第二分科会報告書

エネルギーとしての原子力利用

 

 

 

 

平成12年6月5日

原子力委員会
長期計画策定会議第二分科会


目 次

はじめに

第1章 エネルギーとしての原子力利用の現状
  1.1 世界の原子力発電
  1.2 我が国の原子力発電
  1.3 核燃料サイクル
  1.4 原子力産業
  1.5 研究開発
  1.6 地球温暖化対策への取組
  1.7 いま何を検討するべきか
第2章 エネルギーとしての原子力利用の位置付け
  2.1 21世紀のエネルギー問題
  (1)歴史と展望
  (2)21世紀を迎えるに当たっての課題
  2.2 我が国のエネルギー問題
  (1)我が国におけるエネルギー需給の現状
  (2)我が国が取り組むべき課題
  2.3 省エネルギーと再生可能エネルギーへの期待と課題
  (1)省エネルギーへの期待と課題
  (2)再生可能エネルギーへの期待と課題
  2.4 原子力エネルギーの特性と位置付け
  (1)原子力の特性
  (2)我が国のエネルギー供給における原子力の位置付け
第3章 原子力エネルギー利用の具体的展開の基本的考え方
  3.1 平和利用への限定
  3.2 安全の確保
  (1)安全の確保に係る国の責任
  (2)事業者の責任
  (3)防災の実効性確保の責任
  3.3 信頼の確保
  3.4 国と民間の役割の考え方―自由化時代の原子力開発利用
第4章 原子力エネルギー利用の着実な展開
  4.1 軽水炉利用
  (1)軽水炉利用の展開
  (2)安全規制の高度化
  (3)次世代炉の研究開発
  4.2 原子力供給産業
  (1)最近の情勢
  (2)人材確保と技術の継承・発展
  (3)競争力の向上と国際展開
  4.3 核燃料サイクル
  (1)基本的考え方
  (2)天然ウランの確保
  (3)ウラン濃縮
  (4)軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)
  (5)軽水炉使用済燃料再処理
  (6)使用済燃料中間貯蔵
  (7)高速増殖炉および関連核燃料サイクル技術の研究開発
  (8)新型転換炉「ふげん」
  (9)今後のプルトニウム利用の見通し
第5章 放射性廃棄物の処理処分
  5.1 基本的考え方
  5.2 処分に向けた取組
  (1)地層処分を行う廃棄物
  (2)管理処分を行う廃棄物
  (3)その他の廃棄物
  5.3 放射性廃棄物の発生量低減と有効利用の推進
  5.4 処分に対する信頼の確保
  5.5 原子力施設の廃止措置
添付資料1
添付資料2
参考資料


はじめに

 原子力委員会は1999年5月に長期計画策定会議を設置し、新たな原子力開発利用長期計画の策定に向けて審議を開始しました。同会議は、審議の効率化を図る観点から、1999年7月に本分科会を含む六つの分科会を設置しました。本分科会は、添付資料1に示す委員で構成され、同会議より、エネルギーとしての原子力利用に関して、新エネルギーとの比較等を踏まえた我が国エネルギー政策における今後の原子力利用のあり方、放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の一層の明確化、および今後の原子力産業のあり方の審議を付託されました。
 現行の原子力長期計画(1994年6月)が策定されて以来約6年が経過し、この間、我が国の原子力開発利用活動においては、対策の遅れていた使用済燃料の中間貯蔵、高レベル放射性廃棄物処分に係る制度等の整備が緒につきました。しかし、他方で、動力炉・核燃料開発事業団における「もんじゅ」事故等や、深刻な放射線被曝により従業員が死亡し施設周辺住民に避難勧告が発出されたウラン加工工場臨界事故(「JCO事故」)など、我が国原子力開発利用体制に対する国民の不安・不信を増大させる事態が発生し、動力炉・核燃料開発事業団の核燃料サイクル開発機構への改組、原子炉等規制法(注)の改正及び原子力災害対策特別措置法の制定が行われました。また、地球環境問題への取組が本格化する一方、情報技術の飛躍的進歩を背景に経済社会のグローバル化が進行し、国内においては一連の行財政改革等が進行中で、電気事業の一部自由化も行われました。
 本分科会は付託された事項について、このような内外の情勢を踏まえつつ、添付資料2に示すように1999年9月13日の第一回会合以来10回にわたる会合で、主に分科会委員により提出された調査結果および意見をもとに審議を行いました。本報告書はこの結果を取りまとめたもので、第1章で我が国の原子力エネルギー利用の状況を概観して付託された審議事項の位置付けを明らかにし、第2章で我が国のエネルギー政策における原子力利用のあり方について、他のエネルギー技術の動向も踏まえて検討した結果を取りまとめています。続いて第3章でこのあり方を実現する際に考慮すべき重要事項を整理し、第4章でそのために必要な原子力発電、原子力産業、核燃料サイクルの各分野における具体的展開に係る重要課題を、第5章では放射性廃棄物処理処分の分野におけるそれを取りまとめています。そして最後に、審議に供された資料を中心に本報告書の理解の増進に役立つと思われるデータ等を参考資料として添付しています。


(注) 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律

 

第1章 エネルギーとしての原子力利用の現状

1.1 世界の原子力発電

 原子力発電は1960年代後半から先進各国で導入が始まり、1970年末には世界全体で94基、設備容量にして21.5百万kWの原子力発電所が稼働していました。石油危機後その設備容量及び供給系に占める割合が大幅に増大して、1990年末には426基、設備容量にして344百万kWに達し、当時の世界の電力の約16%を供給するに至りました。その後、米国等でいくつかの原子力発電所が運転を中止したこともあって設備容量の増加率は低下しましたが、今なお422基、358百万kW(1998年末)の設備が世界の電力の約16%を供給し、一次エネルギー供給の約7.4%を担っています。これらの原子力発電所は主として米国、欧州、日本に存在しており、これらの国々に世界の設備容量の約8割が設置されています。

1.2 我が国の原子力発電

 我が国では、1966年に最初の商業用原子力発電所が運転を開始して以来今日に至るまで、平均して年間1.5基程度の原子力発電所が運転を開始してきました。その結果、1998年度には51基、総設備容量にして4,492万kWの原子力発電所が稼働しており、国内総発電電力量9,018億kWhのうち36.8%にあたる3,323億kWhを供給しています。これは一次エネルギーに換算すると原油換算約8,084万klに相当し、原油換算5.89億klに達する同年の我が国一次エネルギー供給の13.7%を担っていることになります。
 我が国で運転されている商業用発電用原子炉は、商用第1号機として32年にわたって運転された天然ウラン燃料黒鉛減速炭酸ガス冷却炉である東海発電所の原子炉を除けば、全て低濃縮ウラン燃料軽水減速軽水冷却炉(以下「軽水炉」という)です。現在建設中あるいは計画中の商業用発電用原子炉も全て軽水炉です。ただし、燃料に関しては、今後、約3分の1の発電所で、使用済燃料の再処理により回収されたプルトニウムをウラン235の代わりに利用する、いわゆるプルサーマルの採用が計画されており、一部の発電所では、既にこのための燃料が搬入され、装荷を待っています。
 我が国の原子力発電所は、1970年代には故障が相次ぎ、低い稼働率で運転されていました。しかしながら、その後、故障の原因究明に基づく抜本的対策や改良標準化等が図られて次第に故障の発生頻度が低下して稼働率が向上し、1990年代後半には毎年80%を超えるようになってきています。なお、これらの発電所の中には運転開始後30年を経るものも出てきていますので、それらに対しては高経年化対策が進められています。さらに、いずれ実施しなければならない原子炉廃止措置について、技術的・制度的検討が進められています。
 エネルギーとしての原子力は発電以外にも利用が可能ですが、現在のところ海外には原子炉からの温水を地域暖房やプロセス熱源に利用している事例が少数あるものの、我が国では温排水を養殖・栽培に利用している例が少数ある程度で、エネルギー利用と言えるものはありません。したがって、現在のところ、原子力エネルギーの利用は発電用に限定されているといって過言ではありません。

1.3 核燃料サイクル

 これらの発電所で使用される燃料は、電気事業者の発注により国内外で製造され、供給されています。これに必要なウラン濃縮作業は大部分が海外調達ですが、一部は我が国で開発された遠心分離機を採用した国内の濃縮事業者により行われています。一方、発電所の使用済燃料は、輸送に適した水準に崩壊熱が減衰するまで発電所で貯蔵されてから、その中に含まれるウランやプルトニウム等の有用成分を回収するために再処理事業者に引き渡されます。これまで再処理は主として海外の再処理事業者に委託されてきましたが、今後は青森県六ヶ所村に建設中の商業用再処理工場に委託される予定です。なお、この工場の能力を超えて発生する使用済燃料については、当分の間、引き続き発電所で貯蔵するか、今後誕生が期待される発電所敷地外における使用済燃料の中間貯蔵事業者に引き渡され、再処理が可能になるまでの間、安全に貯蔵されることになります。
 発電所で発生する放射性廃棄物は低レベル放射性廃棄物であり、これは青森県六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設センターで埋設処分されています。再処理工場で使用済燃料からウラン、プルトニウム等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃液を安定な形態に固化した高レベル放射性廃棄物は、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することが計画されています。2000年5月には、この高レベル放射性廃棄物処分の実施主体の設立等を内容とする「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立しました。

1.4 原子力産業

 我が国の原子力産業は、原子力の開発利用に必要な機器、燃料、サービス等を供給する原子力供給産業と、原子力により発電を行う電気事業から構成されています。原子力供給産業はさらに、原子力機器や部品・素材を供給する機器供給産業と、核燃料加工やウラン濃縮などの核燃料サイクルサービスを提供する核燃料サイクル産業から成り立っています。
 国内の原子力産業規模は、原子力供給産業が約500社で原子力関係従事者数が約46,000人、電気事業は11社で原子力関係従事者数が約10,000人となっています。この産業は原子力、電気、機械、化学、土木等の多岐にわたる技術分野から成っており、その扱う原子力発電所の建設プロジェクト等の規模が一基数千億円と大きいこと、高い安全性の要求から高い品質レベルが要求されること等の特徴があります。原子力供給産業の売上高は1998年度で約1兆5千億円ですが、ここ数年は減少傾向にあります。なお、原子力供給産業は、医療分野、学術分野等における加速器や放射線利用機器の供給も行っています。

1.5 研究開発 

 国と民間は、エネルギーとしての原子力利用の推進と技術の高度化のために、様々な研究開発を実施しています。国は、日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構等において新型原子炉の設計や基盤技術の研究開発、原子炉安全性に関する研究、再処理技術の研究開発、放射性廃棄物の安全管理や処分に関する研究開発、燃料利用効率の飛躍的向上を実現できる高速増殖炉と関連する燃料サイクル技術の研究開発等を行っています。一方、民間は軽水炉の改良を含む実用技術の安全性、信頼性、経済性の向上に関する研究開発に取り組んでいます。こうした研究開発への投資額は1997年度、国が約3000億円、民間が約1500億円(注)となっています。


(注) 平成10年エネルギー研究調査報告(総務庁統計局)によれば、我が国における1997年度の核融合研究等も含む原子力エネルギー研究費は総額約4500億円であり、このうち国・地方公共団体等からの投資額は約3000億円となっている。

1.6 地球温暖化対策への取組

 現在、人間活動による温室効果ガスの大気中濃度上昇がもたらす地球温暖化は地球規模の環境問題として多くの国々の関心を集めており、1997年12月に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)は、先進国に、2008年〜2012年の期間における二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの年平均排出量を、1990年レベルよりも少なくとも5%削減する数値目標を課しました。また議長国を務めた我が国は6%削減の義務を負いました。
 このため我が国では、2010年度のエネルギー起源の二酸化炭素排出量を1990年度水準に抑制する方針を定めました。このことを踏まえて1998年に改定された通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通しは、我が国のエネルギー安全保障上の脆弱性を改善すること、適切な経済成長を維持すること、そしてこのエネルギー起源の二酸化炭素排出抑制目標を達成することを目指して、1)省エネルギーを積極的に推進して、約2%の経済成長率を維持しつつ、2010年度までのエネルギー消費の伸びをほとんどゼロとする、2)風力、太陽光発電を含む再生可能エネルギー利用の積極的推進を図り、2010年度にはその一次エネルギー供給に占める割合を1996年度の約3倍の3.1%とする、3)原子力発電の積極的推進を図り、原子力発電による電力供給を2010年度には1996年度の約1.6倍の4800億kWhとするという目標を掲げました。しかしながら、その後の経済情勢はここで想定した経済成長率を達成しておらず、他方、原子力発電の運転開始までのリードタイムが長期化していること等から、現在、この見通しの改定のため、幅広い検討が行われています。

