高速炉増殖炉懇談会資料第7-3号

「燃料サイクルの比較-エネルギー、廃棄物および経済性の観点から-」
に関する吉岡委員のコメントへの回答


1.(吉岡委員資料2~3ページ)3. 事務局資料の枠組上の欠陥について

(1) 3つの路線以外に、軽水炉と(非増殖型)高速炉のハイブリッド路線と、トリウム溶融塩炉路線の2つを、選択肢に加えるのが望ましいと思われる。(吉岡委員資料2ページ7行目)

【回 答】
○ハイブリッド路線については、FBR導入後も当面の間は軽水炉との共存期間が存在すること、FBRはその増殖比(転換比)を変更できるといった柔軟性を有する特長があり、余剰プルトニウムを持たないためにプルトニウムバランスを管理することができることから高速増殖炉の重要なオプションと考えており、その旨報告書にも記載されるものと考えています。

○溶融塩炉研究については、その歴史が古いものの、現時点での技術レベルでは選択肢の一つにするには十分な段階にはないと思います。但し、実用化までの時間は十分あるため、今後その特性に関する研究を続け、ナトリウム冷却高速増殖炉との特質比較を行う等の作業を続けることは、検討の余地があると思います。

2.(吉岡委員資料3~5ページ)4. 事務局資料の内容上の欠陥(その1)エネルギー発生量と廃棄物の毒性

(1)(資料第7-3号の1~2ページ)発生エネルギー量の評価において、原子力発電システムの運用のために必要な入力を無視し、出力のみを考慮している。各工程で使われるエネルギー量や、輸送過程で使われるエネルギー量を勘定に入れた評価が必要である。

【回 答】
○発電するために投入されたエネルギーに対する生産されたエネルギーの比をエネルギー収支と呼びますが、原子力の場合、下図に示すように産出エネルギーに比べ投入エネルギーは無視できるほど小さくなっています。また、FBRサイクルは軽水炉のワンススルー・サイクルよりもこのエネルギー収支の値が、さらに約3割程大きくなっています。(末尾図参照)

○エネルギー収支の値が大きい程、同じ量の電気を得るためには、各工程においてより少ないエネルギー消費で済むことになります。従って、エネルギー収支の点を考慮すると、エネルギー効率が高いというFBRサイクルの特長をさらに発揮することになります。

(2)(2ページ4行目)リサイクル3回のオプションを立てた理由を明確に示さない限りたとえ「参考」という位置づけであっても、FBR無限回リサイクルのオプションに言及するのは不適切である。削除すべきである。(4ページ、10ページにも、同様の欠陥個所がある)。

【回 答】
○FBRサイクルでは、炉心燃料とプルトニウム239の割合の高いブランケット燃料を混合して再処理することから、プルトニウム同位体組成の変化がほとんどないため、ロス率を考慮した上で理論的に無限回のリサイクルが可能であり、FBR無限回リサイクルのオプションを「参考」としてここで言及することが不適切であるとは思われません。

○リサイクル3回のオプションを立てた理由には、当面の時間軸として予想されるFBRサイクルの姿を示すためです。むしろ、他の軽水炉やプルサーマルのサイクルとの比較をする上で、比較しやすいことを狙ったものです。

(3)(2ページ末尾)ここで使われている放射能の「毒性」概念は、実質的意味から考えて、放射能漏洩の一つのシナリオしか考慮しておらず、普遍性がない。そのシナリオとは、貯蔵施設から地下水に漏洩しそれが飲料水に混入するというシナリオである。だが現在、放射能はさまざまな形で貯蔵されているため、体内に入る可能性のあるルートは水溶液の形だけではない。例えば空気中から取り込むルートもある。

【回 答】
○ここでは、高レベル廃棄物の地層処分を対象としています。

○放射性廃棄物処分における放射能漏えいのルートとして、最も可能性の高いものが地下水シナリオと呼ばれるものです。「毒性」はこのシナリオを評価する上で重要な指標として広く用いられています。

(4)(2ページ末尾)放射能の毒性という概念にもとづく分析だけでは、3つのオプションにおける放射性廃棄物からの放射能漏洩のリスクや、放射性廃棄物の管理コスト(ドラム缶の必要数などに依存する)について、何も結論を導くことはできない。従ってこうした分析は、政策決定の基礎としては、ほとんど意味がない。

【回 答】
○放射能の毒性は、廃棄物評価の最も基礎となるデータであるとの認識から、この値をまず代表値として紹介しました。

(5)(3ページ中段)この箇所の主張は、廃棄物の毒性である。従って、「プルサーマル燃料を再処理して回収したPuは、Pu組成の劣化(高次化)が問題となり、プルサーマルでの多重リサイクルが難しくなるため、FBRでの利用が得策と考えられます」という記述は、論理的な逸脱であり、削除すべきである。しかも「FBRでの利用が得策」かどうかは、総合評価の結論が出なければわからない。従ってこれは論点先取の論理的誤謬である。

