○生成流転する地球:ガイアの世界
- 地球は、太陽からエネルギーを受けるエネルギー解放系であると同時に、マテリアルを循環させる物質閉鎖系である。すなわち、生態系は「エネルギー」を取り入れ、「マテリアル」を循環させて、地球上にダイナミックな平衡を創り上げる、いわゆるガイア(注)とみなすことができる。その物質を循環させるサイクルの代表が、炭素サイクルである。また、人類は限られた地表の約1/3を、農地や牧草地として占有しており、文明社会が生態系を蝕んでいるように見える。
(注)ガイア:地球環境とそこに生きる生命体は、一体化した自己調整システムを形成しており、これをガイアと呼ぶことがある。
○文明社会の軌跡:自己組織化する文明
- Y2K問題からも、文明社会は、安定供給、高品質性、無謬性を要求する社会であることがわかる。また、人間の生態系における適正な生息密度を1として、文明社会である日本では230であり、また、消費エネルギーは、筋肉社会を1として、世界では175、日本では600である。今後、中国をはじめとする発展途上国の生活水準の向上により、エネルギーの消費は飛躍的に増大するであろう。以上からも、文明社会が、もはや生態系に埋没することはできないことがうかがえる。
- こうした文明社会を支える三要素は、情報、マテリアル及びエネルギーである。エネルギーの利用は、受動的な火の利用から能動へ、やがては能動から創出へと推移してきた。動力は、人力、家畜、水車と進化し、19世紀の蒸気機関から急速にエネルギーが増大した。動力が筋力に置きかわることによってはじめて、奴隷制度は崩壊し、女性は家事から解放された。動力の開発は、大きく文明を進歩させ、文化を育ててきたといえる。
- ここにきて、地球が物質閉鎖系であることを忘れたつけが現れており、生態系破壊、廃棄物処分問題、地球温暖化現象等が発生している。
○収奪する文明から共生する文明へ:文明社会サバイバルのために
- こうした状況を踏まえて、我々の文明も、収奪する文明から共生する文明への変化が必要である。そのための、第1の視点が、文明社会のミニ地球化である。その場合、ゼロエミッション化は可能かというと、リサイクルとエネルギー消費のトレードオフ関係を考えると、それは困難であり、資源収奪と廃棄物投棄の最小化「ミニマムエミッション」を目指すべきであろう。
- 第2の視点が、江戸時代型の文明社会であり、文明活動を抑制し、自然環境を活性化するとの両面から、文明社会間の物質交換速度をガイアの物質循環速度に近づけていく、この際「永遠」志向の文明から「滅び」を生かす文明を目指すことが重要である。
- 第3の視点は、植相型文明社会であり、太陽のエネルギーを取り入れる植物に学ぶことである。ただ、太陽エネルギーは密度が低く、主系統電力用には不適当であり、分散電源としての将来性を伸ばすべきであろう。
- 第4の視点は、原子力であり、宇宙原理のエネルギーを、文明社会の中で創出して、独立のエネルギー源を確保するものである。原子力の現時点の課題は、循環型社会のエネルギーとしてのトータル・システムの完結である。天然に存在するウランの大部分を占めるウラン238がエネルギーとなっていないのが大きな問題である。緊急課題としては、軽水炉が生み出すプルトニウム、TRUのエネルギー化であり、軽水炉サイクルを補完する高速炉が必要であり、中期的課題は、デファクト軽水炉を超える高速増殖炉の開発であろう。整合性を持つ国策としての位置づけが求められる。原子力は、主系統基盤エネルギーの本命ではあるが、未完の大器・原子力との認識を持つことが求められる。
○原子力はパラダイム技術たりうるか:反作用の克服
- 原子力がパラダイム技術たりうるためには、数々の反作用を克服する必要があるであろう。
- NIMBYや先送り症候群、モラトリアムなど、ポピュリズム政治あるいは行政の克服として、ステーツマンシップの確立が必要である。三重県の選択は国のレベルでは不完全であり、住民投票は地域で完結する課題以外にはなじまないであろう。地方分権化に伴う公益空間の矮小化も生じており、責任権限の共有分担のメカニズムが求められる。また、市場メカニズムにまかせての公共空間のエアポケットも生じており、JCO事故やMOX燃料のデータ改ざんもこれにあたるのではないか。
- 安全風化とサボタージュの脅威の狭間では、業際、国際的な安全ネットワーク、地域と一体化した開かれた安全対策が必要である。さらに、放射能環境の正当な理解も必要で、ICRP議論の見直し、低線量効果の解明、しきい値の確立、教育の充実が求められる。廃棄物処理処分では、放射線を発することで自身が消滅する能力の積極的な活用を検討するべきであろう。
- 原爆禁止運動の成果として、原爆はもはや使えなくなった究極兵器といえる。その反面、核抑止力神話がゆすり屋国家を作り出している。また、米国核兵器独占政策の犠牲にされた核燃料サイクル、核兵器解体のジレンマ、北朝鮮への原発供与で露呈したPu兵器神話の虚構なども、課題として挙げられる。原子力の軍事セクターの桎梏(しっこく)からの解放を目指し、平和利用に徹する意志の継続的実証と表明を行っていかなければならない。
- 災害をもたらした原子力を報復ではなく建設的に利用するという、被曝国日本が発する原子力平和利用メッセージの重みは大きい。目には目をといった疑惑、対立のパラダイムから、信頼、連携のパラダイムへと変化させていくことが求められている。
- 今後、世界全体が水平的なネットワークに組み込まれる中で、自分と他者とを対立させるのではなく、お互いが包摂されていくとの方向で、世界が移り変わりつつある。いずれ、他者を人間的な共感で受け入れられるような公共文化が確立されるであろうことを信じたい。そのためにも、愚直といわれようとも、原子力という新しいエネルギーを建設的に創出していくというメッセージを、世界に発していくことに努めたい。
以上