高レベル放射性廃棄物処分に向けての

基本的考え方について

 

 

 

 

 

平成10年5月29日

原子力委員会

高レベル放射性廃棄物処分懇談会


 

-目  次-

はじめに

第一部 総論
 Ⅰ.なぜ、いま、高レベル放射性廃棄物処分問題を議論するのか
  1.高レベル放射性廃棄物に関する議論の現状
  2.議論をする必要性
 Ⅱ.高レベル放射性廃棄物処分とは
  1.なぜ、高レベル放射性廃棄物を地層処分するのか
  2.高レベル放射性廃棄物地層処分の特徴
  3.高レベル放射性廃棄物地層処分の現状

第二部 各論
 第一章 廃棄物処分について社会的な理解を得るために
  1.広汎に議論を行うために
  2.透明性確保と情報公開
   (1)制度・組織の透明性の確保
     ①制度の明確化
     ②処分地選定の過程や事業活動に対する外部者による確認
   (2)情報公開
     ①情報公開のあり方
     ②具体的内容
   (3)誠実な対応
     ①情報の内容
     ②情報伝達の手段
     ③情報伝達を支える仕組み
     ④情報提供の継続
  3.教育・学習
   (1)学校教育
   (2)多様な人々への教育や学習

 第二章 処分の技術と制度について
  1.処分技術への理解と信頼を得るために
   (1)処分技術の信頼性の向上
     ①研究開発の進捗とその方向
     ②広く開かれた研究の推進
     ③処分技術のわかりやすい説明
     ④処分技術が社会に受け入れられるような仕組み
     ⑤人材確保の重要性
   (2)深地層の科学的研究施設
     ①研究開発状況の伝達
     ②深地層の環境の体験
     ③地域住民の理解
   (3)技術的要件の検討にあたって
  2.事業資金の確保
   (1)事業資金に関する諸外国の状況とわが国の状況
   (2)事業資金の考え方
     ①事業資金の負担
     ②事業資金の範囲
   (3)資金確保制度の考え方
     ①事業資金を確保できる制度
     ②機動性および柔軟性を備えた制度
   (4)資金確保制度の確立
     ①事業資金の算定
     ②事業資金の見直し
   (5)資金確保における関係機関の役割と国民への周知
  3.実施主体
   (1)実施主体の位置づけと役割
   (2)実施主体の備えるべき要件
     ①処分の実施能力
     ②長期安定性、柔軟性
     ③信頼性と安全性の確保
   (3)実施主体のあり方
  4.諸制度の整備
   (1)処分地の選定を含めた事業終了までのプロセス策定
   (2)処分場閉鎖終了前後の管理のあり方
     ①処分坑道埋め戻し後、主坑の埋め戻し(処分場の閉鎖)までの期間の設定
     ②処分場の閉鎖終了後の管理、モニタリングの方法、期間
   (3)処分場地下空間の利用制限とそれを担保するための手段
   (4)損害賠償制度の確立
   (5)安全基準の策定
  5.長期性への対応

 第三章 立地地域との共生
  1.基本的考え方
   (1)処分事業と立地地域との共生の考え方
   (2)共生施設としての位置づけ
   (3)立地地域と電力大消費地などその他の地域との連帯
  2.立地地域との共生に向けた取組み
   (1)地域の意向を反映した地域共生の取組み
   (2)持続可能な地域共生の取組み
  (参考)地域共生方策の例

 第四章 処分地選定プロセス
  1.基本的考え方
   (1)選定プロセスの明確化
   (2)関係機関の役割
   (3)選定プロセスの透明性確保と情報公開
   (4)関係自治体や関係住民の意見の反映
     ①自治体の役割
     ②住民の意見
   (5)国・地域レベルでの検討・調整の機能
  2.処分地選定プロセスと留意点
   (1)処分地選定プロセス
     ①処分候補地の選定
     ②処分予定地の選定
     ③処分地の選定
   (2)国の確認と第三者による検討
   (3)関係自治体や関係住民の意見の聴取と反映
   (4)安全確保の基本的考え方の明示
   (5)情報の開示

さいごに -いま、何をしなければならないか-

参 考
 1-1.高レベル放射性廃棄物処分に係る事業と研究開発、安全規制の展開
 1-2.処分事業全体スケジュールの概要
 1-3.処分地選定プロセスの一案
 2.構成員及び開催日
   3.高レベル放射性廃棄物処分懇談会報告書案に対する意見募集について
 4.高レベル放射性廃棄物処分への今後の取組みに関する意見交換会について
 5.高レベル放射性廃棄物処分への取組について
       (平成7年9月12日 原子力委員会決定)


はじめに

 高レベル放射性廃棄物処分懇談会(以下、懇談会)は、平成7年9月に設置され、高レベル放射性廃棄物処分(以下、廃棄物処分)について社会的・経済的観点を含めて幅広い議論をすることとされた。懇談会は、今日まで14回開催した。平成8年12月には懇談会の下に社会的受容性に関する特別会合、サイト選定プロセス・立地地域との共生に関する特別会合を設置し、それぞれ6回開催し、2つの特別会合の合同会合を6回開催した。平成9年8月には報告書案を公表し、平成10年1月までの半年間国民各層の意見を求め、342名から535件の意見が寄せられた。また、意見の募集にあわせて全国5ヶ所において意見交換会を実施し、意見発表者62名、一般傍聴者741名の参加を得た。加えて、電力の大消費地である首都圏の方々と意見を交換する機会を設けた。多くの国民の方々が、熱心にこうした機会に参加され、貴重な意見を頂いたことに心から感謝する。懇談会としては、これらの意見を踏まえて更に議論を深め、このたび廃棄物処分に向けた基本的考え方について報告書をとりまとめた。
 この報告書の目的は、関係機関に対して施策の提言を行うこと、および国民にこの問題の周知を図り議論を深めることにある。
 この報告書では、廃棄物処分について議論をする必要性、社会的に受容される前提としての情報公開のあり方、廃棄物処分のための資金確保や実施主体の設立など、信頼性と透明性ある制度の整備、立地地域との共生、そして廃棄物処分地の選定プロセスのあり方などについて検討し、法律の制定を含めて今後、関係機関が進めるべき具体的な方策の策定に向けた基本的考え方や検討すべき点について提言した。特に、事業資金の確保、実施主体の設立、深地層の研究施設の実現、安全確保の基本的考え方の策定については、早急に着手する必要があり、そのための努力を関係機関に強く要請するものである。
 現在、化石燃料の利用に伴って発生するCO、SOx、NOx の問題が国際的に深刻になっている。高レベル放射性廃棄物処分は原子力の開発利用のなかで難しい問題であるが、これへの対応が遅れることはあってはならず、現に社会に存在する避けては通れない問題である。
 廃棄物処分問題に対するわが国の取組みは、すでに具体的な施策が開始されている諸外国に比べて10年ないし20年余り遅れていると言わざるを得ない。先進の国においても社会的な受容なしに進めることはできないことを見れば、わが国においても幅広い国民各層の意見を聞くことが不可欠である。残念なことに、わが国では原子力開発に重要な役割を担ってきた動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃事業団)において最近発生した2つの事故およびその処理をめぐって国民の不信を招く事態が発生した。このような事態が生じる限り、原子力行政に対する国民の理解を求めることは到底不可能である。懇談会は、動燃事業団の抜本的な改革及び原子力政策について国民の信頼を回復する適切な方策が講ぜられることを期待したうえで、廃棄物処分のあり方について本報告書を公表する。

第一部 総 論

Ⅰ.なぜ、いま、高レベル放射性廃棄物処分問題を議論するのか

1.高レベル放射性廃棄物に関する議論の現状

 わが国では、原子力発電にともなって発生する高レベル放射性廃棄物やその処分について知らないという人々が多い。このことについて何らかの知識がある人でも、廃棄物からの放射線による環境への悪影響があるのではないかという不安や、安全な処分に対して不信感を抱いていることが多い。
 このように、一般の人々の間では、原子力発電や廃棄物処分への漠然とした懸念を持ちながらも、この問題はわれわれが解決しておかなければならない差し迫った問題であるという意識を持つような状況になっていないため、処分問題に対して積極的に発言することも少ない状況にある。
 このような状況の原因としては、従来、技術的な側面に議論が集中してきたため、専門家・技術者の間だけで専門的な議論がなされてきたということがある。また、国民の方々からの意見にあるように、広く各層の人々が議論するような場や議論をするための情報が提供されてこなかったという点がある。加えて、後に述べるように、廃棄物処分場については操業開始までに要する期間が長く、事業の終了までにさらに長い期間がかかるため、一般の人々には身に迫った問題として意識されにくいということがあるであろう。
 さらに、これまで国や電気事業者は、現在稼働している原子力施設の安全性の確保や、電力を安定供給するという観点から、原子力発電所の立地に重点を置いてきたため、廃棄物処分問題に対する対応を十分にしてこなかったことは否めない。

