資料第3−3号


高速増殖炉の建設コスト目標



平成9年4月15日
日本原子力発電(株)



1.はじめに
 高速増殖炉は、現在は軽水炉で一部しか利用していない99.3%を占めるU238をエネルギーとして利用するものであり、ウランという資源を用いてのエネルギー供給手法は同一であるので、軽水炉と同様に産業を支える基幹エネルギーになると考えられている。
 軽水炉では、現在発生するエネルギーの約34%を電気エネルギーに変えているが、このエネルギー変換効率を著しく向上させることは難しい。一方、高速増殖炉では、沸騰温度の高いナトリウムを原子炉の冷却材として使用するため、変換効率は約42%に達する。
 エネルギー資源の経済的消費の点から見ても、高速増殖炉は有限のウラン資源を最大限有効に利用出来、またエネルギー変換効率も高いので、将来の電力生産設備として望ましい特性を備えている。

2.技術開発を進める際の建設コスト目標
 経済性向上を目指した技術の開発は、将来実用化する時点で軽水炉並みの建設コストを達成することを目標として進めている。
 エネルギー需給が逼迫して化石燃料とウラン資源の価格が上昇し、入手が困難になれば、相対的に高速増殖炉が有利になり、実用化と導入が進む。 しかし、技術開発の戦略を立てるにあたっては、エネルギー需給の逼迫が緩やかに到来するとともに、当面は化石燃料を含めたエネルギー資源が確保できるという楽観的な状況を想定する。 
 このような状況を想定すると、高速増殖炉と軽水炉がかなりの期間共存すると見込まれることと、高速増殖炉に切り替わっていく段階で急激な価格の上昇は好ましくないことから、軽水炉並みの建設コストを目指した技術開発を進めている。 

3.実証炉の推定建設コスト
 「もんじゅ」は我が国最初の高速増殖炉発電プラントであったため、軽水炉に比べかなり高い建設コストになっている。このため、「もんじゅ」の設計・建設の経験を活かし、如何にして建設コストを下げるかについて(電気出力100万kW級で軽水炉の約1.5倍程度を目標)の検討と、以下のような技術の開発を進めている。

 これにより、大出力化(100万kWe)したとしても、「もんじゅ」より小型の発電所とすることが期待でき、物量の削減を図ることが可能と考えられる。
 大出力の実証炉、「もんじゅ」並びに軽水炉の主要な物量の比較を表1に示す。

4.実証炉から実用化に向けての建設コストの低減
 高速増殖炉の実用化にあたって、建設コストを如何にして軽水炉の建設コストに近づけていくかという事が重要な課題となる。
 実証炉から先の建設コスト低減の見通しとしては、以下のようなコスト低減のための方策が考えられる。

 また、欧州でも、複数基作ることにより20%は建設コストが下がると評価しており、新しい技術の開発あるいは設計の改善と併せ、軽水炉並みのコスト達成が可能となると考えられる。

5. 環境に与える負荷
 高速増殖炉は、燃料の中の燃えるプルトニウムが消費される一方で、ほぼ同じくらいのプルトニウムが出来るために、燃焼可能な物質はあまり減少せず、軽水炉に比べると燃料から大量の熱を取り出すことが出来る。 使用済燃料を何等かの形で完全に処理しなければならないのは軽水炉と同様であるが、処理すべき量が少なく、仮に処理に手間が掛かったとしても、全体として環境に影響を与える廃棄物の量は軽水炉に比べて少なくできる可能性がある。
 従って、発生する廃棄物を考慮しても高速増殖炉は、他のエネルギー生産設備に比べて遜色ないと考える。

6.終わりに
 資源の殆ど無い我が国は、将来起こるかもしれないエネルギー需給の逼迫を防ぐために、代替エネルギーの開発を始めとして種々の対策をとっていく必要がある。高速増殖炉は、将来的には核燃料サイクルの中核になる技術であり、将来のエネルギー源の重要な選択肢の1つとして着実に技術の開発・蓄積を図っておくことが重要である。
  一方、大規模かつ長期の開発を必要とすることから、今後の技術開発については、将来的な不確定要素を勘案しつつ進めていくことが必要であり、今後とも適切な諸段階において、エネルギー情勢、技術開発のリードタイム等、経済・技術・社会等多様な観点からチェックアンドレビューを行い、その必要性や進め方を見直していくことが適切である。