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計算科学国際シンポジウムの開催結果について

”International Symposium on Parallel Computing in Engineering Science”
(ISPCES'97:計算科学国際シンポジウム)

(1)開催日:平成9年1月27日~28日
1月27日:シンポジウム、レセプション
1月28日:シンポジウム
(2)場 所:虎ノ門パストラル
(3)主 催:ISPCES'97実行委員会
(4)開催形態
後援:科学技術庁
共催:金材研、原研、理研、動燃、RIST
協賛:17機関

(5)発表件数:①クロスオーバー研究は7件。
          ②一般講演は米国8件、欧州2件、日本4件。

(6)参加者: 27日 249名
28日 189名
   計438名

(7)講演要旨:別添に概要を示す。

ISPCES’97(計算科学国際シンポジウム)講演要旨

平成9年1月27日(月)

開会挨拶
岡崎俊雄(科学技術庁科学審議官)
 科技庁では従来重点的に研究開発を推進してきた原子力から枠を拡げ、基盤技術の研究開発、特に、地球規模の解明を目的とした地球環境シミュレータの開発等を行っている。本シンポジウムが多くの分野間での情報提供の場になることを期待する。

澤岡昭(原子力基盤クロスオーバー研究推進委員会委員長/東京工業大学)
 原子力と他分野の情報交換の場としてクロスオーバー研究を発足した。昨今、複雑な現象の解明には計算科学が大変重要になってきており、また計算科学の発展が各問題解明に必要不可欠である。
 シンポジウムを通じて、色々な分野の発表から何かつかんでもらえれば幸いである。

矢川元基(ISPCES'97実行委員会委員長/東京大学)
 本シンポジウムのため米国、英国、ドイツ、およびフランスからお越しいただきました講演者の皆様に厚く御礼申し上げます。また、科学技術庁および科技庁傘下のオーガナイザーで本シンポジウムを支援した機関の努力および関係者の皆様にも御礼申し上げます。本シンポジウムが成功に終わることを期待します。

来賓挨拶
有馬朗人(東京大学名誉教授/理化学研究所理事長)
 計算機の歴史はENIACから50年がたち、その間計算機の記憶領域および処理速度が飛躍的に向上し、物理,生物,工学等々に寄与することになった。
 現在、ギガからテラの時代に入り計算科学が経済、社会に大きく貢献することを期待する。今後、コンピュータの動的変化が人間社会の質的変化をもたらすことを期待する。実験科学、理論科学のもう一つの柱となる計算科学は産業界にも大きな影響をもたらすと信じている。しかしながら、我国においては計算科学のソフト面で遅れていることを危惧する。幅広い分野の研究者が気楽に使えるように人材育成の面からも行政の今後の努力に期待する。また、小学・中学におけるソフトウエア教育が弱いと感じており、根本的に見直す必要があるのではないか。今後倫理をわきまえた計算科学技術の発展を大いに期待する。

セッションA:高度計算科学一般(1)
K. McManus (University of Greenwich, U.K.)[ M.Cross氏の代理]
-高度並列計算システムのための複合現象の計算モデル-戦略、ツール、アプリケーション-
 物理全体を解明することを目的とした汎用物理プログラム「フィジカ」を開発した。産業界の有する複雑な問題にも適応できるように並列化および最適化を施している。

U. Trottenberg (German National Research Center for Information Technology:GMD, Germany)
ー並列性と適合性-ふたつの必然的かつ挑戦的な計算科学の基礎論理―
 German National Research Center for Information Technology、通称GMDでは色々な種類のマシンを使用しているので、ポータビリティをもったソフトを使用している。特に産業界でもっともよく使われる38種類の流体ソフトを2年間で並列化した。現在、負荷バランスをとること、および計算処理時間の低減の2点を目的として並列化の研究を推進している。
 並列化のためには正しいツールを用いることが重要であり、GMDではワンピアというツールを用いている。このツールの特徴は、ノードごとの計算が何をやっているのか見ることができることである。

