3.6 製造業から見た技術課題
 ここでは、製造企業から見た核融合炉を市場技術とするための課題、国主体で開発する原型炉への製作参画から製造企業が製品として実用炉に育て上げるための課題について、軽水炉等の先行原子力施設の建設経験を参考に整理した。なお、ここで言う製造企業とは、施設を製作納入する機器メーカあるいはプラント供給メーカを意味する。

(1) 軽水炉建設計画および工事スケジュールから見た核融合炉の課題[3.6-1~3.6-5]
 核融合炉に関してはまだ原子炉等規制法等規制に関する法令がなく、手続きや必要な申請書の様式が確定していない。既設の原子炉施設建設に関わる全体スケジュールの例では、安全審査に1年半、その前の設置許可申請書作成に1年強はかかる[3.6-5]。それ以外の手続きも含め5年はかかるとすれば、準備を早く進める必要がある。建設サイトの決定と、法令、安全審査指針類あるいはそれに代わるものの整備推進が望まれる。また、既設の原子炉施設で発電を伴う場合は電気事業法の適用も受けている。核融合実験炉はどうするのか議論が必要である。ここでは、そうした点に鑑み軽水炉の場合の建設計画、工事スケジュールについて整理し、今後の参考に資する。
 原子力発電所の建設工事に当たっては、下記の特徴があり、それを十分把握し、建築側、機器側がともに協力し合い、適切な管理の下に工事を進めることが大切である。
 イ) 建築工事と機械工事が長期間並行して行われる。
 ロ) 工事物量が多く工事期間が長期に亘る。
 ハ) 品質管理上の要求事項が細部にわたり、かつ追跡性のある記録を残さなければならない。
 建設工事期間は、着工から運転開始まで4~5年を要する。このような、工事を効率良く進めるためには、計画段階での詳細な検討、プラント設計の早期の確定等に加え、入念な工程管理が必要である。
 新規建設に当たっては、着工前の計画段階にもかなりの期間を要する。計画には5年以上を要し、個々のプラントによって大幅に異なる。計画段階では、電力会社主体に進められるもので、安全審査が終わり設置許可後に機器メーカに発注される。機器メーカは、決定された条件の下で最も適したプラントを設計し建設することが使命である。但し、実際は、計画段階からメーカが協力して設計検討を先行させる場合が多く、現地搬入時点から逆算した材料調達、製造開始、工事計画認可時点、を考慮して進めなければならない。以下、機器メーカの関わる計画、建設の概要を記す。

 1) 原子力発電所の計画
  ① 許認可
 原子力発電所の計画、建設、運転に到るまでには種々の法令に基づき必要な許認可手続きを行わなければならない。特に、原子炉等規制法、電気事業法は密接に関わる法令である。

 施設計画、環境審査を経て、発電所の立地が決定されると、電気事業者は原子炉等規制法に基づき原子炉の設置につき通産大臣に原子炉設置許可申請を行い、その許可を受けなければならない。この許可審査がいわゆる安全審査である。
 原子炉設置許可申請書構成の一例を、表3.6-1、表3.6-2に示す。本文の量に比べ添付書類の量が大きい。特に、添付書類の八~十は比較的詳細にわたっており、機器メーカへの発注前であっても、かなり設計を進めておかなければならない内容である。
 設置許可後、電気事業者は電気事業法に基づき,工事計画の詳細を通産大臣に申請し,許可を得なければならない。この工事計画の認可申請は、建設工事の初期段階で全ての工事内容に対して詳細設計を完了することが困難なため,通常主要工程毎に適宜分割して認可を受けることが出来る。
 なお、開発途上にある新型炉の場合は、商用炉ではないから、監督官庁が通産省ではなく科学技術庁になり、工事認可手続きが「設計および工事の方法の認可の申請(設工認)」とされ、電気事業法ではなく原子炉等規制法によるところが異なる。また、新型炉であっても、発電も伴う場合には、電気事業法の適用も受け、二重に規制を受けている。
  ② 基本計画、設計等
 施設計画に基づき原子力発電所建設の基本方針が決定すると、発電所出力、炉および格納容器の形式、発電所設備の基本設計、構内全体配置計画、機器配置計画等を行い、引続き主要機器設備の仕様を固めて行く。
また、機器設備の設計と協調を図りながら、建物・構築物等の設計を進めて行く。設置許可申請前に設計の大筋は固めておく必要がある。
  ③ 品質保証
 電気事業者は発電所の設計段階から運転開始に到るまでの一貫した品質保証計画を確立し、発電所建設に伴う許認可関係をはじめとして、機器の設計、製作、試運転について統括管理を行う必要がある。機器メーカは品質保証に関する計画を電気事業者に提出し、自社製作品および購入品に関する品質保証活動を遂行する。電気事業者はこの活動が正しく遂行されていることを確認するため、実施状況の管理、各種記録の確認、立会検査等を行い統括管理する。
  ④ 供給範囲の決定と発注
 一般的には次のように分割して発注される。
 イ) 土木工事:敷地造成、荷揚施設、建屋・構築物の基礎,周辺緑化の工事毎に
 ロ) 建築工事:発電所の主要建屋、周辺の付属建屋等建屋毎に
 ハ) 機器設備:主要機器設備、各付属設備毎に
 このうち主要機器設備の発注は、一般に本工事着工時点までに本契約が結ばれるように行う。

