6.議事の概要
(1)開会
| ○ | 座長より、今回は放射線の健康影響について、武部委員、土肥委員、山下委員、甲斐説明員にプレゼンテーションをお願いする旨の発言があった。 |
| ○ | 事務局より、配布資料の確認があった。 |
- 「ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告」の英語版ができている。これは既に公開されており、国際会議などでも使われているので、自由に使ってよい。ただし、現在、改訂を進めているところである。
| ○ | 事務局より、資料「放射線利用に当たっての法的規制について」に基づき説明があった。この資料は、食品照射について審議した際(第3回会合)に出された質問に対して事務局が作成したものである。 |
| ○ | 座長より、資料「原子力災害時における医療対策について」に基づき、JCO核燃料加工工場の事故の高線量被ばく患者に対する緊急被ばく医療に関する説明があった。この資料は、原子力安全委員会ウラン加工工場臨界事故調査委員会の「ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告」(平成11年12月24日)の第W章−7項の抜粋である。 |
(2)放射線の健康影響について
○座長より、プレゼンテーションを続けて行い、その後に全体討論を行う旨の発言があった。
(2−1)放射線の人体影響
○武部委員より、資料2に基づきプレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 放射線の低線量被ばくの生物への影響の議論では、例えば被ばく線量10mSv以下を目安とすると、マウスにより毛や目の色がかわるといった目に見える現象を得るためには、9億匹のマウスが必要という試算があり、低線量被ばくの実験的研究の難しさがわかる。現在、最大規模の実験は、米国で30年かけて実施された、メガマウスと呼ばれる100万匹のマウスを用いたものである。ショウジョウバエでは136万匹を用いた実験が米国で、また40〜50万匹を用いた実験が日本で実施されたが、長期にわたり同一条件を維持できない限り、低線量被ばくの生物影響の実験はできない。低線量影響については、ショウジョウバエを使った研究で50mSvまで、マウスの突然変異の研究では360mSvまでのデータがあるが、それ以下では評価に値するデータはない。これは、旧ソ連崩壊後、核の脅威がなくなったとして、米国が低線量影響の研究を縮小したことに原因がある。また、胃や胸のレントゲンなどの医療における被ばく影響のデータはない。それに対して、分子レベルで遺伝子を見るなど、分子生物学的な手法による研究が、広島、長崎の研究機関で、始められようとしている。
- 低線量被ばくの影響を推定する場合は、影響が被ばく線量に伴って大きくなる直線モデルを用いるが、これは放射線が遺伝子に傷をつけることを意味しており、1927年に明らかとなった。一方、化学物質が遺伝子に損傷を与えることは1945年に明らかとなり、食品添加物などの遺伝子への影響は1960年代後半に明らかとなった。遺伝子への影響という意味では、これらは全て同等であり、国連科学委員会では確率的影響として議論できるとしている。
- 人に対する影響には様々なレベルがあるが、その最も強いものが急性致死障害であり、その中の胃腸死は広島・長崎の被ばく者に多数見られた。また、JCOの事故で昨年12月に亡くなられた高線量被ばく患者も胃腸死と考えられている。このメカニズムはネズミに対して解明されており、この障害は胃腸を全部移植しない限り回復は不可能とされている。それ以下の線量では骨髄移植などの治療法があり、チェルノブイリでも多く行われた。JCOの事故の高線量被ばく患者にも施されたが、現時点では成功したとみられる。更に、低い線量では晩発障害が重要となるが、JCO事故で高線量被ばくされた3名以外の方々は、晩発障害も心配する必要は全くない。もちろん、直線モデルからいえば、晩発障害はありうるが、それは今回の事故の3人の作業員以外の方にとっては、数千人から1万人に1人という低い値であり、現在のがんになる率が3人から4人に1人であることと比較すると、被ばくによりがんが発生する可能性は遥かに低く、検出することができない。
- 低線量被ばくの生物影響を示す直線モデルは、ショウジョウバエの放射線による突然変異のデータが根拠となっており、メガマウスの実験結果も直線モデルで矛盾はない。しかし、いずれも低線量では実験が行われてなく、直線を延長しているにすぎず、科学的に低線量で直線モデルが正しいとする証拠はない。
