２．開催場所：東京グランドホテル　「桜の間」

３．出席者

（１）開会

• エネルギー利用は官主導、放射線利用は民主導でほぼ同時期にスタート。１９６０年代は車の両輪として発展したが、７０、８０年代に放射線利用は停滞。９０年代に入り、大型加速器の稼働に伴ってそのアンバランスは是正され始めたかどうかは議論のあるところ。
• ある前提条件で工業分野における放射線利用の経済規模を評価すると、照射利用は約２兆円、半導体利用は約５兆円。直接比較できるものではないが、数字の上では原子力のエネルギー利用の経済規模に匹敵。
• 今後の展望として、高付加価値の高分子材料製品の開発、イオンビームや放射光の特長を活かした高度な利用、環境保全や資源の有効利用などの社会的ニーズに応える技術への応用が期待される。その中でも特に注目している技術は、海水中の有用資源（ウラン、バナジウム等）捕集とマイクロマシン技術に必要とされるＬＩＧＡプロセス（ドイツで開発された放射光によるリソグラフィ、メッキ、モールド工程）。
• 法規制（放射線障害防止法）は、ユーザーにとって放射線利用の障壁になっている。ＪＣＯ事故もあり、規制緩和が好ましいとは一概に言えないが、技術の進歩に伴い法規制にそぐわなくなっている面における弾力的な運用が望まれる。
• 放射性廃棄物の処理・処分は、ラジオアイソトープ（ＲＩ）利用に直接関連した問題。ここ数年、状況が進展しており、処分のための立地に向けた準備が進行中。実際の運用にあたっては、クリアランスレベル（放射性物質として取り扱う必要のないレベル）の設定と処分費用の負担が問題。
• 基準等の整備として、特に工業用線量の国家計量標準との照合や校正等を目的としたトレーサビリティ（ユーザの計測器がどういう経路で校正されたかがわかり、その経路がきちんと国家標準までたどれること）制度の整備が必要。
• ＰＡ（パブリック・アクセプタンス）として、放射線の有用性を理解してもらうための情報公開と放射線に対する正しい理解のための放射線教育が重要。
• 多様化した産業で放射線利用を推進していくためには、産官学の密接な連携を目指した産業コミュニティの形成が必要。基本的には「産」が中心になるべきものだが、産官学それぞれの役割分担を考慮した連携が重要。

（２－２）放射線の工業及び環境への利用－より幅広い利用に向けて－

• 放射線は優れた特長を持ち、我々の身の回りで幅広く利用されている。研究開発を進めることにより国民生活に役立つ成果を生み出し、さらに利用を拡げることが可能。
• 既に放射線は、電線ケーブル、ラジアルタイヤ、耐熱セラミック繊維、ボタン型電池隔膜等の高分子材料や半導体素子製造などの加工処理、医療用器具等の滅菌、工業計測に利用されているだけでなく、排煙等の処理による環境浄化や害虫駆除等の環境保全にも幅広く利用されている。
• ラジアルタイヤの出荷額は約１兆円、市場の９１％が放射線を利用したもの。医療機器の滅菌の場合、経済規模は約２千８百億円、市場の約６０％が放射線によるもの。
• 放射線は、添加物が不要でクリーン、加熱等が不要で省エネルギー、原材料の形状・物性の保持が可能、処理が簡単などの長所がある反面、設備コストが高く、放射線の持つ負のイメージ、許認可手続きが必要といった短所もある。
• より幅広い利用のためには、高エネルギー重イオンビームやポジトロン等の新しい放射線の利用、新材料創製や精密制御によるミクロ照射等の新しい利用法の開発、環境保全・環境浄化、先端材料の開発、バイオ技術等の新しいニーズへの対応について国としての取り組みが必要。
• 具体的な研究開発課題として、環境保全・環境浄化分野では有害物質の分解・除去、天然高分子等の利用による環境負荷低減、バイオ技術分野では環境耐性植物、環境浄化植物等の新植物育種、先端材料では次世代半導体素子や極限材料の開発、資源確保では有用希少金属捕集材料の開発、研究開発を支える基盤技術分野では超伝導加速器による高エネルギーイオンビーム発生技術や照射技術の開発などが挙げられる。
• 放射線利用技術に関する国際協力では、地域の特質やニーズを踏まえた技術移転、技術の定着に向けた人材養成、相互補完する協力研究・共同利用が必要。