 2) 原子力発電所の工事工程
 建設工程を大別すると、原子炉建屋関係、廃棄物処理建屋関係(BWR)、制御建屋(BWR)または原子炉補助建屋(PWR)関係、タービン建屋関係に分けられる。工事区分から見ると、4期に分けられる。
 第一期 土木工事主体の工事期間
 第二期 建築工事主体の工事期間
 第三期 機器設備据付の工事期間
 第四期 試運転期間

 建設工事期間中の工程は、上記流れの中で機器の製作工程や官庁関係の検査等と協調を図り計画を進める。この工程計画にあたっては、プラントの動向、敷地の気象条件等から工事に必要な期間を想定し、電気事業者が基本工程および総合工程表を作成する。建設工事は、これに基づき機器メーカが詳細工程表を作成し、両者間で十分な調整を行いながら工程の維持を図っている。

  ① 土木・建設工事
 原子力発電所の敷地の整地工事は、構内全体配置計画に基づき行われるが、わが国では復水器冷却用の水源を海に求め、沿岸立地となり、一般的には残土の有効利用を兼ねて一部海面を埋め立て敷地の一部として利用している。
 建屋基礎掘削工事は、建設に伴う諸手続き完了と同時に開始され、完了時点で、プラントとしての最初の使用前検査(岩盤検査)が行われる。
 建屋工事は、建設工程の大半を占める。工程短縮を図るため、仮設計画、短縮工法の採用、機械・電気工事との調整を十分に行う必要がある。
  ② 機械・電気工事
 原子炉格納容器の据付工事がクリティカルパスであり、大掛かりな機械工事と建築工事が並行して進められるので十分な調整が必要である。機器、配管類の据付が進み、系統としてある程度纏まった状態になると、系統のフラッシングが開始される。フラッシングは、系統内の異物を除去するため行われ、水または空気で実施する。
 イ.放射化される異物の量の低減
 ロ.異物により発生する設備の不具合防止
 ハ.系統内の有害成分の排出
 フラッシング用のろ過水、純水は、短期間に多量に使用される。原水の確保、純水の製造能力、貯蔵能力等について事前に十分計画しておく必要がある。また、環境への排出基準を満足させるため、廃水処理設備を設置し処理する必要がある。
 フラッシング後、耐圧・漏洩試験を水圧または気圧により実施する。
  ③ 試験・検査
 以下に、主要な試験検査の流れを示す。
 イ) 工場試験:必要に応じ官庁立会の使用前検査、電気事業者の立会検査
 ロ) 据付試験:電気事業法に基づく溶接検査、イ項、ロ項の使用前検査を含む
 ハ) 機器単体試験:系統機能試験に備え据付後の機器単体の運転調整
 ニ) 系統機能試験:電気事業法のハ項使用前検査を含む
 ホ) 総点検:主要ステップ毎に、電気事業者、メーカ合同で実施
 ヘ) 起動試験
 新型炉では原子炉等規制法によるが、発電を伴う場合は電気事業法の適用も受けている。

