第3回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)

1.日時     平成10年9月11日(金)
         午前10:00〜12:00

2.場所     科学技術庁 第7会議室(通産省別館9階)

3.出席者(敬称略)
  専門委員   谷川、阿久津、下山、住田、竹内、能見、能澤、廣江、廣部、村上、
         森、山嵜

  科学技術庁原子力局
         坂田政策課長、深瀬課長補佐、他担当官
  その他    外務省総合外交政策局科学原子力課 藤原補佐
         通産省資源エネルギー庁原子力産業課 田尻専門職

4.議題
 (1) 前回議事要旨の確認
 (2) 賠償措置額の特例額について
 (3) 法第20条における適用期限の延長について
 (4) 原子力損害(環境損害)について
 (5) 免責事由(異常に巨大な天災地変)について
 (6) 除斥期間について

5.配布資料
 3−1 第2回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)
 3−2 原子力損害賠償責任保険の保険料について(日本原子力保険プール)
 3−3 賠償措置額の特例額について
 3−4 法第20条における適用期限の延長について
 3−5 原子力損害(環境損害)について
 3−6 免責事由(異常に巨大な天災地変)について
 3−7 除斥期間について
 (参考)資料集(専門部会委員のみ配布)

6.議事概要
(1)前回議事要旨の確認
部会長より前回資料2−1及び資料3−1の確認を求め、了解を得た。
また、日本原子力保険プールより資料3−2に基づき、説明があった。

(2)賠償措置額の特例額について
事務局より資料3−3に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(部会長)資料中、政令第13号の高レベル廃棄物ガラス固化体と使用済燃料の運搬は、運搬で一括すべきである。
(下山)以前にも述べたが、賠償措置額と個別施設の危険性は別であり、考え方としては施設の種類・規模を問わず、賠償措置額は一律として、保険料で調整する方法がある。またこの際40年の実績を踏まえて事業者と保険者との間で保険料の問題が考えられて然るべきである。
(部会長)賠償措置額と保険料負担を直接リンクさせてしまうと、賠償措置額を細分化してしまう結果となり説明がつかなくなる。むしろ賠償措置額とは別の問題である。
(能見)保険料で安全性へのインセンティブを高めるということも重要であろう。
(部会長)その説明の時に危険性の度合いということをいうと、誤解を招きやすい。例えば1サイト内の原子炉の数等もすでに保険料には十分考慮されていると考えている。
(廣江)1サイト内の原子炉等の数の他、熱出力や周囲の状況等も勘案し、一律同じ保険料というわけではない。今後とも努力してより良い料率体系を研究していきたい。
(部会長)特例額については、これまでの規制の建前とそれなりの合理性を考え、従来通りの3区分とし、それぞれの措置額を2倍に引き上げるという方向で行きたい。

(3)法第20条における適用期限の延長について
事務局より資料3−4に基づき説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(部会長)法第20条の原子炉の運転等の「行為を開始した」というのはどう読むのか。
(政策課長)原子炉等規制法で事業の開始は規定されているが、これと原賠法の行為の開始は必ずしも一致していない。事実上核燃料物質等の取扱いが始まり、損害発生の危険が生じうる状態になれば、原賠法上の損害賠償措置がなされなければならない。
(廣部)供託の場合に科学技術庁長官が承認しないとは法文上読めないのではないか。実際上いろいろ問題はあろうことはわかるが。
(下山)昨今の政治や国会の運営状況をみると、事業者と関係なく法第20条の改正法案が国会で審議未了になることもありうる。そのときに事業者には何ら責任がないのに供託では不適切で許可されないということでは問題であり、その場合は政府から暫定措置がなされるのではないか。
(政策課長)国民的立場からみて法第20条が機能していない状態で、国の補償契約や国の援助の規定の適用なしに運転等を認めてよいのかというと議論があろう。資料で、承認を受けられないというより、むしろ承認しづらいというところである。
(下山)資料にあるように法第20条は単に関連条文の延長措置のみではなく、制度全体の見直しの契機になっているのであって、基本的な問題をもう少し時間をかけて検討する場を原子力委員会は設けてもらいたい。
(部会長)法第20条の規定の仕方も立法技術的には拙劣ではあるが、従来通りの趣旨を踏まえ、今回も10年間延長することとしたい。

