市民参加懇談会の果たすべき役割に関する意見

2001年9月20日
吉  岡   斉

 

1.
原子力政策決定に対して市民参加のもたらした成果と課題に関する評価(アセスメント)を行う。

 中央省庁再編に伴い、原子力委員会は、期待される役割が変わった。従来は開発利用計画の作戦司令部(司令塔)だった。

 だがこれからは一歩引いて、関係省庁が立てる政策の認証・評価機関としての役割を、効果的に果たすことが期待されている。政策評価・事業評価が、新原子力委員会の主たる任務となる。

 総合企画・評価部会が専門部会等を束ねるものとして設置されたのも、そうした役割変化を踏まえてのことと考えられる。

 市民参加懇談会にも、市民参加に関する政策評価・事業評価を行うことが、期待されている。

 原子力政策円卓会議(第1期)が開始された1996年4月から、すでに5年が経過したので、評価実施の時期としては好適である。

 原子力政策円卓会議(第1期、第2期)については、政策の見直しへのインパクトがきわめて乏しかったという評価が、政策改革の担い手となることを期待して会議に協力した人々(かりに「改革派」と呼ぶ)の間で、定説となっている。

 今後も「改革派」の協力を引き続き得たいのであれば、なぜそうなったかの分析・評価を行った上で、市民参加の政策的インパクトを大幅に強化するために、知恵を絞る必要がある。これは市民参加懇談会が中心となって取り組むべき課題である。

2.
市民の意見を政策改革に反映させるための仕組みの整備

 市民とは誰かの定義としては、原子力開発利用関係者や、原子力政策関係者以外の人々のうち、原子力政策決定に影響を与える志を抱く全ての人々を指す、とするのが妥当なところであろう。

 彼らの意見を政策決定に反映させるための有力な回路をつくることが、市民参加懇談会の主たる役割である。政策評価・事業評価はそのための手段であって、それ自体が目的なのではない。そうした回路作りに失敗すれば、上記の意味での市民の失望を買い、協力を得られなくなるであろう。

 原子力政策の在り方に関して、全面肯定や全面否定の姿勢は今や時代後れである。原子力政策について発言しようとする全ての者が、原子力発電に対する総括的な賛否の如何を問わず、現在の原子力政策の多くの個別事項に関して、批判的な見解をもつと思われる。そうした批判的意見を集約し、原子力政策改革のためのできるだけ多くの具体的提言をまとめることが、市民参加懇談会の存在感を高める上で効果的である。

 原子力発電の是非について総括的な賛否両論を戦わせる舞台を設定するのが不毛であることは、すでに原子力政策円卓会議によって検証済みである。また市民参加懇談会が広報宣伝的活動を行うことは、市民の意見を政策に反映させることと正反対の方向性をもつ営みであり、論外である。広報宣伝的活動はすでに原子力関係機関・団体が熱心に進めているところであり、原子力委員会の任務ではない。

 とりあえずはプルサーマルにひとつの重点をおいて、市民の意見を政策改革に反映させるための活動を展開するのが適当である。「どのような形でならプルサーマルを国民に受け入れてもらえるか」について、さまざまの選択肢を検討して、政府としての最善案を勧告することは時宜を得ている。

 国民合意を得るためには、政府は交渉において妥協と譲歩を重ねる必要がある。拒否されても既存計画を改めないのは、大人の態度ではない。政府は国民意見を真摯に理解する努力を行った上で、譲歩案を提示することが必要である。そうすれば道は開けるかも知れない。そこにおいて市民参加懇談会は、一定の役割を果たしうる。

 

以上。