平成11年11月29日

第四分科会委員
各 位

第2回会合配布資料
「中性子科学分野における研究開発の意義・将来展望」(改訂版)について

日本原子力研究所
齋藤 伸三

 平成11年10月21日に開催された、第四分科会(第2回)において、「中性子科学分野における研究開発の意義・将来展望」というテーマで、プレゼンテーションを行いました。その際、プレゼンテーションのレジメ(資料第4号)を提出していましたが、プレゼンテーション内容を必ずしも十分に説明しているものではありませんでした。プレゼンテーション内容について、皆様により良く理解して頂くために、改めて説明資料を作成しましたので、提出します。ご査収の上、本分科会の議論の参考にして頂ければ幸いです。

 なお、前回の分科会以降、原子力委員会(原子力バックエンド専門部会)において、これまで使用されていた「核種分離・消滅処理」という用語を、今後、「分離変換技術」とすることが決定されました。前回、プレゼンテーションに用いた6枚組の資料(資料第4号)には、「消滅処理」という用語を表記した箇所がありましたので、今回、これを新しい用語に変更しました。

 宜しくお取り計らいのほど、お願い申し上げます。

 


第四分科会第2回
説明用資料(改)

「中性子科学分野における研究開発の意義・将来展望」

日本原子力研究所
齋藤 伸三

1.はじめに

1)背 景
 1932年、Chadwick博士により中性子が発見されてすぐに、中性子は結晶で回折現象を示すことが示唆された。直ちにRa-Be中性子源でそれが実証され、中性子はX線と同様に物質構造研究の探索子に成り得ることが判明した。1942年、シカゴ大学に世界初の原子炉が建設されて、本格的な中性子回折散乱実験が進むにつれ、既に、実験・理論ともに基礎的事項の確立していたX線との相違点が明確になってきた。つまり、物質構造探索子としての中性子とX線は文字通り相補的であり、中性子はX線では観測が極めて困難な、場合によっては観測不可能な構造を明瞭に見ることができる。しかも、それらの構造決定の重要性は21世紀の科学の進展を大きく左右するものであり、中性子は正にかけがえのない放射線である。
 中性子回折散乱実験による物質構造研究の先駆的仕事を評価し、1994年にBrockhouse博士とShull博士にノーベル物理学賞が授与されたことは、21世紀に向けて中性子の意義を示唆するものと受け取れる。その一人であるBrockhouse博士のノーベル賞受賞講演の言、”If it did not exist, the NEUTRON would need to be invented.”(中性子は、仮に存在しなかったとしても、必要に迫られ創りだされていたろう。)は、中性子の特徴を深く認識する先駆者ならではの名言である。
中性子はその発見以来、原子核との反応を容易に誘起する特性を活かして、原子核構造の探求を始めとする20世紀の本格的な原子核物理研究の発展に不可欠な粒子であった。今日、核分裂反応に基づく原子力が社会の中枢エネルギー源として位置づけられるようになったのは、中性子核反応の物理の成熟によるものである。

2)中性子の特徴、X線との相補性(別添資料、1/6、2/6ページ参照)
 中性子は、スピン、磁気モーメント及び水素原子とほぼ同じ質量を持ち、電荷は持たない粒子である。これらの性質を有効に活用することにより、X線との相補性を活かした特徴ある物質構造研究が可能となる。例えば、タンパク質、DNAについては、水素原子を除く骨格構造はX線で、そして水素原子位置は中性子により決定されて、完全な構造が求まる。重い原子と軽い原子が混在する物質系では、例えば高温超伝導体の骨格構造はX線で、そして酸素原子位置は中性子で決定されるため、中性子は高温超伝導解明に大きく寄与できた。
 X線で骨格構造が決められた後の、磁性体の磁気構造解析、物質中の任意の原子間の相関運動の観察は中性子の独壇場である。中性子が電荷を持たないが故に、物質中でX線以上に高い透過力を示す性質は、強力X線源が出現しても困難な大型構造体中の残留応力の解析、構造欠陥の観察、古代文化財の非破壊透視観察等に応用されている。同様に、中性子は特定の原子核と反応し、核反応により新しい元素を創造することができる現代の錬金術師である。ラジオアイソトープ製造は中性子のこの性質を利用したものであり、即発ガンマ線分析、放射化分析、核変換技術など、その応用範囲は広い。

