原子力への信頼、国民合意、国民的合意形成について

平成11年11月11日
石  橋  忠  雄

一、はじめに
 「国民合意」という言葉は、ここ数年急に使われだし、いまや原子力分野では一種のブーム的なキーワードとなっている。しかしその意味や使われ方(目的)は論者によって一様ではない。例えば原子力問題を国民投票で決めるべきだという意見がある。国民投票はスイスやスウェーデンなど、人口が少ない国ではよいかもしれないが、我が国では果たしてどうか。最高裁判所裁判官の国民審査が信認投票であることについて論議があるが、原子力の場合、国民投票が民意を正しく反映しているといえるか、手続的にも運用上も立場によって異なった考え方がでてくるだろう。
 因みに原子力委員会も近年、「国民的な合意形成」という表現を用いている(例えば平成7年9月12日決定「高レベル放射性廃棄物処分への取組について」、平成8年9月25日決定「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」)。 しかし「国民合意」も「国民的合意形成」も、原子力に対する国民の理解と信頼に関する1つの物差しであるとすれば両者は同義語であるといってよいし、また「国民の信頼」とも裏腹の問題であると思う。そこでここでは「国民合意」、「国民的合意形成」、「国民の信頼」の三者は包括的に同根の言葉として捉えて使うこととする。
 私は、以下に述べるとおり、国民合意には対話と相互理解の理念を基本とした制度を作る必要があると考える。

 

二、電源立地における民意不在について
1.安全協定に法的根拠を与えよ
 日本の原発立地過程の特徴は、すべての許認可の権限が中央政府に集中していることにあり、都道府県や市町村が一切の決定権を持っていないことと、土地の買収と漁業権放棄の同意の手続きにおいて、原発立地の可否が実質的に決まり、電源開発調整審議会付議以降の諸段階は単なるプログラム消化過程になっている点にある。
 しかしながら我が国では電源立地過程で最も重要な「準備段階」は法的規制の対象外にあり、明確な法的ルールが存在しない。しかし実質的なルールは厳然と存在する。地権者・漁業権者への説得工作は、「ボス・チェーン・システム」といわれる地方政治の有力者によって展開される。このようなインフォーマルな説得工作は、利益誘導や差別待遇などを伴い、住民の相互不信を生んでいる(吉岡斉「原子力立地紛争の激化」)。
 電源立地において地方自治体が出てくる場面は施設が完成して操業に入る前に締結される安全協定締結の段階である。安全協定は事業者と地方自治体の首長が当事者とされているところ、その法的根拠がなく、また安全協定における地域住民の地位も保障されていない。そこで私は安全協定を法的な制度として整備し、その中で住民の地位を保障するべきであると考える。

2.公開ヒアリングの民主化、活性化を
(1)公開ヒアリングの現状
 公開ヒアリング(以下、公開ヒアという)は現行制度上、第1次公開ヒア、第2次ヒアに区分される。
 第1次公開ヒアとは「原子力発電所の立地にかかわる公開ヒアリングの実施について」(昭和54年通産省決定)と「原子力発電所の立地に係る公開ヒアリング実施要綱」(昭和54年資庁第250号)により、原子力発電所が設置されるとき「地元住民の理解と協力を得るため」通産省が電調審付議の前に実施する。
 第2次公開ヒアは「原子力委員会の行う原子力施設に係る安全審査について」(昭和57年原子力安全委員会改正)、「公開ヒアリング等の実施方法について」(昭和57年原子力安全委員会了承)、およびこの「了承」に関する「原子力安全委員会談話」(昭和57年)により、実用発電用原子炉等「主要原子力施設」の設置の許可等に係る審査に当たって原子力安全委員会が実施する。
 第2次公開ヒアは対象が原発に限られていない。高速増殖原型炉「もんじゅ」については昭和57年、敦賀市において開催されており、また六ヶ所核燃料サイクル事業については平成2年4月、低レベル放射性廃棄物最終処分場について、また再処理、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理施設については平成3年10月、いずれも六ヶ所村で開催された。

