原子力基盤クロスオーバー研究

の展開について(案)








平成10年2月

原子力委員会

基盤技術推進専門部会








              
目    次



は じ め に

第1章 クロスオーバー研究の位置付けについて

第2章 クロスオーバー研究の実施状況について

 1.各技術領域における研究進捗状況

  (1) 原子力用材料

  (2) 原子力用人工知能

  (3) 知的活動支援

  (4) 原子力用レーザー

  (5) 放射線リスク評価・低減化

  (6) 放射線ビーム利用先端計測・分析

  (7) 原子力用計算科学

 2.研究推進体制の現状

  (1) 大学等及び民間研究機関との間のクロスオーバー研究

  (2) 研究評価の実施

  (3) 研究交流の推進

第3章 クロスオーバー研究の新たな展開について

 1.第3期クロスオーバー研究の基本的考え方

 2.クロスオーバー研究の効率化・活性化・高度化に係る推進方策

  (1) 公募によるクロスオーバー研究の効率化・活性化

  (2) 評価の充実によるクロスオーバー研究の効率化・活性化

  (3) 研究交流の促進によるクロスオーバー研究の高度化・活性化

 3.推進すべき研究テーマ

  (1) 放射線生物影響分野

  (2) ビーム利用分野

  (3) 原子力用材料技術分野

  (4) 知能システム科学技術分野

  (5) 計算科学技術分野

(参考1)  基盤技術推進専門部会における検討経緯、構成員等

(参考2)  原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画

      (平成6年6月24日原子力委員会)抜粋







































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は じ め に



 昭和62年6月に策定された原子力開発利用長期計画(以下「長期計画」という。)において、創造的科学技術の育成が基本目標の一つとして掲げられ、その中で基礎研究の充実、先導的プロジェクト等の効率的推進とともに、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発を結びつける基盤技術開発の重点的推進を図ることとされた。これを受け、昭和62年9月に原子力委員会基盤技術推進専門部会(以下「基盤部会」という。)が設置され、基盤部会の下で我が国における原子力基盤技術の研究が推進されてきた。
 原子力基盤クロスオーバー研究(以下「クロスオーバー研究」という。)は、原子力基盤技術の中で、複数の研究機関のポテンシャルを結集して実施する必要がある研究テーマについて、研究機関間の積極的な研究交流による研究開発を推進するために平成元年度から始まり、既に9年が経過した。
 クロスオーバー研究は、平成9年夏に行われた第2期(平成6年度~10年度)研究中間評価において、概ね優れた研究成果を挙げつつあり、十分な寄与をしているとの評価を受ける等着実に成果を挙げてきた。今後も安全性・信頼性・経済性の向上という、原子力技術に課せられた今日的課題のブレークスルーを図り、次世代に向けた原子力技術体系の構築を目指していくには、クロスオーバー研究の一層の推進を図っていく必要がある。また、国内外の科学技術も急速に進展しつつあり、クロスオーバー研究の推進に当たっては、国内外の科学技術の成果等を積極的に取り入れるとともに、クロスオーバー研究の成果等を産業や社会を含めた他分野にさらに波及させるよう努力することが必要である。
 本報告書は、今日までのクロスオーバー研究の推進状況や科学技術の新たな進展等を踏まえ、他分野からの評価にも耐え、将来の科学技術を先導できるような第3期クロスオーバー研究の新たな展開方策について取りまとめたものである。


第1章 クロスオーバー研究について

 我が国における原子力開発利用は、従来のキャッチアップ的技術開発から脱皮し、原子力開発利用における技術先進国の一員として、従来の技術体系に飛躍を与える創造的・革新的技術開発に積極的に取り組む必要があった。また、次世代に向けた原子力の在り方を模索し、提言としていくことが今日の日本の原子力界に問われている課題であった。
 このような認識の下、長期計画において創造的科学技術の育成が基本目標の一つとして掲げられ、その中で基礎研究の充実、先導的プロジェクト等の効率的推進とともに、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発を結びつける基盤技術開発の重点的推進を図ることとが提言された。
 この提言に基づき設置された基盤部会は、昭和63年7月に「原子力基盤技術の推進について」を取りまとめ、長期計画に示された原子力用材料技術、原子力用人工知能技術、原子力用レーザー技術及び放射線リスク評価・低減化技術の4技術領域において、推進すべき研究開発課題と技術開発の効率的な推進方策を具体的に示した。
 この基盤部会報告に沿って、原子力基盤技術の中で、各研究機関のポテンシャルの結集が必要であり、個々の研究機関単独では速やかに成果を得ることが困難な多岐に亙る技術開発要素からなる研究をクロスオーバー研究として、平成元年度から国立試験研究機関及び特殊法人(日本原子力研究所、理化学研究所及び動力炉・核燃料開発事業団)等の研究ポテンシャルを有機的に連携して開始した。いわば、クロスオーバー研究は、国立試験研究機関、特殊法人等が連携・協力することによる相乗効果により研究開発を効率的に推進し、原子力の分野で開発された基盤技術の研究成果を産業や社会を含めた他分野に波及することを目的とした研究制度であり、自らの技術分野に埋没しがちであった原子力技術にブレークスルーを引き起こし、ひいては我が国の科学技術全体を先導していくような原子力技術を研究開発するシステムであった。
 さらにクロスオーバー研究は、平成5年4月の基盤部会報告「原子力基盤技術開発の新たな展開について」を踏まえ、知的活動支援、放射線ビーム利用先端計測・分析及び原子力用計算科学を新たに技術領域に追加し、拡張・発展させた第2期クロスオーバー研究を平成6年度から開始した。

