第2回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)

1.日時  平成10年8月28日(金) 午後2:30〜4:30

2.場所  科学技術庁2F 第1・第2会議室

3.出席者(敬称略)
  原子力委員
遠藤
  専門委員
谷川、阿久津、下山、住田、竹内、殿塚、鳥井、能見、能澤、廣江、廣部、村上、森、山嵜
  科学技術庁原子力局
坂田政策課長、他担当官
  その他
外務省総合外交政策局科学原子力課 藤原課長補佐
4.議題

 (1) 前回議事要旨の確認
 (2) 賠償措置額の引き上げについて
 (3) 賠償措置額の特例額について
 (4) 法第20条における適用期限の延長について
 (5) 原子力損害について

5.配布資料

 2−1 第1回原子力損害賠償制度専門部会議事要旨(案)
 2−2 賠償措置額の引き上げについて
 2−3 賠償措置額の特例額について
 2−4 法第20条における適用期限の延長について
 2−5 原子力損害について(検討のポイント)

(参考) 資料集(専門部会委員のみ配布)

6.議事概要

(1)前回議事要旨の確認
部会長より資料2−1に基づき、説明があった。

(2)賠償措置額の引き上げについて
事務局より資料2−2に基づき、説明があった後、次の質疑応答があった。
(事務局)資料を踏まえると、賠償措置額の具体的な額としては、一つ3億SDRが考えられるのではないか。為替変動を考慮して約600億円を一つの基準と考えてはどうか。
(遠藤)第一点は、各国の制度を見ると、免責事由として戦乱や天災地変があるが、戦争には定義がなされているのか。日本では社会的動乱や異常に巨大な天災地変の解釈はどうなっているか。第二点は、賠償措置額の額で韓国は6億円と非常に低いが、その経緯はどういったことか。
(事務局)諸外国の戦争・戦乱について明確な定義はなされていないと考えている。日本の社会的動乱は異常に巨大な天災地変と並列して書かれているので、異常に巨大な天災地変に相当する程度の事件であることを要する。戦争、海外からの武力攻撃、内乱等がこれに該当するが、局地的な暴動・蜂起はこれに含まれないと解している。テロについては、局地的な暴動・蜂起にあたるといえる場合はこれに含まれない。異常に巨大な天災地変は、日本の歴史上余り例のみられない大地震・大噴火・大風水災等をいう。過去の国会答弁では、関東大震災の3倍以上と述べられており、関東大震災は巨大ではあっても異常に巨大なものとはいえないと解している。
(殿塚)韓国の原子炉で事故があって、日本で被害が生じたときは、韓国原賠法が適用されれば、6億円が賠償限度となるのか。
(事務局)国際私法原則で韓国法が適用されれば、そちらに従うことになる。
(部会長)韓国は無限責任なので、賠償措置額が6億円しか確保されていないということだけで責任は無限に負う。
(住田)高速増殖炉懇談会に参加しているが、そこで感じたことは我が国は原子力開発に依存し今後もそれに依らざるを得ないということで、原子力先進国という立場はますます進むと考える。損害賠償額については、もんじゅ事故の際、地域住民に大きな不安を残した。よって各国の賠償措置額に遜色のないものにし、国民に示すことが重要である。事務局提示案は600億円だが、同じ無限責任を採るスイスが638億円であり、10年ごとの改正であることを考えると、そこは先取りしてもよいのではないか。ただし、保険の引受能力を具体的に示していただいてからバランスをとりながら検討すべきである。
(廣江)賠償措置額を決める前に保険の引受能力の話をすることは本来意図するところではないが、原子力保険に関しては国内の保険会社だけでは引受限度があるので、海外プールとの再保険という形で交換をして消化している。海外プールに照会しているところだが、担保の範囲が従来と変わらないのであれば、厳しい状況ながら3億SDR程度までなら確保できるのではないかと考えている。