(2)制度上の問題点
 第1次「公開ヒアリング実施要綱」によると、通産省は地元住民の意見陳述者を「指定」し、設置者から「必要に応じて意見陳述者に対する説明を行わせる」が、やむを得ないときは開催を中止し、文書による意見聴取もできることにされており、これは原子力安全委員会主催の場合もほぼ同旨となっている。
 問題は第1に、現行の公開ヒアは何ら法的根拠がなく、住民の権利としての制度的位置付けがなされていない点にある。すなわち、これは行政の恩恵にすぎない(したがって裁判所での司法的救済もできない)。
 第2に、そのため意見陳述者の人選や設置者等の説明に対する反論(ただし、原子力安全委員会では原則対話方式となっているが)、証拠の提出、専門家の証言が認められないこと等、手続的に民主的な対審構造となっていない。
 第3に、主催者、または設置者等からの資料の公開が十分でないため、住民側からすればスタートから不信と疑問を持たざるを得ない側面がある。
 そのため反対派は公開ヒアを「推進のための儀式」と位置付け、これまで開催阻止やボイコットに走っている。平成2年の六ヶ所村での場合も市民団体や社会党などが早々と不参加を表明し、その一方で意見陳述者や傍聴人の中には科技庁や電力会社から動員されたとみられる人も少なくなった(この点は後日、マスコミが相当詳細に調査している)。

(3)運用面での問題点
 例えば平成3年10月に六ヶ所村総合体育館で行われた公開ヒアは、予想に反して反対派の抗議行動は30人と少なく、大した混乱もなかった。一方、会場周辺は警察官1000人の厳戒態勢がしかれ、会場の建物にも鉄製のフェンスが張りめぐらされる等したため、反対派からは”オリの中の密室ヒアリング”という批判があいつぎ、マスコミも一斉にとり上げた。そのせいか傍聴人も当初予定の半数にとどまり空席が目立ち、後半に入って途中退席も少なくなかった。
 何故、かくも過剰な警備、警戒をしなければならないのか、理解できない。これでは国は反対や批判をする者を暴徒とでも見ているのではないかといわれてもやむをえまい。このようなコワモテで人の心を抑えることはできない。

(4)前近代的な行政手続
 以上の点から現行の公開ヒアは陳腐化した前近代的な行政手続きにすぎず、制度上も運用上も民主・自主・公開を定めた原子力基本法の理念から程遠く、「多様化する住民の声を吸収できなくなっている」(1996年8月5日付日本経済新聞)。
 公開ヒアは、現在の電源立地過程の中で、住民が国や設置者側と対話ができる、住民参加の唯一ともいえる公式の場である。しかし現状は制度が死んでしまっている。これを活性化させ、住民参加を促進させるためには現在の制度を根本的に見直し、法的な整備をする必要がある。

 

三.情報公開の問題点
1.原子力委員会は、平成8年9月25日決定において、政策決定過程への国民参加を促進し、併せて原子力情報を原則として公開することを決定したが、同時に、核不拡散、核物質防護、財産権の保護、外交交渉に関する情報は慎重に取り扱うとした。
 これでは基本的に従来と何も変っていないと思う。例えば高レベル放射性廃棄物処分懇談会(以下、処分懇という)報告書は情報公開について「可能な限り公開する」としているが、このような考え方は原子力情報が官庁や企業に独占的に保有、管理されており、情報の送り手と受け手が上下関係にあることを看過した議論である。
 これまで原子力情報が不開示とされた理由の大半は、当局により一方的にこれらの事由に該当すると判断されてきたことにあるのである。情報を提供する方法・内容が提供する側の裁量に委ねられるのであれば(いわゆる裁量秘密主義)、情報を受けとる側には常に疑心がつきまとう。「できるだけ公開する」というのではなく、何か公開できない情報(会議)なのか、とくに昭和55年6月の「原子力委員会核物質防護専門部会報告書」の問題点を、憲法の知る権利との関連でアメリカの情報自由法などを参考にして議論をまとめる必要がある。

2.私は例えば廃棄物については、原則として「秘密性」の情報はないと考える。すなわち、廃棄物は防衛・外交上の問題ではないし、一方、その処分は一種の公益事業であるから、特許やノウハウなどにみられる資本主義体制下の競争原理にはなじまないので、私有(知的)財産権として保護する必要もない。もし非開示とする場合には、その必要性を相当程度、明らかにすべきであると考える。例えば高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の情報はその安全性に関する重要な情報が開示されていない。
 我が国には情報公開のための法律がないし、原子力基本法には公開原則がうたわれているものの、原子炉等規制法の関連法規でこれを実効的に保障する規定がないために原子力の分野での公開原則は有名無実化している。
 そのために原子力情報は国や企業が独占的に保有、管理し、これを公開してもしなくても法令違反の問題が発生しない。換言すると国や企業以外の者が原子力情報を入手しようとしても実現するための実定法上の規定がないため、常に陳情の形しかとりえず、従って公開される情報は情報の送り手によってコントロールされたものであり、都合の悪いものは外部から見えない仕組みとなっている。

