第二分科会報告書(案)

エネルギーとしての原子力利用

 

 

 

 

平成12年 月 日
原子力委員会
長期計画策定会議第二分科会


目 次

はじめに

第1章 エネルギーとしての原子力利用の現状
  1.1 内外の動向
  1.2 原子力発電
  1.3 核燃料サイクル
  1.4 原子力産業
  1.5 研究開発
  1.6 今、何を検討するべきか
第2章 エネルギーとしての原子力利用の位置付け
  2.1 21世紀のエネルギー問題
  (1)歴史と展望
  (2)21世紀を迎えるに当たっての課題
  2.2 我が国のエネルギー問題
  (1)我が国におけるエネルギー需給の現状
  (2)今後の課題
  2.3 省エネルギーと再生可能エネルギーへの期待と課題
  (1)省エネルギーへの期待と課題
  (2)再生可能エネルギーへの期待と課題
  2.4 原子力エネルギーの特性と位置付け
  (1)原子力の特性
  (2)我が国のエネルギー供給における原子力の位置付け
第3章 原子力エネルギー利用の具体的展開の基本的考え方
  3.1 平和利用への限定
  3.2 安全の確保
  (1)安全の確保に係る国の責任
  (2)事業者の責任
  (3)防災の実効性確保の責任
  3.3 信頼の確保
  3.4 国と民間の役割の考え方―自由化時代の原子力開発利用
第4章 原子力エネルギー利用の着実な展開
  4.1 軽水炉利用
  (1)軽水炉利用の展開
  (2)安全規制の高度化
  (3)次世代炉の研究開発
  4.2 原子力供給産業
  (1)最近の情勢
  (2)人材確保と技術の継承・発展
  (3)競争力の向上と国際展開
  4.3 核燃料サイクル
  (1)基本的考え方
  (2)天然ウランの確保
  (3)ウラン濃縮
  (4)軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)
  (5)軽水炉使用済燃料再処理
  (6)使用済燃料中間貯蔵
  (7)高速増殖炉および関連核燃料サイクル技術の研究開発
  (8)新型転換炉「ふげん」
  (9)今後のプルトニウム利用の見通し
第5章 放射性廃棄物の処理処分
  5.1 基本的考え方
  5.2 処分に向けた取組
  (1)地層処分を行う廃棄物
  (2)管理処分を行う廃棄物
  (3)その他の廃棄物
  5.3 放射性廃棄物の発生量低減と有効利用の推進
  5.4 処分に対する信頼の確保
  5.5 原子力施設の廃止措置
第6章 結び

参考資料


はじめに

 原子力委員会は1999年5月に長期計画策定会議を設置し、新たな原子力開発利用長期計画の策定に係る審議を付託しました。同会議は審議の効率化を図る観点から1999年7月、本分科会を含む6つの分科会を設置し、それぞれにいくつかの審議事項を付託しました。添付資料1に示す委員で構成される本分科会に付託された審議事項は、「エネルギーとしての原子力利用」をテーマに、1)新エネルギーとの比較等我が国エネルギー政策における原子力利用の在り方、2)放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の明確化、3)原子力産業の在り方、の3つです。
 本分科会は添付資料2に示すように1999年9月以来11回の会合を開催し、これらの事項について主として分科会委員により提出された調査結果および意見をもとに審議を行い、本報告書を取りまとめました。本報告書は、第1章で我が国の原子力エネルギー利用の状況を概観した後、付託された審議事項の位置付けを明らかにし、第2章で我が国のエネルギー政策における原子力利用の在り方について、他のエネルギー技術の動向も踏まえて検討した結果を取りまとめています。続いて第3章で、このあり方を実現する際に考慮すべき重要事項を整理し、第4章でこのあり方を実現するために必要な原子力発電、原子力産業、核燃料サイクルの各分野における具体的展開に係る重要課題を、第5章では放射性廃棄物処理処分の分野におけるそれを取りまとめています。
 なお、最後に、審議の過程で参考とした資料のうち、本報告書の理解の増進に役立つと思われるデータ等を参考資料として添付しています。

第1章 エネルギーとしての原子力利用の現状

1.1 内外の動向

 世界で稼働中の原子力発電所は、石油危機以前の1970年には89基、設備容量にして15.6百万kWでしたが、石油危機後大幅に増加して、1998年末には422基、設備容量にして358百万kWに達して、世界の電力の16%程度を供給しています。現在、これらの原子力発電所は主として米国、欧州、日本に存在しており、これらの国々に設置されている設備だけで、世界の設備容量の約8割になります。
 しかしながら、1980年代に入り、石油危機に対応して行われた省エネルギーの促進や石油代替エネルギー普及のためのエネルギー技術開発投資の成果が現れ始めると同時に、中東地域以外における資源開発が進展し、エネルギー需給は緩和に転じました。この結果、余剰になった石油を中心に市場を通じたエネルギー取引が拡大するとともに、投資と貿易の障壁が軽減されて、エネルギー資源の国際流通が活発化・多様化してエネルギー価格が低下してきました。
 また、エネルギー供給事業の規制緩和も各国で進展しています。その結果、発電所を新設する場合、初期投資が大きく建設期間の長い原子力発電よりは熱効率が高く安価な燃料を利用でき、投資回収期間が短い石炭火力や天然ガス発電が選択されることが多く、今後とも新設計画があるのは、炭坑や天然ガスパイプライン等の化石燃料の供給源から離れているアジアの国々に限定される傾向にあります。このため、世界の原子力発電設備容量の増加率は急速に小さくなってきています。
 我が国では、1966年に商業用原子力発電を開始して以来今日に至るまで、平均で年間1.5基程度の原子力発電所の運転が開始されてきました。その結果、1998年度には51基、総設備容量にして4,492万kWの原子力発電所が稼働しており、国内総発電電力量の36.8%を供給しています。これは一次エネルギーに換算すると原油換算約7,440万トンに相当し、原油換算5.43億トンに達する同年の我が国一次エネルギー供給の13.7%を占めてします。
 なお、エネルギーとしての原子力は発電以外にも利用が可能ですが、現在のところ海外には地域暖房用に温水を供給している事例、原子炉熱を海水脱塩に利用している事例などが少数あるものの、我が国では温排水を養殖・栽培に利用している程度です。したがって、現在のところ、原子力エネルギーの利用は発電用に限定されているといって過言ではありません。

1.2 原子力発電

 我が国で運転されている商業用発電用原子炉は、商用第1号機として32年にわたって運転された東海発電所の原子炉が天然ウラン燃料黒鉛減速炭酸ガス冷却炉であることを除けば、全て低濃縮ウラン燃料軽水減速軽水冷却炉(以下「軽水炉」という)です。現在建設中あるいは計画中の商業用発電用原子炉も全て軽水炉です。ただし、燃料に関しては、今後、約1/3の発電所で、使用済燃料の再処理により回収されたプルトニウムをウラン235の代わりに利用する、いわゆるプルサーマルの採用が計画されており、このための燃料が既に搬入され、装荷を待っている発電所もあります。
 我が国の原子力発電所は、1970年代には故障が相次ぎ、低い稼働率で運転されていました。しかしながら、その後、故障に対する原因究明や対策、改良標準化等が図られて次第に故障の発生頻度が低下して稼働率が向上し、1990年代後半には毎年80%を越えるようになってきています。なお、これらの発電所の中には運転開始後30年を経るものも含まれるようになってきていますので、それらに対しては高経年化対策が進められ、さらに、いずれ実施しなければならない原子炉廃止措置についての技術的・制度的検討も進められています。

1.3 核燃料サイクル

 これらの発電所で使用される燃料は、電気事業者の発注により国内外で製造され、供給されています。この製造に必要なウラン濃縮作業は大部分が海外調達ですが、一部は国内の濃縮事業者により行われています。一方、発電所の使用済燃料は、輸送に適した水準に崩壊熱が減衰するまで発電所で貯蔵されてから、残存する減損ウランやプルトニウム等の有用成分を回収するために再処理事業者に引き渡されます。これまで再処理は主として海外の再処理事業者に委託されてきましたが、今後は青森県六ヶ所村に建設中の商業用再処理工場に委託される予定です。なお、この向上の能力を超えて発生する使用済燃料については、当分の間、引き続き発電所で貯蔵するか、今後操業開始が期待される発電所敷地外における使用済燃料の中間貯蔵事業者に引き渡され、再処理が可能になるまでの間、安全に貯蔵されることになっています。
 発電所で発生する放射性廃棄物の大部分は低レベル放射性廃棄物であり、これは青森県六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設センターで埋設処分されています。再処理工場で使用済燃料からウラン、プルトニウム等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することが計画されています。2000年3月には、この高レベル放射性廃棄物処分の実施主体の設立等を内容とする「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律案」が国会に提出されました。

1.4 原子力産業

 我が国の原子力産業は、原子力の開発利用に必要な機器、燃料、サービス等を供給する原子力供給産業と、原子力により発電を行う電気事業から構成されています。また原子力供給産業はさらに、原子力機器や部品・素材を供給する機器供給産業と、原子炉燃料加工やウラン濃縮などの核燃料サイクルサービスを提供する核燃料サイクル産業から成り立っています。
 国内の原子力産業規模は、原子力供給産業が約500社で原子力関係従事者数は約46,000人、電気事業は11社で原子力関係従事者数は約10,000人となっています。この産業は電気、機械、化学、土木等の多岐にわたる技術分野から成っており、その扱う原子力発電所の建設プロジェクト等の規模が一基数千億円と大きいこと、高い安全性の要求から高い品質レベルが要求されること等の特徴があります。原子力供給産業の売上高は1998年度で約1兆5千億円ですが、ここ数年は減少傾向にあります。なお、原子力供給産業は、医療分野、学術分野等における加速器や放射線利用機器の供給も行っています。

1.5 研究開発

 これらの原子力エネルギー利用の推進と技術の高度化のために、国と民間は様々な研究開発を実施しています。国は、日本原子力研究所や核燃料サイクル機構等において原子炉の安全性に関する研究開発、再処理技術の研究、放射性廃棄物の安全管理や処分に関する研究、燃料利用効率の飛躍的向上を実現できる高速増殖炉と関連する燃料サイクル技術の研究開発等を行っています。一方、民間は軽水炉の改良等、実用技術の経済性向上等の研究開発に取り組んでいます。こうした研究開発への投資額は1997年度、国が約3000億円、民間が約1500億円(注)となっています。


(注)平成10年エネルギー研究調査報告(総務庁統計局)によれば、我が国における1997年度の核融合研究等も含む原子力エネルギー研究費は総額約4500億円であり、このうち国・地方公共団体等からの投資額は約3000億円となっている。

