信頼回復をめざして==電力会社の取り組み

1999.11.11  
東京電力梶@ 
常務取締役  
桝 本 晃 章

 本来、今回は、一般論として、原子力開発に対する国民一般の皆様の安心と信頼を如何に回復するかをお話しすることが主題だと考える。しかし、今回のJCOの事故は、これまで経験したことのないものであり、社会的状況としても同様である。話はJCO事故関係中心にならざるを得ない。これと併せて、一部、一般論もお話しすることでお許しいただきたい。

1.今回の事故についての状況認識

背景にあると思われる原子力産業の成長とその量的拡大。


出典:(社)日本原子力産業会議「原子力産業動向調査」

原子力開発初期からの時間の経過と世代交代
 軽水炉開発初期から30年余を経過し、原子力に携わる人たちは世代交代。開発初期にあった一種の熱っぽさと責任感などにも変化があるのではと思う。

社会一般の方々の原子力開発についての意見や思いは、今回の事故により、これまでになく極めて厳しいものになった。今後、原子力開発が存続できるかどうかの瀬戸際と言っても過言ではない。それだけに、あらゆる見地から事故原因の徹底究明と対策を講ずることが必要であり、それ自体が社会一般の信頼を取り戻す第一歩と言える。また、事故による被害等についての迅速、的確、円滑な対応は不可欠である。
 原因の究明という点では、企業としてのJCOとその作業員という、原子燃料加工産業の問題、それに関係する安全確保手順という視点が中心にならざるを得ない。
 しかし、今回の事故が“常陽”の燃料加工の一工程であることを考えると、高速炉本体同様その燃料も開発途中である訳で、研究開発主体は原子炉の場合と同様、燃料面でも直接かつ深く関わっていただきたかったと思う。研究開発と実用(商用)化の在り方についての今後の議論においても、この点が一判断材料となっても良いのではないかと考える。

2.信頼を回復するために(電気事業の取り組みを中心に)

(1)「ニュークリアセイフテイーネットワーク」の設立
 1986年のチェルノブイル事故後、世界の原子力発電所を保有する事業者が「世界原子力発電事業者協会」(World Association of Nuclear Operators=WANO)を結成、安全(事故,故障)についての情報交換、相互交流等を行い、お互いに安全への取り組みについて学びあう仕組みを作った。現在32カ国・地域の事業者約130社が加盟。
 今回の事故を契機に、このWANOにならって、二度とこのような事故を起こさないため、全ての原子力開発に携わる機関により、「ニュークリアセイフティーネットワーク」を結成しようと、日本国内の原子力発電事業、燃料加工、プラント製造、研究等に携わる会社・機関に呼びかけを行っている。このネットワークにより、情報交換、交流、ピアレビューなどを行い、安全文化を共有し、事故の再発防止に努める。

(2)「世界核燃料加工安全ネットワーク」の設立
 三菱原子燃料鰍ネど原子燃料加工事業者が国内は勿論、世界の原子燃料加工事業者と協同して、「世界核燃料加工安全ネットワーク(International Network for Safety Assurance of Fuel Manufacturers=INSAF)を結成。前記:「ニュークリアセイフティーネットワーク」とも連携しつつ、情報交換、安全に関する相互レビュー、安全文化の促進・共有を図り、事故の再発防止、信頼回復に努める。

(3)足元固め
@安全運転の確保と的確な情報公開
A原子力発電所において、関係企業も含め、安全意識の再徹底

(4)情報発信
国内外に(1)、(2)の取り組みや日本にとって原子力発電が必要であることなどについての情報発信を行う。

3.その他

社会一般の安心と信頼の回復は、安全運転の実績を積み重ねることと言行一致を基本とするさまざまなPR活動。特に、発電所施設等の開放や視察、そして現場職員との触れ合いが重要。
基本のもう一つは、「情報公開」、「透明性確保」そして「説明責任」(Accountability)。
特に、原子力発電所所在の地域では、地方自治体との間で結んでいる「安全協定」により、情報公開、透明性担保。その的確な運用が安心と信頼の基礎。
「説明責任」の説明については、課題が少なくない。特に、到達度の高い説明を的確に行うことが課題。

