原子力委員会長期計画策定会議第三分科会報告書
高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術
の研究開発の在り方と将来展開
-技術的選択肢の確保を目指して-
平成12年5月31日
長期計画策定会議第三分科会
目次 2.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の在り方
2.1 原子力開発の将来の方向性と高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の位置付け
2.2 高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の進め方3.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の将来展開
3.1 基本的取り組み
(1)安全確保への不断の取り組み
(2)国内外の理解を得るための透明性の向上
(3)社会的要請への柔軟な対応
(4)実用化を目指した経済性の追求
(5)国際的要請への積極的取り組み3.2 研究開発体制
(1)役割分担
(2)技術情報・知識データベースの整備・確立
(3)人材の確保3.3 具体的展開
(1)「実用化戦略調査研究」
(2)基礎基盤技術の研究開発
(3)長寿命放射性物質の分離変換技術の研究開発
(4)国際協力の具体的展開
(5)「もんじゅ」を活用した研究開発
(6)その他の研究開発施設を活用した研究開発
はじめに 原子力委員会は、1994年に「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(長期計画)を策定して以来約5年の間に、原子力を巡る国内外の情勢が変化している状況に鑑み、21世紀社会に向けた新たな長期計画を策定するため、1999年5月に長期計画策定会議を設置しました。
本分科会は、この長期計画策定会議の審議事項のうち、高速増殖炉とこれに関連する核燃料サイクル技術の在り方、方向性及び今後の課題について審議することを目的として、1999年7月に長期計画策定会議の下に設置されました。
本分科会は、1999年9月から2000年5月までの間合計10回開催され、そのうち1回を、核燃料サイクル開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」が立地する敦賀市で開き、また併せて同炉の視察を行いました。本分科会の議事概要や配付資料は原子力委員会のホームページ
(http://sta-atm.jst.go.jp/jicst/NC/nc-contents.html)
上に公開されています。本報告書は、2000年5月31日に長期計画策定会議に報告され、同会議において、同報告書及び他の分科会から提出される報告書の内容を踏まえ、全体としての長期計画が策定されることとなります。
高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術(FBRサイクル技術)は、我が国において、現在の軽水炉及び同炉を基本とする核燃料サイクル技術の次を担うものとして、計画的に研究開発が進められてきており、実験炉「常陽」による増殖性能の確認や同炉からの使用済燃料の再処理によるプルトニウムの回収に続いて、原型炉「もんじゅ」による試験的発電が行われるなどその成果を収めてきました。
海外においても、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、ロシアなどでは、実験炉や原型炉の長年にわたる建設や運転による経験を通じ一定の成果をあげています。特に、フランスにおいては、原型炉「フェニックス」及び実証炉「スーパーフェニックス」により増殖技術及び発電技術が実証されるなど世界を先導して多くの成果をあげてきました。
しかしながら、昨今、原子力開発利用とそれを取り巻く環境は、国内的にも国際的にも厳しいものとなっています。まず、世界的には、原子力発電事業の低迷が続く中で、市場の自由化による国際競争の激化を通じエネルギー産業の大改革が進められる時代を迎え、原子力発電の将来は不透明になっています。その背景には、先進国に共通して見られるエネルギー需要増の減速化傾向やガスタービン発電など原子力以外のエネルギーの経済競争力が技術革新などにより相対的に高まってきている事情がありますが、高レベル放射性廃棄物の最終処分の実施が具体化されるに至っていないなど核燃料サイクルの下流部門の不透明感も関連しています。また、FBRサイクル技術の研究開発においても、フランスの実証炉「スーパーフェニックス」の閉鎖が決定されるなど、状況が大きく変化しています。
日本でも、原子力開発利用は様々な課題を抱えています。前回の長期計画策定の後で起きた一連の事故や事件により、原子力政策及び原子力事業に対する国民の信頼は著しく損なわれ、原子力発電をこれ以上拡大することに懸念を感じる人が増えてきています。
FBRサイクル技術の研究開発においても、原型炉「もんじゅ」は、1995年12月に試運転の途中でナトリウム漏えい事故を起こしたことにより運転が停止されたまま、運転再開へ向けての行政手続きはいまだ進められていません。実証炉の建設計画については、前回の長期計画において2000年代初頭に着工することを目標に計画を進めるとされていましたが、事故後の高速増殖炉懇談会報告により、「もんじゅ」及び民間の研究成果等を十分に評価した上でその決定が行われるべきと見直されました。また、JCO臨界事故は、実験炉「常陽」用のウラン濃縮度の高い特別の核燃料を製造する過程において起きた事故でした。
一方、地球社会全体を眺めてみますと、なお多くの難問が山積しています。そして、その難問のいくつかはエネルギーと大いに関連があります。地球環境の悪化は、途上国における経済的成長の権利を保証しつつエネルギー需給を世界的にいかに制御すべきかという難題を提起しています。すなわち、先進国においては一層の省エネルギーの努力が求められているものの、途上国における人口増加と経済成長を考慮しますと、二酸化炭素を直接的に発生しないなど環境負荷の少ないエネルギー源の開発が望まれており、原子力はその有力な技術的選択肢の一つと考えられています。
しかしながら、その原子力については、原子力安全や放射性廃棄物問題に加えて、冷戦終結後もなお難渋する核軍縮問題と、冷戦の終焉によってかえって懸念が増大しつつあるように見受けられる核拡散問題があります。核軍縮問題や核拡散問題は、世界的に避けて通れない課題であり、当事国ばかりでなく国際的にその解決に取り組んでいかなければなりません。
第三分科会では、我が国の原子力開発利用が直面する課題とともに、21世紀の地球社会におけるグローバルな課題を解決していくことが重要との認識に基づき、我が国におけるFBRサイクル技術の研究開発の在り方と将来の展開について検討しました。検討に当たっては、まず、その開発の前提となるべき原子力開発の全体計画の将来の方向性について議論した上、その方向性の中での同技術の位置付けと開発の進め方、及びその将来展開に関する考察を行いました。
開発の位置付けと進め方に関しては第2章に、そして将来展開に関しては第3章にそれぞれ記述しました。
2.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の在り方
2.1 原子力開発の将来の方向性と高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の位置付け
まず、これからの原子力開発の将来の方向性、特にその中において重点的に考慮すべき事項について述べ、次いで高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術(FBRサイクル技術)の開発上の位置付けについて議論します。
