資料第5-1号

高速増殖炉懇談会(第4回)議事要旨



1.日 時 : 平成9年5月8日(木) 14:00〜16:30

2.場 所 : JAビル 8階 国際会議室

3.出席者
(原子力委員)
伊原委員長代理、藤家委員、田畑委員
(専門委員)
西澤座長、秋元委員、内山委員、大宅委員、河野委員、小林委員、 近藤委員、鷲見委員、住田委員、中野委員、松浦委員、吉岡委員
(招へい者)
バートランド・バレ : 仏国原子力庁 原子炉局長
デレク・プーリ   : 英国原子力公社 総裁
ギュンター・ケスラー: 独国カールスルーエ研究所、中性子物理・原子炉工学研究所長
(科学技術庁)
加藤原子力局長、木村動力炉開発課長
(通商産業省)
谷口資源エネルギー庁審議官、中富新型炉開発企画官

4.議 題

(1)各界からの意見聴取及び議論
(国際的観点からの高速増殖炉開発の意義)
(2)その他

5.配布資料

資料第4−1号 高速増殖炉懇談会(第3回)議事要旨
資料第4−2−1号 “FBRs : Why, When, How“
資料第4−2−2号 “A French View on Nuclear Energy and Fast Neutron Reactors”
資料第4−2−3号 “FRENCH DESIGN PRINCIPLES AND R&D RELATED ACTIVITIES TO ENHANCE SODIUM HEAT TRANSPORT SYSTEMS SAFETY” [Mr. B. Barre, FRANCE]
資料第4−3号 “The UK and the Fast Breeder Reactor” [Dr. D. Pooley, UK]
資料第4−4号 “Fast Breeder Reactor Development in Germany -History and Outlook” [Dr. G. Kessler, GERMANY]

6.概 要

(1)
西澤座長より開会宣言が行われた後、招へい者の紹介をかねて伊原原子力委員長代理から開会の挨拶が行われた。また、事務局より配布資料の確認が行われた。
(2)
議題(1)について、資料第4−2−1号に基づき仏国原子力庁原子炉局長B.バレ氏、資料第4−3号に基づき英国原子力公社総裁D.プーリ氏、資料第4−4号に基づき独国カールスルーエ研究所中性子物理・原子炉工学研究所長G.ケスラー氏より講演があった。主な講演内容と質疑等は以下の通り。

<仏 B.バレ氏の主な講演内容>
  ○
仏国も日本と同様、化石燃料資源に恵まれていない。それゆえ、原子力発電の占める割合が4分の3を超えている。
  ○
第16回世界エネルギー会議(1995年11月)において、世界のエネルギー消費量は、1990年から2020年にかけてほぼ倍増すると予測されている。さらに長期的な見通しでは、世界の人口が倍増し、エネルギー消費量は少なくとも3倍に増加するであろうと予測されている。
  ○
この需要を満たすためには、全世界的に原子力エネルギーが必要なってくる。原子力エネルギーを今以上の規模で活用するためには、原子炉でのウランの利用効率が高いものを使わなければならず、高速増殖炉が必ず必要になってくる。
  ○
アメリカのナショナル・アカデミー・サイエンスによると、ウラン資源は軽水炉のみの場合、天然ガスや石油より少ないが、高速増殖炉を利用すると石炭と同程度の量に相当することになり、今後何世紀にもわたってエネルギー供給を持続することが可能になる。
  ○
仏国電力公社(EdF)の電力需給データでは、1973年(第1次石油ショック時)は原子力発電は8%に過ぎず石油に負うところが大きかった。今は、原子力発電の部分が75%にまで上昇しており、発電用として石油は殆ど使われていない。つまり、水力と原子力で発電の90%を占め、化石資源には依存していない。このような状況では、原子力エネルギーも当然のことながらリサイクルが必要である。
  ○
11基のPWRでプルトニウムを使っており、炉心の3分の1がウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)である。28基の原子炉が殆ど同型で、同様にMOX燃料のリサイクル能力を持っている。いずれは、全ての原子炉でMOX燃料を使う計画である。しかし、究極的に最適化するには、ウランをプルトニウムに転換する高速中性子炉が必要となる。
  ○
仏国のFBR開発はラプソディ、フェニックス、スーパーフェニックス(SPX)で開発経験を積んできている。全てナトリウム冷却で、MOX燃料を使用している。フェニックスでは約10万時間の運転経験があり、増殖されたプルトニウムによるリサイクルが完成されている。増殖率1.15を実証し、燃焼度は14万4千MWd/tを達成している。照射燃料ピン17万本中、破損した燃料ピンは15本と軽水炉の10分の1程度と少ない。SPXはナトリウム漏えい等のトラブルや許認可上の問題で長期の停止を経験したが、1996年は順調に運転した。その間、1994年にキャスタン委員会により、SPXを研究目的で使用すべきかを検討した。2000年の電力需要が当初の予測を下回り、ニーズが変化したことにより、SPXはプルトニウムの増殖から燃焼に計画を変更し、同時に必要な技術の開発を続けるよう目的を転換した。高速炉の柔軟性等を実証する等の3つの目的を有する知識獲得計画(PAC計画)を進めている。増殖は十分実証されており、もはや急がない。
  ○
仏国は、ヨーロッパ内でEFR(欧州統合高速炉)に関する協力を行っている。また、日本、ロシア、中国とFBRの国際協力を進めている。
  ○
私見ではあるが、FBRは将来のウランの不足に対する保険料のようなもの。技術的な観点から言うと、「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故はマイナーなものである。世界でも発生している多くのナトリウム漏えいの1例でしかなく、安全上問題ではない。

