第4回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)

1.日時     平成10年9月30日(水)
         午後14:30~17:00

2.場所     科学技術庁 第1・第2会議室

3.出席者(敬称略)
  原子力委員  遠藤
  専門委員   谷川、阿久津、下山、住田、殿塚、鳥井、能見、能澤、廣江、廣部、山嵜
  科学技術庁原子力局
         坂田政策課長、深瀬課長補佐、他担当官
  その他    外務省総合外交政策局科学原子力課 藤原補佐
         通産省資源エネルギー庁原子力産業課 田尻専門職

4.議題
 (1) 前回議事要旨の確認
 (2) 除斥期間について
 (3) 原子力損害(予防措置費用)について
 (4) 原子力損害の概念について
 (5) 新たに規定する賠償措置額の特例額について
 (6) 国際的条約への対応について
 (7) その他

5.配布資料
 3-7 除斥期間について
 4-1 第3回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)
 4-2 原子力損害(予防措置費用)について
 4-3 原子力損害の概念について
 4-4 新たに規定する賠償措置額の特例額について
 4-5 国際的条約への対応について
 (参考)資料集(専門部会委員のみ配布)

6.議事概要
(1)前回議事要旨の確認
部会長より資料4-1の確認を求め、了解を得た。

(2)除斥期間について
事務局より資料3-7に基づき、説明があった後、部会長の次のとりまとめがあった。
(部会長)なぜ30年かについては、ドイツやスイスでは民法の一般則として30年という数字が存在するので、これを参考にしたものと考えられる。本件については、国際的水準に合わせ30年に改正する方向で努力するが、次期通常国会ですぐに改正するということではなく、指摘された問題点について一層の検討を進める必要がある。

(3)原子力損害(予防措置費用)について
事務局より資料4-2に基づき説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(遠藤)いわゆる風評損害についての解釈・裁判例はどうか。また、条約での解釈を問う。
(事務局)風評損害は原子力損害に該当しないと考えている。原電敦賀で放射能汚染の風評と魚の売上げの減少との間に相当因果関係なしとの平成元年名古屋高裁判決がある。
(能見)まず、風評をもたらす原因を作出したことに責任(過失)があって、かつ、それと風評から生ずる損害が相当因果関係のある限り、民法不法行為法の賠償の対象にはなる。ただ、原子力損害ではないので、原賠法の問題ではないと理解している。条約上も同様であると考える。
(遠藤)核物質輸送船が沈没して実害又は風評損害が生じるケースを想定して質問した。
(鳥井)もんじゅのように放射線は出ていないが、ナトリウムの影響による場合はどうか。
(事務局)放射線の特性による損害であることが必要である。
(鳥井)これからの原子力のあるべき姿からしてそれでいいのか。ナトリウム化合物による腐食であっても原子炉事故による被害に変わりはない。
(住田)法律の守備範囲の問題と関わってくると考える。原賠法が無限責任や国の援助を定めているのは、原子力事故の甚大性・晩発性に配慮したものであり、過剰避難・誤想避難は原子力の心理的影響に基づくもので、これは他の法律が受け持っていると整理すべきである。原賠法は放射線等による損害すべてにつき補償するとの姿勢は鮮明にしておきたい。
(能見)災対法で国や自治体がまず負担すると、原賠法に基づいて求償できるものか。
(事務局)法文上規定はないが、ありうるかと考える。
(部会長)求償できるかどうかは、原子力損害にあたるかどうかによろう。原賠法が分担すべき損害の範囲には、現行法の原子力損害の定義から読むのには工夫のいる部分もあり、避難費用を入れるにしてもどの範囲までにするか、例えばスイスやアメリカでは限界を明確にしている。現行法でカバーされているかというアプローチではなくて、原子力損害としてどういう概念で捉えれば妥当な守備範囲が決まるか、というアプローチをしながら、今後検討していくということも含めてこれでよいかということである。
(能見)予防措置費用の中のあるものについては、必ずしも条文上明確ではない。明確にして実際の裁判所の指針にするか、あるいは裁判所の解釈に任せるか、二つの選択肢がある。個人的には将来明確に書いたほうがよいと考えるが、裁判実務に詳しい方に聞きたい。
(山嵜)法律で範囲を明定すれば、裁判所もそれを参考にして認定することはあるだろう。しかしながら、伝統的な相当因果関係概念は若干異なるかもしれない。ここでの避難費用にはダメージという意味の不法行為の損害の他に、補償(コンペンセイション)的なものも入ってきている。後者を明定しても裁判所は限定的に判断するかもしれない。
(住田)解釈指針としての法律条文として損害概念を書ききれるかという立法技術的な問題もあろう。他法令や条約を参考に書ききれるなら、そのほうが法治国家として適切であろう。しかし書ききるのはかなり大変な作業である。個人的には以前にも述べたが、原賠法には原因しか書いてなく、損害概念については一般則に任せている。司法による運用を信頼したい。ただし、原子力損害にはわけのわからないものも入りうるし、法律家にはわからない分野ゆえ、一般的にはどういうものが入りうるかというコンメンタール的なものを作って裁判所の用に供しておき、裁判等である程度煮詰まってきたら法律事項であげられるものが出てくるかもしれない。また、支払基準的なものも必要ではないか。
(部会長)10年待たずに書けるなら、法改正することを含んでの検討であると理解する。
(下山)実際に損害が起こったときの分配の仕方を決めておく、あるいは決める機関を設けておくことも必要ではないか。あらかじめ内容を決めるのは無理でも手続、システムを作ることに意味はある。資料で抜けているのは、スリーマイルのように放射性物質が出るか出ないかわからないケースである。
(部会長)重要な点は、被曝等を受ける恐れを与えたことを含むとしたことである。
 この点については、現行の法体系によって救済されうるが、避難費用については今後別のアプローチからも検討を進めてもらうこととする。