- 奇形については、広島・長崎のデータから、0.2Gy以上で多くなっていることから、しきい値があるといわれている。JCO事故で、一部の週刊誌に奇形の発生の恐れがあるとの報道があったが、高線量被ばくされた方以外では0.2Gy以上被ばくされた方はおられず、奇形が発生する恐れは全くない。がんの発生については、現在も広島・長崎の被ばく者のフォローアップが続いている。白血病の発生は、広島・長崎では既に終わったと考えられている。1950年から40年間の統計では、白血病の患者数は非被ばく者より50%多いが、実際の数値としては非常に低い。被ばく線量と白血病の発生率の関係は曲線で表され、低い被ばく線量での発生率は更に低く、JCOの高線量被ばく以外の方々の白血病になる確率は0としてよい。
- がんの発生率と被ばく線量の関係は直線で表されているが、広島・長崎の40年間の調査では、予想されるがんの発生数に比べ、それより過剰に発生した数は非常に低い値であった。特に、0.005Sv(5mSv)以下の例では、過剰数は−41例、すなわち非被ばく者より少なく、これは被ばくされた方々が十分な健康管理をされた結果、早期発見などでがんになっても治癒率が高かった可能性もある。また、一部には、被ばく効果によってがん発生率が逆に下がったという意見もある。JCOの高線量被ばく以外の方々は、広島・長崎で被ばくされたことが確認されている方々に比べて被ばく線量が低いことは明白であり、被ばくが原因でがんになる心配はない。
(2−2)被爆体験を踏まえたわが国の役割(広島)
○土肥委員より、資料3に基づき、プレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 現在使われている原爆被ばく者を意味するときには、政治的な意味での被ばく者と、科学的にどの程度の線量を被ばくしたかという意味での被ばく者の問題が複雑に絡まり合い、わかりがたいものとなっている。広島・長崎の被ばく者で線量推定がなされ、直線モデルなどの学問的評価の対象となっているのは、放影研(放射線影響研究所)が対象としているコホート(調査対象集団)だけである。それ以外の被ばく者は、爆心地から被ばくした場所までの距離が記録されているだけで、線量の推定に曖昧さが残っている。
- 原爆被ばくに関する法令は、昭和32年に初めて制定され、その後も様々な経緯を経て、平成6年村山内閣のときに現在のものになっている。後障害研究の施設も設立されたが、最大のものは放影研である。1947年にニール中尉が広島赤十字病院の一部を間借りして、血液検査を始めたのがABCC(原爆傷害調査委員会)の始まりであり、平成7年に現在の放影研となった。一方、被爆者健康手帳を取得している原爆被ばく者は、現在、2040人の原爆認定患者を含めて約30万人おり、関連予算として健康管理手当など諸手当と医療費で年間約1600億円程度が充当されている。
- 全身疲労などを訴える原爆ぶらぶら病といわれる症状が、広島から約25km西の大竹(現在の広島県大竹市)に移り住んだ被ばく者に見られた。原因ははっきりしないが、Post traumatic stress disorder(PTSD:心的外傷後ストレス障害)の可能性がある。
- 被ばく線量とがんの発生率などの学問的研究は、放影研が行った12万人の方に対する寿命調査(LSS:Life Span Study)が重大な役割を果たした。また、放影研では、採血や診察などの成人健康調査、胎内被ばくに関する研究やF1(1世代)の遺伝的調査を実施した。
- 被爆当時、広島には33万人、長崎には25万人の人がいたと思われるが、その約3分の1の人はその直後ないし4ヶ月以内に亡くなった。原爆被爆者の調査研究は、被爆直後から被ばく者の治療と平行して行われたが、その結果は、昭和25年、プレスコード(日本に与えられる新聞遵則)解除後に、学術会議より、最初の学問的な報告書として発表された。被ばく者数は、同年実施された国勢調査の際にアンケートで調査され、28万4千人から被ばくしたとの回答があった。放影研では、当時広島・長崎両市内にいた19万5千人に対して聞き取り調査し、最終的に、被ばく者と非被ばく者を合わせた12万人を調査対象集団(コホート)とした。これが寿命調査のもとになった。また、F1調査については、米穀通帳を渡す際に、新生児があった場合に放影研へ連絡を依頼することで、調査対象を決めた。
- 寿命調査から多くの結果が得られた。その例としては、@被ばく線量が0.2Gyを越えて発生する白血病は、その90%は放射線の影響による、A0.2Gy以下の低線量における死産や奇形などの影響は、両親が被ばく者か非被ばく者かによらず差がない、などがある。