矢川元基(東京大学)
―階層型領域分割法による大規模並列有限要素法―
 大規模計算は、小さい計算の延長上にあるのではなくこの間には大きな隔たりがある。エンジニアリングとサイエンスの両方に大規模計算が役立つことを証明しなければならない。
 ドメイン・デコンポジション・メソッド(DGM)の紹介があった。ドメイン・デコンポジション・メソッドの特徴は領域分割した各ドメインを、独立させて解が収束するまでFEMにより計算させる。この手法を用いれば、色々な計算機に適応できる。また、大規模問題で計算数が増えても対応できる。将来的には、1台の高速計算機を用いるのではなく、インターネットを活用して世界中の計算機を結合して計算する。しかし、その際の課題としてパフォーマンスを得るには極力通信を減らすことが重要である。

セッションB:原子力・量子力学
R. Schmidt (Sandia National Laboratories, U.S.A.)
-原子炉安全性問題に対する高度計算への期待―
 SNLでは様々な工学的なコードを開発してきた。高性能計算および現象の理解のためには、力学的なコードが重要である。現在、SNLでは高性能計算および通信技術の2点から開発を行っている。原子炉安全性問題では以下のような課題がある。
 ・複雑系システムのシミュレーションプログラムには、様々な分野の人々がからみあっていること。
 ・物理モデルの妥当性の問題
 一方、並列環境を応用する場合、様々な領域があり各領域で適用するモデルが違うし、プログラムが異なる。

岩崎洋一(筑波大学)
-CP-PACSプロジェクトと計算物理学―
 CP-PACSプロジェクトは、素粒子物理学の探究を主たる目的とし、超並列計算機の開発とその計算機を用いての研究というアプローチをとることとして、1992年から20億円の予算規模でスタートした。
 本研究の特徴は、このCP-PACS上にLattice QEDプログラムを用いてクウォークとグルオンを取り扱うことによって素粒子の解明を行っている。
 今後、素粒子物理研究から宇宙物理および物性物理学にも対応していく。

N. Christ (Columbia University, U.S.A.)
-相対論的な量子理論と超並列計算機―
 原子核を形成するクオーク、グルーオン等の素粒子の物理的取り扱いは、QCD(量子色力学)と呼ばれる相対論的な場の量子論を用いる。その数値計算手法は、場を配置している空間でのモンテカルロ積分に帰着される。その際、4次元空間を時空間体積要素を持つ小さなメッシュに分割するが、各メッシュは隣りあうメッシュのみが互いにコミニュケーションを持つ以外、まったく独立で無関係である。このことは、超並列コンピュータ利用に最も適した例題であることを意味している。超並列コンピュータによるQCDの研究、さらに新しい量子場理論の開拓を目的として、コロンビア大学では、8192ノードの並列コンピュータ(ピーク速度400Gflops)を3月に完成させる予定である。

セッションC:地震学
J. Bielak (Carnegie Mellon University, U.S.A.)
-並列計算機上での大領域内地震動モデリング―
 大規模領域内における予震動を、並列計算機上にアルキメデスというツールを用いて解析を行った。
 大規模領域内における予震動を解析するため、並列計算機用のFEM法のプログラムを開発した。本手法とソフトウエアを用いて、1994年のノースリッジ地震に対し南カリフォルニアにおけるサンフェルナルドバレーの地震動を解析した。

D. E. Womble (Sandia National Laboratories, U.S.A.)
-並列計算機による地震シミュレーションの画像処理―
 各種の反射波から得られる地質に関するデータを入力として、並列計算機上で運用することを前提とした3次元波動方程式解析プログラムを開発した。このプログラムにより、鮮明な3次元の地質画像をシミュレーションすることができる。なお、本コードの開発は石油ガス産業界に使用されることを目的としている。

クロスオーバーセッション:原子力用計算科学計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明
山口彰(動力炉・核燃料開発事業団)
-複雑形状(高速炉燃料集合体)内部流れの数値解析―
 実験を行うことが容易ではない燃料集合体の間隙等の複雑な形状の内部流れを、領域分割し、各領域を並列処理することによりフルバンドルの解析が行うことができるという特徴を有するサブチャンネル解析コードASFER等を開発した。このコードを用いてフルバンドルの解析を行うことよりFBRの設計および安全評価に資する。