以 上



世界核燃料加工安全ネットワーク

設立趣意書(案)

去る9月30日に茨城県東海村で発生したJCO臨界事故は、従業員に重度の被曝者を出し、近隣一般住民にも避難等の多大な影響を与え、大きな不安をもたらすという、日本の原子力開発利用始まって以来の大きな事故であった。その影響は日本国内の止まらず、世界中の人々に衝撃を与え、原子力に対する極めて大きな不信感をもたらした。まことに不幸なそして残念な出来事である。我々核燃料加工事業者は、同業者として真摯にこの事故を受け止め、業界そして原子力全体の信頼回復を目指して取り組んでいかなければならない。

今回の事故には弁明の余地はない。しかしこの事故を単なる特異な例外として片づけてはならない。この事故は、設備や作業手順に組み込まれている多重防護メカニズムが人為的に捻じ曲げられ、無視された結果、起きたものである。このようなモラルの風化は、規制の強化だけで防ぎきれるものではなく、安全文化の維持にむけての当事者の不断の熱意こそが求められるところであり、加工業者は自己努力によって、モラル向上を含めた安全性全体の向上に取組むべきである。

原子力産業においても、発電事業と加工事業はそのプロセスおよび具体的な安全対応面で質を異にしている。多様な物理的・化学的状態の核物質をバルクで取扱うという、加工事業の特性を十分理解した安全強化対策が必要であり、加工事業者が自ら改革に取り組まねばならない。

原子力事故は、どこで起きても世界中にその影響が及び、世界中の原子力産業に大きな打撃を与える。一国内で完結するのではなく、世界に開いた、世界共通レベルの安全文化を築く必要がある。世界中の加工事業者が、安全性向上のために連携して取り組むことが望まれる。

そこで、世界中の事業者間の情報交換と安全文化の共有、そして安全についての相互レビューを目的とする、「世界核燃料加工安全ネットワーク(略称:INSAF」(仮称)を設立することを提案する。このネットワークの設立は、加工事業者自らが、事故を教訓とし、安全性向上を目指して自己改革を行うことの具体的な表明でもある。

核燃料加工事業への信頼感を取り戻すため、まず、社の署名者により、それを実現するための手段としてINSAF(仮称)を立ち上げることとした。このネットワークへの参加は再転換や燃料加工に従事する世界の全事業者に開かれており、趣旨に賛同する核燃料加工事業者の積極的参加を歓迎したい。

発起人

添付資料

1.名称(仮称)
世界核燃料加工安全ネットワーク(INSAF)

2.目的
核燃料加工事業および原子力産業の安全性向上と信頼性回復を目指し、世界中の核燃料加工事業者間の情報交換、安全についての相互レビュー、安全文化の促進などを行うことを目的とする。
3.活動
インターネットなどによる迅速かつ効果的なメンバー間の情報交換、一般公開などを行う。また必要に応じて、定期会合、相互訪問なども行う。
 (1)安全規制
  • 安全性に関わる各国の法律、規則、標準などのレビュー
  • 燃料製造における安全性の保証に対する考え方
  • 国および地方当局の関係
  • 多重防護安全システムの考え方
 (2)安全教育プログラム
  • 従業員教育プログラムの情報交換
  • 共通の資格・褒賞制度の設定
 (3)事故および事象の解析
  • 過去における事故および事象
  • 発生時の対応
 (4)ホットライン(危機管理)
  • 緊急時連絡
  • 緊急事支援
 (5)広報
  • 情報公開
  • 社会的受容性についての業界内情報交換
4.参加企業
当面、ウランを扱う、再転換および燃料加工事業者を対象とする。