原子力開発の将来の方向性として第一に重要な視点は、いうまでもなく安全最優先の更なる徹底です。JCO臨界事故の教訓として、原子力安全の根本は事業に携わる人と組織の問題であり、安全規制によるチェック機能の強化はもとより、より高い安全意識に基づく安全管理体制を確立し、安全教育の徹底を図るとともに、原子力の安全に対する社会的視点を特に重視すべきことがすべての関係者に求められています。事故調査報告書では、経済性を追求するあまり安全性がないがしろにされていたことが事故の遠因ではないかと指摘されていますが、原子力の場合、事故の発生による社会的影響の大きさを考えれば安全第一が長い目でみてむしろ経済的であることは明らかで、安全性と経済性を両立させるとの基本的考え方を従前にも増して貫いていく必要があります。
原子力を取り巻く環境が厳しくなっている一つの背景には続発する事故や事件による人々の不信感の増幅があります。その不信感を和らげていくためには、事故や事件の再発を防止し「安全」の実績を積み重ねていくことが何よりも重要です。もんじゅ事故は一連の事故や事件の中でも社会への影響が特に大きかったことを鑑みると、この安全最優先の考え方は、FBRサイクル技術の研究開発に当たっても最重視されるべき課題であることは言うまでもありません。
第二に重要な課題は、核燃料サイクルの下流部門、すなわち放射性廃棄物問題への対策です。とりわけ優先的に取り組むべき課題は高レベル放射性廃棄物に関する対策であり、同廃棄物の最終処分に向けて計画の着実な進展を図る上から、処分事業の実施主体の設立とともに、科学的研究を目的とする深地下の研究施設の建設が緊要な課題とされていますが、長期的観点からは、半減期の長い放射性物質を分離し変換することにより廃棄物中の放射能の寿命を出来るだけ短くする技術の開発も重要です。FBRサイクル技術は、この半減期の長い放射性物質の分離変換技術と大いに関連があり、環境負荷のより少ない原子力利用を目指す上で有効と考えられています。
第三に、原子力に関しても経済性の一層の追求が要請されています。電力市場の自由化及びそれに伴うコストダウンと国際競争力の強化はもはや時代の趨勢であり、他電源との競合性が今後ますます重視されるであろうことを認識しておく必要があります。この点は、軽水炉を基本とする現在の原子力利用体系においても考慮されなければならないことですが、FBRサイクル技術のような将来の技術的選択肢を開発していくに当たっても考えておかなければならない要件です。また、長期的かつグローバルな視点からは、途上国においても経済的に成立し易い原子力技術の開発が求められていることを念頭に置いておく必要があります。この点から、例えばアメリカでは、途上国における利用可能性をも考慮に入れた将来の原子力利用技術について研究が始められています。
第四のそして今後ますます重要になるであろうと思われる観点は、不透明感を増している将来への備えです。すなわち、将来の情勢の変化に備え、我が国にとって長期的に安定的なエネルギー源を技術的に確保していく必要があり、原子力はその点で有力な技術的選択肢と考えられます。そして、それは、我が国ばかりでなく世界のエネルギーの安定供給にも寄与するものと考えられます。例えば、二酸化炭素排出量の増加による地球温暖化現象の深刻化が長期的に憂慮されており、それに対処するには、省エネルギーを図るとともに自然エネルギーの利用を推進すべきですが、それだけでは十分でなく、非化石燃料源の重要な技術的選択肢の一つとして、原子力を今後とも開発して行くことが期待されています。
そのような将来の備えとしてのエネルギー源、すなわち長期的に安定的なエネルギー源としての原子力技術に求められる要件は、上記の安全性、放射性廃棄物対策及び経済性に加えて、環境負荷の一層の低減を目指した資源リサイクルすなわち省資源と、核不拡散への特段の配慮です。
省資源化のためには、いろいろな方策を講ずる必要がありますが、ウラン資源の有効利用を図る観点からは、使用済燃料中のプルトニウムを再利用することが最も有力な技術的手段と考えられています。プルトニウムを燃料として最も効率的に利用できる原子炉は高速中性子を利用する原子炉であり、したがって将来的に有力な選択肢としてFBRサイクル技術の開発が重要です。また、そのことは高速増殖炉懇談会の結論にも示されている通りです。問題は、その研究開発に著大な資金と長期の年月を要することで、諸外国が開発を断念した理由の一つもその点にあります。しかし、先進国の中でも特に際だったエネルギー資源小国であるだけでなく、石油についても一番の中東依存国であるという我が国の特殊性からすれば、日本のためばかりでなく世界も視野に入れたエネルギー問題の解決に向けて資源節約型エネルギー技術を開発することにより将来の技術的選択肢を確保していくことが重要です。FBRサイクル技術はそのような技術的選択肢の中でも潜在的可能性が最も大きいものの一つとして位置付けられます。したがって、日本独自の構想と判断の下に国が主体となって長期的観点からその研究開発に取り組むことが必要です。
一方、プルトニウム燃料の利用に当たっては核不拡散への留意が特段に重要になります。情報公開によって透明性を確保するとともに、将来的には、技術的に核拡散につながりにくい核燃料サイクルを開発することが重要です。そのためにはプルトニウム以外の有用物質であるマイナーアクチニドについても同じ超ウラン元素として一緒に燃料として利用することが、プルトニウムを分離することなく、かつそれを原子炉で燃焼し他の物質に変換できることから有効と考えられています。このことは資源リサイクルによる省資源のためばかりでなく、最終処分の対象となる放射性廃棄物中に残留する潜在的に危険性の高い超ウラン元素の量を少なくすることができる観点から、廃棄物問題の解決にも貢献し得ると考えられます。
プルトニウムを燃料として使用することに関連して、米露間の核軍縮を進める上で欠かせない核兵器の解体に伴って発生する余剰のプルトニウムの処理問題があります。同問題は、米露間ばかりでなくG8諸国を始めとする多国間協力が国際的に求められており、いくつかの構想が提案され具体的に検討されつつあります。その内の一つとして、ロシアで開発されてきたFBRサイクル関連技術を転用してロシアの余剰プルトニウムを処理するという日米露協力が日本政府の提案により進められています。このような国際協力は、米露を始めとする核兵器国の核軍縮を促す観点からきわめて重要であり、FBRサイクル技術の将来の潜在的役割として大きなものがあります。また、このことに関連して日本のような非核兵器国の積極的関与が核軍縮プロセスの透明性を向上させる上で有効であるとの認識が国際的に醸成されつつある点にも留意すべきです。
最後に、既に述べたように、長期的に安定的なエネルギーを提供する技術的手段としての原子力技術も経済合理性がなければ現実にはなかなか採用されません。したがって他の技術的選択肢との競合を念頭におきつつ実用化の目標を定め、その研究開発を進めていく必要があります。しかしながら、技術によってエネルギーの長期的安定確保を図ることと経済性の問題は、エネルギー源の間の単なる比較優位性にとどまらず、日本のような大量の資源輸入国にとっては海外からのエネルギー資源確保に際し国としての一種の交渉力にも大いに関係しており、その研究開発に当たっては、長期的かつ総合的観点から国として着実かつ粘り強く取り組むことが期待されます。
原子力開発の将来の方向性及びその中でのFBRサイクル技術の位置付けに関し以上のような観点に立てば、もんじゅ事故以降5年近くを経過した今日、関係機関の努力により一定の進展はあるものの、同技術の研究開発が円滑に進められない状況にあることが憂慮されます。関係者の一致した取り組みにより一刻も早く現状が打開され、以下に述べる同技術の研究開発の進め方に従って着実な前進を図っていくことが望まれます。
