資料第9−6号

高速増殖炉懇談会報告書
「高速増殖炉開発の在り方」
骨子案



目次

1.序
2.長期的視点
(1)軽水炉発電の必要性
(2)プルトニウムを燃焼させる必要性
(3)高速増殖炉の必要性
3.短期的視点
4.高速増殖炉の研究開発の意義
5.研究開発に当たっての留意点
(1)安全の確保
(2)エネルギーの安定供給とコスト意識の醸成
(3)円滑な研究開発を進めるに当たって
(4)「もんじゅ」の取り扱い
(5)実証炉以降の開発




1.序
 これまで原子力、特に高速増殖炉の開発を議論するに当たって、論点の一致を得ることが困難であった要因としては、従来、その特性や利便性などに関する一般への周知が不完全であった上に、長期的視点に立ってその必要性を論じることと、ここ数年間に発生した人為的事故に対する対応と短期的な視点で当面の政策をどうするかを考えることが、混在していたことにあると考える。

2.長期的視点
(1)軽水炉発電の必要性
 世界のエネルギー需給の現状は緩和基調にあり、エネルギー価格も安価に推移している。しかし、エネルギー情勢を中長期的に概観すると、中国、東南アジア諸国における急激なエネルギー需要の高まり、世界の石油中東依存度の高まり、酸性雨や温暖化などの地球環境問題の深刻化が今後予想されており、省エネルギー努力があったとしても、予断を許さない状況にある。従って、今後、非化石エネルギー技術の供給量及びシェアを増していくことが人類にとって重要であり、将来世代の選択に供するべく長距離高圧直流送電などと共に非化石エネルギー技術を複数開発していくことが現世代の責任である。 このうち、新エネルギーは今後とも積極的に開発する必要があるが、その当面の利用可能量と価格には限界がある。軽水炉発電は、現在のところ可能な化石燃料の代替エネルギーの中でその供給力と経済性において有力なエネルギー源である。資源に乏しい我が国においては、現在のところ軽水炉発電の必要性は高い。

(2)プルトニウムを燃焼させる必要性
 長期的視点から見た場合、以下に述べる理由から、プルトニウムを燃焼させることは避けて通れない。 ウラン燃料を用いた軽水炉発電でもプルトニウムは炉の中で作り続けられ、さらにその一部は炉内で燃焼している。従って、一旦原子力発電を導入した以上、作り出されたプルトニウムを燃焼させてしまうことは、避けて通ることの出来ない問題である。即ち、このプルトニウムを燃料として有効利用しなければ、廃棄物として地中に処分する以外に方法が無い。これは望ましくない。プルトニウムを廃棄物とせず利用することは、放射性廃棄物の処理処分を適切なものに近づけるという観点からも有意義である。 ウラン資源の使用可能量は現行消費量の数十年分と見られている。使用可能量に今後の発見量を加えても百年単位で見れば化石エネルギー資源と同様に枯渇する。しかし、プルトニウムを利用することにより、ウランの資源的価値は増大する。資源論的に見ても長期的視点でのプルトニウム利用が必要である。 また、地球環境の面から見ても、化石燃料を使用することは避けていくべきである。これを実現するためにもプルトニウム利用が必要となる。 従って、原子力発電のうち当面の軽水炉発電を前提とする限り、長期的視点に立った場合、軽水炉発電でのプルトニウム燃焼は切り離せないと考えられる。

(3)高速増殖炉の必要性
 高速増殖炉は、リサイクルを繰り返すことによって、軽水炉に比べ飛躍的に多くのエネルギーを、自然から掘り出した貴重なウラン資源から取り出すことが出来る。 さらに、燃料資源を徹底的にエネルギーに変えることにより、廃棄物による社会への負担の大幅な低減も同時に実現することができる。 また、高速増殖炉はその転換比を変えることが出来るため、プルトニウムを効率的に燃焼することが出来、余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持するための手段として、極めて有効な原子炉である。 即ち、長期的視点に立った場合、プルトニウムを再燃焼させることは極めて重要であり、軽水炉における利用に留まることはあり得ず、高速増殖炉での利用まで進める方がはるかに優れている。

3.短期的視点
 これまでは、長期的視点での論理を展開してきたが、そこではグローバルな価値観が優先し、各国共通の認識を持ちやすい性質を有している。一方、短期的スパンでの考え方においては、各国の事情に大きく影響されることとなり、国毎に状況が違ってくる。 英国においては、原型炉の運転を終え一定の技術蓄積を図ったが、その先は英国独自の研究を中止している。独国の場合は、地方自治体政府の反対により、原型炉の建設は完成間近での中断を余儀なくされた。仏国は、原型炉フェニックス及び高速増殖炉研究開発は継続するものの、最近の政権交代に伴い、経済的理由から実証炉スーパーフェニックス放棄の方針を決定した。米国は、原型炉の設計・製造の途中で、経済性、核不拡散などの観点から高速増殖炉開発を中断し、国内ではプルトニウムの商業利用は行わないとしている。しかしながら、大型実験炉の建設運転を通じて、その技術レベルは高い。 ロシアでは原型炉の運転を進めており、次の実証炉の建設計画を有しているものの、財政事情から建設は中断している。このように各国高速増殖炉開発の状況は厳しいが、これらは、主に各国エネルギー事情、ウラン需給、政治経済事情等を背景としたものである。いずれにしても化石燃料の利用への依存が遥かに増加せざるを得ない。 我が国の場合も短期的に見れば、財政事情は極めて厳しいが、高速増殖炉の研究を行うツールである実験炉「常陽」は安定した運転実績を積み重ねており、また、原型炉「もんじゅ」もほぼ建設の最終段階を迎えている。これらを活用することで、高速増殖炉技術を蓄積するための新たな開発投資額は延伸することは可能である。 核不拡散については、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受け入れ、余剰プルトニウムを持たないことを世界的に宣言しており、プルトニウムの兵器への転用はあり得ないことになっている。現実面からも、プルトニウムを燃やしてしまうプルサーマルや高速増殖炉は、大量のプルトニウムやウラン燃料の燃え残りを持つことを回避出来る点から有効である。

