<参考資料1>

 

高速増殖炉の特性

 

 高速増殖炉の安全性、経済性、核不拡散、燃料サイクルとの整合性、開発リスクなどについては、これまでの研究開発の成果ならびにその開発過程において実際に建設運転されてきている原子炉の実績を踏まえて、以下のように整理できます。

 

(1)安全性

 人的事故についてはもちろんでありますが、この問題を除いて考えて、原子炉の安全性は、国際原子力安全諮問グループの著した基本安全原則(INSAG-3)に示される諸原則、特に深層防護の考え方に基づいて、炉心損傷事故を格納できる格納系を含む多重の安全防護系を実現したプラントを、適切な安全文化のもとで管理する方針を採用することにより、十分確保されると考えられていますが、この原則は高速増殖炉に対しても適用可能です。

 高速増殖炉の設計には、炉心で冷却材ナトリウム中に気泡が生じるときに正の反応度が挿入されるものが多いのですが、この原則に基づけば、このような設計を行うときには、反応度挿入事故や炉心にボイドを生ずるような事故の発生頻度が十分低く、また、それらがもたらす結果が発生頻度から考えて受け入れられるものであることを、注意深い評価で確認することになります。

 なお、高速増殖炉の通常運転時の放射性物質放出量に関しては、わが国に存在する「常陽」や「もんじゅ」の運転実績によれば、線量目標値の指針を満足させることに格別の困難はなく、したがって、軽水炉と同様な安全性が確保できます。燃料サイクル施設については、現在のところ、軽水炉用の施設の一部を利用して研究開発が行われていますので、比較できる段階ではありませんが、別々に設置されるとしても、同一の線量基準が適用されることになります。

 

(2)経済性

 原子力発電の費用は、設備の建設費(廃止措置を含む)の償却費、運転費、燃料費(廃棄物管理費用を含む)から構成され、プラント熱効率、稼働率、ウラン価格、金利などに依存します。実用規模高速増殖炉の設計研究を通じて、経済性が軽水炉と競合できる水準にある設計例やその実現のための開発課題が示されています。現在のところ、これが実現できるかどうかの不確かさは大きいのですが、この課題を解決するための研究開発を推進し、その成果を踏まえた実証炉の設計・建設・運転が行われれば、実用化に移行できるか否かの判断が十分可能になるまでに減少すると考えられています。一方、燃料サイクルについては、実証施設の規模が少なくとも原子炉数基分の燃料を供給・処理できる程度とされていますので、その実証には原子炉の場合よりも時間がかかることに注意する必要があります。

 

(3)核不拡散

 原子炉施設や燃料サイクル施設の運転にあたっては、保障措置と物的防護により、保有する核物質が核兵器生産に転用されることを防止する必要があります。高速増殖炉の燃料には大量のプルトニウムが含まれますから、新燃料取り扱い施設の保障措置については再処理施設と同様に格段の配慮が必要です。高速増殖炉燃料再処理施設についても、その設計内容によっては、その保障措置に新しい課題が生じると考えられます。その負担軽減の観点からブランケット燃料を炉心燃料と混合処理する提案もあります。いずれにしても、プラント設計の当初からIAEAの専門家を交えて、効果的かつ効率的な保障措置を開発することが重要です。

 

(4)燃料サイクルとの整合性

 高速増殖炉は、中性子発生数の多い高速中性子による核分裂の連鎖反応に基づくものですから、炉心において核分裂あたりに発生するウラン−238のプルトニウムへの転換数を失われるプルトニウム数よりも多く(増殖)できるのみならず、軽水炉においては燃焼しにくい高次プルトニウムも燃焼できます。そこで、高速増殖炉の第一の用途は、成長が予想される原子力エネルギー供給系において、軽水炉の使用済み燃料から再処理で得られたプルトニウムを全て新設する増殖炉心を有する高速増殖炉に使用していく方式です。こうすれば、システムにおける高速増殖炉の割合が増大するとともに、システム内を流れるプルトニウム量は増殖率に依存して増加するようになり、発生電力量あたりの所要ウラン資源量は急速に減少していきます。

 第二の用途は、プルトニウムリサイクルを行っている軽水炉系に高速増殖炉を組み合わせて、高速増殖炉燃料の再処理から得られたプルトニウムと軽水炉から得られる高次化したプルトニウムを混合して燃料として利用する方式です。これにより、軽水炉を用いていながら、高レベル廃棄物をウラン・プルトニウムを含まないものにすることができます。これらの方式においては、高速増殖炉の転換比を適切に調整することにより、プルトニウム在庫量を調整することができます。

 なお、こうした方式を実現するには、軽水炉及び高速増殖炉燃料の再処理技術確立が必要になります。

 

(5)開発リスク

 これまでの世界各国における高速増殖炉に関する技術的蓄積は膨大であり、研究開発施設も整っています。残された主な課題は、プラントのコンパクト化・単純化による経済性の向上と高燃焼度燃料の開発、信頼性、運転管理の容易さの向上などです。これらは地道な材料開発、試作研究と実験炉や原型炉を用いた実証を繰り返して進められます。

 運転信頼性についてはBN−600のように高い稼働率で運転されているプラントもありますが、「もんじゅ」や「スーパーフェニックス」のように、事故・故障の結果低い稼働率のものもあり、現状では確かさに欠けます。今後、実証炉の設計にあたっては、これらの経験から優れたものの特徴を抽出し、失敗事例については再発防止対策を研究して、高信頼度運転のための知見を集積するべきです。

 なお、軽水炉を長く運転してきたプラント運転者から、ナトリウム−水反応やナトリウム火災の可能性、ナトリウムが不透明なことによる検査・保守の困難性、出力係数が負であっても炉心のボイド係数が正であることなどについて不安が表明されることがあります。これらの点は原型炉での研究への参加を通じて経験を蓄積して解消していくことが望まれます。また、並行して経済的な再処理技術の開発も重要です。これについても有望なアイデアは提出されていますが、その開発と実証はこれからです。

 


<参考資料2>

 

 

 

データ集

 

  1. 人口と一人当りのエネルギー消費量
  2. アジア地域の一次エネルギー需要量の見通し
  3. 地球環境問題
  4. 超長期にみたエネルギー需要と化石エネルギーの供給曲線
  5. エネルギー資源の確認可採埋蔵量と可採年数
  6. 世界のウラン資源量
  7. 新エネルギー供給量
  8. 世界の高速増殖炉開発の現状
  9. 高速増殖炉プラントの仕組み
  10. 増殖の仕組み
  11. 天然ウラン利用効率
  12. 高速増殖炉と軽水炉の比較
  13. 水とナトリウムの特性の比較
  14. プルトニウムの特性
  15. 「もんじゅ」2次系ナトリウム漏えい事故
  16. 動燃事業団における高速増殖炉開発経費
  17. 各燃料サイクルの比較