資料第22-2-3号


原子力基盤技術個別研究課題

放射線リスク評価・低減化

原子力基盤技術開発
研究評価総合所見


平成9年3月
放射線リスク評価・低減化研究評価
ワーキンググループ

= 研究評価の手順 =

(1)平成9年2月28日:研究評価ワーキンググループ開催
(2)平成9年3月   :報告及び評価調査票をもとに、総合所見を作成
(3)平成9年3月31日:基盤技術推進専門部会に評価結果を報告

= 研究評価ワーキンググループ委員 =

1.武部 啓   京都大学教授(主査)
2.池辺 幸正  名古屋大学教授
3.井尻 憲一  東京大学教授
4.草間 朋子  東京大学教授
5.二階堂 修  金沢大学教授

= 目 次 =

(事前評価)

1.放射線及び化学物質による細胞障害機構の検討とリスクアセスメント系
  の開発 「遺伝子改変動物におけるテロメア及びテロメアーゼ変化を指
  標にした研究」(国立衛生試験所)                ………1

(中間評価)
1.放射線によるリンパ球細胞死(apoptosis)のメカニズムの解析及びそ
  の回避因子に関する研究(国立公衆衛生院)            ………2
2.必須元素の代謝を指標とする放射線の影響評価法の開発と防護
  に関する研究(国立公衆衛生院)                 ………3

表-7
原子力基盤技術開発
事前評価用総合所見フォーマット

研究開発課題名  放射線及び化学物質による細胞障害機構の検討とリスクアセスメント系の開発「遺伝子改変動物におけるテロメア及びテロメアーゼ変化を指標にした研究」(平成9年度~平成12年度)
項  目 要  約
1.目 標 放射線の効果の指標として、発がんに関与していると考えられる染色体のテロメア及びそれの長さを変化させるテロメアーゼの役割を明らかにしたい。
2.事前評価 テロメア及びテロメアーゼについて、仮定がいささか単純すぎる印象であり、直接影響が検出できるとは考えにくい。しかし、研究を進めていくうちに改善できるであろう。遺伝子改変動物の利用の必然性は当初はなく、また、効果の出ない恐れもあるが、計画に含むことは妥当である。
3.研究開発を進めるに当たり、留意すべき点  放射線の効果を研究する計画であるが、当該研究機関に線源が少ないという問題点もあり、他機関と協力して線源の利用を行うか、または、本機関でも措置できるような検討が望まれる。
4.その他  テロメアの研究が中心であるような印象もあるが、放射線及び化学物質の影響について充分意識した研究であることが望まれる。

表-8
原子力基盤技術開発
中間評価用総合所見フォーマット
研究開発課題名 放射線によるリンパ球細胞死(apoptosis)のメカニズムの解析及びその回避因子に関する研究(平成8年度~平成10年度)
項 目 要 約
1.当初の目標 放射線誘発アポトーシスには種々の過程があり、本研究はその最終段階に作用する caspase family 中のプロテアーゼ(タンパク分解酵素)の同定を目指している。
2.中間段階での成果 放射線誘発アポトーシスに関与する可能性のある caspase family 中のプロテアーゼを同定すべく研究を行い、細胞死と相関する CPP32酵素活性の上昇を観察した。 この結果から CPP32 酵素がアポトーシスに特異的に関与する酵素である可能性が示唆されたが、先般 Nature に発表されたCPP32 遺伝子ノックアウトマウスを用いた報告で、当該遺伝子のアポトーシスへの直接の関与が否定されたため、さらに候補となるプロテアーゼを探す研究を続行する必要が出て来た。
3.中間評価 上記の成果の項で述べたように、放射線誘発アポトーシスに働く特異的プロテアーゼであることを最終的に同定するには、候補プロテアーゼ遺伝子をノックアウトしたマウス、あるいは細胞を作成して調べる必要がありその方面での研究も期待する。
4.その他 マイコプラズマ感染がアポトーシス感受性を左右する要因の一つであることが明らかになったことは興味深い。また、研究材料としてより感受性の高い 3SB細胞などを用いるべきと考える。

表-8
原子力基盤技術開発
中間評価用総合所見フォーマット
研究開発課題名 必須元素の代謝を指標とする放射線の影響評価法の開発と防護に関する研究(平成8年度~平成11年度)
項  目 要  約
1.当初の目標 放射線の影響を必須元素の代謝を指標に検出し、防護法を開発する。
2.中間段階での成果 ①Fe-59及びCo-58を用いて、脾と骨髄へのとり込みを指標に放射線の影響を調べたが、1Gyと2Gy照射による影響はほとんど見られなかったが、あるいは、少しとり込み増大の傾向が見られた例もあった(58Co)。
②mitogen刺激の有無で効果には差はなかった。
3.中間評価 本研究が、どのような理論あるいは仮説のもとに鉄とコバルトに注目したのかが不明確である。線量もほとんど有意の差はなく、上記の傾向も信頼性は低い。
4.その他 放射線の影響評価についての新手法の開発と防御に関するニーズは高いが、このような手法によって研究を継続したとしても有効な影響評価法の確立が図られることは初期の成果から見て期待しにくい。このため、平成9年度においては、問題点を再度1年間に限って洗い直し、これを踏まえて最終的な継続の必要性を判断する。