- 北米、南米にも被ばく者がおり、北米については、1971年から広島県医師会と放影研の共同事業として、南米については、1985年から広島県が年2回の検診や問診を行っている。韓国在住の被ばく者も検診していたが、ここ十数年中断している。また、北朝鮮在住の被ばく者が近日、放影研に来所予定である。
- IPPNW(核戦争防止国際医師会議)は、当初より広島県医師会長が日本支部長を務めている。
- カザフスタンのセミパラチンスクは、旧ソ連の時代の核実験場であった。この地方の住民の健康影響調査を科学技術庁が国際協力の一環として行っている。この地域に、40年間で推定積算1Sv以上被ばくした高線量のコホート約1万人やコントロール群(疫学研究のための対照群)約1万人などを設定しており、これらの住民を中心に疫学調査が可能と思われる。
(2−3)被爆体験を踏まえた我が国の役割−唯一の原子爆弾被災医科大学からの国際被ばく者医療協力
○山下委員より、資料4−1に基づき、プレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 広島・長崎の被爆体験を有する日本の責務として、また非核保有国の役割として、国際協力としてのチェルノブイリ原発事故後の健康影響調査及びセミパラチンスクでの医療支援活動について説明する。チェルノブイリでの調査は、1990年から開始したが、聞取り調査や翻訳事業などにより、チェルノブイリ事故の健康影響などに関しては、虚偽と真実がごちゃまぜの状態であった。そこで、より正確な情報を内外に啓蒙している。また、チェルノブイリの実状にあった調査を行っている。チェルノブイリには、核戦争を想定して訓練された人が、セミパラチンスクから派遣されており、これを契機に、セミパラチンスクでの医療協力を行うことになった。旧ソ連国は医療後進国であり、縦割り行政など協力活動が困難な状況にあったが、客観的なデータを出すことが使命であり、それが現地に対して放射線に関する正しい情報を与えることとなり、不安解消につながると考えられる。これら以外にも放射線事故は、例えば、台湾のCo−60による汚染事故など多発しており、これらの問題に対して専門家やチームを派遣するなど、人を中心とした国際医療協力を、広島・長崎など県市行政一体となって実施しているところである。
- チェルノブイリには具体的な信頼できるデータがないため、医療協力プロジェクトでは、正確な被ばく線量推定を目的として、事故前後に産まれた子供達の比較対照調査を主な活動内容とした。日本などを除くと、世界的にヨード欠乏状態にあり、このため原子力事故などにより放出されたヨード131を取り込みやすく、これが甲状腺に取り込まれ、内部被ばくを起こし、その結果、甲状腺がんが多く発生する。このことを背景にして、チェルノブイリ周辺にいくつかの拠点を設け、1991年から1996年にかけて16万人の子供を検診し、子供達の甲状腺がんを早期発見・早期治療した。現在、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアで約2千人の15歳以下のがんが報告されている。プロジェクト終了後は、ベルラーシのゴメリ州で検診活動を継続している。通常は百万人に1人しか起こらない、非常にまれながんが、この地方では、1万人〜5千人に1人の割で起こっている。この活動でフォローしている200人の子供について見ると、事故当時0歳〜5歳の子供に、甲状腺がんの集積が認められ、この年齢層の子供達がハイリスク集団を形成しているといえる。
- 子供達の被ばく線量の生物学的推定や遺伝子の特異的変化の調査を目的とし、甲状腺の手術による摘出標本や血液標本をまとめ、有効利用するために、日本や国際機関が拠出して、チェルノブイリ事故後の甲状腺ティシューバンク(旧ソ連邦の医療センターに設けた甲状腺がんに関するデータバンク)を設立した。旧ソ連邦に3箇所の拠点を持ち、各拠点の人をトレーニングして遺伝子バンクの構築や患者情報の整備、倫理教育を行い、本年よりオープンする予定である。
- 現地は、情報インフラや交通の便が悪く、且つ医療過疎地であるため、遠隔医療診断支援システムを構築し、国際共同甲状腺バンクを含めた活動が行われている。このような活動を10年続けてきたが、現地は、今なお、政治的経済的混乱期で社会不安の状況にあり、今後ともこの活動を続けて行く必要があろう。来年度からは、JICA(国際協力事業団)によるセミパラチンスクの医療支援活動が開始される。