1.7 いま何を検討するべきか

 現行の原子力長期計画(1994年6月)が策定されて以来、約6年が経過し、この間にさまざまな事象が発生しました。1994年8月には、新型転換炉実証炉の建設計画が見直されました。1995年12月には旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃事業団)の高速増殖原型炉「もんじゅ」で、1997年3月には同事業団東海再処理工場においてそれぞれ事故が発生し、原子力の開発利用を推進している体制に対する国民の不信感を高めました。このことを受けて1998年10月には同事業団が改組され、核燃料サイクル開発機構が設立されました。1999年9月に茨城県東海村で発生したJCO事故は、原子力防災計画や原子炉以外の原子力施設の安全規制のあり方の問題点を国民に示し、原子力に対する社会の不安感・不信感を更に高めました。これに対して国は、原子力災害特別措置法を制定して国、地方自治体、原子力事業者それぞれの原子力防災に係る責任を明確化するとともに、原子炉等規制法を改正して原子炉以外の原子力施設を中心に国による定期検査、保安検査の充実等を図りました。
 これらの過程においては、「もんじゅ」の事故後に行われた三県知事による提言(注)を契機として原子力委員会により設置された原子力政策円卓会議における議論も参考にされました。この会議では、様々な分野からの招へい者から原子力安全規制、防災対策の充実に関する意見はもとより、エネルギーとしての原子力の位置付けとその開発利用の進め方に関しても、様々な意見が述べられました。そこでは、21世紀において人類社会は持続可能な発展のために循環型社会の実現を目指すべきこと、国は国民生活の維持・発展に必須のエネルギー供給を確保するためにこの方向性と整合させつつ適切な施策を講ずべきことについては、多くの方の意見がほぼ一致していました。しかし、このために長期的観点から原子力をどう位置付けるかについては、多様な意見がありました。
 また、現在、我が国においては、各国経済が市場を通じて相互依存を一層強めていく傾向にあることを踏まえて、市場の特性を活用して個々人の選択の自由を拡大し、経済効率を向上させることを目指す行財政改革等、経済全般にわたる一連の改革が進行しており、その結果電気事業が一部自由化されるなど、公益の実現に係る国と民間の役割分担が変化しつつあります。
 現行の原子力長期計画の策定以来のこうした状況に鑑みれば、国は、21世紀において持続可能な発展を可能にする循環型社会の実現を目指しつつ、国民生活の維持・発展に必須のエネルギー供給を確保するためにエネルギーとしての原子力利用をどう位置付けるかを早急に明らかにするべきです。そして、その上で、この位置付けを担うにふさわしいエネルギーとしての原子力利用の姿を実現していくために国と民間が取り組むべき課題を明らかにし、国民の理解を得つつその解決に取り組むべきです。そこで以下では、これらについて検討を進めることにします。


(注)1996年1月、福島、新潟、福井の3県の知事から、内閣総理大臣、科学技術庁長官、通商産業大臣に提出された「今後の原子力政策の進め方についての提言」

 

第2章 エネルギーとしての原子力利用の位置付け

2.1 21世紀のエネルギー問題

(1)歴史と展望

 エネルギーは人間の物理的活動水準を高め、社会を構成する技術システムを活動させるために必須の要素であり、資源、技術、人材などとともに全ての国の生産活動を支えています。世界の一次エネルギー消費量は現在、石油換算で年間約90億トンであり、戦後の半世紀で5倍近くになっています。現在の様々な物質の大量生産に基づく人々の物質的豊かさはエネルギーの大量消費に支えられているといっても過言ではありません。
 世界は、石油危機を契機に、化石燃料がエネルギーの約9割を供給している現実を踏まえて、石油備蓄と省エネルギー技術、石油・天然ガス掘削技術、原子力・再生可能エネルギーを含む各種エネルギー技術の研究開発を積極的に推進してきました。その結果、世界のエネルギー供給に占める原子力発電と天然ガスの割合が増加して石油依存度が大きく低下するとともに、各種エネルギー機器の効率が向上してきました。また、冷戦の終結と相まってエネルギー資源に関する貿易と投資の障壁が軽減された結果、化石燃料資源の採掘活動が活発化し、技術革新が進行して生産性が向上し、自由競争が促進されて、エネルギー価格が低下してきました。
 1987年〜1997年の間、世界のエネルギー需要は平均して年率約1.5%で増加していますが、ここ当分の間は、この増加傾向が続くであろうというのが大方の見解です。その主な要因は、発展途上国において個人の物質的生活基盤の充実を目指す経済の発展と人口の増加が並行して進むと予想されることです。中国、インド等のアジア地域のこうした国々の主要なエネルギー源は石炭ですが、近年は石油需要の伸び率が大きく、その規模は今後10年間で1.4倍になり、現在のアメリカの石油市場の半分の大きさになると予想されています。しかしながら、これらの国々やその近隣諸国における石油生産量は今後あまり伸びず、この需要増分の大部分は域外、特に中東に向かうことになろうと予想されています。
 石油代替エネルギーとして有望な天然ガスは、パイプラインの整備に伴い、世界の一次エネルギー供給に占める割合が増加し、最近では20%を超える規模になっていますが、アジア地域では約10%にとどまっています。しかしながら、この地域は周辺も含めて大規模な未利用資源があり潜在市場も大きいことから、ここ20〜30年のうちにはこれらの開発が進み、この割合が世界水準になる可能性も指摘されています。
 これらにも増して重要なことは、エネルギー消費の約9割を石炭や石油といった化石燃料に依存している今日の世界がこの水準で化石燃料への依存を継続していくことに対して、工業製品の原材料でもあるこれらの資源をこのように消費し続けていくことに問題はないのかという疑問のみならず、何らかの対策を講じなければ酸性雨や地球温暖化による被害が深刻化するのではないかという懸念が表明され、対策が講じられ始めたことです。COP3において温室効果ガスの排出削減目標が合意され、各国で民生部門や産業部門における省エネルギー努力の一層の徹底、より二酸化炭素の発生が少ない燃料への転換、化石燃料の効率的な燃焼技術や発生した二酸化炭素の回収技術、そして、原子力や再生可能エネルギーの開発・利用が検討され、実施されているのは、その具体例です。

(2)21世紀を迎えるに当たっての課題

 このような将来展望を踏まえると、国際エネルギー需給に関する第一の課題は、各国がその経済の維持・発展に必要なエネルギーを安定的に確保できるようにすることです。このためには、世界貿易の現実を踏まえ、各国が開かれた市場を維持し、エネルギー資源の開発投資のための環境整備を行うなど国際的なエネルギー供給能力と意欲を確保する努力を行うことが最も重要ですが、同時に、この供給に何らかの障害が生じる可能性に対して備えを行うことも怠ってはなりません。
 その可能性とは、日本を含む東アジア地域に関して言えば、石油の海上交通路の安全性に対する懸念や供給安定を確保することを意図して消費国が産油国と経済的、政治的、軍事的特殊関係を強めて国際政治に緊張をもたらす可能性、そして、域内資源開発を巡って領有権の未確定な地域で各国の行動が積極化して、緊張が高まる懸念です。また、それにもかかわらず、アジア全体としては石油備蓄制度が必ずしも十分整備されていないこともあり、緊張関係が生じた際に各国が非協調的行動をとる可能性が高いことも指摘されています。アジアにおけるエネルギーの安定供給の確保は、同時に我が国のエネルギー安定供給確保に係る課題でもありますから、我が国は、関係諸国や国際機関と連携してこれらの懸念の顕在化を予防するとともに、万一発生した場合の影響を緩和する方策の整備に努めるべきです。
 第二の課題は、アジアをはじめ、今後、大幅な経済成長が予想される地域におけるエネルギー需要増の大部分は化石燃料により満たされると考えられることから、地球温暖化問題が一層深刻さを増すと予想されることに対して対策を講じることです。先進国は、問題の不確実さを認識しつつも、想定される被害が地球規模で甚大であることに鑑み、COP3において2008年〜2012年の期間の年平均温室効果ガス排出削減目標を定めました。しかしながら、人類がこの問題に本格的に対応するには、中長期的には先進国以上の排出量が見込まれる途上国が排出規制の枠組に参加することが必要です。このことについての議論は、COP4以降も途上国の反対により進展していませんが、今後とも粘り強く説得を続けるべきです。
 なお、地球温暖化問題はCOP3の削減目標を達成すれば解消されるわけではありません。地球温暖化に関して今後明らかになっていく知見にもよりますが、各国は近い将来、より厳しい温室効果ガスの排出抑制を行わなければならない可能性に備える必要があります。この可能性に備える有力な手段は人々のライフスタイルの転換を含む徹底した省エネルギー努力であり、持続的発展を可能にする社会にふさわしいエネルギー技術の開発・利用の促進です。そこで先進国は、COP3の目標達成という当面の課題への対応と併せて、持続可能な発展を可能にする社会を実現するという目標を率先して掲げてこれらの努力を計画し、実行していかなければなりません。

2.2 我が国のエネルギー問題

(1)我が国におけるエネルギー需給の現状

 我が国の1998年度の一次エネルギー供給構成は石油52.4%、石炭16.4%、天然ガス12.3%、原子力13.7%、水力3.9%、地熱その他1.3%となっており、石油、石炭、天然ガスの大部分が輸入であることから、輸入依存度が極めて高いという特徴があります。また、輸入原油の86%が中東を供給源にしていますが、この中東依存度は先進国のなかで突出して高い数字です。
 一方、同年の国民一人当たりエネルギー消費は、年間7,400kWhの電力消費を含めて、石油換算3.9トンです。これは米国の半分以下で仏、独と同程度であり、また、中国の約5.5倍に相当します。我が国の国民総生産(GDP)当たりの一次エネルギー消費量は石油危機後急速に低下し、1991年には100万ドル当たり石油換算90トンと、米国の半分以下でした。しかしながら、1980年代後半から民生業務部門と運輸旅客部門の消費増が顕著になってこの低下傾向は鈍りはじめ、90年代にはついに増加に転じました。
 1988年〜1998年の間のエネルギー需要の平均伸び率は年率1.9%であったのに対して、同期間における電力需要の平均伸び率は年率3.3%でした。そのこともあってエネルギー消費に占める電力の割合は1988年には19.0%でしたが、1998年には22.0%となっています。しかしながら、今後は、この伸び率は低下することが予想されており、電気事業者の2000年度電力供給計画では、1998〜2009年度の電力需要の伸び率は年率1.8%と見積られています。
 地球温暖化の原因の一つとされる二酸化炭素排出に注目すると、我が国は人口が世界人口の2.2%であるにもかかわらず、世界の年間二酸化炭素排出量の5.5%に当たる年間3.4億トンの二酸化炭素を排出しています。原子力発電を火力発電に置き換えると二酸化炭素排出量は約0.35億トン増加することになります(注1)。我が国の二酸化炭素排出量の部門別割合は、産業部門31%、エネルギー転換部門29%、運輸部門20%、民生部門11%、その他8%です。一次エネルギー消費量当たりの二酸化炭素排出量は0.62トンC/toe(注2)で、米国の0.69トンC/toeよりは低いですが、原子力発電が一次エネルギーの約40%を供給している仏の0.40トンC/toeよりはかなり高い値となっています。
 水力、風力、太陽熱、太陽光、海洋、地熱、温度差エネルギー、バイオマス(廃棄物を含む)などのいわゆる再生可能エネルギーは二酸化炭素の発生量が少なく、国内で利用すればエネルギーの輸入依存度を下げることも可能です。これらは資源枯渇の恐れがないこと、そのいくつかは人々が身近で利用できることもあって、国民の関心が高まっています。しかしながら、我が国で利用されている再生可能エネルギーの一次エネルギー総供給に占める割合はあまり大きくなく、1998年度で水力3.9%、地熱0.2%、製紙廃液・廃材0.8%、廃棄物発電0.2%、太陽熱0.15%、太陽光・風力0.01%等です。


(注1) 火力発電の中でも二酸化炭素排出割合の小さい天然ガスコンバインドと置き換えると仮定した場合の試算
(注2) トンC/toe:一次エネルギー消費量(石油換算)1トン当たりの二酸化炭素排出量(炭素換算)