<英 D.プーリ氏の主な講演内容>
  ○
英国は、現状ではFBR開発に活発ではないが、FBRの研究開発のリーダー役を果たしている。英国原子力公社(UKAEA)はドーンレーで原子炉の廃炉や再処理の研究開発を続けている。
  ○
英国は鉱物資源に恵まれておらず、ウランの安定確保が将来問題となると認識していたため、1951年には既にFBR開発を開始していた。
  ○
英国はFBRの技術を実証しており、高速増殖炉を発電の現実的なオプションの1つとすることができた。PFRは運転し易く、安全性にも優れ、1基しか作られない炉としては、20年間の運転期間中において平均64%という高い稼働率を有している。
  ○
政府としては、産業的規模で技術を実証することができたと考えており、今後、計画を進めるかは電力業界が決定すべきとしている。
  ○
英国の原子力発電は、日本と同様電力の約30%を占めているが、これ以上に増加するとは考えていない。主な要因は、電力需要が予測より伸びなかったことである。1980年代は電力発電量が余剰となってしまった。
  ○
また、英国政権により電力供給業界の規制緩和が進み、安い天然ガスが北海から豊富に供給され、コンバインドサイクルガスタービン(CCGT)発電に投資された。つまり、新しい原子力発電を建設するより、CCGTを建設する方が経済的であった。しかし、CCGTは高い既存の石炭火力発電には取って替わったが、既存の原子力発電所に取って替わるほど安くはなく、原子力発電の占める割合は一定レベルとなっている。
  ○
英国政府と電力業界は、高速増殖炉は実現性があり、効率良くウランを利用するものであるが、現在のウラン価格や発電コストの条件下では、近い将来選択される技術ではないと結論している。
  ○
英国は、FBRサイクルが必要になった場合の主要な全ての技術を蓄積し続けている。日本も、FBRサイクルのオプションが必要になったときに、それを利用できるような経験を積んでおく必要があると考える。

<独 G.ケスラー氏の主な講演内容>
  ○
SNR−300は、政府により出資され、オランダ、ベルギー、ドイツの3ヶ国が共同で参加してた。また、電力会社、メーカー、研究機関が参加した。
  ○
ドイツでは原子炉の許認可は州政府によって行われる。メーカーが州担当の省庁に申請する。連邦環境省が州政府を監督し、命令を出すことも可能である。原子炉安全委員会やその他の安全当局が監督にあたる。また、ドイツでの許可は様々な段階で部分毎に分けて与えられる。
  ○
連邦憲法裁判所はSNR−300の建設について2つの訴訟に対応したが、開発を進める方向の判決が出された。また、連邦議会でも委員会を設置して議論され、開発を進める方向性が出された。
  ○
ドイツの原子力委員会でチェルノブイル炉とFBRの類似性の検討が行われ、チェルノブイル炉との類似性はなく十分な安全性を有するとの結論が得られている。また、ベーテ・タイト(炉心損傷)事故に関しても、設計は妥当であるとの結論を得ている。
  ○
この18年の間に建設コストは当初の10倍の70億マルクにも上った。
  ○
SNR−300のサイトがあるノースラインヴェストファーレン州政府の与党である社会民主党(SPD)による政治的な反対により許可が下りず、経済上の理由から、結果的にSNR−300プロジェクトを断念せざるを得なくなった。
  ○
SNR−300プロジェクトの終結は、ドイツが統一された頃に起こった。旧東独への様々な協力が必要であり、予算上の問題もあり、他の原子力プロジェクトも次々に断念された。
  ○
高速増殖炉は、プルトニウムを生成できること、軽水炉で何度かリサイクルした後の汚れたプルトニウムを利用できること、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム等を燃焼できることなどが特徴であり、現在ドイツは、仏国原子力庁(CEA)、英国原子力公社(UKAEA)、英国原子燃料会社(BNFL)と協力して、プルトニウム、アクチニドの燃焼に関するプログラム(CAPRA計画)を行っている。
  ○
殆ど全ての軽水炉は炉心の50%までMOX燃料装荷が許可されている。
  ○
SNR−300プロジェクト終結、再処理プラント閉鎖、MOX燃料生産中止は、核不拡散が原因となったわけではない。