3.従って私は住民や専門家が情報にアクセスできる制度をつくることが最も重要であると思う。また、これに関連して、住民参加の制度も法律でつくっていただきたい。これはフランスやアメリカでも核廃棄物の法律の中ではきちんと保証されている。

四、高レベル放射性廃棄物の処分方策の問題点
1.処分懇の報告書によると、日本における高レベル放射性廃棄物(以下、HLWという)の処分政策は、海外の先進国から10年から20年は遅れているといわれる。しかし最近、処分懇と総合エネルギー調査会がHLWの処分のあり方について報告をとりまとめ、これにもとづいて現在、政府がHLWの処分事業に関する法律案を作成中である。
 一方、日本の電力会社と英BNFL、仏COGEMAとは使用済燃料の再処理に関する契約を結んでいる。この契約は、再処理、輸送、融資(LOAN)など5つの契約に分かれている(と思われる)。この契約において日本は再処理から出てくる全ての放射性廃棄物を引き取る義務があり、HLWの海上輸送は、この義務にもとづいて実施されている。なお、この再処理委託契約は、公開されていない。
 日本国内では青森県知事が電気事業連合会とHLWの一時貯蔵に関する協定を結び、電気事業連合会の子会社である日本原燃株式会社が青森県六ヶ所村においてHLWの貯蔵施設をつくり、英、仏両国から返還されたHLWガラス固化体を受け入れている(合計168本)。一時貯蔵とは30〜50年をいうが、その後の最終処分地については上記のとおり現在、法律案がつくられているところであり、決まっていない。

2.先般、通産省の方から、高レベル放射性廃棄物処分に係る制度の概要が示され、今度の通常国会で法制度を実現するという構想となっている。この構想の要点は実施主体をつくるということと事業資金を確保するということである。実施主体や事業資金について制度を立ち上げるということについては、必ずしも異論はないが、今回の制度化は、その点だけに限られているということに疑問がある。「原子力船『むつ』が放射線漏れを起して、長崎に回航されたときに、どうして青森県のものを長崎で引き受けなければならないかという疑問をもった」ということを長崎の方から聞いたことがある。私はそれを聞いて、廃棄物の処分というのは、対話と相互理解、そういう理念が基本になければ、物事は進まないと思った。
 そういう視点からみると、今回の通産省のプログラムは、極めて十分ではない。
 第1は、処分懇の報告書でも示されたが、透明性のある制度を確立することである。そのためには、情報公開が必要である。それを制度として保障しなければ、いくら必要なときには情報を出しますと言っても、現場では難しい。今回の通産省の概要には、処分事業というのは非営利事業であるとの記載がなされている。前述のとおり、国は、従来から原子力については、私的財産権の保護とか国家機密とかを盾にして、情報の公開を非常に制限している。しかしながら非営利事業ということであれば、また、核爆発のようなことがなければ、情報公開を制度として載せていただきたい。
 第2は、実施主体の活動、あるいは成果について、公正な第三者による評価機関を設置することが必要である。これも諸外国では法律の中でつくっている。
 第3は、地下研究施設と最終処分場との区別を明確にする必要があると思う。例えば、地下研究施設に放射性廃棄物を持ち込むことができるのかどうか。できるとしたら、実験用のものだけなのかどうか。あるいはそこに中間貯蔵的な施設をつくってはならないというような制度をつくる。アメリカやフランスなどではそのような法制度になっているが、そのような保証がなければ、いくら最終処分場を2030年に作って操業すると言っても、その前段階の地下研究施設をつくること自体が全く進まないと考える。科技庁長官はこれまで北海道、青森、岐阜の方にHLWの最終処分地にしないという確約書を出しているが、このような裁量行政は限界であるし、却って自らの信頼を損うことになる。