(2)我が国が取り組むべき課題

 我が国は、欧米諸国と異なり、四方を海に囲まれた島国であり、送電網やパイプライン等による他国とのエネルギーの融通が困難です。また、エネルギー資源を含む天然資源に乏しくそのほとんどを海外に依存しています。そこで我が国は、この地政学的条件を踏まえて、エネルギー資源を含む各種資源を輸入し、科学技術を有効活用してこれらを加工し、その成果を反映した製品の国際交易等を通じて豊かな社会を実現してきました。我が国が今後とも繁栄を続けるためには、すでに述べた国際エネルギー需給に関する課題を踏まえつつ、今後とも経済性のよいエネルギーを安定的に確保する努力を行う必要があります。
 このため取り組むべき第一の課題は、主要なエネルギー資源の輸入先を多様化するなど我が国を巡る国際交易ネットワークの多様化を図る一方、その供給が途絶える可能性に備えて、その可能性と影響の大きさに応じた水準の備蓄を維持することです。また、原油の輸入依存度が著しく高いことから、以下に述べる地球温暖化防止への取組にも配慮しつつ、石油を実行可能な限り、石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーといった石油代替エネルギーに置き換えていくことに取り組むことです。
 第二に、我が国は、他の先進国と同様、COP3において二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出削減目標を受け入れており、この会議の議長国としてその達成に向けて最大限の努力を払うべき国際責務を負っています。このことから我が国は、持続可能な発展が可能な循環型社会の実現を目指して、各種のエネルギー機器・システムのエネルギー効率の向上を図り、人々のライフスタイルの転換を促す多面的対策を含む省エネルギー努力を推進するとともに、地球温暖化につながる温室効果ガスの発生率が小さい原子力、再生可能エネルギーの利用を増大させるべきです。もちろん、石炭・石油から天然ガスへの燃料転換も当面の対策となり得ますので、そのための環境整備も進めるべきです。
 一方、情報技術の最近の進歩は人々と技術の関わり方を変えつつあり、インターフェイスを充実して技術の利用者に対して、その利用に伴う環境への影響に関する情報を刻々提供することも可能になってきています。そして、そうするだけでもかなりのエネルギー利用効率の向上がもたらされたという実験結果も報告されています。また、化石燃料使用施設の大部分に二酸化炭素回収設備を付加することが経済的に許されれば、人類は当分の間、石油を大幅にしのぐ資源賦存量を有する石炭を利用し続けることができます。さらに、原子力や再生可能エネルギーという技術エネルギーについては、現在はその秘められた大きな可能性の一部を利用しているにすぎません。したがって、省エネルギー技術を始め、二酸化炭素回収技術及び原子力や再生可能エネルギーが潜在する大きな可能性を引き出す技術の研究開発を長期的観点から継続的に行っていくことは極めて重要で、これは天然資源に乏しいにもかかわらず世界でも有数のエネルギー消費国である我が国にとっては義務であるとさえいえます。これが第三の課題です。
 さらに、これらの課題を達成するための活動は、国と民間がそれぞれの使命と責任に基づいて推進していくべきものです。国は、国家備蓄制度や研究開発活動、そして様々な情報提供活動といった公的提供の整備・充実を図るとともに、民間がこれらの課題を達成する方向性と整合する投資活動を行うよう誘導していくべきです。これが第四の課題です。この手段としては、事業許可基準の整備や、効率や排出量を規制する等の統制型の直接規制と、課税、補助金、温室効果ガスの排出量取引きといった市場機構を重視する誘導型規制などがあります。対応するべき課題の目標水準の高さや実現可能性を踏まえてこれらの手段をどのように組み合わせて利用していくかについて速やかに検討し、公平性、透明性を確保しつつ、合理的な制度を整備していくべきです。
 なお、この検討に際しては、電気事業の一部自由化に伴い、従来型の大型電源を中心とした電力供給構造に天然ガスや風力などを用いた分散型電源が導入されていく可能性があることから、これらの動向を総合的に勘案しつつ、電力供給構造全体のベストミックスを図るという視点を考慮する必要があります。

2.3 省エネルギーと再生可能エネルギーへの期待と課題

(1)省エネルギーへの期待と課題

 我が国では石油危機を契機として積極的に省エネルギー対策に取り組んだ結果、今日、我が国の対GDP当たりの最終エネルギー消費量は先進国の中でも低い水準にあります。それにもかかわらず、政府の現行の長期エネルギー需給見通しでは、事実上のエネルギーゼロ成長を目指すことが必要とされ、このため2010年度における省エネルギー量は1996年度の家庭部門の総エネルギー消費量に相当する原油換算5,600万klにする必要があるとされています。
 この目標を達成するために政府は、産業部門におけるエネルギー使用の合理化を徹底するとともに、これに役立つ技術開発を推進し、さらに省エネルギー法(注1)を改正してエネルギー多消費工場のエネルギー使用合理化に関する将来計画提出の義務づけを行う一方、(社)経済団体連合会(経団連)環境自主計画のフォローアップを実施して、その実効性を確認することにしています。民生部門においては、利便性・快適性等の追求やOA機器等の普及に伴いエネルギー消費が増加している状況に鑑み、トップランナー方式(注2)の導入による特定機器の省エネルギー目標の設定によりエネルギー効率の向上を誘導しています。また、住宅や建物の断熱、待機電力の節減、さらには人々のライフスタイルの変革の呼びかけにより、経済・社会活動と調和しつつ、省エネルギーに向けた努力が人々の日常活動の一部となって進められることを期待しています。また運輸部門では、自動車の燃費の改善強化を図るほか、クリーンエネルギー自動車の普及促進、物流交通対策の推進が図られています。
 最近の産業界は、多くの業種で経費削減等の対策が進められていることもあって、省エネルギーのための新たな設備投資は停滞しており、産業界が政府の目標を達成することは、短期的には難しい状況にあります。しかしながら、今後、我が国の社会を持続可能な発展を実現できる循環型社会に変えていくためには、大量生産―大量消費の姿を持続可能な発展の観点から見直し、資源の効率的利用と再利用のための技術とシステムの整備充実を図り、産業や人々のライフスタイルの在り方をこの社会にふさわしいものに変革していく目標を堅持していくことが重要です。したがって、これらの対策を実施するには設備更新が必要な場合も多く、効果が発現するまでには時間を要することを踏まえつつ、公的提供や規制あるいは誘導的手段を含む様々な施策を着実かつ継続的に実施していかなければなりません。


(注1) エネルギーの使用の合理化に関する法律
(注2) 家電・OA機器などの省エネルギー基準に、各々の製品において消費効率が現在商品化されている製品のうち最も優れているものの性能以上にする、という考え方を導入すること。

(2)再生可能エネルギーへの期待と課題

 再生可能エネルギーについては、水力、バイオマスや地熱は、他の再生可能エネルギーに比較して供給の不安定さが小さい利点がありますが、現在のところ国内における水力や地熱の未開発資源は、環境及び立地上の制約、送電線の敷設などの経済的制約のために開発が難しく、その規模を大幅に拡大していくのは容易ではありません。したがって、今後の重点は、環境保全を重視する中小規模の水力発電所の開発や、高温岩体発電のような革新的な技術の開発に向けられるものと考えられます。
 また、立地条件や自然に左右される太陽光発電、風力発電、波力発電の大規模な導入は、これらによる電力供給が不安定で、エネルギー密度が小さく、単位発電量あたりの設備費が高いため、現在のところ風況のよい地点における風力発電や住宅等における自家需要としての太陽光発電を除いて、大規模な導入は進んでいません。太陽光発電については、経済性の向上が直面する最大の課題です。このため、太陽電池の効率向上と製造コストの低減、設置方法の工夫が求められています。風力発電の場合、我が国の地形は複雑で風が不安定であるため、ウインドファームとして大量に導入できる地点はそう多くはありません。しかしながら、立地点の風況調査を丁寧に実施して特性にあった風車を選択すると同時に、単機出力を1000kW程度に大型化するなどの経済性追求努力を重ねつつ、その規模を拡大していくことが期待されています。なお、これらの不安定な電源が系統の最低負荷容量に対して一定の割合を超える場合は電力系統側に安定装置が必要となることも、コスト増大要因として指摘されています。  また、バイオマスの一種と言ってよい製紙工程の廃棄物である黒液・廃材を含む廃棄物によるエネルギー供給能力は、これらを排出する主工程の規模に左右され、資源量も限られていることから、これを需要に応じて拡大することは難しく、供給力には限界があります。しかし、循環型社会においては、最終廃棄物を減少するために廃棄物が発生した段階で適切な用途を見出し、再利用していくことが重要で、これを燃焼してエネルギーを得ることもその一つのあり方ですから、合理的に実施可能な限り、最大限これを実施していくべきです。
 これらのエネルギーは、当分の間は水力を除いて補助的な水準を超える役割を期待するのは難しいと考えられますが、国は、これらを分散型エネルギーである特徴を活かして利用する先駆的活動を、期間を限っての設備導入に対する補助金制度といった誘導型規制手段を用いて支援するなど、中長期的観点に立って積極的な導入努力を継続していくべきです。
 なお、世界には再生可能エネルギーの供給ポテンシャルが大きく、その有効活用に適した国々があります。我が国が再生可能エネルギーを最大限に活用していくことは重要で、今後とも最大限の努力を行うべきですが、循環型社会への移行は人類の課題であることを考えれば、同時に、こうして国内において培われた技術をこれらの国々に積極的に移転していく努力も怠ってはなりません。

2.4 原子力エネルギーの特性と位置付け

(1)原子力の特性

(a)供給安定性と資源の豊かさ

 原子力発電は、燃料のエネルギー密度が高いので、数年分の原子力発電所の運転に要する燃料を備蓄することも容易であること、ウラン資源は世界各地の主に政情の安定した国々に分散して賦存し、適切な価格で購入できること等から、供給安定性に優れています。このことは、エネルギー資源に関してわが国のような地政学的条件下にある国々が、エネルギーの安定供給を確保するための有力な選択肢に原子力発電を位置づける要因です。
 また、将来、高速増殖炉などウランを高い効率で利用できる技術が実用に供されれば、現在知られているウラン資源だけでも人類のエネルギー需要を1000年を超える期間にわたって満たすことができる可能性もありますから、これらの研究開発の成果によっては、原子力は長期にわたって人類のエネルギー技術の有力な選択肢であり続ける可能性があります。

(b)環境適合性

 原子力発電は、温室効果ガスの排出量が小さいので、地球温暖化という地球規模の環境問題に関する制約を満たしつつ大規模なエネルギー供給の確保を可能にします。一方、原子力発電には、必然的に放射性廃棄物の発生が伴います。電気出力100万kWの発電所を運転することにより発生する低レベル放射性廃棄物は1年間にドラム缶数百本になりますが、これらは埋設処分されています。この放射能は埋設後数百年の間に生活環境に影響を与えないレベルにまで減衰することが期待できます。
 また、同じ発電所から一年間に発生する使用済燃料の再処理過程で分離される廃棄物である高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体で毎年約30本(ガラス固化体仕様:体積約150リットル、キャニスターを含む重さ約500kg)になります。このガラス固化体は長期間にわたり高い放射能が持続するので、そのことを踏まえた管理・処分を行う必要があります。具体的には、この放射能が生活環境に影響を及ぼさないように長期にわたって隔離する方式として、地層処分、すなわち、廃棄体からの放射性物質の漏出抑制を目的とする人工バリアを設けて、天然バリアとなる数百メートル以深の安定した地下に埋設処分することが各国で計画されています。1999年11月に核燃料サイクル開発機構が原子力委員会に提出した「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について ―地層処分研究開発第2次取りまとめ―」によれば、大陸に属さない我が国の地質的条件でもこの目的に適う処分場の設計が可能であり、これにより処分を行っても我々の子孫の放射線環境を変える可能性は無視できるほど小さいとされています。
 しかしながら、この方式の処分の実施主体を国の方針としてかなり以前に決定した国の多くが、その後、立地点について地域社会の理解を得ることに苦労しており、現在、現実に深地層処分を開始できているのは高レベル放射性廃棄物ではなく、軍事施設からの超ウラン核種を含む廃棄物を岩塩層に処分する米国のWIPPプロジェクトだけです。このことを踏まえれば、この処分事業の推進に当たっては長期間にわたって大変な努力が必要であり、国民との対話を重ね、理解と協力を得ながら一歩一歩進めていくことが不可欠であることを当事者は肝に銘じるべきです。

(c)経済性

 原子力発電は化石燃料による火力発電に比べて発電コストに占める燃料費の割合が小さいことから、その発電コストは燃料となるウランの価格変動に対して安定性が高いという特徴を有しています。各種電源の発電コストは、資源や人件費、資本費がそれぞれの国の経済システムや資源流通機構の整備状況に依存するので、国によって異なります。最近の国際的な試算例によりますと、発電所を新設する場合、原子力発電は、安価な化石燃料の供給源近傍では火力発電に対して競争力がない事例も見られますが、そのような条件にない地域においては、ある程度の高い稼働率で運転を行うことを前提にすれば、化石燃料発電に比べて経済性が優れているとされています。なお、通産省の試算によれば、我が国における原子力発電の経済性は、現実的と考えられる経済的条件の下では、化石燃料発電のそれとの比較において遜色のないものとなっています(注1)。


(注1) 各種発電方式について運転年数を40年間、この間の平均設備利用率を80%等として試算された平均原価は、原子力は5.9円/kWh(うち核燃料サイクル費は1.7円)、水力は13.6円/kWh、石油火力 10.2円/kWh、LNG火力 6.4円/kWh、石炭火力 6.5円/kWhとなっている。

(d)安全性

 原子力発電所は大量の放射性物質を内在するため、公衆がその発生する放射線を過剰に受けて健康を害する可能性(リスク)を十分小さくできるよう、重層な安全設計を実施し、ていねいに安全管理を行なうことが重要です。実際、このような設計と安全管理を行っている軽水炉型原子力発電所のkWh当たりの公衆及び従業員リスクは、他の発電方式のそれに比べて小さいと報告されています(注2)。
 しかしながら、放射線は五感で感じることができず、またその健康影響が一般の人々に理解しにくいこと、原子力施設の安全を確保するための仕組みが外から見えないこと、不完全な格納容器しか有していなかったため大量の放射性物質が環境に放出された1986年に発生したチェルノブィリ原子力発電所事故の被害の大きさ、さらには、1999年、JCO事故をマス・メディアを通じて現場の人々と同時に体験したことなどから、人々は現在、原子力施設の安全性に強い不安感を抱いていることがアンケート調査によって明らかになっています。このように、原子力施設の場合、事故が起きれば、国内はもちろん国境を越えて原子力の安全性に対する公衆の不安が高まることがたびたび経験されていますから、原子力関係者は、どの施設にしろ、その事故は当該施設の所有者のみならず他の施設の所有者に損失を与え、さらには各国のエネルギー政策にまで影響を与える可能性が高いことを踏まえて、安全確保に最優先で取り組まなければなりません。