（２－３）放射線の工業分野への応用－現状と新産業創出に向けて－

• ガンマ線照射装置は運転操作が簡単であるが、定期的に線源の交換が必要。電子線加速器は放射線管理が容易で、しかも運転操作が簡略化されてきているため、今後の普及が期待されている。
• 香辛料への照射を考えた場合、技術的な課題はほとんどなく、医療器具滅菌と同様のシステムを用いることができる。
• 新産業創出には、①抜本的な技術革新、②幅広い産業へのインパクト、③研究・開発・実用化の長期的な展望、④国民生活への貢献、⑤産官学の協力などの条件が必要であり、これを満たす新産業創出テーマとして、様々な産業分野における新素材開発が挙げられる。放射線利用の適用例として、自動車産業における複合軽量素材、半導体産業における中性子を用いたシリコンドーピングなどがある。
• 放射線利用による新産業創出の具体例として「電子ビーム硬化複合材」の開発があり、これについては、既に基礎研究が完了し、国内の既存研究施設の活用が可能であり、幅広い産業へ大きなインパクトを持っている。
• 既に欧米では、国家的戦略として産官学の連携による「電子ビーム硬化複合材」の開発が進められており、米国ではエネルギー省（ＤＯＥ）を中心に国立研究所、民間企業など１４機関による低コスト航空機製造を目指した新素材開発を、欧州では欧州基金の支援を受けてフランス、ドイツ等の９機関が常温硬化高性能品製造技術の開発を進めている。
• 従来は、「官」主導で新産業創出を進めてきたが、市場ニーズに関する理解不足、税金のバラマキ行政、「産」の活力が活かされないといった問題点があった。
• 新産業創出に採用されたテーマに関し、産官学が対等でネットワークを構築する。その際、「官」は監督官庁の一元化、集中的な資金投入、「産」への国立研究所の全面開放といった役割を果たし、「学」は基礎研究の担当とベンチャー志向の人材育成を担当し、「産」は幅広い産業に貢献するテーマの選定と開発研究・実用化を行うことが必要。これらを実現するための体制として、産官学の全日本的なメンバーで構成される「新産業創出機構（仮称）」を組織化すべき。

（２－４）全体議論

• 放射線の工業利用には２種類あるという印象を持った。１つは、ＲＩの利用。しかし、これには必ずＲＩ廃棄物が伴い、大きな問題を含んでいる。２つ目は、電子線の利用。工業分野における電子線の利用は、基本的な技術として一般化しているが、放射線という観点での電子線の位置付けは奇異に感じる。中身に応じて放射線を整理し、理解を求めることが重要である。
• 化学、バイオ、医薬の分野では、ＲＩが日常的に大量に使われており、ＪＣＯの事故直後、地元に対し放射性物質の使われ方等について説明を行ってきた。しかし、使用済みＲＩの後始末に関する一般市民の関心は高く、量的な問題は別としてＲＩを物質として扱うにはＰＡ上、厄介な問題がある。

• ＲＩと電子線は、用途に応じた使い分けが行われている。ＲＩの後始末やＰＡは重要な問題。医療機器の滅菌は、ガンマ線から電子線へと移行しつつある。
• ＲＩの処分については、処分施設がないのが現状。国は処分施設の整備を検討しているが、立地が問題。短半減期のＲＩは、十分に長期間保管すれば普通に処分が可能だが、理解を得ながらの対処が今後の課題となる。