蕪木英雄(日本原子力研究所)
-強制一様等方乱流渦構造の直接数値シミュレーション―
 直接数値シミュレーション法を用いた一様等方性乱流のシミュレーションについて報告があった。航空宇宙技術研究所のNWTを用いて、5123メッシュのシミュレーションの並列計算を行った。一様等方性乱流シミュレーションの並列アルゴリズム、乱流のエネルギー・スペクトラムおよび構造等の最近のシミュレーション結果が紹介された。

関口智嗣(電子技術総合研究所)
-広域計算を指向したネットワーク数値情報システム Ninf―
 科学技術計算におけるワールド・ワイド・グローバル・コンピューティングのためのインフラとして、Ninf (Network based Information Library for High Perfomance computing)プロジェクトを推進している。Ninfプロジェクトは、ワールド・ワイド・グローバル・ネットワーク上に分散した計算資源を用いた科学技術計算のためのプラットフォームを提供することを目的にしている。
 Ninfプロジェクトの概要、Ninfシステムの概要および実装方法、性能評価について報告があった。

原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算科学的解析法の開発とその応用
笠原直人(動力炉・核燃料開発事業団)
-分散オブジェクトモデルを用いた構造物の巨視的/微視的挙動の並列有限要素解析―
 原子力用構造物の変形等を解析する手法において領域分割法を適用し、より詳細な解析を要する個所、粗い解析でよい箇所に対し各々ミクロモデル、マクロモデルを対応させる。将来的には、本システムの特徴であるオブジェクト指向によってネットワークシステム内では、各箇所の各モデルが異なる計算機環境で解析されても構造物の全系の計算結果が統合できるようにする。

牧野内昭武(理化学研究所)
-領域分割法による非線形弾塑性有限要素法の並列化―
 非線型連続体モデルに基づき定式化するとともに、大変形の接触および摩擦問題を解くのに有能な材料成形過程を解析するための、弾塑性有限要素コード、ITAS3Dを開発した。また、ITAS3Dの並列化に有効な手法を見い出すとともに、大規模計算に対応したシステムを開発した。並列化手続はドメイン・デコンポジョン法に基づいている。

白石春樹(金属材料技術研究所)
-大変形有限要素法によるヘリウム脆化解析-
 原子炉における中性子の損傷についてターゲットをおいて、大変形FEMにより解析を行っている。ボイドなどミクロモデルを扱う。これにより、合理的な合金設計のガイドラインが得られればと考える。ヘリウム気泡の大きさと応力の関係などについて、様々なシミュレーション結果が示された。今後は、複数の気泡の扱いおよび多結晶間相互作用についても研究を進める。

荒井長利(日本原子力研究所)
-脆性材料のメゾスコーピック系粒子/気孔構造の統計的取扱い-
 多結晶セラッミックを対象として、ミクロ、マクロを統合したものを考える。条件を変えてポアソン比(ヤング率)を変えても、あるパラメータに収束することがわかった。多結晶セラッミックについては、特有の計算モデルが必要であり、現在オブジェクト指向のライブラリを構築している。


平成9年1月28日(火)

セッションD:高度計算科学一般(2)
淺井清(日本原子力研究所)
-原研計算科学技術推進センターの役割と課題-
 原研計算科学技術推進センター(CCSE)の科技庁内での位置づけ,研究分野,並列処理における計算機利用のため基盤ソフトの開発項目,および導入している複合並列計算機(COMPACS)についての紹介があり主な開発項目であるSTA基本ソフト,並列数値計算ライブラリ,並列ベンチマークテスト・コード群,並列用自動メッシュ生成ソフト,および並列用実時間可視ソフトについて、初年度の成果について説明があった。

L. Kott (National Institute for Research in Computer Science and Control:
INRIA, France)
-INRIAにおける高度計算科学の研究-
 INRIA研究所の人員構成、HPC分野における活動内容の簡単な紹介があり、その後具体的な内容として、計算機はベクトルマシンではなく、ほとんどは分散メモリの計算機であること。このため開発したソフトウエアは分散システム用にプログラミングされているとの説明があった。HPC分野のアプリケーションとしては科学計算分野と画像処理分野があり、並列計算用の基盤ツールの開発、プレポスト処理の開発を中心に工学・物理分野の複雑な問題の解決に関心を払っている。また、技術移転も重要な役割の一つと考える。

