東京大学 岡 芳明概要
研究用原子炉は、動力炉開発の材料の試験や研究、理工学のためのビーム利用や分析、産業や医療における利用と人材育成や教育に大きい役割を果たしている。
日本が原子力国産化時代を終えた現在、ニーズの高度化に対応し、先端的な研究で世界をリードすることが求められており、研究炉もそれぞれの炉の特徴をより生かす方向でその性能を向上、維持し適切な更新も含めて対策がとられる必要がある。動力炉用の材料照射研究については研究炉とともにホット(照射後)試験施設の高度化と整備も重要である。 高経年化した原子炉も多いので、後継者の育成を念頭に入れて効率的な運転維持管理対策を用意する必要がある。
共同利用施設として研究炉をみると、研究機関、民間、大学の間の相互の連携を強化する必要がある。
研究炉の使用済燃料の米国への返還の期限は2009年までであり、再処理技術や代替技術の開発が重要である。研究開発に伴う廃棄物の処分と共に、使用済燃料についても落ちこぼれのないよう包括的な対策を用意し、実施することは国民の原子力への信頼確保の点でも重要である。1.はじめに
研究用原子炉は、数MWまでの熱出力の研究と教育に用いられる汎用のものの他に出力数十MWクラスの燃料材料の照射試験や、アイソトープ生産用研究炉、あるいは中性子回折研究用のビーム実験炉などがある。さらに、狭い意味の研究炉には含めないが、原子炉心の核特性研究用の臨界実験装置や高温ガス炉技術やナトリウム冷却炉技術の開発のための試験炉(実験炉)などもある。
我が国に初めての研究用原子炉が建設されてから、既に43年が経過した。この間に、多くの試験研究用の原子炉が原研、大学、民間によって建設され、原子力エネルギー利用の研究開発や原子力分野の基礎・基盤の研究、原子力人材の育成や教育等に利用されてきた。特に、原子力エネルギー利用の研究開発では、発電用原子炉の燃料や材料の試験や開発を中心に多くの成果を挙げるとともに、原子炉の運転実習等を通じて、我が国の原子力人材の育成に実績を挙げてきた。
近年では、原子炉から得られる中性子ビームを利用して、物性研究、生物研究等の基礎研究の分野で学術的な成果を挙げるともに、中性子の照射場を利用して、シリコン半導体材料の製造、医療用および工業用ラジオアイソトープの製造、ホウ素中性子捕捉療法による脳腫瘍の治療等、産業や医療の新たな分野への応用が展開されている。2.研究用原子炉の現状
我が国の試験研究用原子炉は、原研(4基)、サイクル機構(1基:研究開発段階の原子炉から試験研究用原子炉に替わった「常陽」)、大学(5基)、民間(1基)で運転中(停止中も含む)である。一方、解体中の原子炉が6基(うち原研に4基、民間に2基)あり、運転中の臨界実験装置が8基ある。
原研のJMTRは照射研究に利用され、JRR-3Mはビーム実験と放射化分析を中心とし、一部照射試験にも利用され、JRR-4は医療照射や人材育成に利用されている。高温ガス炉の技術基盤の確立等に供する高温工学試験研究炉(HTTR)や医療照射の施設を整備したJRR-4は、いずれも平成10年に初臨界を達成した。また、サイクル機構の高速実験炉「常陽」は、試験研究用原子炉として、材料試験等の研究開発にも利用されるなど新しい展開が図られている。
大学では私大炉が早い時期から建設運転され、研究教育に用いられ日本の原子力利用の定着化に貢献してきた。立教炉、近大炉は運転開始以来地元との強い信頼関係を保っている。武蔵工大炉は特にホウ素中性子補足療法おいて先駆的業績を挙げてきた。京大炉は京大臨界集合体とともに関西地区の原子力利用の拠点として、また全国大学の原子炉共同利用の中心として活動しており、炉物理研究、照射研究、医療用照射等において様々な業績を挙げてきた。東大炉は世界唯一の汎用高速中性子源炉として、純粋な高速中性子を利用して中性子輸送、計測、照射等、様々な特徴ある研究に用いられている。
原研と大学の研究炉の多くは、共同利用施設として、研究機関、大学、民間等に幅広く利用されている。
世界的には研究炉は米国の54基を筆頭に256基が運転されている。先進国の研究炉は基数は1970年代と比べて減少しているが、近年材料照射やビーム利用の分野においてその特徴を先鋭化しつつある。一方途上国の研究炉は増加傾向にある。