(注2) Fritscheによる試算では、原子力発電のリスクは、労働災害による従業員の死亡可能性が約0.5人/GW年、資材の輸送その他の事故等に伴う公衆の死亡可能性が0.2人/GW年以下となっており、いずれも、他の発電方式と比べて小さい天然ガス火力よりも少し小さい値となっている。

(e)核不拡散への配慮  原子力発電の燃料に使われる物質やその技術の一部は核兵器の材料やその製造に転用可能とされていますので、原子力の開発・利用を推進するに当たっては核不拡散への配慮が必要です。我が国は「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」に加盟して、核物質やその取扱施設および技術を国際原子力機関(IAEA)の保障措置のもとに厳格に管理し、そのことをもって濃縮や再処理などの機微技術の実用化やプルトニウム利用に関して国際社会の理解を得てきています。今後とも二国間協定を含むこれらの国際約束を遵守することはもちろん、核不拡散に対する取組の実効性を向上する観点から、機微技術に関する情報や国際規制物質の適切な管理のみならず関連技術開発の充実を心がけることが大切です。

(2)我が国のエネルギー供給における原子力の位置付け

 エネルギー資源に乏しい我が国が経済社会の繁栄を持続しつつ21世紀にふさわしい循環型社会の実現を目指すには、そのエネルギー需給構造をこの社会にふさわしいものに転換していくことが重要です。このためには、国は、適切な資源備蓄水準の確保やエネルギー利用技術の効率向上を絶えず追求しながら社会の様々なシステムや人々のライフスタイルの変革をも視野に入れて、省エネルギー、燃料転換、再生可能エネルギーの量および質的な特性を踏まえた利用などを、様々な規制的及び誘導的手段を通じて最大限に推進していくべきです。
 しかしながら、我が国のおかれた地政学的条件を踏まえれば、それと並行して、既に国内総発電量の3分の1を超える電力を供給し、エネルギー自給率の向上及びエネルギーの安定供給に貢献するとともに、エネルギー生産当たりの温室効果ガス排出量の低減に大きく寄与している原子力発電を引き続き基幹電源に位置付け、最大限に活用していくことが合理的です。
 国と民間は、このことを踏まえ、万一の原子力事故がもたらす被害の大きさ、核拡散に係る疑念がもたらす国際社会の緊張の大きさに十分配慮し、これらの発現する可能性を十分小さくする努力を継続して原子力施設の安定・安全運転を達成し、放射性廃棄物の適切な処理処分の実施に向けての継続的取組を通じて国民の原子力に対する不安と不信の軽減に努めるとともに、技術開発の成果を適宜、適切に導入して原子力発電とその関連技術システムを絶えず高度化していくべきです。そしてこれらの努力を通じて原子力発電を、我が国のエネルギー供給システムを経済性、供給安定性、環境適合性に優れ、温室効果ガスの排出量の小さいものとする観点から適切な構成割合に維持していくべきです。
 なお、こうして我が国が原子力発電を安全かつ安定に利用していくことは、世界のエネルギー供給安定性の向上に寄与するのみならず、世界に地球温暖化問題に対処する有力な選択肢の存在を示して、人類が直面しているエネルギー・環境問題の解決にも貢献することになります。

 

第3章 原子力エネルギー利用の具体的展開の基本的考え方

 本章では、第2章に示したエネルギーとしての原子力利用の位置付けを踏まえて、原子力発電や核燃料サイクルなど原子力エネルギー利用に関係する各分野における具体的展開を検討する前提となる、平和利用に徹する姿勢、安全確保への取組、国と民間の適切な役割のあり方について述べます。

3.1 平和利用への限定

 我が国は、原子力基本法の制定以来一貫してこの法律に則って、原子力の研究開発および利用を厳に平和目的に限って推進し、進んで国際協力に努めてきています。我が国は、NPT締約国として、核兵器を持たないことはもちろんのこと、IAEAによる厳密な保障措置を受け入れるとともに、国内における保障措置制度を確立し、これを確実に実施するなど、この条約に求められていることを誠実に履行してきています。その上、我が国は、原子力の平和利用活動には高い透明性と緊張感が求められていることを認識しており、特にプルトニウムを利用するに当たって透明性を向上する観点から、毎年のプルトニウム管理状況を公表するとともに、国際プルトニウム指針に基づき、プルトニウムの利用計画およびプルトニウムの保有量をIAEAに報告し公表するなどの取組を行ってきています。
 資源の乏しい我が国は、国際社会において平和裏に生存していくため、世界の自由貿易体制の中で、国際協調を基調として繁栄を享受していく道を選択しています。我が国は、広島や長崎における原子爆弾の被爆などにより、核兵器のもたらす悲惨さを身をもって体験しており、自らが核兵器による加害者となるような政策は国民が受け入れません。この原則は戦後50年以上を経過した現在においても、我が国社会にしっかりと受け継がれており、それが我が国の原子力の平和利用の厳守および核兵器廃絶を求める原動力となっています。それに、我が国が平和利用以外の用途に原子力を利用することは、アジアを中心とした国際的緊張と反発、総合安全保障の喪失、国際的孤立を招き、国内経済の破綻をもたらすことが確実であり、我が国がそのような途を選択することはあり得ません。
 したがって、我が国がエネルギーとしての原子力利用を進めるに当たっては、今後とも以上の基本的考え方に立って、これらの認識を維持し、取組等を厳守していくこととします。また、憲法の前文を踏まえて、我が国が培ってきた原子力を含めた科学技術力を活かし、進んで世界の長期的なエネルギー問題の解決と世界の安定した秩序の維持・発展に貢献していくこととします。

3.2 安全の確保

 全ての産業において、その事業を遂行するに当たっては、安全の確保が最も重要な事項であることは言うまでもありませんが、大きな危険要因を内蔵する原子力施設を扱う事業においては、このことが特に強調されるべきです。原子力の開発利用活動の安全確保に関しては、1)国の規制責任、2)事業者の保安責任、3)万一の災害発生に備えて防災計画を整備し、その実効性を担保する国、自治体、事業者の責任、の三つの責任が十分に果たされなければなりません。さらに、これら関係者は、その責任を適切に果たしていることを国民に常に明らかにして、国民に信頼されていなければなりません。

(1)安全の確保に係る国の責任

 国は、原子力の開発利用活動に関しては、これを実施できる技術的能力と経理的基礎を有する者に限って、従業員と公衆のリスクを十分小さくできる性能を有する設備を用いることを条件に、その活動を行うことを許可しています。そして国は、許可取得者の活動が許可条件に適合していることを各種の検査を実施して監査する責任も有しています。
 この許可を行い、監査を行う責任を有する行政機関は、国民や許可取得者から尊敬され、信頼されていなければなりません。このためには、1)規制行政の担い手と原子力利用推進行政の担い手を効果的に分離すること、2)規制行政の担い手はその活動を効果的かつ効率的に行うこと、3)規制行政活動に係る正確かつ明確な情報を国民にタイムリーに提供し、規制に係る決定に際しては国民に意見を求めるなど、国民に意味のある役割を与えること、等が重要です。
 我が国では、規制行政組織とは別に、学識経験者からなる原子力安全委員会が内閣総理大臣の諮問機関として総理府に設置され、原子力安全に関する重要事項の企画、審議、決定を行っています。行政組織がそれを尊重しつつ規制行政事務を行い、さらに原子力安全委員会がその状況を把握して適切に指導することにより、規制行政の中立性と専門技術的妥当性が確保される仕組みになっているわけです。したがって国は、これらの仕組みを通じて厳格な安全確保の考え方の徹底を確保するとともに、安全の確保に対する国の取組の透明性を高めることが国民に安心を与えることを認識して、これらの活動について適宜、適切に国民に説明することが重要です。また、国は、安全規制の在り方、特に新しい規制に関する決定を行うに当たっては、その内容について国民の意見を求めてこれに反映することにより、安全の確保に関する国の規制責任が十分かつ効果的に果たされるようにすることも必要です。
 規制緩和の時代にあっては、許可取得者の自己責任を重視し、その評価を市場に委ねることが原則です。しかしながら、エネルギーとしての原子力の開発利用に関しては事故が当事者の利益のみならず内外の公益を多大に損ねることから、この時代にあっても国は、保安に関する監査を適宜適切に行い、欠陥が見いだされた場合には、重大な事故の未然防止の観点から早期の是正を促すなど、厳格な規制を行うことが求められます。

(2)事業者の責任

 原子力施設の運営管理責任者である事業経営者には、国の規制内容のいかんに関わらず、当該施設の安全確保に関する第一義的責任があります。この責任は、許可条件を遵守し、万一の事故に際しては発生した損害を賠償する法的な責任のみならず、社会の維持・発展を支えるエネルギー供給を担う者として求められる社会的責任を含みます。したがって事業経営者はこのことを自覚して、高い安全確保を実現する経営にリーダーシップを発揮しなければなりません。そのためには、組織のリーダーは、安全を最優先にする方針を隅々まで徹底させ、安全確保に関する活動が十分な知識を有するものによって、健全な判断に基づき責任感をもって実行され、失敗したときにはその事例と教訓が広く伝えられ、その経験が組織内で共有されるよう努めるとともに、教育や訓練等を通じて必要な人材を育成し、同種の事業者との比較や適切な情報の収集分析に基づき、安全管理に関する活動を効果的に推進することが求められます。さらに施設周辺の人々の満足度や、外部の人の安全に関する批評・評価に真摯に耳を傾け、さまざまな安全指標を通じて、安全管理活動の成果の評価を行い、活動の改善に反映していくことも重要です。
 これらの安全確保に関する活動は、原子力施設の運転管理に携わる人々のネットワークを通じた相互学習により、より効果的に行えるので、これを整備することも重要です。このネットワークとしては、世界の原子力発電所運転者が整備している相互訪問を含む相互学習システムである世界原子力発電事業者協会(WANO)があります。JCO事故を契機に、我が国の原子力関係者はこの経験に基づきニュークリアセイフティネットワーク(NSネット)を整備し、さらに核燃料加工事業者が世界核燃料加工安全ネットワーク(INSAF)を設立しましたが、これらを通じて安全に係る情報交流活動が一層充実して展開されることが期待されます。

(3)防災の実効性確保の責任

 国が原子力の開発利用活動に限らず、安全規制の一部として許可処分を行う場合、被害の発生が全くないことを想定しているわけではなく、小さいけれどもゼロではないリスクが存在していることを前提としています。そこで国には、この許可に伴い、このリスクの内容に関する情報を国民と共有し、その内容に応じて適切な防災計画を整備する責任が生じます。国が1999年末に制定した原子力災害対策特別措置法では、原子力緊急事態が発生し原子力緊急事態宣言が出された場合には、内閣総理大臣が原子力災害対策本部長として原子力災害対策の中心的役割を担うことが規定されており、自治体の責務とあわせて、国に防災初期活動の開始と内容決定について実態上責任を持たせるとともに、主要な原子力施設の所在地の近くに「緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)」を予め設け、事業者から緊急事態の発生の通報があった場合には、その機能を活用して、国と自治体の強い連携により通報内容に応じた臨機の措置を実施していくことを定めています。今後、国は、防災対策とその適応範囲を臨機に示すことができるよう、事業者に防災業務計画の充実を求めるとともに、自らの危機管理体制を整備・充実し、オフサイトセンター等を有効に活用して、自治体が状況に応じた実効性ある防災対策を迅速かつ的確に決定し実施できるよう支援し、定期的に防災訓練を実施してこれらの実効性を確認していくことが肝要です。

3.3 信頼の確保

 原子力の開発利用の事業に携わる組織が社会の一員としてその事業を遂行していくためには、その組織が社会の信頼を得ていることが重要です。信頼とは相手が適切な行為を行うことを信じて委細を任せることです。したがって、原子力に携わる組織がこの委任を受けるために第一に必要なことは、国の信頼できる安全規制が課せられていて、安全を確保するのに必要十分な技術システムが採用されていることが明らかであること、そして、その活動に係る技術者、組織、その背景にある文化などが、原子力施設の安全確保に係る責任を果たすために必要十分であり、そのことが社会に伝わっていることです。
 そこで国と事業者は、安全確保に関する活動について透明性を高めるために、運転データや保安に関する監査や検査の結果、あるいは事故やトラブルなどに関する情報を、特に後者については事故故障評価尺度などを活用しつつ、積極的に提供していくべきです。また事業者は、最新の情報技術(IT)を活用して周辺住民が施設の運転管理状況を直接観察できるホームページを開設するなどの工夫を行って、安全確保活動への取組が社会の中で見えるようにしていく努力を重ねるべきです。なお、こうした活動は、社会との情報共有のためのみならず、事業者自らに対しても、いつも改善を求めてこれでよいかと自問する機会を提供するので、優れた安全文化を育むためにも有効です。
 また、我が国が原子力発電を進める上では、内外の陸上および海上における核燃料物質や放射性廃棄物の輸送が必要です。これらの輸送に当たっては、輸送に関する法令に基づき万全の安全対策と核物質防護対策を講じるとともに、輸送経路にある国や地域の人々に対して十分な説明を行い、信頼を得ることが重要です。