2.2 高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の進め方
FBRサイクル技術の研究開発を巡る諸外国の動向は多様です。ロシアや中国のように熱心な国がある一方で、欧米の原子力先進国のほとんどは、いろいろな事情から、一定の成果をあげた上、開発を中止したり方向の転換を図ったりしています。我が国は、これまで、それらの先進国に追従して開発に取り組んで来ましたが、今や日本が自らその先導的役割を担う立場に置かれています。
先導型の研究開発を遂行するに当たっては、先進国における先例を参考に、これまでの追従型とは違った新たな取り組みが必要です。すなわち、FBRサイクル技術の研究開発のように長期的かつ着実に取り組むべき課題については、国が主体になって推進する必要がありますが、実用化構想を早期に絞って研究開発を推進してきたため、その後の状況の変化に対応できなくなったなど過大な開発リスクによって破綻した先進国の例を教訓に、リスクの極少化と分散化を図る必要があります。その場合、国の研究開発で見落とされがちなコスト意識を高める観点から研究開発にも競争原理をさらに取り入れるなどの新しい取り組みの下に進めていくことが肝要です。
以下に、そのような新たな取り組みに基づくFBRサイクル技術の研究開発の進め方について述べます。
まず、第一に開発の柔軟性、すなわち開発に選択の幅をもつことが重要です。海外でも、例えばフランスでは、原型炉「フェニックス」、及び実証炉「スーパーフェニックス」の経験を踏まえた上、現在ではガス冷却型炉も視野に入れ研究開発を進めています。また、2006年までにサイクル全体の技術開発の評価を行う予定になっています。ロシアにおいても、ナトリウム冷却炉である運転中の「BN-600」及び財政難のため建設を中断したままの「BN-800」に加え、鉛冷却型炉の開発も行っています。アメリカが昨年から手掛けている新原子力研究計画「原子力エネルギー研究イニシアチブ(NERI)」では核不拡散型核燃料サイクルを指向しており、増殖炉ではありませんが中小型炉で途上国向けの技術開発も視野に入れつつ検討が始められています。このように、各国ともに将来の技術的選択肢の開発に当たっては、それぞれの国における研究開発の実績を踏まえつつその選択の幅をできるだけ広くとって進めており、日本においても同様の考え方をとることが適切と考えられます。
そのような多様な選択肢の技術的検討を進める観点から、現在、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)において関連機関の協力も得つつ「実用化戦略調査研究」が進められています。多様な選択肢に関する研究開発の方向性を見極めていくに当たっては、同調査研究の結果に関し適切な段階で原子力委員会の場において評価していく必要があります。その際、「実用化戦略調査研究」の成果に加えて、それ以外の斬新な提案も評価の対象として取り上げていくことが必要です。
国として研究開発成果を適切に評価し将来の方向性に関する的確な判断を下していくためには、その基礎となる技術評価基盤を開発し整備していくことが不可欠です。過去、日本においては、独自の構想や判断というよりもどちらかといえば諸外国における前例に追従することに重きが置かれることが少なくありませんでしたが、今後は前例のない技術開発に取り組むとの観点から、技術情報・知識データベースを体系的に整備し、研究開発機関の間の連携をこれまで以上に強化することが重要です。また、前例のない技術開発には、結果の成功が必ずしも保証されていないこと、すなわち常に開発リスクを伴うことを念頭におきつつ、そのリスクを最小化する努力が恒常的に求められていることを忘れるべきではありません。
FBRサイクル技術のうち、最も開発が進んでいるものは、MOX燃料とナトリウム冷却を基本とする技術です。他の選択肢との比較評価のベースともなるので、技術的選択肢を広く検討していくに際しても、同技術の評価をまず優先して行うことが不可欠です。同技術に関する今後の重点開発項目をあげれば、ナトリウム取扱技術、MOX燃料再処理、MOX燃料加工等があります。特にナトリウム取扱技術については、「もんじゅ」による発電プラントとしての運転経験に基づく実証に最優先で取り組むことが必要です。「もんじゅ」は、その他にも、高速中性子を発生し利用する大型装置としてFBRサイクル技術に関連する様々な研究開発の目的に供することができ、また、近い将来には世界で唯一の本格的ナトリウム冷却炉になる可能性があることから、我が国及び世界における将来のFBRサイクル技術の研究開発の中核的役割を担うことが期待されています。これらの見地から、FBRサイクル技術の研究開発のために「もんじゅ」の早期の活用が望まれます。「もんじゅ」に関しては、地元住民等が提訴していた、原子炉の設置許可処分は無効だとする行政訴訟と、建設・運転の差し止めを求める民事訴訟の両訴訟について、いずれも「原告らの請求を棄却」する判決が福井地裁において2000年3月22日に示されました。判決は、1995年のナトリウム漏えい事故についても「安全審査の合理性を左右するものではない」との見解を示しています。しかしながら、事故による社会的影響は著大なものがあり、またとりわけその事故が初歩的な技術的欠陥に起因していたことを関係者は十分に肝に銘じて今後の研究開発に取り組む必要があります。
上記の「原子力開発の将来の方向性と高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の位置付け」に示したように、資源リサイクル・核不拡散型サイクルの観点からは、高速炉によるマイナーアクチニドの燃焼技術を視野に入れた先進的リサイクル技術の開発が有効です。そのためには、湿式対乾式再処理プロセス、合金対化合物燃料、集中型対一体型サイクル等、提案されている技術的選択肢に関し長期的視点から総合的に比較検討を行っていく必要があります。さらに、将来の選択肢を広げる上から、鉛冷却やガス冷却等の冷却方式の違い、高転換炉や高温ガス炉等の他の形式の新型炉など炉型選択についても広く考えていくことが適当です。また、加速器による核変換技術等の将来の技術的可能性についても研究を進めていくべきです。いずれにしても、FBRサイクル技術の開発には段階的に着実な進展を図るとともに、長期的かつ継続的に取り組んでいかなければなりません。したがって、それに必要な人材の糾合と育成を常に図りつつ技術開発ポテンシャルの向上と確立に不断に取り組むとの観点が肝要です。そのためには、同技術の研究開発に当たって、原子力以外の他分野との交流に努め革新的技術の導入を図るとともに、他分野との共通性の高い最先端の研究課題に挑戦的に取り組むことを促すなどの長期的施策が必要です。
一方、研究開発を進めるに当たっても、経済効率性の維持及び追求が不可欠です。そのためには、産学官の連携による資源の有効活用に加えて、国の研究開発についても企業間の自由な競争と参入をできるだけ可能にすることが大切です。そこでは国際競争を活用する方策も考慮すべきです。さらに発注者と受注者の関係を明確に区別して、権限と責任のけじめをつけることが重要です。なお、国の研究開発の成果の民間への移転については、電力市場の自由化という新たな状況を踏まえて、電気事業者以外の民間業者と契約する可能性も、視野に入れる必要があります。
また、国際的牽引力となることを目指して我が国の主体性を明確にしつつ国際協力によって技術開発の効率化を図ることが重要であり、現在既に進行している日仏及び日露の二国間協力を推進するとともに、核軍縮及び核不拡散への技術協力を行っていくことも重要です。特に、ロシアの解体核兵器から発生する余剰のプルトニウムの処理を目的にロシアの「BN-600」及びMOX燃料加工技術を利用することに関する日米露協力が日本政府の提案により進行中であり、これを進める必要があります。