五、チェック・アンド・レヴュー機能の欠如
1.「原子力船むつ」や「ATR実証炉」の例を持ち出すまでもなく、政策や計画が失敗したり挫折に至った場合、原子力委員会はその開発計画がなぜ順調に進まなかったかを総合的に分析し、その原因を明らかにし、それにもとづいて計画の中止や見直しを決定しなければならない。しかし、これまでそのようなチェック・アンド・レヴューが行われたことはなく、現実との間に不都合が生じた場合にも、開発スケジュールを単に後退させるという決定が、数年ごとに繰り返されてきたのである。さらに最近では、実用化の目標時期そのものを曖昧にする傾向がある。

2.その典型的な例をみてみる。
(1)原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は、昭和55年12月、「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」と題する報告書を発表した(以下、昭和55年報告という)。地層処分の研究については、長期的な視野にたって段階的に研究を積み重ねていくということで次の5段階の研究が計画され、動燃事業団が中心的役割を担当するとしていた。
    第1段階 可能性ある地層の調査と有効な地層の選定
    第2段階 有効な地層の調査
    第3段階 模擬固化体現地試験
    第4段階 実固化体現地試験
    第5段階 試験的処分
 そして、第1段階の可能性ある地層の調査として、動燃事業団は、地層に関する調査研究と工学バリアに関する研究、地層処分システム研究をそれぞれ担当し、昭和58年の中頃には終了する予定であった。また第5段階の試験的処分は2015年からの予定であった。

(2)しかしながら同専門部会は、昭和59年8月、「放射性廃棄物処理処分方策について」と題する中間報告を決定した(以下、昭和59年報告という)。 この決定は従前の5段階の研究を次の4段階に根本的に変更した。
    第1段階 有効な地層の選定
    第2段階 処分予定地の調査
    第3段階 模擬固化体による処分技術の実証
    第4段階 実固化処分 2000年から
 ここでは、第1段階の有効な地層の選定は終了とされているが、しかし従来の計画のおいて有効な地層の選定に必要とされた地層に関する各調査研究が未了であるのに有効な地層が選定されてしまっている。
 さらに、昭和55年報告における試験的処分の予定が2015年とされていたのに、第4段階の固化処分の予定はそれより15年も早い2000年からとされている。昭和62年長計はこの昭和59年長計とその後の昭和60年10月専門部会報告をそのまま、踏襲したのである。

(3)これをもう少し詳しく見てみたい。
(一)上述のとおり、原子力委員会は、昭和55年報告で策定したHLWの地層処分研究開発計画を昭和59年中間報告で根本的に変更した。
 すなわち、昭和55年報告では、第1段階は可能性のある地層の調査と有効な地層の選定を目標としており、動燃事業団の研究開発項目としていた。そして第2段階においては試験地の選定を目標として、地下の地質構造を把握するため、地表調査や物理探査、また、必要に応じて岩石特性試験を行う。地層岩体の規模及び水理機構の調査、試錐サンプルについて岩性特性試験を行う。としていたのである。
(二)しかし昭和59年中間報告では、第1段階において必要とされた調査をすることなく、有効な地層を決定した。結果的に有効な地層としては未固結岩以外のすべての岩石を含むとするもので、これでは何のために可能性ある地層の調査をしてきたのか全く不明である。
 昭和55年報告の可能性のある地層の調査スケジュールによれば地層に関する調査研究、工学バリアに関する研究、地層処分システムの各研究を昭和58年までに終了し、それを総合評価して有効な地層を選定することになっていたのであるが、昭和59年中間報告の開発スケジュールによれば地層に関する調査研究と人工バリアに関する研究の終了予定が1995年(昭和70年)になっているのであって、各研究が未了であるのにかかわらず、可能性ある地層および有効な地層の選定を行ったことは昭和59年中間報告からして明らかである。
(三)さらに昭和55年報告では有効な地層の調査およびその安全評価手順を経て、試験地の選定を行い、その試験地において模擬固化体の現地試験から各種議論や評価を経て、最終処分という手順になっていたのを、昭和59年中間報告では、昭和55年報告で可能性ある地層および有効な地層の選定において必要とされた第1、2段階の調査を一挙に最終処分予定地の選定のための調査に変更してしまったのである。これは昭和55年報告において設定されたHLWの地層処分研究開発スケジュールを根本的に変更するものであり、原子力委員会および動燃事業団の処分対策がまったく不充分であることを端的に示すものである。
 これは、昭和55年報告で、「地層処分の研究開発には、極めて長期間を要するため、全体として整合性のとれた研究開発を合理的に進めていくためには、長期的な展望のもとに段階的に研究開発を行い、各段階の成果を踏まえて次の段階に進むものとする。」と述べていたことにも反する。
 そして平成6年長計は以上のような経過の殆どを捨象し、単に2000年を目安に実施主体を設立するとだけ述べるにとどまったのである。アレレどうしたんですか、としかない変わり様である。
(四)このように、原子力委員会および動燃事業団がみずから定めたHLWの処理・処分計画の一貫性、科学性をみずから否定するものであり、原子力委員会および動燃事業団には高レベル放射性廃棄物処理・処分計画を安全、確実に遂行する見通しがなかったことを意味するものである。
 HLWの処分をどうするかという問題は原子力政策の根幹に係る大きなテーマであると同時に「国民の信頼」と直結する問題である。しかしながら以上にみたとおり、国の政策は原子力村の内輪だけでご都合的に決め、変更してきており、国民に対してその経緯、理由を合理的に説明してこなかった(あるいは余りにも変遷が激しすぎるので説明できなかったといっても過言ではない)。これでは国民の信頼は遠ざかるばかりである。

