国際的条約への対応について

 

1.我が国の国際的条約に対する従来のスタンスと状況の変化
 従来、我が国が国際的条約(パリ条約及びウィーン条約)に加盟してこなかった理由として、主として以下のものが挙げられてきた。
 @
国際的条約が有限責任を前提としている一方で、我が国が無限責任制度を採用していることによる法的不整合の問題点があること
 A
国際的条約での除斥期間が原則10年である一方、我が国の除斥期間が20年であることにより、我が国が不利に扱われるおそれがあること
 B
パリ条約については、締約国と我が国との地理的距離関係から原子力損害を受けあるいは与えるおそれが低いこと、ウィーン条約については、中国、韓国等の近隣アジア原子力国が締約国ではなく我が国が条約に加盟するメリットが無いこと、等の実態的理由

 しかしながら、@及びAの点については、ウィーン条約改正議定書が採択された後、以下のとおり状況が変化している。
 @
ウィーン条約改正議定書上、無限責任国も法的整合性の面で問題なく加入できるような制度となったこと
 A
ウィーン条約改正議定書における除斥期間については、死亡又は身体障害について30年と改正されたこと

2.アジア諸国における損害賠償制度等の整備状況
 国際的条約の意義は、原子力事故については、万一生じた場合に被害が極めて大規模なものとなるおそれが高く、国境を越えて損害が発生する可能性も高いことから、このような場合に迅速かつ確実に被害者の救済を行うこととするため、地理的にまとまった国においてできる限り整合性ある制度を整備するようにする等の点にあると考えられる。
 我が国として国際的条約に加入するべきか否かを検討するに当たっては、特に近隣アジア諸国における原子力開発利用状況及び原子力損害賠償制度の整備状況を十分に勘案する必要があろう。

(1)近隣アジア諸国における原子力開発利用状況

 原子力開発利用状況原賠法
の有無
事業者
の責任
賠償措置額
中 国運転中3(226.8万kw)
建設中3、計画中9
×──────
韓 国運転中12(1031.6万kw)
建設中6、計画中2
無限60億ウォン
(約6億円)
台 湾運転中6(514.4万kw)
計画中2
有限42億台湾元
(約168億円)
オーストラリア研究炉2×──────
インドネシア研究炉3有限9000億ルピア
(約116億円)
マレーシア研究炉1有限5000万リンギット
(約17億円)
タ イ研究炉1×──────
ウ゛ェトナム研究炉1×──────
フィリピン発電所1(閉鎖),研究炉1
(休止)
有限500万US$相当
(注)・9/1時点での換算
   ・フィリピンはウィーン条約に加盟。

 近隣アジア諸国における原子力開発利用状況及び原子力損害賠償制度の整備状況は上記のとおりである。
 世界人口の増加、生活水準の向上等により、今後ともアジア、アフリカ地域を中心としてエネルギー需要が増大することが予想されている。
 アジア地域全体の原子力発電の見通しとしては、中国など北東アジアを中心として伸びが著しく、2010年における発電規模は日本を除いて50GW(5,000万kw)を超えるものと予想されている。また、この期間の新規原子力発電所の建設を見ると、世界全体の約1/3は日本を除くアジア地域での立地になると考えられる。(参考参照)

3.国際的条約への対応の方向
(1)
我が国周辺アジア諸国において、万一原子力事故が発生して国境を超えて我が国に損害が生じた場合における被害者の迅速かつ確実な救済の必要性を考えると、我が国の向かうべき基本的方向としては、国際的条約又は何らかの地域的な損害賠償制度の枠組みへの加入は望ましいものと考えられるし、むしろ、原子力先進国たる我が国が主導的立場に立ってアジア諸国を牽引して国際的条約への加入を促していくという態度が求められる。
 我が国にとっても、核燃料物質及び放射性廃棄物の国際輸送を行うに当たって、輸送がより円滑化されるという面も考えられるし、原子力産業にとってのメリットも考えられる。

(2)
しかしながら、上記のとおり近隣アジア諸国の現状を見ると、国際的条約に加入できるだけの十分な賠償措置額等の制度を用意している国は少なく、中国に至っては法制度の整備すらなされていない状況にあり、こうした状況下では、我が国が国際的条約に加入することによってメリットを受けるには十分に熟していない。また、今後アジア諸国は国際的条約への加入ではなく、地域的な原賠制度のスキームを構築する方向を目指すこともありうることを視野に入れると慎重に対応する必要があるとも考えられる。

(3)
むしろ我が国としてまず行うべきは、各国に対して安全確保のための基盤整備や制度の確立等を主導的に行っていくことであると考えられる。具体的には「アジア地域原子力協力国際会議」や「アジア原子力安全会議」等の地域的な枠組みを活用して、今後とも積極的な協力、情報交換を行っていくことが肝要である。
 その上で、各国の制度の整備状況を踏まえて、国際条約への加入あるいは別の形での地域的な枠組みの策定等アジア諸国がお互いに共有することのできるスキームを模索していくという方向性が望ましいのではないかと考えられる。