1.6 今、何を検討するべきか

 現在、人間活動に起因する温室効果ガスの大気中濃度上昇がもたらす地球温暖化に対する懸念は、地球規模の環境問題として多くの国々の関心を集めており、1997年12月に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)において先進各国は、2010年頃までに達成すべき温室効果ガスの発生量削減目標を合意し、先進国は2008〜2012年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を1990年レベルよりも平均約5%削減する目標を掲げました。また議長国を務めた我が国は6%の削減目標を掲げました。
 通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会は、これに基づき2010年度のエネルギー起源の二酸化炭素排出量を1990年度水準に抑制することが求められたことなどを踏まえて、1998年に長期エネルギー需給見通しを改定しました。新しい見通しは、我が国のエネルギー安全保障上の脆弱性を改善すること、年率2%程度の経済成長を維持すること、そしてこの二酸化炭素排出抑制目標を達成するために、1)省エネルギーを積極的に推進して、約2%の経済成長率を維持しつつ、2010年度までのエネルギー消費の伸びをほとんどゼロとすること、2)風力、太陽光発電を含む新エネルギー利用の積極的推進をはかり、2010年度にはその寄与を現在の約3倍の3.1%とすること、3)原子力発電の積極的推進を図り、原子力発電による電力供給を2010年度には現在の約1.6倍の4800億kWhとすることを掲げました。しかしながら、その後の経済情勢はここで想定した経済成長率を達成しておらず、他方、原子力発電の立地が長期化していること等から、現在、改めて幅広い検討が開始されたところです。
 また、原子力に関しては、1995年12月に旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃事業団)の高速増殖原型炉「もんじゅ」で、1997年3月には同事業団東海再処理工場において事故が発生し、原子力開発利用の推進体制に対する国民の不信感が高まりました。このことを受けて1998年10月には同事業団が改組され、核燃料サイクル開発機構が設立されました。1999年9月に茨城県東海村において発生したウラン加工工場臨界事故(以下「JCO事故」という)は、原子力防災計画や非原子炉原子力施設の安全規制のあり方の問題点を国民に示し、原子力に対する社会的な不安感を更に高めました。これに対して国は、原子力災害特別措置法を制定して国、地方自治体、原子力事業者それぞれの原子力防災に係る責任を明確化するとともに、原子炉等規制法を改正して国による定期検査、保安検査の充実等をはかることにしました。
 その過程においては、高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故後に行われた三県知事による提言(注)を契機として、原子力委員会により原子力政策円卓会議が設置され、その場で開陳された様々な分野の人々の意見と討論を踏まえて、二つの提言が取りまとめられました。原子力政策円卓会議では原子力安全規制、防災対策の充実の他、様々な意見が述べられました。そこでは、21世紀において人類社会は持続可能な発展のために循環型社会の実現を目指すべきこと、国は国民生活の維持発展に必須のエネルギー供給を確保するためこの方向性と整合させつつ適切な施策を講ずべきことについては、多くの方の意見がほぼ一致していました。しかし、このために長期的観点から原子力をどう位置付けるかについては、多様な意見がありました。そこで、国は、ここに提出された論点も踏まえつつ、こうした目標の実現に向けての我が国エネルギー需給におけるエネルギーとしての原子力の位置付けを明らかにする努力を続ける必要があります。


(注)1996年1月、福島、新潟、福井の3県の知事から、内閣総理大臣、科学技術庁長官、通商産業大臣に提出された。「今後の原子力政策の進め方についての提言」
 また、現在我が国社会においては、市場のダイナミズムを通じて個々人の選択の自由を拡大し社会の効率を向上させる観点から、行財政改革、規制緩和等、経済全般にわたる一連の改革が進行しています。そこで、将来のエネルギー供給において原子力が期待される位置づけを担えるようにするためには、原子力発電事業、核燃料サイクル事業及び放射性廃棄物処理処分事業に関して国と民間がいかなる課題にいかに取り組むべきかを、こうした我が国社会の将来動向も踏まえつつ、早急に明らかにする必要があります。こうした観点から、本分科会に付託された検討事項は時宜を得た適切な課題といえます。

 

第2章 エネルギーとしての原子力利用の位置付け

2.1 21世紀のエネルギー問題

(1)歴史と展望

 エネルギーは人間社会の技術的核心部分を機能させるために必須の要素であり、資源、技術、生産能力とともに国の経済力を構成しています。世界の一次エネルギー消費量は現在、石油換算で年間約90億トンであり、戦後の半世紀で5倍近くになっています。現在の様々な物質の大量生産に基づく人々の物質的豊かさはエネルギーの大量消費に支えられているといっても過言ではありません。
 世界は、石油危機を契機に、化石燃料がエネルギーの約9割を供給している現実を踏まえて、石油備蓄と省エネルギー技術、石油・天然ガス掘削技術、原子力・再生可能エネルギーを含む各種エネルギー技術の研究開発を積極的に推進してきました。その結果、世界のエネルギー供給に占める原子力発電と天然ガスの割合が増加して石油依存度が大きく低下する一方、各種エネルギー機器の効率が向上してきました。また、エネルギー資源に関する貿易と投資の障壁が軽減された結果、化石燃料資源採掘分野においても技術革新が進行して生産性が向上する一方、資源の国際交易条件が改善されて自由競争が促進されました。
 最近の世界のエネルギー需要の増加率は年率約1.5%になっており、ここ当分の間は、エネルギー需要は増加傾向が続くというのが大方の見解です。主な増加要因は、アジアを中心に発展途上国において個人の物質的生活基盤の充実を目指す経済の発展と人口の増加が平行して進むことです。アジア地域の主要なエネルギー源は石炭ですが、近年は石油需要の伸び率が大きく、その規模は今後10年間で1.4倍になり、現在のアメリカの石油市場の半分の大きさになると予想されています。しかしながら、アジア地域内の石油生産量は今後あまり伸びず、この需要増分の大部分は域外、特に中東に向かうことになろうとされています。そこで、近年、世界の石油消費量及び中東依存度が再び上昇し始めていることを踏まえて、今後、石油の安定供給の確保をめぐって政治的緊張が高まる可能性も指摘されています。
 石油代替エネルギーとして有望な天然ガスは、パイプラインの整備に伴い、世界のエネルギー供給に占める割合が増加し、最近では20%を越える規模になっていますが、アジア地域では約10%にとどまっています。しかしながら、アジア地域は周辺に大規模な未利用資源がある一方、潜在市場が大きいことから、ここ20〜30年のうちにはこれらの開発が進み、この割合が世界水準になる可能性も指摘されています。ただ、同時に、この過程で領有権の未確定な資源産域の帰属を巡って関係国間の政治的緊張が高まる可能性も指摘されています。
 また、エネルギー消費の9割を石炭や石油といった化石燃料に依存している今日の世界が、この水準で化石燃料への依存を継続していくならば、工業製品の原材料であるこれら資源の枯渇のみならず、酸性雨や地球温暖化による被害が深刻になることが懸念されています。COP3の温室効果ガス削減目標は、地球温暖化防止を目指す国際的な動きの始まりにすぎず、いずれは世界各国で化石燃料の燃焼に伴って発生する二酸化炭素の大気中放出量の大幅な削減に取り組むことが必要になる可能性が高いと考えられています。そこで、各国で市民生活や産業活動における省エネルギー努力の一層の徹底、化石燃料の効率的な燃焼技術や発生した二酸化炭素の回収技術の開発利用、そして、原子力や再生可能エネルギーの開発利用が進められています。

(2)21世紀を迎えるに当たっての課題

 このような将来展望を踏まえると、国際エネルギー需給に関する第一の課題は、各国がその経済の維持・発展に必要なエネルギーを安定的に確保できるようにすることです。このためには、世界貿易の現実を踏まえ、各国が開かれた市場を維持し、資源開発投資のための環境の整備を含む国際的な供給能力と意欲を確保することが最も現実的な選択ですが、同時に、この供給に障害の生じる可能性に対する備えを行うことが重要です。
 その可能性とは、日本を含むアジア地域に関して言えば、第一は石油の海上交通路の安定性に対する懸念であり、第二は供給安定を確保する意図から産油国と消費国が経済的、政治的、軍事的特殊関係を強めて国際政治に緊張をもたらす可能性であり、第三には域内資源開発を巡って領有権の未確定な地域で各国の行動が積極化して、緊張が高まるおそれです。また、それにもかかわらず、アジアにおいては石油備蓄制度が不備であることもあり、緊張関係が生じた際に各国が非協調的行動をとる可能性が高いことも指摘されています。アジアにおけるエネルギーの安定供給の確保は、同時に我が国のエネルギー安定供給確保に係る課題でもありますから、我が国は、関係諸国や国際機関と連携の下、これらのリスクの顕在化を防止するとともに、その影響を緩和する努力を継続・強化することが求められます。
 第二の課題は、世界経済の伸展が予想される地域におけるエネルギー需要増の大部分は化石燃料により供給されると考えられることから、地球温暖化問題が一層深刻さを増すと予想されることに対して対策を講じることです。先進国は、問題の不確実さを認識しつつも、想定される被害が地球規模で甚大であることに鑑み、COP3において、2008年〜2012年までの温室効果ガス排出抑制目標を定めました。しかしながら、中長期的には先進国以上の排出が見込まれる途上国が排出規制の枠組に参加することが必要ですが、このことについての議論は、COP4以降も途上国の反対により進展していません。
 これらを踏まえれば、我が国は、増大しつつある地球温暖化に関する知見の示すところにも依存しますが、今後においてより厳しい温室効果ガスの排出規制を行わなければならない可能性に備える必要があります。この可能性に備える有力な手段はライフスタイルの転換を含む徹底した省エネルギー努力であり、技術持続的発展を可能にする新しいエネルギー技術の開発利用の促進です。そこで我が国は、先進国としてこれらの努力を行うとともに、その成果を成長の著しい国々に移転していくことが重要です。

2.2 我が国のエネルギー問題

(1)我が国におけるエネルギー需給の現状

 我が国の1998年度の一次エネルギー供給構成は石油52.4%、石炭16.4%、天然ガス12.3%、原子力13.7%、水力3.9%、地熱その他1.3%となっており、石油、石炭、天然ガスの大部分が輸入であることから、輸入依存度が極めて高いという特徴があります。また、輸入原油の86%が中東を供給源にしていますが、これは先進国のなかで突出して高い数字です。
 一方、同年の国民一人当たりエネルギー消費は、年間6,000KWhの電力消費を含めて、石油換算3.8トンです。これは米国の半分以下で仏、独と同程度であり、また、中国の約5.5倍に相当します。我が国のGDP当たりの一次エネルギー消費量は石油危機後急速に改善し、1994年値は100万ドル当たり155トン(石油)と、米国の半分以下です。しかしながら、1980年代後半から民生業務部門と運輸旅客部門の消費増が顕著で、この改善傾向は鈍りはじめ、90年代には悪化の傾向に転じています。
 エネルギー消費に占める電力の割合(電力化率)は、1986年には18.8%だったのが1996年には21.1%となっていることに示されるように、年々上昇しています。そのこともあって過去10年間のエネルギー需要の平均伸び率が年率1.9%であったのに対して、同期間における電力需要の平均伸び率は年率3.8%でした。しかし、今後は、電化投資が一段落することから、この伸び率は低下することが予想されており、実際、電気事業者の2000年度電力供給計画では、1998〜2009年度の電力需要の伸び率は年率1.8%と見積られています。
 地球温暖化原因の一つとされる二酸化炭素放出に注目すると、我が国は人口が世界人口の2.2%であるにもかかわらず、世界のエネルギー消費の5.4%を消費して、世界の年間二酸化炭素放出量の5.1%に当たる約3億トンを毎年放出しています。原子力発電を火力発電に置き換えると二酸化炭素放出量は更に約0.35億トン増加することになります。我が国の二酸化炭素排出の部門別割合は、産業部門31%、エネルギー転換部門39%、運輸部門20%、民生部門11%です。一次エネルギー消費量当たりの二酸化炭素排出量は0.62トンC/toe(注)で、米国の0.69トンCよりは低いですが、仏の0.40トンCよりは高い値となっています。
 二酸化炭素の発生量が少なく、エネルギーの輸入依存度を下げることが可能なエネルギー源として、水力、風力、太陽熱、太陽光、海洋、地熱、温度差エネルギー、バイオマス(廃棄物を含む)などのいわゆる再生可能エネルギーがあります。これらは資源枯渇のおそれがないこと、そのいくつかは身近に利用できることもあって、国民の関心が高まっています。しかしながら、我が国で利用されている再生可能エネルギーの一次エネルギー総供給に占める割合は、1998年度で水力3.9%、地熱0.2%、その他新エネルギー1.2%(内訳:パルプ廃材0.8%、廃棄物発電0.2%、太陽熱0.15%、太陽光・風力0.01%等)です。