第2章 クロスオーバー研究の実施状況について

 クロスオーバー研究は、平成元年度に開始され、約9年を経過した。その間、クロスオーバー研究は、平成5年度に第1期を終了し、平成6年度から平成10年度の間、第2期を推進している。第2期は、国立試験研究機関及び特殊法人等において、①原子力用材料、②原子力用人工知能、③知的活動支援、④原子力用レーザー、⑤放射線リスク評価・低減化、⑥放射線ビーム先端計測・分析及び⑦原子力用計算科学の7技術領域に関する研究開発が進められており、平成9年度現在、のべ45研究機関により10研究テーマの研究開発が行われている。また、平成9年度の予算総額は、約13億円となっている。
 7技術領域における研究開発の進捗状況及び研究推進体制の現状は、以下の通りである。

1.各技術領域における研究進捗状況
(1) 原子力用材料
 ① 複合環境用マルチコンポジットマテリアル(MCM)の開発
 本研究テーマは、第1期の「原子力極限環境材料の開発に関する研究」を引き継いで推進しているもので、原子力施設において最も重要な異種の複合環境間のバリアーとして長期間供用する圧力バウンダリー材料を念頭にしてMCMの創製並びに環境及び材料の諸特性の解析技術の開発を目指すものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
 本研究テーマでは、材料という一見漠たる課題を対象としながら、統一課題としてのMCM創製に向けて着実に進展があり、新しい複合環境材料創製に向けての的確な学術的挑戦方法が明確になっていることが高く評価される。今後は、当初目標の研究成果、波及効果を得るために、クロスオーバー性の向上を図るとともに、実用化を念頭においたMCMの実環境又は模擬環境における評価を中心とした研究を推進する必要がある。

(2) 原子力用人工知能
 ① 自律型プラントのための分散協調知能化システムの開発
 本研究テーマは、第1期の「原子力用人工知能を具備した原子力施設のシステム評価研究」を引き継いで推進しているもので、原子力施設のプラント異常・故障時においても、人間の対応も含め高度な対応が可能となる運転制御システム技術、保全システム技術及びロボット技術の研究開発を行うものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
 本研究テーマでは、要素技術を中心に成果が得られつつあり、エージェントシステム的な機能配分、運転制御システム、保全システム技術とロボット技術を共存させる視点など、興味深く有望と思われる点も多い。一方、工場等でのプラント運転におけるヒューマンエラーの研究、原子力産業におけるロボット研究等も進んでいる。今後は、このような、外部の研究の進捗状況を勘案するとともに、知的活動支援の技術領域の研究成果を有効に活用し、研究を推進する必要がある。

(3) 知的活動支援
 
 ① 原子力施設における知的活動支援の方策に関する研究
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、設計で想定した状況を超える事象が発生した場合に、運転員に要求される知的活動を支援するとともに、その知的活動を的確に遂行するうえで要求される知的対処能力の獲得及び維持を支援する方法を確立するための基礎及び基盤を構成するものであった。また、平成9年度現在3研究機関が参加している。
 本研究テーマは、ソフト科学的な側面を強く持っており、原子力分野では新しいアプローチといえ、個々の研究課題の設定及びそのアプローチの選択は大枠では適切なものと評価される。一方、原子力産業における運転支援システム研究も相当のレベルにあること、本テーマによる研究成果の多くは原子力用人工知能の技術領域に展開できること等から、原子力用人工知能の技術領域と密接に協力して研究を進める必要がある。

(4) 原子力用レーザー
 ① 原子力用レーザー(自由電子レーザー:FEL)実用化の研究開発
 本研究テーマは、第1期「原子力用新レーザー(自由電子レーザー)の研究開発」を引き継いで推進しているもので、物理、化学、生物等の基礎研究分野に新しい研究手段を与えるとともに、研究開始当時ウラン濃縮、廃棄物群分離等の広範な応用が期待されていたFELの高品位化、高出力化等の実用化のための技術開発を行うものであった。また、平成9年度現在、4研究機関が参加している。
 本研究テーマでは、FELの基盤技術を創るとともに、要素技術間の融合により、新しい世代のFEL研究を進めるという研究が期待通り進展しているとともに、我が国のFEL研究の呼び水となったことは評価される。しかし、現状ではFELのウラン濃縮等の原子力分野への利用について経済性等の観点でレーザー技術その他の技術に対する優位性が低下してきており、本研究テーマのクロスオーバー研究としての役割は終了したものと考えられる。

(5) 放射線リスク評価・低減化
 ① 新たなDNA解析手法を応用した放射線突然変異の検出・解析技術の開発
本研究テーマは、第1期「放射線による染色体異常の高速自動解析システムに関する研究」を引き継いで推進したもので、DNA解析技術等を用いて放射線による突然変異がもたらすDNAのミクロ/ナノレベルの異常を検出し、さらにそれに基づく構造変化を解析するものであり、最終的に、線量評価及び突然変異の可視化を目指すものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
 本研究テーマでは、突然変異検出法の確立、検出の自動化への寄与等の成果は得られつつある。しかし、放射線の生物効果の分子機構についての視覚化等今後解明が期待されるものも多く、今後の更なる研究を必要とする。

 ② 放射性核種の環境中移行の局地規模総合的モデルに関する研究
本研究テーマは、第1期の途中(平成3年度)から開始された課題で平成7年度に終了した。また、平成7年度まで、5研究機関が参加していた。
 本研究テーマでは、放射性核種の大気拡散、水循環機構等の局地規模のモデルの構築や大気・土壌から植物への移行のモデル化の手がかりを得るなど成果を挙げている。