• 電子線は放射線の一種。放射線には入らないと思っている人がいるとすれば残念。むしろ、電子線は放射線利用の仲間であることを知らせていくことが大事である。

• 放射線障害防止法に定める放射線の定義に従って分類すべき。電磁波を電離放射線か否かで区別しているのと同様に、加速器やＲＩも同じ扱いで区分していいのではないか。
• 一般に利用されているＲＩは、限られた量で、しかも固形物。アイソトープのクリアランスレベルの問題は、医療廃棄物を中心に配慮が必要である。

• 法規制の問題点としては、具体的に放射線障害防止法の何が問題か。

• ユーザー側からすると、放射線取扱主任者をおいて放射線管理を行うことに障壁を感じている。しかし、ＪＣＯ事故のこともあり、規制緩和を行うという選択肢はないと思われる。ＰＡの観点では、放射線障害防止法の存在が一般市民に安心感を与えることになっていることも考慮すると、法規制のプラスの面を活かした弾力的な運用が必要である。

• ＲＩの場合は、コバルト－６０の汚染等、廃棄物の問題があるが、加速器本体の放射化の問題はあるのか。

• 工業利用に用いられている電子線は低エネルギーなので放射化の問題がない。サイクロトロンのような高エネルギーのイオン加速器の場合には放射化が問題となる。加速器の放射化は、現状の放射線障害防止法になじまない。老朽化した加速器が廃棄物になる実例も既にあり、今後この問題を考えていく必要がある。

• 政府で加速器の廃棄物を含む廃棄物の取扱いを審議する委員会があり、法律上の取扱いに向けた議論が数年前から行われている。１ＭｅＶ（メガ電子ボルト）以上の加速器については放射線障害防止法が適用されるが、イオンについては１００ＭｅＶを境に放射化問題が大きくなる。いずれ結論が出される予定である。
• 照射利用に絡んで死者が出る事故は意外と多く、中国のコバルト－６０ガンマ線照射施設やフランスの電子線加速器の保守作業で被曝による死者を含む被曝例が報告されており、社会問題になっている。ある程度以上のエネルギーと強度を持つ照射施設については適切な対応が必要とされ、それが社会的な信用を得ることに結びつく。ＲＩ利用では、線源の強度が弱いため、死に至ることはない。
• 廃棄物については、情報公開が必要。廃棄物の処分に関する検討は原子力安全委員会で進んでいるが、立地での理解が得られていないため、住民の理解を得る努力が必要である。
• 工業計測・制御用として装備機器に組み込まれたＲＩは我々の身近なところで活用されている。例えば、ニッケル－６３を用いた電子捕獲検出器（ＥＣＤ）付ガスクロマトグラフ（物質の固体への吸着性の違いや分配の差を利用して混合物試料を分離する方法で、試料を気体に乗せて流動させ、固定相に固体又は液体を用いる場合がガスクロマトグラフ。物質の分析に各種の検出器が用いられている。）は、それのみの使用については放射線取扱主任者選任の義務が免除されるという許認可の合理化もあり、相当数（１万台近い）が中小企業等に普及し、環境保全等に利用されている。また、東京湾アクアライン海底トンネル工事では、双方から掘られてきたトンネルが最後に出会う際の位置合わせにコバルト－６０を用いた放射線計測技術が応用されている。

（座長）

• ガスクロマトグラフへのＲＩ利用に関して紹介する機会を別途設けたい。説明者として適任の方がいれば事務局に推薦して欲しい。

• 日本原子力学会発行の「原子力がひらく世紀」という文献を読み、様々なところにＲＩが利用されていることを初めて知った。ガスクロマトグラフは、食品会社でも使用されている。
• ２０年前は原子力のエネルギー利用に関する一般市民の理解は必ずしも十分ではなかったが、放射線利用についてはさらに知られていなかったと思われる。かつてエネルギー利用と放射線利用は車の「両輪」と言われたが、「片輪」というのが現実。ＰＡという点で一般市民に情報が十分に伝わっていない。日本原子力産業会議の企業会員が約８００社にのぼっていることにも驚いている。ＰＡは、誰がどこに対してするべきなのかよくわからないが、現状ではＰＡが不十分なのは確かである。