3.以上のことはFBR開発について、今後、とくに現実的な課題であるということができる。
 総務庁が平成11年5月発表した「特殊法人に関する調査結果報告書」(動燃事業団関係)によると、我が国がこれまでにFBR開発に要した開発費は1兆500億円となっている。
 しかし原型炉「もんじゅ」は平成7年12月に、ナトリウム漏れ事故を起こして以来、運転を停止し、早や4年がすぎようとしているが、今後、何年の歳月とどの位の費用をかければFBR開発がどの程度の域に達するのか、あるいは原型炉にしろ経済性の見通しがたつまでになるのか、甚だ不透明である。
 総務庁報告書も「研究開発に要する費用とその成果を明らかにし、その妥当性を論議していくことが必要であり、そのような論議を広く巻き起こしつつ、事業を幅広く見直していくことが求められる」としている。
 政策のチェック・アンド・レヴューは、国民への十分な説明責任を伴うという点で国民的視野に立ったものでなければならない(平成11年10月25日付読売社説)。
 以上により、私はFBR開発とりわけ「もんじゅ」については、時のアセスを適用することが今、求められていると考える。
 このようなチェック・アンド・レヴューが適切に行われ、国民への説明責任が果されなければ、「プロジェクト不滅の法則」がまかりとおり、プロジェクトの自己目的化が行われることになる。

4.別紙に主な政策についての最近の推移を掲載する。
 今回の長計は少くともこれらについてチェック・アンド・レヴューがなされるべきである。

 

六、原子力事故、不祥事の調査を第三者機関で
1.美浜原発2号機の場合
(1)平成3年2月9日、関西電力美浜原子力発電所2号機で蒸気発生器伝熱管(細管)1本が破断し、一次冷却水が二次系水側に流れ込む事故が発生し、緊急炉心停止装置(ECCS)が我が国で初めて作動した。
 通産省の原子力発電技術顧問会内に設置された調査特別委員会は、細管破断の原因について、振れ止め金具(AVB)で支持されていなかったため細管のU字部に流力弾性振動が発生し、高サイクルのフレッチング疲労破断に至ったとした報告書をとりまとめた。

(2)しかしこの報告は、美浜2号機のメーカーとしてその事故について直接かつ重大な利害関係を有する三菱重工業の調査(但し、細管の製造は住友金属)に依拠したものである上、調査に用いられた生データが公表されないままでの報告であるので、その報告内容について客観性の担保はなく、その結論もメーカーがコンピューターによる解析や模擬実験によって導いたものであるから、その信用性は決して充分なものであるとは言い難い。
 具体的には、AVB不支持が何故発見できなかったのか、何故1本だけが破断したのか、あるいは破断の原因はデンティングによるものではなかったのか、について疑問が解消されていない。
 また件の細管が事故直後、メーカーが引き揚げていることや、原発の設計図がメーカーに保管されていなかったこと等についても、その経過が第三者からは判然としていない。

