資料第22−2−1号

原子力基盤技術個別研究課題

原 子 力 用 材 料

原子力基盤技術開発
研究評価総合所見

平成9年2月
原子力用材料研究評価
ワーキンググループ

= 研究評価の手順 =

 (1)平成9年2月25日:研究評価ワーキンググループ開催
 (2)平成9年2月 :報告及び評価調査票をもとに、総合所見を作成
 (3)平成9年3月31日:基盤技術推進専門部会に評価結果を報告


= 研究評価ワーキンググループ委員 =

  1.澤岡  昭   東京工業大学教授(主査)
  2.加納  剛   元(株)宇宙利用環境研究所
  3.栗林 一彦   宇宙科学研究所教授
  4.牧島 亮男   東京大学教授
  5.米澤 正智   日本電気(株)主席技師長

= 目 次 =

(事前評価)

1.同位体制御材料の機能と応用に関する研究(金属材料技術研究所)………1

2.高性能遮蔽材料の最適化と評価に関する研究(船舶技術研究所)…………2


表−7
原子力基盤技術開発
事前評価用総合所見フォーマット
研究開発課題名 同位体制御材料の機能と応用に関する研究(平成9年度〜平成13年度)
項  目 要  約
1.目 標 同位体レベルで組成制御された原子・分子からなる材料の物性ならびに核変換等の諸性質を明らかにするとともに、同位体制御材料の機能発現を目的とする。
2.事前評価 (1) 分子振動励起制御
 本研究グループが、前年度までに開発した CO2レーザーによるSi同位体分離技術を発展させ、酸素同位体 CO2レーザーの開発とそれを用いたSi同位体分離技術の高度化を計画したのは、着眼として自然であり、成果が期待できる。しかし、分離目標であるSi同位体(29)の利用価値が十分明らかとは言えないので、研究過程で触発される他の可能性にも十分目配りをしたい。(下記「3.留意すべき点」参照)
(2) 同位体制御材料の物性
 高純度シリコン等の同位体結晶を合成し、フォノン散乱の低減による熱伝導率の向上等を明らかにする計画は、同位体試料作成の労力に比して、物性の変化の質的意外性によるインパクトが期待できず、したがって応用の可能性も小さい。基礎研究としては、物理定数への同位体効果の方が意味がある。電子材料一般に、動作温度付近で、物理定数の温度係数が0になるように組成を調整して、動作安定性を確保するニーズがあるので、物理定数の温
度係数依存性への効果が明らかになれば、応用の基礎として価値がある。しかし、これは現状では技術的に非常に困難なテーマであるので、無責任な奨励は控えたい。
(3) 核変換機能
 中性子照射核変換によって、高濃度P均一添加Si半導体等の新機能材料を作成する計画は、照射によって生成される欠陥の影響を除去するのに技術的困難が予想され、また高コストに見合う応用分野も不明である。 核変換シミュレーションによる特性評価は、着実に結果が出ることが期待できるが、対象の選定には、当該分野における技術の成熟度や緊急性を十分考慮する必要がある。低He生成等による構造材料の耐放射線特性の向上を計画しているが周辺技術が未成熟であり、成果が結実することは期待できない。実用上は、放射性廃棄物の低放射化が、全原子力技術が渇望する緊急の課題であり、その可能性は、核変換機能の研究からしか提案できないので、たとえ困難であっても、その可能性を執拗に追求して欲しい。
3.研究開発を進めるに当たり、留意すべき点 本研究に最も期待されるのは、事前に計画したスケジュールの着実な消化よりも、必ずしもあらかじめ想定されない革新技の芽出しである。そのためには、当初の2年は、本研究計画に加えて、アイデアの探索の項目を設け、自由に独創性を発揮できる環境を作ることが望ましい。本研究グループに適したアイデア探索対象テーマとしては、同位体制御材料を用いた新レーザー、ユニークな作業物質を利用した同位体分離新技術などがある。2年経過した時点で、本計画の進展状況と新しいアイデアとを中間評価し、後期の研究計画を確保するなどの弾力的研究管理によって、スケールの大きい研究成果を出すことに留意したい。レアーアース材料は、1950年代には分離が困難で、高純度材料の性質も不明であったが、1960年代にイオン交換や溶媒抽出技術の開発により、高純度品が安価に製造できるようになって新機能が次々と発見され、現在では広く実用化されている。同位体材料も、このようなポテンシャルを持っていることを確信して、こじんまりした成果に安住せず、技術革新の源泉となる画期的新分離技術の探索に勇気を持って挑戦して欲しい。
4.その他 本研究の要素技術として、同位体分離化学技術、レーザー技術、固体物性測定解析技術、シミュレーション技術などがある。研究者の得意技術は一朝一夕には取得できず、個々の要素技術分野で研究者を長期的に育成する必要がある。しかし、研究テーマは途中経過やアイデアによって弾力的に運用する必要がある。したがって、同位体新レーザーや新作業物質を用いた同位体分離などのアイデアを強力に立ち上げるには、当該技術を有する他機関との共同研究体制が必要に応じて取れるように配慮することが望ましい。

