3.5 運転・保守技術の現状と今後の課題
 核融合炉開発は、そのステップである実験炉→原型炉→実証炉の流れを経て、実用化へと繋がるシナリオが想定され、商用炉では当然他の既存発電所と同程度の運転保守条件、即ち短期間の建設調整運転(コミッションニング)とそれに続く高効率・高信頼性(=高稼働率)運転等を実現することが要求されるであろう。この具備すべき運転保守条件を実現するために、各核融合炉開発のステップで解決しておかねばならない課題は何か。本節では、この疑問に答えることを目的に、運転保守技術の現状と今後の課題を明確にする。検討の方針は、核融合商用炉の運転保守条件を実用軽水炉の場合[3.5-1,2]を基に規定し、その各項目毎にトカマク型核融合炉の想定される実現可能性(運転・保守技術の現状と今後の課題)について、データを基に検討する。データとしては、大型トカマク装置JT-60[3.5-3]、国際熱核融合実験炉ITERの最終設計報告書(Final Design Report (FDR))[3.5-4]及びコンパクトITER、原型炉の参考情報として定常トカマク型核融合炉SSTRを用いる[3.5-5]。

3.5.1 レファレンスとしての商用軽水炉運転保守条件[3.5-1, 2]
 核融合発電プラントのレファレンスとして商用軽水炉を用い、核融合商用炉に要求される運転保守条件の定量化を行うことにする。

建設・起動試験期間:
 原子炉の建設期間は、関連建家の岩盤検査・ベースマット工事開始から燃料装荷までに約4年、その後約1年間の起動試験を行って原子炉を始め各装置機器類の健全性を確認し運転開始に至る。この起動試験とは、プラントとしては既に完成している状態で、出力を0から100%出力まで上昇させながら、各種保護動作の最終確認を行う期間と位置付けられ、期間は約1年である。内容は、①燃料装荷(+大気圧試験(BWR))、②零出力試験(PWR)/核加熱試験(BWR)、③出力上昇試験、④出力実証試験(総合負荷試験)であり、この後は100%出力での運転が継続される。
設備利用率:
 軽水炉の設備利用率は、1997年には日本やドイツで約83%、フランスで約70%、先進国最低のカナダで約61%に達している[3.5-6]。日本の実績値は、定期検査時期を除きほぼ100%で運転していることを意味する脅威的な数値であり、平均設備利用率で80%台を確保している。
運転員:
 運転に関わるマンパワーは、参考文献[3.5-1]から、中央制御室に常駐する直体制として、当直長、当直副長、当直主任、当直副主任、主機操作員、補機操作員1-2、計6-7名となっている(2ユニット1制御室方式を採用した場合、当直主任2、主機操作員2、補機操作員3-4と増加し計10-11名)。6班3交代制をとっている。通常運転中、定期検査中も職務変化が起こるだけで人数は変わらない。
定期検査:
 定期検査は、原子炉とその付属設備、蒸気タービンについてそれぞれ13ヶ月、25ヶ月以内毎に実施することが義務付けられている。期間は、解列から併列まで標準的な定期点検の場合50日から70日の範囲である。従って、設備利用率のさらなる向上を目指し、定期検査期間短縮の努力が継続されている。定期検査中の作業被ばくは、炉平均約2-3人Sv/基で、一人当たり1 mSvである。
計画外停止:
 定期検査以外で設備利用率を下げる要因は、トラブルである。日本の場合、計画外停止の回数は0.2回/(基・1995年)と極めて低い。先進国中最も多いフランスの計画外停止は4回/(基・1995年)であり、設備利用率は75%となっている。設備利用率の最低は61%のカナダである。トラブル(法規に基づく報告)の件数も日本の場合極めて少なく、0.5件/(基・1997年)となっている。以上から、軽水炉稼働実績は表3.5-1にまとめるとおりである。