2.議論をする必要性

 わが国では1963年に原子力発電が開始され、1996年度には発電量の約34%が原子力発電によって供給されており、原子力発電はわが国の電力供給の重要な部分を担っているのが現状である。とりわけ、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県で全国の電力消費量の約25%を消費しているが、この地域に電力を供給している東京電力では、発電量の約40%が原子力発電によってまかなわれている。
 これまでの原子力発電の発電量から算定すると、高レベル放射性廃棄物の量は、1996年現在で、廃棄物のガラス固化体に換算して約1万2千本と試算される。今後の発生予想量については、高レベル事業推進準備会(SHP)が、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(平成6年6月原子力委員会、以下「長期計画」)の原子力発電規模の見通しに基づいて、平成7年度に行った試算によると、今後2030年までの原子力発電による発電量では、すでに存在するものと合わせると約7万本相当1)になると想定されている。
 したがって、今後の原子力政策がどのような方向に進められるにせよ、少なくともすでに存在する高レベル放射性廃棄物については、その処分を具体的に実施することが必要である。
 われわれが発生させた廃棄物については、われわれの世代がその処分に関する制度を確立する必要がある。後世代に影響を及ぼす可能性のある廃棄物の処分について、後世代に負担を残さないことがわれわれの責務である。廃棄物に対するこうした考え方は、OECD/NEA2)がとりまとめた「長寿命放射性廃棄物の地層処分の環境的及び倫理的基礎」3)にみられるように、各国及び国際機関に共通している。原子力発電により社会生活を維持している現世代が廃棄物処分について先送りするならば、そのツケは後世代に残されることになる。われわれは今できることについて、早急に着手しなければならない。
 さらに、廃棄物処分を行うにあたり、原子力発電によって電力供給を受けている電力消費地域の住民と処分場立地地域の住民との間の「公平」を確保することも必要である。電力消費地域の住民は電力供給を受けることによって便益を得ているのであるが、他方で処分場立地地域住民は、廃棄物処分に伴って生じるかもしれない負担を被ることになる。このため、処分場立地地域と電力消費地域との間の住民の連携を図って、両者が共生していくという考え方が必要である。
 しかし、世代間および地域間の公平と公正を図るというような問題は、本来専門家の間での技術的な議論だけで解決できる問題ではない。こういった問題をどのように解決していくべきかについては、国民各層の間で広汎に議論が行われ、国民の間の合意形成が求められるべき重大な問題である。懇談会としてここで述べようとしているのは、この問題に関して、どのようにすれば国民各層の間で議論が行われる基本的条件が整うのか、また、実際に事業を具体化していくうえで、どのような考え方に基づいて制度を設けていくのかという点である。


1)廃棄物を埋設する地下の処分施設の広さは、動燃事業団が作成した「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書-平成3年度-」において検討されており、岩盤の種類、埋設する深さ、定置方式(竪置、横置)等によって異なるが、廃棄物4万本では約4~3.2k㎡(約2~1.8km 四方)になると想定されており、7万本では7~5.6k㎡(約2.7~2.4km四方)になる。
2)経済協力開発機構/原子力機関(Organization for Economic Cooperation and Development/Nuclear Energy Agency)
3)OECD/NEA「長寿命放射性廃棄物の地層処分の環境的及び倫理的基礎」("The Environmental and Ethical Basis of Geological Disposal of Long-lived Radioactive Wastes",OECD(1995))


Ⅱ.高レベル放射性廃棄物処分とは

1.なぜ、高レベル放射性廃棄物を地層処分するのか

 高レベル放射性廃棄物は、長期にわたり放射能のレベルが高いため人間の生活環境から隔離して安全に処分する必要があり、その処分方法について長年、各国及び国際機関において様々な可能性が検討されてきた1)。人間の生活環境から隔離するため、宇宙空間への処分、南極大陸などの氷床への処分、海洋底又は海洋底の堆積物中への処分、深地層への処分が考えられてきた。宇宙空間への処分については、事故が起きた場合のリスクが大きい。南極の氷床への処分については、南極条約によって禁止されている。また、海洋底又は海洋底の堆積物中への処分については、廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)によって禁止されている。一方、地表において廃棄物を超長期にわたって管理するという考え方もある。これについては、将来の世代にまでも廃棄物を監視し続ける義務を課し、また、将来社会が安定で制度が維持できるという仮定に立ち、戦争や革命などの人間による災害にも脆弱であると考えられている2)3)。  このような検討を経て、地層処分以外の処分方法については実現にあたっての問題が多いことから、現在、わが国を含めて国際的に、最も好ましい方策として地層処分が共通の考え方になっている。
 なお、国により、ガラス固化体ないし使用済燃料を地層処分のさいの廃棄体として選択しているが、いずれにおいても、深地層の研究を実施し、実施主体を設立し、事業資金の確保を行うなど類似の制度と体制の整備が進められている。また、廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から、長期的に核種分離・消滅処理4)の基礎的


 1)今までの検討の例として以下のようなものがあげられる。
 米  国:"The disposal of radioactive waste on land."National Academy of Sciences-National Research Council,NAS-519(1957)
      USAEC,WASH-1297(1974)
      USDOE,DOE/EIS-0046F(1984)
      Rice,et al.,DOE/TIC-4621,370,(1981)
 カ ナ ダ:A.M.Aikin,et al.,"The Management of Canada's Nuclear Wastes",Minister of Supply and Services Canada,M23-12/77-7,(1977)
 ス イ ス:"Projekt Gewahr 1985",Nagra(1985)
 OECD/NEA:NEA Groupe of Expert,"Objectives,Concepts and Strategies for the Management of Radioactive Waste Arising from Nuclear Power Programmes",OECD(1977)
     "Geological Disposal of Radioactive Waste,An Overview of the Current Status of Understanding and Development",OECD(1984)
 2)OECD/NEA「長寿命放射性廃棄物の地層処分の環境的及び倫理的基礎」(前掲 3p.)
 3)カナダ:A.M.Aikin,et al.,"The Management of Canada's Nuclear Wastes"(前掲)
 4)核種分離・消滅処理について
 「高レベル放射性廃棄物中に含まれる核種の特性、利用目的に応じた分離(核種分離)を行い、有用核種の利用を図るとともに、長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への核変換(消滅処理)を行うことは、高レベル放射性廃棄物の地層処分の必要性を変えるものではないものの、長寿命核種を除去することにより、高レベル放射性廃棄物の放射能レベルを下げるとともに、その放射能レベルの継続期間を短縮できる効果があり、また、有用核種を分離し資源として利用し得ることから意義深いものであるので、核種分離・消滅処理技術の実用性を見極めるための長期的な研究開発に取り組むこととする。」
  (原子力委員会長期計画専門部会第一分科会報告書(平成6年6月))


な研究もいくつかの国で行われているが、核種の一部の低減はできるものの、地層処分の必要性を変えるものではないと考えられている。

2.高レベル放射性廃棄物地層処分の特徴

 わが国における、高レベル放射性廃棄物処分の基本的方針は、現在、以下の通りとなっている。
 原子力発電所で使用された使用済燃料は再処理されウランやプルトニウムを取り出す。そのさいに、高レベル放射性廃棄物は高レベル放射性廃液の形で分離される。この廃液を安定で取扱いを容易な形態にするため、ガラス原料と混ぜて高温で溶かし、ステンレス製の容器(キャニスター)に流し込み、冷やして固める(ガラス固化)。こうしてできたガラス固化体は、冷却のため30年から50年間程度貯蔵した後、地下数百から千メートルの安定した地層中の岩盤に埋設し、処分する。
 高レベル放射性廃棄物は、当初は放射能が高く発熱量も高い状態にあるが、30年から50年で埋設可能な発熱量となり、含まれる大部分の放射性物質の放射能は数百年の間に急速に減少する。一方、一部の放射性物質は放射能は低いものの寿命が長いため、長期にわたって放射能が存在する。
 地層処分はガラス固化体を30年から50年貯蔵した後に行われる。その後数十年にわたり順次埋設するために、廃棄物処分事業は地下処分施設の埋め戻し終了まで非常に長期にわたる。さらに、埋め戻し終了後は、廃棄物は人間環境から隔離され安全性が確保されることとなるが、放射性物質自体は世代を超えて長期にわたり地中に存在することになる。このため、廃棄物処分について現世代が考えうるかぎりの対応をしておかなければならないが、後世代が諸情勢の変化に対応できるような枠組みを設けておくことも必要である。そのさいに、後世代のその世代における諸条件の下での意思決定やそれによって発生するかもしれない新たな負担について、現世代がどこまで配慮しておくべきかという世代間の意思決定の分担やコスト調整の問題を考慮しておく必要がある。