3)次世代中性子源(別添資料、6/6ページ参照)
 強力なX線の開発が進み、その利用者数が増え続けるのに伴って、中性子はX線と相補的であるが故に中性子の利用者も増え、強力な中性子源の実現に対する期待がますます増え続けている。
 中性子源としては原子炉を利用するのが従来の一般的な形態であった。中性子源の強度は原子炉の出現で、別添の図に示すように急激に増加した。1950年代、1960年代以来、研究用原子炉は次々と建設されてきたが、現時点で中性子強度は横這い状態に入りつつあり、世界最高強度の中性子源であるラウエ・ランジュバン研究所(フランス)の原子炉を最後に、これ以上の強度の中性子を出力する研究用原子炉は技術的限界のため建設されていない。
 一方、1970年代から加速器駆動の中性子源建設が始まり、これから得られる中性子強度は技術開発の進展と共に指数関数的に増加し続け、既に、ラザフォード・アップルトン研究所(イギリス)の加速器駆動核破砕中性子源(160 kW)は世界最高強度ラウエ・ランジュバン研究所の世界最高強度の中性子源に匹敵する性能を持つまでに至っている。しかも、加速器駆動核破砕中性子源は大強度陽子加速器や核破砕ターゲットの技術開発により、更にこれを凌ぐ強度の中性子源の実現が期待できるものであり、次世代中性子源としては加速器駆動核破砕中性子源が唯一の選択肢である。世界的には、既存のものよりも一桁強度の高いMW級の加速器駆動核破砕中性子源を2006 ?2008 年に稼働させることを目指して、欧州ではヨーロッパ核破砕中性子源計画(ESS)、米国では核破砕中性子源計画(SNS)が提案されている。日本でも日本原子力研究所と高エネルギー加速器研究機構による大強度陽子加速器施設計画(統合計画)における主要施設として、MW級の加速器駆動核破砕中性子源を同時期に建設することが提案されている。
 OECDメガサイエンスフォーラムの中性子源作業部会も提言しているように、次世代中性子源の建設は、最近懸念されているneutron gap *(中性子ギャップ、その意味は脚注参照のこと)を解消することになる。


* 現在の研究用原子炉の大部分は1950年代、1960年代に建設されたもので、このまま新しい研究用原子炉や加速器駆動核破砕中性子源が建設されないと、現在の研究用原子炉の耐久年数を考えると西暦2010?2020年の間に中性子源の能力は現在の1/3以下になり、自然科学の中で中性子科学の需要と供給のバランスが大きく崩れるのではないかとの恐れ。