表3.5-1 核融合炉のレファレンスとしての軽水炉稼働実績

3.5.2 核融合炉で想定される運転保守条件の実現可能性
 軽水炉稼働実績の各数値(表3.5-1)は原子力発電導入初期からの様々な技術的課題を解決し、さらに最適化が図られた結果であるため、核融合の実用化の初期から直ちにこの値になることは難しい。しかし、技術的可能性の議論においては、この値を目安と採用しても議論としては大きな質的問題は無いと思われる。
 その軽水炉稼働実績の各項目に対して、核融合商用炉は同程度の数値を実現することが要求されている訳であるが、現在の技術レベルから見て可能な値であろうか?その点を明らかにするために、ここではまず、大型トカマク、実験炉、原型炉、実証炉/核融合商用炉の各段階の装置の特徴を示した後、軽水炉稼働実績の各項目に対応する核融合炉側の定義を明確化する。次に各運転保守条件項目毎に可能性と課題について主にJT-60の運転実績[3.5-3]やITER最終設計報告FDR[3.5-4]を基に議論する。
 核融合炉に繋がる開発ステップにおける装置運転上の特徴を表3.5-2に示す。運転に大きく影響を与える要素がステップ毎に異なるため、初めて摘出される運転上のクリティカルな要素も存在すると考えられる。

表3.5-2 核融合装置の運転上の特徴

 これらのうち、特に現在の大型トカマクから実験炉ITERへの移行において、両装置の規模の相違に加え表3.5-2の下側5項目について異なり、これらは運転形態の変更にも繋がる。ここで、軽水炉稼働実績の各項目に対応する核融合炉側の定義を規定した後、各項目の実現可能性を検討する。

起動試験:
 核融合の場合コミッショニングと呼ばれる調整試験が対応すると考えられる。コミッショニングでは、装置完成後全システムを実際の運転と同様に動作させることであり、制御系・計測系試験、安全保護系試験、各コイル通電試験、燃料供給試験等が段階を経て実行される。特に段階を踏む意味でプラズマ無しの試験の後プラズマを含めた試験に移り、最終的には100%出力までを確認する試験となる。

設備利用率:
 軽水炉同様の定期検査やトラブル等で発電停止した時期を除く期間の割合、また運転員は、定常状態に入った炉を運転監視する人員数とする。
定期検査:
 ブランケット交換、ダイバータや耐熱材の交換、コイル点検、冷凍機、制御計装系や補機類の点検、タービン点検等である。凡そ軽水炉と同様の項目であるが、軽水炉と比較して14MeV中性子による機器の放射化があり、トリチウムの存在等の特殊状況もあるため遠隔保守が必須である。これにより、作業被ばくを軽水炉並み以下に抑えることが要求される。
トラブル:
 計画外の発電停止をもたらす或はその可能性のある事象とする。核融合炉を構成する数多くの機器は、単独発生以外にも、他の機器やプラズマの挙動をきっかけにしてトラブルを引き起こす。発電停止を回避し炉全体の信頼性確保のためには、軽水炉と同様多重化を始めとする対策の実施が必要である。

(1) 起動試験(コミッショニング)
 核融合炉のコミッショニングでは、装置組み立て完了後、プラズマを着火せずに試験を行い、全機器の健全性を確認した後、プラズマを用いて出力上昇試験等が実施されると思われる。ここでは、JT-60の実績とITER(FDR)のコミッショニング計画から、核融合炉の場合の予想を試みる。

① 大型トカマクJT-60の場合
(a)「コイル通電試験」:試験項目総数26(合計通電ショット数680)
 トロイダル/ポロイダル磁場コイルを単独及び複合に使用し段階的電流を上昇させる試験を実施した。
(b)「総合機能試験」:試験項目総数40(合計通電ショット数150)
 全設備を実稼働と同様に動作させ、安全保護系を含む全システムを確認する試験を行い、ファーストプラズマ着火へと進めた。(a), (b)の、実施期間は4ヶ月(1984.12-1985.3)であった。
 JT-60の場合の4ヶ月間という時間は、大型トカマク装置製作の経験が無い状態で、着実に段階を踏むことで予期せぬ不具合も吸収出来る工程を採用した結果といえる。そういう意味において最適化が図られれば試験項目や期間の縮小は充分可能であると思われる。例えば、通電試験のステップを倍にとれば、さらに1/2の2ヶ月程度までは短縮出来る。因みに、JT-60大電流化改造の場合、ポロイダル磁場コイルは全く新規に製作したため、再度通電試験を実施したが、合計70ショットをわずか10日間で完了している。

② 実験炉ITER/FDRの場合[3.5-4]
(a)プラズマ無しコミッショニング:項目数は約30項目。期間は約1年である。
(b)プラズマを用いたコミッショニング:核融合炉の装置ハードウェアとして総合的な試験が終わると、ファーストプラズマ着火を行いプラズマを用いたコミッショニングに移る。