原子力委員会は、研究開発の到達度や進め方についてのチェックアンドレビューを、第三者的な観点を十分に尊重しつつ随時行う必要があります。なお、評価に当たっては、単なる技術評価にとどまらず、必要に応じ社会的状況変化等を踏まえて研究開発政策等の見直しを行うことが肝要です。研究開発機関は、できるだけ融通性に富む技術開発プログラムを立て社会情勢の変化に柔軟に対応できるようにするとともに、外部評価によって評価の透明性を確保することが不可欠です。
3.高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の将来展開
ここでは、まず、これからの高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術(FBRサイクル技術)の研究開発における基本的な留意事項について述べ、次いで研究開発体制の在り方と研究開発の具体的展開について検討を行います。
3.1 基本的取り組み
(1)安全確保への不断の取り組み
言うまでもなく、FBRサイクル技術の研究開発においても、安全性の確保はその大前提となるものであり、最優先に取り組むべきものです。
(JCO臨界事故)
JCO臨界事故は、作業員の深刻な被ばくと周辺住民の避難や屋内退避を招き、原子力利用に対する国民の信頼が大きく損なわれた重大な事故でした。JCO臨界事故を受け、国は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の改正及び「原子力災害対策特別措置法」の制定を行い、安全規制及び防災対策を強化しました。事故調査報告書によれば、同事故は、実験炉「常陽」用燃料の原料となる20%近くの高いウラン濃縮度の硝酸ウラニル溶液を40リットル単位で非定常的に製造するという特殊な作業において発生したもので、その特殊性に関する配慮が十分になされていませんでした。事故を招いた直接的原因は、許認可上定められた作業基準を逸脱した操作が行われていたためで、組織として安全確保に対する責任を履行し得る体制になっていなかったことが指摘されています。
このような事故の再発を防止するためには、上記の法改正と制定による規制の強化や防災対策の整備に加えて、まず、個人的にも組織的にも安全確保の責任をより明確化させていく必要があります。また、事故が発生しても他へ波及しないようにするなど、被害を最小限にするためのシステムを構築していく必要があり、失われた国民からの信頼をそれによって回復していかなければなりません。
(安全確保のための教育)
安全は、それについての十分な知識の上に強い責任感を持つことによって確保されるものと考えられます。したがって、まず職務に関し責任感を持つことが正しく教育される必要があります。その上で、安全なシステムを構築しつつ、研究開発に携わるすべての人が、その業務に関する安全性について十分な教育を受け、安全確保についての高い意識を持てるような体制を整備していくことが重要と認識すべきです。(安全確保のためのシステムの構築)
一般に原子力施設は多様なシステムが統合されたものであり、機器の故障等の発生の可能性をゼロにすることは不可能です。このため、早期に故障を発見したり、故障が起こっても他へ波及しないようにするなどトラブルを未然に防ぐシステムを構築する必要があります。また、原子力施設に限った問題ではありませんが、人の介在する部分でのトラブルが発生しやすいことに鑑み、人は誤りを犯すことを前提にソフト及びハード両面からの対策を一層講ずるなどヒューマンファクター(人的要因)をより重視したシステムを構築すべきです。さらに、万一、施設外へ影響を及ぼすような事態に至ったとしてもその影響の拡大を防ぐシステムも重要です。また、FBRサイクル技術はプルトニウムの利用を前提としていることから、万が一の事態に備えるとの観点から、プルトニウムの生体への影響に関する研究を継続的に進めていくべきです。(2)国内外の理解を得るための透明性の向上
FBRサイクル技術の研究開発については、その意義及び進め方等に関し立地地域社会を始めとした国民レベルでの理解を得ることが必要不可欠です。
このため、研究開発の意義及び進め方、施設の安全性、防災等について、国を始めとする関係者が情報公開に努めることはもちろんのこと、説明会、シンポジウム等の様々な機会を通じて一般の人々への説明責任を十分に果たしていかなければなりません。また、多くの人々が新聞、テレビ等のマスコミを通じて情報を得ることから、関係者はマスコミとのコミュニケーションにも十分配慮すべきです。
さらに、立地地域社会との関係においては、自主的な地域開発を支援する振興事業等を通じ地域社会との信頼関係を深め共存を図っていくことが重要です。
また、もんじゅ事故やJCO臨界事故等により、地元を始めとする国民の不安感、不信感が高まっており、国を始めとして、関係者は、その信頼回復に努めなければなりません。
特に、JCO臨界事故に対しては、濃縮度約20%の濃縮ウランを扱っていたにもかかわらず、工場内の核物質の管理体制が必ずしも十分とはいえなかったことから、日本の核物質防護体制の不備を憂慮する声が諸外国からあがりました。濃縮度約20%の濃縮ウランやプルトニウムなどの核拡散上機微な物質については、核物質防護上の観点からその工場内の移動や計量管理状況に関し、国がより適切に把握することが重要との指摘が事故調査報告書にもあり、必要に応じてその情報を公表するなどの強化策を検討すべきです。これによって情報の管理と公開が一層進めば、日本のプルトニウム利用に関する透明性を向上させる効果も期待されます。
(3) 社会的要請への柔軟な対応
(柔軟かつ着実な計画の遂行)
社会的な情勢や内外の研究開発動向等を見極めつつ研究開発を推進する必要があります。すなわち、電気事業の自由化に伴い将来的に新たなユーザーが参入して来たり、また需要構造の変化によって新規の原子力発電所の発注に係わる諸条件も変わっていくことも考えられるなど、社会的ニーズに関する長期的展望を踏まえつつ研究開発を進める必要があります。その際、FBRサイクル技術が、本来、技術的な多様性を備えていることに着目し、選択の幅を持たせていくことが重要であり、炉型選択、再処理法、燃料製造法について広く検討を行うべきです。また、内外の研究開発動向を広く調査しその中から真に努力を傾注する価値のある課題を抽出するとともに、新しいアイデアの提案や展開を奨励する観点から大学等における関連分野の基礎基盤研究の充実を図り、それらの結果にも注目しつつ計画を随時見直していくべきです。
他方、単に基礎基盤的研究課題にとどまることなく、実用化の可能性を追求する研究開発課題については、決められた計画を粘り強く着実に進めていくことも重要で、特に現在のところ、最も開発の進んでいる技術であるMOX燃料とナトリウム冷却技術を基本とする「もんじゅ」については、その早期の運転再開を実現し、研究開発の中核的施設として活用していくべきです。
(原子力政策円卓会議の提言)
「もんじゅ」の早期運転再開は、原子力政策円卓会議の提言でも示唆されています。同提言に示されている「その後の処置」に関する選択肢(i)、(ii)、(iii)については、(i)の「一定期間研究開発を行い必要なデータを得た上で廃炉する」及び(iii)の「従来の予定通り炉の運転を再開し研究開発を継続する」は、いずれも、「柔軟かつ着実な計画の遂行」の観点から適当でなく、技術的選択肢の確保に粘り強く取り組む上から、(ii)の「一定期間研究開発を行った上でその処置を判断する」を選択することが妥当です。すなわち、発電プラントとしての信頼性を実証するとともにその運転実績を通じナトリウム取扱技術を確立するという所期の目的を達成するために「もんじゅ」の早期運転再開を行い、この所期の目的の他にも「もんじゅ」の活用を図るべきか否かについては、今後の「もんじゅ」を含めた研究開発の成果等を踏まえて判断することが適当です。なお、本分科会では、原子力政策円卓会議の(i)、(ii)、(iii)の選択肢以外に、「運転再開をせずに博物館とする」という案も委員の一人から示されました。