3.高レベル放射性廃棄物地層処分の現状

 原子力発電を行ってきた欧米の多くの国では、地層処分を実施するためにかねてより準備が進められている。すなわち、深地層研究のための地下研究施設の運用が開始されているだけではなく、廃棄物処分を行うための実施主体が設立され、事業資金の確保の取組みがなされている国が欧米ではほとんどであり、早いところでは21世紀の初めから自国において処分を開始することが予定されている。
 例えば、スウェーデンでは、実施主体として1984年にスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が設立され、1990年に地下研究施設の建設が始まり現在研究が進められている。事業資金は電力会社が納付金として政府機関に納入し、国はそれを基金として積み立て、運用している。また、2008年から試験的に処分を開始し、2020年から本格的に処分を開始する予定1)である。
 スイスでは、処分場設置の準備とプロジェクトの策定を行うために1972年にスイス放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)が設立され、1983年に地下研究施設の建設が始まり現在研究が進められている。事業資金は電力会社が分担金として拠出し、将来の処分の資金は電力会社が引当金として確保しており、早ければ2020年に処分を開始する予定2)である。
 ドイツでは、実施主体として1989年に連邦放射線防護庁(BfS)が創設された。事業資金は主に電力会社が引当金として確保している。1986年には処分予定地の調査のための地下探査施設の建設が始まり現在研究が進められ、2012年に処分を開始する予定3)である。
 フランスでは、1992年に放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が実施主体として原子力庁から独立した。事業資金は主に公営企業である電力公社が引当金として確保している。1996年に3ヶ所での地下研究施設の建設の申請がなされており、処分開始時期は未定であるが、2006年までに最終的な処分の方式が決定されることになっている。  アメリカでは、1982年に連邦エネルギー省(DOE)が実施主体とされた。事業資金は電力会社が法律によって国の管理する基金への掛け金として積み立てている。1993年には処分予定地の適性を調査するための地下探査施設の建設が始まり現在研究が進められ、2010年に処分を開始する予定4)である。
 カナダでは、公営企業である電力会社のオンタリオ・ハイドロ社を中心に実施主体の設立を進めているところであり、処分開始時期は未定であるが、1983年に地下研究施設の建設が始まり現在研究が進められ、それぞれの電力会社が事業資金を引当金として確保している。
 他の大半の国においても、実施主体が設立され、事業資金の確保に着手しており、処分技術についても現在の技術水準で処分可能とされ安全確保の考え方も示されている状況にある。
 これに対してわが国においては、2000年を目安に実施主体を設立し、ガラス固化体の発生時期とその後の冷却期間などを勘案して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでには処分事業を始めることが予定されている。また地層処分を行うシステムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究などが動燃事業団において進められており、地層処分の研究開発の成果を総合的に取りまとめた「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書-平成3年度-」では現在の技術水準で地


 1)RD&D-PROGRAMME92:Treatment and final disposal of nuclear waste,1992,SKB
 2)Endlagerung hochactiver Abfaelle:Ziele,Strategie,Termine/NAGRA Informiert Nr.25,1995.03.,Nagra
 3)BfS Jahresbericht 1996,1997.06.,BfS
 4)Civilian Radioactive Waste Management Program Plan Revision 1:DRAFT,1995.1,DOE/OCRWM

層処分が可能であることが示されている。さらに、2000年前までには、地層処分技術の信頼性と処分地選定と安全基準策定のための技術的な拠り所が提示される予定である。しかし、より実証的な研究開発を進めていくためには、地層処分研究の基盤となる地層科学研究を充実することが不可欠であり、深地層の研究施設の早期実現が求められている。また、廃棄物処分についての制度面の整備はまだ検討を行っている段階にあり、実施主体の設立や事業資金の確保も開始されていない状況にある。
 このように、諸外国では、廃棄物の埋設自体はまだ実施されていないものの、その実施に向け、研究開発に加えて、実施主体の設立、資金の確保などがすでに始まっており、廃棄物処分の実施に向けて具体的な準備が進められている。これに比べて、わが国では、いまだに処分事業の具体化がなされておらず10年ないし20年余りの遅れがあると言わざるを得ない。国と電気事業者は、処分制度の整備や事業資金の確保などに早急に着手する必要がある。そのためには、国民各層の議論を通じて、高レベル放射性廃棄物処分のあり方について検討し、国民の理解と協力を得ることが必要である。

第二部 各 論

第一章 廃棄物処分について社会的な理解を得るために

 廃棄物処分を進めるにあたり、社会的な理解を得ることが重要である。そのためには、広く国民各層の間にこの問題について議論が行われ、認識が広がることが必要である。国民の方々から寄せられた意見において、情報公開、透明性の確保、教育の重要性などについて多くの指摘がなされており、地域意見交換会においても、青少年に認識を深めてもらう必要があること、家庭や職場での問題意識や議論の広がり、原子力や廃棄物問題を含めた体系的な環境やエネルギー教育の必要性などが繰り返し指摘された。

1.広汎に議論を行うために

 高レベル放射性廃棄物処分にあたっては、具体的な処分地の選定や廃棄物の埋設の開始などを行う段階ごとに、後に述べるような透明性の高い決定プロセスを踏むことが必要である。しかし、国民の間には原子力に対する不信・不安もあり、廃棄物処分事業を進める前提として、まず、その不信・不安に適切に対応し、同時に処分についての議論を国民各層に広げていくことが重要である。そのためには、以下の条件が確保される必要がある。 また、国民の方々から多くの意見が出されたように、今回の地域意見交換会などの経験を踏まえて、今後も、進展に応じて、国民各層から意見を聴取し意見交換する場を設けることが重要と考える。

2.透明性確保と情報公開

 制度や組織への不安を少なくし信頼を得ていくうえで、透明性を確保することが前提となる。そのためには、法制化などによって透明性の高い制度や仕組みを整備することが必要であるとともに、情報公開の姿勢を徹底しなければならない。国民の方々からも、透明性の確保や情報公開の重要性、多様な人々に対応した分かりやすい情報提供について数多くの意見が寄せられた。情報提供の方法として、バーチャル・リアリティーやアニメーションの利用などの具体的な意見が寄せられた。

(1)制度・組織の透明性の確保
 処分事業が今後どのように行われていくのかを明確にしておくことによって、将来に対する見通しが与えられ、事業に対する不安を少なくすることができると考えられる。このため、処分事業を進めていくにあたって、法律などによって事業の過程や体制などを明確化しておくことが必要である。
 また、透明性を確保するために、制度的に外部からチェックできる仕組みを設けておくことが必要な場合がある。

  ①制度の明確化
 処分地選定の手順、処分計画・事業申請・安全審査、処分場の建設・操業、埋め戻し、埋め戻し終了後の対応など事業の過程を明確化しておくことが必要である。そのためには、法律などを整備して各段階を明確にしておくことが妥当である。

  ②処分地選定の過程や事業活動に対する外部者による確認
 事業について透明性を確保し、信頼を高める必要があることから、処分地選定の過程や処分場の建設・操業の過程における安全確保策など、実施主体の事業活動について外部から確認する仕組みを検討しておくことが必要である。  例えば、処分地の選定経過や選定の理由について、公正な第三者がチェックを行うことや、実施主体の活動内容や操業状況について、外部から安全性を含めて定期的に確認し、評価する仕組みが考えられる。

(2)情報公開
 処分事業の透明性を確保し、意図的に情報を隠しているのではないかという不信感を招かないために、事業のすべての段階を通じて情報公開の姿勢を徹底することが不可欠である。このたびの動燃事業団の事故をめぐる情報の取扱いは、この点に関する基本的な認識の欠如によるものであって、すみやかに情報を公開することが社会的な信頼を得る第一歩である。
 情報公開に関する法制度が整備された場合には、それに則って対応することが必要である。
 また、情報が常時公開されていれば情報を入手しやすく、データの比較も容易になることから、情報の公開は長期的に継続して行わなければならない。
  ①情報公開のあり方
 予備的調査の段階を含め処分事業の各段階で、処分事業に関する情報を公開するのが原則である。
 例えば、処分候補地や処分予定地の選定を行うさい、選定過程の科学的・社会経済的な情報を公開して、選定の根拠を提示することが必要である。また、選定プロセスにおける予備的調査やサイト特性調査で得られたデータや操業中に得られたデータなどを公開すべきである。さらに、事業を通じて、定期的にデータや報告書を公開することも重要である。

(参考)情報公開について
 現在、国において情報公開法の制定について検討が進められているが、情報公開には、プライバシー、知的財産権に関する情報など、一定の公開除外例がある。処分事業の情報公開においても一定の制約が存在せざるをえないが、処分事業に対する国民の信頼を得るためには、できるだけ情報は公開されるべきであり、非公開事例については、厳格な枠付けを行うべきである。

  ②具体的内容
  (a)処分事業では何が行われるのかを明示する。
 処分事業について具体的内容、その手順、作業日程、処分場の規模、処分するガラス固化体の量など、処分事業では何がどのように行われるのかをまず明示す ることが必要である。さらに、処分事業の安全性や環境への影響の可能性などに関する情報を公開することが重要である。
 また、具体的な処分事業に入る前段階としての予備的調査やサイト特性調査においては、調査が処分場立地の適性を調査するために行われることを明示したうえで、調査のために何がどのように行われるかについて技術的な面も含めて情報を公開することが地域住民の信頼を得るうえで不可欠である。