3.4 国と民間の役割の考え方―自由化時代の原子力開発利用

 市場経済社会においては、企業家の自己責任に基づく自由な事業活動が市場を通じて競争的に行われる結果、高い効率を生むことが期待されます。したがって国は、我が国が多くの企業家にとって好ましい活動の場となるよう技術、資源、エネルギー、人材の安定的供給を確保し、市場を整備して競争を促進し、公益の観点からこれを規制して、国民生活の質を維持・向上することを目指すことになります。
 このうちエネルギー、特に電気は、国民一人一人の生活や社会を構成する多くの技術システムの機能を維持するために必須の要素であることから、これまで国はその安定供給を確保するため、電気事業者に地域独占を許す一方、供給義務を課すなどの規制を行ってきました。しかしながら、技術の進歩により事業運営の柔軟性が拡大してきたことを踏まえて、国は、1995年および2000年3月施行の制度改正により、これまでの発送電一貫の地域独占型の電力供給体制から転換して、発電市場への入札制度の導入や特別高圧系統で受電する大口需要家への電力小売りを自由化しました。この電気事業の自由化は、競争原理を導入して電力事業の効率化を促し、生活や産業活動の基盤的な財である電力の価格を低減し、国民生活を向上し、我が国産業の国際競争力強化をもたらすことが期待されています。一方、既に自由化の進んでいる海外においては、電気事業が短期的視点を重視して経営を行ったために供給信頼性が低下した事例が散見されることなど、自由化の弊害も指摘されています。
 また我が国では、これまで電気事業者にはエネルギー安全保障の確保、地球環境問題への対処等の、公益の担い手としての経営が要請されてきましたし、現在も、電気が国民生活や産業の基盤となっていることから、低廉な供給の要請に加えて、広く全ての地域の人々に平等な条件で電力を供給することや、供給信頼性を維持する責任が課せられています。そこで、この自由化政策の効果については、3年後を目途に検証が行われ、自由化の実施範囲、制度等の見直しが行われることになっており、その際、これら公益追求の在り方についても考え方を明確化し、必要に応じて適切な施策を検討することが予定されています。
 このような状況を踏まえれば、エネルギーとしての原子力利用が我が国エネルギー供給において期待される役割を果たし得るためには、電気事業者により原子力発電所及び関連施設が着実に運転されることが必要ですから、国は次の施策を講じる必要があります。
 第一には、電気事業者が安全確保に係る許可条件の範囲内で知恵と工夫によりこれらの施設の運転管理を適切に行っていることを、保安検査を通じて適宜に監査し、欠陥等が見いだされた場合には、公益の観点から早期に是正措置を講じることを求めていくことです。
 また第二には、長期的観点から、エネルギーの安定供給の確保や地球環境問題に係る国際約束を遵守するために必要な対応方針を明確にし、その方針のもとにおける各エネルギー源に期待される役割について国民の理解と合意を得た上で、民間の自主的な投資活動に伴う原子力発電の規模が、その役割を踏まえた目標を達成するように、状況に応じて誘導することです。この誘導方策としては、事業許可基準規制や量を規制する統制型の直接規制と、課税や補助金、温室効果ガスの排出量取引きなどの市場型の経済手段が考えられます。国は、目標達成に対する費用対効果や公平性、透明性などを勘案しつつ、これらの中から新しい市場条件下における合理的な手段を選択し実施するべきです。
 第三には、将来の経営環境においても原子力発電が電気事業者にとって合理的な選択肢の一つになるように、その技術の高度化や革新を目指す研究開発を実施し、その成果が他のエネルギー供給技術と競争していくことができる可能性を明らかにし、意欲のある民間事業者がその実用化の活動を行えるよう情報提供を行い、適切な誘導を行うことです。こうした技術を探索し、その開発を通じて実用化の可能性を明らかにする活動に、想像力と冒険心をもって挑戦していく研究開発を計画的に推進することは、人類の安全保障に係る先進国の責任でもあります。
 そうした研究開発には、将来実用化される技術を探すような基盤技術の研究開発と、新しい技術の実用化の可能性を実証する研究開発があります。前者の研究開発は大学、国の研究機関が主として実施することになりますが、その場合、新しいアイデアに関する研究は提案を広く民間からも公募して、効果的な研究開発が行われるようにすることが重要です。また、社会のニーズに応えようとする科学技術の応用研究が逆に基礎科学の新分野を生み、基礎科学の興味に基づく基礎基盤的研究が逆に新技術を生む可能性に着目して、基礎研究と応用研究の連携協力を強化していくことも重要です。一方、後者の研究開発は、国の研究開発主体を中心にしつつも将来の市場の展望を踏まえた意欲のある民間の参加を得て進めることが重要です。
 さらに、研究開発はよく考えられたものでも必ず成功するとは限らず、しかもその優先度は、それぞれの研究開発の成果に基づく成功の見通しのみならず、競合する技術の研究開発の進展や経済社会の将来見通しによって変化すること、さらに開発の進展度合いによっては民間主体の開発に移行することが適切な場合もあることから、国は定期的に研究開発活動をこれらの観点から総合的に評価し、財政事情も踏まえつつ適切な投資水準を決定していかなければなりません。
 なお、研究開発活動や民間の事業を安定的かつ継続的に進めるために必要な人材の育成は、国と民間がそれぞれの使命に応じて将来における研究者、管理者、技術者、技能者等の人材需要を見定めて取り組むべき重要な課題であり、国と民間は、それぞれの立場から、長期的な視点に立ってこれを着実に進めていくべきです。

 

第4章 原子力エネルギー利用の着実な展開

4.1 軽水炉利用

(1)軽水炉利用の展開

 原子力発電は、初期投資が大きく回収までに時間がかかることから、将来の社会的・政治的環境の変化に起因する事業リスクが大きいとされています。しかしながら、我が国においては、一定以上の稼働率で安定運転を行うことができれば、軽水炉による発電は他の電源と経済性において十分に競合できるとの試算がなされています。したがって、エネルギー供給における原子力の位置付けを確保していくために、電気事業者が、現在の原子力発電の主要技術である軽水炉発電技術をできる限り長期間にわたって、安全確保に万全を期しつつ、高い稼働率で利用していくことが望まれます。
 2000年6月現在、稼働中の51基の軽水炉に加えて4基の軽水炉が建設中ですが、軽水炉の新増設については、近年、運転開始までのリードタイムの長期化が顕著となっています。電気事業者においては、計画の実現を図るために、地域社会の理解を得ることに引き続き着実な努力を継続することが期待されます。国は、原子力発電が我が国のエネルギー供給システムを経済性、供給安定性、環境適合性に優れたものとする観点から適切な供給割合を担うように、公平性、透明性を確保しつつ、種々の誘導措置を講じるべきです。
 軽水炉利用の今後の展開において考慮すべきもう一つの重要な事項は、高経年炉の安定運転の維持です。運転開始から20年以上経過している発電所は20基に上りますが(2000年6月末、ふげんを除く)、これまでのところ運転年数の増加によりトラブルが増加する傾向は認められていません。しかしながら、これらの安定運転の継続は我が国の軽水炉利用の安定的な継続の根幹をなすと考えられますので、10年毎に行われる定期安全レビューなどの機会に、国内外の高経年プラントの経験を踏まえて、機器や素材の経年変化を早期に検出する点検活動を重点的に実施するとともに、その結果に基づいて適切な予防保全活動を行っていくことが重要です。

(2)安全規制の高度化

 安全規制に関する活動はリスクを管理する活動ですから、その活動は論理的に一貫していて、明確でかつ相互に整合的であることが求められます。原子力施設の安全性を定量的に把握するための確率論的安全評価(PSA)等のリスク評価技術の進歩により、安全規制に有用なリスク情報がタイムリーに得られるようになってきています。そこで、この情報を活用して規制活動をより効果的かつ効率的で透明にしようとする取組が諸外国においてなされてきています。我が国においても、この技術の適用により得られる情報を参考にすることにより、例えば、十分低いリスクを有意に変えない範囲での定期点検、定期検査の内容や間隔の柔軟化、電気出力規制から熱出力規制への変更、シビアアクシデントマネジメント対策の合理化等を含む合理的な安全規制の在り方について絶えず検討し、実現を図っていくべきです。
 また、こうした規制活動に必要な技術的かつ専門的な判断を支援し、規制行政に有用な新しい技術情報や方法論を提供する、規制のための安全研究を充実していくべきです。特に、近年、経年変化の早期発見には材料・構造に関する研究の充実が、また安全確保に重要な組織や人の健全性について的確な監査を可能にするためにはリスク評価技術の高度化やヒューマンファクターに関する研究の充実が重要です。
 なお、軽水炉の安全規制に限りませんが、国は、効果的かつ効率的な規制活動を実現していくため、事業者の原子力施設の運転管理活動や機器、燃料製造工程の品質保証活動を監査・評価する業務に、専門的知識を有する民間の第三者認証機関を一層活用していくことも積極的に検討するべきです。内外の保険業界や規制組織から信頼されるこのような機関を国内に充実して整備することは、今後拡大すると見込まれる国際調達・機材の輸出の際に必要な、国及び民間による製造業者の品質保証活動の監査の担い手を整備する観点からも時宜を得た取組です。
 さらに、国は、海外の規制の動向や国内のこれまでの運転実績を踏まえて、国の技術基準に技術の進歩、新しい知見をより迅速に取り入れ、国際基準との整合を図ることが容易に行えるよう、技術基準の機能性化を図り、性能保証の具体的な基準については優れた内外の民間基準に認証を与えて採用するようにしていくべきです。このために国と民間は、技術基準等について専門に検討する国内組織やその成果を国際的に発信していく活動を支援していくべきです。

(3)次世代炉の研究開発

 現在の軽水炉の次の世代の軽水炉を開発するに当たっては、将来における社会の要請を予測しつつ、設計に対する要求を確定していく必要があります。現在考えられる範囲でも、将来の軽水炉は安全性、信頼性に加えて、原子力発電に対する安心感や他の電源との経済的競争力、多様な立地条件への適合性、環境問題に対する貢献等、様々な要求を満足させる必要があります。このような要求を満たすための開発の方向性としては、最新の情報技術や免震技術を含む立地条件の緩和技術等を適用しつつ従来の技術を改良し発展させる方向と、これらを適用しつつも全く新しい革新的な技術を取り入れた概念を追求する方向の二つの方向性があります。具体的には、スケールメリットにより建設単価を引き下げることを目指す従来型大型炉の開発と、受動安全特性の採用により経済性を追求するなど新概念を導入していく革新的な軽水炉の開発が想定されます。これらの開発は、基盤技術が既に開発済みで実用化のための大型機器の開発と実証が残されているような改良発展型の大型軽水炉については、民間が主体となって行い、革新的原子炉に係る概念検討や重要な要素技術の探索研究については、国の研究機関と大学、民間が個別に、あるいは協力して実施していくことが適当です。なお、将来において、次世代炉等の導入の際に必要となる安全性の確認等の観点から必要なデータ整備等に係る研究については、国際協力を有効に活用しつつも、国が中心となって行う必要があります。

4.2 原子力供給産業

(1)最近の情勢

 1999年12月に公表された日本原子力産業会議の調査によれば、1998年度の鉱工業の原子力関係売上高は、2年連続の大幅な減少となっており、1992年のピーク時の約67%となっています。なかでも電気事業者への納入比率は5年連続で低下し、1993年のピーク時の79%から65%にまで低下しています。これは、新規発電所建設の停滞に伴い電気事業者の設備投資が急激に減少しているためです。
 一方、海外から国内電気事業者への納入実績は増加しています。これには、国内電気事業者が、経済のグローバル化とともに、経済性を追求する過程で原子力に関連する資機材、燃料等の国際調達を活発に行うようになってきていることも関係しています。我が国原子力供給産業は、このような市場構造の変化への対応を迫られていることを認識して、経営の効率化を一層進めるとともに総合的な産業戦略を立案して対応していくべきです。
 欧米では経済のグローバル化および原子力の開発利用に対する社会および経済環境の変化に起因する原子力市場の低迷を踏まえて、事業の多角化や競争力強化のために原子力供給産業の国際的な再編が進んでいます。特に、欧州ではフランスのフラマトム社とドイツのジーメンス社が2000年第3四半期に原子力部門を統合して新会社を作ることを発表しています。イギリスの英国原子燃料会社(BNFL)は、アメリカのウエスティングハウス社(WH)の原子力部門を買収し、さらにスイスとスウェーデンによる合弁会社であるアセア・ブラウン・ボベリ社(ABB)の原子力部門も買収しました。また、アメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)および日本の(株)日立製作所と(株)東芝は、3社の原子燃料事業を1999年に統合しています。
 一方、アジアでは中国、インド等は今後のエネルギー消費の増加が見込まれることを踏まえて引き続き原子力発電所の建設計画を有していますが、中国はこの機会に原子炉の標準化を通じて国産能力の確立を目指すとしています。

