資料第141-2号

「ITER最終設計報告書(案)」に対する国内評価報告書(案)

平成13年3月29日
核 融 合 会 議
ITER/EDA技術部会


1. はじめに
1.1 経緯
 国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor: ITER)は、核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証する核融合炉開発における重要なステップであり、我が国の原子力委員会が定めた「第三段階核融合研究開発基本計画」上の「実験炉」として位置付けられている。
 ITERの工学設計活動(Engineering Design Activities、以下「EDA」)は、1992年7月より、日本、欧州連合、ロシア及び米国の4極によって開始された。その目的は、重水素・三重水素(トリチウム)の制御された点火及び長時間燃焼の実証、さらに統合されたシステムにおいて核融合に不可欠な技術を確立すると同時に、核融合エネルギーを実用の目的で利用するために必要な高熱流束及び核工学要素の統合された試験を行うことである。1998年6月に、このような目的を達成するためのITER最終設計報告書 (1998年6月) がまとめられた。
 参加各極の財政状況等により、上記報告書に沿って建設段階へ移行することは困難であったため、4極(米国は1999年7月に撤退し、現在は3極)は、上記の目的を維持しつつ低コスト化を図るため、技術目標を再検討して新たな技術ガイドラインを設定した。この技術ガイドラインに基づいてITERの実現性を高めるために、EDAを2001年7月まで3年間延長し、日本、欧州連合及びロシアにより設計検討が行われ、平成12年1月のITER会合(東京)において、ITER-FEAT概要設計報告書(案)(以下「概要設計報告書」)が提出された。核融合会議ITER/EDA技術部会(以下「技術部会」)では、提出された概要設計報告書の技術評価を実施し、概ね妥当であるとの判断を下したところである。概要設計報告書は、その後各極の評価結果を踏まえ、2000年6月に開催されたITER会合(モスクワ)において受理された。
 このたび、2001 年2月に開催されたITER理事会(トロント)において、ITER最終設計報告書(案)(以下「最終設計報告書(案)」)が提出され、各極の評価に供されることとなった。技術部会は、当該最終報告書(案)が9年間にわたるITER/EDAの集大成となることを踏まえて、最終設計報告書(案)を構成する以下の文書について技術評価を取りまとめた。

 最終設計報告書(案)は、ITER所長、ITER共同中央チーム、各極ホームチーム及び物理専門家グループの多大の努力を通して得られた成果である。当技術部会は、その多大な努力に、敬意を表わす次第である。


1.2  最終設計報告書(案)の位置付け
 ITERは、1998年6月に設定された技術ガイドラインにより、これまでのEDA期間に多くのトカマクで得られた実験データベース、また工学R&D等で達成された技術、あるいは進行中のR&Dで近く達成される技術に基づいて設計されるものである。最終設計報告書(案)は、今後各極のレビュー結果を反映して、更なる検討を通じて改訂が行われる。改訂された最終設計報告書(案)は、2001年7月に開催されるITER理事会に提出され、審議を経た後、最終設計報告書として承認されるものである。

1.3  ITERの技術目標
 新たな技術ガイドラインで設定された技術目標は、以下の通りである。


1.4 検討の視点
現在のITERは1992年より開始されたEDAの成果をベースとして設計されたものである。本技術部会においても、2000年1月に提出された概要設計報告書のレビューを行う等、ITERに関する技術評価を積み重ねてきた。概要設計報告書の段階でITERの設計はおおよそ妥当と評価されており、最終設計報告書(案)のレビューにあたっては、

の2点に焦点をあて、以下の観点から評価を行った。また、2001年7月までにおいて、最終設計報告書に織り込まれるべき項目、さらに今後の課題としての項目についても検討した。
(1) 最終設計は、設定された技術目標を満たしているか。
(2) 最終設計は、これまでに構築されてきたデータベースや工学R&Dの成果に基づいた設計であるか。
(3) 最終設計は、EDAを完了し、建設の判断や建設協議を始めうるに十分な基盤をなすか。
(4) EDA終了に向けて明確にすべき点や運転(燃焼実験)内容をさらに向上させるために考慮すべき点はなにか。

2. 評価
 2.1総合評価
 当技術部会は、最終設計報告書(案)に示されたプラズマの性能に関して、Q≧10以上の誘導運転と必要なパルス長については達成できる見通しがあると判断する。また、Q≧5の定常を目指す運転については必要な物理データベースが整備されつつあると判断する。工学設計には、各極ホームチームで行われている工学R&Dの成果が十分に取り入れられたと判断する。その結果、平均中性子束0.5MW/㎡、積算中性子照射量0.3MWa/㎡を確保する等技術目標を満たすとともに、プラズマ性能や運転シナリオと整合した設計であると判断する。安全性では、核融合固有の安全性及び実験装置としての柔軟性を維持することを考慮している。それらを踏まえ、深層防護とALARA(As Low As Reasonably Achievable、合理的に達成可能な限り低く保つ)を基本とする安全原則に基づき、放射性物質の閉じ込め性能を確保することを安全確保の基本的考え方としており、妥当であると判断する。コストについては、EDA期間中に実施したR&Dの成果及び各極の産業界から提供された情報に基づいて、各機器毎に、物量、工数、工具、エンジニアリングサポート及びその単価から積み上げて評価しており、ほぼ妥当であると判断する。スケジュールについても、1998年に詳細に評価した成果を基に評価しており、その考え方は妥当と判断する。
 以上から、最終設計報告書(案)は、これまでに構築されてきたデータベースや工学R&Dに基づいた設計となっており、設定された技術目標を満たし得るものである。従って、EDAを完了し建設の判断や建設協議を始めるための十分な基盤を確立したと判断する。