  (b)選定過程での情報公開
 処分候補地や処分予定地の選定を行うさいには、選定の根拠となる科学的・社会経済的な情報を公開しなければならない。

  (c)事業の進行にともなう情報
 処分事業の進行にともなって得られる情報についても常に入手可能な形で整理し公開することが必要である。

(3)誠実な対応
 公開された情報が国民に信頼されるためには、次に述べる考え方が重要である。実施主体や関係機関は、求められる情報の提供に誠実に対応するとともに、出した情報が理解されるには、受け手側にとってわかりやすい形で正確な情報を伝えるとともに説明することが重要である。
 疑問には迅速かつ丁寧に回答し、各層の人々に応じた対応をするなど、誠意のある姿勢を継続することが情報および情報発信者に対する信頼につながることになる。
  ①情報の内容
  (a)わかりやすい情報の提供
 提供する情報が受け取る側にとってわかりやすいことが重要である。情報の提供は、国民の知る権利に対応するものであることを前提にして、誰にとっても理解できる情報であることが要求されている。
 例えば、専門知識を持っていない人に専門用語を用いた情報を届けても、理解されない。難解な専門用語の使用は避け、用語のわかりやすい説明を添付したり、専門家の用いる言い回しを別の表現に代えるなどの配慮・工夫が必要である。Q&A形式や視覚的な情報を多く取り入れるなど情報の伝え方にも工夫が必要である。

  (b)求められている情報の提供
 人々が求める情報を提供することが重要である。そのためにも、求められている情報が何であるかに留意し、情報提供に反映することが重要である。とくに安全性に関しては、リスクや不確実性について明示することが必要である。
 例えば、疑問、質問の多い事項を中心にした情報提供を行うことや、アンケートや意識調査を行ってどのような情報が求められているかを把握するように努めるべきである。

  ②情報伝達の手段
  (a)情報伝達手段の多様化
 情報にアクセスできる手段を多様化する必要がある。生活様式や居住地域が人によって異なることから、情報へのアクセス手段をできるだけ多様化し、より多くの人々が必要な情報を入手できるようにすることが重要である。
 例えば、情報入手についての時間的・地理的制約をできるだけ減らすために、インターネットの利用やファックスによる情報取り出しなどが考えられ、また、図書館・児童館や公的集会所への書物・資料の陳列によって、広く一般の人々の目に触れやすくすることが考えられる。

  (b)情報源情報の充実
 情報提供を行ううえで、情報がどこにあって、どうやれば入手できるのかという情報源情報を充実させることが重要である。情報源情報が充実していなければ、必要な情報を実際に入手することが困難だからである。
 例えば、広報紙、広告などの広報媒体への掲載や、インターネットの活用などが考えられる。

  (c)多様性・双方向性に対応した情報伝達体制の充実
 一般の人々、各界の指導的な立場にある人、住民の代表者である議員など、多様な層の人々に対応できるスタッフを教育・育成することが必要である。研究者や技術者が、専門家でない人々に対する説明能力を高めることも重要であり、研究や技術の正確な内容を専門家でない人々に説明する義務を負っていると考えるべきである。
 また、第一線で双方向に情報の交流を行うスタッフを充実することが重要である。多様な情報に対する需要に誠実に対応し、相手の意見や疑問を汲み取ることができるように情報を伝達する者の資質の向上を図らなければならない。

  ③情報伝達を支える仕組み
  (a)疑問・質問への対応
 実施主体および関係機関は、外部の疑問・質問に対して迅速に対応できる体制を整備しておくことが必要である。人々が廃棄物処分について疑問を持った場合に、質問ができ、それに対して迅速かつ丁寧に回答する体制が必要である。
 例えば、質問を受け付ける窓口を明確にし、その窓口で応対する専門スタッフを配置するとともに、スタッフが受け付けた質問が適切な部門に照会されて解答が正確であることを確認するなど、組織全体にフィードバックできる体制を整備することが重要である。  一方で、事実と相違する外部の情報に対して正確な情報を提供するなど適切な対応を行う体制を整備しておくことも必要である。

  (b)情報開示の体制
 実施主体および関係機関は、処分場の選定過程や建設・操業・閉鎖などのそれぞれの段階で生ずるかもしれない事故などのあらゆる事態に関して、的確・迅速な情報を出す通報体制・情報開示体制を整備することが必要である。

  (c)双方向の情報交流
 実施主体および関係機関と国民や住民とが双方向に情報の交流を行えるような体制を整備することが重要である。

  (d)ボランティア活動の支援
 情報を広く伝達するには、ボランティア活動による情報伝達を支援することが重要である。
 例えば、資料を作るさいにボランティア活動の場で利用できるような材料を企画し提供することなどによる支援が考えられる。

  (e)マスメディアにおける議論の支援
 国民の間で賛否にかかわらず広く議論が行われるようにメディアを通じてさまざまな意見が報道されることが重要である。このため、メディアに対する積極的な情報の提供や幅広いジャーナリストが参加するセミナーや公開討論会を支援する必要がある。

  ④情報提供の継続
 継続して情報提供を行うことが重要である。継続して提供することにより、情報および情報発信者に対する信頼が生まれると考えられる。継続して情報を提供しない場合には、その内容いかんにかかわらず、都合のよい情報だけを提供し、不利な情報を意図的に隠しているのではないかという疑問を招くおそれもある。

3.教育・学習

 情報を的確に判断するためには、情報の内容を理解するための基礎的な知識が必要である。このため、エネルギー、原子力、廃棄物の基礎的な教育や学習の機会を提供し支援することが重要である。このような活動は地層処分に対する国民の関心を深めることにも寄与するであろう。アメリカやカナダでは学習用の教材を作って教育機関に提供することや専門家との対話の機会を設けたり、広報センターや地下研究施設の見学を積極的に働きかけている。

(1)学校教育
 長期的な観点から、若い世代に原子力に対する理解と廃棄物処分への関心を持ってもらうことが重要である。このための取組みとして、学校教育によって放射線や放射性物質や深地層などについての基礎的な知識の浸透を図ることが重要である。そのため、小中学校教育のカリキュラムに、環境問題・エネルギー問題・廃棄物問題全体にわたる広い分野の学習を取り入れることができるように学習教材や専門家派遣の機会を提供する必要がある。また、教育を行う人々に対する情報提供、情報交流やはたらきかけを促進するとともに、これに関連して、人材育成や体制の整備を図るべきである。

(2)多様な人々への教育や学習
 小中学生のみならず、オピニオンリーダーを含めたさまざまな人が、この問題に関する知識と認識を得ることができるように、多様な教育や学習の機会を設けることが必要である。
 例えば、多様な知識や関心を持つ人々に対応した説明会や、エネルギー、原子力、深地層を対象としたセミナー形式での科学講座などを開催することが考えられる。とくに地下の環境を実際に体験できるような深地層の研究施設などの現場訪問の機会を多くすることは施設の公開という目的に資するだけでなく、人々に廃棄物処分に対する正しい理解をもってもらうためにきわめて重要である。アメリカでは年間3000人以上、カナダでは年間2000人以上、スウェーデンでは年間7000人以上の人々が地下の研究施設を訪れている。

第二章 処分の技術と制度について

 地層処分への不安を少なくし国民の信頼を得るためには、第一に、処分技術が国民に理解・信頼され、第二に、処分事業の裏付けとなる資金が確保され、第三に、処分を安全かつ着実に行う実施主体が設立され、第四に処分場のサイト選定から処分終了にいたるプロセスを規定する透明性の高い制度が整備されることが必要である。また、処分事業の長期性への対応に十分な配慮が必要である。

1.処分技術への理解と信頼を得るために

 処分を行ううえで技術的に安全性が確保されることが前提であるが、それとともに、処分技術について国民の理解と信頼を得て社会的に安心を与えることが重要である。なお、国民の方々からも、研究開発の一層の促進、処分技術の安全性への不安、廃棄物の減量化・有効利用の重要性などについて意見が寄せられた。

(1)処分技術の信頼性の向上
  ①研究開発の進捗とその方向
 
 平成9年4月15日に、原子力バックエンド対策専門部会は「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」報告書をとりまとめた。これを受けて、現在、関係研究機関は、連携を強化し、広汎な分野の人材を活用して技術報告書(第2次とりまとめ)をとりまとめているところであり、今後、逐次公表され、国際的なレビューを経て国の評価を受けることになる。この技術報告書が、2000年前までにまとめられ、専門部会で示された技術的な目標を達成し、わが国における処分技術の信頼性を明らかにするとともに、処分予定地の選定および安全基準の策定に資する技術的拠り所を明らかにすることが必須である。

  ②広く開かれた研究の推進
 地層処分に関する研究は極めて学際的であることから、関連する広汎な諸分野の人材を幅広く確保し、関係機関と学界との連携なども含めて幅広い知見を集約し、それぞれの研究成果を有機的に統合すると同時に、研究活動が広く国民に公開され、透明性が確保されることが重要である。
 処分技術の研究開発を推進していくためには、中核的推進機関が不可欠であり、深地層の研究施設をはじめとする施設・設備の整備および人材の養成・確保を図ることが重要である。また所要の研究開発資金を確保することが必要である。従来より中核的推進機関であった動燃事業団について、現在抜本的な改革が検討されており、これを踏まえて適切な体制を整備することが必要である。