(2)人材確保と技術の継承・発展

 我が国の原子力産業は、原子力発電所の建設基数が増大する発展期を経て、現在ではメインテナンスの比率が高まりつつある成熟期にあります。実際、前述の日本原子力産業会議の調査によれば、電気事業に関しては、ここ10年、建設費や研究開発費の支出高は減少傾向にある一方、プラントの運転に関連した運転維持費や技術系従事者数は増加傾向にあります。また、1998年度の鉱工業の原子力関係従事者数のうち技術者、研究者、技能者数は、いずれも過去10年のピークに比べ10〜40%減となっており、鉱工業の原子力関連の研究関係支出高は、過去10年のピークより45%減となっています。
 一般に、事業経営では、将来予想される市場規模に見合った人的・資金的原資の投入が行われるため、電気事業における原子力発電所の新増設計画の進行状況を踏まえれば、多くが標準化されたプラントの建設であることもあって、機器供給産業においては今後、経営原資の投入量が低下することが予想されます。そこで、プラントの安全運転の確保については、電気事業の運転維持費や技術系従事者が増加傾向にあること等から、特に困難が生じるとは考えられませんが、建設部門や機器供給産業においては、設計や物作りに関連する分野においてこれまでに蓄積された技術力・人材を従来通りの規模で維持することは困難になることが予測されます。
 したがって、原子力供給産業は、各分野の人材を将来の市場規模を踏まえて適正規模に集約しつつ技術力および製造力の維持・継承、発展を図るための方策を検討し、常に品質および価格競争力を高めて高い事業競争力を確保・維持し、今後とも安全性のみならず技術的および経済性に優れた社会が求める原子力エネルギー技術・製品を提供できる実力の保持・発展に努めるべきです。それと同時に各企業は、常に最新の技術を取り込む努力を継続するとともに、企業内での教育訓練等を充実させ、それまでに蓄積された技術を企業内において発展させ、将来世代へ着実に継承する努力を行うべきです。特に、今日の目覚しい情報技術(IT)分野における技術成果の活用も含め、革新的な技術を導入して、設計、製造はもとより運転・保守性の向上をも追求し、原子力の更なる経済性の向上を目指すことが必要です。また分業化が進展する中で、システム全体を見渡せるような経験豊富な人材がもつノウハウ等を確実に次世代へ受け継いでいく努力も求められます。
 原子力供給産業における人材の維持・継承、発展は、物作りを継続することで効果的に達成されますから、原子力供給産業は、高い安全性を有する機器・プラントを供給し、原子力に対する信頼性の向上に力を尽くすことが重要です。また、電力利用のみならず熱需要に原子炉熱を利用することや、中性子・重粒子線等を医学に利用する技術の市場にも積極的に展開していくことが重要です。さらに、日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構等の国の研究機関と民間事業者との間で技術協力協定を拡充し、共同研究や人材の交流等、相互の人的・技術的交流を促すような体制をつくり、我が国全体としての人材・技術力の維持・継承、発展を図るよう努力することも重要です。

(3)競争力の向上と国際展開

 我が国の原子力供給産業はこれまで、主として国内の電気事業者をユーザーとして、これに機器材やサービスを提供することで成り立ってきました。しかしながら、今日、電気事業者は電源間の競争力を高める観点から、国内のみならず国際市場を通じてより安価な資材、サービスの調達を図っている状況にあります。したがって原子力供給産業においても、国内活動のみならず国際入札への応札や製造拠点の国際化、さらには国境を越えた企業提携等も視野に入れた国際展開や事業の再構築、業界の再編成等を視野に入れて、企業の技術や経営資源を十分に活用しつつ経営の効率化や経営体質の強化を図り、国際的なコスト競争力と技術力を維持していくことが重要です。
 また、原子力供給産業は、近年のアジアを中心とする国際社会における原子力の環境変化を踏まえ、アジア諸国からの引き合いに応じて機器供給を中心とした国際展開を積極的に図るべきです。将来、我が国の高い安全性を持つ軽水炉技術を輸出するに当たっては、世界のエネルギーの安定供給や環境問題の解決に寄与する視点に立って、単に軽水炉プラント機器の供給だけではなく、我が国で培われた安全思想とセットで国際展開することで、国際社会への責任ある貢献を果たすことに配慮することが重要です。また、将来の実用化を目指すような技術の研究開発に当たっては、我が国で生まれた基本的な技術概念を世界レベルで共通化し、将来の国際標準化を目指すような取組も重要です。
 なお、国は、こうした民間活動の国際展開の進展にあわせ、核不拡散等の安全保障上必要となる二国間協定締結相手国の拡大を行うことや、相手国における原子力エネルギー利用のための安全規制や原子力損害賠償制度などの法整備等を支援し、さらには基礎技術レベル向上のための技術協力等を行っていくことが重要です。

4.3 核燃料サイクル

(1)基本的考え方

 これまで我が国では、原子力が長期にわたって人類にとって有力なエネルギー供給技術の選択肢であり続けることを可能にする技術システムの実現を目指して、核燃料サイクルに関する研究開発を行ってきました。具体的には、天然ウランの探鉱・製錬・転換技術やウラン濃縮技術、また高い燃焼度を達成できる炉心・燃料製造技術、さらには使用済燃料から燃料として利用できるウラン、プルトニウムを回収する再処理技術の研究開発を行ってきました。また、こうして回収されたプルトニウムを燃料とするプルサーマルや、高速増殖炉とそれに関連する燃料サイクル技術、放射性廃棄物の処理処分技術、さらには使用済燃料に含まれる長寿命放射性核種の分離変換技術等の研究開発も行ってきました。
 国は、これらの研究開発の成果を踏まえつつ、使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していくことを政策の基本とし、民間事業者が原子力発電事業を推進するに当たってこの基本的考え方に沿って活動することを求めてきました。また同時に、上に述べた研究開発の成果がこの活動に速やかに活用されることを期待する観点から、これらの技術の実証段階から民間に適切な投資を求めてきました。その結果、現在、ウラン濃縮や再処理の分野で民間事業者により国内において事業活動が展開されつつあります。
 原子力発電は、我が国エネルギー供給システムを経済性、供給安定性、環境適合性に優れたものにすることに貢献しています。核燃料サイクル技術は原子力発電の供給安定性に優れた特性を技術的に向上させるとともに、原子力が長期にわたって選択肢であり続けることを可能にする技術であり、それが国内で実用化されていくことによって、原子力のこうした貢献を一層確かにしていくことが期待されます。このことから、上述の基本的考え方は適切であり、民間事業者が今後ともこの考え方に則って活動を継続することが期待されます。
 もとより我が国の核燃料サイクル事業者は、市場において海外の事業者と競争して、原子力の他のエネルギー供給技術に対する比較優位性を重視する電気事業者を顧客として維持・獲得していかなければなりません。そこで国は、原子力のエネルギー供給安定性の確保に対する貢献を確かなものとするために核燃料サイクルの技術基盤を国内に維持することが重要との観点から、我が国の核燃料サイクル事業の活性化を促す環境整備などの措置を行うことが適切です。
 また、これらの事業活動には市場から見た適正規模が存在し、一方、技術には経済性の観点から固有の適正規模が存在しますが、それらは常に整合するとは限りません。したがって、我が国における核燃料サイクル事業の一部が民間事業化した今日、国は、民間事業者がエネルギーとしての原子力に対する国民の期待を踏まえつつ、事業を合理的経営の観点から柔軟に推進することができる制度整備を行うことが重要です。使用済燃料の中間貯蔵に係わる制度整備は、この点で時宜を得たものです。
 また、核燃料サイクルに関する研究開発の目指すところは、既に述べたように、人類社会が原子力を持続可能な発展を支えるエネルギー技術の有力な選択肢とすることを可能にすることです。このような普遍的性格を有する研究開発活動を先駆的に実施していくことは、資源に乏しい我が国が国際社会において生き続ける一つの有力な手段ですから、我が国がこれらの研究開発活動を今後とも継続的に実施していくことは適切です。
 なお、これらの開発利用活動を進めるに当たっては、平和利用の担保と国際的な義務の誠実な履行に加えて、利用目的のない余剰のプルトニウムを持たないとの基本的な原則を遵守し、プルトニウム利用の透明性の向上に努めることが必要です。

(2)天然ウランの確保

 我が国は、長期購入契約等により、今後10年近くの天然ウランの必要量を確保しています。当面の需給動向および天然ウラン供給国が政治的に安定した国であることを踏まえると、我が国電気事業者が引き続き適切な価格により天然ウランを調達することは可能と考えられます。しかしながら、天然ウランを安定的に確保することの重要性を踏まえれば、鉱山開発のリードタイムの長期化、ウラン産業の寡占化の進行等にも留意して、適切な量の備蓄を保有する一方、供給源の多様化に配慮しつつ、引き続き長期購入契約を軸とした天然ウランの確保を図り、状況に応じて自主的なウラン探鉱活動、鉱山開発への経営参加等を進めていくことが重要です。
 なお、旧動力炉・核燃料開発事業団は、民間のこうした活動を補完することを目的として、海外においてウランの探鉱活動を実施してきました。しかし、動燃改革により設立された核燃料サイクル開発機構は、天然ウラン市場状況の今後の見通しや核燃料関連事業の進展等を踏まえて、新たなウラン探鉱活動は行わないこととし、確保している4万トン弱の権益のうち、主要な権益と探鉱技術は国内民間企業等に適切に移転することにしています。国内民間企業に譲渡される権益については譲渡後最低5年間は保有されることになっていますが、さらに長期にわたって維持することが期待されます。なお、今後の探鉱活動は、他のエネルギー資源・鉱物資源同様、当面、民間に委ねることが適当です。
 海水中に含まれるウランについては、その賦存密度が極めて低いことから、現時点ではこれを吸着採取する技術を利用しての事業が経済的に成立する見通しはありません。しかしながら、これまでの技術進歩には著しいものがありますので、関連技術の研究開発は今後とも継続するべきです。

(3)ウラン濃縮

 世界におけるウラン濃縮役務市場の需給は、今後も当面の間は供給能力過剰で推移すると予想されています。しかしながら、欧米のガス拡散法プラントがいずれ老朽化すること等から、中長期的に見れば、ウラン濃縮役務市場が不安定となることも予想されます。我が国では、供給の安定性を確保するとともに、核燃料サイクルの自主性を確保するという観点等から、この技術の研究開発を行ってきました。現在は、核燃料サイクル開発機構が開発した金属胴遠心分離機技術を用いて、民間事業者が六ヶ所ウラン濃縮工場を稼動中です。今後は、これまでの経験を踏まえ、より経済性の高い遠心分離機を開発・導入し、同工場の生産能力を1,500トンSWU/年規模まで着実に増強しつつ、安定したプラント運転の維持および経済性の向上に全力を傾注することが望まれます。
 また、我が国の濃縮技術を国際競争力のあるものとするためには、濃縮技術が高度でかつ機微な技術であること等を勘案して、引き続き国内において研究開発を推進し、より一層性能が高く経済性に優れた遠心分離機を実用化することが必要です。国内民間濃縮事業に遠心分離機の設計・製造・運転管理技術を提供した核燃料サイクル開発機構の原型プラントは2000年度に濃縮役務運転を終了し、その後は濃縮プラントの廃止措置にかかる研究開発に利用されることが予定されています。民間事業者は、核燃料サイクル開発機構によるこれまでの遠心分離機の開発成果や知見、人的資源を着実に集約して有効に活用するとともに、国際市場の動向を踏まえて他国との協力をも視野に入れ、技術開発を主体的に推進していくことが望まれます。
 一方、ウラン濃縮の革新技術として、これまで原子レーザー法、分子レーザー法および化学法の研究開発が進められてきました。これら新技術については、実用化の可能性をある程度の確度で見通せるレベルに概ね達したものと考えられますので、今後は、実用技術として確立する時期を見極める観点から、それぞれの開発が終了した時点までの成果を取りまとめておくことが適当です。
 なお、国内でのウラン濃縮に伴い発生する劣化ウランは、将来の高速増殖炉等への利用に備え、適切に貯蔵していくことが望まれます。

(4)軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)

 プルサーマルについては、海外では既に1980年代から利用が本格化されており、我が国でも日本原子力研究所における基礎研究や1980年代後半から実用炉で行われた実証試験の成果等を踏まえて、2010年までに累計16〜18基において順次プルサーマルを実施していくことが電気事業者により計画されており、既にこのための燃料が搬入されているプラントもあり、関係者の努力により実現の緒についたところです。プルサーマルは、ウラン資源の有効利用を図る技術であるとともに、原子力発電に係る燃料供給の代替方式であり、燃料供給の安定性向上の観点から有用で、この計画を推進することは、将来のプルトニウム本格利用時代に備えて産業基盤や社会環境を整備することにも寄与すると考えられます。
 プルサーマルの経済性(注)については向上の余地がありますが、こうしたプルサーマルの技術的特性、内外の利用準備や利用実績、安全性、および利用目的のない余剰のプルトニウムを持たないとの我が国の基本的な原則を遵守し、プルトニウム利用の透明性を確保するとの方針を踏まえれば、我が国としては、この計画を着実に推進していくべきです。したがって、電気事業者には、1999年に発生した英国におけるMOX燃料製造時の検査データ偽造などのような国民の信頼を失わせる問題が再び起こらぬよう品質保証体制の再点検を行い、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが求められます。なお、全炉心MOX燃料装荷可能な改良型沸騰水型軽水炉の採用を計画している青森県大間町に建設予定の大間原子力発電所は、プルサーマル計画の柔軟性を広げるという位置付けを持つものとして、その準備が進められています。
 プルサーマル計画を進めるために必要な燃料は、海外において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、海外のMOX燃料加工工場で製造されていますが、国内において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、国内で加工されるのが合理的です。そこで、民間事業者は、六ヶ所再処理工場の建設・運転と歩調を合わせて国内にMOX燃料加工事業を整備する必要があります。この場合、新型転換炉「ふげん」等のMOX燃料製造を担った核燃料サイクル開発機構からの技術移転や海外の技術も参考とすることにより、我が国においてMOX燃料加工事業が早期に産業として定着するよう、最善の努力を行うことが望まれます。
 このプルサーマルに伴って発生する軽水炉使用済MOX燃料の再処理は、国内外で技術的に可能であることが実証されています。しかしながら、当分の間は、ウラン使用済燃料の再処理を優先することが現実的であり、ウラン使用済燃料と同様に安全に貯蔵管理できることから、軽水炉使用済MOX燃料は、中間貯蔵による対応を含め、再処理するまでの間、適切に貯蔵管理することが適当です。