<質疑等>
  ○
仏国の原子力庁はムルロワ環礁水爆実験で有名。 SPXとフェニックスは軍用炉としての性格も併せ持っていると聞いているが、IAEAやユーラトム(欧州原子力共同体)の査察を受けているのか。どれくらいのプルトニウムが爆弾へ転用されたのか。SPXは実証炉として失敗であったと言われているが、どう思うか。1996年の1年間は順調だったが、それ以前の11年間は殆ど動いていない。資本費などの損失はどの機関が負担したのか。電力会社は快く引き受けたのか。プルトニウムの燃焼の研究炉として使うという計画だが、ブランケットを削除するだけのマイナーチェンジで良いのか、炉心構成の大幅な変更が必要となるのではないか。(吉岡委員)
  ○
SPXはユーラトムの査察を受ける。ただ、ごく最近まで査察は行われていなかった。ブランケットで純粋なプルトニウム239ができるのは事実だが、多くのプルトニウムを用いなければ炉心が構成できないというのも事実。1996年はベストな年であった。それまで多くのトラブルを経験したが、その時点で技術的な問題を解決してきた。また、技術的な問題ではなく許認可上の問題で停止した。当初契約では、資金は電力公社(EdF)が51%を負担。それ以外をCEAが分担することになっていた。当初予定されていた投資を超えた分及び運転経費はプラント所有者のNERSA社が負担している。NERSA社との協力関係は2001年末まで延長されることが決まっている。SPXの現在の炉心は、増殖を目的としたもので燃焼炉としては最適ではない。最適にするには、炉心構成を変える必要がある。新しい政令が施行された後、段階的に径ブランケットを取り除いていく計画としている。また、第3炉心では、CAPRA計画の下、集合体規模でより高いプルトニウム燃焼を実証することを計画している。(バレ氏)
  ○
FBRがプルトニウムを扱うということで軽水炉に比べて核拡散のリスクが増加すると考えるか。リスクを低減或いは低く維持する上で、技術的に難しい面があると考えるか。また、社会的な問題があるのか。(近藤委員)
  ○
軽水炉でもプルトニウムができる。これをMOX燃料として軽水炉に戻してリサイクルする。軽水炉とFBRの燃料構成は基本的に同じであり、核拡散のリスクは全く同じと考える。「もんじゅ」についても、核拡散のリスクは軽水炉と比べて高くない。(ケスラー氏)
  ○
プルトニウムのみの炉心の可能性について研究するとあるが、プルトニウムだけの炉にすると制御上難しいと考えるが、技術的な見通しはどうか。将来多くのFBRが運転されるようになった場合も、ナトリウムは十分技術的に制御可能なものと考えるか。(松浦委員)
  ○
プルトニウムを燃焼するときは、プルトニウムを生成しないためにウランを含まない方がよい。しかし、これは炉心としては確かに難しく、ドップラー効果に影響が出る。CAPRA計画では、第一段階としては、まずプルトニウムの比率を増やすが、まだMOX燃料である。将来はウラン無しの炉心も考えている。これはまだ予備的な段階である。軽水炉で数回リサイクルされた汚れたプルトニウムでは、プルトニウムのみの炉心も可能である。まだ実証はされていないが可能性はある。また、人工的にドップラー効果を与えるために、タングステン等を添加することも考えられる。 「もんじゅ」のナトリウム漏えいは技術的にはマイナーであると申し上げた。非常に珍しいという事象ではなく、対策を施せば防げる事象と考える。カダラッシュにナトリウム学校がある。ここでは、ナトリウム火災の消火活動等の訓練が行え、ナトリウム火災が局所的なものであり大きなものでないことが経験できる。「もんじゅ」の事故は、国際的な尺度では、0ないしは1であり、マイナーな事象である。FBRが多数運転されるようになったときに一般がナトリウム漏えいを受け入れるかというところは難しい。軽水炉の水漏れは1〜3万件生じているが制御可能であり、大惨事ではない。世界でFBRが増えてくれば、時には小さな漏れが生じるのだということに人々は慣れて、すぐに修理できることが理解されるかもしれない。(バレ氏)
  ○
FBRをいずれは使える能力を持っておく必要があるとの説明であったが、いつかは役立つというものに今どれくらいのお金を掛ければよいのか。膨大(heavily)ではないが、かなり(significantly)の金額を掛けるということが資料に書かれているが、どの位の金額まで許されると考えるのか。(大宅委員)
  ○
中国、インド、ブラジル等の経済が急成長し、石油、ガスの価格が上昇し、原子力が魅力的になってくると考えている。また、気候変動の懸念から化石燃料の使用を躊躇することになる。FBRに多大な投資をすべきではないと言ったのは、発電能力を向上するためには今は必ずしも高速増殖炉ではなく、ガスに関心が寄せられているからである。新しい技術を早く必要としている国では、準備を整えておく必要があり、フランスでは、このことを強く信じて行っている。英国は、石油、ガス、石炭があり、それほど深刻に考えていない。(プーリ氏)
  ○