• 「両輪」ではなく「片輪」という実感があるのは事実。何に基づいてそれを判断するかによるが、経済規模の評価結果からすると半導体産業も含めた数字はエネルギー利用と同程度であり、「両輪」と考えることもでき、認識を新たにした。
• 国が放射線利用に投入している予算は、エネルギー利用に比べると微々たるもので「片輪」状態といえる。放射線利用に関する情報提供が不十分なのも「片輪」。しかし、総じて放射線利用は健闘している感がある。

• ガンマ線照射による医療器具の滅菌は、６ＭＣｉ（メガ・キューリー）のコバルト－６０線源を用いて、１０ｋＧｙ（キロ・グレイ）程度の吸収線量で行われている。それに対し、電子線による滅菌では、エネルギー１０ＭｅＶ、出力２０～２５ｋＷ（キロ・ワット）の電子線加速器が用いられているが、吸収線量はガンマ線と同等か。

• 電子線照射は、ガンマ線照射に比べて大量処理能力に優れており、同じ吸収線量を得るのに短時間で済む。例えば１０ｋＧｙの吸収線量は、１０ＭｅＶ、　５０ｋＷの電子線を用いた場合、１分程度の照射で済むが、ガンマ線では　３ＭＣｉの線源を用いたとしても１時間程度は照射が必要である。

• 所要のエネルギーの大きさは照射される物質によって異なる。

• 治療用に普及しているマイクロトロン（電子線：３－２２ＭｅＶ）や今度がんセンターに導入される５０ＭｅＶのマイクロトロンなどのエネルギーの高い電子線を滅菌に利用する場合の生物学的な効果の違いはどの程度か。

• ガンマ線の場合、キュリー数とガンマ線のエネルギーの積が単位時間当たりの吸収エネルギーとなり、それを質量で割って照射時間で積分したものが吸収線量。電子線の場合、エネルギー（ＭｅＶ）は個々の電子の物質中の透過力の目安となり、出力（ｋＷ）は単位時間あたりのエネルギーの総和で、吸収線量に関係した量である。
• 医療用と滅菌用で電子線のエネルギーは異なり、滅菌の場合には、誘導放射能（核反応による放射能）を防止するため、エネルギーは１０ＭｅＶ以下と国際的にも定められている。

• 医学利用における滅菌はよく普及しており、照射による生物効果はマイナスの方向に働くことはよく知られているが、重イオンビームを用いた品種改良はあまり知られていない。生物効果は線種（例えば光子と粒子）によって異なるのか、品種が悪くなる場合はないのか、品種改良によって食糧確保に貢献できるものはどれくらいあるのか、それらを一般市民に伝えることは重要である。
• 放射線によって改良されたものの安全性はいかに保証されるか。

• 放射線のよい面だけでなく、悪い面をも明確に説明していく必要がある。
• イオンビーム育種研究は始まったばかりであり、今後研究開発が必要な分野。イオンビームを用いることにより様々な突然変異が効率よくできたり、特定の遺伝子だけを変異させるといった特長を持っていることがわかってきた。イオンビーム育種で得られるよい品種を評価し、それを選択していくことは重要だが、決して悪い品種はできないと言っているわけではない。