2.21世紀の科学と中性子利用

1)生命科学(別添資料、3/6ページ参照)
 生命科学は21世紀の最も重要な科学の一つと云われる。生体内ではさまざまな物質が機能し、生命活動を維持している。さまざまな生体内物質の中でも、タンパク質は、最も重要な物質の一つである。タンパク質の種類は非常に多く、ヒトゲノムに含まれているタンパク質の種類は10万種に及ぶと言われている。しかも、種類が多いだけでなく、一つ一つが複雑に折り畳まれて多様な3次元立体構造を形成しているため、それを起源に発生する機能もまた多種多様である。このように多種多様なタンパク質各々が、巧妙にデザインされたメカニズムに従って作用し、機能を果たしている。これが生命である。
 DNAの二重螺旋構造を決定したWatson博士と Click博士の成果の大きな意義は、その構造を通して遺伝学の原理を提示したことにある。これが「構造生物学」の原点であり、得られた構造に基づいて、その機能を理解、説明できないと全く意味がない。Protein Data Bank (プロテイン・データバンク、PDB)に登録された生体物質立体構造の数は、毎年ウナギ登りに増えて、5,000近くに達している。これらのほとんどがX線解析により決められたものである。今や、タンパク質骨格構造は特許の対象になり、知的情報の独占が可能になる時代である。
 DNAのゲノム情報はタンパク質の一次構造を与えるので、ゲノム情報だけからタンパク質の三次元骨格構造をコンピュータシミュレーションで解き、タンパク質の機能を解明する「構造ゲノム科学」が、ヒトゲノムの完全解明を目前にして、「構造生物学」に替わるものとして注目されるようになってきた。タンパク質の三次元骨格構造を原子レベルで見ると、タンパク質やDNAの骨格、アミノ酸残基及び塩基に結合している水素原子及びそれらに配位する水の水素原子が直接あるいは間接的に殆どの機能発現に関与していることが知られている。また、生体物質の機能と分子のダイナミックスは直接対応づけられるものと考えられるようになってきており、その証拠も幾つか挙がっている。
 しかし現実は、タンパク質の水素や水和構造及び分子のダイナミックスがX線では決められていないため、構造ゲノム科学は行き詰まっている。これを補ってくれると期待されるのが中性子構造生物学である。中性子は、骨格構造の段階で足踏みしていた構造生物学分野に、水素、水和構造やダイナミックな運動情報を提供できるので、21世紀の生命科学のフロンティアである構造ゲノム科学を推進する有力な実験手法を与える。
 世界最高強度の中性子源であるラウエ・ランジュバン研究所の原子炉やラザフォード研究所のパルス中性子源を用いて、上記した観測を実施しようとすると、1 mm角のタンパク質単結晶や数十グラムのタンパク質が必要となるが、この条件を満足するように供給できるタンパク質の種類には限りがある。微量しか供給できないタンパク質に対しては、観測に多くの時間を要するので、必要全種類のタンパク質の構造を解析することに膨大な時間を費やすことになって、実際上は構造ゲノム科学研究の推進には貢献できない。今より100倍の中性子源強度が実現されるなら、現在の1/100の量の試料で実験できることになる。この場合、実験に供されるタンパク質の種類の制限はなくなり、文字通り中性子は構造ゲノム科学を推進する有力な道具となる。
 構造ゲノム科学の発展は、抗生物質、坑ガン剤などのドラッグデザイン、畜産繁殖障害の解明、安全な遺伝子組替食品の開発とそれの生体への影響解明、アルツハイマー病の解明、環境ホルモンの生体反応に及ぼす影響解明など、波及効果の及ぶ範囲は非常に広い。

2)物質科学(別添資料、4/6ページ参照)
 20 世紀の物質科学は、固体物理学によって物質中の格子、電荷、磁気モーメント、電子軌道モーメントについて、それぞれの原子スケール配列と働きが研究されて、半導体、超伝導体などの物性解明とその応用に大きな成果をもたらした。21世紀の物質科学では、物質中の格子、電荷、磁気モーメント、電子軌道モーメントなどが複雑に絡み合う強相関電子系物質が極限環境の下で示す構造と機能の研究や、高分子、コロイド、液晶、ゲル、ガラスなどが持つ分子スケールでの構造と機能の研究が主流となる。これらの研究が、固体物理学分野のみならず、化学、工学分野やそれらの学際領域において、革新的な特性を示す物質・材料・デバイスの開発をもたらし、豊かで、安全な物質生活を創造する礎となろう。
 21世紀の研究においては、物質の磁性を理解し応用することが最も重要視されるため、磁気感受性を持つ中性子を利用することが不可欠である。しかも、偏極中性子を利用すれば、中性子磁気散乱のみを観測することができる。強相関電子系物質である酸化物超伝導体やウラン化合物超伝導体は、これまでの金属超伝導体では電子が格子振動を媒介にして等方的ぺアーを組むのに対して、磁性が媒介して異方的ぺアーを作っていることが知られるようになった。したがって、この物質の磁気モーメントの配列や相関運動、超伝導エネルギーギャップの大きさとその分布などを中性子で測定することが、新しい超伝導発現メカニズムを解明し、夢の室温超伝導体の実現に近づくために最も重要である。さらに、超伝導性や磁性などの特異な物性は、温度、磁場、圧力等の物理環境に依存するため、極端な環境条件を付加すると、全く新しい機能が出現する可能性が高い。
 極限環境条件としては10 mKの温度、20 Tの磁場、数十GPaの圧力ということが当面の目標とされている。このような条件は大きな装置の中の微小な領域 (縦、横、高さが各々 0.1 mm 程度の空間)で実現できるが、その周りは金属やセラミックスで覆われているので、透過性の高い中性子を使って試料に到達する必要がある。この際、極端装置における中性子ビーム経路をうまく確保し、大強度パルス中性子飛行時間法を利用すれば、極端機器を静止させたままで必要なデータを取れる。
 この他にも、光触媒物質、吸着物質、磁気記録薄膜、電池物質などの新機能性物質の構造と機能の研究は、新しい材料や電子デバイスの開発に直結するものとして組織だった推進が急がれている。
 さらに、高分子、コロイド、液晶、ゲル、ガラスなどの分子スケールで複雑な構造を持つ物質の特性は、単純に個々の原子や分子の動きからだけでは理解できず、従来とは違った意味での集団運動が重要な役割を担っているのではないかと考えられている。そこで、関連する分子スケールでの構造、自己組織化による新しい機能の発現、協同現象などの解明のために、集団を記述する大胆な物理的解釈を試みる必要がある。そのため、重水素化ラベル法を使った中性子小角散乱による分子配列構造の研究や、中性子非弾性散乱による高分子系のゆらぎや緩慢運動の研究が決定的な働きをするものと期待されている。