- カザフスタンのセミパラチンスクは、1949年から1989年まで核実験場であった。特に、1962年までは、大気圏又は地上での核実験が主で、一般住民への影響は放射性降下物によるものであった。しかし、現地では信用できるデータが入手困難であったり、ないのが現状である。ただ、風向きの影響を考慮した汚染に関する軍のデータがあり、これによれば、カザフスタンの隣国のロシアへの影響が大きいにもかかわらず、現在、両国は友好関係になく、互いに影響評価できる状況ではない。これら旧ソ連邦の各国間に橋を架けることができるのは、欧米ではなく、被爆国日本であろう。
- 旧ソ連邦の多くの原子力事故やチェルノブイリ事故は、教訓として活かされるべきものであるが、従来、我が国はこれらの十分なデータを持っていなかった。最近、これらのデータも徐々にオープンにされつつあり、十分活用すべきであろう。
- 旧ソ連邦では核戦争を想定して一般住民にヨード剤やその服用方法を書いたもの含む医療キットが配布されており、一般住民にも放射能汚染の知識があった。これは1980年代初頭までであり、その後は配られておらず、現在では、事故や汚染に関する情報がない、安全意識が低いなどいろいろな問題がある。
- 長崎大学は、セミパラチンスクの現地とネットワークを結んで、週1回送られてくる画像データに基づく診断により、医療支援を行っており、今後、情報インフラの整備とともにますます利用価値が増すと思われる。
- 今後は、ハイリスクの子供達への医療支援や現地での人材育成、また旧ソ連邦の医療体制の問題点を明確にしてその改善を図るための支援など、協力を続けていきたい。
(2−4)放射線防護と健康リスク
○甲斐説明員より、資料5に基づき、プレゼンテーションがあった。要旨は以下のとおり。
- 放射線防護は、いかに放射線の危険性から人の健康を守るかということから発生した。放射線障害は放射線の利用とともに起こるようになり、1934年には耐容線量の基準が勧告された。研究が進むと、晩発障害まで防護の対象とする必要が認識され、1950年に最大許容線量が導入された。更に、広島・長崎のデータが蓄積されるに伴い、臓器全体を防護するように基準が厳しくなり、1990年には5年で100mSvという値が国際的に勧告されている。放射線防護は、放射線障害を防止し、がんや遺伝的影響を制限することを目標としているが、非常に幅広い分野にわたっており、保健物理と呼ばれている。
- 放射線障害を防止し、がんや遺伝的影響を制限する考え方は、がんや遺伝的影響に対して被ばく線量にはしきい値がないという前提に立って防護を検討するところから出てくる。障害を防止しリスクを制限するという原則を達成するために放射線計測や線量評価技術、管理技術の発展が必要であり、更に、防護を実現するためには、放射線影響研究である疫学データや生物データなどを考慮し、反映していく必要がある。
- 放射線防護の直面している問題は、しきい値のない「直線仮定」の前提に対して、最新の研究結果をもとにして、批判が起こってきたことや、リスクに対する数々の疑問が投げかけられていることである。国際的な批判は、検証できないリスクに対して膨大な努力を払うのではなく、検証可能な実用的しきい値を考えるべきではないかというものであり、それに連動して、米国エネルギー省では今後10年かけて、低線量被ばくの影響の問題を解決しようとする動きもある。また、数々の疑問は、例えば、@医療における被ばくで受ける高い被ばく線量と一般管理されている低い線量とのアンバランスや、Aラドン温泉では公衆の線量限度に比べて高い線量を受ける場合もあるが、規制がないといった、必ずしも健康影響の視点のみからでは理解できない問題である。
- このような批判や疑問が出てきた背景には、様々な問題がある。それは、@1990年のICRP(国際放射線防護委員会)勧告に対する科学的根拠を求める動きや、Aチェルノブイリで避難した住民がもとの住居に戻るにあたって、どのような考え方に基づき、どのようなレベルならばよいのかということに対する勧告がないこと、B高線量率被ばくのデータから低線量率被ばくの影響を推定できるかなどである。また、放射性廃棄物のように、少ない被ばくの恐れに対して膨大な費用をかけることへの関心が高まってきたことも背景の一つといえる。
- これらの批判や疑問を巡る論争の論点は、「リスク論」対「しきい値論」といえる。当初はしきい値論から出発したが、がんや遺伝的影響はしきい値論では対応できず、リスク論が現れた。しかし、リスクに対する誤解やリスクそのものの理論的検討不足のために混乱が生じている。放射線防護において、安全確保のためにはリスク論にいかざるを得ないと、個人的に思っている。その根拠として、放射性物質以外、例えば化学物質などと同じ物差しで測ることができなければ、これからの我々のトータルの安全性は確保できないと思っている。