  ③処分技術のわかりやすい説明
 処分技術についての理解と信頼を得るためには、一般の人々にわかりやすく説明 することが重要である。地層処分の技術には、放射線に関する用語などの原子力科学のわかりにくさに加えて、深地層中という環境については一般の人々にほとんど知られておらず、また地質学的な年代という、一般にはイメージしにくい要素があるため、説明にあたっては一層の工夫が必要である。

  ④処分技術が社会に受け入れられるような仕組み
 技術はその時点での最高の知見を集めたものであるが、一方でその時点での知見に基づくものであることから予見されていないことも起こりうる。このことを前提として、技術が社会的に受け入れられるような仕組みや制度を、リスクマネジメントの観点からも整備することが必要である。
 なお、先にも述べたように、高レベル放射性廃棄物を地層処分することが、現在、技術的に最も現実的である。地層処分をより安全かつ効率的に行うために進められる廃棄物の減量化や有効利用に関する研究について定期的に評価を行うとともに、こうした技術に飛躍的進歩があった場合に柔軟に対応できるような仕組みが大切である。

  ⑤人材確保の重要性
 処分の事業は、計画から実施・終了まで長期にわたるため、研究者や技術者を養成し確保する方策について検討しておくことが重要である。

(2)深地層の科学的研究施設
 処分技術について国民の理解と信頼を得るためには研究開発の目的と成果が目にみえる形でわかりやすく示されることが必要である。特に深地層の研究施設は深部地質環境の科学的研究を実施するために建設されるが、同時に、一般の人々が実際に見て体験できるという意味で社会的な観点からきわめて重要な役割を持つことから早期に実現することが必要である。

  ①研究開発状況の伝達
 深地層の研究施設を建設し、深地層の研究が総合的に進められていることを示すことにより、地層処分研究の基盤が整いつつあることを社会に伝達することができる。

  ②深地層の環境の体験
 国民の各層が、深地層の研究施設において深地層の環境を体験できることに加え、研究者と直接的な対話を持つことにより深地層の環境についての科学的な理解を深めることができる。
 多くの国民に施設の見学に対する関心を持ってもらうために、地上の生活環境と隔離された深地層の環境という特性を示すとともに、化石など地下の幅広い特徴を示す考古学などの施設をあわせて整備することも考えられる。

  ③地域住民の理解
 研究機関が行う深地層の研究施設の早期実現を図り研究を推進していくうえで、地域住民の理解を得ることが必要である。国民の方々から、このような研究施設の重要性を指摘する意見の一方で、研究施設に廃棄物を持ち込むのではないか、研究施設あるいはその周辺が処分地になるのではないかといった不安や懸念が出された。科学的な研究施設といえども地域住民に不安や懸念を惹きおこした状況では施設の建設や研究の推進は困難である。動燃事業団さらにこれを改組した新たな法人が行う深地層の研究施設の計画は、実施主体が行う処分場の計画など処分地の選定プロセスとは明確に区別して進められるべきである。このようにして、研究施設の位置づけを明確化し、理解と信頼を得るために、施設の公開、情報ネットワークを駆使した的確な情報の公開、現場研究者の真摯な対応などあらゆる手段をつくすことが必要である。

(3)技術的要件の検討にあたって
 処分技術や実際に処分を行うことに対する国民の理解や信頼を得るうえで、専門家の間での技術的な議論だけでは解決できず、技術的要件について社会的な受容という観点から議論すべき課題が存在する。
 例えば、処分の安全対策上の措置とその期間をどのように設定すればよいのかといった問題については、技術的な安全確保という観点と社会の安心という観点からの受容性とのバランスの中で定まってくる性質のものであるとの考え方がある。例えばカナダでは、安全性を評価するにさいし、1万年で処分場の放射能レベルはウラン鉱床と同じくらいのレベルにまでさがることと、サスカチュアン州にある数百メートルの深さのウラン鉱床では表面からはその放射能の影響が全く検出されないことから、1万年程度を考慮することが適当とされている。
 また、処分場の操業が終了し処分坑道が埋め戻された後、どれだけの期間主坑を維持しておくべきかといった問題や、主坑が埋め戻され地上と隔離された後のモニタリングを行うべきかという問題は、技術的に主坑の維持やモニタリングが不要な場合であっても、社会的な「安心感」を得るという観点から社会が技術に対して要請していく問題であるという考え方もある。

2.事業資金の確保

 廃棄物処分事業を具体化するためには、実際に事業を行う裏付けとなる資金が確保されることが必要である。処分の前段階としての候補地選定や予備的調査などを含め処分場の建設や操業、埋め戻しなど処分事業を行っていくには多くの費用がかかる。  海外ではほとんどの国がすでに基金や引当金などのかたちで資金確保を進めているが、わが国においては、過去30年の原子力発電の結果、ガラス固化体に換算してすでに1万2千本相当(1996年3月現在)の廃棄物が蓄積しているにもかかわらず、処分資金の確保はいまだに開始されていない。資金の確保はむしろ遅きに失していると考えられ、後世代に負担を回さないためにも資金確保の体制づくりに早急に着手することが必要である。

(1)事業資金に関する諸外国の状況とわが国の状況
 諸外国における事業資金について、アメリカでは、使用済燃料の中間貯蔵、輸送、研究開発費を含む処分の全費用を確保するために、議会の決定によって1983年から基金が設けられており、そのための拠出金として現在原子力による発電量1kWhあたり1ミル(約12銭)が徴収されているが、拠出率の妥当性については毎年検討されている。
 スウェーデンでは、使用済燃料やすべての放射性廃棄物の管理、原子炉の解体、研究開発などを含めたすべてのバックエンド費用について、発電所ごとに異なるが平均すると原子力による発電量1kWhあたり0.9オーレ(約15銭)とされている。この費用については1981年から徴収されており毎年必要額が算定されている。
 カナダでは、電力会社各社がそれぞれ使用済燃料の輸送・処分費用をカナダ原子力公社(AECL)の処分コンセプトを用いて算定し、例えばオンタリオ・ハイドロ社では1982年から原子力による発電量1kWhあたり0.88ミル(約8銭)を徴収している。この水準が適切であるかについては各社とも定期的に見直しを行っている。
 わが国においては、SHPが「高レベル放射性廃棄物処分事業に関する検討 中間とりまとめ(平成7年度)」において、処分に要する費用のモデル計算を行った例がある。それによると、原子力による発電量1kWhあたり数銭から10銭程度(地域共生方策の実施に要する費用は除く)と試算されているが、現時点では資金の確保は行われていない。
 なお、わが国においては、今年から、処分の合理的な費用の見積もり、資金確保の所要の制度整備について検討が行われる。

(2)事業資金の考え方
  ①事業資金の負担
 事業資金の範囲については後に述べるが、処分に直接要する費用は、受益者負担の考え方から電気料金の原価に算入し電気利用者が負担することが適当である。

  ②事業資金の範囲
 事業資金の範囲については、処分場の埋め戻し以降の管理費用をどうするのかという問題と、処分場の立地地域との共生に関する費用を事業資金に含めるかどうかという問題がある。
 処分場の埋め戻し以降の管理費用については、管理の実施を次世代の判断に委ねるかどうかという問題とともに議論することが適当である。管理の要否については社会的な受容という点から重要な問題であるが、事業資金の確保を早急に行うためには、現時点において少なくとも必要となる処分場の主坑の埋め戻しまでの資金について考えることとし、それ以上の問題については基本的な考え方を早急に確立していくことが適当と考えられる。
 また、共生費用については事業内容によって区分して考えることが適当である。立地地域との共生は実施主体が中心となって取り組むことが重要であるが、事業内容によっては国の事業として行うことが適当である。

(3)資金確保制度の考え方
  ①事業資金を確保できる制度
 事業資金の確保制度を確立するうえで、実際の処分場の建設や操業、埋め戻しに要する費用だけでなく、候補地の選定や予備的調査など前段階を含めた事業全体の費用が確保できるような制度とすることが必要である。

  ②機動性および柔軟性を備えた制度
 事業資金を必要な時期に機動的かつ円滑に支出することができるような制度であることが必要である。このためには、実際に資金が積み立てられるような制度とすることが適当である。また、事業の進展や事態の変更により事業資金の必要額が変動することが考えられることから、必要に応じて柔軟に確保額を変更できるような制度とすることが必要である。

(4)資金確保制度の確立
  ①事業資金の算定
 現世代が負担する事業資金の確保制度を早急に確立し、資金の確保を始めることが必要である。事業資金を電気料金の原価に算入するには、そのための制度の整備が必要であるが、そのさいに処分費用の算定がポイントになる。
 処分場の設計・建設・操業と進めていく中で初めて明らかになってくる事項があることから、処分費用の算定を行ううえで、現時点では不確定な事項についてどう対応するのかという問題がある。つまり、電気料金の一部として支払いを受ける以上、事業全体を通じて国民が納得できるような合理的積算を示すことは重要であるが、算定根拠となる処分事業の細部まで決める必要があるとすれば、制度の整備が出来ず、事業資金の早期確保はできなくなる。
 現時点では、事業資金の積算は特定サイトの施設設計に基づくものとせず、現在の技術と知見とを前提として処分事業についてのモデルケースを設定し、それに基づいて試算を行うとの考え方が適当である。