(2) 原子力発電所の建設体制[3.6-10]
 ここでは核融合炉の建設体制を考えるためにいくつかの例を示す。既設の原子炉はいずれも建設の主体が単一の国内事業者である。国際協力で、建設主体が国際共同組織になる場合は、取纏めのあり方が懸念される。早急に、議論を進める必要が有ると考える。
 ここでは、資料3.6-1に、これまで建設された原子力発電所の建設体制の例を挙げる。
  ① 一般
 建設には機器メーカ(プラント供給メーカ)のほかに、建築工事、土木工事、港湾工事等に関わる業者等、多数の業者が関係する。各業者は、さらにいくつかの業者に協力を求め担当範囲を纏める。機器メーカの例では、一部を関連会社、サブベンダ、建築工事業者に依頼して作業を纏めている。
  ② 関西電力/大飯4号機(PWR)
 機器メーカは三菱重工に発注。建築業者は多数に発注している。BWRも東芝、日立のいずれか1社に発注されてるケースが多い。
  ③ 日本原子力発電/敦賀1号機
 日本最初のBWR発電所。機器メーカとしてはGEにのみ発注されており、国内メーカはその下請けとして、日立、東芝が一部の設備を担当した。
  ④ 中部電力/浜岡4号機
 機器メーカとして、東芝、日立の2社に並列に発注された。
  ⑤ 東京電力/柏崎刈羽6号機
 機器メーカとして東芝、GE、日立の3社の共同企業体(代表者:東芝)に発注された。
  ⑥ 動燃事業団/もんじゅ
 機器メーカとして、東芝、日立、富士、三菱重工の4社に並列に発注された。4社の技術調整を4社共同出資のFBECが行った。また、建築は3つの共同企業体(J/V)に発注された。

 

(3) 技術の習熟[3.6-8]
 ここでは核融合炉実用化へ向けて、我が国の軽水炉技術の進展の経過を振返り、技術の習熟のあり方を検討した。軽水炉の初期に起きた事象やこれまでの不適合事例に類似のことは十分考慮して開発を進めていくべきであるが、それに限らず、新規技術は多々ある。
 後述する軽水炉技術の進展経過から考慮すべきことを総括すれば、下記のように纏められる。
 イ) 外国技術の導入の限界
 ロ) 建設・運転により顕在化する課題
 ハ) 建設・製作経験の蓄積の必要性(試作R&Dを含む)
「技術開発」が本来もっている側面の一つとして、技術者自らが手を下して開発したものでないと、実用段階で役立ちにくい、ということがある。当初予測できなかった難問が次々に出てくるのが常であるが、これらを克服しながら解を見いだしていくことそれ自体が技術開発の重要な部分を占めており、この過程を経ることによって、より良質の生きた技術を手にすることが可能となる。そして物造りの心を吹き込まれた新技術が実用に供され、蓄積された知見が、将来に起こりうる技術の改良を可能にするとともに優秀な人材が育ってゆく。
 外国の技術の導入は、二つの問題をはらんでいる。その一つは、予期せぬ難問を克服して解を得てゆく過程を経験できないため、その後の補修や改良もままならないということが将来起こりうること、他の一つは、このようにして導入された技術は、自国と導入先の技術の質(製作ノウハウ、材料資源、検査基準他で形作られる技術の総体)が通常異なっているため、そのままの形ではまず役立たないことが多い、ということである。導入技術を役立てるには、自国の技術の質に合うような改善や、R&Dのやり直しを要する場合が出てくる。
 核融合開発は依然基礎研究の性格も有していること、タイムスパンが非常に長く実用化はかなり先であることから、それまでは国主体の開発になる。しかし、将来へ繋がる技術の蓄積と伝承は、実際に機器メーカが製作に携わることによりなされていく。特に、核融合のキー技術・コンポーネントについては、それが必要である。また、全体工程を進める上でも、プラント・システムエンジニアリング、プロジェクトマネージメント等取り纏めも分担協力して製作・建設していくことが大切と考える。このようにして、実験炉、原型炉を経験しつつ、実用化に到る過程では、事業体に電力会社が何らかの形で参加して、建設・運転経験を積み重ねて行くことも必要であろう。その段階では国、電力会社、機器メーカが協力して改良すべきところは改良しつつ、実用化へ進む。
 いずれにしても、機器メーカの持つ人材、技術を継承、改良を重ねて技術を高めることが大切で、製作機会がわずかであれば技術は一過性のものになってしまう。また、昨今の厳しい経済情勢の中、機器メーカとしても不採算事業は維持が難しく切捨てが余儀なくされている。関連技術が何らかの形で継続的に物件として適正に与えられることが必須である。
 以下、軽水炉について進展を纏める[3.6-1, 3.6-6, 3.6-7]。