 プラズマ制御に係わる諸量の調整を行うITERの場合のコミッショニング所要期間2.5年は、実験炉における水素プラズマによる各種制御実験の試行錯誤を想定している。実験炉段階では、所定のプラズマ性能を達成するシナリオになお不確定性があるため、試行錯誤可能な試験期間をとっていると考えられる。プラズマ生成シナリオが確定していれば、計算機制御手法を用いることで、短時間で目的を達成することは可能である。例えば、JT-60のプラズマ電流の上昇については、ファーストプラズマ着火から、1.6MAまで立ち上げるのに実質わずか1.5ヶ月で達成している。プラズマ制御に関する知見に基づく制御系が完備され、調整の余地が少ない場合には、極めて速やかに調整が完了することを示唆している。従って、プラズマ生成シナリオの確定と調整手順の最適化が、商用炉までに定型化/標準化されることが当然必要となる。核融合炉に於けるプラズマ制御性の主要な確認項目は、核融合反応率制御と安全停止制御であると思われる。これらに関する現在の制御技術から、目的を達成するためのプラズマ制御の課題を概観してみる。
 核融合反応率制御(=エネルギー増倍率の制御が基本)に直接的に関係するプラズマの諸量は、イオン温度(Ti)、電子密度(ne)、エネルギー閉じ込め時間(τE)のプラズマ性能に係わる3基本量である。イオン温度、電子密度の2量は、ある程度直接計測が出来、これらに直接関与するアクチュエータは、それぞれ加熱装置、中性ガスの注入装置等であるので、フィードバック制御の対象として取り扱うことが出来る(図3.5-1)。

図3.5-1 プラズマ制御とプラズマ性能基本量との相互関係概要

 この他、実燃料使用時のDT反応アルファ粒子の挙動のように大型トカマクでは充分研究出来ない項目や、観測不可な諸量(第一壁の状態、渦電流、等)の放電への影響等の今後の進展を待つ項目も存在している。
 コミッショニングでは、これらの諸量や関係式が、設計段階の想定どおりであることを確認しながら、核融合出力上昇試験が進行する。最終的な核融合炉での制御方法は、おそらく幾つかの運転パターンを選択するだけの洗練されたものになるであろうが、実験炉(/原型炉)ぐらいまでの段階では、最適な運転パターンを模索するために、様々な試行錯誤を可能にしなければならない。
 安全停止制御は、ディスラプション回避を含む異常現象の予測と回避、またプラズマやシステムに異常現象が発生した時の安全停止を目的としており、発電プラントとして成立するための必須機能の一つである。装置機器に損傷を与えない範囲で、実動作試験が実施されると思われる。プラズマを含む全システムの微細な動作の理解は今後の課題であるが、一旦確定後は、その試験に特別の困難は発生しないと予想される。
 起動電力は、ITERにおける所要電力が数十万kWに達することから、その削減は重要な課題である。このためには、起動用電動発電機の低損失化、冷却材ポンプ動力を減らす最適設計、高温超伝導体を用いたヘリウム冷凍機電力の削減、加熱・電流駆動電力を削減する高自発電流制御法の開発などが重要である。これにより10数万kW程度への削減の可能性はあるが、軽水炉なみに下げることは、容易では無い。この意味で、核融合炉は系統が安定していることが条件となる。

(2) 設備利用率
 設備利用率は、発電システム全体の重要な信頼性指標である。現在の大型トカマク装置でさえ、軽水炉と比較して大規模複雑であることから、核融合炉の設備利用率を高める課題を摘出しておくことが必要である。
 ここではJT-60の場合の「稼働率」実績[3.5-3]を述べる。JT-60の運転は、年間9サイクル、1サイクル当り2週間行われ、年間100日あまりの運転期間である。「定期点検」と呼ばれる期間は、年間2~3ヶ月であり、残りは装置の改修、較正試験等である。JT-60の運転日数は、軽水炉のように定期点検他の必要保守作業の残りとして決まっている訳ではないので、これから単純に設備利用率を計算することは出来ない。そこで、新たな稼働率を定義する。稼働率の定義として、「有効運転時間/(有効運転時間とトラブル対策時間の合計)」を採用する。このJT-60の「装置稼働率」の推移を、1日のショット数の推移と共に図3.5-2に示す。
 85年度(稼動の初年度)と86年度(加熱装置の運転開始)の運転経験を経た後、87~89年度は約25ショット/1日辺りで飽和する傾向が見られた。大電流化改造後の2年間は、非円形断面プラズマの運転という新しい状況のため、1日当りのショット数は20程度と下がったが、93年度以降は25-30ショット/日となっている。装置稼動率も同様で、飽和値として凡そ80%ということが出来る。95年度に1日当りの放電回数、装置稼動率共に低下したが、これはJT-60装置を構成する機器、部品、電子回路、制御用素子等の高経年化によるものである。その後高経年化対策を重点的に実施した結果、1日当りのショット数25-30、装置稼動率80%で飽和している。