(4) 実用化を目指した経済性の追求
(経済性の追求)
電力市場の自由化等にみられるように経済性の一層の追求が社会的に要請されており、原子力についても他の電源との競争力を重視する必要があります。そのためには、まず第一に、FBRサイクル技術の研究開発に当たって、実用化段階において軽水炉や他電源と比肩し得る経済性を達成するという究極の目標を設定しておくことが必要です。そのために、原子炉、再処理、燃料製造の各々について高い目標値を目指し、特に原子炉の研究開発については、FBRサイクル技術全体の経済性に占める比重が大きいことを考慮する必要があります。
FBRサイクル技術の多様な選択肢について、このような経済性等の観点から実用化の可能性を十分に検討し、将来のFBRサイクル技術の実用化像の絞り込みと実用化への道筋をつけるための調査研究を進めていく必要があります。研究開発を進めるに当たっては、研究開発資金の効率化を図る観点から、産学官の連携を強化し人的資源の有効活用を図るとともに、国の研究開発についても企業間の自由な競争と参入を促すとの新たな視点を必要としています。さらに、国際協力や国際競争を通じて研究開発効率の向上が図れるような環境を醸成していく施策が求められています。
(実用化に向けた展開)
高速増殖炉の実証炉の具体的計画については、実用化に向けた研究開発の過程で得られる種々の成果等を十分に評価した上で、その決定が行われることが適切であり、実用化への開発計画について実用化時期を含め柔軟に対応していくことが適切です。(5)国際的要請への積極的取り組み
(国際協力)
FBRサイクル技術の研究開発分野において、国際的牽引力になることを目指し、我が国が主導的に取り組むべき部分を明確にしつつ、国際協力によって技術開発を効率的に進め、研究開発成果を国際的に役立たせるとの観点から、現在実施されている日仏協力、日露協力を始めとして、各国との協力を積極的に推進することとします。
また、核軍縮及び核不拡散への技術協力という観点も重要であり、ロシアにおけるFBRサイクル技術を利用した余剰兵器プルトニウム燃焼に係る研究開発に引き続き取り組みます。(核不拡散の努力)
我が国の原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限っています。核不拡散については、我が国は、原子力施設等について、国際原子力機関(IAEA)の保障措置上の厳しい監視を受け入れています。プルトニウムについては、利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの原則に基づき、全体のプルトニウム需給に適切に配慮しつつ計画的に利用していくことが重要です。またテロリストなどによる破壊活動や核物質の盗難が危惧され、危機管理体制を強化するとともに、プルトニウムの盗難等がないようにする核物質防護についても、核物質防護条約に加盟し、世界の国々と一致協力して対策をとっています。さらに、分離プルトニウムの管理状況について毎年公表するなど、プルトニウム利用の透明性向上にも積極的に取り組んでいます。
FBRサイクル技術の研究開発においても、上記のような観点から、適切な保障措置を受け、国の指導の下、的確な核物質防護措置をとることにより、今後とも各国からの疑念を招かないように努力することが基本です。
3.2 研究開発体制
(1) 役割分担
実用化に向けた研究開発を進めていくに当たっては、従来の研究開発成果を活用するとともに、新たな発想の創出に挑戦することが必要であり、内外の研究者の力を結集して、多様な選択肢の検討を含め、原子炉システムと核燃料サイクルシステムについて整合性をもって進めることが重要です。したがって、FBRサイクル技術の研究開発に参加する組織、すなわち核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)、日本原子力研究所(原研)、電気事業者、電力中央研究所(電中研)、メーカー等がそれぞれの役割を担いつつ、緊密な連携を図ることが求められます。
このような観点から、研究開発に必要な人、資金等の資源を有効活用し、効率的に研究開発を進めるため、サイクル機構と電気事業者が一致協力して「実用化戦略調査研究」を実施しており、既に電中研及び原研も参画しています。各機関は、これが大きな成果を得るよう努めていく必要があります。
国は、関係機関におけるFBRサイクル技術の研究開発が効果的かつ効率的に推進されるよう、その全体的な進め方について定期的な評価及び必要に応じた見直しをしていかなければなりません。
サイクル機構は主要な研究開発施設を有し、FBRサイクル技術を確立するための主導的役割を担うべく国民の負託を受けた研究開発機関として、これまでの知見・経験をいかし、実用化に向けたFBRサイクル全般の研究開発を計画的に進めていく責任を持ちます。
原研は、FBRサイクル技術の基礎基盤研究を担う主要な機関として関連の研究開発を推進します。
電気事業者は、FBRサイクル技術の実用化の目途がついた後には、将来のユーザーとして主体的に実用化のための開発を進めていくこととなります。したがって、実用化に向けた研究開発にその計画策定段階から積極的に参画し、研究開発においてコスト意識が強く反映されるよう、サイクル機構等と一致協力していく必要があります。
電中研は、FBRサイクル技術の基礎基盤研究及び将来のユーザーたる電気事業者のニーズに応えるための実用化技術に関する研究開発を推進します。
メーカーは、その独自のノウハウをいかし、関連研究開発、施設の建設、保守、改良等に関する受注を通じて、また研究開発機関、他メーカー等との協力を通じて、実用化に向けた研究開発を支える設計技術及び製造技術を開発しつつ、その成果を実用化に向けた研究開発に役立てていくことが望まれます。
大学等は、その幅広い基礎基盤研究において、革新的技術を創出することが望まれます。
また、これまで原子力に係る研究開発を行っていなかった企業等がFBRサイクル技術に係る研究開発に参入する機会をつくるなど研究機関との間の競争的な環境を醸成していくことも重要です。その際、科学技術基本計画でも指向されている競争的資金の導入の可能性や、研究開発機関間の切磋琢磨によって技術進歩を促すことの可能性も考慮すべきです。(2) 技術情報・知識データベースの整備・確立
(背景)
FBRサイクル技術の研究開発に先導的に取り組み、その成果を的確に評価していくためには、我が国として独自の評価能力を有している必要があり、そのための技術情報・知識データベースの整備・確立が欠かせません。技術情報・知識データベースの整備に当たっては、実プラントの設計、製作、運転、保守に関する技術情報等を含め、これまで各機関が蓄積してきた研究開発成果に関する技術情報を広く集め、共有化する必要があります。すなわち、従来の追従型から先導型へ移行しての開発の展開に伴い、開発の成果を客観的かつ的確に評価することがますます重要となってきています。
一方、これまでの研究開発の過程で得られた膨大な技術情報の活用は、今後の開発を効率的に進める上で重要ですが、これらの技術情報は基本的に各機関の中に分散しており、このままでは、いずれ、かなりの部分の技術情報が希薄化したり埋没して、散逸してしまう可能性が懸念されています。また、今後の開発の過程で得られる技術情報についても体系的に有効活用を図っていく新たな仕組みを必要としています。
(知識データベースの構築)