(注)toe:石油換算トン

(2)今後の課題

 エネルギー資源に恵まれていない我が国は、科学技術を有効活用して産業活動のエネルギー原単位を低く押さえ、その成果を反映した製品の国際交易等を通じて豊かな社会を実現してきました。我が国が今後ともこの繁栄を続けるためには、生産活動に必須の要素である技術、資源、エネルギー、そして国際競争可能な人材の安定供給を確保する必要があります。また、我が国は、他の先進国と同様、COP3において温室効果ガスの削減目標を掲げており、この会議の議長国としてその達成に向けて最大限の努力を払うべき国際責務を負っています。
 一方、情報技術の最近の進歩は人々と技術システムとの関わり方を変えつつあり、人々に環境問題を意識した行動をもたらすインターフェイスの充実だけでも、かなりのエネルギー利用効率の向上をもたらすという実験結果も報告されています。また、化石燃料使用施設において二酸化炭素回収設備を付加することが経済性上許されれば、人類は当分の間、資源賦存量で石油を大幅にしのぐ石炭を利用し続けることができます。さらに、原子力や再生可能エネルギーという技術エネルギーについては、その潜在する巨大な供給力の一部を利用しているにすぎません。したがって、省エネルギー技術を始め、これらの可能性を引き出す技術を探索し、これを利用可能なものに変えていく研究開発活動を長期的観点から継続的に行うことは極めて重要で、これは天然資源に乏しいにもかかわらず世界でも有数のエネルギー消費国である我が国にとって義務であるとさえいえます。
 これらのことを踏まえれば、我が国は今後エネルギー需給に関連して以下の方向性を重点的に追求することが肝要です。

1)供給安定性確保策の推進、すなわち、主要なエネルギー源について、輸入先の多様化等我が国を巡る当該エネルギー源の国際交易ネットワークの多様化を図る一方、その供給が途絶える可能性に備えるため、その可能性と影響の大きさ、つまりリスクの大きさに応じた水準の備蓄を維持することです。

2)エネルギー利用効率の向上、すなわち、地球温暖化問題へ対応しつつ循環型社会を目指す観点から、ライフスタイルの転換という質的対策を含む省エネルギー努力等を推進して我が国社会のエネルギー利用効率を向上することです。

3)石油代替エネルギー利用の推進、すなわち、我が国の高い石油依存度を低下させるため、石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーといった石油代替エネルギーの利用を、地球温暖化問題への対応に配慮しつつ、増大させることです。

4)温室効果ガスを発生しないエネルギー利用の推進、すなわち、地球温暖化につながる温室効果ガスの発生率が小さい原子力、再生可能エネルギーおよびこれらによって生産される水素などの利用を増大させることです。

5)技術開発の推進、すなわち、省エネルギーの推進、エネルギー利用効率の向上、温室効果ガスの排出抑制、原子力エネルギーや再生可能エネルギーの利用等に貢献する研究開発活動を長期的観点に立って継続的に行うことです。

2.3 省エネルギーと再生可能エネルギーへの期待と課題

(1)省エネルギーへの期待と課題

 我が国では、石油危機を契機として積極的に省エネルギー対策に取組んだ結果、今日、我が国の対GDP当たりの最終エネルギー消費量は、先進国の中でも低い水準にあります。しかしながら、政府の現行の長期エネルギー需給見通しでは、2010年度における省エネルギー目標を1996年度の家庭部門の総エネルギー消費量に相当する原油換算5,600万klとしています。そして政府は、この目標を達成するために産業部門におけるエネルギー使用の合理化を徹底するとともに、これに役立つ技術開発を推進し、さらに省エネ法を改正してエネルギー多消費工場のエネルギー使用合理化に関する将来計画提出の義務づけを行う一方、(社)経済団体連合会(経団連)環境自主計画のフォローップを実施して、その実効性を確認することにしています。しかしながら、リストラや経費削減が進められている最近の産業情勢を鑑みると、省エネルギーのための新たな設備投資は停滞しており、産業界が政府の目標を達成することは、短期的には難しい状況にあります。
 民生部門においては、利便性・快適性等の追求やOA機器等の普及に伴いエネルギー消費が増加している状況に鑑み、トップランナー方式(注)の導入による特定機器の省エネ目標の設定によりエネルギー効率の向上を誘導しています。また、住宅や建物の断熱、待機電力の節減、さらにはライフスタイルの変革の呼びかけにより、省エネに向けた努力が人々の日常活動の一部となり、経済・社会活動と調和しつつ進められることが期待されています。また運輸部門では、自動車の燃費の改善強化を図るほか、クリーン自動車の普及促進、物流交通対策の推進が実施されています。省エネルギーは、再生可能エネルギーの開発とともにエネルギー政策の重要課題であり、最大限の努力が必要ですが、これらの対策を実施するには設備更新が必要な場合も多く、効果が発現するまでには時間を要することを踏まえて、施策の着実かつ継続的な実施が期待されます。
 我が国を含め現代社会は、現在のところ、基本的にはその量的発展をエネルギーに依存しています。しかしながら、今後は、この社会を持続可能な発展を実現できる循環型社会に変えていくことを目指して、大量生産―大量消費の姿を見直し、資源の効率的利用と再利用のための技術とシステムの整備充実を図り、産業やライフスタイルの在り方をこの社会に相応しい姿に変革していくことが大切です。


(注)家電・OA機器などの省エネルギー基準に、各々の製品において消費効率が現在商品化されている製品のうち最も優れているものの性能以上にする、という考え方を導入すること。

(2)再生可能エネルギーへの期待と課題

 再生可能エネルギーについては、水力、バイオマスや地熱は、他の再生可能エネルギーに比較して供給の不安定さが小さい利点がありますが、水力や地熱の国内における潜在資源は、環境および立地上の制約、送電線の敷設などの経済的制約のために開発が難しく、今後、その規模を大幅に拡大していくのは容易ではありません。したがって、今後の重点は、環境保全を重視する中小規模の水力発電所の開発や、高温岩体発電のような革新的な技術の開発に向けられるものと考えられます。
 また、立地条件や自然に左右される太陽光発電、風力発電、波力発電の大規模な導入は、これらによる電力供給が不安定で、エネルギー密度が小さく、単位発電量あたりの設備費が高いため、現在のところ風況のよい地点における風力発電や住宅等における自家需要を除いて、大規模な導入は進んでいません。なお、これらの不安定な電源が系統の最低負荷容量に対して一定の割合を超える場合は電力系統側に安定装置が必要となることも、コスト増大要因として指摘されています。
 風力発電の場合、我が国の地形は複雑で風が不安定であるため、ウインドファームとして大量に導入できる地点はそう多くはありません。しかしながら、立地点の風況調査を丁寧に実施して特性にあった風車を選択すると同時に、単機出力を1000kW程度に大型化するなどの経済性追求努力を重ねつつ、その規模を拡大していくことが期待されます。
 太陽光発電については、経済性の向上が直面する最大の課題です。このため、太陽電池の効率向上と製造コストの低減、設置工法の工夫が求められています。一方、量産によりコストを低下させるため、既に整備されている補助金等の制度を拡充して市場規模を大きくすることも検討されてよいでしょう。
 また、バイオマスの一種と言ってよい製紙工程の廃棄物である黒液・廃材や廃棄物によるエネルギー供給能力は、これらを排出する主工程の規模に左右され、資源量も限られていることから、これを需要に応じて拡大することは難しく、供給力には限界があります。しかし、循環型社会においては、最終廃棄物を減少するために廃棄物が発生した段階で適切な用途を見出し、再利用していくことが重要で、これを燃焼してエネルギーを得ることもその一つのあり方です。システム規模の包括的な検討を行って、環境優良企業の事業活動として積極的にこれを実施していくことが期待されます。
 なお、世界には再生可能エネルギーの供給ポテンシャルが大きく、その有効活用に適した国々があります。我が国が再生可能エネルギーを最大限に活用していくことは重要で、今後とも最大限の努力を行うべきですが、同時に、こうして国内において培われた技術をこれらの国々に積極的に移転していく努力も行われるべきです。

2.4 原子力エネルギーの特性と位置付け

(1)原子力の特性

(a)供給安定性と資源の豊かさ

 原子力発電は、燃料のエネルギー密度が高く、ごくわずかな燃料から多量のエネルギーを抽出することができることから(1000MW日の熱エネルギー発生で消費されるウラン235量は約1.3kgと石炭による場合の百万分の1)、数年分の原子炉運転に要する燃料を備蓄することが容易であること、ウラン資源は世界各地の主に政情の安定した国々に分散して賦存し、適切な価格で購入できること等から、供給安定性に優れています。さらに将来、高速増殖炉などウランを高い効率で利用できる技術が実用に供されれば、現在知られているウラン資源でも人類のエネルギー需要を1000年を超える超長期にわたって満たす可能性も有しています。

(b)環境適合性

 原子力発電は、発電に伴う温室効果ガスの放出量が小さいので、地球温暖化防止という地球規模の環境問題に関する制約を満たしつつエネルギー供給を確保することを可能にします。一方、原子力発電は、必然的に放射性廃棄物が発生します。電気出力100万kWの発電所で発生する低レベル放射性廃棄物は1年間にドラム缶数百本ですが、これは数百年を経ずして自然物として扱って差し支えないものになります。また、再処理廃棄物である高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体で毎年約30本(ガラス固化体仕様:体積約150リットル、重さ約400kg)発生しますが、長期間にわたり高い放射能が持続するので、そのことを踏まえた管理・処分を行う必要があります。これは、我々の足下の地殻が放射性物質を含んでいるにも関わらず特段の健康上の問題が生じていないことを考えて、その放射能がそうしたレベルに減衰するまで隔離する方式として深地層に処分することが各国で計画されています。1999年11月に核燃料サイクル開発機構が原子力委員会に提出した「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について―地層処分研究開発第2次とりまとめ―」によれば、大陸に属さない我が国の地理的条件でもこの目的に適う適切な処分場の設計が可能であり、これにより処分を行っても我々の子孫の放射線環境を変える可能性は無視できるほど小さいとされています。
 しかしながら、この処分の実施主体をかなり以前に決定した国の多くが、その後、立地点について地域社会の理解を得ることに苦労しており、現在、現実に処分を開始できているのは高レベル放射性廃棄物ではなく、軍事施設からの超ウラン元素を含む廃棄物を岩塩層に処分する米国のWIPPプロジェクトだけであることを踏まえれば、その推進にあたっては大変な努力が必要であり、国民の理解と協力を一歩一歩得ていくことが不可欠であることを当事者は肝に銘じるべきです。

(c)経済性

 原子力発電は化石燃料による火力発電に比べて発電コストに占める燃料費の割合が小さいことから、化石燃料価格の動向に左右されないのは勿論、ウラン価格の変動に対しても安定性が高いという特徴を有しています。各種電源の発電コストは、資源や人件費、資本費がそれぞれの国の経済システムや資源流通機構の整備状況に依存するので、国によって異なります。最近の国際的な試算例によりますと、発電所を新設する場合、原子力発電は、安価な化石燃料の供給源近傍では火力発電に対して競争力がない事例も見られますが、化石燃料の輸送コストのかさむ資源輸入国において稼働率が高い運転を行う場合、化石燃料発電と比べて経済性が優れているとされています。なお、通産省の試算によると、我が国において原子力発電の経済性は、現実的と考えられる経済的条件の下では、化石燃料発電のそれと遜色ないものとなっています。