  ②事業資金の見直し
 処分事業の終了まで長期間を要するため、事業資金の算定にあたっては、当初想定した諸条件が変動することを前提として、一定期間ごとに費用の見直しを行い、その時々の条件に応じて費用の確保額を見直していく仕組みを作っておくことが必要である。

(5)資金確保における関係機関の役割と国民への周知
 廃棄物の発生者である電気事業者が、処分に必要な資金を確保することが適切であるが、国はそのための制度を早期に確立すべきであり、こうした制度の検討を進めるにあたり、十分国民に周知を図る必要がある。
 なお、国民の方々からも、資金確保の早期着手、費用負担の考え方とその周知の必要性について多くの意見が寄せられた。また、地域意見交換会においては、家庭や職場などでの電気の利用について消費者が廃棄物の発生を意識しにくいことから、国民への周知に工夫することが重要であるとの意見が出された。

3.実施主体

 国と電気事業者は、処分事業を安全かつ確実に実施することができ、国民から信頼される実施主体を早期に設立することが必要である。国は、原子力行政を担っているところから、円滑な処分実施と安全確保のため実施主体を含めて立法措置などにより制度と体制の整備を行うとともに、実施主体の活動を監督し立地活動を含めたサイト選定のプロセスの中で適切な役割を果たすべきである。一方、電気事業者は、廃棄物の発生者として国民の理解を得るための活動を進め、立地についても多くの経験を有する立場から、資金の確保と処分地選定という、処分事業でもっとも重要な事項について実施主体と一体となって行うべきである。
 実施主体の設立に早急に着手するにあたり考慮すべき点は以下の通りである。

(1)実施主体の位置づけと役割
 実施主体は、国の廃棄物処分政策に沿って処分事業を遂行する者であることが明確に位置づけられることが必要である。
 実施主体は、処分事業を実際に行う主体として、処分を安全かつ着実に実施する。処分事業を行うにあたって実施主体は、確実に事業を推進する責任と安全に処分施設を管理する責任を負う。

(2)実施主体の備えるべき要件
 実施主体は、処分を安全に行うために技術的能力と経理的基盤を十分に備えることが重要である。さらに、事業が長期にわたるため、長期安定性が必要であるが、他方で事態の変化に対応した組織として機動性、柔軟性が要求される。これらを備えたうえで、実施主体は国民から信頼されるものであることが必要である。

  ①処分の実施能力
  (a)技術的能力
処分を実際に行うことができる技術的能力を持つことが必要である。そのためには、サイティング、調査、設計のみならず安全性を含め総合的に処分技術を熟知した技術者の確保が必要である。

  (b)経理的基盤
 処分事業に必要な資金が確保され、必要な時点に円滑に支出できるような仕組みが整備されることが必要である。

  (c)運営・管理能力
 処分事業が安全かつ確実に行われ国民から信頼されるためには事業の運営・管理が適切に行われることが必要である。このためには、内部でのチェック機能が十分働くと同時に、外部(第三者)からのチェックが可能であるような実施主体の組織や体制を整備することが必要である。また、組織や体制のあり方について適宜見直しを行い、その結果に応じて迅速に対応出来ることが必要である。

  ②長期安定性、柔軟性
  (a)長期安定性
 処分事業は長期にわたるため、その間、実施主体が存続できることが必要である。実施主体の長期に安定して存続するためには、経理的基盤の確立と解散に対する歯止めが必要である。実施主体の形態が国に近いものであれば長期安定性は増すが、民間に近い形態であっても、解散について立法措置により歯止めをかけることは可能である。

  (b)柔軟性
 処分事業は長期間にわたることから、事態の変化に柔軟かつ機動的に対応出来ることが必要である。一定期間ごとに見直しを行うことを規定しておくことによってある程度の柔軟性を確保することは可能であるが、法令や予算などによる制約が少ない方が、柔軟性の点からは優れていると考えられる。

 

  ③信頼性と安全性の確保
 処分事業は経済性・効率性を考慮して運営されることが重要であるが、最も重視しなければならないのは国民にとっての信頼性と安全性の確保である。

(3)実施主体のあり方
 実施主体のあり方を考える場合に、処分事業を国の事業と捉えるか民間の事業と捉えるかという問題がある。
 廃棄物処分はエネルギー政策に関する国民全体の問題であり、国が直接事業を行うことが適当であるという考え方がある。国が直接事業を行うことにより信頼性や長期安定性を確保することができ、事業資金の裏付けも確実であり、処分場の立地においても円滑に進めることができるという考え方もある。しかし、この場合発生者負担の原則が不明瞭になり、また国が事業の実施と監督をともに行うという問題点がある。また、実施主体の技術者集団が公務員として国の中に組み入れてしまうと民間との技術交流に支障が出るのではないかとの懸念もある。
 一方で、発生者負担の原則から民間の事業として行い、国は事業の監督・援助を行うことが適当との考え方がある。民間の事業とした場合、国は外部から監督を行うことからその効果は高い。また、経済性・効率性や柔軟性・機動性に優れているという長所があり、処分事業者としての明確な位置づけや長期安定性については立法措置などにより補うことができる。
 処分事業の主体を考えるさいに重視すべきは発生者負担の原則と安全性の確保である。このため、上記2つの考え方をあわせて考えると、実施主体のあり方としては国が直接事業を行うのではなく民間を主体とした事業とし、国は廃棄物処分政策を担っているところから、立法措置など制度の整備を行い、事業に対して法律と行政による監督と安全規制が行われることが適当である。
 なお、実施主体のあり方については、国民の方々から、国の事業とする意見や発生者である電気事業者が事業を行うとする意見など様々な意見が寄せられた。この報告書では、上に述べたように、国が直接事業を行うのではなく民間を主体とした事業とするとの基本的な考え方を示すこととし、実施主体の具体的な形態については、今後検討されるべきと考える。

4.諸制度の整備

 国は上に述べた、資金、実施主体に関連する制度に加えて、次の項目についてもあわせて制度の整備を図るべきである。

(1)処分地の選定を含めた事業終了までのプロセス策定
 処分事業のプロセスについて、社会的に合意を得られるような透明性の高い制度を策定することが必要である。特に処分地の選定プロセスについては後に述べるが、このようなプロセス・手続きは法律などによって国民の前に明らかにされていることが重要である。

(2)処分場閉鎖終了前後の管理のあり方
 国民および地域住民の安心感の確保のために、処分場の閉鎖終了前後の管理のあり方についても次の点を明らかにしておくことが重要である。
  ①処分坑道埋め戻し後、主坑の埋め戻し(処分場の閉鎖)までの期間の設定
処分場の操業が終了し処分坑道が埋め戻された後も、主坑を一定期間閉鎖せずに維持しておくなどの措置が必要という考え方がある。例えば、アメリカでは現在50年から100年の間主坑を閉鎖しないこととされている。主坑を埋め戻さずに維持するのは、処分された廃棄物が予測通りの動静を示すのかどうかモニターするとともに、万一の事故のさいの廃棄物の回収などの対応が容易であるという点で、周辺住民の「安心感」が増大するという考え方によるものである。他方で、長期にわたり主坑を埋め戻さずに維持しておく場合には主坑の構造を強化しておく必要があるため、建設・維持・管理のコストが増加し、これに対する手当てをしておく必要が生ずるだけでなく、長期間主坑が残されることの地質環境への影響について技術的な配慮が必要となる。このように主坑の埋め戻しまでの期間については安全と安心のバランスを考慮して検討することが必要である。

  ②処分場の閉鎖終了後の管理、モニタリングの方法、期間
 技術的には不要という考え方があるが、国民の安心を得るためには、処分場の閉鎖終了後も一定期間の管理体制を維持することも検討しておく必要がある。例えば、モニタリングを継続し、一定期間ごとにチェック・アンド・レビューを行い、その結果に応じて管理の方法を変えるという考え方もある。

(3)処分場地下空間の利用制限とそれを担保するための手段
 人間活動による廃棄物への接近を防止するため、法律に基づく処分場地下空間の利用制限を検討することが必要である。また、処分についての記録の永続的な保存の方法と制度について検討することが必要である。
 なお、処分場の地上部分は安全が確保されているため、実施主体の本部および地域共生施設なども含めた地上利用を検討する必要がある。

(4)損害賠償制度の確立
 危険物管理責任に基づいた損害賠償責任とその履行について明確にしておく必要がある。処分事業は、従来の原子力事業と異なり、埋設事業の終了後も長期にわたって放射能が残留しているので、万一の事故に対する損害の賠償が実施主体がたとえ存続しなくなった場合であっても、必ずなされるよう制度を整えておくことが必要である。