 1) 軽水炉開発当初の状況
  ① 我が国における軽水炉の開発
 我が国の初期の実用炉は、実証された米国技術の導入から出発した。この時、国内メーカはGE社、WH社の下請けとして建設に参画し、原子力プラントの建設を経験する事が出来た。この頃の国内メーカは研究炉や動力試験炉の建設経験はあったが技術レベルは格段に低く、品質管理面でも基本からの勉強が必要であった。システムエンジニアリングは米国社と技術提携を結び、原子力システム技術の消化・吸収に努めた。以下、BWRを中心に経過を記載する。
 我が国の技術レベルもさることながら、導入初期のBWRではGE社支給の輸入品の品質と納期管理についても問題が多かった。溶接欠陥などの手直しを余儀なくされた。納期遅れについては、建設工法の工夫で全体工程を確保するなど、反面教師として教訓を得ることもあった。また、初号機ではプラントエンジニアリングは米国EBASCO社が担当していたが(資料3.6-1参照)、設計業務の遅延等あり、工程確保のため設計支援を行い、実習を通して技術を学ぶことが出来た。
 輸入プラントにおいては原子炉主要機器はGE社供給であった。この国産化にあたっては、GE社のknow howを学び、数次に亘る試作を繰り返すことによって製品の信頼性を実証し、客先に提案、実プラントへの採用にこぎ着けた。
  ② 運転経験からの課題
 米国で開発されたBWRは基本的にはうまく設計されていたが、運転経験が浅かったため、運転を始めてみると、発電所として使いにくい点が多々有り、対応を必要とした。
 イ) 改良を要したBWRの課題
  ・廃棄物処理系の機能不足と廃棄物量の多さ
  ・運転員・作業員の放射線被曝が大きく、作業に支障
  ・燃料破損率
  これらに加えて、1974年頃には各種のトラブルが相次いで発生した。
 ロ) 初期トラブルの発生とその克服
  ・一次系ステンレス鋼配管の応力腐食割れ、他(BWR)
  ・蒸気発生器伝熱管漏洩、等(PWR)
  その結果設備利用率の低下をもたらし50%を割った。
 これらは、電気事業者とプラントメーカの協力により故障原因の究明と、類似事象の未然防止対策を含む対応技術の開発を積極推進した。

 2) 自主技術開発
 これらの課題の解決はBWRにとって大きな試練であったが、同時に自主技術開発への大きな転機となった。
  ① 導入技術を学ぶことに重点を置いたことへの反省から、基礎研究の重要性の再認識と研究開発体制の整備。(海外技術の限界の認識)
 ・GEとの共同研究(対等の立場での新規技術開発契約)
 ・電力共同研究制度のスタート:メーカのR&Dをサポートし成果の積極的採用
 ・国が原子力工学試験センター(現原子力発電技術機構)の設立へ
 これまで、国は「実用炉は産業界の責任で」と言う考え方であり、軽水炉に関しては、規制の立場からの安全性基礎研究等の日本原子力研究所における研究が中心で、軽水炉の技術開発は行っていなかった。しかし、前述の初期トラブルや、社会的影響等を考慮して、国も軽水炉技術の向上に積極的に取り組むようになった。具体的には、1974年に電源開発特別会計を創設したのを期に予算措置を講じ、軽水炉の安全性、信頼性についての大規模な工学的実証試験に着手した。

