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原子力用材料研究交流委員会主査 岡本眞實
平成8年度では、研究統一課題である「複合環境用マルチコンポジットマテリアルの開 発」を目的として、各機関で以下の研究を実施した。
(1)金属材料技術研究所
本交流委員会は「原子力用人工知能:自律型プラントのための分散協調知能化システムの開発」及び「原子力施設における知的活動支援の方策に関する研究」の二つの研究分野を対象としている。前者の自律型プラントにおける分散協調知能化システムの開発は、人工知能技術の開発/活用により、想定される異常事態への対処を含めたプラント運転管理を目指すものであり、その中心技術である知的運転制御システム、知的保全管理システム、協調的保全用ロボットシステムの開発、並びに、これらシステムの動作状況を人間へ提供/提示するための作業状況提示技術の開発を進めている。知的運転制御システムの開発においては、制御の最適化、診断の信頼性向上を目的とした制御/診断方式の多様化・多重視点化と合意形成機構の実現を目指し、新たな診断方式として異常事象発現/進展に伴う発報警報の種類、発報の順序の特徴に着手した原因推定手法を開発するとともに、同一事象に対して多様な制御/診断方式を並列的に適用した際の合理的、無矛盾な結論を得るための合意形成手法の開発を進めた。さらに、自律型プラント運転管理に不可欠な大規模・実時間知識ベースシステムの開発を目指し、知識の動的再配列、並びに知識の矛盾検知と既存知識の修正という観点からの検討を行った。知的保全管理システムの開発においては、蒸発器廻りの周辺機器を対象にセンサー及びアクチュエータ特性診断機構の製作を行うとともに、ある調整弁に特性変化が生じたケースに対して異常検知と各エージェントへの一括通報、点検補修のためのアイソレーション影響評価、代替運転パスと運転方法検索と評価、そして代替運転方策の策定という一連の機器故障に対応した保全方策策定機構の開発を進めた。協調的知能ロボットの開発においては、知能ロボットシステム開発を目指した各種要素技術の開発を進めた。これら要素技術の開発では、複数台ロボットによる協調的スケジューリング技術、力センサーを利用した協調搬送システム技術、インテリジェントデータキャリアと呼ばれる情報伝達装置による環境知能化技術、空間分解能を注視点周辺のみ向上させる中心窩両眼能動ビジョンの開発による移動物体追跡技術、協調能動センシングのためのプラットフォーム開発や異動ロボットのための適切な行動要素学習/表現技術、ジャイロとオドメトリーの併用による移動ロボットの位置推定技術などの開発を行った。作業状況提示技術の開発においては、自律型プラントでの分散協調機能の適正動作の監視、及び動作状況の透過性の高い提示システム開発に向けた技術開発を進めた。特に三次元画像表示機能によるプラント機能状態表示技術、概念学習モデルに基づいたプラント状態自動分類技術の開発を進めた。
後者の知的支援方策研究は、想定されていない異常事態が発生した場合に、運転員等に要求される知的対処能力の獲得・維持を支援し、かつ異常発生時においてはその知的対処活動を支援する方策を確立することを目指すものである。具体的には、運転・保守における知的活動支援の方法に関する研究、運転員の深い理解を支援する方策に関する研究、及びグループとしての人間の総合的機能の利用技術の研究を実施している。知的活動支援の方法に関する研究では、シミュレータ実験のために、柔軟なシミュレータインターフェイス画面の作成、柔軟なシミュレータ制御及び実験データ収集/分析を可能とする実験設備の構築をほぼ完了するとともに、知的活動支援の貴重な要素技術であるインターフェース画面表示の内容と形式の観点からの設計手法の検討を進めた。深い理解支援方策研究では、これまでに実施したシミュレータ実験の会話記録のデータベース化ツールの整備を進めるとともに、運転員教育訓練教材の分析に着手した。総合的機能利用技術ではプラント状態量の大画面と三次元立体視の併用による表示法、感覚フィードバック入力装置による制御の空間入力への拡張法等に重点をおいて予備設計を進めた。
自由電子レーザー(FEL)は、原理的に「波長可変、高効率、高出力」であり、ウラン 濃縮や廃棄物群分離などへの広範な応用が期待されている。また原理的に軟X線領域への短波長化も可能であり、総合性能を兼ね備えた次世代のレーザーとして物理化学生物等基礎科学から産業応用まで期待が大きい。しかし、開発は未だ基礎的な段階にあり、実際にレーザー光の発振に成功している例は世界的にもそれほど多くはない。また現在得られている出力は小さく、その品質も低い。 FELの原理的な可能性を実証し、実用化に向けるには多くの基礎研究、要素技術の開発、問題点を明らかにし、それに打ち勝つ科学と技術の研究、それの集約化等の問題がある。そこでクロスオーバー研究では FEL開発のポテンシャルを有する研究機関が基礎技術情報交流を密にして、各位の課題の要素技術の研究開発を強力に進めている。また、交流委員会を通じて大学、国立研究機関、民間の研究協力を進め将来の方向、克服すべき技術課題等の議論を総合的に進め、各要素技術と集約化の高度化を行っている。