図3.5-2 JT-60の装置稼働率の推移

 設備利用率への換算:この装置稼働率値は、定期点検期間を除いた期間における稼働率に対応するものと解釈出来る。軽水炉の場合定期点検を除くと既に約80%の稼働率となっており、この値を核融合装置の場合も適用する。従って、この80%に装置稼働率がさらにかかることになるため、軽水炉の設備利用率に換算すると約64%という値となる。
 JT-60は実験装置であるため、様々な装置の追加改造、電源運転方法の変更、制御アルゴリズム変更といった変化要因に加え、プラズマディスラプションを起こす各種放電、等がある。それが56-64%の値となっている理由である。この値を上げるには商用炉での運転シナリオを早急に確立して、その特定された運転の解析を充分に行わねばならない。また、装置ハードウェア、ソフトウェアの信頼性に係わる部分については、単機の信頼性の向上方法や多重化方法などによって課題を解決する努力を行うことになる。また、不具合の対策時間を最小にする方策も検討課題である。

(3) 運転員
 運転員の数は、トラブル時も対応出来る最低人数とすることが、効率の観点から要求される。ここでもまずJT-60の運転人員を見ることにする。運転体制中の人員は、職員14人と委託業者である。委託業者の業務は、現場側の運転、装置起動、停止操作、点検等である。
 核融合炉では定常運転が実現していることになるが、定常状態に入った炉の運転監視する人員数は、JT-60のような大型トカマク実験のように毎日の装置起動/停止操作がなくなり、委託業者の業務内容は著しく削減出来るであろう。また、定常運転になれば、運転条件が変わることが無いので、職員の数も一層少なくなることが期待される。

(4) 定期検査
 設備利用率に最も大きく効く要素は、定期検査期間であるので、この期間を安全上問題の生じない範囲で出来るだけ短くすることが求められる。内容は、ブランケット交換、ダイバータや耐熱材の交換、トリチウム燃料循環系、コイル点検、冷凍機、制御計装系や補機類の点検、タービンの点検等であると考えられる。
 JT-60の定期点検[3.5-3]は、主に本体、電源、加熱、計測、制御、補機類の点検を2ヶ月かけて実施しているが、発電炉に必要な設備機器が全て存在している訳ではなく、改修作業等も含まれており、この期間をもって商用炉の定期検査期間とすることは出来ない。
 ITERの大型定期保守機器の概略見積り[3.5-7]を用いると、表3.5-3に示すような数値が得られる。

表3.5-3 ITER(FDR)における大型の定期保守機器

 核融合炉の増殖ブランケットの交換の場合を考える参考として、SSTRを考える[3.5-5]。SSTRでの交換頻度は、フェライト鋼の許容中性子フルーエンスを100dpaとして3MW/m2の照射下で約3年で全数交換することとしている。現在、核融合炉用構造材の許容中性子フルーエンスとしては、200dpaをターゲットとしたフェライト鋼開発も想定されており、その場合、平均的には3年毎に半数(SSTRの場合200モジュール)を交換することになる。以下に示すビークル型マニピュレータによる定期交換シナリオによると約28日がブランケット交換のための所要日数と予想される。これは、平滑化定期交換日数としては10日程度/年である。ブランケット交換前後の準備・事後調整期間を30~40日とすると、ブランケット定期交換年でも60~70日程度にとどめることは可能と考えられる。