(d)安全性

 原子力発電所は大量の放射性物質を内在するため、公衆がその発生する放射線を過大に受けて健康を害する可能性(リスク)を十分小さくできるよう、重層な安全設計と安全管理が重要です。実際、このような設計と安全管理を行っている原子力発電所のkWh当たりの公衆および従業員リスクは、他の発電方式のそれに比べて小さいと報告されています。
 しかし、放射線を五感で感じることができないことや安全確保の姿が見えにくいこと、1986年に発生した不完全な格納容器しか有していないチェルノブィリ原子力発電所事故の被害の大きさ、さらには、昨年発生したJCO事故の経験から、現在、人々は原子力施設の安全性に強い不安を抱いていることがアンケート調査によって明らかになっています。原子力の場合、事故が起きれば、国内はもちろん国境を越えて原子力の安全性に対する公衆の不安を高めることがたびたび経験されていますから、原子力関係者は、このことを踏まえて、安全確保に対する取組を最優先に行わなければなりません。

(e)核不拡散への配慮

 原子力発電の燃料に使われる物質やその技術の一部は核兵器の材料やその製造に転用可能とされていますので、原子力開発利用を推進するに当たっては核不拡散への配慮が必要です。我が国は核拡散防止条約に加盟して、その物質・取り扱い施設・技術を国際原子力機関(IAEA)の保障措置のもとに透明性高く管理し、そのことをもって濃縮・再処理などの機微技術の実用化やプルトニウム利用に関して国際社会の理解を得てきています。今後とも二国間協定を含む国際約束を遵守することは勿論、核不拡散に対する取り組みの実効性を向上する観点から、機微技術に関する情報や国際規制物質の適切な管理のみならず関連技術開発の充実を心がけることが大切です。

(2)我が国のエネルギー供給における原子力の位置付け

 エネルギー資源に乏しい我が国が、繁栄を持続しつつ21世紀に相応しい循環型社会の実現を目指して、エネルギー分野が当面する課題の解決を図るには、省エネルギーと非化石エネルギー利用を引き続き最大限に推進することが重要です。このうち省エネルギーについては、エネルギーの利用効率の向上のみならず、市場に対する経済的手段によることも含めて社会の様々なシステムの変革にも挑戦し、これを一層徹底する努力を継続するべきです。また、非化石エネルギーのうち再生可能エネルギーについては、当分の間は水力を除いて補助的な水準を超える役割を期待するのは難しいと考えられますが、分散型エネルギーである特徴を活かしてこれを活用していくなど最大限の導入努力を行うべきです。
 原子力発電は基幹電源として安定した電力供給の確保に引き続き貢献することが期待できますから、万一の事故のもたらす被害の大きさ、核拡散がもたらす国際社会の緊張の大きさに十分配慮し、これらの発現可能性を十分小さく制御しつつ、我が国のエネルギー供給源の多様化を図り、石油依存度を低下し、自給率を向上させ、エネルギー起源の二酸化炭素排出量の低減を目指して、その構成割合を適切に維持していくことに努めるべきです。

 

第3章 原子力エネルギー利用の具体的展開の基本的考え方

 本章では、第2章に示したエネルギーとしての原子力利用の位置付けを踏まえて、原子力発電や核燃料サイクルなど原子力エネルギー利用に関係する各分野における具体的展開を検討する前提となる、平和利用に徹する姿勢、安全確保への取組、国と民間の適切な役割のあり方について述べます。

3.1 平和利用への限定

 我が国は、原子力基本法の制定以来一貫してこの法律に則って、原子力研究開発および利用を厳に平和目的に限って推進し、進んで国際協力に努めてきています。我が国は、「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」締約国として、核兵器を持たないことはもちろんのこと、IAEAによる厳密な保障措置を受け入れるとともに、国内保障措置制度を確立し、これを確実に実施するなど、この条約に求められているところを誠実に履行してきています。その上、我が国は、原子力の平和利用活動には高い透明性と緊張感が求められていることを認識しており、特にプルトニウム利用の透明性向上の観点から、毎年のプルトニウム管理状況を公表するとともに、国際プルトニウム指針に基づき、プルトニウム利用計画およびプルトニウム保有量をIAEAに報告・公表するなどの取組を行ってきています。
 資源の乏しい我が国は、国際社会において平和裏に生存していくため、世界の自由貿易体制の中で、国際協調を基調として繁栄を享受していく道を選択しています。我が国は、広島・長崎における原子爆弾の被爆などにより、核兵器のもたらす悲惨さを身をもって体験しており、自らが核兵器による加害者となるような政策は国民感情として受け入れられません。このような感情は戦後50年以上を経過した現在においても、我が国社会にしっかりと受け継がれており、それが我が国の原子力の平和利用の厳守および核兵器廃絶への願いの原動力となっています。それに、我が国が平和利用以外の用途に原子力を利用することは、アジアを中心とした国際的緊張と反発、総合安全保障の喪失、国際的孤立を招き、国内経済の破綻をもたらすことが確実です。したがって、我が国がそのような途を選択することはあり得ません。
 我が国がエネルギーとしての原子力利用を進めるに当たっては、今後とも、以上の基本的考え方に立って、これらの認識を維持し、取り組み等を厳守していくこととします。また、憲法の前文を踏まえて、我が国が培ってきた原子力を含めた科学技術力を活かし、進んで世界の長期的なエネルギー問題解決と世界の安定した秩序の維持・発展に貢献していくこととします。

3.2 安全の確保

 全ての産業において、その事業を遂行するに当たっては、安全の確保が最も重要な事項であることはいうまでもありませんが、大きな危険要因を内蔵する原子力施設を扱う事業においては、このことが特に強調されるべきです。原子力開発利用活動の安全確保に関しては、1)国の規制責任、2)事業者の保安責任、3)万一の災害発生に備える防災計画の実効性を担保する国、自治体、事業者の責任、の3つの責任が十分に果たされなければなりません。さらに、これら関係者は、その責任を適切に果たしていることを国民に常に明らかにして、国民に信頼されていなければなりません。

(1)安全の確保に係る国の責任

 国は、原子力の開発・利用活動に関しては、これを実施できる技術的能力と経理的基礎を有する者に限って、従業員と公衆のリスクを十分小さくできる性能を有する設備を用いることを条件に、許可しています。そして国は、許可取得者の活動が許可条件に適合していることを各種の検査を実施して監査しています。
 この許可を行い、その許可の条件が遵守されていることを監査する責任を有する行政機関は、国民や許可取得者から尊敬され、信頼されていなければなりません。このためには、1)規制行政の担い手と原子力利用促進行政の担い手を効果的に分離すること、2)規制行政の担い手はその活動を効果的かつ効率的に行うこと、3)規制活動に係る正確かつ明確な情報を国民にタイムリーに提供し、規制に係る決定に際しては国民に意見を求めるなど、国民に意味のある役割を与えること、等が重要とされています。
 我が国では、規制行政組織とは別に学識経験者の合議体である原子力安全委員会が内閣総理大臣の諮問機関として総理府に設置され、原子力安全に関する重要事項の企画、審議、決定を行い、行政組織がそれを尊重しつつ行う規制行政事務を実施し、さらに安全委員会がその状況を把握して適切に指導することにより、規制行政の中立性と専門技術的妥当性が確保される仕組みになっています。国は、これらの仕組みを通じて、厳格な安全確保の考え方の徹底を確保し、さらに、国の安全性の確保に対する取り組みの透明性を高めることが国民に安心を与えることを認識して、これらの活動について適宜適切に国民に説明することが重要です。また国は、行政運営の在り方、特に新しい決定を行うに当たってはその決定について、国民の意見を求めてこれに反映することにより、安全の確保に関する国の規制責任が十分かつ効果的に果たされるようにすることも必要です。規制緩和の時代にあっても、エネルギーとしての原子力の開発利用に関しては、公益の観点から未然防止されるべき危険要因の発現防止のために、国は厳格に規制を行うことが求められています。

(2)事業者の責任

 国の規制内容の如何に関わらず、原子力施設の運営管理責任者である事業経営者には、当該施設の安全確保に関する第一義的責任があります。この責任は、法的な責任のみならず、社会の維持・発展を支えるエネルギー供給を担う者として求められる社会的責任を含みます。当該経営者は、このことを自覚して、高い安全確保を実現する経営にリーダーシップを発揮しなければなりません。そのためには組織に安全を最優先にする気風を植え付け、教育・訓練等を通じて必要な人的資源を開発・管理し、競争者との比較やベンチマーキングを含む適切な情報収集と分析を含むプロセス安全管理活動を推進し、さらに施設周辺の人々の満足度を含む各種の安全指標を通じて安全管理活動の成果の評価を行い、こうした活動の改善に反映していくことが重要です。
 これら安全確保に関する活動は、原子力施設の運転管理に携わる人々のネットワークを通じた相互学習により、より効果的に行えるので、これを整備することも重要です。このネットワークとしては、世界の原子力発電所運転者が整備している相互訪問を含む相互学習システムである世界原子力発電事業者協会(WANO)がありますが、JCO事故を契機に我が国の原子力関係者がニュークリアセイフティネットワーク(NSネット)を整備し、さらに核燃料加工事業者が世界核燃料加工安全ネットワーク(INSAF)を設立し、経験交流活動を展開していこうとしているのは適切です。
 さらに、事業者には、これらの活動を踏まえつつ、国民にその活動の実態を適宜適切な方法で公開し、国民の関心に応えることによって、信頼される存在であり続けるよう努力することが求められます。

(3)防災の実効性確保の責任

 国が原子力開発利用活動に限らず、安全規制に係る許可を行う場合、被害の発生確率がゼロであることを条件にしてはいませんから、小さいけれどもゼロではないリスクが生じます。そこで、この許可に伴い、国にはこのリスクの内容や起き易さに関する情報を国民と共有し、その内容に応じて適切な防災計画を整備する責任が生じます。1999年末に成立した原子力災害対策特別措置法は、国に防災初期活動の開始と内容決定の責任を持たせるとともに、主要な原子力施設所在地近傍に「緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)」を予め設け、事業者から緊急事態の発生の通報があった場合には、その機能を活用して国と自治体の強い連携により通報内容に応じた臨機の措置を実施していくことを定めています。今後は、国は対策の基本と適応範囲を臨機に示すことができるよう、事業者の防災業務計画の充実を求めるとともに、オフサイトセンターを有効に活用して、自治体が状況に応じた実効性ある防災対策を迅速かつ的確に決定・実施できるよう、定期的に防災訓練を実施し、確認していくことが肝要です。

3.3 信頼の確保

 原子力の開発利用の事業に携わる組織が社会の一員としてその事業を遂行していくことができるためには、その組織が社会の信頼を得ていることが重要です。信頼とは相手が適切な行為をなすことを信じて委細を任せることですから、原子力組織がこの委任を受けるために第一に必要なことは、その活動が国の政策に整合的であり、国の信頼できる安全規制が課せられており、安全を確保するのに必要十分な技術システムが採用されていることが明らかであることです。
 また第二には、その活動に係る技術者、組織、その背景にある文化などが原子力施設の安全確保に係る責任を果たすために必要十分であること、そしてそのことが社会に伝わることが必要です。そこで組織のリーダーは、安全を最優先にする方針が隅々まで徹底していて、安全に関することが十分な知識を有して、健全な判断に基づいて責任感をもって実行され、失敗したときにはその事例と教訓が広く伝えられ、その経験が共有される組織かどうかを常に確認するとともに、構成員の一人一人が社会一般と価値観を共有する良き社会人であるとともに、高い倫理観を持つことを求めるべきです。
 同時に事業者は、安全確保活動に関して透明性を高め、運転データなどの情報、あるいは事故・トラブル情報などいわゆるマイナス情報についても事故故障評価尺度などを活用しつつ、内容をわかりやすく社会に伝えるなど、積極的に情報公開を進め、最新の情報技術を活用して地域住民が施設の運転管理状況を直接観察できるホームページを開設するなどの努力を継続して、原子力関係者の顔が社会の中で見えるようにしていく努力を重ねることです。こうした活動は、社会との情報共有のためのみならず、いつも卓越を求めてこれでよいかと自問する機会を提供し、すぐれた安全文化を育むためにも有効と考えられます。
 また、原子力発電を進める上では、内外の陸上および海上における核燃料物質や放射性廃棄物の輸送が必要です。これらの輸送に当たっては輸送に関する法令に基づき万全の安全対策と核物質防護対策を講じるとともに、輸送経路にある国や地域の人々に対して十分な説明を行い、信頼を得ることが重要です。

