国、地方公共団体、事業者の関係のあり方−行政法的観点から

高橋 滋

T問題設定の多面性

 @原子力の利用をめぐって、「国、地方公共団体、事業者の関係」は、多面的な形で問題となる(例えば、ウラン加工燃料工場事故の補償・住民地域に対する事後的手当ての問題)。多面的な形をとって現れるこれらの問題を抽象的に検討しても、あまり生産性はないように思われる。
 Aここでは、主に、行政法学上の議論の蓄積から一定程度アプローチが可能ないくつかの典型的場面を取り上げて、三者の関係を具体的に検討することにする。
 1エネルギー政策の決定
 2安全規制(防災を含む)
 3施設立地−立地点選定、地域対策
もちろん、これらの三つの場面は、相互に関連し影響を与え合っており、考察に際してもこの点は看過できない。

Uエネルギー政策の決定

 @エネルギー政策の決定−国会のコントロールの下での内閣・行政機関の責任事項
もちろん、政策決定の合理性について、
 多面的な利害関係者の決定への関与
 透明性・公正の確         保が必要であり、
これらの点について、制度的な担保手段は必要である。
現行の体系(参考資料)−制度の枠組としては、基本的に適当なものである。
通産省の諮問機関である総合エネルギー調査会による決定
 調査会の構成(構成員の法文化・規定化等は、考えられる−選定の透明性確保)
 透明性・公正の確保−会議・議事録の公開の進展
 学説上は、
  議会の制度的関与の強化−国会による承認の制度(委員会の審議が前提)−
  により、合意の質・正当性の強化を主張するものもある。

 Aもっとも、エネルギー政策も、固定的なものでなく常に弾力的な見直し等が必要。関連する諸要素を織り込んだ合理的なものであることが重要である。
 例−個別エネルギー源に関する立地点確保の状況とエネルギーバランス
   経済状況によるエネルギー消費の変動(最高消費量確保の必要性)
合理性確保・合意調達手段としての、日常的意見吸収の仕組みの重要性。
 例−恒常的協議会制度の創設。

V安全規制(防災を含む)

 @安全の規制−現行法の体勢
内閣総理大臣・通産大臣の規制権限−連邦制国家は別、一般的には国に規制権限。
 ただし、安全性の確保は、第一義的には事業者の責任。国等の規制は、その適正の確保・監視にある。
安全規制の性格−伊方原発訴訟上告審判決
  総合的な専門技術的判断、予防的性格
  判断に必要な組織と手続の存在
分権の議論においても、権限委譲の対象とならず。
  参考、地方分権推進委員会第二次勧告に示された国の果たすべき役割
     全国的統一、全国的規模・視点からの行政機能は、国に留保される。

 A他方、住民の生命・健康の維持は、地方自治体の任務である。
  新地方自治法の「地域における事務」(2条2項)
  参考、改正前地方自治法2条3項1号(「住民・・・の安全、健康及び福祉を留保すること」)
地方公共団体が安全規制につき役割を分担することは、立法政策的にはありうる。 また、原子力規制法の外で、法の趣旨に反しない程度において、独自の規制を行うことも否定されない。
  この点は、具体的には、原子力安全協定の問題として現れる。
原子力安全協定の性質については、
 紳士協定説、民事契約説、行政契約説、特殊法契約説等がある。
 現在は、合理的な範囲において、法的拘束力を認める見解が有力。もっとも内容的な合理性が必要(参考資料)。さもないと、事業者の経営への過大な不透明な規制となり、かつ、国による規制の意義を損なう可能性がある。
  例−立入調査権の規制等。安全情報の把握、国の規制の保管としての意義。
    国の法令においても、立入の要件は包括的な規定振りとなっている。
    他方、同意見の規定、同意要件の明確性・合理性・相当性が必要。

 B原子力防災制度−今回の特別措置法において、地方と国との間の役割分担は、ある程度明確になったといえる。
ただし、一般的な防災の仕組みは、国−都道府県−市町村に固有の役割を与えている。かつ、それらの事務は自治事務。かつ、住民に身近な地方公共団体は、防災について必要な関与と事務の遂行を避けることはできまい。

W施設立地−立地地点選定、地域対策

 @問題の性格
 エネルギー政策と安全規制を前提として、具体的な施設の立地がされる。
施設の立地主体は事業者。公益性の観点から各種の法的支援措置(土地収容適格事業としての位置づけ等)。

 原子力を含む電源立地の確保については、電源開発促進法に基づく立地点確保の手続がある。さらに、電源三法交付金の制度も存在する。他方電源立地の受入は、地域政策の展開と不可分(今回のウラン加工燃料事故委員会報告で強調された点−残存リスクについて、性格を整理した上でその存在を直視する必要)。
 このレベルにおいて、合意形成促進のために何が必要かについての論点整理は、宇賀委員が既に行う(第三回本分科会会議)。ここでは、国・地方公共団体・事業者の役割分担について述べる。

 A電源開発促進法の手続
従来−電源開発調整審議会の審議(審議会としての特徴)
 中央省庁等改革により、電源開発調整審議会の改編
エネルギー調査会への権限以降。エネルギー行政の観点からは、一貫性を付与。
国土の総合的開発・利用との整合性、国土の保全、自然・歴史的環境の保全保護との調和等、視点による政策調整の手続をどのように確保するか。さらには、電源確保の意思を高いレベルにより示す手だてをどのように確保するかは、今後の課題。

 B現行法体系の下での施設立地手続と地方公共団体
  • 電源開発促進法の手続−知事の意見陳述の規定
    同意規定への読替え。
    同意見であれば、要件(拒否・留保要件)の明確化が必要となろう。事業者の過重負担の問題。
    かつ、地域合意形成への一元的責任を知事に負わせるシステムは合理的か
    という問題は残る(その限界−市町村における住民投票の動き)
    さらに、文言と異なる運用は、法的に見て不安定。

  • 環境影響評価では、地方公共団体の意見表明機械は確保されている。

  • 施設立地手続と住民投票

    住民投票の基本的問題
    現行の条例に基づく投票制度−法的拘束力はない。ただし、政治的な意義は大きい。 なにを争点としうるか、争点とすることが合理的か。
    現行法体系の下で、国の役割とされる事項(エネルギー政策)そのものを争点とする制度は合理的ではない(拘束力ある制度では違法)。
    これを直接の争点とせず、関連する地方自治体の事務に含まれる事項については、住民投票制度の対象としうる。

    これまでの例−地方自治体の事務に該当する事項ではある。
    しかしながら、争点の設定は国の決定事項と正面から緊張関係に立つものであった。「××原発に反対か賛成か」。「地域づくりの観点から当該団体所有の土地を原発用地として売却することが適当か否か」ではない。

    今後の課題−対象事項と争点設定の整理。運動方式等の整備。
     法律上の制度とする場合に必要となること
      対象事項の絞り込み(ポジティヴリストとネガティヴリスト)
      争点設定の在り方
      拘束力付与型と非付与型との間の選択
      それぞれの成立要件、有効要件の検討

  •  C地域対策の問題−地域づくりの視点から

     残存リスクの存在を直視した地域づくりの必要性。そこでは、自治体の役割がより主導的な形で発揮されることが求められる。
     電源三法交付金も、自治体・地域住民の「地域づくり」のソフト面に軸足をより明確においた形へと制度を改編していくことが望まれる。