長期計画策定会議
第2分科会
「リスク評価の現状」に関するプレゼンテーションに対する質問への回答
日本原子力研究所
飛岡利明
御質問1:
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今回のJCO臨界事故はリスク評価上は想定外だったのでしょうか。核燃料サイクル(濃縮、核燃料加工、再処理など)のリスク評価の例はあるのでしょうか。 |
回答:
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リスク評価は原子力発電所から開始されました。その他の核燃料サイクル施設については、外国で少数の例があります。国内では、再処理についてリスク評価手法の整備のための研究としてPSAが進行中ですが、それ以外の施設についてはなされていません。仮にJCOについてPSAを実施したとすれば、危険の存在を認識することに役だったであろうと考えます。 |
(補足説明)
確率論的安全評価(PSA)によりリスクを評価する場合、原則としてあらゆる事故シナリオを考えます。そのため、事故シナリオを系統的に洗い出す方法としてフオールトツリー解析やイベントツリー解析等が使われます。また、シナリオの見落としを減らす努力として、考慮した起因事象と過去の事故事例との比較や、専門家や対象施設職員のレビューを受けること等種々の方法が併用されます。シナリオの中には、評価法がまだ十分でないために、定量化できないものもありますが、全てを考えようと言うのが基本的な姿勢です。
ただし、現実問題としては、PSAの詳細さは利用しうる情報に依存します。例えば、プラントの設計、計測設備や電源の配線、手順書等がPSAの入力情報として必要です。施設所有者でない機関がPSAを行うときは、そうした情報が得られない場合もあります。
JCO事故の場合は、仮に実際の手順を基にPSAが実施されていれば、臨界事故は想定せざるを得ぬ頻度とされたであろうと考えます。詳細な設計情報がなくても、フローシート程度でも、作業ステップを細かく体系的に詰めていくフオールトツリー解析等を実施することにより、アキレスの踵を見つけ、信頼性を向上する手段を提案できたでしょう。
施設所有者が実施する場合には、情報入手の問題はないわけで、解析の目的を正しく認識していれば、臨界のリスクを指摘することは可能だったと思います。また、PSAでは現場の意見を聞くことが重要とよく言われますが、現場管理者や作業者を何らかの形でPSAに関与させれば、彼らもその過程で臨界の可能性を再認識することとなり、結果的にリスクは下がっていたでしょう。
核燃料サイクル施設のリスク評価の例は極めて限られています。代表的な例は1980年頃米国電力研究所(EPRI)で行われたもので、その結果によれば、図1に示すように原子力発電所以外の核燃料サイクル施設のリスクは原子力発電所のリスクより小さく、さらに原子力発電所のリスクは、その影響をうける人々が自然放射線から受けるリスクに比べれば、1/3500と極めて小さいというものでした。ただし、この段階では転換、濃縮、及びJCOで行っていたウラン燃料加工は含まれておらず、それらの寄与は低いと考えるが今後評価すべき課題であるとされていました。
1990年代の例としては、IAEAの主催する国際会議などでイギリス、フランス等が再処理施設に関するPSAの概略的な結果を公表しています。また、米国エネルギー省は、その所有する施設(多くは軍事施設ですが)につきリスク評価を含む安全解析を行うことを定めています。ただし、詳細な評価結果は公表されていません。
| 図1 | 電力研究所(EPRI)による核燃料サイクル施設の放射線リスク評価結果
をブロックとして重ねて比較したもの(自然放射線は極めて大きいため
表示されていない) |
御質問2:
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資料(第5号)p.2の図表について、死亡リスク及び事象発生率のそれぞれの値は、どのような計算の基で評価を下されたのでしょうか。 |
回答:
事故の発生率は、平常運転時の内的起因事象に対する評価結果を示しており、単位は1/(炉・年)です。
米国の評価は、5基のプラントに対する原子力規制委員会による評価値であり、事故の発端となる起因事象の発生率や機器故障率には米国の運転経験のデータを用いています。原研の評価値は、主として公開情報に基づいて典型的なBWRの設計を想定して評価した結果です。起因事象発生率や機器故障率には、我が国のデータが得られていた部分はそれを用い、他は米国データを援用しています。現在国内で整備が進められているアクシデントマネジメントによるリスク低減は考慮していないため、保守的な結果となっている面があります。
死亡リスクは、急性死亡については対象プラントの周辺1マイル(約1.6km)以内に居住する平均的個人に対する評価値であり、がん死亡については対象プラントの周辺10マイル以内に居住する平均的個人に対する評価値です。低線量放射線による発がんの確率については、しきい値はないものとして評価していますが、近年、その評価モデルは保守的であるとの議論もあります。 |
御質問3:
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自然災害による死亡リスクは、もっと高いように思います。(もし、死亡者数/全人口と仮定するなら10-5、大地震などであれぱ10-4オーダーかと思います。) |
回答:
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前回資料は、概略的な値の情報に基づいて作成したものですが、御指摘に基づき見直した結果、より詳細なデータがありましたので改訂させていただきます。 |
(補足説明)
身近なリスク源のデータは、横山榮二氏の論文(日本リスク研究学会誌、1997年9月、図2)に基いており、同氏が日本の死亡統計に基づいて10年間の平均を計算し図示した値を原研で読みとったものです。
ただし、自然災害については、横山氏が同論文中でおおよその値として示された値を用いています。御指摘に基づいて再度調べたところ国土庁のホームページにより詳細な情報がありましたので、以下のように改訂したいと存じます。
国土庁ホームページの統計を見ますと、自然災害の犠牲者(死亡者・行方不明者)数は地震や台風などの巨大災害のあった年とそうでない年とで大きい差があります。例えば、平成4年は全国で19名であるのに対し、阪神大震災のあった平成7年は6472名です。犠牲者数を全人口1.2×108人で割って全国平均の死亡リスクを求めれぱ、平成4年なら2×l0-7、平成7年では5×10-5となり、後者では大地震に関する値として御指摘の10-4に近くなっています。この統計では平成7年までの値のみが示されていますので、昭和61年から平成7年までの10年の平均をとることにすると6×10-6となります。この値を採用して前回の図を修正しますと図2のようになります。
なお、前回資料では山崩れも記入していましたが出典が不明確でしたので削除致しました。また、図中の自然放射線のリスクは、原研で計算したものです。
ところで、図2では、自然災害は日本の全国平均ですが、米国の原子力発電所のリスクは近傍の居住者に注目して求めたものであり、その評価値から日本または米国の全国平均を推定すればさらに低い値となります。

図2(改訂) 原子力発電所のリスクと身近なリスクとの比較