(6)(3ページ末尾の3行)これも上記と同じ理由で、削除すべきである。

【回 答】
○「FBRでの利用が得策」という表現は、あくまでもプルトニウム組成の劣化の面について技術的な観点から見たものであり、政策的な論点の先取りを意図したものではありません。

(7)(6ページ)数字の一貫性がない箇所がある。使用済燃料154kg中、FPは5kgとあるが、ガラス固化体には5.2kgとなっている。両者は同一でなければならない。また使用済燃料154kg中、TRUは0.1kgとあるが、ガラス固化体には極少量とある。両者は同一でなければならない。(もしTRUも回収するような再処理工程を想定するのであれば、それを明記していただきたい。それは再処理コストに跳ね返ってくるはずである)。

【回 答】
○ご指摘の通り、FPおよびTRUの量の件について、両者の数値は同じでなければなりません。図2-1中のFPの量を5.2kgに、TRUの量を0.1kgに統一させて頂きます。(末尾図2-1参照)

(8)(6ページ)注3に、「プルサーマル燃料を再処理して最終的に回収する約70kgのU、Puは廃棄物には含めない」とあるが、「リサイクル回数1回」という大前提がある以上、約70kgのU、Puは、廃棄物以外ではあり得ない。またこの約70kgのU、Puのうち、Puは極少量とあるが、これは明白な誤りである。U-235よりも多いはずである。

(9)(7ページ)図2-2軽水炉プルサーマル(リサイクル1回)の路線で、2回も再処理を行うのは何故か。かりに2度目の再処理でU、Puを回収しても、それはこの路線では再利用しないはずである。なぜ無価値なものを高いリスクと費用をかけて抽出するのか、理解に苦しむ。

【回 答】
○リサイクル1回後のプルサーマルの使用済燃料は、まだその中に資源として再利用可能なウランとプルトニウムを含んでいることから、再処理して、回収したウランとプルトニウムを再びその後のFBR等で利用することを前提としています。

○ご指摘の通り、Puの量はU-235よりも多くなっています。図2-2中のPuの量を0.7kgに修正させて頂きます。(末尾図2-2参照)

(10)(7ページ)この図2-2の右端のガラス固化体中のTRUは、極少量とあるが、上記dと同じ理由により、誤りである。

【回 答】
○プルサーマルから取り出した約72kgの使用済燃料燃料中に存在するTRUは0.1kg以下のため、極少量と記述しています。

(11)(8ページ)注2に、「3回リサイクル後に再処理して最終的に回収する約833kgのUとPuは廃棄物には含めない」とあるが、「リサイクル3回」という大前提がある以上、(8)と同じ理屈により、約833kgのUとPuは、廃棄物以外ではあり得ない。

【回 答】
○FBRサイクルでは理論的に無限回のリサイクルが可能であることから、3回リサイクル後の使用済燃料は再処理して、回収したUとPuは再びその後のFBRで利用することを念頭に置いています。

(12)(8ページ)この図3は、図1および図2とは、本質的に異質の図であるから、この三者を比較することは意味がない。すなわち図1および図2では、最初に投入した天然ウランから、全てのエネルギーが発生するという図式になっている。ところが図3では、あらかじめFBRサイクルが完成しており、そのサイクルにおけるウランの損耗分(主にプルトニウムへの転換によってウランの損耗が生ずる)のみを、投入量としてカウントするという図式になっている。従って、これを図および図2と対等の条件で比較するには、最初に投入した天然ウランから、全てのエネルギーが発生するという前提に立って、全ての計算をやり直さねばならない。具体的には、初めにFBRの炉心とブランケットに装荷したウラン(初装荷ウラン)が、3回のリサイクルののちに、損耗分を除いて全量廃棄されるという前提を取らねばならない。そうすれば「天然ウラン1トンから約32GWdの電気エネルギーを取り出すことができる」というのは、桁違いの過大見積もりであることが判明するはずである。

【回 答】
○ご指摘の通り図3ではあらかじめFBRサイクルが完成していることを前提に評価しています。すなわちFBRは基本的に、軽水炉などの先行炉から既に回収されているプルトニウムを有効利用することが目的であり、そのため初めからMOX燃料を装荷します。FBRは天然ウランだけでは燃料として成り立ちませんから、その意味では図3の中の出発の天然ウラン1トンの記述は適切ではないかも知れません。

○FBRはプルトニウムを燃料とするその基本的な存在理由から、その特長を正当に評価するために、図3では、天然ウラン1トンを軽水炉などの中で変換し回収した、合計1トンのウランとプルトニウムを出発物質とし、FBRで燃焼させるという図に変更します。合計1トンのウランとプルトニウムはもともとは天然ウラン1トンが変換されたものであると認識するものです。(末尾図3参照)

○同じ理由により図4の該当部分も修正します。(末尾図4参照)

3.(吉岡委員資料5~6ページ)5. 事務局資料の内容上の欠陥(その2)FBRサイクルの経済性

(1)2030年におけるFBRサイクルコストについて、軽水炉ワンススルー路線のサイクルコストと同等となると予測している。しかしこれは十分な根拠のある推定とは思われない。(吉岡委員資料6ページ6行目)