(山嵜)平成元年には、最終的には無限責任の旧西ドイツとスイスの賠償措置額を参考にしたようだが、現在スイスは638億円になっているものの、ドイツは384億円にとどまっているように見えるが、そう理解してよいか。
(事務局)確かにドイツは変わっていないが、前回は5億マルクで比較したが、現在パリ・ブラッセル条約を締結しているので、前回のように賠償措置額だけでは比較できないと考える。
(能見)スイスが最近引き上げた理由は、ここで議論している3億SDRが出てきたものとは違うと思われるので、その根拠を知りたい。また、再保険の仕組みから抽象的に考えると、スイスにできて日本にできないことはないようにも思うがいかがか。
(廣江)各国プールに調査中ではあるが、3億SDR、550億円程度は確保しているが、スイスの640億円までは、努力の余地はあるとは思うが、現段階では確答できない。
(下山)保険は賠償措置額確保の最も有効な手段の一つではあるが、考え方としては資料にあるように、損害賠償責任を直ちに履行することができるよう具体的に確保できる基本的な資金である。スイスは600億円以上に引き上げたが、ドイツは二重構造なのでここで保険だけを改定する必要はない、との判断でそのままになっているのであろう。韓国は法制定当時の保険のキャパシティが低かったためで、国際再保険上リスクないし保険業界の信頼関係にもよるので、これはおよそ日本と比べようもなかった。ただ聞くところでは、10倍くらいに引き上げようとの動きがあるようだ。
(部会長)前回の賠償措置額の見直しのときは、ヨーロッパ諸国はすでに各自の体制を作っていた。それが基準としてみられるという前提であった。今回の3億SDRはブラッセル補足条約が一方にあり、他方でウィーン条約の改正の結果がある。条約で金額を決める際には、世界の保険マーケットのキャパシティをにらんで、その最大のところで決定する。今回のウィーン条約の改正をにらんだパリ条約締約国の動きはこの10月からの締約国会議を待たないとわからない。ドイツはブラッセル補足条約締約国であるものの、今議論している改正ウィーン条約の3億SDRは直接には役には立たない状況ではあるが、その周辺で議論は収まってくるだろうと予測はできる。スイスの7億フランは換算の問題を含み、スイス通貨の強さで変化するので、アラウンド600億円とみてよいのではないか。スイスは独自の保険市場を持ち、国内保有と海外再保険とのバランスが若干影響しているのではないか。
(廣部)ウィーン条約の改正の際、3億SDRに行き着くまでには紆余曲折があったが、最終的にはブラッセル補足条約の数値に落ち着いた。ただ、ブラッセル補足条約の発効は91年で、当時すでに3億SDRが可能であった。あれからすでに約7年が経過しており、保険事情を単純に考えるともう少し上がっているのではないか。保険のキャパシティはいずれ明確に示してほしいが、少なくとも3億SDRということはぜひ申しておきたい。事務局の提示された600億円は日本円に換算して最低限ぎりぎりの数字という感じがする。
(部会長)今のご意見に一つ異議を述べると、ブラッセル補足条約で3億SDRが確保できたのは保険の消化能力とは直接関係はなく、国家の拠出金を含んでの3億SDRである。よって3億SDRは当時の保険のキャパシティを超えるものであった。改正ウィーン条約の3億SDRは今の保険マーケットの可能な額であり、パリ・ブラッセル条約当事国会議において補足条約の限度額が上がってくることはあり得るだろう。
 その他特になければ、保険プールのご発言は、制度の枠組みが変わらないという前提でという含みのあるものなので、責任の枠組みが決まった時点で改めて議論することとして、国際的な動向を見て600億円程度に引き上げるという事務局案の方向でいき、最終的には再度確定することとしたい。

