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賠償措置額の引き上げについて
1.賠償措置額の引き上げ経緯
(1)
我が国の原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)において賠償措置額は、原子力事業者の無限責任を前提として、万一原子力損害が発生した場合に、損害賠償責任を直ちに履行することができるよう具体的に確保できる基本的な資金としての重要性を有している。
(2)
昭和36年の原賠法制定時には50億円の賠償措置額が採用され、以降、昭和46年、昭和54年、平成元年の法改正時にそれぞれ60億円、100億円、300億円と引き上げている。これらの引き上げにあたっては、我が国と類似の賠償制度を有する国等の国際水準と民間責任保険の引受能力等を総合勘案したところである。
2.内外の状況の変化
平成元年の法改正以来9年が経過したが、今回の原賠法の見直しにあたり考慮すべき内外の動向は次のとおりである。
(1)原子力開発利用の一層の進展
現在、我が国の原子力発電は全発電電力量の3割を超えるとともに、これを支える核燃料サイクルの面でも着実な進展を見せている。
今後とも原子力に関する国民の理解と協力を得て原子力開発利用を円滑に推進していくためには、賠償措置額についても、万々一の事態に備え、国際的な水準を勘案しつつ、手配しうる最大限のものとしておく必要がある。
(2)原子力損害に関する国際条約の拡充
従来、パリ条約及びウィーン条約という二つの別個の枠組みが存在し機能していたが、昭和54年のTMI事故、昭和61年のチェルノブイル事故を契機に、賠償措置額の高額化、地理的適用範囲の拡大等の必要性が強く認識され、国際条約の整備拡充が進められてきた。
@パリ条約を補足するブラッセル補足条約の発効(平成3年)
責任限度額を超える損害に対し、事故発生国及び加盟国から資金を提供(最高3億SDR)
国内・越境損害を無差別に補償
Aジョイント・プロトコール(共同議定書)の発効(平成4年)
パリ条約とウィーン条約を連結し、条約の保護を与える被害者の範囲を拡大
Bウィーン条約改正議定書の採択(平成9年)
最低責任限度額の引き上げ(500万米ドル→3億SDR)
損害概念の拡大(環境損害、予防措置費用等)
適用範囲の拡大(非締約国における損害にも適用)
C原子力損害に対する補完的補償に関する条約の採択(平成9年)
原子力損害が責任限度額(3億SDR以上)を超える場合、締約国の公的資金により補償
パリ条約とウィーン条約の双方を補完
両条約の非締約国であっても付属書の規定に合致する国内法を有する国は、本条約を締結可能
(3)諸外国の賠償措置額の動向(別紙1・2参照)
我が国と同様に民間保険を活用する諸外国の賠償措置額を参考にすることは、原子力を取り巻く諸情勢の国際化が進む今日では、非常に重要である。
各国の賠償措置額の比較を行うにあたっては、制度の相違や当該国の条約締結状況等を全体的に考慮する必要があることから、一概には述べられないものの、以下の諸点を考慮する必要がある。
@
原子力損害賠償制度を有する主要国の賠償措置額の状況をみると、概ね1兆2千億円程度(米国)、650億円程度(スイス)、500億円程度(オランダ)、350億円程度(英国、ドイツ)並びに100億円程度及びそれ以下(フランス、カナダ、韓国)となる。このうち、我が国と同様に事業者の無限責任制度を採用しているのは、ドイツ 及びスイスである。
米国の賠償措置額は極めて高額であるが、これは小規模電気事業者が多数存在するという国情及び有限責任制度の下に、できるだけ無限責任に近づけて被害者救済に万全を期すために、事業者間の遡及保険料システムを採用しているもので、我が国の賠償措置額とは一概に比較しがたい面があると考えられる。
また、スイス及びオランダは近年賠償措置額を引き上げたところであり、今後予定されるパリ条約の改正の動向等を見つつ、その他の諸国においても同様に見直しを検討することが予想される。
A
英国、ドイツ、フランス及びオランダは、ブラッセル補足条約を締結しており、責任限度額を超える損害に対し、事故発生国及び締約国から資金を提供(責任限度額を含め最高3億SDR=約550億円)することとなっており、保険又は公的資金(国家補償)により具体的に確保できる基本的な資金として3億SDRは確保できるものとなっている。
B
また、ウィーン条約改正議定書では、有限責任制度を採る国は、事業者が自己の責任制限額、すなわち3億SDRを下回らない額を限度として保険その他の財産的保障(賠償措置)を講ずることがその加入要件とされている。一方、無限責任を課す国は、事業者に3億SDR以上の賠償措置を講じさせることが必要とされている。
C
我が国原賠法においては、原子力損害の賠償責任は、基本的には事業者が負うこととなっており、具体的に確保できる基本的な資金としては、事業者の講じる賠償措置額でみていく必要がある。
3.今回の賠償措置額の見直しについて
(1)
現在、原子力損害及び原子力損害賠償制度の充実に対する国民の関心は、かつてなく高まっている。このような状況の中で、今後とも原子力に関する国民の理解と協力を得て原子力開発利用を円滑に推進していくためには、被害者救済のための具体的資金である賠償措置額の引き上げが社会的要請となっている。
(2)
我が国は、米国、英国、旧西ドイツ、スイス、スウェーデンに次いで世界で6番目に原子力損害賠償に関する法律を制定した国であり、世界に先駆け無限責任制を採用した国である。過去40年間、我が国においては、この世界的にも高い水準を有する原子力損害賠償制度に支えられながら、原子力利用が進展してきた。現在、原子力発電の設備容量では米国及びフランスに次ぎ世界第3位であり、原子力発電を支える核燃料サイクルの完成に向け進んでいるところである。
(3)
ウィーン条約改正議定書等の条約締結の是非は別にしても、今後行われる核物質の国際間輸送等を踏まえれば、条約等の示す国際的な動向を十分考慮して、充分な賠償措置額の確保を含め、我が国制度の更なる充実が必要である。
(4)
平成元年の法改正の際、「賠償措置額については、今後とも国際水準等を勘案しつつ、引き上げに努めること。」との国会の付帯決議がなされており、その趣旨を十分尊重する必要がある。
(5)
以上より、今回賠償措置額を改定するにあたっては、損害賠償措置が原子力損害賠償制度に占める重要な役割を踏まえ、賠償措置額の国際的水準及び保険の引受能力等を勘案しつつ、賠償措置額を世界の原子力先進国にふさわしいものとし、もって我が国原賠法の目的である被害者の保護と原子力事業の健全な発達についての国民の理解と協力を得ることが肝要である。
以 上