- 低線量被ばくの影響の基礎は、原爆被ばく者の疫学データである。このデータでは50mSv以下での影響は検出できず、この領域はグレイゾーンである。この曖昧さだけが強調され、影響はあったにしても小さいことは強調されず、誤解を生むことがある。低線量被ばくの健康影響を推定するには、いくつかの不確定要因があり、その最大の要因は、高線量率のデータから低線量被ばくの影響や低線量率で被ばくを受ける場合の影響を推定することである。これらの不確定要因を含めて評価されたリスクは、当然ながら、不確定さを持っている。
- 放射線防護に対し、余りに原爆被ばく者のデータに依存しすぎではないか、動物実験や生物研究のデータが反映されていないのではないかといった批判がある。また、現状のリスク評価には、安全側に過大評価する様々な要因があり、それも批判の対象となっている。この問題を解決するためには、生物研究と疫学研究、更にリスク評価研究を進め、より実際的な評価をしていく必要があろう。
- 最近出てきた社会心理学的な考え方では、リスクとは価値を伴う社会的合成物であり、自然科学的な実在ではなく、その意味で健康影響とは異なる。リスクとは、これくらいの被ばくであれば将来どういう影響が出るかを判断することであり、判断する立場に応じて価値観を伴う。従って、リスクは管理されるべきものとして定義されるべきではないかと考える。
- 放射線防護の新しい展開として、疫学や生物研究だけでは解決できない問題の橋渡しををする役目としてリスク研究を位置づけ、従来の頻度論的な確率の理解にとどまらない新しいリスク概念を確立していく必要がある。その意味で、他分野のリスク源と積極的に対話することで、放射線だけではない、広い意味で社会を大きなリスクから守る、リスクバランスをとることが必要になってくる。そのためにも、リスクという概念を更に進めることが重要であろう。
- 宇宙空間や加速器、地下空間、また、高圧送電線の周辺などの非電離放射線など、検討すべき放射線防護の範囲は今後広がっていくであろう。
(3)全体議論
○これまでのプレゼンテーションについて、説明者への質問を中心に議論が行われ、主な発言は以下のとおり。
- チェルノブイリやセミパラチンスクでは、一般住民に対する心理的影響の評価はどうであったか。
- 「放射線防護と健康リスク」のプレゼンテーションにおいて、リスク論は他の分野とのコミュニケーションを可能にするとあるが、放射線のリスクは、他のリスク、例えば化学物質のリスクと同一視できないのではないか。
- 現地での心理的な最大の問題は、結婚できるか、自分たちの子供やその次の世代は大丈夫かなどの母親の不安であり、具体的な質問を数多く受けた。それらに対し、ロシア語のQ&Aを作成し、現地の住民の啓蒙に努めた。現地の医師や行政当局も、我々と同じ回答をしているが、住民は信じない。それは、70年間だまされ続けた、という不信感が非常に強いことによる。ECや米国などかつての冷戦相手国に対しても否定的な気持ちが強く、信頼感を持っていない。一方、長崎・広島の医師に対しては、被爆国からの医師であり、チェルノブイリ被ばく者と同じ立場にあるという安心感を与えた。1997年にキエフでWHO(世界保健機関)が主催した精神心理的影響に関する会議があったが、ここで示されたデータは不確かで、震災医療や災害医療に対する具体的なアプローチの方法がない。特に現地の混乱した状況では、不安や心理的な問題への学問的な対応方法がなく、草の根的な方法で対応するしかない。
- セミパラチンスクでは、心理的な不安や行政当局に対する不信感は更にひどく、これまで全く何も知らされていなかったため、一般住民も行政も、どのような病気でも全て核実験に起因する被ばくのためと考えている。このため、補償の問題が重なって複雑な状況になっている。
- 化学物質の世界では、元々はしきい値の考え方であったが、最近は積極的にリスクの概念を取り入れる傾向がある。例えば、発がんについては、変異原性(DNA等に損傷を与えて突然変異を起こす性質)のあるものはしきい値がないという仮定でリスクを評価している。
- 化学物質には、生体の持つ修復機能や処理能力を踏まえた、しきい値論があったと思う。ダイオキシンでは生体の応答反応を0(ゼロ)にした理論が一時期、出されたが、その後の議論で否定された経緯がある。この意味で、リスク論で議論している具体的な発がん性の化学物質は何か。