3)工業利用(別添資料、4/6ページ参照)
 20世紀の科学技術は人類の生活を著しく向上させたが、1970年代に発生した公害問題を契機に環境問題に取り組む必要性が指摘された。とりわけ最近では、21世紀の地球規模での環境問題が最重要と考えられている。太陽光発電と蓄電システム、燃料電池などのクリーン技術を支える材料では、水素やリチウムなどの軽元素がその機能の主役を果たしている。中性子は重元素中の軽元素を識別する特異な探索子であり、これらの材料開発における構造と機能の解明に欠かせない。また、極く微量の有害不純物を分析するためには、中性子誘起即発ガンマ線分析や中性子共鳴吸収による選択的分析が注目されている。
 次に重要と考えられるのは、製品の品質や安全性を高めることであろう。その意味で、原子炉圧力容器、ジェットタービンエンジン、鉄道レール、建築構造材料などの工業製品の残留内部応力を非破壊的に測定することは、これらの品質の向上と健全性や余寿命の診断のために不可欠である。最近、中性子散乱法により、材料内部の局所的な結晶格子の変化を測定して、残留内部応力を三次元的に求めることが可能となってきた。これは、物質透過性が強い中性子でのみ可能な測定である。21世紀の大強度中性子源によって、測定分解能を0.2 x 0.2 x 0.2 mm3程度にまで限定することが出来るなら、材料中に発生する応力集中や亀裂発生の前兆現象を見つけることが可能となる。
 さらに、中性子ラジオグラフィーによる金属内の熱流動体の非破壊的可視化と計測は工業界における空調機、各種エンジン、コンプレッサー・ポンプなどの流体機器の設計、製作に大きな貢献をするものと期待される。