表−7
原子力基盤技術開発
事前評価用総合所見フォーマット
研究開発課題名 高性能遮蔽材の最適化と評価に関する研究(平成9年度〜平成14年度)
項  目 要  約
1.目 標 放射線遮蔽材の小型軽量化を目的として、前期までに開発したゲル状遮蔽材等の高性能遮蔽材の最適化と評価を行う。
2.事前評価 本研究は、舶用炉や放射性物質の海上輸送などを想定した技術開発と思われるが、当該分野の計画が明確でないために、開発対象の焦点がぼけており、どんな状況にも対応できる材料設計最適化プログラムの整備に傾斜している。しかし、このようなあまりにも一般的なプログラムは、待ち伏せ研究としての意義はあるが、フィールドワークが欠如するために、砂上の楼閣に終わる危険がある。遮蔽材の最適化手法の確立を目的とするならば、遮蔽材の軽量化にこだわらずに、現在設計中の遮蔽構造に適用してその有用性を示すことが必要である。遮蔽材については、前期までに開発したゲル状遮蔽材料について、鉛と水素密度の含有量増加、密着性の向上、高密度化、中性子吸収剤の検討、耐放射線性の検討などを行う予定である。本研究グループは、構造設計を主体とした技術に立脚して、外部にゲル状遮蔽剤の開発を委託して研究を進めているが、材料開発のところでまだまだアイデアの出る余地が大である。硬化性複合材料は、入歯の型採り材料、彫像材料、各種接着剤など、用途に応じ多彩な技術が利用可能であり、また金属を含有した複合材料の領域は広大である。例えば、コロイド分散型材料は、前期研究で一応検討して捨てているが、鉛微粉末の製造、分散剤の選定を含め、有機化学と無機化学を結合した協力なグループが本腰を入れれば、大幅な性能向上の余地があろう。水素密度の向上を目的として長鎖脂肪族材料の検討を計画しているが、この系統の化合物は耐放射線性が低く、ポリスチレンなどの芳香族材料の方が、耐放射線性は高い。本テーマが克服すべき技術課題は多岐に渡り、その一つが克服できなくても実用化できない難しいテーマであるので、素性のよい材料を選定するのに努力を惜しまず、性急に開発段階に移行して、問題解決に苦しむことのないようにしたい。本グループの開発材料が本命とは限らない。
3.研究開発を進めるに当たり、留意すべき点 材料の本格的開発をスタートさせるには、実用化の見通しが必要であり 本研究は見通しをつけるのに苦労している段階と見受けられる。材料研究が探索段階を経て開発段階に入るには、目標仕様を明確にし、現用技術や代替アプローチとの比較を行って、提案する材料による目標達成見通しを明らかにする必要がある。開発段階では、製造の歩留まりや劣化試験などの泥臭い技術に集中するので、波及効果のあるアイデアが生まれる機会を放棄することにもなり、目標ができないとその計画の妥当性を問われるので、厳しい着手評価が必要である。本計画では、目標設定とその達成見通しがあいまいなままに泥臭い労苦の多い材料開発を計画しており、材料については探索段階に戻すのが適切と思われる。本研究グループの状況は「待ち伏せ」状態であり、成果のフィードバック態勢がないので、研究の活性化が難しい。今後の研究プロセスは、開発材料固有の性質の評価や改良にあまりこだわらず、特定の用途における実用化の決め手になる条件を明示し、その条件を満たす可能性のある材料を複数の外部専門グループが検討するというプロセスを採るのが妥当である。海上輸送などの特定技術に特化するか、軽量化にこだわらずに現状の技術課題を設定するか、研究行政上の配慮が望ましい。開発したゲル状遮蔽材料は、現用コンクリート遮蔽材より放射化の程度が数桁低い特徴があることは、軽量化とは別に注目すべきである。見かけのコストはゲル状遮蔽材が大幅に高いであろうが、耐用年数を経過した炉の廃棄処理コストを考慮した比較をしたらどうであろうか。このように遮蔽材の最適化と評価は、単に物理的なシミュレーションに終わるのではなく、現用技術との比較において、広い視野で総合的に行う必要がある。
4.その他 前項に述べた留意点は、研究遂行者の課題でもあるが、研究行政上の課題というべきであろう。研究行政の縦割りによる硬直化が障害になるのであれば、本基盤技術開発制度の積極的活用やより強力な研究企画体制の整備によって、克服することが望まれる。