 ③ 陸域環境における放射性核種の移行に関する動的モデルの開発
本研究テーマは、第1期「放射性核種の環境中移行の局地規模総合的モデルに関する研究」を引き継いで推進するもので、平成8年度から開始され、大気、土壌から農作物への核種移行を水循環と関連付けながら、様々な実験によりデータ・パラメータを整備し、その時間経過を追う動的解析モデルの開発を目指すものであった。また、平成9年度現在、6研究機関が参加している。
 本研究テーマは、開始後2年しか経過しておらず外部専門家等による中間評価は受けていないものの、個々の研究課題では成果が得られつつある。今後の研究推進に当たっては、農林水産系、環境系の国立試験研究機関の参加を得るなどクロスオーバー性を向上させるとともに、必要なデータを取得し、動的解析モデルの開発を更に重点的に推進する必要がある。

(6) 放射線ビーム利用先端計測・分析
 ① 陽電子ビームの発生・制御技術の高度化に関する研究
 本研究テーマは、第2期から開始されたもので、高強度の陽電子ビーム発生及びその高品位化のための基盤技術を開発するものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
 本研究テーマでは、世界の陽電子ビーム研究が高強度化に重点が置かれているのに対し高品位化のための制御技術に重点を置いたこと、また、実験室レベルで実用に耐えうる陽電子ビームの発生・制御技術が概ね得られたことは、十分評価される。このため、今後はクロスオーバー性の向上を図りつつ、陽電子ビームの高度化とともに材料、基礎物理・化学、バイオ技術等への応用技術の研究を行う必要がある。

 ② 高輝度放射光の先端利用のための基盤技術の研究開発
 本研究テーマは、第2期から開始されたもので、放射光ビーム形成技術及び放射光利用技術を研究開発し、放射光利用に必要なビームライン要素の基盤技術を確立することを目標としたものであった。また、平成9年度現在、5機関が参加している。
 本研究テーマでは、高分解能モノクロメーター、多層膜ミラー等、第3世代放射光施設のビームラインの要素技術開発等に成果が得られつつあるとともに、これら成果を利用した大型放射光施設SPring-8のビームラインが設置され、同施設の供用が開始されていること等は評価される。しかし、現在ではSPring-8の運営主体である(財)高輝度光科学研究センターにおいてSPring-8のビームラインの高度化の研究が進められているとともに、日本原子力研究所、理化学研究所、無機材質研究所、放射線医学総合研究所等のクロスオーバー研究参加研究機関が独自にSPring-8のビームライン設置に関する研究が進められており、本研究テーマの役割は終了したものと考える。

(7) 原子力用計算科学
 ① 原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算科学的解析法の開発とその応用
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、ミクロ/マクロ双方の観点から、原子力用機器等の劣化・損傷機構を解明し、与えられた使用条件において起こり得る劣化・損傷影響を予測することで、劣化・損傷を未然に防ぐ効率的、経済的、合理的な材料設計、及び機械・構造設計を可能とする高度な計算手法を開発するものであった。また、平成9年度現在、4研究機関が参加している。
 本研究においては、ミクロ組織(1μm~1mm)、構造要素(マクロ組織;1mm~1m)、構造物(0.1~10m)の各階層について成果が挙げられつつある。一方、計算科学の分野は、ハード、ソフトとも進歩がめざましい分野であり、今後の研究推進に当たっては、内外の研究レベルを十分に勘案するとともに、「②計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明」と密接に協力して研究を進める必要がある。

 ② 計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、原子力システムの高性能化を図るために、並列・分散処理システムを用い、原子力特有の物理現象が相互作用した複合事象を解明するものである。また、平成9年度現在、3研究機関が参加している。
 本研究においては、工学的技術(流体-構造形状の流体解析)、基礎的技術(熱伝導-対流遷移解析、等)及び計算機利用技術(高性能数値解析等)等の分野で成果は得られつつある。今後、このような研究には並列・分散処理を行う超高速計算システムの存在が不可欠なため科学技術庁が推進している超並列コンピュータの開発プロジェクトと協力しつつ推進する必要があるとともに、この研究テーマの成果は原子力用構造材の構造解析等に応用可能であること等から、「①原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算科学的解析法の開発とその応用」と密接に協力して研究を進める必要がある。

2.研究推進体制の現状
(1) 大学等及び民間研究機関との間のクロスオーバー研究
 第2期におけるクロスオーバー研究は、国立試験研究機関及び特殊法人等の相互間の研究交流による研究開発が基本であった。大学等及び民間研究機関との関係は、クロスオーバー研究に参加した個々の研究機関の判断で、個々の研究機関と大学等又は民間研究機関との間で共同研究・受委託研究を実施したり、客員研究員等として研究機関に招聘したりする等、全体としてのクロスオーバー研究を展開した。
 この方式は、限られた資金の中で、国立試験研究機関及び特殊法人等以外の大学等及び民間研究機関といった優れた研究ポテンシャルを活用するといった意味で有効に機能してきた。一方、大学等及び民間研究機関へ国から直接の資金支援がなく、大学等及び民間研究機関のクロスオーバー研究への参加が促進されなかった点は今後の課題として残る。

(2) 研究評価の実施
 第2期クロスオーバー研究は、「原子力基盤技術開発の研究評価について」(平成3年10月基盤部会;以下「基盤評価報告書」という。)に基づいて外部専門家等による研究評価を実施した。具体的には、各研究テーマの実施に当たっては事前評価を実施するとともに、平成8年度から開始された1研究テーマを除き、既に中間評価を実施した。また、平成7年度に終了した1研究テーマについては、事後評価を実施した。なお、本報告書は、この中間評価も踏まえ検討したものである。

(3) 研究交流の推進
クロスオーバー研究では、第2期から参加研究者の海外研究機関等への派遣及び海外の研究者の招聘による国際交流を開始した。
 また、国内にあっては、大学等、民間研究機関等の研究者を客員研究官制度等既存の制度を活用して研究機関に招聘するとともに、研究推進に当たって各技術領域毎に産学官の研究者から構成される研究交流委員会(20人程度)を設置する等、研究交流に努めている。
 さらに、各研究テーマでは、適宜、国際シンポジウムやワークショップを開催し、意見の交換、成果の普及、研究交流に努めている。