(5)安全基準の策定
 処分場建設・操業計画の安全審査を行うさいの安全基準の策定に向けて、安全確保の基本的考え方とその体制を策定しておくことが必要である。かかる基本的考え方が策定されることが国民の理解と信頼を得るとともに、処分地の選定を円滑に進めるためにも重要であり、策定にむけて早急に取り組む必要がある。安全基準の策定にさいし、単に技術的な観点からだけではなく、安全性に対する社会の考え方についても十分考慮することが必要である。

5.長期性への対応

 高レベル放射性廃棄物地層処分の長期性に関連して、社会経済的状況の変化に応じて柔軟に対応できるようにしておくことが重要である。
 そのため、制度の整備にあたっては、一定期間ごとの見直しを規定しておくことも検討する必要がある。また、現世代が全て今の時点で決定してしまうのではなく、後世代が、その世代における諸条件の下で一定の決定をする余地を残しておく枠組みを設けておくことも重要である。そのさい、意思決定およびコスト負担を後世代とどのように分担すべきか、現世代のうちに意思決定を行っておく必要がある事項について具体的に議論を進めていくことが求められる。
 具体的には、処分場の選定、処分場の建設開始、埋設の開始、処分坑道の埋め戻し、主坑の埋め戻し、閉鎖(主坑の埋め戻し)終了後の管理の期間、実施主体の存続期間などといった事項について、現世代のうちに決めておくべきかどうかを決定することになる。
 例えば、現在の技術水準によれば処分場の閉鎖終了後の管理は不要であろうと評価されているが、現世代では処分場の閉鎖(主坑の埋め戻し)終了までのコストを負担することとし、実際に主坑の埋め戻しを行うか、それともそのままの状態でなおも管理を続 けるかどうかを、その時点での技術的な水準に照らして、その時点の世代に判断を委ねるとの考え方も可能である。このような場合には、処分場建設時点で、操業終了後も主坑を長期に維持できるように強度を高めておくなどの長期維持性能をおり込んでおく必要がある。
 また、将来、実施主体が解散した場合でも、万一の場合に対する損害賠償責任が継続される必要があるが、現世代がどこまで賠償の原資を負担すべきかを検討しておく必要がある。

第三章 立地地域との共生

 ここでは、処分場を立地するにあたって、立地地域の住民の理解を得るためにどのような観点から考えるべきかについて、処分事業と立地地域との共生という考え方を中心に検討する。国民の方々から、共生の考え方が重要であるという意見の一方で、廃棄物との共生は不可能であるという意見など様々な意見が寄せられた。これらの意見を踏まえると、処分事業により便益を受ける電力消費者一般が、廃棄物処分を自らの問題と捉え、参加意識を持ち、立地地域に対する理解を深めることなしには処分事業が円滑に進むことは困難である。このように、立地地域と処分事業との共生、立地地域と電力大消費地などその他地域との共生と連帯をいかに図っていくかが今後の取り組みにあたって重要である。

1.基本的考え方

(1)処分事業と立地地域との共生の考え方
 実施主体が行う処分事業は、地域における住民、自然環境、産業との調和ある持続可能な共生関係を築き、あわせて地域が自立的に発展し、住民の生活水準の向上や地域の活性化につながるものでなければならない。
 このような共生関係を考えるにあたって、まず、立地地域の主体性を尊重しなければならない。共生の方策は立地地域に対して押しつけたり一方的に与えるものであってはならず、地域の持っているビジョンやニーズに応じて、地域の特性を活かした方策を地域が主体となって企画・選択する仕組みをつくることが必要である。
 このような方策は、地域にとって一時的に利益となるようなものではなく、自立的に地域の発展に貢献することが重要であり、固定的でない幅広い政策手段を考える必要がある。
 地域住民との共生のためには、事業実施にあたって地域住民の意見が反映されることが不可欠である。また、実施主体と地域住民との人的交流が重要であり、とりわけ、実施主体による地域住民の雇用は、実施主体と地域の一体感を深めるために重要である。地域産業との共生のためには、立地に伴い地域産業が活性化され、処分場の施設を利用した、例えば、処分場の施設と連携した産業の育成が図られるような事業を考 えることも重要である。また、処分事業の特性である長期性や広いスペースを活かして、地域の自然環境に合った持続可能な事業を考えることも重要である。


(参考)「共生」について
  ○
『この環境基本計画は、…人間が多様な自然・生物と共に生きることができるよう、…「循環」、「共生」、 「参加」及び「国際的取組」が実現される社会を構築することを長期的な目標として掲げた上で…』
(「環境基本計画」(平成6年12月)前文)
  ○【共生】
 『大気、水、土壌及び多様な生物等と人間の営みとの相互作用により形成される環境の特性に応じて、か けがえのない貴重な自然の保全、二次的自然の維持管理、自然的環境の回復及び野生生物の保護管理等、 保護あるいは整備等の形で環境に適切に働きかけ、その賢明な利用を図るとともに、様々な自然とのふれ あいの場や機会の確保を図るなど自然と人との間に豊かな交流を保つことによって、健全な生態系を維持 ・回復し、自然と人間の共生を確保する。』
(「環境基本計画」長期的な目標)

(2)共生施設としての位置づけ
 高レベル放射性廃棄物処分場は、地域住民にとっては迷惑な施設としてとらえられることが考えられる。この点について、処分事業の安全性を確保することはいうまでもないが、事業の実施と地域の生活が共生関係に立つことによって、地域住民にとって受け入れ易いものになることが望まれる。処分事業を進めるにあたっては、そのような観点に立って地域との共生を常に追求していく必要がある。

(3)立地地域と電力大消費地などその他の地域との連帯
 立地地域とその他の地域との社会経済的公平を確保するために、まず立地地域以外の人々が、処分事業を自分たちの問題であると認識することが重要である。そのため、双方の地域が様々な手段で直接的な交流を進め、相互に理解を深めることが重要である。なお、地域意見交換会でも、同様の趣旨で、電力大消費地の人々が、立地地域の人々に対する理解を深めることが重要である旨、繰り返し意見が出された。

2.立地地域との共生に向けた取組み

 実施主体は、地域との共生を進める中核的機関として、立地地域に本拠を置き、地域住民の雇用や地域住民との交流を進める必要がある。また、共生方策を進めていく中で、地域住民の意見が十分に反映され参加意識を持てるよう地域住民が主体となって企画段階から参画する仕組みをつくることが重要である。
 国は、廃棄物処分政策を担っているところから、地域特性や長期性などの事業特性を考慮した多様な共生方策を有効に活用できる制度や体制の整備を図ることが必要である。また、事業内容によっては国の事業として行うことが適当である。
 電気事業者は、廃棄物の発生者として、地域共生方策の実施にあたって実施主体と一体となって総合的に取り組むことが必要である。

(1)地域の意向を反映した地域共生の取組み
 地域共生に向けた取組みの内容は、地域の意向を十分に反映し、地域の社会・経済的特性に応じたものでなければならない。そのためには、企画段階から地域住民が参加する場において、地域が主体となって共生方策の策定をすすめるなどの方法が考えられる。また、実施主体が提示するいくつかの計画案の中から関係地域の自治体が地元にとって最適と考えられるものを選択するという方法も考えられる。地域が主体となって共生方策を企画・選択していくうえで、国・実施主体・電気事業者などの関係機関が地域における人材育成支援やノウハウの提供などの側面支援を行うシステムを構築することも重要である。

(2)持続可能な地域共生の取組み
 処分事業が長期にわたるものであることから、共生方策は地域にとって一時的に利益となるようなものではなく、長期にわたって自立的に地域の発展に貢献するようなものであることが重要である。このため、共生方策がただハード施設を整備するだけに終わらないためにも、地域の特性や地域のビジョンに応じて固定的でなく多様な形態を検討することが必要である。例えば、調査研究、環境保全、地域振興などの事業を募集し、それに対して国や実施主体が支援を行うなど、調査研究や事業が持続し集積していくようなシステムをつくることも考えられる。
 また、地域の住民、自然環境、産業との共生という視点に立って全体的な構想を策定しておき、事業の各段階に応じて具体的方策を行うことが必要である。そのうえで、地域の社会・経済的変化に柔軟に対応するため、一定期間ごとに全体構想を見直すことができるようなシステムを整えることが重要と考えられる。
 また、処分場の埋め戻し以降の共生方策については、埋め戻し以降の管理のあり方とともに議論することが適当である。このため、現時点では処分場の埋め戻しまでの共生方策について議論することが適当である。

(参考)地域共生方策の例
 地域共生の具体的な方策はすでに述べたように地域が主体的に企画することが基本であるが、処分事業の長期性や広い地上部分のスペースなど事業の特性を活かした共生方策を策定することが重要であるとの観点から、懇談会の審議の過程で次のような地域共生方策が例として議論された。
・地上や地下空間を利用した研究・教育施設
・広い空間と自然環境を活かした周辺地域を含めた地域環境の保存・研究事業
・長期的な観測や情報の保存・伝達のための研究・教育施設
・先端技術・先端知識の研究・教育機関や企業など