フランスは資源小国であるが、アジアはもっと資源小国である。将来に対する資源確保が重要な課題と考える。保険としての技術開発が必要と考えている。フランスでは、保険としての技術開発に関して、国民は納得しているのか。また、フランスでは発電の75%が原子力であるが、これに対する国民、立地地域の住民の考え方はどうか。(内山委員)
  ○
資源に関しては、アジアは確かに深刻である。したがって、原子力開発がアジアの方が活発なのも当然である。 フランスでは、原子力に関する世論調査を毎年行っている。75年には、原子力の支持が低下した。75年〜77年の間は、過半数の人が原発を支持しなかった。その後77年〜80年にかけては変換期を迎え、88〜86年では約2/3が賛成、1/3が反対であった。米国スリーマイル島(TMI)事故はこれに影響を与えなかった。しかし、チェルノブイル事故の影響は大きかった。87年には賛成約1/3、反対約2/3と逆転した。その後、徐々に賛成が回復してきている。最新の世論調査の結果は、10%が原発を作り続けるべきとの考え、60%が既存の炉は運転を続けるべきだが新たなものを作るべきでないとの考え、15%は原発をやめるべきとの考え。 地元の問題は3つあり、一つ目はブルターニュのある地方で原発建設に強い反対があり、建設前にキャンセルされたことがある。2つ目はSPXの地元で、77年〜78年頃に建設反対のデモがあった。これは、他国の人達による反対デモ。78年以降は反対は見られない。3つ目は放射性廃棄物の地層処分場所に対するもので、4ヶ所のサイトの内、3ヶ所で反対があった。このため、サイト決定までに研究開発を実施すると言うことが決められ、研究開発を進めている。(バレ氏)
  ○
FBRは汚れた(高次な[軽水炉で燃えにくい])プルトニウムも燃やせるという特徴を有しており、軽水炉サイクルとして不可欠な要素であるとの言い方が出来る。このため、再処理などの燃料サイクル技術も重要である。軽水炉を補完するものとしてFBRを位置付けたときのサイクル技術開発について説明していただきたい。(秋元委員)
  ○
軽水炉では、プルトニウムが15%を越すと、ボイド係数が正になる等、汚れたプルトニウムを安全に使おうとしたときに限界がある。2回軽水炉で使ったプルトニウムをSPXで使って、高速炉の能力を実証したいと考えている。また、フェニックスではアメリシウムとネプツニウムの燃焼を実験的に実施した。仏国のラ・アーグ再処理工場のUP−2で軽水炉の燃料と混ぜながら高速炉の再処理を実施した経験がある。最終的には、FBR専用の再処理施設が必要と考えている。(バレ氏)
  ○
英国の実証再処理プラントでFBR燃料の再処理の試験を行った経験がある。(プーリ氏)
  ○
軽水炉では4万MWd/tの燃焼度だと、4回程度のプルトニウムのリサイクルが可能であるが、5万MWd/tにすると1回位しかリサイクルできない。この場合、軽水炉のリサイクルは40年位しかできないという計算になる。これ以上については、高速増殖炉が必要となる。(ケスラー氏)
  ○
この懇談会では、今、日本でFBRの開発を継続すべきか否か、継続する場合、どの位の規模にすべきか、これを検討している。ドイツは政治的に中断した。英国は経済的な問題で中断した。日本でもこんな金食い虫に継続してお金を出すのかという議論がある。今の日本の状況について、自国の経験と照らし合わせてどういう印象を持っているか。(河野委員)
  ○
もし、原子力エネルギーを続けるならリサイクルは必要であり、FBRも必要である。その時はナトリウム冷却のFBRになる。米国式の使用済燃料の直接処分の場合、処分廃棄物にプルトニウム、アメリシウム等が加わることになる。日本の場合4千万kWの発電では、年8トンのプルトニウムが発生するので、これが廃棄物として処分され、50年では400トンのプルトニウムが廃棄されることになる。これに加えてアクチノイドがある。他の技術的分野でもリサイクルが盛んに行われている。原子力もリサイクルすべきである。人工的に作られたプルトニウムという物質の管理が必要であり、これを全て捨てるのであればエコロジー的な解決策ではない。そのためには、まず、軽水炉でリサイクルし、次にFBRでリサイクルすることになる。(ケスラー氏)
  ○
原子力を利用する限り、軽水炉によるワンススルーの米国式のやり方は危険であると思う。幾つかの国で軽水炉燃料の再処理を行い、MOX燃料の技術を開発し、軽水炉で使用することが重要であると考える。数千億円も掛けて「もんじゅ」を建設した後、活用しないことになれば残念である。我々イギリスも、フランスも、ドイツもFBRに関する情報を提供してきた。「もんじゅ」が国際的にFBRの知見に貢献できないのであれば残念である。ただし、いつ日本がフルスケールのFBRに投資すべきかという問題は難しい。(プーリ氏)
  ○
英国ではガス発電が盛んになっているが、二酸化炭素の問題で化石燃料を使うエネルギー確保は早晩やらなくなるであろう。原発が今以上に重要な役割を持ち、当然FBRも重要になると考えている。定量的な議論をしながら、FBRをどういうスケジュールで進めていかなければならないかを決めるべきと考えている。このことに対してご意見はあるか。(西澤座長)