3.4 国と民間の役割の考え方―自由化時代の原子力開発利用

 市場経済社会においては、企業家の自己責任に基づく自由な事業活動が市場を通じて競争的に行われる結果、高い効率を生むことが期待されますから、国は、我が国が多くの良質の企業家にとって好ましい活動の場となるよう技術、資源、エネルギー、高い水準の人材の安定的供給を確保し、市場を整備して競争を促進し、公益の観点からこれを規制して、国民生活の質を維持・向上することを目指すことになります。
 このうちエネルギー、特に電気は国民一人一人の生活や社会の技術的核心部分を機能させるために必須の要素であることから、これまで国は電気事業者に地域独占を許す一方供給義務を課すなどの規制を行ってきました。しかしながら、技術の進歩が事業運営における柔軟性を拡大してきたことを踏まえて、2000年3月よりはこれまでの発送電一貫の地域独占型電力供給体制から転換して、発電市場の一部自由化や特別高圧系統で受電する大口需要家への電力小売りを自由化しました。この電気事業の自由化は、競争原理を導入して電力事業の効率化を促し、生活や産業活動の基盤的な財である電力価格を低減し、国民生活を向上し、我が国産業の国際競争力強化をもたらすことが期待されています。一方、既に自由化の進んでいる海外においては、電気事業における経営計画期間の短期化や供給信頼性の低下など、自由化の弊害も指摘されています。
 また我が国では、従来、電気事業者にはエネルギー安全保障の確保、地球環境問題への対処等の公益の担い手としての経営が要請されてきましたし、現在も、電気が国民生活や産業の基盤となっていることから、低廉な供給の要請に加えて、広く全ての地域の人々に平等な条件で電力を供給することや、供給信頼性を維持する責任が課せられています。そこで、この自由化政策の効果については、3年後を目途に検証が行われ、自由化の実施範囲、制度等の見直しが行われることになっていますが、そこでは、これら公益追求の在り方についても考え方を明確化し、必要に応じて適切な施策を検討することとされています。
 このような経営環境においてエネルギーとしての原子力利用が期待される役割を果たしていくためには、まず、電気事業者が既設の原子力発電所並びに関連施設を着実に運転することが必要です。国には、電気事業者が知恵と工夫でこれら設備から最大限の利益を追求する活動を安全確保に係る許可条件の範囲内で適切に行っていることを検査を通じて適宜に監査し、必要に応じて是正措置を求めていくことが求められます。
 一方、電気事業者には、事業の健全な維持発展のために、将来の経営環境を予測して、競争力を失う設備を廃棄し、そこで競争力のある供給技術を選択して発電所として建設していくことが期待されます。この場合、良質な企業は、新しい経営環境を予見し、この環境においても存続できる事業体を実現することに俊敏ですから、既に経団連の環境自主行動計画に見られるように、他の関心を同じくする企業と連携協調して、エネルギー安全保障や地球環境問題に対する投資を政府に先んじて、あるいは政府と連携・協力して行うことが期待されます。なお、民間が集団活動を通じてこのような計画を推進していくことができるためには、参加者それぞれがこの活動に伴う利益を公平に享受できる仕組みを用意することが肝要であるとされています。
 一方、国には、こうした民間の投資活動の結果、原子力発電や再生可能エネルギーの規模がエネルギー安全保障や地球環境問題に係る国際約束を遵守する観点からの目標を達成するように、状況に応じて適切な措置を講じる責務があります。この措置としては、事業許可基準規制や量を規制する統制型の直接規制と課税、補助金、排出権市場などの市場型の経済手段があるところ、国は、目標達成に対する費用対効果、公平性、透明性の要請などを勘案しつつ、新しい市場条件下における合理的な手段を選択するべきです。
 さらに、将来の経営環境においても原子力発電技術や再生可能エネルギーが電気事業者にとって合理的な選択肢の一つになるように、この技術が他のエネルギー供給技術と競争していくことができる可能性を有する有望な選択肢を探索し、その実用化可能性を実証し、意欲ある民間事業者の実用化活動に備えることも政府の仕事です。こうした技術の潜在的可能性を顕在化させ、技術の実用化可能性を明らかにする研究開発に想像力と冒険心をもって挑戦していくことは、人類全体の安全保障に係る先進国の責任でもあります。その内容は将来の実用技術の探索を含む基盤技術の研究開発と新しい技術の実用化可能性を実証する研究開発があります。前者の研究開発は大学、国の研究機関が主として実施することになりますが、新しいアイデアの探索を行う研究は提案を広く民間からも公募して効果的な研究開発を行うこと、科学技術で社会のニーズに応えようとする応用研究が基礎科学の新分野を生み、基礎科学の興味に基づく基礎基盤的研究が新技術を生む可能性に着目して基礎研究と応用研究の連携協力を強化していくことが重要です。一方、公益に資する新しい技術体系の実用化を目指す大型の研究開発は、国の研究開発主体を中心に市場展望を踏まえた意欲ある民間とのパートナーシップで進めることが重要です。
 もちろん、研究開発に対する投資の優先度は、それぞれの研究開発の期待利益のみならず、競合研究開発の進展や、経済社会の将来見通しによって変化すること、開発の進展によっては民間の開発努力に移行することが適切な段階に至るものが出てくることから、国は定期的に研究開発計画を再評価していくことが重要です。
 なお、研究開発活動や民間事業を安定的かつ継続的に進めるために必要な人材育成は、国と民間がそれぞれ、将来における研究者・管理者・技術技能者・現場作業員等の人材需要を見定め、両者が連携し取り組むべき重要な課題です。国と民間は、それぞれの立場から、長期的な視点に立って着実に進めていくことが重要です。

 

第4章 原子力エネルギー利用の着実な展開

4.1 軽水炉利用

(1)軽水炉利用の展開

 原子力発電施設は、初期投資が大きく回収までに時間がかかることから、将来の社会的・政治的環境の変化に起因する事業リスクが大きいとされています。しかし、安定した高稼働率運転を行うことができれば、軽水炉による発電原価は他の電源と十分に競合できるものとの試算もなされていますので、電気事業者には、既存の軽水炉発電施設をできる限り長期間にわたって、安全確保に万全を期しつつ、高い稼働率で運転していくことが期待されます。このため、安全確保を最優先にするとの原則のもとで、リスク評価結果を適切に活用して、リスクを有意に変えない範囲で定期検査期間の短縮や長期サイクル運転等が可能となるような技術的工夫を導入することについても検討することも望まれます。
 また、2000年5月現在、4基の軽水炉が建設中ですが、軽水炉の新増設については立地の長期化が近年顕著です。電気事業者においては地域社会の理解を得て計画の実現を図るために、引き続き着実な努力を継続することが期待されます。
 軽水炉利用の今後の展開において考慮すべき重要な事項は、高経年炉の安定運転の維持です。運転開始から20年以上経過している発電所は20基に上りますが(2000年6月末)、これまでのところ運転年数の増加によりトラブルが増加する傾向は認められていません。しかしながら、これらの安定運転の継続は我が国軽水炉利用の安定的継続の根幹をなすと考えられますので、海外の高経年プラントの経験を踏まえて10年毎に行われる定期安全レビューなどの機会に、機器や素材の経年変化を早期に検出する点検活動を重点的に実施するとともに、その結果に基づいて適切な予防保全活動を行っていくことが重要です。

(2)安全規制の高度化

 安全規制活動はリスク管理活動ですから、論理的に一貫していて明確で相互に整合的な規制活動を行うことが求められます。リスク評価技術の進歩により、こうした安全規制に有用なリスク情報がタイムリーに得られるようになってきていますから、国の安全規制組織は、この情報を参考にして透明性の高い各種決定を行うことを指向することが望まれます。また、こうした規制活動に必要なリスク評価を含む技術的専門的判断を支援し、新しい技術や方法論を提供する規制に関する研究を充実していくことも重要です。特に、近年、経年変化の早期発見には材料構造研究の充実が、安全確保に重要な組織や人の健全性について的確な監査を可能にするためにはヒューマンファクター研究の充実が重要とされています。
 なお、規制行政組織による許可取得者の監査に当たっては、専門的知識を有する民間の第三者機関を活用して的確に実施し、安全確保に対する不断の緊張感の維持を図ることも、効果的かつ効率的な行政活動を実現していく観点から積極的に検討されるべきです。このような活動の国際展開は、今後拡大すると見込まれる国際調達の際の品質保証活動を充実することにも貢献することが期待されます。
 さらに国には、海外の規制の動向や国内のこれまでの運転実績を踏まえて、国内基準と国際基準の整合を図ることや、技術の進歩、新しい知見をより迅速にとりいれることができるよう、技術基準の機能性化を図り、性能保証の具体的基準については優れた内外の民間基準に認証を与えて採用するなど、規制行政の高度化について検討を進めることが望まれます。このためには、国内の技術基準等について専門に検討する組織やその成果を国際的に発信していく活動を支援していくことが肝要です。

(3)次世代炉の研究開発

 現在の軽水炉の次の世代の軽水炉を開発するに当たっては、将来社会の要請を予測しつつ、設計要求を確定していく必要があります。現在考えられる範囲でも、将来の軽水炉は安全性、信頼性に加えて、原子力発電に対する安心感や他の電源との経済競争力、多様な立地条件への適合性、環境問題に対する貢献等、様々な要求を満足させる必要があります。このような要求を満たすための開発の方向性としては、従来の技術を改良発展させる方法と全く新しい革新的な技術を取り入れた概念を追求する2つの方向性があります。なお、軽水炉の将来の高度化の方向性のもう一つの次元として、炉の規模があります。具体的には、従来にも増してスケールメリットにより建設単価を引き下げることを目指す大型炉の開発と、単基当たりの建設費を抑制しつつ、受動安全特性の採用などにより経済性を追求する新概念を導入していく革新的な中小型炉の開発が想定されます。
 基盤技術は開発済みで、実用化のための技術開発と実証が残されている改良発展型大型軽水炉の開発は、民間が主体となって行うこととします。一方、革新的原子炉に係る概念探索や枢要要素技術の開発などは、国の研究機関と産業界,大学等が協力して実施していくことが必要です。また、これらの研究に当たっては、官学民共同で横断的に評価を行うことも必要です。なお、将来において次世代炉等の導入の際に必要となる、安全性の確認等の観点から必要なデータ整備等に係る研究については、これまで通り、国が中心となって行う必要があります。

4.2 原子力供給産業

(1)最近の情勢

 1999年12月に公表された日本原子力産業会議の調査によれば、1998年度の鉱工業の原子力関係売上高は、2年連続の大幅な減少となっており、1992年のピーク時の約67%となっています。中でも電気事業者への納入比率は5年連続で低下し、1993年のピーク時の79%から65%にまで低下しています。これには、国内電気事業者が、経済のグローバル化と共に、経済性を追求する過程で原子力に関連する資機材、燃料等の国際調達を活発に行うようになってきていることも関係しています。我が国原子力供給産業もこのような市場構造の変化への対応を迫られており、経営の効率化を一層進めると共に総合的な産業戦略の立案が求められています。
 目を世界に転ずれば、欧米では経済のグローバル化および原子力の開発・利用に対する社会および経済環境の変化に起因する原子力市場の低迷を踏まえて、事業の多角化や競争力強化のために原子力供給産業の国際的な再編が進んでいます。特に、欧州ではフランスのフラマトム社とドイツのジーメンス社が2000年第3四半期に原子力部門を統合して新会社を作ることを発表しています。イギリスの英国原子燃料会社(BNFL)は、アメリカのウエスティングハウス社(WH)の原子力部門を買収し、さらにスイスとスウェーデンによる合弁会社であるアセア・ブラウン・ボベリ社(ABB)の原子力部門の買収も発表しています。また、アメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)および日本の(株)日立製作所と(株)東芝は、3社の原子燃料事業を1999年に統合しています。一方、アジアでは今後のエネルギー消費の増加が見込まれることを踏まえて、インド、中国等で建設中の原子力発電所に加えて、さらに新たな計画も進行中です。