新たな研究炉の建設や改造が欧州やアジアの国で計画されている。これは、研究炉が現在、また将来ともに原子力の研究開発にとって必要かつ不可欠な施設であることの証左である。 欧米では、カナダで研究炉の性能向上を図るとともに、Mo製造等を目的とするMAPLE-I&IIが運転を開始し、ドイツで中性子ビーム利用とアイソトープ製造のためのFRM-IIの建設が進められている。ロシアでは、PIK炉が建設中である。また、フランスでは、2006年以降の先進燃料・材料開発に向けた照射場の確保のため、RJH炉の建設計画が進められている。 一方、アジアでは、中性子ビーム利用を中心とする研究炉HANAROが近年韓国で運転を開始した。また、中国では、高温ガス炉HTR-10が建設中である。さらに、オーストラリアの研究炉は出力増加のための改造を計画中で、タイには新しい研究炉の建設計画がある。3.研究用原子炉による研究開発
3.1照射とホット試験施設、動力炉開発のための研究
原子力エネルギー利用にとって、研究炉の中性子照射場は、原子炉燃料や材料の開発に必要不可欠である。特に、発電用原子炉の高経年化や燃料の高燃焼度化に関する安全性研究や、将来型原子炉の燃料や材料の開発では、照射データや新しい燃料や材料の物性値等の基礎データ取得が求められている。
軽水炉安全性研究では、高経年化にともなう材料の健全性の課題として、照射誘起応力腐食割れ(IASCC)現象の解明に関心が集まっている。既に、原研では、JMTRやJRR-3を利用する研究が開始するとともに、通産省のPLM(Plant Life Management)計画の一環として、照射および照射後試験が検討されている。また、高燃料度燃料については、出力急昇試験がJMTRで、反応度実験がNSRRで実施されている。将来型原子炉の燃料の開発では、プルトニウム利用の高度化を図る岩石型燃料の照射および照射後試験が行われる。
照射および照射試験後試験のためには、高放射性物質である燃料・材料を安全に取り扱い、それらの物理、化学、機械的特性データを取得するホット試験施設が必要不可欠である。原研のホット試験施設には、αγ及びβγのコンクリートセル等があり、ミリサイズの試料から実規模燃料体、さらにはTRU、溶融燃料等の試験が可能な施設が整っている。具体的には、汎用のX線透過検査、外観検査、寸法検査等の非破壊試験に加えて、各種物性測定、材料強度試験、金相観察、ミクロ観察、元素分析等の破壊試験に必要とされる高度な装置が開発され、これまでに、燃料集合体、高燃焼度燃料、MOX燃料等の照射後試験を行い、軽水炉の安全性、高度化等に貢献してきた。さらに、先進的照射後試験開発として、微少試験片試験、複合環境中の強度試験、ナノレベル観察、熱物性等の微少微量分析等の技術開発を進めている。3.2中性子ビームの理工学における利用
中性子ビーム利用では、中性子の持つ散乱、透過、核反応の性質を利用して、物性研究、生物研究等が行われている。中性子散乱実験は、高い中性子束の中性子ビームを実験試料に照射し、その回折像から物質の構造解析等を行うものである。現在は、熱中性子による構造解析の他、中性子のエネルギーの低い冷中性子を利用して、高分子化合物や生命体の構造解析等が行われている。
透過の性質を利用した中性子ラジオグラフィは、軽元素を含む物質の撮像に優れており、X線ラジオグラフィが重元素を含む物質の撮像に優れているとの相補的関係にある。
中性子の核反応を性質利用して、即発ガンマ線分析、放射化分析等が行われている。放射化分析は研究炉利用の初期より行われているが、分析値の正確さにおいて、他の様々の元素分析法より優れている。これは、化学処理を伴う分析に比して、中性子の透過力が強く均一な放射化ができること、ガンマ線を検出するので試料の自己遮蔽が小さいことによる。3.3産業と医療利用
ラジオアイソトープは、医療、産業、農林水産業で広く利用されているが、その多くが研究炉で作られている。代表的なものにはテクネチウムー99m(医療用)、イリジウム-192(医療:非破壊検査、厚み計)、トリチウム(標識化合物)、炭素-14(標識化合物)などがある。日本ではJRR-3を用いて、非破壊検査用やガン診断や治療用のラジオアイソトープの製造技術開発が行われている。