- 変異原性のないダイオキシンにはノアエル(NOAEL:無毒性量)と呼ばれるしきい値があるが、一般に発がん性のように変異原性のある物質には、しきい値はないと聞いている。
- ベンゼンの大気環境基準設定に際しては、しきい値がないという前提のもとで、10万人に1人の割合でがんが発生するというレベルを目安に決めたと聞いている。
- 放射線被ばくでは人の高線量障害例がたくさんあるが、化学物質ではそのような例は皆無であり、生物学的な研究が必要。しかし、種差、性差などパラメータが多いことに加え、最近では、内分泌かく乱物質など種類が非常に多い。その多くは、その被害の実態もわかっていない。何か影響がありそうな物質については、リスク論で説得性を持たせようとする傾向が顕著である。
- 放射性廃棄物処分に対して放射線防護の立場から、長寿命核種の処分の現在の基準は、10μSvを越えないことになっているが、長寿命核種の処分を考えた場合、例えば10万年、20万年後にこの基準が守れない場合には必要な費用も含めてどう考えるのか。やむを得ないとした場合、それをどういう論理で説得するのか。
- 低線量の生物影響は検証が難しいということだが、米国エネルギー省の低線量放射線生物影響研究10ヶ年計画には、新しい見通しがあるのか。
- 廃棄物処分について明確な答えを持っているわけではないが、どのようなリスク評価のもとにその費用を出したかを、見えるようにする必要があろう。そうすることで、他のリスクとの比較も可能となる。その上でどうするかは、国民が選択することであろう。
- 米国エネルギー省の低線量放射線生物影響研究は、放射線が生成するラジカル(遊離基:不安定な反応中間体)と活性酸素が生成するラジカルのDNAへの効果の違いを比較するという視点に立って、放射線影響のメカニズムを調べると聞いている。
- 化学物質で、人間で発がん性が証明されているものは、約30種類である。動物実験で証明されているものは、数百種類に達している。一方、広島・長崎の被ばくで実証されたように放射線の発がん性は明確であり、被ばく線量に比例してがんは発生し、しきい値がないとされているが、実数はきわめて小さい。また、環境変異原学会では、遺伝子に作用するものは基本的にしきい値がないとしている。
- 放射線の低線量域又は低線量率域の影響は学問的によくわからない、あるいは技術的に検証が難しいから、リスク論で逃れようというシナリオはあってはならない。日本は、21世紀に向けて、新しい放射線利用やエネルギー利用を進める上で、率先して低線量影響などの研究を人、予算、時間をかけて徹底して実施し、その成果を透明性を持って発表していくことが大切と考える。日本原子力研究所も、分子生物学的研究の成果を基に計算科学的手法を通して、低線量影響の研究に寄与できるものと思う。
- 放射性廃棄物処分に関する放射線防護についてはICRPが6年間作業してきており、長寿命核種についてはパブリケーション46(1985年に発表)で、また、廃棄物全般についてはパブリケーション77(1997年に発表)で報告があり、昨年9月には長寿命核種について、再度、考慮を加えた報告書が採択されている。
- チェルノブイリの住民が、もとの住居に戻ることのできる放射線レベルについても、ここ6年間議論しており、長期被ばくの考え方として、じきに報告書が出される。
- 放射性廃棄物処理などの議論は、分野が異なるとコミュニケーションがとれないという現状があり、それぞれの分野で持っているデータが他分野に広がっていない。今回の原子力長期計画の策定では、異分野間のコミュニケーションがとれるように配慮されており、これは重要である。安全の考え方は既にいろいろ決定されてはいるが、実際には放射性廃棄物処理をエンジニアリングする人々にそのような情報が伝わっていない。
- リスク評価では、発生結果とその発生確率のかけ算をする必要があるが、長寿命核種の処分の場合は、放射線レベルがなかなか下がらない点、また時間が経てば大きな不確定さが生じるため発生確率が不確実となる点で難しいところがある。その時どう考えるかがポイントであるが、異分野間でリスクコミュニケーションを図るなどが必要である。一般の人々とリスクコミュニケーションもすべきであろう。現在は、科学的側面からだけで物事を決定することは困難であり、リスクや安全の考え方を一般の人々と共有することが重要である。
- 我々の食生活は寿命に大きく影響すると思うが、低線量放射線リスクと食品のリスクとはどの程度のものなのか。