(2)人材確保と技術の継承・発展

 我が国の原子力産業は、原子力発電所の建設基数が増大する発展期を経て、現在ではメインテナンスの比率が高まりつつある成熟期にあります。実際、前述の日本原子力産業会議の調査によれば、電気事業に関しては、ここ10年の建設費や研究開発費の支出高は減少傾向にある一方、プラントの運転に関連した運転維持費や技術系従事者数は増加傾向にあります。また、1998年度の鉱工業の原子力関係従事者数のうち技術者、研究者、技能者数は、いずれも過去10年のピークに比べ10〜40%減となっており、鉱工業の原子力関連の研究関係支出高は、過去10年のピークより45%減となっています。
 一般に、事業経営では、将来予想される市場規模に見合った人的・資金的原資の投入が行われるため、電気事業における原子力発電所の新増設計画の進行状況を踏まえれば、原子力供給産業においては今後、経営原資の投入量が低下することが予想されます。そこで、プラントの安全運転の確保については、電気事業の運転維持費や技術系従事者が増加傾向にあること等から、特に困難が生じるとは考えられませんが、建設部門や原子力供給産業においては、設計や物作りに関連する分野においてこれまでに蓄積された技術力・人材を従来通りの規模で維持することは困難になることが予測されます。
 したがって、原子力産業界は、各分野の人材を将来の市場規模を踏まえて適正規模に集約し、技術力および製造力の維持・発展、継承を図るための方策を検討し、高い事業競争力を確保・維持するため、常に品質および価格競争力を高め、今後とも安全性のみならず技術的および経済性に優れた社会が求める原子力エネルギー技術・製品を提供できる実力の保持・発展に努めるべきです。それと同時に各企業は、常に最新の技術を取り込む努力を継続するとともに、企業内での教育訓練等を充実させ、それまでに蓄積された技術を企業内において発展させ、将来世代へ着実に継承する努力を行うことが期待されます。特に、今日の目覚しい情報技術(IT)分野における技術成果の活用も含め、革新的な技術を導入して、設計、製造はもとより運転・保守性の向上をも追求し、原子力の更なる経済性の向上を目指すことが必要です。また分業化が進展する中で、システム全体を見渡せるような経験豊富な人材がもつノウハウ等を確実に次世代へ受け継いでいく努力も求められます。
 こうした技術力や人材の維持・発展、継承は、物作りを継続することで効果的に達成されますから、電気事業者が計画している原子力施設の建設が着実に進展するよう立地地域住民や国民の理解を得る活動に協力することや、高い安全性を有する機器・プラントを国内市場のみならず積極的に海外市場にも供給していくことにも力を尽くすことが重要です。また、中国では現在、熱利用を目的とした小型原子炉が都市近郊に建設されていますが、電力利用のみならず熱需要に原子炉熱を利用することや中性子・重粒子線等を医学に利用する技術の市場にも積極的に展開していくことが重要です。さらに、日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構等の国の研究機関と民間事業者との間で、技術協力協定を拡充し、共同研究や人材の交流等、相互の人的・技術的交流を促すような体制をつくり、我が国全体としての人材・技術力の維持・継承、発展を図るよう努力することも重要です。

(3)競争力の向上と国際展開

 我が国の原子力供給産業は、これまで、主として国内の電気事業者をユーザーとして、これに機器材やサービスを提供することで成り立ってきました。しかしながら、今日、電気事業者は電源間競争力を高める観点から、国内のみならず国際市場を通じてより安価な資材、サービスの調達を図っている状況にあります。したがって原子力供給産業においても、経営の効率化や事業競争力の確保の観点から、国内活動のみならず国際入札への応札や製造拠点の国際化、さらには国境を越えた企業提携等も視野に入れた国際展開や、事業の再構築や業界の再編成等を視野に入れて、経営体質を抜本的に強化し、企業の技術や経営資源を十分に活用しつつ国際的なコスト競争力と技術力を維持する努力を行うことが重要です。
 また、原子力供給産業は、近年のアジアを中心とする国際社会における原子力の環境変化を踏まえ、アジア諸国からの引き合いに応じて、機器供給を中心とした国際展開を積極的に図るべきです。将来、我が国の高い安全性を持つ軽水炉技術を輸出するにあたっては、世界のエネルギーの安定供給や環境問題の解決に寄与する視点に立って、単に軽水炉プラント機器の供給だけではなく、我が国で培われた安全思想とセットで国際展開することで、国際社会への責任ある貢献を果たすことに配慮することが重要です。また、将来の実用化を目指すような技術の研究開発に当たっては、我が国で生まれた基本的な技術概念を世界レベルで共通化し、将来の国際標準化を目指すような取り組みも重要です。
 なお、国は、こうした民間活動の国際展開の進展にあわせ、核不拡散等の安全保障上必要となる二国間協定締結相手国の拡大、原子力エネルギー利用のための安全規制や原子力損害賠償制度などの法整備、さらには基礎技術レベル向上のための技術協力等、必要な環境整備を行っていくことが重要です。

4.3 核燃料サイクル

(1)基本的考え方

 核燃料サイクルに関する研究開発の目標は、原子力が長期にわたって人類にとって有力なエネルギー供給技術の選択肢であり続けることを可能にする技術システムを実現することです。このため、安全性、経済性に優れ、燃料であるウランをなるべく効率よく、かつ環境適合性が高い方式で利用できる原子炉とその燃料サイクル技術の実用化を目指して、天然ウランの探鉱・精錬・転換技術、ウラン濃縮技術、高い燃焼度を達成できる炉心・燃料製造技術、使用済燃料から燃料に利用可能な成分を効率よく回収する再処理技術、こうして回収されたプルトニウムを燃料とするプルサーマルや高速増殖炉及びそれらに関連する燃料サイクル技術、再処理廃棄物の処理処分技術、さらには、使用済燃料に含まれる長寿命放射性核種の分離変換技術等の研究開発が行われてきました。
 国は、これらの成果を踏まえつつ、使用済燃料は再処理して、回収したプルトニウム、ウラン等を再び利用していくことを政策の基本とし、民間事業者が原子力発電事業を推進するに当たってこの基本的考え方に沿って活動することを求め、同時に、上に述べた研究開発の成果がこの活動に速やかに活用されることを期待する観点から、これらの技術の実証段階から民間に適切な投資を求めてきました。その結果、現在、ウラン濃縮や再処理の分野で民間事業者により国内において事業活動が展開されつつあります。
 原子力発電は、現在、我が国のエネルギー供給の輸入依存性を引き下げてエネルギー安全保障に貢献しています。核燃料サイクル技術がこのような特性を向上させ、それが国内で実用化されていくことはこの貢献を一層確かなものにすること、これらの研究開発の成果は人類社会が持続可能な発展を支えるエネルギー技術の有力な選択肢として長期にわたって原子力を利用していくことを可能にするので、そのような普遍的性格を有する技術の実用化を目指して先駆的な研究開発活動を実施していくことは、資源に乏しい我が国が国際社会において生き続ける一つの有力な手段であることから、我が国がこれらの研究開発活動を今後とも継続的に実施していくことは適切です。
 なお、この研究開発の成果については、それぞれの技術候補の実用化利益、安全性、経済性、核不拡散への配慮、環境適合性の観点からの実用化可能性および実用化に要する費用の推定を踏まえつつ定期的に評価を行い、それに基づき研究開発投資規模および研究開発対象技術を適切に決定していくことが重要です。また、この評価に当たっては、社会の多様なセクターからの意見を積極的に聴取することが重要です。
 また、我が国の核燃料サイクル事業は、今後、海外の同一サービス供給事業との市場における競争場裏において、他のエネルギー供給技術と競争して電気事業者を顧客として維持・獲得していくことが期待されますが、国は、この事業が原子力のエネルギー安全保障上の役割を確実なものとするためには核燃料サイクルの技術基盤を国内に維持することが重要との観点から、その活性化を促す環境整備を図るとともに、これら事業経営活動の健全性について評価し、必要に応じて、適切な改善を求めていくことが適切です。
 なお、この事業を進めるに当たっては、平和利用の担保と国際的なルールの下、利用目的のない余剰のプルトニウムを持たないとの基本的な方針を遵守すること及びプルトニウム利用の透明性の向上に努めることが引き続き必要です。

(2)天然ウランの確保

 我が国は、長期購入契約等により今後10年近くの天然ウランの必要量を確保しており、当面の需給動向および天然ウラン供給国が政治的に安定した国であることを踏まえると、我が国電気事業者は引き続き適切な価格により天然ウランの調達が可能と考えられます。しかしながら、天然ウランを安定的に確保することの重要性を踏まえれば、鉱山開発のリードタイムの長期化、ウラン産業の寡占化の進行等にも留意して、適切な量の備蓄を保有する一方、供給源の多様化に配慮しつつ、引き続き長期購入契約を軸とした天然ウランの確保を図り、状況に応じて自主的なウラン探鉱活動、鉱山開発への経営参加等を進めていくことが重要です。
 なお、旧動力炉・核燃料開発事業団は、民間のこうした活動を補完することを目的として、海外においてウランの探鉱活動を実施してきましたが、動燃改革により設立された核燃料サイクル開発機構は、天然ウラン市場状況の今後の見通しや核燃料関連事業の進展等を踏まえて、新たなウラン探鉱活動は行わないこととし、確保している4万トン弱の権益のうち、主要な権益と探鉱技術は国内民間企業等に適切に移転することにしています。国内民間企業に譲渡される権益については譲渡後最低限5年間は保有されることになっていますが、さらに長期にわたって維持するが期待されます。なお、今後の探鉱活動は、他のエネルギー資源・鉱物資源同様、当面は民間に委ねることが適当です。
 海水中に含まれるウランについては、その賦存密度が極めて低いことから現時点では経済的事業が可能となる見通しを有していないため、経済性向上のための研究開発努力を継続し、長期的に、天然ウランの需給動向を見極めつつ、今後の対応を検討すべきです。

(3)ウラン濃縮

 世界におけるウラン濃縮役務市場の需給は、今後も当面の間は供給能力過剰で推移すると予想されています。我が国では、民間事業者が、核燃料サイクル開発機構で開発された金属胴遠心分離機を用いて、六ヶ所ウラン濃縮工場を稼動中です。今後は、より経済性の高い遠心分離機を開発・導入し、同工場の生産能力を1,500トンSWU/年規模まで計画的に増強しつつ、安定したプラント運転の維持および経済性の向上に全力を傾注することが望まれます。
 濃縮技術が高度でかつ機微な技術であること等を勘案して、国内のウラン濃縮事業の維持・発展のため、適切な技術開発を継続的に推進していくことが重要です。我が国の濃縮技術を国際競争力のあるものとするためには、より一層性能が高く経済性に優れた遠心分離機の開発を行うことが必要不可欠です。そこで、この国内民間濃縮事業に遠心分離機の設計・製造・運転管理技術を提供した核燃料サイクル開発機構の原型プラントは2000年度に濃縮役務運転を終了し、その後は濃縮プラントの廃止措置にかかる研究開発に利用されることが予定されていますが、民間事業者は、核燃料サイクル開発機構によるこれまでの遠心分離機の開発成果・知見・人的資源を着実に集約して有効に活用するとともに、国際市場の動向を踏まえて、他国との協力をも視野に入れた技術開発を主体的に推進することが望まれます。
 なお、ウラン濃縮の新技術として、これまで原子レーザー法、分子レーザー法および化学法の研究開発が進められてきました。これら新技術については、実用化の可能性をある程度の確度で見通せるレベルに概ね達したものと考えられます。今後は、実用技術として確立する時期を見極める観点から、それぞれの開発が終了した時点までの成果を取りまとめておくことが適当です。
 また、国内でのウラン濃縮に伴い発生する劣化ウランは、将来の高速増殖炉等への利用に備え、適切に貯蔵していくことが望まれます。

