平成12年1月19日
原子力委員会長期計画策定会議第二分科会資料
核燃料サイクルについて
三菱マテリアル株式会社 石井 保
1.原子力エネルギーの特徴
(1)エネルギー源の分類

- 現代人は、石油、石炭、天然ガスなど、太陽の恵みによってこの地球上に生物が棲息して以来蓄積されてきたこれらのエネルギー資源遺産を、後世のことはあまり考えずに、急速かつ確実に使い果たしつつある。
- 現在の太陽の恵みは、太陽光、水力、風力、バイオマスなどの形で利用することができるが、それだけでは我々が必要としているエネルギー量には遥かに及ばない。
- 原子力エネルギーは太陽に依存しないエネルギー源の代表格で、太陽エネルギー系統とは異なったコンセプトによる取り組みが必要であるが、原子力発電が実用化されてから40年程度の歴史の中で、われわれはまだその利用法を十分会得するに至っていない。
(2)原子力エネルギーの特徴
- 原子力の最大の特徴は、核燃料サイクルという手段を使ってリサイクルすることにより、そのリサイクルに費やすエネルギーよりも、ずっと多くの新たなエネルギー資源を作り出すことができる点にある。
- すなわち、出力百万キロワットの原子力発電所を1年間動かすことによって発生する使用済燃料をリサイクルする際に使用するエネルギー(再処理、燃料加工、廃棄物処理処分など)は、せいぜい0.5億キロワット時程度であるのに対し、リサイクルによって生み出される新資源(プルトニウム、ウラン)を再び原子炉に入れることによって得られるエネルギーは25億キロワット時程度にもなる。
- このように核燃料サイクルは、本来、原子力の利点を生かすための手段であるのだが、まず利便の先取りとも言える原子力発電のみが先行した結果、核燃料サイクルへの取り組みが後手にまわってきたことは否めない。このアンバランスゆえに、現在という断面をとってみると、核燃料サイクルは原子力発電にとってお荷物であると見られている節もあるが、原子力利用の本来の姿から見れば、これは本末転倒である。
- 使用済燃料をリサイクル利用せずに廃棄するというのであれば、これまでの化石燃料の使い方と何ら変わるところはなく、原子力の特徴は生かされない。
2.核燃料サイクル産業の実情
(1)世界の核燃料サイクル産業
- 世界各国の原子力発電設備容量と核燃料サイクル施設の規模の関連を図2、図3に示す。(核燃料サイクルとの整合性をとるため、軽水炉発電のみを比較対象とした。発電量に対する核燃料サイクル施設の充足状況をみるために、年間必要量をグラフ内に示した。)以下各国毎の状況を簡単に述べる。
- 米国は世界最大の原子力発電国で、全電力に占める原子力の割合は20%であり、核燃料サイクルの面でも再処理を除けば自給体制にある。当面使用済燃料は直接処分することにしているが、まだ実現の目処は立っていない。民間再処理は、核不拡散上の観点から取りやめることにしているが、軍事用の再処理工場は稼動しており、再処理技術そのものは高水準にある。
- フランスは自国の必要電力の75%を原子力で調達しているだけあって、必要な燃料サイクル諸量はすべて自国で賄っている。またある程度大規模でリサイクルすれば、再処理してプルトニウムを利用することは、使用済燃料を直接処分するよりも経済的にもメリットがある、としている。
- 英国はこれまでガス炉路線できたために、軽水炉の発電量は少ないが、濃縮、燃料加工、再処理などすべての項目で自国の必要量以上の設備能力を備えている。
- ロシアも軽水炉以外に黒鉛炉を持っているが、燃料サイクル諸施設の設備能力は自国の需要量を上回っている。
- ドイツは燃料サイクルの民営化を進めたが、再処理施設の建設やMOX燃料加工施設の運営にPA問題で行き詰まり、当面使用済燃料は長期貯蔵で対応するほか、直接処分を検討し、その研究開発を実施している。
- 日本は核燃料加工(再転換を含む)以外は、必要量は満たされず、濃縮、再処理など海外に大きく依存している。しかしながら、近年その改善策に力が入れられており、中でも再処理は六ヶ所再処理工場が完成すれば必要な設備能力は、大幅に改善されることになる。
(2)日本の核燃料サイクル産業とその動向