4)加速器駆動核変換システム(別添資料、5/6ページ参照)
 原子力発電所から発生する使用済み燃料の中の長寿命放射性廃棄物の管理期間を大幅に低減する長寿命核種の分離・変換技術システムの有力な選択肢を与える技術として、加速器駆動核変換システム (ADS) が提案されている。システム概念の検討によると、核変換をすれば、しない場合に比べて、放射能毒性を 500年後に約 1/200 に低減できることが示されている。
 一般に、生産者の責任で廃棄物処分の努力をするのが時代の趨勢である今日、発電炉の使用済み燃料に含まれる長寿命核種(プルトニウム、アメリシウムや核分裂生成物)を群分離で減容化した後、安定あるいは寿命の短い核種に変換するシステムは、原子力システムとしての自己完結性を与え、その結果として、原子力の社会に対する負荷の緩和、社会的受容性の大幅な向上をもたらすものとして大きな社会的意義がある。
 ADSは大強度陽子加速器と高出力核破砕中性子源を駆動源とする未臨界炉ハイブリッドシステムとして特徴づけられる。未臨界炉は既存の原子力システムと比較して安全裕度の高いこと、核破砕ターゲットは原子炉と比べて効率的な中性子発生源であること、さらに、既存の燃料サイクルに影響を与えない専焼炉サイクルによる導入のし易さが、ADSの特徴として挙げられる。
 諸外国においても、フランス、イタリア、スペイン共同のADS計画、米国のATW計画など、活発な活動が展開されている。このように、概念として魅力的なADSであるが、システム実現に至るまでには、幾つかの基本的な技術開発課題が存在する。特に、加速器と未臨界炉の融合によって新たに生ずる技術課題は多く、精力的な開発研究が不可欠である。実際のシステムを創るための必須な技術として、大電流加速器技術(駆動源)、大出力ターゲット技術(中性子源)、高照射場に耐える窓、構造材料、核破砕中性子源駆動未臨界炉心、燃料、ハイブリッドシステム設計、放射線安全システム等、多岐にわたる。
 工学的成立性実証に至るまでには、これまでの延長線上に無い新たな技術基盤の確立、必要なデータの系統的な蓄積、経験の深化と共に、総合的なシステムの妥当性検証が重要である。システムの実現に向けた開発段階は、(1)概念検討選択肢の技術的評価、(2)実験よる技術開発、(3)システム実証、(4)実用プラントの四段階で構成される。統合計画では(1)と(2)を実施する。その間に、超伝導陽子線型加速器技術や大出力ターゲット技術を含めた先端技術開発を行うことが重要である。

3.開発の必要性

1)大強度陽子加速器技術(別添資料、6/6ページ参照)
 中性子科学の新たな展開を目指す大強度核破砕中性子源の実現には、1 GeVのビームエネルギー領域に陽子を加速する大強度陽子加速器の建設が不可欠である。加速器・ビーム技術は過去十数年間に、加速器物理・加速器工学の進展、精密工作技術・パワーエレクトロニクス技術の発達などに伴い、急速な進歩を遂げた。また、素粒子物理学などの研究を目的とした、ひたすら高いエネルギーを得るための開発から、パワー・フロンティアともいうべき加速ビーム電流の増強に開発の重点が移ってきた。
 ビーム出力が数 MW 級の大強度陽子加速器の建設については原理的な困難はなく、大電流ビームの安定で精密な制御、機器の効率の良い冷却などの工学的な課題が残されているというのが一般的な認識である。また、近年、目覚ましい発展を遂げている、マイクロエレクトロニクス、磁性材料などの新素材、超伝導、超高真空などに関わる新たな技術を取り入れることにより、信頼性、稼働率、経済性を向上させることが開発の重点項目となってきた。
 中性子科学に用いる大強度陽子加速器は、直線的に加速する線形加速器(リニアック)、シンクロトロンなどの円形加速器により構成され、共に高周波電力により発生する電磁力でビームを加速する。これまでに、素粒子・原子核物理等の基礎研究分野で利用されている高周波加速器は、その稼働率は年間90%以上に達する安定性を確保しているものの、ビーム出力については最大でも1 MW程度である。一方、次世代の中性子散乱研究等の基礎研究では数MW級のパルス状ビームを、将来の実用規模の加速器駆動核変換システムでは最大10 MWの連続ビームの出力を達成する必要があり、上記の稼働率を確保しつつ強度を向上させる開発が必要となる。
 数MW級のビームを加速するための加速器技術開発では、今後、大電流ビームの軌道を正確に制御するためのビームダイナミックス計算手法の一層の高度化を図ると共に、これまで、原子力分野で蓄積されてきた技術を有効に生かす必要がある。特に、高エネルギー粒子により発生する中性子線やガンマ線の遮蔽、計測、放射化などの評価・低減化を目指す放射線工学、大出力化に伴う機器の効率的な冷却などのための構造設計・除熱工学、機器の耐久性を向上させる耐放射線材料工学等の分野が重要となる。さらに、核融合開発分野で進められている、大強度イオン源、高周波マイクロ波、超伝導、超高真空などに関わる技術が関連する。また、加速器の建設・運転・保守に関わるシステム工学、機器の高稼働率、長寿命化など信頼性を向上するための様々な技術分野の一層の発展を図る必要がある。