(3)情報公開は極めて不充分で、ないに等しいともいえる。
 通産省(及び調査特別委員会)はもとより関西電力、三菱重工業も事故に関する生データは一切、公表していない。
 ところで「事故に関する生データ」は@事故自体に関するもの、A事故後の調査、実験及び解析等に関するものに大別され、前者はさらに@−(1)事故現場や各種記録等、ハード面でのデータと、@−(2)事故機に係わる安全審査や定期審査等、事故原因の究明に重要な手掛かりを与える可能性のあるデータに分けることができる(以下、日弁連「美浜原子力発電所2号機蒸気発生器細管破断事故に関する調査報告書」)。
 まず@−(1)については、問題の細管は事故からまもなくして三菱重工業が取外したとされているが、これは誰かの指示があってしたことか否か等、報告書ではこの間の経緯が明らかになっていない。調査特別委員会が細管の振れ止め金具の挿入不足を事故原因と断定している以上、この間の経緯とその当否について明らかにすべきである。
 報告書はアラームタイプライタ記録における3分間の欠落とPAMトレンド記録における10分間の不更新が認められるとしている。
 ところで今回の事故により原子炉圧力容器の脆性遷移温度や燃料棒の健全性が危惧されているが、通産省報告書はその余のデータ分析等の結果、問題はないとしている。
 この点について専門家の中には「EVENTS RECORDは生データとして朝日新聞紙上に報道されたが、これは生データでなく…作意的なものの様に思える」(萩野晃也調査研究16頁)とか「計算機の能力不足は…スリーマイル島原発事故の教訓そして何よりも最近のコンピューター技術のめざましい発展から考えるとこの理由は全く不可解である」(海老沢徹「ECCSは有効に作動したか」技術と人間−1992年5月号)という意見がある。そうであれば通産省は圧力容器等の健全性に問題がないというのであれば欠落したとする以外の生データをすべて開示し、自らの判断に対する科学的な批判にさらすべきである。
 次に@−(2)については、例えば当時、細管のAVB(振れ止め金具)が定位置に挿入されていたか否かは使用前検査の対象とされていなかったといわれる。しかし、使用前検査の検査項目と検査方法は法律上も定めがなく、公表もされていないのであるから、通産省以外の者にとっては使用前検査の対象でなかったから挿入不足をチェックできなかったといわれても判断の材料をもたない。
 これに関連して三菱重工業が「設計図面は保管していない」とした結果、細管の設計図も公表もされていない。この点について桜井淳氏は、原発システムの中でも原子炉圧力容器や細管は特に重要な構造物であるから設計寿命の40年間は図面が保管されなければならないのにこれがないというのはエンジニアリングの常識に反すると批判している(日刊工業新聞社「美浜原発事故」42頁)
 Aについては、報告書は「伝熱管に係る金属調査、材料の疲労強度試験、応力解析等を実施し、亀裂発生メカニズムの解明、亀裂発生から破断に至るまでの時間的経過等の検討を行」ったとしている。
 この報告書を素直に読めば、数々の調査、試験、解析はすべて調査特別委員会が実施したかのような印象をうけるが、その殆どは三菱重工業がしている。このような基本的な事項が報告書に記載されていないことは、情報公開の観点からみて、また調査の公正を期する上でもきわめて問題である。
 一般に科学の実験等は何時、誰が、どこでどのような条件の下で実施したのかが重要であるし、美浜事故の場合、三菱重工業の実験は調査特別委員会の指示、監督を受けて行われたのか否かすら不明である。
 さらに通産省報告書で掲示されている実験や解析方法について、例えば流力弾性振動は「簡単な説明しかなく、使用された計算コード名も、実施されたはずの模擬実験についても、一切明らかにされていない」(小林圭二「事故報告書の欺瞞を衝く」技術と人間−1992年5月号)という意見や、「ストライエーシオン間隔の分布やフラット面の分析、全体の元素分布・応用分布・周辺細管の詳細調査・SG細管全体での破損原因調査・健全側SG細管との比較・ECTなどを含む過去の調査結果の見直しなどが完全に発表されてこそ原因追求が可能となる」(萩野晃也調査研究74頁)という批判がある。

(4)以上によると、事故の調査はメーカーが実施し、通産省の調査特別委員会はこれをもとに事故の原因を特定しているということになる。
 その結果、事故の重要な生データはもとよりメーカーによる調査のための解析等のデータも公表されないため、第三者の専門家が報告書の内容を検証することができない結果になっている。
 また現場の保存がなされていないことも真相究明を妨げる一因となっているが、報告書はこの経緯を明らかにしておらず、従って調査特別委員会の姿勢そのものが問われるべきである。