4. 高速増殖炉の研究開発の意義
 世界的に見ても独自に高速増殖炉の研究開発を進めている国は仏国、ロシア等であり、必ずしもその数は多くない。我が国の場合も、財政事情は極めて厳しいこと等を背景に、研究開発を止めるべきとの意見もある。しかしながら、資源のない我が国は高速増殖炉の研究開発を進めて次世代への対応を準備しておくことが重要である。可能性を逸早く追求して、不可能であれば他のエネルギーを開拓して化石燃料からの脱却を準備しておかなければならない。 我が国にとって、これまで高速増殖炉開発を含む多くの技術開発において常に海外の先導者がいた。しかし、先導者がいなくなった今、我が国が自主性を発揮し、自活の道を確立しておくことがセキュリティであるし、同時に世界に貢献していくことの意義は大きく、事実既に研究を中断している国も研究協力を希望して来ている。我が国の技術ポテンシャルを考えた場合、長期的視野に立って国際貢献の観点からも研究開発は継続すべきである。 高速増殖炉技術は、炉とサイクルの調和が重要であり、原子炉の開発と整合性の取れた再処理、燃料加工等の燃料サイクル技術開発が必要である。

5.研究開発に当たっての留意点
(1)安全の確保
 原子力利用を進める以上、当然、安全の確保は大前提であり、原子炉の運転、研究開発を進めるものにとって、その実現は最優先の課題であることは論を待たない。高速増殖炉の研究開発を担う者は、当然のことながら、安全確保を最優先に出来る体制であることが前提である。つまり、仮にそれが出来ない体制であれば、研究開発を委ねるべきではないと言える。

(2)エネルギーの安定供給とコスト意識の醸成
 エネルギーを環境を守りながら安定に供給することは、食料供給と並んで人類の生存にとって不可欠であることを先ず意識すべきである。高速増殖炉開発のような大型技術の信頼性を確保していくには、その技術開発に時間がかかることから、引き続き研究開発を進めるべきであるが、我が国の財政事情は今後益々厳しいものと予想され、研究開発資金の徹底した合理化が必要となる。また、研究開発に当たっては、経済的効果を絶えず評価する努力を怠るべきではない。これらの研究を進めておく結果として、高速増殖炉の実用化に当たっては、プラント建設費の徹底したコストダウンが可能になる。 先ず安全であることが不可欠であるが、コストが高いということは、輸出品を適正価格にし国民生活を維持することが難しいことを意味している。

(3)円滑な研究開発を進めるに当たって
 担当者の責任感の徹底を図ることから出発して、施設の安全性の点検、研究開発の目標と成果の評価等を定期的に実施し、高速増殖炉研究開発の進め方に反映するなどが必要である。予想されなかった重大な問題が発見された時には直ちに計画を修正して再出発するようにしなければならない。このことから、研究開発は柔軟な対応が可能な計画とする必要がある。 地元住民を始め、広く国民に、高速増殖炉開発の意義及び開発の進め方について理解を得るため、これまで以上の努力が必要である。また、水力資源や太陽光発電、長距離高圧送電などの技術開発を並行して、リスクやコストの比較を行いつつ進めていかなければならない。

(4)「もんじゅ」の取り扱い
 「もんじゅ」事故については、設計管理上の欠陥であり、さらに事故後の対応のまずさが社会的信頼を失わしめた。また、その後の東海アスファルト固化処理施設事故の対応にもその反省は生かされなかった。これらは動燃などの体質の問題であり、責任感の徹底をはじめとした抜本的な改革が必要であり、動燃改革検討委員会において新法人の基本的な像がまとめられ、現在その具体化作業が行われている。 「もんじゅ」は、エネルギー供給確保の研究開発の場として重要な位置を占めており、若し予定通り見通しがたてば、実証炉以降の高速増殖炉を安全な上により経済性のある炉とするための基礎的データの取得に不可欠である。従って、責任ある組織が出来るようになって上記動燃の改革が確実に実現され、研究開発のための原子炉であることを認識した特に慎重な運転管理が行われることを前提に、同炉が研究のための運転を再開し、上記研究開発が着実に実施されることが妥当である。「もんじゅ」の運転再開に当たっては、安全性向上の状況等を地元に十分説明し、理解を得ることが必要である。 なお、「もんじゅ」の運転にあたっては、実用化に繋げるデータの取得を急ぐことに重点を置くのではなく、あらゆる角度からのデータを着実に蓄積する慎重な態度で臨むことに重点を置くべきである。「もんじゅ」事故の反省に鑑み、その要素技術として例えばナトリウム取扱い技術などについても、重要な研究開発課題として取り組むべきである。

(5)実証炉以降の開発
 電気事業者が開発を進める実証炉については、「もんじゅ」の運転経験を反映することが必要であり、十分なチェックアンドレビューを行った上で、その具体化のための計画の決定が行われるべきである。高速増殖炉の実用化にあたっては、従来の路線にとらわれることなく、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ柔軟に見直していくことが必要である。従って、電気事業者が判断するために必要な幅広いデータの蓄積が当面の課題である。よって、原型炉を使用した、出来るだけ広い範囲の実験と試験運転を行なって安全確認のために、可能な限りの時間を用意することが重要である。