3.8 まとめ-核融合エネルギーの技術見通し
 核融合炉の技術開発課題に関して3.1節から3.7節までに分析・検討してきたことを、本分科会への課題である「核融合エネルギーの技術的実現性」の観点からまとめると、以下のようになる。

1) 炉心プラズマ技術:ITERにおける自己点火条件(Q〜20)と長時間燃焼の達成は可能であると判断できる。また、想定される核融合原型炉に必要となる炉心プラズマの目標達成については、ITERにおける高Q核燃焼プラズマの長時間制御の実証や、定常運転技術の高度化や高ベータ化を目指した研究等を着実に実施することによって、達成可能と判断できる。
2)工学要素技術:ITERにおいて実現する主要工学要素技術の完成度は十分高く、ITERの建設によってその核融合炉工学技術の基盤は確立される。また、現在想定される核融合原型炉で必要となる技術水準については、超伝導コイルの高性能化等一部高度化を行う必要があるが、着実に研究を進めることによって、達成可能と判断できる。
3) ブランケット・材料技術:発電技術に関わるブランケットとその材料技術については、構造材料として低放射化フェライト鋼等の有力な候補材料が存在し、中性子照射損傷に対する材料組成の最適化研究を着実に進めることによって数10〜200dpa程度の中性子損傷に耐え得る材料として開発し得ると判断できる。また、この構造材やトリチウム増殖材を用いた発電ブランケットは、今後の開発とITERにおけるモジュール機能試験を経て原型炉の使用条件に耐えるものにできると判断できる。
4) 安全技術:核融合炉は核的暴走がないことや、高レベル放射性廃棄物が生じないなど、安全面で優れた固有の特長を持っている。ITERにおける安全運転を積み重ねていくことにより、その安全技術基盤が確立される。原型炉以降においては、ITERで実現された安全技術をさらに高度化することによって、核融合発電に必要な安全技術水準に達することができると考えられる。
5) 運転・保守技術:確実なエネルギー源として高い稼働率を実現するために必要な運転・保守技術に関しては、既存の大型試験装置の運転経験やITER工学設計活動の結果から、軽水炉並みの稼働率を実現できると考えられる。
6) 製造業から見た技術課題:軽水炉建設、改良に関する製造業の経験は、核融合炉の実用化にとって極めて重要な経験であり、その経験を活かすことが、核融合炉の市場参入の可能性を高め、また、参入の時期を早めるために必須である。
7) 市場競争力の獲得の課題:核融合炉が市場競争力をもつためには、固有の安全性を活かしつつさらに安全性を高めることと、コスト削減のために、炉の小型化に不可欠な炉心プラズマ、炉工学技術の高度化が重要である。市場競争力の実現時期は、原型炉以降となるであろうが、その実現の可能性は十分にあると考えられる。

 以上のように、個別の技術課題について研究開発努力を積み重ねていくことによって、発電を目的とした核融合原型炉の技術目標水準に到達することは可能であると評価される。