- 日本の原子力産業の売上高(図4原子力産業会議1961〜1999)はこの5年間ほど下降傾向にある。原子力発電は新規の炉の建設が少ないことが大きく影響している。核燃料サイクル関連は全体としては低位安定しているように見える。
- しかしながら詳細に各項目毎に見ると、毎年の振れが大きい。図5に核燃料サイクルの項目別に年度ごとの売上高を示した。フロントエンドについては、まずウラン資源は、近年開発投資が著しく減退していることがわかる。ウラン濃縮は、遠心分離(サイクル機構、日本原燃)とレーザー濃縮の計画次第で毎年変化している。核燃料加工は民間経営であるが、原子力発電所の新規建設と密接に関連しているため、最近の落ち込みが大きい。また年によって売上高が顕著に変動している。このようにわが国の核燃料サイクル事業は、全般的にかなり不安定な市場になっている。
- バックエンドは、再処理と廃棄物処理処分を一括して示した。支出は増加傾向にある。原子力発電量の伸びとともにバックエンド対応が避けて通れなくなった結果であろう。
(3)現状分析
3.これからの核燃料サイクルのあり方について
(1)これからの原子力開発
- 原子力が人類にとって束の間のエネルギー供給源で終わるのか、人類の繁栄のための安定したエネルギー供給源になるのかは、プルトニウムリサイクルを基調とした核燃料サイクルの確立如何に懸かっている。原子力では太陽エネルギー源とは異なったそれに相応しい使い方を追求しなくてはならない。
- 原子力エネルギー利用においては、長期的視点に立った政策が必要である。第一に商業ベースでの核燃料サイクルの確立を目指すという現行路線の具体化の道筋を示すことである。第二に、原子力というまだ使い勝手が十分会得できていない分野を開拓していくための方向性を示すことである。21世紀へのメッセージとして合理的なビジョンを政策として示す姿勢が大切である。
(2)核燃料サイクル確立への道筋
- 国内における核燃料サイクルについては、その技術的、経済的な実証を早急に行うべきである。ウラン資源の確保からはじまり、濃縮、核燃料加工、再処理、廃棄物処理処分に至るまでの道筋を官民一体となって追求し、それを国民にわかり易く説明し、国民的合意を得ていくことが重要である。まず政策的合意がなされれば、その枠内で競争原理が働くような仕組みを考えていくことになろう。外国も、民間も、国公立研究機関もその枠の中で、競争原理に基づいて切磋琢磨すれば良いということである。
- ウラン資源については、現在、ウラン市況は低価格で推移しているが、最近のエネルギー資源価格は思惑による変動が激しく、10年後の需給関係となると不透明である。現在の安定状態を維持するためにも、わが国としても既得権のあるウラン資源を確保し、一定のバーゲニングパワーを持つ必要があろう。濃縮については既に日本原燃によって商業化を目指した操業が行われているし、また核燃料サイクルの要である商用再処理施設については現在、建設が急ピッチで進められている。これからの命題としては、これらの施設により、経済性の実証を行うことである。
- このように核燃料サイクルは、種々のプロセスの集合として一連の流れが形成されているが、これを商用規模で展開するということになると、一般産業と同様、全体の流れに淀みをつけないため、バッファーが必要なところも出てくる。サイクルの諸プロセスの実証性の展開に柔軟性を持たせるには、使用済燃料の一時貯蔵のようなバッファー機能を果たす施設も必要である。
- さらに放射性廃棄物の処理処分への対応が重要である。原子力の場合、通常運転時においては、廃棄物の殆どが体系の内部に閉じ込められていて、環境に多大な影響を及ぼすようなガスや廃棄物などは殆ど放出されていない。このように人間の監視の下に閉じ込められている廃棄物を、われわれの生活環境から隔離することが、廃棄物管理の命題である。原子力発電から出てきた低レベルの放射性廃棄物は既に六ヶ所村に埋設されつつあるし、その他の廃棄物についても昨年来その方針が決められつつある。それに基づき合理的な処分の考え方を示すことが重要になる。
