



平成12年4月17日
日本原子力研究所
齋 藤 伸 三1.21世紀における原子力利用のあり方
21世紀においても、原子力は我が国の安定した基幹エネルギーの一つとして、主として軽水炉発電として利用され続けるであろうし、その後のエネルギー安定供給を担うべく高速増殖炉の研究開発が推進されるべきであろう。同時に、化石燃料消費量の更なる削減を図るためには、従来の大規模発電以外の分野での原子力利用を進める、利用分野の拡大が有効である。たとえば、我が国の最終消費エネルギーの約半分は産業用熱エネルギーとして消費されており、約四半分を占める民生用エネルギーの過半は、空調、給湯等の熱エネルギーとして消費されている。このような熱エネルギーを原子力によって供給することが21世紀においては重要となろう。
熱エネルギーは遠距離輸送が困難なエネルギーであることから、熱供給用の原子炉は需要地に接近して建設できなければならず、また、出力規模も自ずと小さくなり、基数が増える。このような分散型エネルギーシステムとして利用する原子炉は、いかなる場所にも立地可能であるとともに、高度に訓練された運転員や、入念な保守がなされた安全装置などを必要とせずに、炉心溶融のない、いわゆるシビアアクシデントフリーを実現できる安全原理に基づく、人との係わりの少ない高い安全性が必要である。当然ながら、既存の熱供給システムと競合しうる高い経済性も必要となる。上記要件は、その特長を活かせば、小型炉において比較的容易に満たすことができると考えられ、その開発は世界的にも注目されている。
また、今後我が国の電力需給には不透明さが増すことが予想され、投資リスクが小さく融通性のある分散型発電システムが求められる。さらに、21世紀の世界的課題の一つとして、途上国におけるエネルギー需要の増大が指摘されており、環境負荷が最も小さいことから原子力利用が有力な解決策として世界的に検討されている。途上国のエネルギー需要の増大に応じるには、電力需要量、経済状況、送電網規模等を考えると、出力規模、建設資本費、建設工期の観点から小型炉が適しており、高い安全性、経済性とともに、核拡散抵抗性を備えた革新的小型炉の研究開発が必要とされる。
以上より、図1に示すように多様な原子力利用の展開が考えられる。このような多様なニーズへの対応や原子力エネルギーの高効率利用等を図るために、革新的な技術やアイディアを取り入れた新しい概念の原子炉システムの開発が世界的に模索されている。我が国においても原研等を中心に研究開発が行われてきており、この分野で世界をリードすることが可能である。
今後は、これまでの成果を発展させ、国の研究機関を中心に、大学、産業界等の協力を得て、これまで以上の幅広い開発研究を進めることが肝要である。また、社会的意義の大きい革新的な原子力エネルギー技術の開発は、我が国の原子力産業の活性化や若い世代への魅力的な技術分野の提供に繋がるものと考える。2.革新的小型炉の特長
(1)利用分野の拡大
1)原子力による熱供給
@産業用熱源
1000°C近い高温を供給できる高温ガス炉を利用すれば、化学産業のプロセス熱エネルギー等を原子力により供給でき、化石燃料消費量の削減が期待できる。また、高温の熱から順次低温まで熱を利用するいわゆるカスケード利用により、熱利用率を高めるとともに、限定された地域で要求されるエネルギーを1つの原子炉でまかなうことも夢ではなくなる。A民生用熱エネルギー源
顕著な増加傾向を示している都市の空調及び給湯用の低温熱エネルギーを供給できる。たとえば、軽水型熱供給専用炉をビル内や都市の地下に設置すれば、化石燃料消費量の大幅削減が期待される。
このように、革新的小型炉では、(2)に示すより高い安全性と相まって、需要地近接の地域共生型システムが構築できる。2)21世紀のニーズに応える原子力発電
@分散型発電システム
少ない投資で、短い工期で完成できる革新的小型炉を利用すれば、電力需給の変化に柔軟に対応できる分散型発電システムが実現でき、我が国の多様な電力供給システムの構築への貢献が期待される。(3)に示す革新的小型炉の高い経済性に加え、待機機器や原子炉建屋の共用等によって、経済性のより高い発電システムを構築できる。A高効率発電
高温ガス炉を利用してガスタービン発電を行えば50%近い熱効率の達成が可能であり、一次エネルギー消費量と同時に放射性廃棄物量の節減に資することが可能である。3)国外小規模発電・熱利用
アジア・太平洋地域での電力需要や北アフリカ、中東等での電力や海水淡水化に対する需要に応える。高度に教育訓練された人材に乏しく、インフラ整備が遅れている多くの開発途上国においては、電気や熱の供給に安全確保が容易で、比較的小さな投資で建設できる革新的小型炉が利用できれば、世界規模での化石燃料消費量の増加抑制に資するとともに、これら諸国の経済成長に大きく貢献するであろう。4)多様な可能性
