろう。かつて米国が100万匹のマウスを使って実験したときには、0.36Svまでのデータしか得られず、この10年間、新しいデータはない。
- 集団線量については、最近「ラジオアイソトープ」という雑誌に執筆したので参考にして欲しい。集団線量は2種類の扱い方をしている。1つは、原子力発電所等において作業する際の被ばく線量の最適化指標として用いられるもので、線量に人数を掛けあわせることによって被ばく管理がうまくいっているかが判断できる。もう1つは、社会全体のデトリメント(損害)をどの程度抑えるかを示す総量規制の指標として用いられている。
- ICRPは、新しい行為をはじめる際に適用する線量制限体系と既に起こった行為に対して適用する体系の2つに分けており、公衆に対する被ばく線量の限度は、前者の場合1mSv、後者の場合10〜100mSvと定めている。しかし、これらのことについての理解はあまり進んでおらず、わかりやすいように2つの体系を統合すべきとの意見も出ている。
- 「現行の規制は必要以上に厳しく、それはICRP勧告に起因しているのではないか」という主張に対し、「ICRPよりも日本の専門家が厳しいのではないか」という主張があったと理解するが、「現行の日本の規制は厳しすぎる」ということには同意するのか。
- 規制は自己責任によって緩和すべき、言い換えると、高度な合理性を追求した規制が必要とされる。ICRPは線量制限を強調しているのではなく、様々な方法論の最適化、社会の中でのバランスのよい位置づけを強調しているのであって、線量制限は、それを実現するための方法論の1つである。例えば、ECD付きガスクロマトグラフは、届出だけで少量の密封線源が使用可能になった。その途端に約3千台の機器が届出され、事業所が一気に増えた経緯がある。また、ICRPが提唱する監視区域を設定できるようになれば、薬学部の実験室でも放射能の実習がしやすくなり、教育面での効果が非常に大きい。従って、放射線防護の合理性を求める努力が必要とされる。
- 放射線教育の重要性が指摘されたが、放射線はどんなにわずかでも危険だと誤解している人は多く、JCO事故での風評被害に結びついている。野菜が全然売れないといったヒステリックな反応がみられるなど、一般市民の放射線についての理解が欠けている。
- 低線量域での直線仮説の根拠を考えると、1mSvという基準は幅をもって設定されるべきものだが、一旦規制値となると、更に安全係数がかかってしまい、非合理的なものとなる。このような数値の意味するところを一般市民に十分に理解してもらうことは重要である。
- 長期計画策定会議の議事概要や配布資料等をインターネットで公開しても、本当に関心を持っている人以外は見ないのが実状。出前講座は、一見効率が悪いようだが、地道にやっていくべきである。
- 努力して積極的に理解促進の活動を行うのが重要。分科会での議論の内容や資料をわかりやすく本にまとめ、安く販売するなどして広めるべき。透明性を保つだけではなく、積極的に国民に伝えていく努力が必要である。
(座長)
- 分科会での議論の取りまとめについては、時をあらためて相談したい。
- 数年前に日本原子力学会で放射線教育の問題を取り上げ、教科書を調べて、放射線教育を学校教育の中で取り上げてもらうように中教審(中央教育審議会)と文部省へ陳情に行ったことがある。その際に、他にも理科教育に取り上げて欲しいという要望がたくさんある一方で、ゆとりある教育を目指して授業時間数を減らしている現状もあり、その中で何を取り上げるかは重要な問題であるといわれた。陳情に行くときまで放射線教育を取り上げてもらう努力を何らしてこなかったのは、原子力関係者の怠慢というよりも、以前はあまり深刻な問題ではなかったことが背景にあったのかもしれない。次回の教科書の見直しに合わせて、放射線教育を教科書で取り上げてもらうための粘り強い継続的な努力が必要である。また、原子力関係者が自ら教科書を執筆することも重要である。
- 高校教科書は平成11年3月に新しい指導要領が改訂されたばかりで時機を逸した感じ。現在、新しい教科書の具体的な解説の本を作っているところで、そこにいかに盛り込むかはまだ間に合う。教科書に新しい分野を取り上げてもらうのはかなり難しく、相当な努力が必要とされる。
- 専門用語の使い分けが一般市民に全く理解されていない。例えば、「RI」、「アイソトープ」、「放射性物質」、「放射能」など。もっと総合的なとらえ方や説明ができるのではないか。取り扱う放射性核種も、エネルギー利用ではウランやプルトニウム、放射線利用ではコバルトやセシウムで、一般市民は混乱しやすい。用語の見直しやカタカナ語の説明も必要となる。
- 3月はじめにマレーシアで、これから原子力利用を進めようというアジア6カ国によるIAEA主催のワークショップがあり、安全文化が話題として取り上げられた。その際、日本のRI廃棄物の処理・処分について質問を受けたが、今回のプレゼンテーションで事情がよく理解できた。また、RI廃棄物についても、原子力発電所から出る廃棄物と同様に一般市民に対して十分に説明すべきである。
- 日本では、ある量以下のRIは規制の対象外で、その数は年間1億4千万個以上にも及んでおり、その例としては、蛍光灯のグローランプや使い捨てカメラのストロボに使われているプロメシウムなどがある。規制対象については、新しい法律で見直される予定だが、RI廃棄物が最後にどうなるのかを明らかにし、どのような法律の規制体系をつくっていくのかを議論する必要がある。
- 科学技術庁の放射線安全課が傘下におさめている事業所は5千にも及ぶ。核燃料物質の場合には、ウランでは300g以下、またトリウムでは900g以下ならば一段と緩い規制を行っているが、大学関係の数百の事業所を1人で担当しているのが実態。従って、安全を確保するためのシステムの在り方と、この分野の進歩に合わせた担当役人の再教育の在り方を検討する必要がある。