- 以上のように廃棄物処分まで含めて、核燃料サイクルは各プロセスの集合として一つの流れになっている。その流れの中では、プルトニウムや濃縮ウランのように、安全対策上のみならず、核不拡散上も特に留意すべき物質の取り扱いが含まれている。このような機微な物質を取り扱うための保障措置や核物質防護への対応を含め、日本における核燃料サイクル事業の健全な定着、安定した運営の実績づくりは、わが国におけるエネルギー安定供給の道を拓くだけではなく、世界のエネルギー確保にも貢献することになる。それは技術力があるわが国故に可能な国際貢献の形である。
- 核燃料サイクルを確立するには、明確な目標を掲げて積極的に推進することが重要である。及び腰の対応では技術的にも経済的にも確立することは難しく、安全性の水準を維持、発展させることもできない。
(3)安全への取り組み
- 核燃料サイクル施設の運営に当たっては安全性の確保が至上命題であるが、原子力産業においても、発電事業と核燃料サイクル事業とはそのプロセスおよび具体的な安全対応面で質を異にしている。多様な物理的・化学的状態の核物質をバルクで取扱うという、核燃料サイクル業の特性を十分理解した安全強化対策が必要であり、事業者が自ら改革に取り組まねばならない。問題はこの改革であり、いかに緊張感を維持できるようにするか、ということである。
- 安全性の確保には当事者の自己責任が前提になるが、安全性の維持と産業としての活性化は表裏一体を為す。業務そのものが活性化しており、従事者が活性化していることによって、安全性に対する従事者のモラルが高められ安全性も確保される。安全性は法規制の強化のみによってではなく、事業者の自己責任の完遂、業務の活性化によって保たれる。従事者自らが業務に対する意欲を持続させる環境づくりが安全を支える基本である。
- 原子力のように時間も費用もかかる巨大産業では、一度ペースダウンすると技術力を回復するまでに多くの時間と無駄が生じる。こうなるとモラルは落ち、安全性確保が益々難しくなるという悪循環に陥る。安全性の確保は、業務の活性化と密接に関連している。「安全文化」を単に掛け声だけに止めないための実質的なシステムが必要であり、そのための第三者による監査体制(例えば監査組織の設置など)が重要であろう。
- 安全文化の共有に不可欠なのが透明性の維持である。ネットワーク社会の急発展により、情報の透明性が一般化している社会情勢の中で、原子力分野内の安全技術の交流はもとより、原子力以外の分野との交流、そして社会との交流が安全性の維持には不可欠である。情報は受け取る側よりも発信する側により多くの緊張感をもたらす。これが安全性認識を高めることにつながる。事業者は常に安全性に関する情報を発信する心構えが重要である。
(4)新しい核燃料サイクルへの取り組み
- これまで何度か触れたように、原子力エネルギーは利用開始からまだ日が浅い。それにも関わらず、短時日でここまで力を発揮してきたのはそのポテンシャルが如何に大きいかと言うことを物語っている。しかしながら、これまでの路線は取り敢えず一つの方法で、原子力がエネルギー源として実用化に値するものだという証明にはなったが、それがベストだということではない。核燃料サイクルにしても、核燃料加工、濃縮、再処理、廃棄物処理などすべての項目で、現在の諸施設を推進すると同時に、プルトニウムの多重リサイクルなど常に斬新な考えを打ち出していくことが重要である。
- 一時的にせよ、エネルギー供給に余裕ができている現在は、原子力、そして核燃料サイクルの持つ意義を再認識するチャンスである。原子力は今後の長い道程を考えると、思考範囲を広げて対応すべきであろう。多様化の流れの中で、原子力においてもさらに効率的な利用法を考えるためのR&Dの着実な推進が必要である。その中では、原子炉に追随して核燃料サイクルがあるのではなく、両者が一体となった原子力平和利用のシステムを戦略的に完成していくことが望ましい。
- R&Dの実施にあたっては、国の予算の投入も重要な部分を占めることになるが、その執行にあたっては、競争原理を働かせることが効果的であろう。官で開発し民へ技術移転をするというパターンは必ずしも妥当ではなく、両者の相互乗り入れによる官民を挙げた体制の構築が必要であり、またこれまでの教訓を活かし適時的確な評価による着実な取り組みが必要である。研究開発に際して国家予算を使う場合には、公的機関、民間を問わず競争原理が働くような仕組みを考えていく必要があろう。