核融合炉におけるモジュール型ブランケットの定期交換日数評価:
 核融合炉のブランケット定期交換時間の短縮は、炉の稼動率を決定する大きな要素である。現在、ブランケットの交換方式には、ITERで採用している「モジュール型」、SSTRで採用されている「バナナ型ブランケット引き抜き型」、及びDREAM炉で検討が進められている「一括引き抜き型」の3方式がある。ここでは、ITERで採用され、R&Dも含めて設計が最も進んでいる「モジュール型」について、ITERで評価されたブランケットの交換時間をベースに、将来の技術の進歩を考慮してモジュール型ブランケットをSSTRに適用した場合の交換時間を評価した。遠隔保守機器には、ITERで採用されているビークル型マニピュレータ(図3.5-3)を用いた。ビークル型マニピュレータの先端に取り付ける配管の溶接・切断用ツールは、モジュールの第一壁側に設けられた開口穴からモジュール内部にアクセスし、YAGレーザーを用いて冷却配管の溶接・切断を行う。ITERの最終報告書におけるブランケットの交換条件は以下の通りである。

 ・交換保守前後のベーキング等の準備時間は考慮しない。
 ・ビークル型マニピュレータは4台設置(90度領域毎に1台)。
 ・配管溶接・切断・検査ツールは、全16台設置(90度領域毎に4台)。
 ・ブランケットの重量は4トン。
 ・ブランケット固定用ボルトの総数は4個当たり14本で、
  ボルトの着脱は4本毎のシリーズ作業とする。
 ・4日の作業時間は16時間。
 ・遠隔操作機器の作業スピードは、ITERの工学R&Dとして実施した実規模ビークル型
  保守装置での実績値と同一とする。
 ・不確定性分を考慮し、トータルの交換時間に30%の不確定性分を付加する。  

 交換時間の評価結果を図3.5-4に示す。ITERのブランケットモジュールの総数は730個であり、交換に要する時間は、不確定性分の30%を考慮すると349日となる。この評価は、ITER用ビークル型マニピュレータの設計に基づいたものであり、ITERの次のステップであるSSTRでは、将来の遠隔保守機器及びブランケット設計の技術的進歩を考慮することが可能である。このため、SSTRのブランケット交換時間の評価には、上記の条件に以下の3つの仮定を付加し、他の条件は、上記条件と同一とした。

 ・ブランケット固定用ボルトの総数は1個当たり4本とし、
  4本のボルトの着脱はマニピュレータ先端に取りつけたツールにより並行して実施する。
 ・1日の作業時間は24時間とする。
 ・遠隔操作機器の作業スピードを30%向上させる。

 SSTR用ブランケットの交換時間の評価結果を図3.5-4に併記する。SSTR用ブランケットの総モジュール数は、ITERとSSTR用ブランケットの表面積の比から約400個と推定される。この場合、全モジュールの交換時間は、約46日となり、半数の200個を交換する場合には、約28日となる。この日数は今後の技術革新によりさらに短縮の可能性がある。「バナナ型」及び「一括引き抜き型」は、交換するブランケット構造体の数が少なく将来の交換方式として有力な候補案であるが、100トン~1,000トン規模の大型重量構造物を取り扱う必要があるため、構造強度やホットセルへの搬送経路を十分考慮した建家設計が必要であり、大型大重量構造物を数mmの精度で着脱する支持構造の開発等が今後の検討課題である。

(5) 計画外停止(トラブル発生率)
 計画外停止による設備利用率の低減要因は、トラブル(故障やオペレーションミス他)である。実験装置であるJT-60でも実験効率を下げるトラブルを如何に減らすかが、重要なテーマである。以下にJT-60のデータを基に議論する。核融合炉のトラブルという観点ではJT-60より複雑になるという不利な点もあるが、一方定常運転になるという点は、機器の大きな変化が無いという意味でトラブルを減らす方向に働くと思われる。
 JT-60が完成してからのトラブルの推移を図3.5-5に示す[3.5-3]。JT-60での「トラブル」とは、実験放電1ショット分以上、即ち約15~20分以上実験を中断するような装置機器の不具合と定義している。
 この図で加熱装置運転開始、或いは大電流化改造の直後に一旦トラブルが増加。これから装置の製作や改造時の初期故障がトラブルの一つの要因と推定される。最近にかけて微増している傾向が見られるが、これは完成後10年を過ぎて機器部品の高経年化が進んできたためと分析されている。初期トラブルを除く大体の収束値は、2件/日である。

図3.5-5 トラブル発生頻度の推移(トラブル件数/時間共に年々減少し最近ではほぼ一定から増加傾向)