  ○
ガス発電が急成長してきたが、英国では二酸化炭素の排出が増えていない。これは、二酸化炭素排出量の多い従来の石炭火力の代替として導入したからであり、むしろ減ってきている。英国政府は、二酸化炭素の排出を減らした国として自慢することになると思う。今後、各国の経済成長が進み、化石燃料の価格が高騰し、原子力エネルギーの経済性が上がると考えている。(プーリ氏)
  ○
アジア地区では、石炭・石油を全面的にガス発電に変えても、なお二酸化炭素が増える。ガス発電も良いが、それだけでは事柄が収まらない。(西澤座長)
  ○
欧州で次の軽水炉を建設するのに10数年かかり、次の高速炉を建設するのは早くても15年か20年後になる見通しの中で、"use fast reactors"という資料中の表現のは、作ることまで含むのか。今後、どのように技術を継承していくのか。(谷口審議官)
  ○
高速増殖炉のオプションを行使するためにはある程度の運転経験が必要で、我々はその運転経験を持っている。サイクル技術も必要である。我々は、必要になった時に必要な設計ができる能力があると考えている。技術を継承するために大型プラントの建設は必要である。プラントを作らない状況を何年も続けるわけにはいかない。だからこそ、日本は「もんじゅ」を使うということが大事となり、「もんじゅ」からの知見、情報が必要となる。それは、ループ型炉とプール型炉の比較対象を行う際に必要となる。1000MWの高速増殖炉を作って、そういうオプションを維持しておくことは、ヨーロッパでは10年以上無理。(プーリ氏)
  ○
2010年まで新しい発電所が必要ないと言っても、EPRの発注は行われ、既存の老朽化した軽水炉の置き換えの発注が出て来る。人材を維持する必要があるが、少なくとも1基が常に運転中であれば、経験を積んだ人材を維持することは可能である。しかし、運転中のプラントがなくなると人材の維持が困難となる。もし、SPXが閉鎖され、次の具体的なプロジェクトが計画されなければ困る。数年後には研究が死に絶えてしまう。(バレ氏)
  ○
「もんじゅ」については、各国から色々な技術的アドバイスをもらったのだろうが稚拙な事故を起こした。「もんじゅ」は開発も含め時期尚早だと思うが、研究は続けるべきだと思う。「もんじゅ」は、研究ということで運転を続けるには規模が大きすぎないか。研究炉として縮小するためにお金が掛かるのか。研究炉と見なす場合、運転面の経済性・コストパフォーマンスはどうあるべきか。(中野委員)
  ○
研究炉の運転には幾つかの目的がある。システム全体についての経験を蓄積するには、「もんじゅ」は大きすぎると言うことはない。今ならば、 SPXのような大きな炉は作っていない。ただし、SPXは既に存在しており、これを利用すべきである。運転費用は売電収入でカバーでき、研究結果を得るための新たな投資は必要ない。(バレ氏)
  ○
人間一人前になれば、自分の行動原理で決めなければならない。国でも同じである。次回以降、今日の議論を元にして、これから「もんじゅ」をどういうふうに考えていくかを議論していきたい。(西澤座長)
  ○
イギリスとドイツは高速増殖炉開発を中断しているが、将来の開発再開に備えて準備を行っているか、その際の技術や人材の保存を考えているか。私はFBRミュージアムやFBRアーカイブを作り、技術保存を行っても良いと思う。また、FBR開発を行っていた人は開発中止により、どのような分野に移っていったか、そこにどういう困難さがあったか。(吉岡委員)
  ○
SNR−300を中断し、独国ジーメンス社の人は軽水炉の開発に当たったが、殆どの科学者とエンジニアはそこで引退した。炉物理や安全性といった研究は仏国と共同で継続している。原子炉の設計についても研究を継続している。我々、恵まれているのは、ヨーロッパに所在しているということで、三カ国で同じ原子炉を開発しても仕方がない。SPXに参加し、コストも分担している。ドイツでは将来に向けて、ナトリウム技術、原子炉部品の製造、システム設計等を行っており、仏国フラマトム社と独国ジーメンス社は軽水炉と同じ形で今でも協力できると思う。。他にもMOX燃料製造プラントと再処理プラントもそうであり、英仏は協力している。日本では、高速増殖炉開発をあきらめて3年も経つと、高速増殖炉の作り方を覚えている人がいないという状況になってしまう。ドイツは日本と異なり、フランスの隣に所在しているという利点がある。(ケスラー氏)
  ○
ドーンレーには情報センターがあり、関連情報等を展示している。撤退しても、重要な情報は書庫に秩序だった形で納められており、必要な時に情報を取り出せるような体制を整えようとしている。FBR開発を実施していた人の一部は英国原子燃料会社(BNFL)、一部の人は他の分野、一部の人は残って廃炉の研究に関与している。廃炉について考えることは非常に重要である。将来、FBRを作るためにも非常に参考になる。(プーリ氏)
  ○
FBR開発を日本で進めることは、日本だけでなく、世界全体の仕事であると思う。今後、本日の議論を踏まえて検討を進める。(西澤座長)