技術情報・知識データベースには、次のような二つの側面があります。まず、開発の担い手が蓄積してきた技術経験に基づくものがあり、これは、単に明示された知識データベースのみでは伝承できない多くの暗黙のノウハウからなっています。したがって、これらの知識データベースは範囲の広さよりもその深さに重要な意味があります。また、これは、設計、建設、運転などの具体的な開発プロセスの経験や蓄積に基づくノウハウとして継承される性格のものです。もう一つの技術情報・知識データベースには、これらの開発の成果に関する情報あるいは海外での開発成功例からの情報など、主としてその成功プロセスに基づく知識データベースがあります。特に、すべての技術的選択肢について開発を同程度に実施することは現実的に困難である以上、共同研究や試験の共同実施等により海外での技術開発情報を広く把握することは、技術的選択肢に関する開発シナリオの判断を広い視点から行う上で欠かせません。
以上のように基本的に二つのタイプの知識データベースがありますが、後者の広い技術開発情報に基づく知識データベースは、前者の確実な経験に基づく深い知識データベースが確保されていることにより、初めて有効に活用できるものです。今後、我が国が先導的に開発を行っていく際に、その開発の推進及び成果の評価を自らの判断で行い、効率的かつ確実な開発を進めるためには、この両者の知識データベースの構築が重要です。
技術情報・知識データベースについては、まず各機関が自ら取りまとめ、その結果をサイクル機構が中心となって集約し、透明性を確保しつつこれを共有化することが重要です。
(3)人材の確保
FBRサイクル技術の研究開発を今後、高い水準で継続的に実施していくため、各機関の高いポテンシャルを維持しつつ技術の継承を図り優秀な人材の確保に努める必要があります。
技術の継承と人材確保のため、各機関は相互に連携しつつ、適切な研究開発目標を設定し、研究開発施設を設計、建設し、これを運転、維持していくなど、技術継承を行いながら新しい技術の開発・改良を行っていく環境の整備も必要です。
この際、先端的かつ挑戦的課題に関する研究開発を進めることが人材の確保につながるという視点が重要であり、優れた着想と提案を幅広く取り入れながら、産学官及び国際的に開かれた研究開発体制を構築し、人類の未来を拓く夢と高い志を持つ研究者・技術者のポテンシャルを結集しつつ、研究開発の活性化を図っていくことが求められています。
さらに、将来の研究開発を担う人材を確保し、人材の育成を図るという観点から、産業界・公的研究機関と大学との人的交流の促進や大学における先端的な研究開発を強化することが有効です。これにより、新しいアイデアの提案や展開が積極的に行われることが期待されます。
3.3 具体的展開
これまでの議論を踏まえ、主要な研究開発の項目について、具体的な進め方を以下に述べます。
(1)「実用化戦略調査研究」
(目的)
FBRサイクル技術に関する多様な選択肢について経済性等の評価を行い、FBRサイクルの実用化像を絞り込み、その研究開発計画を提示することを目的に、開発に必要な人、資金等の資源を有効活用し、効率的に研究開発を進めるという観点から、1999年よりサイクル機構と電気事業者が一致協力して「実用化戦略調査研究」を実施しており、電中研と原研も参画しています。今後、必要に応じメーカーの参画も期待されます。(進め方)
「実用化戦略調査研究」では、安全の確保を大前提として軽水炉を始めとする他電源に対し競争力のあるFBRサイクル技術を評価するため、幅広い選択肢について、FBRサイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を提示します。本調査研究の実施に当たっては、単に既存の技術について調査を行うだけでなく、新たなアイデアの発掘にも努める必要があります。高速増殖炉の炉型選択については、冷却材(ナトリウム、鉛、ガス等)、出力規模(大型、中小型炉等)、燃料形態(化合物燃料(MOX燃料、窒化物燃料)、合金燃料(金属燃料)等)について評価するとともに、高転換炉、高温ガス炉等の選択肢についても比較検討を行います。また、高速増殖炉に関連する核燃料サイクルについては、燃料製造法(ペレット法、射出成形法、振動充填法等)、再処理法(湿式法、乾式法等)、サイクル施設の配置方式(集中型、炉との一体型)について評価を行います。
評価の指標については、安全性、経済性、資源の有効利用、環境負荷低減、核不拡散性の5つの観点に加えて、研究開発の実施可能性についても重要な視点であり、各選択肢における現状の技術の開発状況、実用化までの開発期間及び投入資金が考慮されるべきです。
また、本調査研究は、2015年頃を目途に実用化の可能性が最も高いFBRサイクル技術の見通しを得るようにすることを目標に掲げて進められていますが、その際、開発に必要な資源を有効に活用し、効率的に研究開発を進めるとの観点が重要です。
なお、本調査研究の成果については、原子力委員会が評価し、その評価結果等を踏まえてFBRサイクル技術の実用化に向けた研究開発計画を段階的に明示していく必要があります。
(2)基礎基盤技術の研究開発
サイクル機構、電中研、原研、大学等の各機関は、FBRサイクル技術について裾野の広い基盤的な研究開発を行っていくことが必要です。
高速増殖炉に関しては、プラント設計のための設計基準及び解析コード類並びに安全評価のための解析手法等の整備、またマイナーアクチニドの燃焼及び長寿命核分裂生成物の核変換等を対象とした炉物理試験や核データファイルの整備、さらに燃料の物性データの整備等のための研究開発を進めるべきです。
高速増殖炉に関連する核燃料サイクルに関しては、ペレット法、射出成形法、振動充填法等の各種燃料製造法について、また湿式法、乾式法等の各種再処理法について基盤的な研究開発を進めるべきです。
また、研究開発を進めるに当たっては、研究者個人やこれまで原子力に係る研究開発を行っていなかった企業等も広く参加できる提案公募型の研究開発推進制度を活用するなどにより、競争的な環境を作っていくことも重要です。
(3)長寿命放射性物質の分離変換技術の研究開発
分離変換技術に関しては、実現性のある核燃料サイクルへの分離変換技術システムの導入シナリオを検討しつつ、基礎基盤的な研究開発を着実に進めることが重要です。そのために、サイクル機構と電中研が、高速増殖炉を中心とする一つの核燃料サイクルの中で発電とマイナーアクチニド及び長寿命核分裂生成物の核変換を同時に行うことを目指す発電用高速炉利用型の技術についての研究開発を進めることが重要です。また、原研が商用発電サイクルに加速器駆動未臨界炉(ADS)や専焼高速炉(ABR)等を中心に据えた核変換サイクルを付加した階層型のサイクル技術についての研究開発を進めることが重要です。
また、「もんじゅ」、「常陽」等の施設において照射実験をはじめ所要の試験を行い、マイナーアクチニド及び核分裂生成物の基礎データ、マイナーアクチニド燃料の照射挙動評価等のデータベースを構築していくことが重要です。これらのデータは、マイナーアクチニドの利用を含むいろいろなFBRサイクル技術の選択肢に関し、サイクル内で発生する長寿命の放射性物質の量をより正確に評価し、それをもとに環境への潜在的影響等につき比較検討を行う際の基礎とする上から重要です。さらに、これらの検討を通して分離変換技術に関する経済的な評価についても進めていくことが重要です。
(4)国際協力の具体的展開
FBRサイクル技術に関する国際協力について、前章までに述べた基本的考え方の下、以下のとおり進めていきます。
(フランス)
「高速増殖炉に関する日仏専門家会合」等を通じ、サイクル機構、電気事業者、電中研、原研の各機関はフランスの研究機関との間において、将来炉における経済性向上及びプラント性能向上に関する共同研究、将来炉における安全性向上に関する共同研究、超ウラン元素等の燃焼及び長寿命核分裂生成物の核変換に関する「常陽」及び「フェニックス」を用いた共同照射試験研究等に関する協力を着実に進めていきます。(ロシア)