• 突然変異によって悪かった結果も当然あるだろうが、よいものができる割合はいかほどか。

• 形質により異なるが、多くの場合、ガンマ線に比べてイオンビームの方が一桁くらい大きな確率で突然変異が生じるとのこと。

• 現存する全ての遺伝子は、地球環境での生存に適するように淘汰された優性遺伝子と考えられ、突然変異により生じた遺伝子は必ず悪い方向へ向かうというのが生物進化の原理。一方、人工的に品種改良で生み出された植物のように、生物自身にとって都合が悪い遺伝子でも、人間にとって具合がいい場合もある。
• 重イオンは、遺伝子に大きなキズをつけるため、劇的な変化を生む可能性は高い。しかし、それが将来の世代を通じて安定したものになるかは別問題。何世代も続かずに消える場合が多い。例えば、キクは放射線により突然変異を起こしやすく、幼芽への照射で簡単に花を変色させることができるが、安定させることは困難である。
• 最近の遺伝子導入技術の進歩により、特定の遺伝子、例えば寒さに強い遺伝子を人工的に導入することは可能になったが、放射線を用いた突然変異は偶然性を必要とするため、特定の遺伝子だけを作るのには向いていない。一方、寒さに強い高山植物はたくさんの染色体を持っており、複数の抵抗性がある。この場合、遺伝子導入でこれを作ることは難しく、むしろ放射線による突然変異を利用した方が有利。それぞれ長所短所があり、放射線は品種改良の主たる手段であるとは一概に強調できない。

• 遺伝子導入と同様に、放射線による品種改良の場合にも安全性に関する議論が出てくると予想されるが、問題はないのか。

• 安全性に関しては遺伝子導入と放射線による突然変異は基本的に同じ。遺伝子導入食物の安全性を懸念する主張があるのは事実だが、現在の遺伝学の知識では、人間にとって有害な遺伝子ができるとは考えにくい。
• むしろ耐性を持つことによる間接的な影響が問題。例えば、農薬に強い遺伝子を作ると、農薬散布により雑草は絶やせるが、農薬耐性の植物には逆に農薬が濃縮されるなどの悩みがある。
• 遺伝子導入の安全性は世界的にも大きな問題として取り上げられているが、米国と欧州の貿易戦争の現れという見方もあり、科学技術庁、農林水産省、厚生省にあっては慎重かつ冷静な判断をお願いしたい。

• 放射線によって品種改良した食物の安全性は、遺伝子組み換えによるものと基本的には同じ議論。この議論を進めることにより、むしろ安全性に関する正しい理解が進むのではないか。

• 遺伝子組み換え作物と放射線育種作物は、現在ＰＡに関して取り扱いが異なっている。放射線育種は、突然変異により自分が持つ遺伝子を改変して劣性遺伝を引き起こすもので、自然突然変異の加速と見なせる。基本的に不安定なものができるものの、確率は小さいが安定した作物も得られており、既に世の中に出回っている。最終的に遺伝子組み換えと放射線育種が同じものかについては議論する機会が必要である。

（座長）

• この問題に関しては、引き続き議論する場があるかもしれない。

• 経済規模評価の数字については、誤解を招かないように慎重な取り扱いが必要。例えば、ＬＳＩ製造プロセスにおけるレジスト加工（光や放射線を照射した部分だけが構造変化し溶媒に溶けなくなったり（ネガ型）、溶けやすくなる（ポジ型）高分子をシリコン表層の酸化ケイ素上に塗布し、回路のマスクパターンを通して照射した後に溶媒に浸して現像し、回路パターンを形成する工程）は高々２％で、約１００億円の市場と考えられる。レジスト加工における放射線利用は、放射線によりレジストの力を発揮させるという加工技術としての位置づけ。産業発展の決定的な技術としての寄与が大きい。一方、照射設備分野は放射線に直接関わる産業。放射線利用の性質に応じて整理していくべきである。

• 半導体産業を放射線利用産業として加えることは議論のあるところ。おそらく半導体産業の人は放射線利用という認識はないであろうし、放射線産業側からすると半導体産業を取り込みたい気持ちもわかる。
• 放射線は重要な産業に深く関わっており、ある条件で見積もれば経済規模はこうなるという程度の理解で扱って欲しい。

（３）その他

• 第２回会合での議論やその後の議論を踏まえ、論点を整理したので説明したい。
• 前回の提案に比べて整理した点は、放射性物質の影響での拡がりに関する啓蒙的な議論に関した部分を削除したこと、及びこの研究分野は多岐に渡るため、この分野に関連した日本の研究機関が役割を適切に分担して相互の協力のもとに研究を進めていくべきという一節を加えたことである。