(注) 経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のサイクルコストの経済性に関する評価によれば、再処理リサイクル方式の方が燃料コストで十数%ほど高くなるとされている。しかし、同時に同評価では、原子力の発電コストにおける燃料コストの比率は15〜25%であることを考慮すれば、両者に本質的な差はないとされている。

(5)軽水炉使用済燃料再処理

 我が国においては、軽水炉の使用済燃料はこれまで、核燃料サイクル開発機構の東海再処理工場に委託された一部を除いて、海外の再処理事業者に委託されて再処理されてきました。そして、この間に民間事業者は、国内におけるその需要の動向等を勘案し、核燃料サイクル開発機構の東海再処理工場の運転経験を踏まえつつ、海外の再処理先進国の技術・経験を導入して、六ヶ所再処理工場を計画し、現在、2005年の操業開始に向けて建設を進めています。我が国は、核燃料サイクルの自主性を確実なものとするなどの観点から、今後、使用済燃料の再処理は国内で行うことを原則としていますので、民間事業者は、我が国に実用再処理技術を定着させていくことができるよう、この我が国初の商業規模の再処理工場を着実に建設、運転していくことが期待されます。
 核燃料サイクル開発機構は現在、東海再処理工場において、電気事業者からの契約役務および「ふげん」等の使用済燃料の再処理を実施するとともに、高燃焼度燃料や軽水炉使用済MOX燃料等の再処理技術の実証試験等を行うことにしています。これらの成果は今後の我が国再処理事業の将来に重要な貢献をなすと考えられますので、成果について段階的に評価を行いながら実施されるべきです。これらの活動を着実に進めた後は、プラント寿命を考慮して、順次、再処理施設の廃止措置に係る研究開発に力を入れていくことが望まれます。
 プルサーマルを含む軽水炉利用が今後とも続くことに対応して、核燃料サイクル開発機構やその他の研究機関などにおいて、再処理技術の高度化研究開発が行われています。六ヶ所再処理工場に続く再処理工場は、これらの研究開発の成果も踏まえて優れた経済性を有し、ウラン使用済燃料の再処理を行うだけでなく、高燃焼度燃料や使用済MOX燃料の再処理も行える施設とすることが適当と考えられますが、さらに今後の技術開発の進捗を踏まえて、高速増殖炉の使用済燃料の再処理も可能にすることも考えられます。したがって、この工場の再処理能力や利用技術を含む建設計画については、六ヶ所再処理工場の建設・運転実績、今後の研究開発及び使用済燃料中間貯蔵の進展状況、および高速増殖炉実用化の見通しなどを総合的に勘案して決定するべきですが、現在、これらの進展状況を展望すれば、2010年頃から検討を開始することが適当です。国は、民間事業者が決定した計画については、原子力の開発利用の基本方針に照らしてその妥当性を評価し、必要があれば所要の制度、環境整備等を行うことになります。
 なお、再処理により回収されるウランは、ウラン濃縮施設において再濃縮する等により、リサイクルを行っていくことが適当です。民間事業者は、その利用方法について検討し、将来の本格利用に向けて諸準備を進めていくことが重要です。

(6)使用済燃料中間貯蔵

 使用済燃料の中間貯蔵は、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的な調整を行うことを可能にしますので、核燃料サイクル全体の運営に柔軟性を付与する手段として重要です。海外においては、すでに、原子力発電所の敷地の内外に使用済燃料中間貯蔵施設が設置されている国もありますが、我が国においては1999年に使用済燃料の中間貯蔵に係る法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を開始しています。今後は、中間貯蔵を適切に運営・管理することができる実施主体が、安全の確保を大前提に、事業を着実に実現していくことが期待されます。国および電気事業者は、この中間貯蔵施設の必要性、安全性などについて、国民に対してきめ細かく、かつ分かり易く説明していくことが重要です。なお、六ヶ所再処理工場や使用済燃料中間貯蔵の事業が計画に従って順調に進捗していく限り、海外再処理の選択の必要性は低いと考えられます。また、関連して、核不拡散等の観点から、使用済燃料を国際的に管理する構想が提案されることがありますが、現在のところ、使用済燃料については発生国が自らの責任で自国において管理することが原則であり、国として検討すべき段階にはありません。

(7)高速増殖炉および関連核燃料サイクル技術の研究開発

 高速増殖炉は、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、エネルギーの長期的安定確保に資することから、我が国はこれを将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として研究開発を進めています。その一環として、現在は、その多様な技術選択肢の技術的検討を進める観点から「実用化戦略調査研究(注)」が、核燃料サイクル開発機構を中心として進められています。また、高速中性子が豊富であるという特質を活かして、これによりマイナーアクチニドなどを分離技術と併用して燃焼し、放射性廃棄物処分に係る負担軽減を実現することや、核不拡散性を一層向上させることをも視野に入れた先進的リサイクル技術の研究開発も進められています。国は、その研究開発の進捗状況を、競合技術の研究開発や国内の核燃料サイクル事業の進展状況等、その時々の国内外の諸状況を勘案しつつ定期的に評価し、その結果をこの研究開発の進め方に反映していくことが重要です。


(注) 実用化戦略調査研究は、高速増殖炉および関連する核燃料サイクル技術に関する多様な選択肢について経済性等の評価を行い、高速増殖炉サイクルの実用化像を絞り込み、その研究開発計画を提示することを目的とした調査研究。1999年より核燃料サイクル開発機構と電気事業者が一致協力して実施しており、(財)電力中央研究所と日本原子力研究所も参加。

(8)新型転換炉「ふげん」

 新型転換炉「ふげん」については、所要の期間をもって運転を終了することとされていますが、その間に、過去の研究開発成果に、現在実施中の高燃焼度MOX燃料の安全評価等のプルトニウム利用技術や、プラント管理技術についての研究開発成果を加えて成果の集大成を行うとともに、海外のニーズに応じ、圧力管型原子炉の運転管理技術を取得させる場として活用していくことが適当です。
 また、運転停止後の廃止措置を円滑に行うため、「ふげん」の原子炉システムの固有の廃止措置技術の開発およびそれに必要な研究を実施し、そこで得られた成果については、ニーズに応じ、適切に技術移転を行っていくことが適当です。

(9)今後のプルトニウム利用の見通し

 我が国の今後のプルトニウム利用は、当面の間、プルサーマルおよび高速増殖炉等の研究開発において行われます。研究開発に用いられるプルトニウムの需要は、関連する研究開発計画およびその進捗状況によって変動する可能性がありますが、その場合においても、プルトニウム需給の全体を展望しつつ、柔軟なプルトニウム利用を図ることとしています。この方針に基づく現時点における2010年過ぎまでのプルトニウムの回収と利用の概略は以下のとおりです(プルトニウム量は核分裂性プルトニウム量)。

 1) 海外再処理により回収されるプルトニウムは、累計約30トンと見積られ、2010年頃までに順次回収されることが予定されています。
 2) 国内再処理工場においては、六ヶ所再処理工場が本格操業した段階で年間約5トン弱のプルトニウムを回収することが予定されています。
 3) もんじゅが運転再開した後は、研究開発用に年間数百キログラムのプルトニウム需要が見込まれます。
 4) 電気事業者の計画によれば、2010年までにプルサーマルを16〜18基の規模まで順次拡大しつつ実施していくこととされています。プルサーマルには、既に具体化している計画では一基当たり年間約0.3-0.4トンのプルトニウムの利用が見込まれることおよび全炉心MOX燃料装荷の大間原子力発電所では年間約1.1トンの利用が見込まれることを踏まえれば、その実施規模の拡大に合わせて、当初は海外再処理により回収されるプルトニウムを利用しますが、その後は、国内再処理工場で回収されるプルトニウムを利用することが予定されます。
 既に述べたとおり、我が国は、プルトニウムの利用も含め、原子力基本法に則り、原子力の研究開発および利用を厳に平和目的に限って推進してきており、また、国際的にもIAEA保障措置の受入れなど、NPT上の義務を誠実に履行してきています。今後、上のようなプルトニウム利用を進めるに当たっては、この平和利用の確保に厳重を期すことはもちろん、我が国が行っている平和利用の確保に係る取組への理解と信頼を得る努力を行うとともに、利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの原則に従い、プルトニウム利用の透明性向上のための努力を継続して、国内外でいささかも平和利用に対する疑念を持たれることのないよう努めていくことが重要です。

 

第5章 放射性廃棄物の処理処分

5.1 基本的考え方

 放射性廃棄物の安全な処理処分は、これを発生させた者の責任においてなされることが基本です。放射性廃棄物は、多くは原子力発電所や核燃料サイクル施設から発生しますが、大学、研究所等における研究開発活動、病院における放射性物質を用いての医療行為等によって発生するものもあり、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等が多種多様です。放射性廃棄物は、この多様性を踏まえて適切に区分管理され、区分に応じて安全かつ合理的に処理処分が行われるべきです。このため国は、これらの処理処分が安全確保と環境保護の観点から合理的に行うことのできる法制度の整備など所要の措置を講じ、放射性廃棄物を発生した者は、こうした法律等に従って、安全な処分が適切かつ確実に行われるよう、処理処分の具体的な実施計画を立案推進する必要があります。
 我が国で現在発生している、また、今後において発生が予想される放射性廃棄物には、現在、一部処分が開始されているものや準備が進んでいるものがありますが、いまだ着手されていないものについても、早期に安全かつ効率的な処理処分が行えるように、発生者等の関係者が十分協議・協力し、具体的な実施計画を立案・推進していくことが重要です。その際、原子力の開発利用が阻害されることのないよう、国は必要に応じ関係者の取組を支援することが重要です。
 放射性廃棄物の処分活動が円滑に推進できるためには、社会的な理解を得ることが重要です。このためには、情報公開を徹底し、国民と原子力の便益を享受することに伴い発生する放射性廃棄物とその処理処分に関する情報を共有することが重要です。また、国や電気事業者等の関係者は、それぞれの立場から適切な処分のあり方に関する議論に必要な、正確な知識や情報の普及に努めるべきです。
 なお、持続可能な発展を目指す観点からは、廃棄物の発生量を抑制することが重要です。エネルギー発生に係る廃棄物の発生量の抑制のために最も大切なことは、エネルギーの利用効率を向上し、循環型社会の実現を目指して人々のライフスタイルを変えていくことも含めて省エネルギーに努めることです。多くの放射性廃棄物の発生に関係する発電事業者は、上に述べた情報提供活動等を通じて、国民一人一人が、発電に伴って放射性廃棄物を含む様々な廃棄物が必然的に発生することを認識し、この認識に基づいて行動するように工夫していくべきです。
 また、発生者は、廃棄物の発生過程を分析して発生量をできるだけ少なくする工夫を行うとともに、発生した廃棄物の有効利用についても積極的に取り組むべきです。

5.2 処分に向けた取組

 現行の原子力長期計画では、放射性廃棄物管理の実態に合わせ、放射性廃棄物を発生源ごとに区分して、それぞれにその処理処分のあり方を示していました。しかしながら、その後、既に埋設処分が進められている原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の一部以外の放射性廃棄物について処分方策の検討を行った結果、現在調査審議中のウラン廃棄物を除き、「地層処分」、「一般的な地下利用に十分余裕を持った深度への処分」、「コンクリートピット処分」、「素掘り処分」および「廃棄物の処理および清掃に関する法律における管理型処分と同様な処分」のいずれかの処分方法で処分できる見通しが得られています。このため、今後はこの各々の処分方法ごとにその実施に向けた具体的対応が重要となります。そこで以下では、放射性廃棄物を処分方法ごとに区分して、その処理処分の実施に向けた具体的取組について述べます。

(1)地層処分を行う廃棄物

 放射性廃棄物の中には、放射性核種の濃度が高く半減期の長い核種(長寿命核種)が多く含まれるため、その放射能が生活環境に影響を及ぼさないレベルになるまでに数万年を要し、それまでの間の管理を人間に委ねることが合理的ではないものがあります。このような放射性廃棄物については、長期にわたって隔離するために、天然バリアとなる数百メートル以深の安定した地下に、廃棄体からの放射性物質の漏出抑制を目的とする人工バリアを設けて処分する「地層処分」を実施します。