第3章 クロスオーバー研究の新たな展開について

1.第3期クロスオーバー研究の基本的考え方
平成元年にスタートしたクロスオーバー研究は、第2期も終期を迎えつつあり所期の目標を達成しつつある。また、平成9年夏に外部専門家等により行われた第2期研究中間評価において、概ね優れた研究成果を挙げつつあり、十分な寄与をしているとの評価を受けている。このような背景をもとに、今後もクロスオーバー研究を積極的に推進することが適当である。
 第1期及び第2期クロスオーバー研究は、国立試験研究機関、特殊法人等が協力することによる相乗効果によって原子力基盤技術に関する研究開発を効率的に推進することと、原子力の分野で開発された基盤技術の研究成果を産業や社会を含めた他分野に波及することを目的に推進されてきた。
 平成11年度から開始する第3期は、第2期の研究成果を踏まえて相乗効果を目指すことはもちろんであるが、研究テーマによる違いはあるものの相当程度長期間にわたって研究が継続されており、波及効果にも重点を置いて研究開発を推進することが適当である。従って、第3期の研究期間は5年間とするものの、中間評価が行われる3年程度である程度明確な目標が立てられるような研究テーマのみを選定し、推進する。

2.クロスオーバー研究の効率化・活性化・高度化に係る推進方策
(1) 公募によるクロスオーバー研究の効率化・活性化
クロスオーバー研究は、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発とを結びつける基盤技術開発を効率かつ円滑に進めるために国立試験研究機関及び特殊法人等のもつポテンシャルを最大限に活用して研究開発を推進する制度である。また、個々の研究課題の中には、大学等又は民間研究機関との間で共同研究等を行い、研究開発の効率化、高度化に努めており、クロスオーバー研究は産学官が有機的に連携した研究開発制度となっている。
 今後は、研究テーマに参画する研究機関(研究課題*)を国立試験研究機関、特殊法人等のみならず、これら研究機関を通じ大学等、民間研究機関からも公募することにし、研究機関間の競争性を高め、クロスオーバー研究を更に活性化し、研究成果を上げるよう努めることが重要である。
 なお、国は研究を推進するための機器、設備等及び研究交流を必要とする国立試験研究機関及び特殊法人等にそのための研究資金等を配分するとともに、大学等がクロスオーバーに参加し易いよう支援方策について検討する必要がある。

  *:クロスオーバー研究では、
     ①技術領域の下に、1~数個の研究テーマが設定され、
     ②その各研究テーマの下で、複数の研究機関が各々独立した研究課題を推進している。

(2) 評価の充実によるクロスオーバー研究の効率化・活性化
 クロスオーバー研究は、今まで基盤評価報告書に基づいて研究評価を実施し、評価結果を研究推進に反映してきた。一方、昨年「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月内閣総理大臣決定)が策定され、国、研究機関等において研究評価の考え方等の策定、見直し等が行われており、本基盤部会において基盤評価報告書の見直しを進めているところである。
 クロスオーバー研究の推進に当たっては、この基盤評価報告書の見直し結果に基づき、外部専門家等による厳正な評価を実施し、その適切さを判断するとともに、国はその評価結果を適切に研究資金等の研究開発資源の配分に反映することなどにより、研究活動の効率化・活性化を図り、より優れた成果を上げていくことが重要である。
 具体的には、クロスオーバー研究の個々の研究課題について、事前評価、中間評価及び事後評価を厳正に実施し、その結果をクロスオーバー研究の推進に反映させることが重要である。
 なお、上記1.に示したとおり第3期後半は、中間評価結果に基づき推進する。

(3) 研究交流の促進によるクロスオーバー研究の高度化・活性化
クロスオーバー研究の特色は、研究に参加した研究者間の交流、シンポジウムの開催等の研究交流による研究の高度化・活性化が挙げられる。特に、参加研究者の海外研究機関等への派遣及び海外の研究者の招聘による国際交流は、クロスオーバー研究の活性化、高度化に大きく寄与するとともに、クロスオーバー研究の研究成果の国際的な展開に資している。また、国内においても大学等、民間研究機関の研究者等との交流も研究の推進に効果がある。 このため、国は海外派遣の充実、客員研究官等の充実等を中心に研究交流が更に加速するための努力が必要である。

3.推進すべき研究テーマ
 上記1.の基本的考え方に基づき、本基盤部会では、第3期クロスオーバー研究として推進すべき研究テーマを以下のとおり選定する。
 また、技術領域については、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(平成6年6月24日原子力委員会)を踏まえ、現在の7技術領域(原子力用材料、原子力用人工知能、知的活動支援、原子力用レーザー、放射線リスク評価・低減化、放射線ビーム利用先端計測・分析及び原子力用計算科学)を5技術領域(放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野)に組み替える。なお、ソフト系科学技術分野に関しては、技術分野領域が広範となるため、特に原子力分野にとっても極めて重要であり、また一般の構築物の安全性等に広く波及効果がある知能システム科学技術分野を中心に据えて行う。

(1) 放射線生物影響分野
原子力開発利用の進展及び宇宙等への人類の活動領域の拡大を支える基盤技術開発として放射線の生物影響を体系的に明確化することは、安全確保の観点から極めて重要である。

 ① 放射線障害修復機構の解析による生体機能解明研究
 ヒトを含めて生物は放射線に対して防御機構を備えていると言われている。また、低レベルの放射線量による刺激はこの防御機能を活性化するという報告もある。この防御機構の活性促進法の解明により、放射線作業従事者、放射線治療患者等の放射線による障害の予防・低減化、宇宙空間の長期滞在等への途が拓けることとなる。
 このため、遺伝子損傷即ち突然変異の誘発から修復するまでの一連の過程をナノレベルで可視化する技術を完成し、防御機能の活性促進法を解明する。