- 甲斐説明員のプレゼンテーションで述べられた、低LETと高LETをRBEの概念で結びつける、とはどういうことか。
- LETとは線エネルギー付与といって、細胞中でのエネルギーの与え方を示す。低LET放射線は疎にエネルギーを細胞に与え、高LET放射線は密にエネルギーを与える。その違いをRBE(生物学的効果比)という比率で考える。
- 低LET放射線は、X線やガンマ線のように体内を透過しやすく、高LET放射線は、アルファ線のように体内で局所的に被ばくしやすい。広島・長崎での被ばくはこの低LET放射線によるものであり、従って、高LET放射線のリスクは、低LET放射線のリスクを用いて評価するが、その違いをRBEで考えている。しかし、最近、高LET放射線による影響は異なるメカニズムによることがわかってきたため、単純に比率だけでよいのかという問題も出てきている。
- 世界中の多くの人ががんで亡くなっているが、その原因の80〜90%は飲食によるものであり、それ以外の特殊な原因として、紫外線が挙げられる。一方、被ばくが原因でがんになった人は、広島・長崎の例から見て、極めて少ないことは明確である。また、放射線は白血病を起こしやすいことが、広島・長崎の調査からわかっているが、その実数は極めて小さく、がんに比べ遥かに少ない。
- 低線量被ばくの影響が直線モデルかしきい値モデルかは大きな問題であるが、これらのモデルに生体の持つDNA修復機構はどのように考慮されているのか。
- DNAの修復機構について、誘発される修復機構が現在注目されており、これは僅かな線量の被ばくが、かえって修復作用を誘発するというものである。X線では明白な証拠はないが、紫外線では僅かながら明らかにこの効果が見られる。東北大の坂本名誉教授が、少ない線量のX線で放射線治療効果があると報告しており、これは修復機能の誘発の可能性がある。それ自身は細胞にとっては有害かもしれないが、全体にとっては有益といえる。
- 自然放射線の影響はどうか。
- 大腸菌には、X線照射では決して遺伝子の変異を起こさない株(純粋培養した系統)があるが、自然界では変異を起こしており、放射線による遺伝子の変異と、自然界で起こる遺伝子変異のメカニズムは異なると考えられている。現在は、かつて提唱された「1Gyが倍加線量である」という考え方は、完全に姿を消している。このことから、自然放射線でがんになるということは考えられないし、あるとしても、その率は百万分の1程度の小さい値である。
- 放射線影響や治療の分野で日本は相当高いレベルのCOE(中核的研究拠点)であると感じた。また、高い研究レベルをもとに国際貢献が活発に行われており、それは大変重要であろう。COEである要件は、しっかりしたデータベースを持つことであり、今後ともしっかり行って欲しい。
長崎大学とセミパラチンスクとの間で、Telemedicine(遠隔医療)のような形で貢献されているが、我が国の情報通信の高度技術をもってすれば、ネットワークを更に強化し、このような活動をもっと有効にできるのではないかと考える。
- 原爆ぶらぶら病は被爆後8〜10年間見られたが、その後は認められなくなった。しかし、精神科医からチェルノブイリにも似た症状を見たとの報告があった。物理的、生物学的な被ばくによるものか、あるいは、Posttraumaticstressdisorderのようなものかもしれない。
- 広島・長崎のがん発生の調査で、5mSv以下は発生患者数が非被ばく者の平均に比べ41人も低い(−41人)という報告があった。これは一般的には差がないという解釈になると思うが、東北大の坂本名誉教授の説明にもあるように、逆に減少していると解釈するのか。その後、この件はどのように展開されているのか。
- 「−41人」は単なる誤差か、がんにかかりにくいのか、十分な健康管理のために、例え、がんになったとしても早期治療で回復した結果なのかは不明である。東北大学の報告は、そのメカニズムがはっきりしないが、一部のがんに対しては微量の線量で治療効果があるのは事実のようである。
- 東北大学の報告では、ある種のがんについては低線量で全身照射するとがんの制御がよくなるというものである。メカニズムははっきりしないが、免疫力を高めると推定される。この場合の線量は、5mSvと比べて桁違いに多く、週に1回から2回0.1Gy(この場合100mSvに相当)照射してトータル1Gy(この場合1000mSvに相当)という線量なので、5mSv以下の被ばくでがん発生率が下がったのではないかという話とは関係づけがたい。
- DNAの修復機構はどんな場合にもあるのではないか。そうであれば、生物学的影響を及ぼし始める線量に、何らかのしきい値を考えた方が理解しやすいと思う。