  ② 改良標準化計画
 PWRにも同様の問題があり、我が国の国情にあった、信頼性の高い軽水炉を開発していかなければならないとの共通認識が、国、電力会社、プラントメーカの間に芽生え、「軽水炉改良標準化計画」がスタートした。
 先ず、信頼性・稼働率の向上、作業員の受ける線量の低減等を目標に、第1次 (1975~1977年度)、第2次(1978~1980年度)の改良標準化計画が推進され、全50項目以上の改良提案が提出された。
 第1次、第2次の改良標準化成果は、それぞれ新規の建設プラントに採用された。軽水炉改良標準化作業を進めるうち、保守的な点が目に付くようになった。その結果、原子力発電所の物量や建屋容量も増大し、その上、オイルショックの影響を受け原子力発電所の建設費の大幅な高騰を招く結果となってしまった。このため、第3次改良標準化(1981~1985年度)では、新型軽水炉の開発を取り上げる一方、原子力高度化懇談会が設置された。また、従来型の軽水炉も改良・標準化がなされた。
 この様にして検討された成果により、1996~1997年にかけてABWRとして柏崎刈羽原子力発電所6、7号機が運開になった。
 成果として、
 ・炉心燃料の改良で燃料破損をほぼ0に抑えることが可能になった
 ・従業員被曝を一桁以上低減、定検工数の大幅低減・期間短縮
 ・外部への放射能放出低減(気体は自然放射能の5%以下、液体はほぼ0)
 ・運転・制御性の向上
 ・建設期間の短縮(50ヶ月以下に)
 ・稼働率80%以上
 3) ABWRの開発経緯
  ① AEG社(ドイツ)、AA社 (スエーデン)が独立にインターナルポンプ(RIP)プラントを開発
  ② 国内は、1977、電力委託研究としてRIPシステム検討開始(東芝)、微調整制御棒駆動機構(FMCRD)日立・東芝共通電力共研
  ③ 新型炉の国際共同開発
 1977夏、東芝、日立、GEの3社による新型炉共同開発に合意、共同検討チーム(AET)を発足させることになり、さらにASEA ATOM、Ansaldo(伊)も加わった。

(4) プラントの量産効果について[3.6-9]
 わが国の軽水炉はPWR、BWRを合わせても平均2年に1基弱の建設ペースであり、早いペースではない。しかも、型も出力も同一のものは少なく、量産効果は期待できないと考える。
 これに対して、フランスでは原子力発電が発電電力量の約80%を占め、安価であるとされている。その理由は、原子炉を標準化し、シリーズ生産してきたことによる。90万kW級、130万kW級で各々炉型を標準化し、10年間に主要炉型で平均10基/(炉型)をシリーズ生産した。これによれば、標準化された同一炉型のプラントを1基/年のペースで建設したことになる。
 核融合は、まだ内容が確立されておらず開発途上の装置であり、1炉型1基のみの一過性の建設であるから、全く事情が異なる。生産設備は減価償却の問題もありコストに跳ね返る。経済性は実用化されある程度運転実績が出来てからでないと期待できない。改良標準化はある程度実用化実績が進んだ段階でなされるものである。

(5) 製造業企業の負担能力[3.6-11]
 これまでのわが国の実績では、導入期を除き、軽水炉は機器メーカ1社でプラントのほぼ全体を取り纏めてきている。新型炉は、複数の機器メーカが協力して建設してきた。JT-60も新型炉と同様であった。これらの例を資料3.6-1に示す。このやり方は、国内では今後も同様と考える。
 契約の形態として構造仕様契約か性能仕様契約かの区別は、性能についての責任を発注者と受注者のどちらがどの範囲まで負うかと言うことであるが、純粋にどちらか一方の契約形態と言いきれるケースは少なく、状況に応じて、トータルとして最善の結果が期待できるように双方が責任を分担することになる。ここでは典型的な性能仕様と構造仕様を比較する。

性能仕様契約:
 発注者が基本設計を行い、機器の満たすべき性能と基本仕様を明記した性能仕様書によって契約する方式である。受注者は、詳細設計、製作設計、試作開発、製作、単体試験、必要な場合は改造を行い性能を確認して納入する。性能責任は受注者が負う。契約の性格上、ある規模のサブシステムまたはシステムが契約の対象となるのが普通である。

