資料第138-2号

 

平成12年11月6日開催ITER計画懇談会における座長設問に対する対処案

核融合会議座長 井上信幸

 ITER計画懇談会においては、これまでの議論を整理したメモ(資料第13-5号)が配布され議論が行われた。その中で、「その他の留意点」として下記の2点があげられた。
 これに関連して次のような意見が表明された。
  1. 核融合開発は他の巨大科学と異なり、大型中核装置による研究開発に加えて、補完的先進的装置による研究が総合的発展に不可欠である。このことを理解してもらうために、中間報告書で検討課題としてあげられた「計画の拡がりと裾野としての基礎研究」の重要性を最終報告書でも強調する必要がある。
  2. 中間報告以降の2年間に、ヘリカル方式の台頭という状況の新たな変化があった。このことに鑑みてヘリカル方式ITERの設計作業を実施して、本来のITERと比較検討すべきである。
  3. ITERを実際に行う40歳代の研究員の意見をよく聞いて欲しい。また、LHDが運転開始し、物作りの集団ができているので、そういう人達も含めてITERに取り組んでいくことがITER推進体制を充実するチャンスと思う。
1に関してはITER計画懇談会委員の間から、ゼロサムでなくプラスサムとすることを主張すべきであるとする意見が述べられた。
2、3に関してはITER計画懇談会座長より、これまで核融合コミュニティーはITERの誘致に関して一枚岩であると認識してきたが、そうでないとすればすぐに結論を出すわけにはゆかないので、関係者で検討してほしいとの要請があった。

 核融合会議は、ITER計画懇談会において、トカマク方式ITERが妥当であることと、わが国へのITER誘致の利害得失を分析した上で総体的評価としてわが国がホスト国としてITERを国内に建設する意義が大きいこと(注)、あわせて1の観点の必要性を説明した。ITER計画懇談会がこれらの点を受け止め、上記プラスサムの考え方が最終報告に反映されれば、最終報告書は研究者に対して説得力を有するものとなるであろう。ここでは2について技術的観点から検討するとともに、3について現状を整理する。

(注) ①「総体的に評価すると、我が国がホスト国としてITERを国内に建設し、核融合エネルギーの実現へ向けてその役割と国際的な貢献を果たしていく意義は大きいと考える。」(「核融合エネルギーの技術的実現性、計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」[平成12年5月17日核融合会議承認]より)
(井上核融合会議座長が、上記報告書についてITER計画懇談会に説明した際、ITER計画懇談会委員より、説明に対する質問あり。)
「国際協力としての意義に関し、「我が国が主導的に実施」と説明された点については、我が国が設置国となるという意味かとの質問があった。これに対し、(井上座長より)そのように意図している旨説明があった。」(ITER計画懇談会第11回議事要旨より)


検討結果(案)

2.について

 ヘリカル方式に関する研究は多大の成果があがりつつあるものの、燃焼プラズマを構想するために必要なデータベースは脆弱であり、トカマクデータベースと同程度のひろがりと深みを獲得するに必要な期間は十余年を要するであろうし、結果の予測も不確定である。これに加えてその後の設計活動に要する期間を想定すれば、ITERとの比較に耐えるヘリカル方式ITER(核燃焼プラズマ制御と工学的実証を行う核融合実験炉)の実現までにかなりの年月を待たねばならないことが明白である。
 現在の核融合開発において最優先すべき課題は、核燃焼プラズマを一刻も早く実現してその特性を解明することであり、この認識が世界的に共通であるがゆえに国際協力によりITER計画が推進されている。ヘリカル方式ITERの成立を待つことは核融合エネルギー実現を著しく遅滞させ、核融合開発の意義をも失わせる可能性がある。
 概念設計によれば、ヘリカル方式核融合炉は優れた特徴を持つものの、トカマク方式のそれより大規模となる。このことから推量すれば、ITERと同様の性能を持つ核燃焼プラズマを閉じ込めるべきヘリカル方式ITERの規模はITERを超え、よって建設予算はITERのおよそ5,000億円を相当超えるはずである。予算の拡大はITER建設をさらに遠ざけ、ひいては核融合エネルギー実現を遠ざける。
 よって現状では、ヘリカル方式ITERがITERに代替する可能性はほとんどなく、その主張は国際的に通用しないであろう。
ヘリカル方式は、ITERから次ぎの原型炉段階へ移行する際に他方式との比較検討の対象となる。核融合会議はヘリカル方式核融合開発の意義を極めて重要視している。

3.について

 我が国がITER計画に取り組むためには、日本全体において引き続き研究活動のさらなる発展と活性化を図ることによって人材の確保に務めることが重要であることをかねてより指摘しているところである。ここでいう人材は当然ITERを担う40歳代以下の年齢の研究者をも対象としている。
 例えば、LHD計画をはじめとする大学等の核融合研究については、その充実がなければ、人材供給が途絶えて長期にわたるITER計画の推進は不可能となる。また、LHD建設で育成された物作りの集団がITER計画で活躍することは極めて重要であり、歓迎される。
 かねてより、大学、研究機関、産業界の連携協力の重要性を指摘しており、これに積極的に対応する動きが見られる。今後ともこのような活動を着実なものとしていくこととしている。