 これまでの運転経験を基にトラブル分析すると、トラブルが最も高頻度で発生するタイミングは、放電前後である。電源の遮断器類の動作異常(一定時間内に開閉動作が終わらない等)、装置の準備動作異常、制御系の通信異常(ネットワーク負荷の変化による処理遅延)といった装置状態が大きく変化するからである。
 次にトラブル発生頻度の高いタイミングはディスラプション時である。電磁場変動がコイルを遡って電源に外乱を与え素子異常をもたらしたり、電磁気信号処理系の飽和による異常なフィードバック制御でコイル転倒力過大、真空リーク、壁材脱落等比較的復旧に長時間を要するトラブルとなる場合が多い。
 前者の放電前後は、定常運転になればまず殆どの場合発生しないと考えられ、特に制御系については多重化を図れば解決すると思われる。また、後者のディスラプションは、やはり回避手法の確立により、発生させないシナリオを前提にし、極めて稀に発生した時にも真空リークや壁材脱落といった事態が避けられるように設計して、速やかな再起動を可能にしなければならない。その他プラズマに起因するトラブルも、プラズマの挙動解明を進めてその発生確率を低く抑えることが必要である。
 このように、定常化とディスラプション回避が実現するであろう「洗練された核融合プラント」では現商用炉に近い低いトラブル発生率を実現出来ると考えられる。これを支持する事実として、シナリオが確定した装置コンディショニングを目的とした実験では、殆どトラブルは発生しないことが挙げられる。
 プラズマが関係しないトラブルによっても発電が停止することの無いように、炉全体の信頼性確保のためには、軽水炉と同様、個々の装置機器の信頼性向上や多重化を始めとする対策の実施が必要である。遠隔保守の議論と同様ではあるが、多重化を多用すれば、その分信頼性は向上し計画外停止の確率は減少するが、一方コストの上昇は避けられない。この議論も技術的側面だけでは閉じず詳細検討が必要である。

3.5.3 核融合炉運転保守の実現可能性評価
 以上の検討を当初掲げた軽水炉の稼働実績に対応させてまとめると表3.5-4のようになる。その各項目についての評価のまとめを箇条書する。

(1) 起動試験については、軽水炉1年に対してITERのデータで3.5年であるからこれ以下になるものと思われる。プラズマ無しのコミッショニングは、ITERの1年からかなり短くなるものと予想される。一方、プラズマ有りのコミッショニングは、現時点でのプラズマのシナリオに未だ不確定な部分を残しているため、ITERでは2.5年と見られているが、プラズマ実験の側面が強い。100%出力確認までの時間はシナリオが確定すれば期間は一層短く出来る可能性はあるが、今後の課題解決次第である。

(2) 運転員については、現軽水炉の6名/直に対して、JT-60ではかなり多い14人であるが、非定常な運転を行わなければ、運転の定型化によって一層の削減は可能であると思われる。

(3) 定期検査は、モジュール型ブランケット交換に30日/3年という評価が得られており、その実現に向けた開発研究が重要である。

(4) トラブル発生率は、現JT-60等の大型トカマクではかなり多いが、その殆どが放電前後とディスラプション時であることを考えると、運転シナリオの確立、定常化、ディスラプション回避、多重化等の対策で著しく下がる可能性が高い。

(5) 設備利用率は、定期検査期間が軽水炉並みに短く出来、プラズマのディスラプション等の不安定性を完全に回避出来、定常運転が実現出来れば、その他の設備のトラブルについては多重化によって充分低く抑えられると考えられるので、これら仮定の下では軽水炉並みの数値達成は可能であろう。

 特にプラズマに係わる運転上の不確定性を小さくするための研究、効率の良い遠隔保守システムの開発、各種構成機器の総合的な信頼性が上がれば、核融合実用炉についての高い確度での運転保守実現性予想が可能となる。

表3.5-4 核融合実験装置の現状から見た核融合炉運転保守の実現性の見通し

参考文献

[3.5-1]五十嵐信二、「実用軽水炉における運転・保守・運営技術」,本分科会、資料第6-4号
[3.5-2]浅田忠一他監修「原子力ハンドブック」、オーム社(1989)、「'97原子力年鑑」原子力産業会議、1997
[3.5-3]栗原研一、「運転保守の現状から見たトカマク型核融合炉の運転実現性について」、本分科会、資料第7-4号
[3.5-4]ITER Final Design Report (Draft), IAEA, 1998
[3.5-5]Fusion Reactor System Lab., "Concept Study of the SSTR," JAERI-M 91-081, 1991
[3.5-6]原子力図面集、(財)原子力文化振興財団(1998)
[3.5-7]ITER Design Description Document (WBS2.3 Remote Handling), IAEA, 1998