(4)原子力損害(環境損害)の概念について
事務局より資料3−5に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(能見)整理すると、原子力損害に入るのかという問題と、賠償の対象になるとして一定の制限を設ける必要がないのかという問題がある。前者については、原子力損害の定義から予防措置費用は別としても、対象になるといってよいと考える。問題は後者で、裁判になれば相当因果関係で切られるだろうが、油濁と比較して原子力は環境以上に人身損害が大きい。理論的には無限責任ゆえ、すべての賠償はなされるにしても、現実には賠償措置額があって、限定された資金の中で環境損害と人身損害が一時的には取り合いになる。人身損害の重要性を考えると、環境損害には一定の限界を明確に設け、人身損害の保護を手厚くするのがよいのではないか。
(住田)結論に異論はないが、放射線の作用等による損害という定義は、損害の概念というよりは原因行為による類型にすぎず、損害が何かということは一切規定していないのではないか。そこで環境損害はどういうものかを一般法たる民法から考えていくことになる。油賠法の場合は条約を批准するための国内法整備として行われたため、条約の文言に引っ張られた面もあろうが、今回は条約とは別に独立した国内法として考えればよい。資料中、原賠法の原子力損害からは排除されていないとあるが、むしろこの点は規定されていないということであろう。環境損害の内容について各国なりの考え方があろうが、被害者が特定しがたいだけで、損害自体は発生しているわけだから、当然原賠法の損害概念に入るといってよい。そして損害賠償の範囲として、合理的な、社会通念上相当なものという判例があり、そこで縛りがかかると思う。よって、環境損害を入れることにつき、特別の規定は必要ないと考えている。ただ、油賠法の場合は経済的損失だけだが、我が国の一般原則でいくと、非財産的損害も入ってくることになろう。ただ、どのような取扱いにするかは議論をしておく必要があろう。避難費用については、前回法改正時に議論があったようだが、避難を余儀なくされたということは一つの損害であり、その賠償の範囲としては社会通念上相当なものとなり、やはり特別の規定は必要ないと考える。
(山嵜)原賠法は不法行為法の特別規定にすぎず、無過失責任や賠償措置額の強制を特別に定めたものである。原子力損害の損害に関する限り、不法行為法が基礎にある。能見委員の意見だが、環境損害の賠償額自体を制限するということか、それとも人身損害よりも弁済の順序を遅らせるということか。
(能見)勿論、賠償額を民事責任のレベルで制限することではない。将来的には、責任は限定せず、賠償措置額から取る順序なりルールなりを決めておくのがよいのではないか。
(部会長)油濁の民事責任条約や国際基金条約も限度額を設けている。しかし、環境損害の名の下に本当に損害があるのかわからないのに持っていってしまう事例が現実に起こった。これは合理的でないとして、基金は決議でそういうものは環境損害とはいわないとした。その後も、地中海が汚染されたとしてイタリア環境庁が損害賠償請求をしてきた。損害額はいかに算定したか、誰が、どういう損害を受けたのか、不明確であった。民事責任条約や基金条約の但し書は、その後の改正の時に入れられたわけで、実際にとられた原状回復措置に要した費用を支払うことを明確にした。改正条約を批准する際に従来の油賠法の損害概念についてはこうした措置をする必要はないという結論になり、但し書のような明文の規定は入れなかった。油濁基金の取扱いも条約や資料の指針に基づいて行われている。要は、環境損害といえるものはこういうものだと明確に限定する意図で但し書を入れた。ウィーン条約改正議定書は油濁を見習って環境損害の定義を入れたものである。現行原賠法の原子力損害にも理不尽な環境損害と称するものは入らないであろうし、相当因果関係ないし合理性のテストを念頭に置けば、特段の措置は不要と考える。能見委員の意見については、油濁損害では船主責任制限法で人身損害への弁済が優先する規定があるが、原賠法では無限責任なので、賠償措置額の中で人身損害が優先する制度を設けるのは難しい。原状回復措置費用よりも優先できるようなことができればそのほうがよいが、実際問題として立法技術的に相当の議論を要するので、その点は見送らざるをえないだろう。
 資料には「油濁損害条約」となっているが、「油濁民事責任条約」とすべきである。また、「油濁損害賠償基金請求の手引き」でなく「油濁損害補償基金請求の手引き」である。
(下山)立法の初期には原子力開発のための安心立法の色彩が強く、また無限責任制度の建前から賠償の対象となる損害概念は広いほうがよいとされていた。しかし、チェルノブイル事故以降、現実的な救済立法としてこの制度を考えていく必要があり、損害概念が広ければ補償が厚いとはいえない面もある。こうした原子力開発の流れ、周辺の事情等を踏まえて見直していくことが法第20条の趣旨に沿うのであろう。
(廣部)新しい概念がでてくると保険との関係で問題ないのかということを確認したい。
(廣江)保険の場合は原賠法上の賠償責任ありということになれば支払うことになる。改正ウィーン条約の環境損害の原状回復措置費用についても、破壊された環境が他人の所有物ということで、損害賠償責任があるということになれば、当然保険としても支払いできる。それが間接損害であっても、環境損害と因果関係があるということであれば、保険としては支払うが、今回の法改正を踏まえて保険約款でも明確にしておきたい。
(森)実際の原子力損害の大部分は精神的・心理的な被害であり、また報道の混乱等が住民に大きなストレスを生じさせ、これが実態的損害を生んでいることも考えられる。原子力損害の意味をこの辺まで掘り下げていずれ議論してほしい。
(部会長)今まで実際の損害の経験なしに議論してきたが、チェルノブイル等を経験してくると、賠償すべき損害の範囲がどこまでかという難しい問題が生じてくる。
(竹内)原賠法が安心立法として果たしてきた役割は大きい。しかし、チェルノブイルやスリーマイルで最後まで残されたのはストレスのようなつかみにくい問題である。今回はとても間に合わないと思うが、原点に戻って原賠法が原子力事業者の健全な発達に役立ったことを考え、もっと時間をかけて実のある議論をしたい。
(部会長)油濁と違って原子力には大きな二つの事故を除き、詳細な事例がなく現在に至っている。今回は間に合わないかもしれないが、将来この問題を検討する場を設けることも視野に入れながら議論していきたい。
 この問題については、現時点では環境損害を取り上げて定義することはせず、ここで我々の考えている環境損害の賠償は可能であるという理解の方向でいきたい。

