2−5

原子力損害について(検討のポイント)

 

1.改正ウィーン条約における「原子力損害」
 改正ウィーン条約においては、別紙のとおり原子力損害を規定しているところであるが、改正によって以下の費用が「原子力損害」とされたところに特徴がある。
 @環境損害の原状回復措置費用
 A純粋経済損害(環境を利用又は享受する経済的権利に由来する収入の損失)
 (例:海の放射能汚染によるホテルの観光客減少による損害等)
 B予防措置費用(損害を予防又は最小化するために講じられる費用)
 (例:地方公共団体の発する避難勧告に従って行う避難に係る費用等)

 (注)環境損害〜

 概念が不明確ではあるが、被害者が特定の個人だけでなく、その環境に接する不特定多数の者であるような損害であり、公共の財産である環境そのものが侵害されるという点に特殊性を有すると捉えることが可能。(個人の所有地が汚染される場合にも地下水等を通じて不特定多数の者に汚染が及ぶ可能性がある場合は環境損害と捉えることが可能。)

2.我が国原賠法における「原子力損害」
原賠法においては、第2条第2項において以下のとおり原子力損害を定義。

 
法 律 の 規 定具 体 的 内 容
a)核燃料物質の原子核分裂の過程の
 作用により生じた損害
・原子核分裂の連鎖反応に際して
 発生する放射線による損害
・原子核分裂の連鎖反応に際して
 発生する熱的エネルギー又は機
 械的エネルギーによる損害

b)核燃料物質等の放射線の作用によ
 り生じた損害
・核燃料物質の原子核分裂の連鎖
 反応に際して放射化された物の
 放射線による損害
・原子核分裂生成物の放射線によ
 る損害
・核燃料物質の放射線による損害
c)核燃料物質等の毒性的作用により
 生じた損害
・核燃料物質等を吸入摂取するこ
 とにより発生した中毒及び続発
 症等による損害

我が国原賠法上の「原子力損害」の特徴
  ○
損害の種類によって賠償の対象となる損害の分類を行っておらず、環境損害や経済的損失等も損害概念からは必ずしも排除されていない。
  ○
「作用」という用語が使用されていることから、「原子力損害」といいうるためには、放射線等の力の働きが前提とされている。
  ○
「作用」と「原子力損害」との間に相当因果関係があることが必要とされる。

3.
改正ウィーン条約と我が国原賠法における「原子力損害」の概念(整理・検討が必要な事項)
(1)
環境損害の原状回復措置費用や経済損害は我が国原賠法において「原子力損害」と捉えられるか否か。

   (参考)油濁損害賠償保障法

(2)
予防措置費用は我が国原賠法において「原子力損害」と捉えられるか。
予防措置費用については、例えば以下のとおり整理することができると考えられるが、これらに要した費用については「原子力損害」として賠償されることになるのか整理することが必要。
@事故の事前対策〜原子力事故発生の未然に講じられるもの
A避難費用〜原子力事故発生後に講じられるもの
 a)避難に直接要した費用
 b)避難したことにより通常より余分に要した費用
 c)避難したことによる損失
 d)逸失利益
B被害拡大防止費用〜原子力事故が発生し、放射性物質による汚染が生じた後に、被害拡大を防止するために講じられる費用
(3)その他
その他改正ウィーン条約と原賠法の「原子力損害」の定義を比較して相違の有無を整理する必要がある。