推進中の研究として1)FELの短波長化・高品質化に関する研究(担当;電総研)、2)超伝導線型加速器によるFELの高平均出力化の研究(担当;原研)、3)高性能FELの光プロセシングに関する研究(担当;理研)、4)大出力高品質ビーム入射系の開発及びFEL用高性能鏡の開発(担当;動燃)がある。
1)はアンジュレーター、光クライストロン等発振技術、蓄積リングの加速器技術の高度化を行うもので、すでに350nmまでの波長可変発振に成功した。 短波長化のため蓄積リング加速器の性能向上を行うためアクティブフィードバックによる改善を行った。更に逆コンプトン散乱による高輝度γ線の発生やコヒーレント高調波発生法の基礎実験を行った。
2)は超伝導加速器による高平均出力化を行うもので、すでに0.1ms程度までマクロパル スで目標設計値を越える高品質電子ビームの加速と自発放射、誘導放射の発生、光共振器での蓄積に成功した。また約1msまでの超長時間マクロパルスでの安定なミクロパルスの 発生(準CW運転)に成功した。光共振器の為の高精度の軸整合系及び距離計測系を製作し、実際14.4m長において各々<7μrad<0.5μmの精度であることを確認した。
3)は将来の利用技術の新展開を目指し、擬似FEL特性レーザー製作のためのTi:Sapphireレーザーによるファイバラマンレーザーの特性研究、アブレーション等の光プロセシングに関する多光子吸収による物質制御の研究を行った。
4)は高周波電子銃の試作設計、及びレーザー駆動実験及び熱アシスト高周波電子銃動作の検討を行った。 また条件選択の段階であるが、CVD法及びスパッタ法により高性能誘電体多層膜鏡の開発を行った。
「新たなDNA解析手法を応用した放射線突然変異の検出・解析技術の開発」
1.変異細胞の選択技術の確立と突然変異の塩基配列の解析に関する研究(国立衛生試験所)
gpt 遺伝子を含むプラスミドにガンマ線を照射し、種々の修復欠損株に導入した時に起こる変異を自動DNAシークエンサーを用いて解析した。主に塩基置換が誘発されたが、その頻度や型は修復能によって影響された。 gpt 遺伝子導入トランスジェニックマウスを作り、放射線突然変異を測定している。今後はヒトリンパ芽球細胞 TK6の TK遺伝子に起こる変異についても解析する。
2.放射線により誘発される突然変異の特異性に関する研究(理化学研究所)
放射線照射されたマウス由来m5S細胞集団では32回の分裂後も非照射群に比べて10倍の頻度で二動原体染色体が出現し、Hgpt遺伝子の突然変異頻度も8倍高くなることを示した。 この染色体異常の誘導は細胞核分裂時における遺伝物質の不分離が原因であると考えられるが、その証明が今後の課題である。
3.DNA変異検出技術の開発および構造変化の画像解析に関する研究(放射線医学総合研究所)
通常の顕微鏡で観察でき、長期保存が可能である非蛍光標識プローブを用いた in situ分子交雑法を確立し、染色体標本およびクロマチンファイバー標本について蛍光標識プローブと比較検討した。 DNA構造変化の画像化に必要なハードウェアはほぼ構築できたと考えられるが、画像取得用の高分子DNA標本作製法の改善が今後の課題である。
4.検出法の自動化のための技術の改良および開発(国立国際医療センター)
細胞核を材料として染色糸標本作製法を開発した。 すなわち、休止核における染色糸の高次構造を解離してスライドガラス上に展開する技術を確立して、 数百ミクロンの長さの特定の染色糸を蛍光着して検出した。 分子交雑用の標本作製には手間がかかり、長時間を要するので、今後、半自動化を検討する。
5.放射線による突然変異の自動解析装置の開発「検出の効率化と有効プローブ及びプライマーの開発とその検出技術の開発」(国立予防衛生研究所)
培養細胞からのゲノムDNAの迅速遺伝子同定法を確立し、リアルタイムで遺伝子損傷検出に成功した。さらに反復配列が放射線の影響を受けやすいかどうかを検証するために、テロメア近傍の配列を調べて、RNA型転移因子の反復を見つけ、これを用いて今後検討する。
オランダのライデン大学と情報交換(2/2~8/97)。分科会研究会開催(9/4/96,2/18/97)。招聘外国人研究者ナージェント博士とドナヒュー博士のセミナー開催。
研究分野:放射線リスク評価・低減化
研究課題:陸域環境における放射性核種の移行に関する動的解析モデルの開発
研究目的:本研究は、第2期の研究であり、平成3年度から平成7年度までに実施された第1期の研究成果を踏まえ、平成8年度から5カ年の計画でスタートした。陸域環境における放 射性核種の移行について、農作物を主な対象物として、取り込み・蓄積・排出等の過程を動 的に解析するモデルを開発することを目的としている。
研究進捗状況(概要):本年が初年度であるにも係わらず、それぞれの研究機関で十分な成果が得られていると思われる。また、分科会などを精力的に開催して、クロスオーバー研究体 制の十分な確立に向け討議を行ってきた。その結果、水循環モデルに関しては、原研・放医 研・環境研が、大気-植物系に関しては、気象研・動燃が、そして、土壌-植物系に関しては、放医研・理研・動燃が相互に情報交換を行いながら共同研究を進めていくとともに、これらを軸として全体のクロスオーバー研究体制を確立してゆくこと等が話し合われた。
各研究機関の平成8年度(後期)の研究進捗状況は、以下の通りである。
研究実施機関:日本原子力研究所
研究実施機関:気象研究所
研究実施機関:放射線医学総合研究所
研究実施機関:理化学研究所
研究実施機関:財団法人環境科学技術研究所