 ② 放射性核種の土壌生態圏における動的解析モデルの開発
原子力施設等の事故による放射線の生物影響に関する研究開発を進めるためには、事故直後はもちろんのこと、中・長期に亙った被ばく線量評価及び放射線リスク評価が必要である。
 このため、環境中に放出された放射性核種の土壌生態系における蓄積のメカニズムを究明し、その動的モデルを開発するとともにモデルの検証を行う。

(2) ビーム利用分野
粒子線、レーザー等各種ビームの先端的利用は新たな原子力利用の途を拓くものであり、応用の幅が広い基盤技術としてこれを推進する。

 ① 高品位陽電子ビームの高度化及び応用研究
陽電子ビームは、物質表面の微細構造等を分析するのに適しており、次世代半導体、表面機能材料等の開発等のため世界各国で陽電子ビームの発生・利用に関する研究が進められている。
 このため、高品位な陽電子ビームの高度化を図るとともに、物質最表層の構造等の物性解析への応用技術を開発する。

 ② マルチトレーサーの製造技術の高度化及び利用研究
マルチトレーサーは、多数の放射性同位体(RI)を含んでおり、生物学、基礎医学、臨床、環境科学、材料物性研究等への様々な応用が可能である。
 このため、マルチトレーサーの製造技術の高度化のための研究開発を行うとともにマルチトレーサーから放射される各種γ線を同時計測する手法の開発等を行う。

 ③ アト秒パルスレーザー技術の開発及び利用研究
 アト(10-18)秒オーダーのパルスレーザーは、原子力分野では放射線照射による材料・構造物等の劣化現象の解析等への利用、科学技術分野では新素材生成のメカニズムの解明等への利用等、先端計測・分析手法としての応用の幅が広く、基盤技術の一つと位置付けられる。
 このため、特に基盤技術開発の視点に立って、アト秒オーダーのパルスレーザーの発生の実証及び高度化を行うとともに、そのための計測技術の開発等を行う。

(3) 原子力用材料技術分野
材料技術については、21世紀の新しい原子力技術の発展の鍵となる基幹的要素技術であり、他の分野への波及効果も大きいものと期待されることから基盤技術としてその研究開発を進める。

 ① 原子力用複合環境用材料の評価に関する研究
 劣悪な環境の下で構造材としての機能を喪失しないマルチコンポジットマテリアル(MCM)は、原子力エネルギーシステムにおいてニーズの高い複合環境用材料の一つである。
 このため、放射線作用と物理的化学的な侵食・腐食作用が重畳した実機条件に近い模擬環境下において、MCMの複合化技術及び諸特性のモニタリング技術の評価試験を実施し、実用化を念頭にしたこれら技術の最適化を図る。また、開発手法の整備を行うとともに総合的な材料設計評価等を行う。

(4) 知能システム科学技術分野
 人間の知的活動の解明とそのコンピュータ等による代替技術の開発を含む知能システム科学技術の応用は、巨大かつ複雑な原子力施設の運転・保守等をより確実で扱い易いものにし、安全性の一層の向上等を図るために重要である。

 ① 人間共存型プラントのための知能化技術の開発
原子力プラントの安全性及び信頼性の向上のための方策の一つとして、知的情報処理技術、ロボット技術等のプラントへの導入による運転員及び作業員の肉体的及び精神的負担の軽減があげられる。
 このため、原子力プラントの適応性を実現するための知能化技術および人間との協調技術の開発を行い、運転員及び保守員の負担の大幅な軽減、さらには総合的な原子力プラントの安全性の確保を図る。

(5) 計算科学技術分野
原子力分野でも計算科学は進展しているものの、一般科学の分野ではスーパーコンピュータの導入や並列処理化の進展等、近年の情報処理技術の高速化・高度化はめざましく、これを基盤技術として積極的に原子力技術分野に応用することにより、新たな技術展開が可能となる。さらに、その研究成果は広く一般科学技術への波及効果が期待される。

 ① 計算科学的手法による原子力施設における物質挙動に関する研究
原子力機器の信頼性、安全評価技術の高度化、機器の長寿命化による経済性の向上等が要求されており、原子力用高温機器材料の寿命の高精度の予測等の技術開発が必要とされている。
 このため、現在急速に発展しつつある並列計算機を用い、計算科学による手法を適用することにより,これら原子力材料科学及び構造、流体工学の基本的問題の解決を探ることを目標とするとともに、広く材料科学、流体工学一般に共通するミクロからマクロのマルチスケールの観点から材料の熱的・機械的性質の研究、構造工学における高精度大規模計算等を行ない、数値シミュレーションによる科学研究手法の確立を目指す。




                              
(参考1)


基盤技術推進専門部会における検討経緯、構成員等


1.基盤技術推進専門部会会議開催経過

   第24回 平成9年11月4日(火)
   第25回 平成10年2月3日(火)

2.報告書案に対する意見募集経過

   平成10年2月6日(金)  意見募集の開始
   平成10年3月9日(月)  意見募集の締切

3.原子力委員会 基盤技術推進専門部会専門委員名簿(平成10年2月現在)

