
財団法人社会経済生産性本部(会長:亀井正夫)に設置されているエネルギー問題特別委員会(委員長:深海博明慶応義塾大学教授、専門委員会委員長:内山洋司財団法人電力中央研究所上席研究員)は、1999年12月に実施した「エネルギーセキュリティーに関する有識者アンケート調査」の結果等を踏まえて、「エネルギーセキュリティーの確立と21世紀のエネルギー政策のあり方」と題する提言・報告を取りまとめた。
昨今のエネルギー問題は、1997年12月のCOP3を受けた温室効果ガスの削減対策や、経済のグローバル化などによる規制緩和のあり方が活発に議論されているが、3Eの一つであるエネルギーセキュリティーについて取り上げられることは少ない。しかしエネルギー資源のほとんどを輸入に依存する、わが国のエネルギー基盤の脆弱性は解消されておらず、また環境面からの制約など新たな不安要素も増えてきている。こうした状況の中で、今後のわが国のエネルギーセキュリティー確立に向けた、更なる方策を検討しておくことは重要であるとの認識の下、本委員会では調査研究・提言を行った。
以下は、アンケート調査結果および提言の要旨である。
なお、アンケート調査の概要はP8に記載している。

〈提言本文P5〜P7、調査結果P45参照〉
| 1. | エネルギー専門家の約6割が、現在のエネルギーセキュリティーに大きな不安を感じている |
調査結果によると、エネルギー専門家の約6割が現在のエネルギーセキュリティーについて「確保されているとは言えない」または「大きな不安要素がある」と答えており、「確保されており問題がない」という回答は僅か1%であった。また年代別では、年代が高くなるほど不安を持っている割合が多くなっている。

〈提言本文P10〜P11、調査結果P61〜P65参照〉
| 2. | 多様化するリスク:今後の大きな不安要因は、アジアなどの経済発展、中東諸国の国際紛争、原子力発電所の立地制約、開発途上国の人口増加、原子力施設における大事故、環境制約における化石燃料の使用制限、など |
わが国の2030年までのエネルギーセキュリティーを考えた場合、セキュリティーを脅かすリスクとして、従来からある中東諸国での紛争や輸送ルート途絶のほかにも、多様な新たな不安要因が生じてきている。調査結果を見ると、多くの専門家が『大きな不安要因』として挙げているのは、回答の多い順に「アジアなど経済発展によるエネルギー需要の増加」(74%)、「中近東諸国の国際紛争や政情不安」(65%),「原子力発電所の立地制約」(64%),「開発途上国の人口爆発」(63%),「石油資源の枯渇」(51%),「原子力施設における大事故」(49%),「地球温暖化など環境制約による石油、石炭などの使用制限」(43%)となっている。
〈提言本文P12〜P13・P34、調査結果P85〜P88参照〉
| 3. | 現行の「長期エネルギー需給見通し」における政策目標達成は困難。急激な情勢変化を前提とした、柔軟かつ現実的な見直しを。 |
1、2項から分るように、専門家は現在および今後のエネルギーセキュリティーに対し大きな不安を感じている。それでは、現在のエネルギーセキュリティーの基本政策である、長期エネルギー需給見通しをどのように考えているのだろうか。調査結果では、専門家の70%が原子力20基増設の達成は困難と回答しており、現行の長期エネルギー需給見通しの見直しは不可避な状況となっている。見直しに際しては、温室効果ガスの排出削減目標、規制緩和の進行、現実的な需給予測を考慮の上、状況の変化に素早く対応できるように複数のシナリオを作成することが必要である。また、単に政策目標を示すだけでなく、その実施に向けての政策体系を明示すべきである。
〈提言本文P17〜P18・P32、調査結果P80〜P82参照〉
| 4. | 省エネルギーを基本とした社会経済システムの構築へ |
環境調和型社会を構築するためには、従来の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会経済システムを根本的に変革することが不可欠であり、効果的な税制度や補助金交付システムなど省エネに向けた制度整備に全力を挙げて取り組む必要がある。さらにそれらの制度により、省エネをいかに市場メカニズムのなかに取り込むかも大きな課題である。民生・運輸部門での省エネ促進に有効な方策としては、専門家からは「環境税の導入」(50%),「交通システムの整備」(43%),「運輸部門における税のグリーン化」(42%)の回答が多くなっている。
〈提言本文P20〜P21、調査結果P73〜P75参照〉
| 5. | 専門家と自治体首長は原子力の必要性を認めており、課題は安全性確立と信頼回復 |
調査結果によると、自治体首長の約7割、専門家の約6割が「推進」(「慎重に」を含める)と回答しているが、自治体首長は「慎重に推進」が特に多くなっている。一方、消費者団体代表者は30%が「段階的に減らす」と回答しており、他のカテゴリーに比べ多くなっている。エネルギーセキュリティーの観点からは、今後も原子力の推進は必要と考えられ、そのためには原子力関連施設の安全性の確立を大前提として、信頼の回復に全力で努めることが求められている。

〈提言本文P21〜P23、調査結果P76〜P79参照〉
| 6. | 新エネルギーに対する期待は大きいが、現実の開発状況とは開きがあり、導入拡大のためには制度整備が求められる |
調査結果によると、消費者団体代表者の約6割が新エネルギーを基幹エネルギーとして期待しているが、政府目標においても2010年度の総供給量の僅か3.1%に留まっており、現実との乖離が大きい。今後の導入拡大のためには、国による技術開発や、補助金による支援政策など省エネ促進のための制度整備が求められている。なお専門家は、基幹エネルギーとして期待しているのは25%で、補完的なエネルギーとして期待している回答(50%)の半分となっている。