シリコンに中性子を照射して半導体を製造する中性子ドーピング法は、パワー半導体製造に欠かせず、主に原研のJRR-3を用いてこれが行われ、国内に供給されている。
ホウ素中性子補促療法は、腫瘍細胞に選択的にホウ素化合物をとり込ませた後、低エネルギー中性子を照射し、ホウ素の核反応で発生する短飛程のアルファ線で腫瘍細胞を選択的に破壊する治療法である。日本はこの分野で世界をリードする立場にあり、武蔵工大、京大炉等で治療が行われ、最近ではJRR-4を利用した治療も開始されている。3.4人材育成と教育
研究用原子炉は、研究開発に利用され成果を挙げているのみならず、原子力教育と人材育成においても重要な役割を果たしている。核分裂や臨界の概念を知り、原子炉の動作原理や安全性を理解することの重要性は、最近の東海村の臨界事故をきっかけに改めて強く認識された。研究用原子炉や臨界実験装置は、その教育に最も適した装置である。原子炉を使った実習では、机上の学習やシュミレーションでは得られない経験をすることができる。 学生の教育実習のみならず、研究者、技術者、作業員、行政専門職員等様々な原子力専門家の実習や、一般人に原子力や放射線についての正しい理解を深めるための教育にも研究用原子力炉の果たす役割は大きい。例えば、原子炉の運転に係る実習は、原子炉主任技術者の資格を得るにあたり不可欠であり、原研の研究炉はそのためにも活用され、多くの原子炉主任技術者の誕生に寄与してきた。また、ほとんど全ての研究炉が学部学生、大学院生の研究と教育に用いられ多くの成果を挙げてきている。4.将来展開と今後の課題
4.1将来展開
まず、原子力エネルギー利用に関しては、発電炉の高経年化や軽水炉燃料の超高燃焼度化に係る研究開発がある。特に、IASCC研究では、照射及び照射後試験施設を用いた試験が必要である。MOX燃料については、基礎的な物性データ、核的なデータを取得する必要があり、原研の研究炉、ホット試験施設及び臨界実験施設等の有効利用が望まれる。また、将来型原子炉の研究については、岩石型燃料等の照射研究が期待されている。
中性子ビームを利用した中性子散乱実験では、低温や高圧あるいは強磁場といった極限条件での物質研究、高分子や生物といったソフトマテリアルの研究、超伝導材料等の機能材料の構造評価等の研究等に関心が高い。また、放射化分析や中性子ラジオグラフィーは、宇宙・地球科学、環境科学などに係わる研究に幅広く利用されつつある。
照射研究では、照射下でのその場測定技術や実炉に対応した応力、水質、照射レベル等の複合環境制御技術を開発することにより、照射損傷機構の解明に向けてよりミクロなレベルでの研究への展開が図られつつある。例えば、軽水炉一次冷却材環境下での照射後試験技術の開発は、100GWd/tを目指した超高燃焼度燃料被覆管の開発、或いはIASCC発生機構の解明、その対策、耐IASCC材料の開発等が可能となる。さらに、微小領域の物性測定、分析等の技術開発は、軽水炉燃料ペレットの径方向領域での情報が得られ、安全裕度の確認、設計へのフィードバックが可能となる。一方、基礎研究に関しては、高分解能電子顕微鏡を用いた照射材の組織観察、解析による照射損傷機構の解明、さらに、ナノレベルの組織と強度特性の相関性の解明が期待される。
以上は、主に原研の研究炉の将来展開であるが、大学の研究炉もそれぞれの特徴を生かした研究の展開が期待されている。京大炉は臨界集合体や附属施設とともに、全国共同利用機関という特徴を生かして、超冷中性子物理等の中性子科学研究、新材料、短寿命RI等と関連する物質科学研究、生物影響・中性子医療等の生命科学の研究や臨界集合体を用いた次世代原子力システムの基礎研究を発展させることが期待されている。東大炉はガンマ線の少ない純粋な高速中性子ビームが得られ、かつ炉心への近接性が良いという特徴を生かして、高度な先進計測照射技術を用いて高速中性子の関係する工学・科学的課題を詳細に研究することで学問の発展に寄与することが期待されている。