 澤 岡  昭    東京工業大学教授 [部会長]
 飯 泉  仁    (財)高輝度光科学研究センター理事(第24回まで)
 井 澤 靖 和   大阪大学教授
 岩 田 修 一   東京大学教授
 岡 田 雅 年   科学技術庁金属材料技術研究所長
 岡 本 眞 實   東北大学教授
 吉 良  爽    理化学研究所理事
 後 藤 英 一   神奈川大学教授
 近 藤 駿 介   東京大学教授
 齋 藤 伸 三   日本原子力研究所理事(第25回から)
 佐々木 康 人   科学技術庁放射線医学総合研究所長
 笹 谷  勇    動力炉・核燃料開発事業団理事
 霜 田 光 一   東京大学名誉教授
 鈴 木 篤 之   東京大学教授
 鷲 見 禎 彦   電気事業連合会原子力開発対策会議委員長
 武 部  啓    京都大学教授
 田 辺 博 一    (社)日本鉄鋼協会技術企画小委員会委員長
 田 村 浩一郎   通商産業省工業技術院電子技術総合研究所長
 堤   佳 辰   静岡産業大学教授
 永 井 信 夫   (社)日本電機工業会専務理事
 藤 田 薫 顕   京都大学教授
 前 田 三 男   九州大学教授
 森   一 久   (社)日本原子力産業会議副会長
 吉 川 弘 之   日本学術会議会長
 和 田 昭 允   東京大学名誉教授          (五十音順)




                              
(参考2)



原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画
(平成6年6月原子力委員会)の抜粋



第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
8.原子力科学技術の多様な基礎的な研究の強化
(1) 基礎研究と基盤技術開発
 ② 基盤技術
我が国は、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発を結びつける基盤技術開発に積極的に取り組む必要があります。とりわけ、原子力技術に対するニーズの一層の多様化や高度化に対応するとともに、技術シーズの探索、体系的な研究開発の積み重ね等により将来の新しい原子力技術体系を意識的に構築していくため、大きな技術革新を引き起こし、ひいては科学技術全般への波及効果が期待される原子力のフロンティア領域を重視していきます。
 このような基盤技術の当面の対象として、放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野について重点的に研究開発を行うべき領域を設定し、放射光施設やスーパーコンピュータ等の先端的な研究設備・機器を用いつつ、広範な科学技術分野のポテンシャルを結集して研究開発を進めていきます。なお、ソフト系科学技術においては、原子力技術と人間社会の関係の重要性を踏まえ、社会科学や人文科学の知見を含め幅広い調査研究に取り組んでいきます。










付     録












第3期原子力基盤クロスオーバー研究で推進する研究テーマの概要




本資料は、「原子力基盤クロスオーバー研究の展開について」の第3章3.に提示された第3期
 原子力基盤クロスオーバー研究の研究テーマの理解を助けるため、その考え方を整理したものである。


 研究テーマ名:放射線障害修復機構の解析による生体機能解明研究(放射線生物影響分野)

第2期との関係及び第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 第2期のクロスオーバー研究では突然変
異のミクロ/ナノレベルでの検出及びその
解析技術の開発を積極的に進めてきた。
 第3期では、傷害修復・回復機構におい
て重要な役割を担う生体機能因子の解明を
試み、放射線突然変異の検出・解析やその
変異誘発機構解明を行うための先端技術の
開発に役立てる。 このような視点に立
ち、損傷部位のナノレベルでの検出からそ
の修復及び突然変異を誘発する一連の過程
の可視化を達成する。
(研究内容)
 平成13年度まで放射線損傷機構の解析研究を進めることにより検出・解析技術を
開発し、可視化を達成する。平成14年度~15年度で修復機構の解明による回復促進
解析系への利用を図る。

(想定される研究課題例)
 ○ 放射線損傷修復機構の解析
 ○ DNA損傷修復に働く分子複合体の構造と機能の解明
 ○ 放射線感受性部位の高次構造の解析
 ○ 放射線によるDNA2本鎖切断と突然変異誘発・抑制機構の研究
 ○ 放射線損傷部位のナノレベルでのビジュアル化システムの開発
① 生物はある程度まで放射線に対す
 る抵抗性を持つとの報告もある。本
 研究は、現在困難とされている障害
 回復を促進させる方策の開発へ繋ぐ
 ことが期待される。
② 細胞の損傷は放射線以外の環境変
 異原によっても誘発される。修復機
 構は放射線以外の環境因子にも共通
 するものと考えられ、生物、基礎医
 学分野の研究課題の1つである。




 研究テーマ名:放射性核種の土壌生態圏における動的解析モデルの開発(放射線生物影響分野)

第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第1・2期において、環境中での核種挙
動の解明、移行予測モデルの確立、そのパ
ラメータ設定などの研究を推進してきた。
放射性核種の大気拡散モデル、大気-土壌
-植物系における水を介しての核種移行の
メカニズム等で成果が得られた。
 第3期では、第1・2期で得られた環境
中の核種挙動に関する知識・技術をもと
に、動的解析モデルの開発及びその検証研
究を推進する。
(研究内容)
 土壌生態系における放射性核種の移行・蓄積のメカニズムを究明し、動的モデル
を開発する。さらに、後半の期間においては、大型人工気象実験施設を用いて、開
発されたモデルを検証する。

(想定される研究課題例)
 ○ 複合系における核種移行および動的解析モデルに関する研究
 ○ 複合系における核種移行の検証


① 事故時における放射線被曝線量を
 正確に推定すること、およびリスク
 の低減化に関する研究は、社会的に
 も非常にニーズの高いものである。
② 得られた知識は、有害化学物質の
 環境移行に関わる有機物や微生物の
 役割等の解明に貢献できる。




 研究テーマ名:高品位陽電子ビームの高度化及び応用研究(ビーム利用分野)