- RI廃棄物の処分についてはバックエンド対策専門部会で議論しているが、処分場の立地が最大の問題。基本的には事業主体で立地を進めることになるが、費用の問題もあり、立地のために環境整備や地域との共生を促進するといった行政に係る部分は、国が側面から支援を行っていくべきである。
- ホルミシスの現状はどうなっているのか。
- ホルミシスは、英語で「ホルモン的効果」が語源。ホルモンのようにある反応を促進する効果を称している。10年以上前に米国のラッキー博士が提唱したもの。放射線があたると細胞の免疫反応等が高まり、全身にホルモン的に働いて効果が得られると考えられている。しかし、極めてわずかな線量であるため、実証が難しく、原因と結果の結びつきが現時点では証明されているわけではない。一方、ホルミシス効果をサポートするデータはいくつか出されている。例えば、米国のラドンが多量に発生する地域の肺がん発症データによると、ラドンが多いほど肺がんが少なくなっているという報告がある。しかし、この結果を裏付けるデータはまだない。ある程度の放射線を浴びることにより、免疫機能が促進されて様々な機能が高まることは実際に確認されているものの、それが本当にがんの抑制につながっていることを学問的に裏付ける証拠はまだない。前回紹介した広島・長崎での5mSv以下の被ばく線量グループ36,456人中、実際に発がんが観察された人が期待値よりも41人少なかったことの解釈を巡っても、それがホルミシスのためなのか、健康管理がより行き届いた結果なのか結論が出ていない。
- 放射線が免疫機能を促進するのではないかと予想されており、臨床面からは、0.1Svの照射によりサプレッサー・ティー・セル(SuppressorTCell抑制性T細胞:抗原が入った際に抗体ができるのを抑制する機能を持ったT細胞の構成単位)を殺し、免疫力が上がって制がん効果があるという解釈がなされている。極微量の低線量放射線の影響についてはまだわかっていない。
- 原子炉で製造されるRIはほとんど輸入に頼っているということだが、輸送上のトラブルやメーカーのストライキ等が生じた場合の影響はかなり大きいと思う。採算の面では、日本で製造する体制を整備する必要があるか。
- 製造過程で高レベル廃棄物が発生すること、安定供給の面では定期点検等のために持続的に毎週出荷するのが難しいこと、結果的に値段が高く経済的な競争力の点で劣っていることなどを考慮すると、日本は競争力において劣ってしまう。従って、日本の製薬メーカーが安定供給を確保するためにはカナダの原子炉に頼らざるを得ないのが現状である。
- 研究用あるいは発電所用ではない小型の原子炉をどう扱うかは重要な問題。現在の研究用原子炉は、エネルギー利用に偏った運用の傾向があり、放射線利用のために使いにくい面がある。現状では、放射性医薬品用RIは加速器では大量に生産されているが、原子炉ではたいへん少ない。原子炉での規制の合理化により、これに対して活性化が図れ、経済性が出てくると期待される。
- RI製造については、経済性と供給のセキュリティが大きな問題。国外からの供給ルートの多重化等により対応が可能。原研では、開発要素の高いものを中心に取り組んでいく予定である。
- 21世紀は環境保全が重要なキーワード。環境との共存という点では、原子力は他の産業に比べていち早く環境問題に配慮し取り組んできたと思う。環境科学研究は学際的な拡がりを持つ分野であり、放射性核種も多種類であるため、各研究機関の密接な協力が重要。その際、省庁の縦割り行政が問題であり、その解決が必要。原子力委員会のリーダーシップを大いに期待したい。
(3)その他
○事務局より、長期計画策定会議(第7回)での審議状況の説明があった。
(座長)
- 資料「長期計画策定会議(第7回)における審議状況について」の3ページ目の下から10行目にある「100kW級の原子炉」は、「出力1W」の誤り。現在の近畿大学の原子炉がこれに相当する。
- 策定会議では、第五分科会の議論の論点について総論的に説明した。策定会議からの提言は重要なものが多く、分科会のまとめの際に検討していきたい。
(座長)
- 国際社会への貢献については、「我が国は唯一の原爆被爆国であり、この体験を踏まえた」という表現を用いるべきではないとの意見も出されたが、これに関して意見はあるか。
- 人体影響の立場では、この表現を念頭におかない限り日本で行われている議論やJCO事故への対応が進まない。
- 広島・長崎のデータを積極的にICRPに反映させていくべきである。
| ○ | 前田委員より、資料「放射線の健康影響についてのコメント」に基づき意見がが述べられた。要旨は以下のとおり。
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- 低線量域での健康影響は難しい問題だが、原爆の体験を踏まえるとともに、21世紀に向けて日本が原子力利用や放射線利用を進めるにあたって、平和利用の立場からの徹底した検討を行うべき。前回の「放射線の健康影響」に関する発言の中でリスク論について若干誤解を与える発言をしたのでコメントしたい。
- 低線量域の健康影響に関してはもちろん、リスク論も長期的に取り組むべき研究課題。その際、放射線リスクに関するコミュニケーションと、種々のリスク源に対する総合的リスク指標の確立が長期的な課題である。
- 放射線影響研究や放射線防護研究等は国際貢献の観点でも重要である。
(4)閉会
○事務局より、次回(第7回)会合について、以下のとおり開催する旨説明があった。