(4)軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)

 プルサーマルについては、海外では既に1980年代から実用化されており、我が国でも日本原子力研究所における基礎研究や1980年代後半から実用炉で行われた実証試験の成果等を踏まえて、2010年までに累計16〜18基において順次プルサーマルを実施していくことが計画されており、既にこのための燃料が搬入されているプラントもあり、関係者の努力により実現の緒についたところです。プルサーマルの計画は、これがウラン資源の有効利用を図る技術であるとともに、原子力発電に係る燃料供給の代替方式であり、燃料供給の安定性確保の観点から有用であり、また、将来のプルトニウム本格利用時代に備えて産業基盤や社会環境を整備することにも寄与すると考えられることから開始されたものです。その後の内外の利用準備や利用実績、安全性、経済性の評価等を総合的に勘案すると、現時点においても、これはウラン資源を有効利用していく最も確実な実用技術であり、当面のウラン資源リサイクルの中核的な担い手として着実に推進していくべきです。
 したがって、電気事業者は、1999年に発生した英国におけるMOX燃料製造時の検査データ偽造などのような国民の信頼を失わしめる問題が再び起こらぬよう品質保証体制の再点検を行い、国民の信頼を得て計画的かつ着実にこれを進めることが期待されます。なお、全炉心MOX燃料装荷可能な改良型沸騰水型軽水炉の採用を計画している青森県大間町に建設予定の大間原子力発電所は、プルサーマル計画の柔軟性を広げるという位置付けを持つものとして、その準備が進められています。
 プルサーマルを進めるために必要な燃料は、海外において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、海外のMOX燃料加工工場で製造されていますが、国内において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、国内において燃料に加工されるのが合理的です。そこで、民間事業者は、六ヶ所再処理工場の建設・運転と歩調を合わせて国内においてMOX燃料加工事業を整備する必要があります。この場合、新型転換炉「ふげん」のMOX燃料製造を担った核燃料サイクル開発機構からの技術移転および海外の技術も参考として、我が国においてMOX燃料加工事業が産業として定着するよう、関係者間で十分な協議が行われることが望まれます。
 このプルサーマルに伴って発生する軽水炉使用済MOX燃料の再処理は、国内外で技術的に可能であることが実証されています。しかしながら、当分の間は、ウラン使用済燃料の再処理を優先することが現実的であり、ウラン使用済燃料と同様に安全に貯蔵管理できることから、軽水炉使用済MOX燃料は、中間貯蔵による対応を含め、再処理するまでの間、適切に貯蔵管理が行われることが適当です。

(5)軽水炉使用済燃料再処理

 我が国においては、軽水炉の使用済燃料はこれまで、核燃料サイクル開発機構の東海再処理工場に委託された一部を除いて、海外の再処理事業者に委託されて再処理されてきました。そして、この間に民間事業者は、国内におけるその需要の動向等を勘案し、核燃料サイクル開発機構の東海工場の運転経験を踏まえつつ、海外の再処理先進国の技術・経験を導入して、六ヶ所再処理工場を計画し、現在、2005年の操業開始に向けて建設を進めています。我が国は、原子力発電のもつ我が国エネルギー安全保障上の意義に鑑み、今後、使用済燃料の再処理は国内で行うことを原則としていますので、民間事業者は、我が国に実用再処理技術を定着させていくことができるよう、この我が国初の商業規模の再処理工場を着実に建設、運転していく必要があります。
 核燃料サイクル開発機構は現在、東海再処理工場において、電気事業者からの契約役務および「ふげん」等の使用済燃料の再処理を実施するとともに、高燃焼度燃料や軽水炉使用済MOX燃料等の再処理技術の実証試験等を行うことにしています。この活動を着実に進めた後は、プラント寿命を考慮して、順次、再処理施設の廃止措置に係る研究開発に力を入れていくことが望まれます。
 軽水炉時代の長期化に対応する観点および将来の高速増殖炉による利用を含むプルトニウム本格利用の観点から、核燃料サイクル開発機構やその他の研究機関などにおいて、再処理技術の高度化研究開発が行われています。六ヶ所再処理工場に続く再処理工場は、優れた経済性を有し、ウラン使用済燃料の再処理を行うだけでなく、高燃焼度燃料や使用済MOX燃料の再処理も行える施設とすることが適当と考えられますが、さらに技術進歩を踏まえて高速増殖炉の使用済燃料の再処理も可能にすることも考えられます。したがって、この工場の再処理能力、利用技術を含む建設計画については、高速増殖炉実用化の見通し、六ヶ所再処理工場の建設、運転実績、今後の研究開発の進展および使用済燃料中間貯蔵の進展などを総合的に勘案して決定するべきであり、これらの進展状況を展望すれば、2010年頃から検討を開始することが適当です。国は、民間事業者が決定した方針については、原子力開発利用の基本方針に照らしてその内容の妥当性を評価し、必要があれば所要の制度、環境整備等を行うことが適切です。
 なお、再処理により回収されるウランは、ウラン濃縮施設において再濃縮する等により、リサイクルを行っていくことが適当です。民間事業者は、その利用方法について検討し、将来の本格利用に向けて諸準備を進めていくことが望まれます。

(6)使用済燃料中間貯蔵

 リサイクル燃料資源として位置付けられる使用済燃料の中間貯蔵は、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的な調整を行うことを可能にしますので、核燃料サイクル全体の運営の柔軟性を確保する手段として重要です。海外においては、既に、原子力発電所の敷地の内外に使用済燃料中間貯蔵施設が設置されている国もありますが、我が国においては1999年に中間貯蔵に係わる法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を開始しています。今後は、中間貯蔵を適切に運営・管理することができる実施主体が、安全の確保を大前提に、事業を着実に実現していくことが期待されます。国および電気事業者は、このリサイクル燃料資源の中間貯蔵施設の必要性、安全性などについて、広く国民に対してきめ細かく、かつ分かり易く説明していくことに積極的に取り組んでいくことが必要です。
 なお、六ヶ所再処理工場やこの使用済燃料中間貯蔵の事業が計画に従って順調に進捗していく限り、海外再処理の選択の必要性は低いと考えられます。また、関連して、核不拡散等の観点から、使用済燃料を国際的に管理する構想が提案されることがありますが、現在のところ、使用済燃料については発生国が自らの責任で自国において管理することが原則であり、国として検討すべき段階にはありません。

(7)高速増殖炉および関連核燃料サイクル技術の研究開発

 高速増殖炉は、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、エネルギーの長期的安定確保に資することから、我が国はこれを将来の非化石エネルギー技術の有力な選択肢の一つとするべく研究開発を進めています。現在は、さらに、高速炉の高速中性子が豊富であるという特質を活かして、これにより超ウラン元素などの分離技術と併用して放射性廃棄物処分に係る負担軽減を実現することや、核不拡散性を一層向上させてプルトニウム利用が世界的に普及する時代に適した技術とすることをも視野に入れて、実用高速増殖炉とそのサイクルを含めた研究開発のあり方も検討されています。国は、その進め方について、国内の核燃料サイクル事業の進展状況等、その時の国内外の諸状況を勘案しつつ、適時的確に評価し、その結果を研究開発の進め方に反映していくことが重要です。

(8)新型転換炉「ふげん」

 新型転換炉「ふげん」については、所要の運転期間を経過後は過去の研究開発成果を含め、現在実施中の高燃焼度MOX燃料の安全評価等のプルトニウム利用技術やプラント管理技術について研究開発成果の集大成を行うとともに、海外のニーズに応じ、圧力管型炉の運転管理技術の取得の場として活用していくことが適当です。また、運転停止後の廃止措置を円滑に行うため、「ふげん」の原子炉システム固有の廃止措置技術の開発およびそれに必要な研究を実施することが適当です。

(9)今後のプルトニウム利用の見通し

 我が国はプルトニウムを、当面の間、今後着実に実施されるプルサーマルおよび高速増殖炉等の研究開発に利用することにしています。プルトニウムの利用に際しては、利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの原則に基づき、計画的な利用を図ることが重要です。研究開発用に用いられるプルトニウム需要は、関連する研究開発計画およびその進捗状況によって変動する可能性がありますが、その場合においても、プルトニウム需給の全体を展望しつつ、柔軟なプルトニウム利用を図ることが大切です。
 「プルトニウム需給見通し」は、関連する諸計画の具体的な進捗状況によって変わり得るとの前提で試算されているものですが、プルトニウム利用の透明性向上の努力の一つとして、これを明らかにしていることは重要です。今後「もんじゅ」、東海再処理工場等のプルトニウム需給に関係する施設の取扱いが見通せる状況になった時点では新たな試算を示すことになりますが、現時点における2010年過ぎまでのプルトニウムの回収と利用の概略は以下の通りです(プルトニウム量は核分裂性プルトニウム量)。

 1)海外再処理により回収されるプルトニウムは、累計約30トンと見積もられ、2010年頃までに順次回収されることが予定されています。
 2)国内再処理工場においては、六ヶ所再処理工場が本格操業した段階で年間約5トン弱のプルトニウムを回収することが予定されています。
 3)もんじゅが運転再開した後は、研究開発用に年間数百キログラムのプルトニウム需要が見込まれます。
 4)電気事業者の計画によれば、2010年までにプルサーマルを16〜18基の規模まで順次拡大しつつ実施していくこととされています。プルサーマルに必要なプルトニウム量は既に具体化している計画では一基あたり年間約0.3-0.4トンとなっていることを踏まえれば、当初は海外再処理により回収されるプルトニウムを利用しますが、その後は、プルサーマルの実施規模の拡大に合わせて、国内再処理工場で回収されるプルトニウムも利用することが予定されています。
 これらから、プルサーマル計画が我が国におけるプルトニウム需給に配慮しつつ、柔軟に実施されることにより、適正なプルトニウムバランスが維持されると判断されます。

 

第5章 放射性廃棄物の処理処分

5.1 基本的考え方

 発電、医療、研究開発など広範な分野における原子力の開発利用活動に伴って放射性廃棄物が発生します。したがって原子力の便益を享受した世代は、この放射性廃棄物の安全な処分への取組みに全力を尽くす責務があります。
 放射性廃棄物の安全な処理処分は、これを発生させた者の責任においてなされることが基本です。放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等により多種多様であり、この多様性を踏まえた適切な区分管理と区分に応じた安全かつ合理的な処理処分を行うことが重要であり、国はリスク管理の観点から合理的な法制度の整備など所要の措置を講ずる必要があります。放射性廃棄物を発生した者は、こうした法律等に従って、安全な処分が適切かつ確実に行われるよう、処理処分の具体的な実施計画を立案推進する必要があります。
 放射性廃棄物処分活動が円滑に推進できるためには、社会的な理解を得ることが重要です。このためには、情報公開を徹底し、国民と放射性廃棄物処分に関する情報を共有することが重要です。また、国や電気事業者等の関係者がそれぞれの立場から適切な処分のあり方に関する議論に必要となる正確な知識や情報の普及に努めることが極めて重要です。
 なお、放射性廃棄物も一般廃棄物と同様に、発生量の抑制が大前提であり、減容処理やプロセス廃棄物の有効利用を促進する努力が必要です。また、放射性廃棄物として処理すべきものを適切に限定するクリアランスレベルの制度化を進めることが重要です。