- 健康影響の研究は放射線防護につながるもの。リスクや低線量被ばくの影響が明らかになるには時間がかかるであろうが、一方で新しい放射線利用の推進や、低レベルの放射性廃棄物処理の問題も近づいている。これらに絡んで、高エネルギー放射線による内・外部被ばくや処分に係わる微量放射線の検出、JCOで問題となった中性子の高精度測定などの研究開発も並行して進めていく必要がある。
(座長)
- 質問や意見があれば、本日の審議内容にかかわらず、事務局を通じて出して欲しい。
(4)原子力委員からのコメント
(遠藤原子力委員)
- 第五分科会は審議を開始して約半年が過ぎた。策定会議のスケジュールでは、夏までに策定会議のドラフトを作成する予定である。そのために、第五分科会もまとめに取りかかってもらいたい。
- まとめにあたっては、今後の日本の原子力の活動の指針となるべきものであって、実際上、役に立つaction oriented(行動指向)な指針として欲しい。
- 策定会議では、各分科会の報告をまとめた後、国民の意見をいただいた上で、今年中に最終報告書としてまとめ上げたい。その後、閣議決定し、日本政府の方針となる。
- その方針を実際に施行するのは関係省庁であり、再編後の名称でいえば、文部科学省、経済省、総務省、外務省などである。そのために、関係省庁は、担当者だけでなく上層部まで、分科会の審議状況を十分に把握し、フォローいただくことを強く願う。
(原子力委員長代理)
- 第五分科会を発足させてよかったと思っている。21世紀に向けての日本の原子力政策を、国内又は世界へ打ち出す上で、我々が考えておくべきことは、日本の原子力の選択の原点は何であったか、ということである。それは明らかに原爆反対であり、原子力の平和利用に専念するということであった。
- 唯一の被爆国という表現を我々はどう理解し、それをどう前へ進めていくかはたいへん大事なことであり、これは前の広島市長の平岡氏との対談から始まった。それが第五分科会の発足につながった。そして、参加している委員のお陰で、議論の枠がたいへん広がった。
- 原子力を考える上で、利用という観点だけで捉えるべきではないと考えている。昨年5月に、策定会議から参考として出した審議内容には、ポジティブな側面とネガティブな側面を同時に示した。その意味で、利用から調和という観点で、この問題に対応願いたい。
- 今回の原子力長期計画では、従来の縦型社会の棲み分けから、相互乗り入れというのが大きなキャッチフレーズであるが、難しいところもあろう。また、国際的な観点から、顔の見える国際協力、あるいは主体性のある国際協力とは何か、それをどうやって積極的に出して行くかなどは、この分科会の大事な仕事と思っている。
- リスク論的にものを考えることは重要な側面を持っているが、確率なのか物理現象なのかは常につきまとう問題である。あるところで簡単にリスクとして割り切ってしまう考え方は、少なくとも、日本の原子力はとってこなかった。但し、自然の影響との区別のつかない領域に近いところは、リスクの世界と思う。学者の世界で考えるリスクと一般の世界で考えるリスクは、相当違っていると考えられるので、これからも議論願う。
- 事務局は第四分科会と第五分科会を担当しており、相当たいへんと思うが、分科会の議論の中で審議を深めていくよう努力願いたい。
(5)閉会
○座長より、次回(第6回)の会合について、以下のとおり開催する旨の説明があった。
| 開催日時: | 平成12年3月21日(火)14:00〜16:30
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| 開催場所: | KKR HOTEL TOKYO 11階 「孔雀の間」
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| 議 題: | 横断的事項について
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| 説明員 : | 小佐古委員 (「原子力利用に伴う放射性物質の環境影響」を踏まえて、「相互交流、機関連携など」(仮題))
須藤委員 (「放射線に対する理解の促進」(仮題))
更田(財)環境科学技術研究所会長 (「放射線教育」(仮題))
高田委員 (「ガスクロマトグラフ」を含めて、「RIの利用、安定供給及び処分」(仮題))
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以上