(3)賠償措置額の特例について
事務局より資料2−3に基づき、説明があった後、次の質疑応答があった。
(鳥井)熱出力1万Kw超を一律300億円としている妥当性はどうか。被害の程度も差があるのではないか。妥当な区分の仕方とは思えないが、そのあたりの過去の経緯はいかなるものか。
(事務局)被害の想定は行ってはいない。ただ、例えば1万Kw超原子炉の運転と廃棄物埋設とを同額の賠償措置額とするのが必ずしも合理的とは言い切れないと考える。
(政策課長)賠償措置額は国際相場と保険会社の引受能力を主として考慮してきた経緯があり、原子力施設の実態に応じてどれくらい被害が起こりそうか、金額にするといかほどかを必ずしも算定したわけではない。昭和36年当時といえば我が国で初めて原子炉が始まった頃で、JPDRが電気出力1万Kwであり、これを基準としてやってきたものと考える。もし、原子力施設の技術的な実態に応じて被害想定をある程度やって、それに基づく試算値のようなものを賠償措置額に入れることが本当に合理的であれば、1万Kw超を新たに区切るということもあり得ようが、今まではそうはしてきていない。
(下山)立法時に携わった者としては、付け加えると、当時は600億円でなく50億円だった。それで、賠償措置額をどうするかだが、結論としては、賠償措置額を上下するのでなく、保険料率で目的・出力等に応じ上下させればよい。ただもちろん賠償措置額が50億円から600億円になったときにも1万Kwかということは確かにあるが、もともとの作り方はそういうことだったと記憶している。
(森)私も立法当初から携わったが、今回間に合わなければ、次回でも結構だが、いろいろ矛盾を感じてはいる。料率について差し支えなければ次回資料を出してほしい。
(事務局)料率については我々は把握していないが、保険プールはいかがか。
(廣江)手元に資料がないが、お出しできる範囲で次回用意したい。
(住田)差し支えない範囲で具体的な施設名を出してもらえると想定しやすい。
(遠藤)第一点は、今までも原子炉の解体はあったはずだか、これはどうしていたのか。それから、中間貯蔵はないにしても、使用済燃料をプールに保管していたはずだが、これはどうなっていたのか。第二点は、核燃料物質等の輸送は日本国領土・領海内の運搬を指しているのか。
(事務局)原子炉の解体については、原子炉の運転として扱ってきている。
(下山)使用済燃料の貯蔵については、原子炉の運転の中に入っている。
(事務局)運搬については海外への輸送についても含んでいると考えている。
(政策課長)補足すると、発電所・再処理工場以外に使用済燃料を貯蔵する中間貯蔵業が新設された場合、原賠法施行令で検討しなければならない。また、過去の海外輸送については、原賠法の体系下でやってきている。
(遠藤)もしそうなら、この特例額は低すぎないか。国内輸送なら輸送量的にともかく、10億円や60億円では非常に低いのではないか。
(政策課長)基本的には我が国原賠法は無限責任であるから、賠償措置額を超える損害については事業者に無限に責任があり、必要に応じて政府が援助を行うということになっている。
(村上)現場を預かる立場としては、特例となっているものにはいろいろな行為があるが、原子力損害賠償のリスクの観点からだけいうと、もっと低くしてもよいとも考えるが、既に実行されているものを変えるのは多くの議論を要するので、現行どおりでよいのではないか。原子炉の解体は規制法では届出制になっている。今後検討の際は規制法の規制のあり方との関連を考慮されたい。一方、中間貯蔵は現在規制法になく、その改正のあり方に沿って行うべきである。運搬についてはすでに非常に厳しい規制があることを前提にすべきである。いずれにしても規制法上の扱いを常に念頭においておくのがよい。
(竹内)現行の枠組みを大きく変えよという主張ではないが、今の時代に数字だけ前の通りやりましたというのは通らない。リスク評価となるとややこしくなるが、それなりに後々もわかる基準作りに我々も努力すべきである。また、原子炉の解体のスタートは燃料がすべて抜き取られているということを考慮していただきたい。
(部会長)1万Kw超の経緯は下山委員の言われたとおりで、それを基準としてそれ以下の炉も同じというのは酷ではないかということで、特例を設けた。その後基準となる1万Kw超の賠償措置額を引き上げたとき、その下をまた細分化するという議論はなかった。1万Kw超を最高額としてこれが原則でそれ以下のものにつき若干の例外を認めただけのこととしてきた。600億円という数字が出てくれば、1万Kw超のものは一律最高額を適用するが、保険料のほうで出力等に応じて実際問題として調整されていると考えられる。核燃料物質等の輸送、特に国際的な運搬は、日本法が適用される場合にどれだけの措置がなされているかがこの資料に示されている。この数字が見かけ上少ないのではないかというのは、昨今輸送物質の一件あたりの量が増え社会的にも騒がれているという理由もあろうが、あくまで無限責任であり、見かけを良くするかしないかというのは、費用の負担の問題にも関連してこよう。
(鳥井)若干異議がある。この法律は大変わかりにくい。原子力は300億円ないし600億円という数字が一般国民にどう受け取られるかということをよく考えなければならない。テクニカルな議論だけでなく社会とのインターフェイスを重視して議論すべきであり、今すぐにとは言わないができるだけ近いうちに世間に容易に説明しうる体系に変えていくべきと考える。
(部会長)賠償措置額としては100万Kw超でも600億円だが1万Kw超でも同額を確保している、ということだと理解する。措置額の限度が責任の限度と混同されていることからくるものと思う。
(鳥井)往々にしてここでの議論は非常に混同しやすい状況になっている。地元住民が一見してわかるような説明が必要である。
(部会長)600億円の中を細分化すると、額的に上には行かず下にしか行かなくなるが、それでもよいということか。
(鳥井)私は回答できる立場にはないが、保険が600億円までというならそうなろう。ただ、そう簡単に下にしかいかなくなるなどといわずに議論すべきである。
(部会長)額が少ないのではとのご指摘は遠藤委員からもあった。大枠についてはご了解を得たと思うが、まとめ方については、事務局に知恵を絞ってもらいたい。
(下山)立法当時は原研のJPDRだけでなく、原電の1万Kw超の東海も動いていたことを付け加えておく。