   
第2期との関係及び第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期で開発された低速(単色)陽電子
ビームの強度は最大で毎秒1億個以下であ
る。今後、さらにビーム強度増強による問
題解決方策の検討と、高強度ビーム利用に
伴って必要となる基盤技術の開発を行う。
 第3期では、ビーム利用技術の開発及び
利用そのもの(物性研究への応用)に取り
組む。利用研究においては、先端材料開発
等において従来手法では解決がついていな
い問題を対象とするが、研究を進める中
で、実験室レベルのビームで解決可能なこ
と不可能なことを明確にした上で、次世代
陽電子ビーム利用に繋がる具体的方策の検
討と基盤技術の開発を行う。
(研究内容)
 平成11年度~13年度は、高品質陽電子ビームを用いた新しい陽電子分光技術の確
立を目指す。装置の開発・整備とビーム応用技術の開発を行い、高品質ビーム応用
の具体的方策を明らかにする。
 平成14年度~15年度は、材料の物理に新しい知見を与えることを目指す。このた
め、ハード面では対象となる材料作製・処理装置の整備やイオン注入装置等との結
合を進めるとともに、ソフト面では原子空孔・表面状態可視化技術を総合的に開発
し、原子炉材料機能劣化の初期過程を明らかにするとともに、機能材料における機
能発現機構の解明を目指す。

(想定される研究課題例)
 ○ 高速短パルス及び高輝度陽電子ビームによる材料極限物性の研究
 ○ 偏極陽電子ビームによる材料の電子スピン構造の研究
 ○ 超低速短パルス陽電子ビームによる物質最表層物性の研究
 ○ 陽電子ビーム掃引法による分析・評価技術の開発
① 陽電子は、材料中の欠陥に非常に
 敏感であり、極めて鋭敏な感度で、
 半導体中の欠陥、あるいは最表面の
 構造不整を検出することができるよ
 うになる。また、原子力材料におい
 ても、照射損傷等の研究において、
 従来検出が困難であったボイド等が
 生成する以前の段階の損傷を検出で
 きるようになる。
② 近年、材料中の欠陥や表面の構造
 ・状態についての第一原理からの計
 算が行われており、これと比較すべ
 き実験的なデータが得る手段として
 陽電子は極めて有望である。



研究テーマ名:マルチトレーサーの製造技術の高度化及び利用研究(ビーム利用分野)

第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 今まで、マルチトレーサーの製造及び利
用研究は、理化学研究所がリングサイクロ
トロンを利用し進めてきた。
第3期では、マルチトレーサーの製造技
術を高度化することを第一目標とし、多元
素同時解析を非破壊的に生きた状態で経時
的測定が可能となるMT GEIの開発は、すで
に可視像、X線像、ガンマ線像を重ね合わ
せて撮影する装置とソフトウェアの基礎開
発を終えている。今後検出器部分の開発
と改良を行う。



(研究内容)
 マルチトレーサーを安定的かつ迅速に生産する手段として、マルチトレーサー自
動化学分離装置の開発を行うとともに、さらに広範囲の核種を含むマルチトレーサ
ー多様化技術を確立する。
 マルチトレーサーを計測・分析装置へ適用した場合の基礎的知見を集積し、かつ
装置の有効性を実証するために、マルチトレーサーの優位性を生かした複数核種同
時ガンマ線イメージング装置(MT GEI)を製作し、新規の計測・分析手法 を創出す
る。

(想定される研究課題例)
 ○ 自動化学分離装置の開発
 ○ マルチトレーサーの製造技術の高度化
 ○ 加速器を用いた高エネルギー重イオン核反応生成物に関する基盤研究
 ○ モジュール型連続化学分離装置の設計、開発に関する研究
 ○ 複数核種同時イメージング装置の開発と応用のための基礎的研究
① MT GEIは、単にガンマ線像のみの
 撮影装置ではなく、同時に可視像と
 X線像を撮影し、コンピューター上
 で画像処理することで、像の重ね合
 わせが可能であり、診断や治療に有
 用な装置である。また、臨床診断、
 代謝生理学、さらには環境科学分野
 における環境汚染物質の毒性研究や
 代謝の研究、材料物性研究分野で革
 新的装置となり得る。





研究テーマ名:アト秒パルスレーザー技術の開発及び利用研究(ビーム利用分野)

第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 放射線照射による表面反応は、フェムト
秒からアト秒の過渡的励起状態を経て開始
される。また、原子炉の冷却水の放射線化
学反応はフェムト秒の時間領域で開始され
るため、放射線との相互作用による様々な
量子現象の素過程の計測には、フェムト秒
からアト秒の時間分解を必要とする。
本研究は、原子力分野のみならず他分野
への波及効果も大きいアト秒領域のパルス
発生技術、計測技術、ならびに利用技術を
確立することを目的とする。
(研究内容)
 平成11年度~13年度は、数10アト秒から100アト秒台のパルスの発生を実証を目
指す。特に計測技術を確立するため、観測系を構成する高精度干渉計及び受光部の
開発と並行してスーパーミラー等の高性能光学素子の開発を進める。
 平成14年度~15年度は、アト秒パルスの波長域の拡張研究を展開し、可視・紫外
域レーザーの単一サイクル化によるパルス発生を狙うとともに、分子、クラスター
の構造解析を通じてアト秒パルスの利用技術を確立する。

(想定される研究課題例)
 ○ 高強度フェムト秒レーザーの高出力化
 ○ 高精度干渉計及び受光部の開発等のアト秒パルス計測法の確立
 ○ スーパーミラーの開発等の特性評価法の確立
 ○ 可視域レーザーパルスの単一サイクル化
 ○ 分子・クラスターの構造、生成過程の解析
① アト秒レベルのパルスを用いて放
 射線照射の劣化過程を解明すること
 により、耐放射線構造物設計への展
 開が期待される。
② アト秒パルスを用いた分子、クラ
 スター等の構造解析法の確立により
 新素材生成のメカニズムの解明に資
 する。
③ アト秒パルスの発生そのものが画
 期的であり学術的意義は大きい。こ
 れにより、アト秒という未踏領域に
 おいて新たな科学・技術の基礎とな
 る様々な現象の探索・解明が進展す
 ると考えられる。



研究テーマ名:原子力用複合環境用材料の評価に関する研究(原子力用材料技術分野)

