1.問題の所在
原賠法第2条第2項では、原子力損害を定義しているものの、損害自体の種類による分類をしていない。そのため、次のような損害が賠償の対象となるのかという点、またそこから派生する問題点について検討した。
(1)ウィーン条約改正議定書で明記された環境損害の原状回復費用
(2)精神的苦痛、ストレス等の精神的損害(慰謝料を含む)
2.原賠法の考え方
現行原賠法では、放射線等の作用により生じた損害、すなわち放射線等の作用と相当因果関係のある損害を原子力損害を定義しているのみである。損害の種類について規定はなく、この点については民法の一般原則の考え方に従うこととなり、上記の損害も原子力損害となりうるので、特段の規定の新設は不要である。ただし、その範囲及び額については、相当因果関係及び社会通念上相当なものという合理的な制限がなされるものと考えられる。
3.原子力損害の中での位置づけ
以上のように、原子力損害といってもその中には、生命侵害・身体障害のような人身損害と、それ以外の損害とが混在している。
そこで、よりきめ細かな救済立法を目指すという観点からは、原子力事業者の賠償責任は無限責任ではあるものの、賠償措置額は有限であり、特に重要度が高いと思われる人身損害に対する賠償資金を優先的に確保しておく必要がないかが問題となる。
例えば、賠償措置額からの支払い方として、損害の種類によって弁済順位をつけ、一定の手続に沿って配当する規定を設けるようなことを想定した場合、以下のような点を考慮する必要があると思われる。
(1)無限責任制度との整合性
(2)迅速な被害者救済を目的とする賠償措置額の趣旨
(3)公平性・透明性の確保
しかしながら、現行無限責任であり、損害の範囲及び額は上記の通り具体的事例に応じて合理的に制限されることから、直ちに立法で手当てする必要があるとはいいがたいが、中長期的課題として、さまざまな損害の認定基準や弁済手続に関する支払基準を作成すること等も視野に入れて更に調査検討を行うことが適当である。