セッションE:流体力学(1)
高橋亮一(東京工業大学)
-セルラオートマトン法による複雑流れの並列計算-
 LGA手法の基本的な考え方の説明があり、LGA手法の有効性を示す複雑な形状への適用例や両面を有する問題への適用例の紹介があった。また、LGA手法を並列計算機を用いて解析した場合の加速率の説明と並列処理の有効性の説明があった。

里深信行(京都工芸繊維大学)
-超並列機およびワークステーション網上での流体力学方程式の並列計算―
 並列計算流体力学分野の解析例として、圧縮性流体と非圧縮性流体の解析例の紹介があった。並列性はPVMを用いてWSを使用した場合と、並列計算機を用いた場合の性能と、領域分割法を定常問題の解析に用いた場合のダイナミックロードバンシング手法を適用した場合の計算の加速性についての有効性の紹介があった。

G. D. Doolen (Los Alamos National Laboratory, U.S.A.)
-混相流シミュレーションの挑戦的適用-
 ラティス・ボルツマン法を用いた混相流シミュレーション、一様等方性乱流の直接数値シミュレーション、核燃料の変換加速器について報告があった。Los Alomosにおけるシミュレーションの事例として、ラティス・ボルツマン法を用いた、油層における油の流れ、水-水蒸気などの二相流シミュレーション、直接数値シミュレーションを用いた乱流計算等の結果が紹介された。

山本稀義(航空宇宙技術研究所)
-一様等方性乱流の直接数値シミュレーション-
 ベクトル並列計算機NWTを用いたDNSによる一様等方性乱流シミュレーションの研究成果の紹介があった。具体的には、計算の並列性についてはほぼ理想的な数述が得られていること、コロモゴルフの-5/3乗則が成り立っていること、連度の確立分布関数がガラス分布であるが、連度の空間微分がExpomential分布であることの説明があり、併せて乱流の微細構造について初期にシート状であった温強度分布が発達するとともに渦管になる過程のアニメによる紹介があった。

セッションF:地球環境・生物
B. Buzbee (National Center for Atmospheric Research, U.S.A.)
-NCAR大気環境研究所における高性能計算の動向-
 NCARにおけるハイパフォーマンス・コンピューティングの現状と、計算機の性能評価について報告があった。NCARのClimate Simulation Laborartory (CSL)では、Climate System Model (CSM)を用いた気候シミュレーションの事例が紹介された。計算機の性能評価では、Moore's Lawを用いた、NEC SX-4、Cray C90等の評価結果が示された。

R. L. Martino (National Institutes of Health, U.S.A.)
-分子生物学と生命医療画像処理における並列計算-
 生体構造や生物学的機能の決定、生物医学的画像形成のための並列アルゴリズムを多数開発している。応用例として、DNAの塩基配列やタンパク質の構造決定決定の迅速・高精度化、電子顕微鏡写真からのウィルス構造の3次元的画像化、及び、陽電子放出断層撮影(PET)の3次元的画像化などが挙げられ、その有用性が示された。

戎崎俊一(理化学研究所)
-分子動力学シミュレーションのための専用計算機-
 天体物理学におけるN-bodyシミュレーションのための専用計算機 GRAPE-4 (Gravity Pipe)を開発している。力の計算をGRAPEが高速に行い、他の計算をホストコンピュータが行うことにより、1TFLOPS以上の実効性能が得られている。GRAPE4を用いた銀河の衝突シミュレーションの結果が紹介された。また、分子動力学計算のための専用機MDGRAPEを開発しており、蛋白質等の分子動力学計算に用いている。

閉会挨拶
國谷実(科学技術庁)
 ISPCES'97は、原子力基盤技術クロスオーバー研究の原子力用計算科学シンポジウムに端を発し、より広く計算科学全般にわたる領域を対象としたシンポジウムとして、我が国で初めて開催されたシンポジウムです。このシンポジウムを契機に、内外の研究機関ならびに研究者のより活発な交流と切磋琢磨する知的活動を通じ、計算科学が21世紀に向けた新しい科学の波として一層発展することを念願します。本シンポジウムの成功を祝し、また更なる発展を期し、閉会とします。