構造仕様契約:
 発注者が、基本設計、詳細設計、製作設計および試作開発を行い所定の性能が出るとの見込みをもって、製作図と機器の材質/構造/製作方法等を明記した構造仕様書によって契約する。受注者は製作して納入する。単体試験は発注者。その結果、改造が必要な場合、発注者が改造設計し構造仕様を作って、受注者が改造作業を行う。性能責任は発注者が負う。契約の性格上、単品が契約の対象となるのが普通である。

 図3.6-1に両契約方式における、発注者と受注者の業務分担の典型例を示す。いずれの場合も、仕様書作成に先立つ設計が必要である。性能仕様契約の場合は、発注者の責任で企業のエンジニアが参加してこれらの設計を実施した例がある。構造仕様契約は欧米に多く見られるが、諸設計は主体となる研究機関が実施した例が多い。両者の比較を表3.6-3に示す。
 その選択は、技術レベル/種類だけではなく、国や発注機関、企業の能力や習慣の影響も受けると考える。

参考文献
[3.6-1] 浅田忠一、他監修:原子力ハンドブック、オーム社(1989)
[3.6-2] 原子力安全研究協会:軽水炉発電所のあらまし(1984)
[3.6-3] 通省産業省資源エネルギー庁:原子力発電便覧'97(1997)
[3.6-4] エネルギーレビュー6月号(1994)
[3.6-5] 徳光岩夫:原子力発電所の計画設計・建設工事、電気書院(1979)
[3.6-6] 益田恭尚:火力原子力発電、49、No.1、p.48(1998)
[3.6-7] 通商産業省:「日本・中国原子力発電技術セミナー」資料(1998)
[3.6-8] 森野信幸、小川雄一:プラズマ・核融合学会誌、74、No.8、p.811(1998)
[3.6-9] 日本原子力産業会議:原子力年鑑97(1997)
[3.6-10] 日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向1997年次報告書(1998)
[3.6-11] 日本原子力産業会議:ITER建設段階を想定した産業界の考え方(中間報告書)(1996)

図3.6-1 両契約方式における業務分担の典型例

表3.6-1軽水炉設置許可申請書の構成(1)

[本文]
1.氏名または名称
2. 使用の目的
3. 原子炉の形式
4. 原子炉を設置する工場または事業所の名称および所在地
5. 原子炉およびその付属施設の位置,構造および設備
6.原子炉施設の工事計画
7.原子炉に燃料として使用する核燃料物質の種類及びその年間予定使用量
8.使用済み燃料の処分の方法

[添付書類一]
原子炉の使用の目的に関する説明書
[添付書類二]
原子炉の熱出力に関する説明書
[添付書類三]
工事に要する資金の額及び調達計画を記載した書類
[添付書類四]
原子炉の運転に要する核燃料物質の取得計画を記載した書類
[添付書類五]
原子炉施設の設置及び運転に関する技術的能力に関する説明書
[添付書類六]
原子炉施設の場所に関する気象,地盤,水理,地震,社会環境等の状況に関する説明書
[添付書類七]
原子炉又はその主要な附属施設の設置の地点から二十キロメートル以内の……地図
[添付書類八]
原子炉施設の安全設計に関する説明書
[添付書類九]
核燃料物質及び核燃料物質によって汚染された物による放射線の被曝管理並びに放射性廃棄物の廃棄に関する説明書
[添付書類十]
原子炉の操作上の過失,機械又は装置の故障,地震,火災等があった場合に発生すると推定される原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書

 

表3.6-2軽水炉設置許可申請書の構成(2)

[添付書類八]構成

1.安全設計

1.1 安全設計の方針
1.2安全設計審査指針への適合
1.3耐震設計
2.プラント配置
3.原子炉及び炉心
3.1概要
3.2機械設計
3.2.1燃料(機械設計を含む)
3.3核設計
3.4熱水力設計
3.5動特性
4~12.各系統の説明
13.運転保守

[添付書類九]
1.放射線防護に関する基本方針
2.発電所の放射線管理
3.周辺監視区域境界及び周辺地域の放射線監視
4.放射性廃棄物処理
5.被曝線量の評価結果

[添付書類十]
1.まえがき
2.運転時の異常な過渡変化
3.事故
4.重大事故及び仮想事故

 

表3.6-3 性能仕様と構造仕様の比較

資料3.6-1 原子力発電所建設体制例