4.6 計画の拡がりと裾野としての基礎研究のまとめ
計画の拡がりと裾野としての基礎研究について、検討した結果をまとめると以下のようになる。

1)核融合開発の基礎研究としての側面

「プラズマ物理学」は、核融合開発に留まらず21世紀の広範囲の先端分野を支える新しい学問基盤であリ、プラズマ状態を理解・制御することは、21世紀のビーム物理、加速器物理、光量子科学、新物質生成等の先端領域における課題解決の競争力を左右する。
ITER計画では、核燃焼プラズマにおいて展開する様々な複雑現象の科学的解明と、プラズマを地上の有限サイズに閉じ込めようとする際に発生する揺らぎと、プラズマの自己制御機能の競合作用により現出される自己形成現象等の“自律系の物理”が支配する系の制御という、新しい研究テーマに挑戦することになる。

2)核融合における技術的波及

核融合は多くの工学分野において先端的な性能を要求し、ITERの開発で必要となる先端技術を目的とした開発の過程で関連工学分野の進歩が見られ、他の分野の先端技術開発や基礎科学研究の進歩に寄与している。

3)大学における核融合研究開発と役割

大学などにおけるトカマクやそれ以外のプラズマ閉じ込め方式(ヘリカル方式、慣性方式、逆磁場ピンチ、スフェロマック等)のプラズマ物理研究や炉工学研究は、より先進的な核融合炉の実現や、プラズマ物理の理解、学問的体系化、プラズマの制御等へ、これまで世界をリードする大きな貢献を果たしてきた。また、大学における基礎研究により、現在想定されている炉心よりも優れた性能を有する核融合炉の開発の可能性も否定できない。
大学においては、先進的閉じ込め研究を行うとともに、優れた人材を養成し、ITERや今後の核融合研究や他の分野の発展に大きく貢献することができる。
若い人材の不断の育成と,研究者としての資質を維持し向上するためには,全国の大学の基礎研究を活性化させることにより,若い研究者を引き付けることが極めて有効である.
大学におけるこのような基礎研究は、学術面での貢献とともに、魅力的な核融合炉の実現に向けて重要であり、今後とも強力に推進していく必要がある。

4)企業の役割

産業界は、その高い製作技術と品質管理を通じてエネルギー問題の課題解決に寄与することができる。企業は大学、ITER等の研究に参加するとともに、機器製作の機会によって、企業の人材育成、技術の継承、改良を進めることが可能となる。

5)大学や研究機関間の連携体制

ITER計画やそれ以降の核融合研究は、長期にわたるので、これを着実に推進するとともに、それを担っていく人材を育成していくため、研究機関、大学及び企業との協力関係を一層強化する取り組みが重要である。かねてより、大学、研究機関、産業界の連携協カの重要性が指摘されており、これに対応する動きが見られつつある。今後ともこのような活動を着実なものとすることが必要である。

6)国際協力

我が国で実施出来なかったトリチウム放出実験やDT燃焼実験等の研究を可能としたり、国際的な人材の育成に貢献してきた。
科学者のみならず、その家族が日常生活においても文化活動などを通じて相互理解を深化させている。
核融合のどの分野においても、総合的な判断として協力によって得られた成果は費やした資金や労力を遥かに上回ると認められるので、核融合研究開発の進歩において国際協力を今後も推進していくことは重要である。