(4)原子力損害の概念について
事務局より資料4-3に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(部会長)船主責任制限法の中で人の損害を物の損害に優先している。油濁法は人の損害は念頭にないので、そういう区分をしていない。
(山嵜)原賠法は民法不法行為法の特別法ゆえ、原子力損害は限定されると思う。問題は、原子力損害でないコストが周辺にかかったときに補償するかどうかである。
(部会長)それは原賠法の射程外ゆえ、ここでの議論ではないと考える。
(鳥井)賠償措置額は賠償しなければならない額と関係ない数字ゆえ、賠償措置額の分け方を議論しても無意味である。
(能見)勿論賠償措置額は賠償額とは別だが、事故が起きたとき、まず最初に賠償措置額から被害者救済に充てられるが、これは有限ゆえ、緊急度の高い人身損害を優先すべきではないか。
(鳥井)そうであれば賠償措置額は想定される最大事故の規模に比例すべきである。例えば核燃料のインベントリィの量に比例させる等。
(部会長)炉の大きさ・発電量と損害額は直接関係ない。事故の状況等により異なる。1サイト内に複数原子炉があるところもある。
(鳥井)炉の大きさと事故の大きさがいつも比例しているとはいわないが、炉の中に核燃料物質が多いほど最大想定事故の規模は大きいはずである。
(下山)米国のWASH740という資料に基づき日本でも法制定時に一応調査したが、事故の際に出る放射性物質の量は出力だけで決まるのではなく、運転時間や出た後の外部の状況により幅が極めて大きい。賠償措置額はそれだけをメルクマールに決めるのでなく、基本的には利用可能な保険の額をベースとして、例えば、アメリカでは国家補償を上乗せしていた。従って、原子炉の出力とは直接結びついていない。
(鳥井)今でも最大被害想定の議論がまかり通っている。
(能澤)炉を大きくするほど防護措置も大きいものをつけるようになった。アメリカでECCSに疑問が出され、日本でも安全性研究が始まった。炉を大きくすればインベントリィも大きくなるが、費用をかけて安全性を追求している。アクシデント・マネージメントも取り入れており、大きさに応じて十分措置されていると考える。軽水炉では苛酷事故(シビアー・アクシデント)になると、適切な管理が維持できないおそれがある。
(能見)賠償措置額が原子炉施設の規模に応じて変わるべきだということと、万一の場合に賠償措置額が全損害を賠償するのに足りなくなったときにどうするかは別問題ではないか。足りなくなったときには賠償措置額の分配の問題が出てくる。
(部会長)ここで考えている配当順位というのは、特に人の損害については晩発性を考慮して一定の枠をリザーブしておくべきではないかという程度のことを考えている。有限のものを分けて使うには配慮が必要ではないかという立論からくる主張である。
(鳥井)普通の人が聞くと出力が100倍以上違うのに用意してあるお金が同じというのはわかりにくく、地域住民には説明できない。
(殿塚)発電所の規模が大きいほど、起こりうる事故も大きいというのは理解しがたい。それは100人乗りの飛行機と500人乗りの飛行機とを考えたとき、共に落ちれば500人乗りのほうが被害は大きい。しかし、500人乗りは100人乗り以上に安全に配慮している。確率的に500人乗りのほうが損害が大きいとはいえない。原子力発電所も同様である。
(能見)賠償措置額は保険のキャパシティの最大のところで決まっている、という点から説明するしかないであろう。
(部会長)本件は資料の通り、今後の検討課題としておきたい。

(5)新たに規定する賠償措置額の特例額について
事務局より資料4-4に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(遠藤)将来核融合炉が廃炉になることもあり、法改正も必要となるのではないか。
(部会長)それは今回の改正事項ではないと理解するが、今後生じうる問題は原子炉等規制法その他の法改正、あるいは事態の進展に合わせ、適宜対応していくこととしたい。

