高速増殖炉(FBR)の技術的見通し−ナトリウム技術−
資料 第6ー3号



高速増殖炉(FBR)の技術的見通し
−ナトリウム技術−



動力炉・核燃料開発事業団



1.はじめに
1950年代から日本原子力研究所(原研)やメーカーにおいて実験室規模での基礎的な研究が開始されました。
1970年に大洗工学センターを開所し、大型のナトリウム試験施設を建設・運転することで大量のナトリウムの取扱い経験を積むと共に、ナトリウム特有の課題について本格的に研究を進めてきました。
○これらの成果は、実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」に反映されました。「常陽」は約20年に亘る着実な運転実績(ナトリウム系統の累積運転実績としては約15万時間)を重ね、ナトリウム機器・設備の安全性・信頼性を示してきました。
○その後、大洗工学センターでは、FBRの実用化に向け機器類の大型化や高性能化などを念頭に、ナトリウム技術の研究開発を継続しています。
○さらに、欧米諸国でもナトリウム技術に関する研究開発が精力的に行われていたことから、技術協力協定を締結し、国際共同研究や情報交換等を通じて多くの情報を得、「常陽」、「もんじゅ」の開発に反映してきました。

2.ナトリウムの特徴
2.1ナトリウムの性質
○元素としては地殻内に豊富に存在する物質(6番目)です。
○常温では銀色の固体ですが、約100℃〜約880℃までの範囲では安定した液体であり、外観は水銀に似ています。
○比重は水よりも約1割程度軽く、比熱は水の約1/3であり、熱伝導性は水の約100倍優れています。
化学的に活性であり、特に水に触れると激しく反応することから、水との接触を防ぐ必要があります。

2.2FBRの冷却材として用いる理由(表1)
○開発初期には冷却材としてナトリウム、ナトリウムとカリウムの合金(ナック)、水銀、鉛、ヘリウム(ガス)などが検討され、水銀等は海外の実際のプラントで試みられましたが、以下の理由からナトリウムが冷却材として最も優れているという判断が世界的に定着しています。
−燃料の増殖を図る上から、冷却材としては中性子の速度を落とさないことや中性子を無駄に吸収しないことが必要です。
−ナトリウムは100℃〜880℃の温度範囲で液体状態であり、使用温度が約350℃〜550℃であることから、凝固や沸騰などの相変化に対する温度余裕が大きい
−配管・機器の構造材料であるステンレス鋼や低合金鋼との共存性に優れています。
熱輸送能力が高く、発熱密度の大きいFBRの冷却材として優れています。

○冷却材として使用する上で留意すべき事項として、以下があります。
化学的に活性であり、空気や水と分離する必要がある。
−熱容量が小さく、熱伝達が良いことから、構造材に熱応力・熱衝撃を与えやすい。
漏えい燃焼反応、ナトリウム-水反応に対処する必要がある。

2.3ナトリウムの利用例
○我が国では、年間約4000トンのナトリウムを生産(1990〜1993年実績)しています。
○使用例としては、ジーンズの青色染色顔料(インディゴ)の製造を始めとする有機化学の分野が主ですが、ナトリウム蒸気の炎色反応を利用したナトリウム灯や、余剰電力貯蔵用のナトリウム−硫黄電池、ヒートパイプなどにも利用されています。
FBRでは取扱い量が多いことや高温(〜550℃)で使用するところに特徴があります。
○大洗工学センターでは、「常陽」で約200トン、種々のナトリウム施設で約400トンのナトリウムを使用しています。また、「もんじゅ」では約1700トンのナトリウムを使用しています。
○海外のFBRの例では仏国のフェニックスで約1200トン、スーパーフェニックスで約4700トン、ロシアのBN-600で約1600トンのナトリウムが用いられています。

3.FBRのナトリウム技術(図1)
○ナトリウムの特長を活かし、短所に対して対策を講ずることにより、熱効率のよい冷却材として安全に使用することができます。
○このための技術は、大洗工学センターの試験施設での30年近くに亘る(延べ20数万時間、「常陽」除く)研究開発の実績と20年に亘る「常陽」の安定した運転実績に裏付けられています(図2)
○「もんじゅ」の研究開発に当たっても、段階的に規模を拡大して試験確認を行い設計へ反映してきました。併せて、解析手法の高度化にも精力的に取り組み、設計評価に反映してきました。

3.1ナトリウムと構造材料との共存性
○ナトリウムは化学的な活性度が高いことから、構造物材料、燃料材料との共存性について、     
質量移行:
腐食、磨耗、自己融着等の観点から多くの実験を行ってきました(表2)。     
質量移行:
材料に含まれる元素の一部が周りの流体中に溶け込んだり、逆に周りの流体中の成分が材料中に浸透すること。材料の特性(強度等)が変化する可能性がある。
自己融着:同じ材料で出来たすり合わせ部分が、境界近傍での分子レベルの熱的拡散運動によって一体化してしまうこと。

○ナトリウムは単原子物質であり、不純物(酸素)濃度を20ppm以下程度に抑えれば、構造材との共存性は極めてよく、ナトリウムと接する構造材表面は粒界腐食などの顕著な腐食・減肉を起こすことがないことを確認しています。