サイクル機構、電気事業者、電中研、原研の各機関はロシアの研究機関との間において「高速増殖炉に関する日露専門家会合」等を通じ、乾式再処理技術と振動充填法による燃料製造技術等の高速増殖炉に関連する核燃料サイクルに関する研究開発、ロシアの高速増殖炉を用いた高燃焼度燃料の照射試験研究、核データ及び炉物理分野等について密接に協力関係を進展させることが望まれます。また、サイクル機構は、核軍縮及び核不拡散への貢献の観点も考慮しつつ、燃料製造に係る研究開発の一環として、ロシアの核兵器解体に伴う余剰兵器プルトニウムをロシアの高速増殖炉「BN-600」を活用して燃焼させる計画へ参画しており、本計画を通じて得られる技術成果を「実用化戦略調査研究」等に反映していくことが重要です。
(その他)
今後は、「原子力エネルギー研究イニシアチブ(NERI)」に代表されるアメリカの新しい動きにも注視しつつ積極的に協力関係を深めることが重要です。また、欧州諸国及びカザフスタン、さらに実験炉を建設する段階に至っている中国等との人的交流も含めて総合的に国際協力を検討していくことが重要です。(5)「もんじゅ」を活用した研究開発
(「もんじゅ」の役割)
「もんじゅ」における研究開発においては、設計・建設段階で多くの知見を蓄積してきましたが、今後の実用化に向けた高速増殖炉の研究開発を進めるに当たり、これまでの蓄積に加え、今後の「もんじゅ」の運転・保守データを得て、FBRサイクル技術を実証する場として中核的役割を果たすことが重要です。「もんじゅ」の運転による研究開発により、発電プラントとしての信頼性の実証を目指して運転経験の蓄積と技術改良を行い、実用化に向けた技術的可能性を評価する「原型炉」としての目的を達成することが必要不可欠です。この目的を達成しないまま、「もんじゅ」の研究開発を中断することは、これまでの成果とともに今後の可能性をも否定することに等しく、我が国の将来にとって損失といえます。
したがって、「もんじゅ」については、総合漏えい監視システムの設置、ナトリウム抜き取り時間の短縮、窒素ガス注入設備の整備等のナトリウム漏えい対策の実施及び安全総点検の結果を踏まえた改善により施設の安全性の向上を図るとともに、動燃改革等の確実な実施により「もんじゅ」に携わる人の安全意識の向上を図っていくことが重要であり、地元の理解と協力を得て、研究開発段階にある原子炉であることを認識した慎重な運転管理が行われることを前提に、早期に運転再開されることが適切です。運転再開後は、増殖性能の確認、高燃焼度燃料の実証、供用期間中検査技術の改善等発電プラントとしての信頼性の実証のための研究開発を行うとともに、蒸気発生器等の大型ナトリウム機器の性能及び信頼性の実証、ナトリウム中の放射性腐食生成物に関するデータ取得等ナトリウム取扱技術の確立を目指した研究開発を進めることが重要です。さらに、「もんじゅ」を開発するに当たり蓄積されてきた設計基準、設計コード等の設計手法や安全評価のための解析手法の妥当性を「もんじゅ」の運転を通して検証することも重要です。なお、研究開発を進めるに当たっては、種々のトラブルを克服しながら技術が実証・確立されていくことにも留意しておく必要があります。
長期的には、実用化に向けた研究開発によって得られた要素技術等の成果を「もんじゅ」において実証するなど、燃料製造及び再処理と連携して、一連のFBRサイクル技術の確立に向けた研究開発において、「もんじゅ」を実際の使用条件と同等の高速中性子を提供する場として有効に活用していくことが重要と考えられます。
また、「もんじゅ」では実用化に向けた研究開発において要求される大型の燃料集合体での照射等が可能であるため、マイナーアクチニドの燃焼や長寿命核分裂生成物の核変換等の環境負荷低減に関するデータを幅広く蓄積することが重要と考えられます。(「もんじゅ」における国際協力)
「もんじゅ」は、最も開発が進んでいるMOX燃料を用いたナトリウム冷却型の炉であると同時に、高速増殖炉研究開発にとって国際的に見ても発電設備を有する貴重な高速増殖炉プラントとして重要な場です。また、「もんじゅ」で得られる運転・保守データ及び照射・燃焼データ等は世界における高速増殖炉に係る研究開発に資する重要なデータとして期待されることから、内外の研究者に広く開放しつつ、中核的な研究開発施設として運用していくことが適切です。したがって、「もんじゅ」及びその周辺施設を国際協力の拠点として整備し、「もんじゅ」における研究開発は、内外の研究者に開かれた体制で進め、その成果を広く国内外に発信することが重要です。(6)その他の研究開発施設を活用した研究開発
(常陽)
FBRサイクル技術の研究開発において、「常陽」は、我が国初の高速増殖炉として、実データに基づいて「もんじゅ」及びその後の高速増殖炉開発に必要な技術的課題を摘出し、その解決に貢献するとともに、高速中性子の照射による新型燃料・材料の開発や革新的技術を取り入れた機器等の開発にも有効活用することを目的とした研究開発施設と位置付けることができます。「常陽」は、現在照射性能を高めるために熱出力140MWの炉心への改造等を内容とするMK-Ⅲ計画を進めており、その後実用化を想定した高燃焼度燃料やマイナーアクチニド含有燃料等の新型燃料の照射試験や燃料の安全性確認試験等を進めていきます。
また、高速増殖炉の実用化に向け過渡照射や限界照射並びに実績の少ない燃料の先行照射等、難度の高い試験に積極的に取り組むことが重要です。
さらに、「常陽」は高速中性子の照射炉として有用かつ貴重な施設であり、FBRサイクル技術以外の分野についても大学や国内外の研究者への利用に供することも期待されます。
なお、2004年度以降の燃料の原料である二酸化ウランについては、海外からの調達を含め検討していくこととなります。
(リサイクル機器試験施設及び高レベル放射性物質研究施設)
リサイクル機器試験施設(RETF)は、東海再処理施設の軽水炉燃料再処理技術をベースに高速増殖炉燃料に係る高レベル放射性物質研究施設(CPF)での研究開発成果等を踏まえ、工学規模での高速増殖炉燃料再処理技術の確立に向けた研究開発を行う施設です。2000年半ばには、試験棟建物、電気設備、換気・給排水設備等を建設、設置する第一期工事が終了する予定です。今後は、高速増殖炉再処理技術に関する研究成果、「実用化戦略調査研究」の結果等を踏まえ、ピューレックス法以外の技術開発を行うことも含め、その方向性を明確にし、試験機器の設置を行う第二期工事を進めていく必要があります。CPFについては、先進的再処理プロセスの研究開発や分離変換技術の研究開発を中心とする多様な高速増殖炉燃料の再処理技術に関する基礎基盤研究のための試験施設として活用され、その成果を「実用化戦略調査研究」や分離変換技術の研究開発に反映することが重要です。
具体的には、先進的再処理プロセスの開発については、湿式法及び乾式法について安全性と経済性を追求するプロセス、廃棄物量を低減化するプロセス、核不拡散性を考慮するプロセス等を開発していくこと、また分離変換技術の研究開発としては、マイナーアクチニドや長寿命核分裂生成物の分離技術に関する基盤的な研究開発を実施することが重要です。
(その他)
サイクル機構のプルトニウム燃料開発施設、燃料及び材料の照射後試験施設、各種ナトリウム試験研究施設等を用いた試験を継続し、高速増殖炉の設計のための解析コード類や安全評価のための解析手法を整備するなど基礎基盤研究を行っていくことが適切です。原研の高速炉臨界実験装置(FCA)はプルトニウム燃料を利用した我が国唯一の臨界実験装置であり、炉心構成に柔軟性を持つなどの特徴があり、高速増殖炉及び分離変換技術に関する基盤的な研究開発を行っていくことが適切です。また、軽水臨界実験装置(TCA)を利用し、低減速スペクトル炉に関する基盤的な研究開発も行っていくことが適切です。