(3)
事務局より、次回以降の予定について下記のとおり説明があり了承され、閉会した。
  ○
次回は5月26日(月)10時から、通産省に新エネルギーに関する説明をお願いしている。また、FBRの安全性、技術的見通しの議論を予定している。
  ○
第6回は6月20日(金)14時、第7回を7月30日(水)14時から開催することとしたい。
  ○
内山委員より、次回、新エネルギーに関する資料を提出したい旨の発言があり、事前に提出して頂くことで座長より了承された。





高速増殖炉懇談会構成員

秋元 勇巳   三菱マテリアル(株)取締役社長
植草  益   東京大学経済学部教授
内山 洋司   (財)電力中央研究所経済社会研究所上席研究員
大宅 映子   ジャーナリスト
岡本 行夫   外交評論家
木村尚三郎   東京大学名誉教授
河野 光雄   内外情報研究会会長
小林  巌   フリージャーナリスト
近藤 駿介   東京大学工学部教授
住田 裕子   弁護士
鷲見 禎彦   関西電力(株)取締役副社長
竹内佐和子   長銀総合研究所主任研究員
中野不二男   ノンフィクション作家
西澤 潤一   東北大学名誉教授(前総長)
松浦祥次郎   日本原子力研究所副理事長
吉岡  斉   九州大学大学院比較社会文化研究科教授
(平成9年5月時点)