近畿大学炉は極低出力で炉心燃料への接近も可能であるという特徴を生かして、炉物理研究の他に放射線の生物影響の基礎研究や、一般人や教員の教育などをさらに発展させることが期待される。武蔵工大炉はその輝かしい医療用照射の実績を基に、新たな展開に向けて運転を再開することが期待される。放射化分析等は大出力の研究炉より小回りが効く研究炉の方が適している。立教炉は永年にわたり、研究教育に貢献し、地元とも強い信頼関係にあることも特筆できる。日本の原子力利用にとって歴史的遺産としての意義もあろう。大学の研究炉が一生を終えるモデルケースとして、使用済燃料の処理やその後の管理について適切な対策を用意する必要がある。東芝炉は原子炉メーカが所有する研究炉として、産業応用に関連した様々な課題の試験と開発に用いられることが期待される。4.2今後の課題
4.2.1連携の強化
研究用原子炉は、その多くが共同利用施設として広く利用に供されている。今後はさらに研究機関と産業界と大学の間の相互の積極的な協力体制を構築することが望まれる。研究炉相互の連携を強めて、総合的に利用を推進し、支援をする機関として、研究炉機構の構想も検討されている。4.2.2使用済燃料管理と再処理・処分
研究用原子炉の使用済燃料は、米国供給のウランを用いた燃料について、米国DOEが引取り・保管を1997年から再開したことにより、各原子炉の施設内に保管されていた使用済燃料が搬出されることとなり、保管燃料体数が大幅に減少することとなった。しかし、その対象は2006年5月までに原子炉から取り出された燃料が対象となっており、取引き期限は2009年5月までである。その後については、使用済燃料の処理についての見通しが立っていない。現在の研究炉の設置許可申請書では燃料の再処理を前提としているため、再処理を前提とした米国への搬出が不可能になれば、国内措置を検討する必要がある。この場合、再処理に加えて、直接処分についても選択肢の一つとして検討することが望ましい。4.2.3施設の安全運転と技術の継承
研究用原子炉には、運転開始から既に長期間を経ているものが多く、これらについては、安全確保に万全を期すため、適切な高経年化対策を実施するとともに、施設・設備・機器の高経年化・陳腐化等への対策と熟練技術者の高年齢化に配慮した技術の継承が急務である。
なお、既に米国の引取り対象外となっている使用済燃料も存在する。さらに、研究炉特有の問題ではないが、廃棄物の処分対策も必要である。使用済燃料や廃棄物について包括的な対策を用意することは原子力に対する国民の信頼確保の点で重要である。廃棄物を完全に払い出すまで、研究炉の廃炉は終了しない。研究開発に伴う廃棄物処分の実施に向けた準備や体制の整備も望まれる。5.おわりに
研究用原子炉は、動力炉開発の材料の試験や研究、理工学のためにビーム利用や分析、産業や医療における利用と人材育成等に大きい役割を果たしている。
日本が原子力国産化時代を終えた現在、ニーズの高度化に対応し、先端的な研究で世界をリードすることが求められており、研究炉もそれぞれの特徴をより生かす方向でその性能を向上維持し、適切な更新も含めて対策がとられる必要がある。動力炉用の材料照射研究については、研究炉とともにホット(照射後)試験施設の高度化と整備も重要である。高経年化した原子炉も多いので、後継者の育成を念頭に入れて、効率的な運転維持管理対策を用意する必要がある。
共同利用施設として研究炉をみると、研究機関、大学、民間による相互の連携を強化する必要がある。
研究炉の使用済燃料の米国への返還の期限は2009年までであり、再処理技術や代替技術の開発が重要である。研究炉特有の問題ではないが、廃棄物の処分対策についても準備を進める必要がある。
なお、中性子利用における研究用原子炉と加速器中性子源の関係は相補的である。即ち、原子炉は動力炉と同じ中性子スペクトルであるのみならず、連続ビームで大きい体積の照射が可能で相乗りで実験することも容易である。加速器中性子源はパルスビームで指向性が良く、異なる性質のビームを発生でき、パルス特性を生かした利用に適している。




