 今後、ITERの技術目標達成の確度及び実験の柔軟性をより向上させうるものとして期待する課題は、定常運転モード及びELM(Edge Localized Mode、周辺極在化モード)に関する評価、扱うトリチウム量や壁材料等の放射化量の評価、安全解析手法に関するさらなる定量的評価、コスト評価の精度の向上等である。本国内評価報告書において、技術部会の見解を物理、工学、安全、コスト及びスケジュールの分野に分けて、2.2節から2.5節までにまとめた。これらが、2001年7月までの活動の過程で考慮されることを期待する。

2.2 物理分野の評価
2.2.1 評価の要点
 最終設計報告書(案)に示されたプラズマ性能は、1.3節に示された技術目標をほぼ満たすものであると評価する。ただし、Q≧5の定常を目指す運転については、物理データベースが整備されつつある段階と判断する。
残された期間にさらに検討を進める過程では、プラズマの性能について、これを支えるトカマクの構成機器との整合性を考慮しつつ、技術目標達成をより確実にし、計画の裕度を高めるために以下の検討が必要と考える。


2.2.2 最終設計報告書(案)に盛り込まれた研究の進展
(1) 運転シナリオ

(2) プラズマ性能評価
(3) 運転領域
(4)ダイバータ機能
(5) アルファ粒子閉じ込め
(6) プラズマ制御

2.2.3 物理分野においてEDA完了までに検討が期待される事項
(1) ITERが技術目標を達成し得ることをより確実にしうる事項

(2) 実験の柔軟性を高めると予想される事項


2.3 工学分野の評価
2.3.1 評価の要点
 工学分野においては、ITERの装置構成・配置及び運転条件等を踏まえて、トカマク機器や附帯する系統機器、プラント及び保守・補修設備等の設計が進展した。これらの設計は、これまでのR&D成果やデータベースさらに既存の技術や経験に基づいたものであり、また、概要設計報告書の国内レビューにおいて指摘した課題についても適切に対応が図られており、技術的観点から妥当と判断される。


2.3.2 工学分野における主な設計の進展
概要設計報告書の国内レビューにおける指摘事項への対応を含めて以下に示す。
(1)トカマク機器

(2)トカマクに附帯する系統機器
(3)プラント系統機器及び保守・補修設備
(4)その他

2.3.3 工学分野においてEDA完了までに検討が期待される事項
 工学分野においては、上述のように、実現可能な技術やデータベースに基づき設計されているが、以下の項目については、さらなる設計の合理化の可能性や信頼性及び柔軟性向上の観点から引き続き検討が期待される。なお、工学分野において現在進められているR&Dや詳細解析に関しては、EDA期間内にその成果が集約されコスト合理化や設計裕度の定量化等を含めさらなる設計の詳細化に反映されるものと理解する。

(1) プラズマ電流17MAによる高エネルギー増倍率運転時において、VDE(Vertical Displacement Event、垂直位置移動消滅)やTFコイルの高速消磁等の事象組み合わせの発生頻度を考慮し、合理的な許容限界を含めて設計思想の明確化と対策を検討する。
(2) 拡張試験段階で装着の可能性がある増殖ブランケットについては、遮へいブランケットの支持構造、冷却水配管との取り合い等を考慮して、設計の詳細化を図り、トリチウムの増殖・回収性能を明らかにする。
(3) プラズマ対向壁のトリチウム蓄積量については、既存トカマク等での実験結果を集約し、その評価の精度向上に努めるとともに、トリチウム再付着の抑制や制御について引き続き検討を行う。
(4) ブランケットを真空容器に直づけする構造を採用したため、真空容器の構造が複雑となり、結果として真空容器のコストが増加していると考えられる。ブランケット支持方式については、真空容器構造の単純化を含め、更に検討が行われることを期待する。

2.4 安全性評価
2.4.1 安全確保の基本的考え方の妥当性
ITERの安全性については、ITERがどの参加極にも建設可能であることを前提として、原子力施設等を対象とした国際的に共通な安全確保の原則や評価基準等に基づいて、プロジェクトが自主的に安全設計のガイドラインを定めている。これに基づき、ITERの安全確保の基本的な考え方及び安全設計の方針を構築するとともに、共通のサイト条件に対する安全解析と安全評価を実施している。
安全確保の基本的考え方は、以下の方針に基づいており、妥当と判断される。なお、この基本的な考え方については、概ね各国の考え方とも整合性があるとの共通認識が得られている。