第2期との関係及び第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 第2期研究では、原子力システム特有の
放射線作用と物理的化学的な侵食・腐食作
用を受ける極限的複合環境間のバリアーと
して長期供用する圧力バウンダリー材料を
念頭にして「複合環境用マルチコンポジッ
トマテリアル(MCM)の開発」を実施した。
 第3期研究では、当該研究成果の集大成
として、第2期研究で開発した材料の複合
化技術と諸特性のモニタリング技術につい
て、模擬環境下の諸特性評価試験を実施し
て、実用化を念頭にした諸技術の最適化を
図る。また、高分解能の表面解析や状態分
析等の実験的手法と計算機シミュレーショ
ン手法を用いて、開発手法の評価と原理的
解明を行い、複合環境用材料創製手法及び
環境適応性評価手法として整備する。
(研究内容)
 平成11年度~13年度は、複合環境用MCMの最適化と環境適応性評価手法の高性
能化を行う。
 平成13年度~15年度は、開発したMCM及びその場解析等のモニタリング手法に
ついて、放射線、侵食、腐食作用等が重畳した模擬環境下で長時間試験を実施して
諸特性を調査し、実用環境適応性を共同で評価する。併せて、計算機シミュレーシ
ョンにより、開発手法の環境適応性や経年変化のモデル化を図り、次世代材料技術
開発に反映出来る基盤知見として整備する。

(想定される研究課題例)
 ○ 複合環境における表面反応&欠陥成長過程の高分解能解析
 ○ セラミックス系MCMの最適化と複合環境適応性評価
 ○ 高分子系MCMの最適化と複合環境適応性の評価
 ○ 金属系MCMの最適化と複合環境適応性の評価
 ○ MCM等の実環境適応性の評価と研究成果の集約
① 高い複合環境材料技術の開発をホ
 ットの実環境試験を含めて実施する
 ので、原子力エネルギーシステムか
 らのニーズが高い。






研究テーマ名:人間共存型プラントのための知能化技術の開発(知能システム科学技術分野)

第2期との関係及び第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 第2期までは、プラントの安全性の向上
に必要となる知的情報処理技術及びロボッ
ト技術の要素技術を開発してきた。
第3期では、これまでの成果の具体的な
原子力プラントの保守、運転等へ適用を試
みるとともに、具体的適用を前提とした際
に新たに必要となる技術の開発や、既存の
原子力プラントのさらなる安全性の向上
高寿命化するための設計変更、新規プラン
ト設計へのフィードバックに関する議論な
ども行う予定である。さらには人的負担の
大幅な軽減、総合的な原子力プラントの安
全性の確保を図る。
(研究内容)
 平成11年度~15年度に適用指向の基盤技術開発を行う。総合的適用性までも議論
し、人間と共存可能な原子力プラントへの道標を明らかにする。

(想定される研究課題例)
 ○ ロボット群による情報収集、保全作業のプラントへ適用
 ○ 信頼性の高い自律点検・保全情報提示システムの研究開発
 ○ 学習機能を伴う分散協調制御技術開発
 ○ 保守性、異常時の制御性や安全性を評価できる情報処理技術の開発
 ○ 人間共存型プラントにおける人間の認識と理解に適合した運転支援システム
   の開発
① 安全な人間共存型プラントの実現
 によって、原子力電力生産技術に非
 常に大きな波及効果が期待できる。
 また、社会的にも原子力プラントの
 安全性の向上は、パブリックアクセ
 プタンスを獲得する上で大きな効果
 を期待できる。
② 人工知能研究、ロボッティクス及
 びメカトロニクスに関連する工学研
 究において、人工システムの適応機
 能を実現する新しいアプローチとし
 て大きなインパクトを与えることが
 予想される。



研究テーマ名:計算科学手法による原子力施設における物質挙動に関する研究(計算科学技術分野)

第2期との関係及び第3期での目標 研究内容及び想定される研究課題例 波及効果等
 第2期では、大規模な理学的、工学的な
乱流計算、分子動力学等のミクロ手法によ
る物性予測、流体計算等及び並列計算、ネ
ットワークコンピューティング手法の開発
を行うとともに、マクロからメソレベルで
の構造解析、オブジェクト分散環境下で計
算する手法の開発を行なってきた。
第3期では、計算科学の手法による原子
力材料・構造・熱流動の基本的問題の研究
にフォーカスして、ミクロからメソ、マク
ロの各レベルにおける手法を駆使した大規
模並列数値シミュレーションを実施すると
ともに、ミクロ、メソ、マクロを統合した
モデリング手法の開発を目指す。
(研究内容)
 ミクロスケールの物質挙動及びメソスケールの材料挙動の解析を行うとともに、
これらを統合して材料・熱・構造複合問題を解析する。
 また、原子力用計算科学における高性能化並列計算技術の確立を目指す。

(想定される研究課題例)
 ○ 粒子法による結晶の熱的・機械的性質の物性予測
 ○ 材料学的因子を考慮した高温破壊特性計算解析手法の構築
 ○ 分散オブジェクト手法によるミクロ、メソ、マクロモデルの統合
 ○ 構造材と熱流動の相互作用の数値シミュレーション
 ○ 分子動力学法のための並列計算手法開発
 ○ 基本数値ライブラリの適応的高速化及び並列計算のためのプログラムインタ
   ーフェース開発
① 原子力用高温機器材料の寿命の高
 精度の予測により、原子力機器の信
 頼性、安全評価技術の高度化、機器
 の長寿命化による経済性の向上等の
 社会的ニーズに応える。
② 材料科学の分野でも、ミクロから
 メソ、マクロの広い範囲のスケール
 の手法を統合。これを現在進展しつ
 つある並列計算技術との結合させて
 数値材料シミュレーションのソフト
 ウェア体系を整備することにより、
 基礎から実用レベルでの材料科学研
 究の進展に寄与する。