(5)免責事由(異常に巨大な天災地変)について
事務局より資料3−6に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。
(村上)結論は賛成だが、関東大震災の三倍以上とは、何が三倍ということか。また、社会的動乱と異常に巨大な天災地変との関係はどういうものか。
(下山)一般的には、震度・マグニチュード・加速度であろうが、三倍といったときには、おそらく加速度をいったものであろう。関東大震災がコンマ2くらいなので、コンマ6程度のものか。発生した損害の規模でなく、原因、主に地震の規模であろう。
(事務局)社会的動乱とは戦争、内乱等をいい、異常に巨大な天災地変とは別概念である。
(能澤)原子炉は加速度で関東大震災の三倍までは耐えられるよう設計しているだろうが、一般の建物等の被害はそれをはるかに超えるものとなるだろう。
(部会長)異常に巨大なといったときの基準は、現時点では加速度であろうと推定できる。
なお、資料の中で原賠法以外の法律を引いているが、天災その他の不可抗力が「競合したとき」に斟酌できる。異常に巨大な天災地変「によって」生じた損害を免責とする原賠法とは必ずしも同一に論じられないということに注意すべきである。
 これは今回は免責事由に残すが、政府の事後的バックアップにより、国際水準には達しているという理解としたい。

(6)除斥期間について
事務局より資料3−7に基づき、次回の審議の問題点につき説明があった。

次回を9月30日(水)14時30分から科技庁第1・第2会議室にてと決定し、閉会した。

以 上