　○前田委員の提案に対する議論が行われ、主な意見は以下のとおり。

• 第五分科会の主たる役割は、放射能や放射線に関わるものの利用を促進し、国民の理解を進めることにある。原子力関連の大きな事業所の周りでは、厳密な測定を行うと日常的に極微量であるが放射性物質が検出される。これについて国民の理解が進んでいないと過剰な反応を招いてしまう。環境中に放出された放射性物質は、作物や魚に移行し、最後は人にたどり着く。環境中の放射性物質の動態を解明するためには移行に関したデータベースの整備が必要とされ、最後は人体への影響と人のリスク管理を問題にする必要がある。
• 原子力施設の中では事故が起きないように最大限の努力がなされているが、施設の外にいる住民の多くは施設に大きな不安を抱いている。環境中の放射性物質がどのように移行し、人のリスク管理がどのようになるのかを明確にする必要がある。これらは特に施設の立地のための基礎となるものである。
• 環境研究は３０－４０年という長期の測定期間を必要とするため、研究機関の相互の協力が不可欠。この研究分野には、数十人の研究者を抱える日本原子力研究所（原研）をはじめとして放射線医学総合研究所、理化学研究所、核燃料サイクル開発機構、（財）環境科学技術研究所、さらに数人の小さな所帯でやっている県の衛生研究所に至るまで数多くの研究機関、研究者が関わっている。従って、ある研究機関がセンター・オブ・エクセレンス（ＣＯＥ：中核的研究拠点）になり、全日本的にこの研究分野を束ねてデータや情報をまとめていくことが必要。それによって得られる研究成果は、国民の理解増進の点で大いに役立つものである。
• 全日本的な研究体制を実現していくためには、関連研究機関が集まって議論する場を設けるべき。長期計画はある特定の研究機関のためのものではなく、幅広く研究分野の学問の推進を図り、それを通じた国民の安心の確保と情報提供していくことが目的である。

（座長）

• これは放射線利用そのものではないが、長期の原子力利用に伴って発生する放射性物質の環境影響であり、放射線に関わることとして審議項目に取り上げてもらいたいという提案主旨である。

• この問題はわかりにくく、泥沼の議論になるかもしれないが、結論を急がずにじっくり検討すべき。（財）放射線影響協会でも議論しているが、実際にどういうやり方がいいのか未だに結論は出ていない。難しい問題であるが、じっくり審議していくスタンスならば問題はない。

• 健康影響の観点からも放射性物質の環境影響は重要な問題。チェルノブイリの例では、現地の最大の不安は放射線が原因で病気になったかどうか明確でないこと。線量と病気の頻度の相関を示さないと環境汚染との関係は証明しにくい。専門家はたくさんいるが、統一的な見解はまだ得られておらず、環境からの寄与も含めて生体の被曝線量が正しく再評価できたかどうか不明。これについても議論の場が必要である。

（座長）

• 前田委員から提案された「原子力利用に伴う放射性物質の環境影響」を審議項 目として取り上げることとする。

• 説明員として小佐古委員を推薦したい。

（小佐古委員）

• 私でよければ引き受けたい。

（座長）

• 説明員について他にも推薦があれば事務局へ連絡願いたい。

• ＲＩ利用のガスクロマトグラフについてはプレゼンテーションを検討したい。

• 前回審議があった食品照射に関する科学技術庁としての見解を伺いたい。

（事務局）

• 原研を実施主体として研究開発を進めてきたが、食品照射に関する法令上の制約がなく、また安全性が証明されれば科学技術庁として食品照射に関する研究を進めていきたいと考えている。

• 食品照射に関する予算措置を講じているのか。

（事務局）

• 現状では原研における予算は少ないが、引き続き進めていきたい。

• 原研では、食品照射に関するデータベースの整備を行ってきている。