【回 答】
○資料3-4号の図8に、燃料サイクル費について、現状コストと今後の研究開発によって削減されるコストが物量削減等の定量的な評価として示されています。その目標達成の見通しはあるものと判断しております。

4.(吉岡委員資料6ページ)6. 事務局資料の内容上の欠陥(その3)プルサーマルの経済性

(1)事務局資料の11ページの表「各燃料サイクルの比較」では、約1.1円/kWhとなっているがどの様な計算をしたのか不明である。(吉岡委員資料6ページ下から15行目)

【回 答】
○1989年のOECD/NEA報告書では、ウラン燃料とMOX燃料の各サイクルのフロントエンド部分を比較し、MOX燃料がウラン燃料に比べて若干安い結果となっています。一方、バックエンドコストの大半を占める再処理費(再処理シナリオ)に関して、プルサーマルリサイクル(MOX燃料+ウラン燃料再処理)は軽水炉再処理リサイクル(ウラン燃料再処理)と同等とみなし、合計の燃料サイクル費は両者で同等またはプルサーマルが若干安いことになるため、軽水炉再処理シナリオの1.1円/kWh(第3回資料 第3-4号)と同等としました。

○ここで、プルサーマルの再処理費については、OECD/NEA('89)中の「当初からMOX燃料とウラン燃料を一緒に再処理するように設計されたプラントではウラン燃料のみ再処理する場合のコストより高くなることはない」との記述を拠り所としてウラン燃料の再処理と同等としています。

(2)プルトニウムを抽出する再処理工程には巨額のコストが掛かるので、「プルサーマルは軽水炉ワンススルーよりもはるかに高い」とするのが正しい。(吉岡委員資料7ページ3行目)

【回 答】
○プルトニウムを抽出する再処理工程に係わる費用は既に再処理費として計上しています。また、プルトニウムを有料とする場合は、通常、プルトニウムの購入費用がかかる反面、プルトニウムの売却益も計上することになります。

(3)この試算が架空のコスト評価を用いており、日本での現実的なコストに関するデータを用いていない。(吉岡委員資料7ページ4行目)

【回 答】
○OECD/NEA('89)の評価は海外での現実的なコストに関するデータを参考としており、また、プルサーマルリサイクルに関する日本での現実的なコストに関するデータが存在しないため、今回の推定ではOECD/NEA('89)の評価値を参考としています。

(4)$1=1ECUの仮定は不適当であり、それがバックエンド・コストを低く評価する結果をもたらしている。($1=1.3ECUが妥当)。(吉岡委員資料7ページ21行目)

【回 答】
○為替レートは常に動くものであり、採用されている$1=1ECUは、当時、各国から参加していた委員の検討により決定されたものです。

○バックエンドのコストは主に欧州の値が採用されており、もともと委員会においてはECUの単位で報告されました。このため、$1=1.3ECUでドルに換算した場合、逆に$1=1ECUの場合よりも低く評価することになります。

(5)再処理オプションにおける廃棄物処分のコストは、英仏両国の予測値にもとづくものであるが、それはこのオプションをとる多くの諸国の予測値の中で際だって安い部類に属する。それに対し、直接処分オプションにおける廃棄物処分のコストは、スウェーデンの予測値にもとづくものであるが、それはこちらのオプションをとる多くの諸国の予測値の中で最も高い部類に属する。(吉岡委員資料7ページ22行目)

【回 答】
○再処理オプションおよび直接処分オプションにおける廃棄物処分費は共に、多くの諸国から提出された数値のうち、最も検討が進んでおり確度が高いと考えられるものが、各国から参加した委員の検討により選定されたものであり、意図的に再処理オプションに有利に選定しているわけではありません。例えば再処理オプションの再処理費(ECU720/kgU)はパラメータ範囲(ECU540~720/kgU)の中で最も高い数値が選定されています。

(6)直接処分オプションのみに、使用済燃料長期貯蔵コストが計上されているが、現実には再処理オプションでも、使用済核燃料の長期貯蔵が常態となっている。(吉岡委員資料7ページ下から15行目)

【回 答】
○直接処分オプションでは、スウェーデンの例を参考として、使用済燃料の冷却のために必要な年数を貯蔵期間として考慮しています。一方、再処理オプションでは、使用済燃料は数年間、原子炉サイトと再処理工場の貯蔵プールで冷却及び貯蔵された後、再処理されます。従って貯蔵費用は原子炉及び再処理の費用に既に計上されていることになります。

(7)ウラン・クレジットとプルトニウム・クレジットはゼロと評価すべきである。使用済燃料から抽出した核物質は、成形加工コストが高いために、経済的観念からは使用に耐えないからである。(吉岡委員資料7ページ下から13行目)

【回 答】
○OECD/NEA('94)では、ウラン・クレジットとプルトニウム・クレジットは、経済的観点から使用に耐えうる価格はどの程度であるかを算出して設定しています。(同報告書のAnnex 8)