2.日本原電敦賀原発事故の場合
 最近では平成11年7月に発生した日本原子力発電敦賀原発2号機の1次冷却水漏れ事故でも、その調査について同様な方法がとられている。
 この事故で日本原電は、平成11年8月30日、事故は再生熱交換器内の温度差が設計条件よりも大きかったため想定外の水温変化が生じ、熱による金属疲労がおきて亀裂が生じたとする中間報告をまとめて発表した。
 通産省資源エネルギー庁は同日、事故は再生熱交換器の構造欠陥が招いた「高サイクル熱疲労」が原因であるとの原電側の調査結果を原子力安全委員会に報告し、また原子力安全委員会は、10月25日、資源エネルギー庁の再発防止策を妥当とする見解を出している。
 しかしながらこの事故は1次冷却水が漏れたという点では美浜事故と同じであり、極めて重大な事故であるにも拘らず、原因調査を日本原電に任せている点で報告書に対する検証はさらに困難となり、事故原因の解明についての信頼性が極めて少いといえる。

3.輸送容器データ改ざん問題について
(1)平成10年10月、使用済燃料輸送容器に使用されている中性子遮へい材のデータに一部改ざんがあることが、内部告発により発覚した。原電工事が充てん工事または材料の供給を行ったレジン45ロットのうち、架空の数値を設定したもの、数値の書換えを行ったもの、または硬化剤に炭酸カルシウムが混入していたため硬化剤を取り替えたにもかかわらず取り替え前の材料証明書をそのまま使用していたもののいずれかの改ざんに係わるものは28ロットである。
 科学技術庁は、専門的・技術的見地から調査検討を行う第三者からなる「使用済燃料輸送容器調査検討委員会」(以下、調査検討委員会という)を設置した。
 調査検討委員会は、同年12月、「使用済燃料輸送容器のデータ問題について」と題する報告書をとりまとめた。
 事業所外運搬に用いられる輸送容器31基のうち29基にデータ改ざんがあったロットが用いられており、主として原子力発電所の構内輸送に用いられる輸送容器12基のうちの10基についても同様であることから、合計43基の輸送容器のうち39基の輸送容器にデータ改ざんがあったロットが用いられている。
 また、MOX燃料輸送容器1基とモックアップに使用されたレジンについてもデータ改ざんがあったロットが用いられていた。さらに、モックアップから切り出されたサンプルの分析結果についてもデータ改ざんが認められている。

(2)しかしながら、この報告書とりまとめには次のような問題がある。

(一)調査検討委員会は改ざんの事実関係について自ら調査をしていない。
 イ.報告書は、データ改ざんの事実関係とその動機や背景について一応の説明をした上で再発防止策等の今後の取組みに関する提言をまとめている。
 しかし報告書によると、最大の関心事であるデータ改ざんの事実関係については科学技術庁の事務方が調査を実施しており、調査検討委員会は科技庁からの報告をうけたにすぎず、関係者に対する聴き取り等、自ら事実解明への作業は何らしていないことが認められる。
 ロ.そしてその一方で、調査検討委員会はデータ改ざんの発生原因や書き換え等について、原燃輸送や原電工事の調査報告書も参考資料として利用している(配布資料一覧5−4−1、6−3、6−6−1等)。
 ハ.その結果、データ改ざんの指示が原電工事、日本油脂のいずれから出たのか、あるいは別の第三者の介在があったのか等という重要な問題点についてその実態を解明しないまま、調査検討委員会は「両者の認識に食い違いがある」という傍観者的立場をとっている。
 ニ.このように調査検討委員会が最も重要な問題についての実態調査をしなかったにも拘らず、報告書はデータ改ざんの動機が事業者の工事優先の考え方や材料仕様値に対する認識の甘さにあったときめつけ、しかもその責任を原電工事と日本油脂の一課長におしつけた上で、一転して課長は「担当部長と相談をおこなっていないとしている」という推測的な事実認定をしている。
 ホ.事故・不祥事の再発防止のためには原因を解明して、そこから学び取ることが必要である。しかし、以上のとおり、調査検討委員会は改ざんの事実関係については自らは何も調べておらず、科技庁や事業者が用意した書類をもとに報告書をまとめている。
 その結果、改ざんの事実関係の解明はもとより、動機、背景についても「担当部長と相談を行っていない」等として、むしろ事業者の言い分を鵜呑みにして事業者寄りの姿勢に終始しているのである。
 ヘ.以上のとおり、調査検討委員会がデータ改ざんの事実関係の調査を自ら行っていないことはこの報告書の致命的な欠陥であり、その反面、事の本質を技術者のモラルの問題に転嫁しようとしている。
 拠って調査検討委員会は、第三者機関の資格も能力もないというべきである。