(4)法第20条における適用期限の延長について
事務局より資料2−4に基づき説明があった後、次の質疑応答があった。
(鳥井)全体の趣旨はよいが、原子力研究開発の進展により安全性が向上すれば国の援助は不要になるというのは、原子力発電が進めば国はもう面倒を見なくてよいということで、おかしいのではないか。これは理由としては削除したほうがよいのではないか。
(部会長)いずれにせよ、10年後に見直すということである。
(住田)各地の原発訴訟をみると、地元住民は地震に対して大きな不安感を持っている。外国では日本の地震危険は引き受けず今後もその傾向は続くと思われる。そうなると地震による損害に対する国の担保は非常に大きな意味をもってくるので、国の原子力に対する姿勢を示すものとして今後とも必要であることを、どこかに入れてほしい。
(村上)関連して、現在は保険の免責は変わっているのか。
(廣江)海外は日本の地震リスクは非常に警戒しており、600億円を10年間維持するのは大変困難である。異常に巨大な天災地変に入る地震等と入らない地震等とを区別することは難しく、すべて地震等を民間で担保するとなると、海外プールの引受枠が減り、賠償措置額として話の出ている600億円をあとで減らさなければならないことにもなる。ぜひこれは従来どおり補償契約でカバーしてもらいたい。
(遠藤)日本と同じ無限責任のドイツとスイスでも、損害が賠償措置額を超えた場合、同じように国会の議決による国の援助があるのか。
(事務局)ドイツでもおそらく国会の議決は必要であろうが、法律上は10億マルクまでは事業者を免責として国が負担する、という書き方になっている。
(下山)スイスは、10億フランまでは国が保証するとし、それをも超える大災害時には議会が賠償計画を確立するとされている。
(能見)もし10年延長しなかったら、どうなるのか。法第20条をみると平成11年12月31日までに開始された原子炉の運転等に係る原子力損害に適用する、とあるが仮に延長されなくても法第10条や法第16条の規定は適用されるという理解でよいか。
(事務局)そのとおりである。
(能見)もし10年延長されないと、平成12年以降運転を開始したものには適用がない。規制法があるから、原子炉の運転を新たに始めるようなことはないにしても、廃棄という事業がある。仮に法が切れた後に勝手に廃棄がなされ損害が生じたときに、法の穴ができないか。その背後には、長期的な課題として自動延長のような方法は採れないのか、という疑問もある。
(部会長)期限をつけておかないと見直ししないということもあり得るかと思う。
(能見)ただし、それは政府補償契約と国の援助の問題だけで、10年後に国の援助よりもっといい選択肢が出てくれば別だが、あまり期待できないような気もするし、そうであればこれらの規定は自動延長させてもよいのではないか。
(部会長)どこに期限をつけるかとなると、財政的な見地からいって一応10年目途にという財政当局の配慮があるようにも思う。
(能見)確かに副産物としては、賠償措置額を見直すきっかけになる意味はある。ただ、法第10条や法第16条の関係ではいかがかということである。
(下山)確かに部会長の言われるようにきっかけにはなる。しかし今後、法第10条及び第16条が不要になることがあるということは殆ど考えられない。今回直ちに改正するというのではないが。また、能見委員の言われた廃棄だが、規制法上、廃棄の業ができて事業の許可を取るときに損害賠償措置をつけるので無断でやることはない。また、サイト内の廃棄は発電所ないし再処理工場の損害賠償措置で一緒にカバーされるので問題はない。
(部会長)補償契約に関して保険の免責をみても、正常運転による損害などはわりと説明しやすい。
(能澤)世界で原子力損害賠償制度が適用された例はあるのか。TMIでは損害賠償はなされたか。
(廣江)国際的にはTMIの支払いがある。その他労災事案等がある。
(鳥井)TMIの支払いはどれくらいか。
(廣江)責任保険のてん補限度額は1億4000万ドル、135円で換算して189億円であった。避難に要した費用や40km以内の住民・事業所との和解金等を合計して現在までに約7000万ドル、135円で換算して95億円を支払っている。その他に支払い備金として4000万ドルが積まれており、合計1億1000万ドルまで支払う可能性がある。日本プールとしては350万ドル支払っている。
(森)資料の中の「事業者の経営を脅かすことがないよう」という表現は、国会で説明することも考えて、法第1条の目的にある言葉を使ったほうがよい。
(部会長)大体の方向性はよいと思われるが、問題点は検討してもらいたい。

(5)原子力損害の概念について
事務局より資料2−5に基づき、次回の審議のポイントにつき説明があった後、次の意見があった。
(村上)現行原賠法の定義では核燃料物質と核分裂、すなわち、規制法にあるものが対象だが、現在定義に含まれていない放射性同位元素、核融合等について、定義づけることが必要ではないか。

次回を9月11日(金)10時から科学技術庁第7会議室にて行うことと決定し、閉会した。