〈提言本文P25〜P26・P33、調査結果P90〜P91参照〉
| 7. | アジア地域におけるセキュリティー構築に向けて、アジア諸国との協力の推進を |
今後、経済発展と人口増加に伴うエネルギー需要増大が見込まれるアジア地域においては、資源が乏しいことから、その需給が逼迫することが懸念される。そのような状況を回避するためにも、わが国がイニシアティブを取り、省エネルギーや安全対策などの技術や資金の協力により地域全体のエネルギーセキュリティー確保の枠組みを構築し、各国との連携を推進していくべきである。具体的な協調方法を質問した調査結果においては、専門家は「技術者の養成など、人材育成への協力」(49%),「アジア各国の相互協力を目的とした機関の設立」(37%)など、ソフト面での協力が重要との回答が多くなっている。
〈提言本文P33参照〉
| 8. | 国は戦略的意思の明確化と先端技術による交渉力の強化を |
今後わが国が、アジア地域との協調を果たしながら、いかにエネルギーセキュリティーを確保していくのか、国の戦略的意思と具体的な戦術の明確化が必要である。わが国にとっては、国際的な交渉力を強化するための資源は、資金力、経済力を前提とした技術力が最も期待できる。わが国の経済を再生し、環境保全関連技術を中心に技術戦略を構築し、対外交渉のカードとして利用できる先端技術を育てていくべきである。
〈提言本文P28〜P29・P34、調査結果P93〜P95参照〉
| 9. | エネルギー政策を積極的に国会で取り上げるとともに、政策の基本的な方向性を示す、新しい法制度などの必要性についての検討を |
最近国会では、原子力や自然エネルギー関連の法案が相次いで審議され、また提出されようとしている。このような今こそ、さらに国会でエネルギー問題を積極的に取り上げ、徹底的な審議を行うべきである。また現在のエネルギー関連政策は、それぞれが個別に審議されているため必ずしも整合性が取れておらず、また個別政策がエネルギー政策全体の中でどのような位置づけにあるのかも分かりにくい、という意見もある。まず現行の法制度や組織が十分に機能しているか、についての検討が必要であり、その上で求められる法制度や組織とはどのようなものか、またエネルギー政策の基本的な方向性を示す、いわゆる「エネルギー基本法」の制定が必要かどうかについての議論もすべきである。調査結果では、専門家の約7割が新しい法制度や新しい機関の設立について「賛成」(「賛成だが、慎重に進めるべき」も含む)と回答している。
〈提言本文P30・P35、調査結果P83〜P84参照〉
| 10. | 国、産業界、国民はエネルギーセキュリティー確保のために、それぞれの役割を認識し、そして担っていくべきである |
ますます不透明となっていくエネルギー情勢の中で、エネルギーセキュリティーを確保し続けていくためには、国だけがその責任を負うのではなく、産業界や国民もコスト負担も含めそれぞれの役割について考えるとともに、自覚を持ち、その役割を継続的に果たしていくことが必要である。誰がコスト負担の中心となるべきかについての質問に対しては、専門家の回答は「税などにより、国民が直接的に担うべきである」が42%で一番多く、次いで「国が担うべきである」が31%になっている。また国民意識の向上を推進していくためには、エネルギー環境教育の充実が求められている。
[資料1]
提言本文(P31〜P35)
8.まとめとしての「提言」〜エネルギーセキュリティー新ビジョンの構築を
(表題のみ)1)わが国におけるエネルギーセキュリティーの重要性を再認識し、その位置づけを 議論し、明確にすべきである
2)多様なエネルギー源の適切な組み合わせ(エネルギー最適ミックス)によりセキ ュリティーの確保を
3)電力自由化において、求められる原子力と新エネルギーへの対策
4)省エネルギーを基本とした社会経済システムの構築へ
5)アジア地域におけるセキュリティー構築に向けて、アジア諸国との協力の推進を
6)国は戦略的意思の明確化と先端技術による交渉力の強化を
7)グローバル化へのリスク管理と、環境調和型社会構築に向けた総合的エネルギー 政策の立案を
8)現行の「長期エネルギー需給見通し」における政策目標達成は困難。急激な情勢 変化を前提とした、柔軟かつ現実的な見直しを。
9)エネルギー政策を積極的に国会で取り上げ、十分に審議を 10)エネルギー政策の基本的な方向性を示す、新しい法制度などの必要性についての 検討を
11)国、産業界、国民はエネルギーセキュリティー確保のために、それぞれの役割を 認識し、そして担っていくべきである[資料2]アンケート調査の概要
- 1.調査対象(総数:3,785名)
@エネルギー専門家(2,208名)
Aマスコミ関係者(164名)
- 「エネルギー・資源学会」会員(1,863名)
- エネルギー関係審議会(総合エネルギー調査会原子力部会、総合エネルギー調査会需給部会、電気事業審議会基本政策部会、電気事業審議会需給部会、電源開発調整審議会電源立地部会)委員(90名)
- 上場・非上場エネルギー関連企業の企画、開発部門などの部門長(126名)
- エネルギー関連団体の事務局長など(68名)
- IAEE国際エネルギー経済学会日本支部会員(117名)
(※重複している対象者がいるため、合計数と送付数が異なっている。)
科学論説懇談会委員(40名)
新聞社エネルギー担当者(73名)、放送局エネルギー担当者(51名)
B国会議員(752名)
衆議院議員(500名)、参議院議員(252名)
C都道府県知事・道府県庁所在地市長ほか(160名)
都道府県知事(47名)、道府県庁所在地市長(46名)、東京23区長(23名)
原子力発電所立地市町村長(44名)
D消費者団体代表者(501名)
消費者団体リストより無作為に抽出2.調査期間
調査票発送日 1999年12月3日
調査票回収締切日 1999年12月20日
調査票最終回収日 2000年1月6日3.回収状況および回収率