第四章 処分地選定プロセス

 処分事業の中でも処分地の選定は特に重要である。ここでは、これに関する制度を整備するにあたって、国民および立地地域住民の理解と信頼を得るために、第一章「廃棄物処分について社会的な理解を得るために」、第二章「処分の技術と制度について」、第三章「立地地域との共生」で述べたことを踏まえて、基本的考え方およびこれに基づく選定プロセスの案を示す。

1.基本的考え方

 処分地選定プロセスに関する制度を整備するうえでの基本的考え方は以下の通りである。

(1)選定プロセスの明確化
 処分事業のプロセスを明確にすることによって、少なくとも100年にわたって行われるであろう処分事業が、今後どのように行われていくのかについての見通しを示しておく必要がある。このため、実施主体が処分地の選定を進め、国と電気事業者など関係する機関が必要な役割を果たしていくにあたり、処分地選定のプロセスと役割を法律などによって明確化しておくこととする。そのさいには情報公開や環境アセスメントに関する法令との整合性に配慮する必要がある。
 また、国は処分地の立地と施設の安全性について、安全確保の基本的考え方をあらかじめ策定することとする。

(2)関係機関の役割
 実際に処分地の選定を進めるにあたり、実施主体だけで行うことは立地地域住民の理解と信頼を得るには不十分と考えられる。
 そこで、国は、実施主体が国の廃棄物政策に沿って処分事業を遂行する者であることを明確に位置づけ、処分地の選定に関する制度を整え、廃棄物政策について理解を得るための活動を展開したり地域共生方策に関する制度や体制の整備を図るなど、選定プロセスの中で適切な役割を果たすべきである。
 また、電気事業者は廃棄物の発生者として国民の理解を得るための活動を進め、立地について多くの経験を有する立場から、処分地の選定を実施主体と一体となって行うべきである。
 このように処分地の選定にあたっては、実施主体、国、電気事業者が協力して進めるべきである
。  なお、国民の方々からは、国の積極的な役割を期待する意見の一方で中立的であるべきとの意見、電気事業者の発生者としての自覚を促すなどの意見も寄せられた。

(3)選定プロセスの透明性確保と情報公開
 処分事業の各段階において情報公開を徹底し、透明性を確保することは、処分への不安を少なくし信頼を得るために不可欠である。このため、処分地選定プロセスについて制度的に外部からチェックできる仕組みを設けることが考えられる。

(4)関係自治体や関係住民の意見の反映
 情報公開や透明性を確保するとともに、処分地の選定を行っていくうえで、関係自治体や関係住民の意見の反映に努め、立地地域の理解と信頼を得ることが重要であり、そのための仕組みを整えておくことが必要である。なお、国民の方々から、関係自治体や住民の意見の反映の仕組みを検討するにあたって、地域住民や議会などによる具体的な対応について多くの意見が寄せられた。

  ①自治体の役割
 処分事業を行っていくうえで、自治体の協力を得ることは不可欠である。また、都道府県と市町村の役割は異なるものの、自治体は、地域の特性や住民の要望など広汎な情報を有するとともに、地域住民への情報の提供や意見の聴取についてさまざまな仕組みを有することから、選定プロセスを含め処分事業の各段階で有効な役割が期待される。

  ②住民の意見
 処分事業の各段階について、住民の意見を十分に聞き反映させていくことが重要である。住民の意見を聞くにあたっては、自治体を通じてなされることに加えて、広く住民の参加する公聴会や公開ヒアリングなどの方法が考えられる。

(5)国・地域レベルでの検討・調整の機能
 国レベルでは、処分事業の進行に応じて各段階でチェックする機能が重要となる。まず、国は、実施主体による処分地の選定過程や活動を監督するとともに、技術面については、処分の安全性の観点から見た妥当性について各段階で検討する制度と体制を整えるべきである。さらに、これらについて公正な第三者がレビューを行うことが考えられる。地域レベルでは、実施主体と地域住民など関係者間で生じる様々な課題について、当事者が参加して検討する場を設けることが重要である。さらに、権威ある第三者を交えて総合的に話し合う場を設けることが考えられる。なお、処分地選定の問題は重要な政策課題であることから、一層積極的な国の取組みを考えるべきである。
 このような検討にあたり、海外の例も参考にすべきである。例えば、フランスでは地下研究施設の建設にあたり、政府、実施主体、国会議員、自治体議員、職業団体、環境保護団体、住民などによって構成される地域情報監視委員会(CLI)を設置することとされている。CLIは実施主体と地元住民の間での情報の仲立ちとなり、地域に影響するような問題について討議を行う。また、カナダでは地下研究所サイトで事業者と自治体と地域住民などによってコミュニティ対応委員会(CLC)が構成され、情報の交換と検討を行っている。また、フランスでは1992年に放射性廃棄物交渉官が首相の下に設置され、地下研究所の立地候補地点の自治体や住民との協議を行い、政府に対して補助金の交付の勧告を行うなどの活動を行っている。また、スウェーデンでは政府、実施主体、関係自治体の間で、サイト選定活動に関わるさまざまな活動や情報を調整・整備するため1996年に放射性廃棄物処分調整官が環境・天然資源省に設置されている。

2.処分地選定プロセスと留意点

 処分地選定に関する制度を整備するうえで、(1)に示す選定プロセスが一案として考えられるが、それぞれの段階で留意すべきおもな点を(2)~(5)に示した。

(1)処分地選定プロセス
  ①処分候補地の選定
 実施主体は、処分予定地選定に必要な予備的調査を行うため、処分候補地を選定する。このため、個別の処分候補地選定プロセスに入る前に、あらかじめ処分事業の全体構想、処分地の立地および処分施設にかかる安全確保の基本的考え方、実施主体と国の地域共生方策などを作成し公表しておく。実施主体は、これに基づいて地元から誘致のあった地点の中から処分候補地を選定する(公募方式)とともに、処分候補地として適切であると判断する地点について地元に申し入れること(申入方式)も考えておく必要がある。

  ②処分予定地の選定
 実施主体は、処分候補地が選定された後これについて予備的調査を行い、この結果に基づいて適切と判断した場合には、処分予定地として選定する。処分予定地では詳細な調査(サイト特性調査)を行う。

  ③処分地の選定
 実施主体は、サイト特性調査の結果に基づき、適切と判断すれば処分地として選定する。処分地の選定後、実施主体は処分場の設計を行うとともに処分に係る事業申請を国に行い、国の安全審査が始まることとなる。

(2)国の確認と第三者による検討
 国は、選定の各段階において、事業計画や選定過程の妥当性などについて、技術的観点および社会的・経済的観点から確認する。そのさい、公正な第三者によるレビューの仕組みを考えておく必要がある。

(3)関係自治体や関係住民の意見の聴取と反映
 選定の各段階において地元の意見を反映するため、関係自治体および関係住民の意見を聞く機会を設けることとする。また、実施主体や関係住民など当事者が参加して検討する場を設けることが重要である。

(4)安全確保の基本的考え方の明示
 国は、あらかじめ処分地の立地および処分施設について安全確保の基本的考え方を作成し、これを明らかにしておくことが必要である。その作成にあたっては外部の意見や評価を反映する必要がある。

(5)情報の開示
 地元が、誘致について検討し、また実施主体からの申し入れへの対応を検討するにあたっては、検討材料として十分な情報が必要であり専門的な知識が必要になることも考えられる。このため自治体や住民に、処分事業でいつ何が行われるのかという事業の全体構想、安全確保の基本的考え方、実施主体および国の地域共生方策などについて十分な情報を的確に伝えることができるような体制を整備することが重要である。

さいごに -いま、何をしなければならないか-

 高レベル放射性廃棄物処分を進めていくうえで必要なことは、廃棄物処分の安全性が確保され、透明性ある制度が作られ責任体制が明らかにされることであり、処分事業に対する国民および地域住民の理解を得ることである。そのためには、国民各層の間でこの問題についての議論が行われ、一人一人が自らの身に迫った問題であるという意識を持つことが望まれる。
 国、電気事業者、実施主体などの関係機関は、それぞれの役割を果たすと同時に、上にあげた点について国民の各層において議論が行われるよう努める必要がある。  事業資金の確保については、今年から、処分の合理的な費用の見積もり、資金確保の所要の制度整備について検討が行われる。実施主体については2000年目途の設立に向けて早急に所要の準備に着手すべきであり、処分に関する安全確保の基本的考え方の策定に向けて、早急に取り組む必要がある。また、諸外国では深地層の研究施設やその研究成果を公開することによって一般の人々の理解を得るように努めている。わが国において、研究開発を進めるとともに国民の理解と信頼を得ていくためには、このような施設を早急に実現しその施設や研究成果を広く公開していくことが必要である。こうした取組みにあたり、長期的な観点から、技術の飛躍的進歩や社会・経済の変化に、できるだけ柔軟に対応できるようにしておくことが必要である。
 他方、原子力発電に伴う高レベル放射性廃棄物処分の問題については、政治の場においても現世代の意思を立法の形で明らかにすることが必要である。そのためにも、国民の各層における議論が十分に行われ、国民の理解と信頼を得るための努力がなされなければならない。
 今後、本懇談会の提言を踏まえて、関係機関が一体となって処分の制度と体制の具体的な整備に取り組むべきである。