(6)国際的条約への対応について
事務局より資料4-5に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(遠藤)この結論には反対である。日本が被害者になるときの加害者はおそらく近隣アジア諸国あるいは極東ロシアである。そういう国と一緒に入ろうとなぜいえないのか。確かに先方が入らない以上日本だけ入っても意味はないが、まずともに入ろうという大前提でいって、それが難しいのなら過渡的な措置を考えるべきである。中国、北朝鮮では計画中の原子力発電所があり、事故が起こってからでは遅い。
(下山)過去のスタンスについては、資料の1.③が主たる理由で①②は法技術的な問題。ウィーン条約はミニマムスタンダードで、しかも最近までは5、6ヶ国しか入っていなかった。しかし状況が変わり、東欧が改正条約に入るべく、その前提としてそろってウィーン条約に入った。非原発国も関心を持ち始め、入る動きがあり、広がりが出てきている。中国では国内法から作ろうとしたが、そのような法律が必要なのは実際に事故があるからかといわれてとん挫している。東欧のように、条約に入ることで国内法制定が進む面がある。アジア各国の場合には、いきなり条約に入らせるのはなかなか難しいのであって、むしろ日本としてはまず国内法を作らせるよう、あらゆる機会を通じ、主体的に働きかければよい。「メリット」の有無というのは受け身でよくない。アジア最大の原発国としての責務を積極的に謳うべきである。
(廣部)国際法の立場から、我が国原賠法の改正自体、国際的水準を前向きに取り入れようとしている。加入の問題は別としても、パリ条約の改正も控えており、国際的な動向に敏感であるべきである。東欧では条約加入、国内法制定も進み、あとはアジアだけともいえる状況である。まず自らが入らなければ促しようがない。国際的な制度を選択するときは、メリット・デメリットだけではなく、総合的に考えるべきである。
(下山)原子力損害に対する補足的な補償に関する条約にもふれるべきである。
(部会長)国際輸送の円滑化からは、むしろ補足条約に入ったほうが効果がある。
(能澤)条約加入のコストはどうか。
(下山)補足条約のコストは国連分担金負担率と原子力設備容量によって資金を出す。ただ発効はわからないが、言及しておくべきである。
(部会長)この問題は本専門部会で扱うべき問題ではないが、より前向きに書き換える方向で、ふれておかれたい。

(7)その他
主に次の質疑応答があった。
(部会長)第2回専門部会で国際情勢等を勘案すると、賠償措置額は600億円が適当ではないかとの話があったが、保険側からは損害の内容についての議論を踏まえた上で最終的な判断をするとのことであったので、ここで確認したい。
(廣江)今回までに論議された原子力損害についての担保の範囲であれば、てん補限度額600億円までの賠償責任額の引受けは可能である。
(部会長)それでは賠償措置額は600億円としたい。なお、炉の出力等で段階をさらに設けるべきとの意見もあったが、今回は600億円とする。
 最後に、その他の事項で議論すべき事項、ご意見等あれば伺いたい。
(殿塚)保険料等について意見を述べる。民間保険契約については保険プールと交渉しているが、政府補償契約については一万分の五という料率になっており、据え置きとなると賠償措置額の倍増に伴い補償料も二倍となる。これまで保険を適用するようなことがなかった実績等、諸条件を勘案して補償料を考えてほしい。民間保険契約、政府補償契約ともそのような立場で臨みたい。
(部会長)民間保険については当事者間での交渉問題であろう。
(事務局)政府補償契約としては、保険で引き受けられない極めて特殊なものを扱っており、民間保険のようにリスク等も勘案して調整できるようなものでなく、定率となっている。民間保険とは性格が異なることをご理解いただきたい。
(殿塚)そうだとしても、単純に倍増するのは合理的ではないと考えているので、別途議論させていただきたい。
(政策課長)御指摘の点は承知したので、相談させていただく。
(遠藤)第一点は、免責事由に社会的動乱があるが、いわゆるテロ行為は該当するのか。第二点は、核物質を輸送中公海上で沈没して実害が生じた場合に、原賠法の適用はどうなるのか、核物質の所有者又は船籍との関係で知りたい。
(事務局)局地的な暴動や蜂起は社会的動乱にはあたらないと考えている。ただ最近のテロについては、大規模化・高度化・組織化する性格のものがある。異常に巨大な天災地変との並びで書かれていることから、事業者側に責任を負わせることが適切かどうかもあわせて考えると、極めて高度な兵器で事業者が予防措置を講じることを期待しえないようなケースでは、免責事由にあたることもあるかもしれない。
(部会長)二番目は難しい問題。管轄裁判所・適用法によりさまざまなケースが起こる。本件は別な場で詰めたい。
 実質的な議論は以上で終了し、次回はこれを踏まえて事務局作成の報告書案についてご検討いただくこととしたい。

次回を10月8日(木)10時から科技庁第7会議室にてと決定し、閉会した。

以 上