2)ターゲット技術(別添資料、6/6ページ参照)
 世界に既存の大強度陽子加速器施設は数百kW級までであり、ターゲットにはタンタルなどの固体重金属を用いた水冷却方式を採用し、冷却技術、製作技術等がほぼ確立している。しかし、今後計画されているMW級の大出力ターゲットでは、一桁以上高い大強度中性子に加えて超高密度の熱が発生するなど、その開発研究はこれまで未知の技術領域であり、極めて挑戦的である。
 MW級のターゲット、特に中性子科学研究の核破砕ターゲットについては、日本をはじめとして、米、欧で技術的ハードルを乗り越えるべく検討・開発が鋭意進められ、ターゲット材に液体金属である水銀を用いる新しい概念が提案されつつある。しかし、超高密度の熱の発生や熱衝撃等による過大な応力波の発生などに対して、技術的に成立可能なターゲット構造を構築するには、熱流動及び構造工学、放射線損傷に対応する材料工学などの分野で、更なる高度化が不可欠である。また、ターゲットから大強度中性子ビームを取り出して、生命科学研究、物質科学研究などのために効率的に供給する観点からは、ターゲットに付随する減速材、反射体等の構造、構成等を最適化するニュートロニクス解析評価手法の一層の高度化に加えて、中性子ビームラインでの中性子損失を抑制するための高性能中性子導管等の開発が必要である。
 一方、加速器駆動核変換システム用のターゲットについては、世界的に鉛、鉛・ビスマス合金などをターゲット材に用いる方向で概念検討が進められている。しかし、容器との共存性、熱流動特性等については未解明であるため、概念構築に当たっては、材料、構造、熱流動、中性子工学など多方面にわたるデータベース及び設計評価手法の整備が急務である。
 このようなMW級の大出力ターゲットを大強度陽子加速器と組合せたシステムとして成立させるには、陽子ビームラインとの真空窓技術等を確立し、さらに、異常診断・制御システム、リモートハンドリングによる高放射線場での機器の保守点検手法の開発などが不可欠である。このためには、安全工学、制御知能工学を中心とした機器・システム開発を精力的に進めていく必要がある。

5.利用の推進

1)国内の関連組織
 中性子散乱研究では、関連施設として、京大原子炉及び日本原子力研究所(原研)の研究炉JRR3また高エネルギー加速器研究機構にある加速器パルス中性子源KENSがある。その他、照射などの多目的研究炉として、原研のJRR4、JMTR及び東大の弥生炉、近畿大原子炉がある。統合計画で目指す中性子科学研究のうち、特に構造生物学、物質科学では、放射光と比べて中性子の相補的な特徴を最大限に生かすために、SPring-8などの放射光施設との研究における有機的な連携が重要である。

2)研究拠点と利用の拡大
 統合計画施設では、JRR3やKENSに比べて百倍から千倍も強力な中性子ビームを利用することができる。したがって、この施設ではより強度を要求される構造生物学などの分野への応用等、チャレンジングな中性子科学研究の拠点としての役割が期待される。大学・研究機関等から、学生を含めた幅広い滞在研究者を受け入れると同時に、教育・啓蒙活動のために研修あるいはセミナーを開催し、中性子の利用技術の普及を図ることにより、幅広い研究者への利用を促進する。

3)産業利用の促進
 強力な中性子ビームはラジオグラフィや内部応力試験等の産業利用への利用拡大を可能にし、統合計画施設は国内の拠点施設として、産業界にも利用の門戸を広げる。そのため、企業権益と公益性とのバランスに配慮した運営システムを構築する。

4)国際協力
 OECDメガサイエンスフォーラムの中性子源作業部会で勧告された欧州、北米、アジア・オセアニアの三極に設置すべき次世代中性子源の一つとして、国際的役割も期待されている。このために、国内はもとより国際的にも開かれた、国際共同利用センターとして運営されることを目指す。また、加速器駆動核変換技術に関しては、既に、欧、米、露で開発計画があり、積極的な取り組みが行われている。効率的な技術開発には、このような諸外国の計画との重複を避け、可能な限り協力して進めることが重要である。


別 添
研究用中性子源の発展時系列図