5.2 処分に向けた取組

 これまで、「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」(平成6年6月24日原子力委員会)では、放射性廃棄物管理の実態に合わせ、放射性廃棄物を発生源ごとに区分していました。しかしながら、原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の一部については、既に埋設処分が進められており、また、それ以外の放射性廃棄物についても、これまでの処分方策検討の結果、現在調査審議中のウラン廃棄物を除き、「地層処分」、「一般的な地下利用に十分余裕を持った深度への処分」、「コンクリートピット処分」、「素掘り処分」および「廃棄物の処理および清掃に関する法律における管理型処分と同様な処分」のいずれかの処分方法で処分できる見通しが得られています。このため、今後は処分方法毎にその実施に向けた具体的対応が重要となることを踏まえ、以下では、放射性廃棄物を処分方法ごとに区分して、具体的取り組みについて述べます。

(1)地層処分を行う廃棄物

 放射性廃棄物の中には、半減期の長い放射性核種(長寿命核種)を高い濃度で含むため放射能が高く、人間による管理が期待できる期間内に生活環境に影響を及ぼさないレベルまで放射能の減衰が期待できないことから、生活環境に影響を及ぼさないよう長期にわたって隔離する必要があるものが存在します。このような廃棄物は、数百メートル以深の安定した地下に、内蔵する放射性物質の漏出抑制を目的とする人工バリアを設けて処分する「地層処分」を実施します。

 1)高レベル放射性廃棄物

 我が国では、再処理で使用済燃料からウラン等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することを基本的な方針として、所要の整備が行われつつあります。現在、すでにガラス固化された高レベル放射性廃棄物の貯蔵が開始されており、その発生時期とその後の冷却期間を考慮して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでにはこの処分事業を始めることが適切とされています。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術については、核燃料サイクル開発機構がこれまでの研究開発成果を取りまとめた「我が国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について―地層処分研究開発第2次取りまとめ―」(平成11年11月26日)を国へ提出し、現在、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会がその評価を実施しています。今後とも核燃料サイクル開発機構は、地層処分基盤研究施設、地層処分放射化学研究施設や深地層の研究施設等を活用し、地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて研究開発を着実に推進していくことが期待されます。そしてその成果は処分事業主体に適切に移転されることが重要です。
 これまでの処分研究開発の成果を確認していく上で、深地層の研究施設は重要な研究施設です。また、この施設は、我が国の貴重な資産である地下についての実証的研究を促進するのみならず、国民が実際に地下深部の環境を体験でき、処分研究開発への理解を深める場として重要です。このため、核燃料サイクル開発機構は北海道幌延町および岐阜県瑞浪市で計画している深地層研究施設を着実に実現していくことが大切です。なお、深地層の研究施設の計画と処分施設の計画は明確に区別して進めることが重要です。
 国は、平成12年3月には処分事業の実施主体の設立等を内容とする「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律案」を国会に提出しました。法案の成立後は、速やかに処分事業の実施主体が設立され、処分に係る費用の積み立てを開始することが重要です。
 また、処分事業の実施主体は、国の基本方針にしたがって、処分実施に向けて必要な活動を着実に推進していくことが重要です。処分地の選定については、政府が先頭に立ってこの処分の意義、安全性等についての理解促進活動を行い、立地調査に当たっても当該地域の意見を尊重しながら着実に推進することが重要です。また、立地地域との共生の在り方については、地域との共同作業によりそれを設計していくことが重要です。一方、具体的な処分実施に向けた適切な研究開発も進める必要があります。
 なお、試験研究炉等から発生する使用済み燃料に係る高レベル放射性廃棄物についても、適切な処理・処分を行うため、関係者が所要の対応を図ることが重要です。

 2)高レベル放射性廃棄物以外の廃棄物

 高レベル放射性廃棄物以外にも、長寿命核種の濃度が比較的高いため、地層処分が必要な放射性廃棄物が存在します。この種の放射性廃棄物は、その性状が多様であるため、高レベル放射性廃棄物処分研究開発の成果も活用しつつ、合理的な処分に向けて、その多様性を踏まえた処理処分に関する技術の研究開発を、発生者等が密接に協力しながら、推進することが重要です。当該廃棄物の発生者等は、その責任を果たす観点から、処分についての組織や技術の検討を行うなど、処分事業の推進を目指して適切な対応をとることが必要です。

 3)長寿命核種の分離変換技術

 高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命放射性核種を分離し、これを原子炉や加速器を用いて短寿命あるいは安定核種に変換する技術は、まだ研究開発の初期段階ですが、処理処分の負担軽減、資源の有効利用に寄与する可能性があります。したがって、この分離変換技術については、核燃料サイクルの他の研究開発との関連を考慮しながら、適宜に適切な評価を行いつつ、研究開発を進めることが適切です。
 なお、長寿命核種の分離変換技術が将来において実用化できるかどうかは今後の研究開発に依存しており、また、たとえ成功してもこの技術で地層処分の対象となる長寿命核種を含む放射性廃棄物を完全になくすことはできませんから、地層処分の必要性がなくなるわけではないことに留意する必要があります。

(2)管理処分を行う廃棄物

 放射性廃棄物の多くは、人間による管理が期待できる期間内に、生活環境に影響を与えないレベルにまで放射能の減衰が期待できるものです。このような廃棄物については、放射能が時間とともに減衰し、人間環境への影響が十分に軽減されるまで、人工バリアと天然バリアを組み合わせ、放射能に応じた管理を行うことで、放射性廃棄物を人間環境から安全に隔離することができます。また、長寿命核種を含んでいても、その濃度が十分低い場合、適切な人工バリアと天然バリアの組み合わせによる管理によって人間環境への影響を十分低くできるものもあります。このような廃棄物を「管理処分廃棄物(仮称)」と呼びます。管理処分廃棄物は、ほぼすべての原子力利用施設から発生し、処分の方法により、次の4つに区分されます。

 1)不利用深度処分廃棄物(仮称):これは、放射性核種の移行抑制機能の高い地中で、一般的であると考えられる地下利用深度に十分余裕を持った深度(例えば50〜100m)に、コンクリートピットと同等以上の機能を持つ人工構造物を設置して埋設して数百年間管理を行う、「不利用深度処分」の対象となる放射性廃棄物です。

 2)コンクリートピット処分廃棄物(仮称):これは、浅地中にコンクリートピットを設置して埋設して数百年間管理を行う、「コンクリートピット処分」の対象となる放射性廃棄物です。

 3)素掘り処分廃棄物(仮称):これはコンクリート等の安定な廃棄物で、コンクリートピットなどの人工構造物を設置せず、浅地中に埋設して数十年間管理を行う、「素掘り処分」の対象となる放射性廃棄物です。

 4)化学物質考慮処分廃棄物(仮称):これは、放射能の観点からは素掘り処分の対象となる廃棄物のうち、鉛などの有害な化学物質を含むものであって、「廃棄物の処理および清掃に関する法律()」における「管理型処分場」の構造基準を踏まえた処分施設を設置して埋設し適切な期間管理を行う必要のある、「化学物質考慮処分」の対象となる放射性廃棄物です。

 既にコンクリートピット処分が進められている原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物以外の廃棄物については、今後、処分の実現に向けた具体的取組みを進めることが重要です。取組みを進めるに当たっては、処分の合理性を追求する観点から、処分方法が同じ廃棄物は、その発生源を問わず、同一の処分場に処分することや、同一の処分場で複数の処分方法による処分を実施することも考えるべきです。なお、処分の在り方については、合理性を追求する観点からだけでなく、立地地域の意見等も勘案して、実現可能性が高い処分の在り方を選択する必要があります。また、国は、必要に応じてこうした関係者の取組みを支援する一方、安全基準の策定や法制度の整備など、処分の実現に向けた所要の取組みを推進する必要があります。

(3)その他の廃棄物

 ウラン廃棄物に関しては、その処分方策に関して現在原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会にて調査審議中であり、速やかに取りまとめがなされることが望まれます。

5.3 放射性廃棄物の発生量低減と有効利用の推進

 現在、我々の社会には、資源節約と廃棄物の再資源化によって廃棄物を減らすことを通じて循環型社会を構築するという大きな流れが存在します。そこで、放射性廃棄物についても発生量低減や有効利用に関する研究開発を積極的に推進していく必要があります。これまで放射性廃棄物については、商業用発電炉の解体に伴い発生するものを除き、主として処理処分の観点からのみ検討されることが多く、例えば放射性金属廃棄物についても、溶融処理・再利用等の観点からの検討はあまり行われてきません。しかし、今後は、放射性廃棄物の有効利用について、関係者および関係行政当局が連携して、十分な安全確認のあり方を確立することを前提に、再利用の用途やシステムの形成など幅広く検討を進めていくことが重要です。廃棄物の安定減容化技術等の廃棄物処理に関する研究開発については、廃棄物の発生量低減や放射線量低減等の観点から、今後とも継続することが重要です。

5.4 処分に対する信頼の確保

 処分の実現を図るには、処分に対する対する国民の信頼性を得ることが必要です。処分技術はその基盤をなすものですから、処分における安全確保の考え方や処分に必要とされる技術について、その内容や専門家の間での技術的な議論をわかりやすく国民に向けて発信していくことが重要です。これは国の政策に沿って実施されるものですから、国はこの情報発信活動に積極的に取り組むことが必要です。
 また、処分事業を進めるためには、事業者に対する国民の信頼を確立し、「安心感」を確立していくことが極めて重要です。そのためには、処分事業の透明性を確保するため、事業のすべての段階を通じて情報公開に徹底することが不可欠であり、事業者は長期的に継続して情報公開及び情報発信を行う仕組みを整備すべきです。
 また、国は、国民の意見を聞きつつ適切な安全基準を整備するとともに適切な規制活動を通じて、事業者の安全確保活動が適切になされていることを確認する制度を、処分にむけた取り組みの進展を踏まえて、遅滞なく整備していくことも重要です。

5.5 原子力施設の廃止措置

 発電炉、試験研究炉、核燃料サイクル施設等の原子力施設の廃止措置は、その設置者の責任において、安全確保を大前提に、地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要です。商業用発電炉の廃止措置については、原子炉の運転終了後、必要な期間を経過したのち、解体撤去することを原則とし、その跡地は原子力発電所用地として、引き続き有効に利用することが望まれます。
 原子力発電所の廃止措置を実施する場合、これまでの研究開発の積み重ねにより、現状では未解決の技術的課題はないものの、解体技術および除染技術の高度化、より合理的な極めて低いレベルの放射線測定技術、一層合理的かつ効率的な廃止措置が可能となるシステムエンジニアリング技術などは、引き続き適切な技術開発を実施することが望まれます。また、解体廃棄物については、発生量低減と有効利用の推進がとりわけ重要であることは言うまでもありません。
 原子力施設の廃止措置により発生する放射性廃棄物の処理処分については、発生者である原子力施設設置者が適切かつ確実に行う責任があります。なお、このうちクリアランスレベル以下の廃棄物については、放射性物質として扱う必要のないものですが、短期間に大量に発生しますので、産業廃棄物と同様、合理的に達成できる限りにおいて徹底してリサイクルしていくことが重要であり、そのため関係者及び国はクリアランスレベルに関する社会的な理解を深めていくことが必要です。

 

第6章 結び

 

 

 

 

参考資料