1) 高レベル放射性廃棄物

 我が国では、再処理で使用済燃料からウラン等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分することを基本的な方針として、所要の整備が行われつつあります。現在、既にガラス固化された高レベル放射性廃棄物の貯蔵が青森県六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで開始されており、その発生時期とその後の冷却期間を考慮して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでにはこの処分を始めることが適切とされています。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分技術については、核燃料サイクル開発機構がこれまでの研究開発成果を取りまとめた「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について―地層処分研究開発第2次取りまとめ―」(1999年11月26日)を国へ提出し、現在、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会がその評価を実施しています。核燃料サイクル開発機構は、深地層の研究施設、地層処分基盤研究施設や地層処分放射化学研究施設等を活用し、今後とも地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて研究開発を着実に推進していくことが適切です。そしてその成果は、この処分に関する安全基準の策定に役立てるとともに、処分事業の実施主体に適切に移転されることが重要です。
 深地層の研究施設は、これまでの処分研究開発の成果を実際の地質環境において確認していく上で重要な研究施設です。また、この施設は、地下深部における学術的研究を促進することに役立つのみならず、国民が実際に地下深部の環境を体験し、地層処分に関する研究開発に対する理解を深める場として重要です。このため、核燃料サイクル開発機構は北海道幌延町および岐阜県瑞浪市で計画している深地層の研究施設の計画を着実に実現していくことが大切です。なお、このような深地層の研究施設の計画と処分施設の計画は明確に区別して進めることが重要です。
 2000年5月に、処分事業の実施主体の設立等を内容とする「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立しました。今後は、速やかに処分事業の実施主体が設立されるとともに、処分に係る費用の積み立てが開始されることが期待されます。また、国はこの法律に基づきこの処分事業に係る基本方針を早急に定め、実施主体がそれに従って処分実施に向けて必要な活動を着実に推進していくことが重要です。この基本方針に基づく処分地の選定については、国が先頭に立ってこの処分の意義、安全性等についての理解促進活動を行い、立地調査に当たっても当該地域の意見を尊重しながら着実に推進することが重要です。また、立地地域との共生の在り方については、地域との共同作業によりそれを設計していくことが重要です。さらに処分地の選定過程と並行して、具体的な処分実施に向けた研究開発も進める必要があります。
 なお、試験研究炉等から発生する使用済燃料に係る高レベル放射性廃棄物についても、適切な処理・処分を行うため、関係者が所要の対応を図ることが重要です。

2) 高レベル放射性廃棄物以外の廃棄物

 高レベル放射性廃棄物以外にも、放射性核種の濃度が高く、また、その中には長寿命核種が比較的多く含まれるため、地層処分が必要な放射性廃棄物が存在します。この種の放射性廃棄物は、その性状が多様であるため、高レベル放射性廃棄物処分研究開発の成果も活用しつつ、合理的な処分に向けて、その多様性を踏まえた処理処分に関する技術の研究開発を、発生者等が密接に協力しながら推進することが重要です。当該廃棄物の発生者等は、その責任を果たす観点から、処分事業についての組織や技術の検討を行うなど、処分事業の推進を目指して適切な対応をとることが必要です。

3) 長寿命核種の分離変換技術

 高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命放射性核種を分離し、これを原子炉や加速器を用いて短寿命あるいは安定核種に変換する技術は、まだ研究開発の初期段階ですが、処理処分の負担軽減、資源の有効利用に寄与する可能性があります。したがって、この分離変換技術に関する研究開発は、定期的に評価を行いつつ、核燃料サイクルの他の研究開発課題との関連を考慮しながら、進めることが適切です。
 なお、長寿命核種の分離変換技術が将来において実用化できるかどうかは今後の研究開発に依存しており、さらに、たとえ成功してもこの技術で地層処分の対象となる長寿命核種を含む放射性廃棄物を完全になくすことはできませんから、地層処分の必要性がなくなるわけではないことに留意する必要があります。

(2)管理処分を行う廃棄物

 放射性廃棄物の多くは、人間による管理が期待できる期間内に生活環境に影響を与えないレベルにまで放射能の減衰が期待できるものです。このような廃棄物は、放射能が時間とともに減衰して人間環境への影響が十分に軽減されるまで、人工バリアと天然バリアを組み合わせ、放射能に応じた管理を行うことで、人間環境から安全に隔離するのが基本です。また、長寿命核種を含んでいる廃棄物でも、その濃度が十分低い場合には、適切な人工バリアと天然バリアの組み合わせによる管理によって人間環境への影響を十分低くできます。
 このような管理処分を行うべき廃棄物は、ほぼすべての原子力利用施設から発生します。これらは処分の方法により、次の四つに区分されます。なお、これらの廃棄物の区分に関する名称については、正確かつわかりやすいことが重要であり、今後、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会で検討されることが望まれます。

 1)放射性核種の移行抑制機能の高い地中で、一般的であると考えられる地下利用深度に十分余裕を持った深度(例えば50〜100m)に、コンクリートピットと同等以上の機能を持つ人工構造物を設置して埋設し、数百年間管理を行う放射性廃棄物。

 2)浅地中にコンクリートピットを設置して埋設し、数百年間管理を行う放射性廃棄物。

 3)コンクリート等の安定な廃棄物で、コンクリートピットなどの人工構造物を設置することなく浅地中に埋設し、数十年間管理を行う放射性廃棄物。

 4)放射能の観点からは浅地中に埋設して数十年間管理することが適切である廃棄物のうち、鉛などの有害な化学物質を含むものであって、「廃棄物の処理および清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)」における「管理型処分場」の構造基準を踏まえた処分施設を設置して埋設し、適切な期間管理を行う必要のある放射性廃棄物。

 既にコンクリートピットへの処分が進められている原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物以外の廃棄物については、今後、処分の実現に向けた具体的取組を進めることが重要です。この取組を進めるに当たっては、処分の合理性を追求する観点から、処分方法が同じ廃棄物は原子力施設、研究所、大学、病院等の発生源を問わず同一の処分場に処分することや、同一の処分場において複数の処分方法による処分を実施することも考えるべきです。なお、処分の在り方については、合理性を追求する観点からだけでなく、立地地域の意見等も勘案して、実現可能性が高い在り方を選択する必要があります。国は、必要に応じてこうした関係者の取組を支援する一方、安全基準の策定や法制度の整備など、処分の実現に向けた所要の取組を推進する必要があります。

(3)その他の廃棄物

 ウラン廃棄物に関しては、その処分方策に関して現在原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会にて調査審議中であり、速やかに取りまとめがなされることが望まれます。

5.3 放射性廃棄物の発生量低減と有効利用の推進

 現在、我々の社会には、資源節約と廃棄物の再資源化によって廃棄物を減らすことを通じて循環型社会を構築するという大きな流れが存在します。そこで、放射性廃棄物についても発生量低減や有効利用に関する研究開発を積極的に推進していく必要があります。これまで放射性廃棄物については、商業用発電炉の解体に伴い発生するものを除き、主として処理処分の観点からのみ検討されることが多く、例えば放射性金属廃棄物についても、溶融処理・再利用等の観点からの検討はあまり行われてきませんでした。しかし、今後は、放射性廃棄物の有効利用について、関係者および関係行政当局が連携して、十分な安全確認のあり方を確立することを前提に、再利用の用途やシステムの形成などを幅広く検討していくことが重要です。また、廃棄物の安定減容化技術等の廃棄物処理に関する研究開発についても、廃棄物の発生量低減や放射線量低減等の観点から、今後とも継続することが重要です。

5.4 処分に対する信頼の確保

 処分の実現を図るには、処分技術や処分事業の実施主体が国民に信頼されるものであることが必要です。処分技術に対して国民の信頼性を得るためには、処分における安全確保の考え方や処分に必要とされる技術について、その内容や専門家の間での技術的な議論をわかりやすく国民に向けて発信していくことが重要です。また、処分は国の定める技術基準に沿って実施されるものですから、国も処分に係る技術基準を制定する段階から国民の意見を聞くなど、情報発信活動に積極的に取り組むべきです。
 また、処分事業を進めるためには、事業者に対する国民の信頼を確立し、「安心感」を確立していくことが極めて重要です。そのためには、処分事業の透明性を確保するため、事業のすべての段階を通じて情報公開に徹底することが不可欠であり、事業者は継続的に情報公開及び情報発信を行う仕組みを整備すべきです。国は、国民の意見を聞きつつ適切な安全基準を整備するとともに、事業者の安全確保活動が適切になされていることを確認する制度を、処分にむけた取組の進展に合わせて、遅滞なく整備していくことも重要です。

5.5 原子力施設の廃止措置

 発電炉、試験研究炉、核燃料サイクル施設等の原子力施設の廃止措置は、その設置者の責任において、安全確保を大前提に、地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要です。商業用発電炉の廃止措置については、原子炉の運転終了後、必要な期間を経過したのち、解体撤去することを原則とし、その跡地は原子力発電所用地として、引き続き有効に利用することが望まれます。
 原子力発電所の廃止措置を実施する場合、これまでの研究開発の積み重ねにより、現状では未解決の技術的課題はないものの、解体技術および除染技術の高度化、より合理的な極めて低いレベルの放射線測定技術、一層合理的かつ効率的な廃止措置が可能となるシステムエンジニアリング技術などについては、引き続き技術開発を実施することが望まれます。また、解体廃棄物については、発生量低減と有効利用の推進がとりわけ重要であることは言うまでもありません。
 原子力施設の廃止措置により発生する放射性廃棄物の処理処分については、発生者である原子力施設設置者が適切かつ確実に行う責任があります。なお、廃止措置に伴い発生する廃棄物のうちクリアランスレベル以下の廃棄物については、放射性物質として扱う必要のないものであり、産業廃棄物と同じ扱いができるものですが、短期間に大量に発生します。そこで、これらは合理的に達成できる限りにおいて、徹底してリサイクルしていくことが重要です。このリサイクル利用を実施するためには、関係者及び国が、社会のクリアランスレベルに関する理解を深めていくことが必要です。

添付資料1

長期計画策定会議第二分科会構成員
[エネルギーとしての原子力利用]

(座長)近藤 駿介 東京大学大学院工学系研究科教授
(座長)前田  肇 関西電力(株)取締役副社長
 石井  保 三菱マテリアル(株)取締役地球環境・エネルギーカンパニープレジデント
 石槫 顯吉 埼玉工業大学先端科学研究所教授
 伊藤 和明 文教大学国際学部教授
 内山 洋司 筑波大学機能工学系教授
 榎本 聰明 東京電力(株)常務取締役原子力本部長
 川村  隆 (株)日立製作所代表取締役副社長
 神田 啓治 京都大学原子炉実験所教授
 津 十月 作家
 西川 正純 柏崎市長
 佐和 隆光 京都大学経済研究所教授
 宅間 正夫 (社)日本原子力産業会議常務理事
 竹内 哲夫 日本原燃(株)代表取締役社長
 寺島 実郎 (株)三井物産戦略研究所所長
 飛岡 利明 日本原子力研究所理事
 中神 靖雄 核燃料サイクル開発機構副理事長
 八田 達夫 東京大学空間情報科学研究センター教授
 藤目 和哉 (財)日本エネルギー経済研究所研究常務理事
 松田美夜子 生活環境評論家
 宮本 盛規 新日本製鐵(株)常務取締役経営企画部長
 森嶌 昭夫 上智大学法学部教授
 湯川れい子 音楽評論家・地球環境を考える女性の会「Women1000」代表

(2000年6月1日現在)

添付資料2

長期計画策定会議第二分科会審議経過

 

第1回 平成11年9月13日(月)
  議題(1)第二分科会の進め方について
    (2)第二分科会で審議すべき事項について
    (3)その他

第2回 平成11年10月22日(金)
  議題(1)(株)ジェー・シー・オー核燃料加工施設の事故について
    (2)新エネルギーとの比較等エネルギー政策の中の原子力利用の在り方について
    (3)その他

第3回 平成11年11月17日(水)
  議題(1)新エネルギーとの比較等エネルギー政策の中の原子力利用の在り方について
    (2)放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の明確化について
    (3)その他

第4回 平成11年12月13日(月)
  議題(1)新エネルギーとの比較等エネルギー政策の中の原子力利用の在り方について
    (2)原子力産業の在り方について
    (3)その他

第5回 平成12年1月19日(水)
  議題(1)原子力産業の在り方について
    (2)放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の明確化について
    (3)その他

第6回 平成12年2月17日(木)
  議題(1)新エネルギーとの比較等エネルギー政策の中の原子力利用の在り方について
    (2)放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の明確化について
    (3)原子力産業の在り方について
    (4)その他

第7回 平成12年3月13日(月)
  議題(1)新エネルギーとの比較等エネルギー政策の中の原子力利用の在り方について
    (2)その他

第8回 平成12年4月19日(水)
  議題(1)放射性廃棄物処分を含む核燃料サイクル政策の明確化について
    (2)その他

第9回 平成12年5月16日(火)
  議題(1)報告書(案)について
    (2)その他

第10回 平成12年6月1日(木)
  議題(1)報告書(案)について
    (2)その他