将来には、革新的小型炉をさらに発展させ、船に原子炉を搭載した可搬型エネルギー供給炉やメンテナンスフリー無人運転炉(いわゆるドンキーマシーン炉)等々、21世紀に相応しい原子炉システムが構築できる。(2)高い安全性
革新的小型炉では、人との係わりの少ない高い安全性が確保できると期待されている。具体的には、自然循環、熱伝導、輻射等による炉心冷却、自然放熱空気冷却による原子炉容器冷却等の完全受動的冷却並びに高い負のフィードバックを利用した完全受動的原子炉緊急停止機能を有するシステムの構築が可能である。これらは、運転操作や機器動作に依存せずに、炉心溶融のない、いわゆるシビアアクシデントフリーを実現できる安全原理に基づいていることが特長である。(3)高い経済性
一般に、小型炉の場合、スケールデメリットにより経済性が劣ることが懸念されている。しかし、最近の成果では、小型であるが故に、
@ 小型炉固有のシステム簡素化や固有の安全性を生かした安全設備の簡素化による建設コストや運転・保守費の低減 A 工場内完全生産による建設コストの低減
B 工期短縮による建設コストの低減
C モジュラー大量生産による建設コストの低減
D 需要地近接立地による送電コストの低減
等が可能となり、逆に経済性の観点から、より有利なシステムの成立性が示唆されている。例えばガスタービン発電高温ガス炉の経済性評価では、タービン系統が簡素化されること等により化石燃料発電プラントや現在の軽水炉と競合しうるとする試算例もある。(4)核拡散抵抗性
革新的小型炉では10年以上の長期連続燃焼が可能となり、燃料交換頻度を少なくし、使用済燃料発生量を低減でき、従来の軽水炉発電システムに優る核拡散抵抗性を有する設計が可能と期待できる。3.開発の進め方
小型高速炉については第三分科会で別途検討されていることから、ここでは革新的小型炉として、軽水炉及び高温ガス炉について検討する。(1)革新的小型軽水炉
革新的小型軽水炉については、既に数種の炉概念が提案されており、現在も米国のNERI計画等を契機として新概念が検討されている。今後は、安全性、経済性の更なる向上を目指し、国の研究機関を中心として、産業界、大学等の協力を得て、具体的ニーズに対応したそれぞれの最適概念の構築、革新的要素技術の開発等を進めることが重要である。
さらに、次段階として、これら炉概念の技術成立性、経済性、運転保守性等を、試験炉の設計、建設、運転を通じて実証することが必要である。これらを通じて、分散型発電システム、原子炉熱供給システム等の導入に伴う、社会的、制度的課題は明確になるであろうし、国民の理解も深まるであろう。国外での利用を図るためにも試験炉による実証は不可欠であろう。(2)高温ガス炉
革新的小型炉の一つであるガスタービン発電高温ガス炉は、国外において経済的に実用化が可能であるとの評価がなされているが、我が国の国情においても実用化可能であるかを見極めることが緊急課題である。そのため、国の研究機関が中心となり、産業界の協力を得て、導入効果、実用化の可能性等に係る技術的・経済的評価を行うことが必要である。その結果に基づき、主要技術要素であるヘリウムガスタービンの開発等のR&Dを国の研究機関を中心として進めることが望ましい。
なお、高温ガス炉の利用として、水素製造等の高温プロセス熱利用のように、更なる技術開発を伴うものや、より高度な技術を必要とするものについては、HTTR計画の推進等国が主体となって研究開発を進め、しかるべき段階で、民間への技術移転を行うことが望ましい。(3)国内協力・国際協力
革新的小型炉の研究開発は、開発コストの削減、革新的アイディアの創出等の観点から、国内においては産官学の協力体制が重要である。また、本研究については海外の関心も高く、米国、IAEA等において国際研究協力を進める機運があるのでこの点を配慮する必要がある。
このため、国の研究機関に開かれた研究中核組織を設け、国内外の技術者、研究者等が容易に参加できる体制とすることが有効と考える。さらに、アジア太平洋地域での原子力利用、安全文化等の普及は我が国の責務であり、研究、計画段階から、同地域の技術者、研究者等の参加を求める必要がある。特に、試験炉については、計画、設計、建設、運転などを協力して進めることが、国際協力のあり方として、最も望ましいものと考える。
(注1)IAEAの定義によると、中型炉とは現存する原子炉の中の最大出力の1/2以下で1/4以上の出力の原子炉であり、それ以下を小型炉という。
すなわち、中型炉は電気出力に換算して700MW〜350MW級の原子炉で、小型炉は電気出力に換算して350MW以下の原子炉である。