第2章で述べた「原子力開発の将来の方向性と高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の位置付け」及び「高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発の進め方」を基に、次の諸点を提言します。
① 高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術(FBRサイクル技術)の研究開発に関する新たな視点を、国のエネルギー戦略の中での将来の技術的選択肢の確保におく。「もんじゅ」を、その研究開発の場の中核として、さらにまた、国際的にも貴重な研究開発施設として位置付け、その活用を図る。そのような新たな視点の下、発電プラントとしての信頼性を実証するとともにその運転実績を通じナトリウム取扱技術を確立するという所期の目的を達成するため「もんじゅ」は早期に運転再開を行う。 ② もんじゅ事故及び原子力界で起きたその後の一連の不祥事や事故によって人々の原子力に対する不信感と不安感が著しく増幅されていることを重く受けとめ、運転再開に当たっては、安全確保に万全を期すとともに、徹底した情報の開示と提供を行うなど、国民及び地域住民の安全と安心に格別に留意する。 ③ 原子力政策円卓会議では、運転再開後の「もんじゅ」の将来の処置について、三つの選択肢を例示しているが、その中では、(ii)の「一定期間研究開発を行った上でその処置を判断する」が妥当である。すなわち、上記の提言①に示されている所期の目的のほかにも「もんじゅ」の活用を図るべきか否かについては、今後の「もんじゅ」を含めた研究開発の成果等を踏まえて判断する。 ④ 研究開発に当たっては、将来の社会的ニーズの多様性を考慮して、幅広くその技術的可能性を探求する。原子炉については、従来の大型化ばかりでなく、中小型炉の開発を含め、幅広く技術的選択肢を検討する。また、核燃料サイクル技術に関しても、再処理技術において従来の湿式法と並行して乾式法の開発を進めるなど、幅広く技術的選択肢を検討するとともに、環境負荷低減や資源の有効利用の面で注目される長寿命放射性物質の分離変換技術について今後とも着実に研究開発を進める。さらに、それらの成果をグローバルな視点から国際的に役立たせることを目指し、技術的に核拡散につながり難い選択肢を開発する。 ⑤ 研究開発を進めていくに際しては、研究開発に携わる人すべてに安全性についての教育を徹底するとともに、個人的にも組織的にも安全確保の責任を明確化する。また、資金、人材等の資源の効率的利用が重要であることに鑑み、既存の設備や施設の有効活用をできるだけ図るとともに、人的交流などにより関係機関の連携を強化する。さらに、開発の効率性を高める観点から国際協力を推進するとともに、これらの施策を通じ、関連する技術情報・知識データベースの整備・確立を図り、開発された技術の共有化と継承が適切に行われるとともに、我が国として独自の技術評価を行い得る研究開発体制を構築する。 ⑥ 核拡散問題への国際的懸念の増大に照らして、国内の計画の透明性の確保に必要な情報を積極的に発信する。特に、FBRサイクル技術の研究開発においてはプルトニウムの利用を前提としており、より徹底した核物質防護の観点から、国の管理システムの強化を図るとともに、透明性の一層の向上のため必要な情報公開を積極的に行う。 ⑦ 原子力委員会は、以上のような研究開発の進め方や到達度について、随時チェックアンドレビューを行う。その評価に当たっては、単なる技術評価にとどまらず、必要に応じ、社会的状況変化等を踏まえて研究開発政策等の見直しを行う。
お わ り に 21世紀を間近に控え持続可能な地球社会の形成が希求されている中、紛争のない世界平和と安定的な経済成長を達成するとともに、廃棄物の発生量を出来るだけ抑制するなどの環境と調和するエネルギー需給構造を世界的に構築していくことが強く望まれており、その点で日本が果たすべき役割はますます大きくなっていくものと思われます。
国内的にも、経済成長の低迷や財政赤字の拡大等克服すべき課題が山積していますが、エネルギー供給の海外依存度や石油の中東依存度等を見ますと日本のエネルギー供給構造は先進国の中でも特に際立って脆弱なものになっており、二酸化炭素排出量の削減目標の達成と合わせ長期的観点から安定的なエネルギー源を確保していくことがエネルギー政策上の最重要課題の一つとなっています。
国内外のこれらの状況を総合的に考えますと、原子力の開発利用は、今後とも欠かすことのできないエネルギー選択肢であり、なかでもFBRサイクル技術については、地球社会の持続可能性を追求する上から長期的にその開発に取り組む必要があります。エネルギー供給面で海外資源への依存度が極めて高い日本は、特にその技術的研究開発を先導的に進め、世界のエネルギー問題の解決に寄与していくことが重要です。
FBRサイクル技術は、非化石エネルギー源として地球温暖化問題を解決する有力な手段の一つであるという原子力の利点に加えて、ウラン資源の利用率を現状に比べ飛躍的に高めることができ、資源消費に伴う環境への負荷を大幅に低減させる可能性があります。また、同技術は、多様な燃料組成や燃料形態に柔軟に適用し得るという技術的特徴を有しており、高レベル放射性廃棄物中に長期的に残留する放射能をできるだけ少なくすることにも有効です。
FBRサイクル技術に関連して、さらに注目すべきことは、核軍縮を進める上で不可欠な核兵器の解体に伴って発生する余剰のプルトニウムの処理を巡って、ロシアで発生するものについては、ロシアのFBRサイクル技術を利用する計画が日米露の間の協力として進められているという事実です。これはもともと日本政府の提案によるものであり、日本においてこれまでに開発されてきたFBRサイクル技術が間接的に役立っています。
他方、FBRサイクル技術の開発利用に際しては、プルトニウム燃料の使用を前提としており、核拡散問題を惹起しやすい面があることを忘れるべきではありません。これも日本政府の提案により、数年来プルトニウムの在庫についてその情報が国際間で公開されていますが、今後ともそのような情報の公開を徹底するとともに、技術的に核拡散につながり難いサイクル技術を開発するなどして核拡散に関する国際的懸念を払拭していく努力が必要です。
また、FBRサイクル技術の研究開発においても、安全性の確保を最優先に取り組むべきことは言うまでもありません。JCO臨界事故の教訓を踏まえ、安全確保のための教育を徹底し、個人的にも組織的にも安全確保の責任をより明確化させていく必要があること、事故が発生しても他へ波及しないようにするなど、被害を最小限にするためのシステムをさらに強化していく必要があることを指摘しました。
以上のような観点から、原型炉「もんじゅ」については、FBRサイクル技術の研究開発の中核の場として位置付け、安全の確保を大前提に、地元を始めとする国民の理解を得て、早期に運転を再開し、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じてナトリウム取扱技術の確立を図るべきことを提案しました。
さらに、今後の研究開発に当たって必要な新たな視点として計画の柔軟性を指摘しました。FBRサイクル技術のような長期的な技術的選択肢の研究開発には開発リスクがあることをあらかじめ計画に織り込んでおく必要があります。そのためには「もんじゅ」の運転実績を着実に積み重ねつつ、将来の展開については、多様な選択肢の可能性を併せて追求していくことが重要です。そのような計画の柔軟性を担保する上からは、外部評価を定期的かつ積極的に行うなどして計画の透明性を高めることが必要です。
もんじゅ事故、JCO臨界事故等により、FBRサイクル技術に関する研究開発の現状は、それを円滑に進めることが困難な状態になっています。本報告書に述べたような同技術の研究開発の方向性について人々の理解が進み、その困難な状況が打開されるとともに、さらに、将来の可能性の追求に向け着実な進展が図られることが望まれます。