(1)ITER特有の反応終息性や低崩壊熱密度、及び小さいハザードポテンシャル等のITERが備え持つ安全上の特徴を考慮する。
(2)ITERの運転にあたっては実験装置であることに基づく柔軟な対応を考慮する。
(3)これらを踏まえ、平常時には、放射線防護、構造的健全性の確保・維持による放射性物質の閉じ込め性能を確保すること(事故の発生防止)、さらに万一の事故を仮定しても放出放射性物質を除去・低減すること(事故の影響緩和)が可能であることを原則とする。

また、安全設計及び評価においても、以下のような考え方を採用しており、ITERの安全上の特徴を定量的に示す上で妥当と評価される。

(1)安全設計では、ハザードポテンシャルが小さいことを踏まえ、合理的な重要度分類に応じた機器仕様や荷重区分を考慮する。
(2)安全評価では、事象を(I)通常運転、(II)通常運転からの逸脱及び(III)想定事故に区分し、それぞれについて解析・評価を行う。さらに、ITERが大規模に重水素・トリチウム燃焼を行うことから、感度解析として、仮想的な事象についても影響評価を行う。
 これら一連の安全解析・評価から、ITERの安全上の特性が明らかとなり、仮想的な事象においても十分な安全性が確保できる設計が可能と判断される。また、安全解析に用いるデータベースの取得やコード検証のための実験等も、国際的に行われており、概ね妥当と評価する。

2.4.2 安全性分野においてEDA完了までに検討が期待される事項
 許認可の申請に必要な要件はホスト国に依存するため、最終設計報告書(案)に示された安全性に関する検討は、ホスト国における許認可活動を支援する技術情報として位置付けられる。我が国においては、科学技術庁により「ITER施設の安全確保の基本的な考え方について」(平成12年7月)が安全性に係る基本的要件として取りまとめられており、今後、最終設計報告書(案)に基づくサイト依存設計とこの基本的な考え方との整合性が検討の対象となる。従って、上記安全性に関する検討に用いた技術データが、我が国での許認可の審査に耐え得る定量的な根拠に基づいているかどうかを検討することが重要である。現在進められている安全性R&Dやベンチマーク計算の結果を踏まえて、安全解析の根拠となるITERに特有な安全性に関するデータ、解析手法、ソースタームの包絡性等について、引き続き妥当性の精査が行われることを期待する。

2.5 コスト及びスケジュール
 概要設計報告書以降、コスト見積もり及びコスト低減に向けた機器設計並びに製作性検討に関して、以下の進展があった。なお、今回の建設コストは、サイト整備費を除いたコストである。

(1)建設コストは、仕様記述書(Procurement Package)に基づいて、各機器毎に物量、工数及び工具・施設、エンジニアリングサポート等に分類し、それぞれの見積もりが行われた。
(2)マグネットに関しては、ラジアルプレートやコイルケースの製作及び精密加工を行う大型の専用加工施設を1カ所に集約して必要な施設の数が最小化され、TFコイルの製作が複数の企業で分業できる可能性が示されている。
(3)トリチウムプラント、計測機器、遠隔機器(ホットセル内遠隔機器を含む)及び真空排気設備等、実験に応じて仕様の見直しが見込まれるものは、実験開始時に必要な最小セットを整えることを提案し、コスト見積りに反映させた。
(4)運転期間及び解体期間における経費については、98年時の詳細な見積り評価結果に基づき、小型化されたことによる変更を評価して、積算が行われた。
 以上から、建設、運転、解体におけるコスト見積り手法は妥当であると判断する。
 なお、この見積もり手法を日本の実情に即して適用し評価すると、ITERの建設費総額は、ITER共同中央チームによる見積もりに比べ10%強ほど大きくなるという試算もある。
 建設スケジュールは1998年時の詳細な検討に基づいて立案されており、その検討・立案の手法は妥当であると判断する。

 今後、既に着手されているR&Dの成果により、マグネットの導体や構造体のコスト低減が期待されうる。これらのR&Dの成果を反映して、EDA終了までに、技術目標の達成度を確保しつつ、より精度の高いコスト見積りを行うことを希望する。

3  付帯的提案

(1)ITERの設計の進展は、当技術部会の国内評価報告書(案)に述べた様に、建設の判断や建設協議を始めるための基盤をなしている。技術目標の達成度をより確実にするために、国内においては、技術部会と同様の主体により、その進展の確認をすることは意味があると考える。
(2)サイト依存設計を行う調整技術活動(CTA)では、更に進んだデータベースの導入により、運転方法及び設計の改良案が提示される可能性がある。上記改良案が提示される場合も考慮して、その科学的健全性を確認するための国際的科学評価の実施について検討することを提案する。