○ナトリウム中の不純物(酸素、水素等の非金属不純物、放射性腐食生成物等)を10ppm程度まで純化する技術(コールドトラップ等)及び不純物濃度をオンラインでモニタリングする技術(プラギング計等)を開発し、「常陽」、「もんじゅ」に活用しています。

3.2ナトリウムの伝熱流動について
○優れた伝熱流動特性を活かすため、炉心部やプラントを構成する主要機器内部の伝熱流動特性やシステム全体としての総合的な伝熱流動特性を調べる試験を実施すると共に、プラント動特性解析コードの開発・整備を行ってきました。「常陽」50MW蒸気発生器などの運転・試験を通じて実規模で確認してきました。

3.3ナトリウム用機器類の開発について
○ナトリウム用機器の開発にあたって、高温で使用する、比熱が小さいためナトリウムの温度変化が早いなどの特徴から、特に熱応力や熱衝撃に十分留意して設計、製作する手法は確立しています。 ○ナトリウム中での材料の腐食試験や多数回の熱衝撃の繰り返しによってき裂を発生させる構造物試験等を行い、限界を把握した上で適切な裕度をもたせ設計しています(図3)
○「もんじゅ」の主要機器(ポンプ、蒸気発生器、炉内構造物、炉心上部機構、燃料交換機、等)の性能及び耐久性の評価については、「常陽」の開発経験を踏まえて、部分モデルや縮小モデル、あるいは実寸大モデルを製作し試験確認を行いました(表3図4図5)。
  この間発生した、ポンプ、バルブ等各種ナトリウム機器のトラブル経験を踏まえて、設計・運転技術の高度化に努めてきています。
○電気的良導体である特長を活かして、機械的な駆動部のないポンプ(電磁ポンプ)、流量計(電磁流量計)などを開発し、採用しています(図6)。

○ナトリウム機器類に関して運転履歴、保守履歴、故障履歴等のデータベースを日米共同で開発しました(図7CORDSデータ)。
機器信頼性データ分析を通じて、FBRの確率論的安全評価の研究、実用化へ向けた安全設計・評価方針の策定のための研究等に活用してきました。

3.4ナトリウムの使用に係る安全研究
安全性研究としてナトリウムの漏えい・燃焼、蒸気発生器の伝熱管破損に伴うナトリウムと水との反応などに関する研究を実施してきています。
○これらの研究を通じて、安全解析コードを整備すると共に、安全対策設備の妥当性を確認してきています。

3.5ナトリウム処理技術、機器補修技術
○ナトリウムの処理技術としては、試験装置の改造や撤去などの折りにナトリウムが付着した配管・機器類の洗浄を実施してきており、延べ約3800回、約4000kgのナトリウムを安全に処理してきています。
○ナトリウムの処理方法としては、多くの実地経験を積んで、(a)多量のナトリウムについては燃焼処理、(b)配管・機器類に付着したナトリウムはアルコールスチームによって洗浄する技術を確立しました。
○試験装置のトラブルや試験装置の改良などを通じて、ナトリウム機器の補修・交換技術についても改良を図ってきています。

4.ナトリウム取扱技術者の活用・育成
○大洗工学センターにおいて5年以上のナトリウム取扱経験を積んだ技術者は、事業団内に約180名おり、現在そのうち約60名がもんじゅ建設所、約90名が大洗工学センターに勤務しています。
○大洗工学センターの「常陽」等の施設を用いてナトリウム取扱研修を実施しており、これまでに延べ約110人の「もんじゅ」運転技術者の教育訓練が行われています。
○大洗工学センターの技術者は、「もんじゅ」の性能試験、安全総点検等への参加を通じて研究開発成果を「もんじゅ」に反映しています。
○今後も、ナトリウム技術を蓄積するとともに、技術の継承に万全を期すべく、「もんじゅ」、「常陽」の運転・保守員に対する教育・訓練を強化するなどして、ナトリウム取扱いに関する最新の知識と必要な対応動作の習熟に努めていきます。

5.おわりに
○上述してきたように、ナトリウム技術については「常陽」や大洗工学センターの試験施設の設計・建設経験永年に亘る運転経験を積み重ねてきたことで、十分な技術レベルにあると考えています。
○しかしながら、「もんじゅ」2次系ナトリウム漏えい事故とそれに対する措置、及びその後の原因究明作業の過程で、ナトリウム技術の一部に不十分な部分があったと認識しています。
○そこで、温度計ウェルのような突起物の流力振動・高サイクル疲労の防止に関する技術基準を整備することや、漏えい時のナトリウム化合物と構造材料との高温化学反応などについて、試験研究、解析研究を実施し、ナトリウム技術の体系的な整備に努めてきております。

○今後は、事故の反省と分析の上に立ち、十分でなかった課題については、大学や国及び民間の研究機関などと協力し、透明性の高いやり方で研究開発を進めていくとともに、適切なマニュアルの整備や教育・訓練の一層の充実に努めて参ります。