(二)国の安全審査の体制の責任が不問にされている。
 イ.報告書は、個々の輸送容器に対する遮へい性能の審査は「申請者」が材料証明書により材料仕様値を満足することを確認すると共に、寸法検査と密度の立会確認をしているとした上で、「規制担当官庁はこれらの結果について確認を行っている」とだけ述べ、極めて簡単な記述にとどめている(8頁)。
 ロ.その一方で報告書は、原電工事、原燃輸送及び輸送容器メーカーの技術的能力や数値の意味と重要性についての理解について不十分な体制であったことを各所で強調している(17頁、18頁)。
 しかし遮へい材の材料仕様値が原子力機器にとって最も重要な部分であることは一般人でも常識に属する事項であり、この数値を改ざんすることは極めて悪質な行為であるといえる。
 この点について、原子力の専門家である事業者が「数値の意味と重要性についての理解が」十分でなかったとすること自体、調査検討委員会が科技庁や事業者からの報告書を鵜呑みにし、その与えられた重要な責務を放棄している何よりの証左である。
 ハ.核燃料物質等を運搬する容器については、総理府令で定めるところによりあらかじめ内閣総理大臣の承認を受けることになっている(原子炉等規制法第59条の2、第3項、核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則第17条の2)。
 しかしながら上記のとおり、報告書は、国(科学技術庁)は単に「結果について確認」をしたとするのみで、その承認手続きにおいてどのような審査体制をとっていたのかという点については明らかにしていない。このことは換言すれば、科技庁が規則第17条の2所定の書類が提出された際、単にこれに目をとおし、数字(結果)の整合性を確認しただけというのであれば、これは安全審査の名に値しないというべきである。
 ニ.また報告書は事業者の能力やモラルの欠如を説いているが、営利を目的にしている事業者に高いモラルを求めることには無理がある。
 しかし仮りにそのような事実があったのであるならば科技庁はより厳重な審査や監督をしなければならないのに、それを怠った科技庁の責任はより重大であるというべきであるが、その点についても報告書は全く触れていないのである。
 調査検討委員会がこの点に何らの調査もせず、従って言及もしていない現状では、報告書が再発防止のために事業者のモラル向上を唱えてみても、今回のような不祥事を未然に防ぐことはできない。

(三)結語
 原子力の事故・不祥事の調査は原因をつくった当事者以外の中立、客観的立場にある第三者機関が実施するのでなければ適正妥当な結論は得られない。
 科学技術庁は法令上、安全審査の責任があり、これを適正に果さなかったのであるから今回の不祥事の一方の当事者であり、従って科技庁が選任した委員会は第三者機関とはいえない。
このような事故調査体制の不備と行政庁への追随姿勢が原子力事業の現場のモラルを低下させ。ひいては「もんじゅ事故」の際のビデオ隠しや虚偽報告あるいは最近のデータ改ざんの続発といった事態を招いた背景になっている。
 以上により、国は原子力の事故・不祥事を調査する独立した第三者機関を設置し、その際には、航空事故調査委員会設置法の制度も参考にすべきである。

4.原発溶接工事のデータ改ざんについて
(1)平成9年9月、沸騰水型原発の一次系配管の溶接工事において温度管理データが改ざんされたことが内部告発で発覚した。
 これは日立製作所の子会社である日立エンジニアリングサービスの誘導により、その下請会社が改ざん行為をしたものであり、14基の原子炉の248ヶ所に改ざんが行われたとされている。

(2)通産省資源エネルギー庁は「溶接部健全性評価検討委員会」を設置し、10月13日、データ改ざんが行われた箇所も焼きなまし作業は適切に行われており、健全性に問題はないとの検討をだした。

 

七、住民投票について
  別紙のとおり
以 上