3.3 ブランケット・材料技術の現状と今後の課題
3.3.1 ブランケット開発の現状と課題
(1) ブランケットに要求される性能
 原型炉の中核機器となる発電ブランケット(原型炉用増殖ブランケットともいう)には、高効率のトリチウム生成・回収特性、発電に適する高温除熱特性及び十分な遮蔽特性が要求される他、使用環境下で健全性を保持すると共に、高い安全性や信頼性を有し、かつ環境適合性や経済性にも優れていることが必要である。即ち、
 1) トリチウム生成・回収特性
 増殖ブランケットは、核融合反応の燃料となるトリチウムの自己供給が可能となるよう十分高いトリチウム増殖特性を有すると共に、生成・放出されるトリチウムが合理的な規模の系統で回収可能である必要がある。
 2) 発電に適する高温除熱特性
 核融合反応で生成される中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、信頼性高く、かつ効率良く系外に取り出す必要がある。特に、高い発電効率を達成するためには、高い冷却材の出口温度を達成する必要がある。
 3) 十分な遮蔽特性
 増殖ブランケットは、真空容器等と共に、超伝導コイルを始めとする周辺機器や生体に対する放射線防護の役割を担うため、十分な遮蔽性能を有することが必要である。
 4) 健全性の保持
 増殖ブランケットには、高い熱負荷や中性子負荷、強大な電磁力等の機械荷重が作用するため、それらに対して十分に耐え得ると共に、運転中に想定される高い中性子照射量や運転サイクル、及び化学的環境効果に対しても健全性を保持する必要がある。
 5) 高い安全性、信頼性及び環境適合性
 増殖ブランケットは、非正常時においても事故の起因事象とならないように高い信頼性と設計裕度を持つと共に、内包する化学的エネルギーや放射性物質保持量を可能な限り低減する必要がある。また、廃棄物量を低減するために誘導放射能を軽減することが望ましい。
 6) 高い経済性
 より経済的に魅力ある核融合炉を実現するため、高温の増殖ブランケットを使用することにより発電効率を高めると共に、製作コストの低減や増殖材料等の再利用に関する見通しを得る必要がある。また、遠隔によるブランケット交換保守時間を短縮化することは、炉の利用率を向上させ高い経済性を実現する上で重要である。

 このように増殖ブランケットは多くの厳しい条件の下に高い機能と性能が要求される。

(2) ブランケットの方式と開発動向
 過去に提案された増殖ブランケット方式は多岐に渡るが、これまでに実施されてきた設計検討や研究開発の成果を反映して、固体増殖方式(水及びヘリウム冷却方式)と液体増殖方式(リチウム鉛増殖方式、液体リチウム自己冷却方式、溶融塩方式)に絞り込まれている。
 従来の研究開発は、材料開発(照射試験含む)、増殖材からのトリチウム生成放出基礎過程の研究、増殖材・増倍材ペブルの製造技術開発等が主であったが、ITERでの原型炉ブランケットのモジュール試験に向けてより工学的な研究開発が必要な段階に至っている。日本原子力研究所では、高い安全性、豊富なデータベース、及び実用炉への見通しと高性能化の可能性に重点を置き、ITERでのモジュール試験への適用性や限られた開発期間を考慮して、固体増殖ブランケット方式を主な開発目標として研究開発が進められている。本方式は以下の特徴を有している。
 1) 固体増殖方式の選択

 基本的に使用される構成材料の化学的活性度が低く、系統内部のトリチウム保持量も低く抑えることが可能である。また、トリチウムの生成・放出特性や照射特性に関するデータベースが比較的豊富であると共に、トリチウム回収技術の開発が最も進んでおり、基盤技術はほぼ確立されている。
 2) ペブル形状での増殖材・増倍材の使用
 固体増殖方式で懸念される中性子照射損傷の緩和や耐熱応力特性も良好であることが期待でき、世界の開発概念の主流となっている(EUも数年前にブロック方式からペブル方式に変更)。
 3) 冷却材として加圧軽水が主案
 軽水炉で豊富な実績があり、高い信頼性を有する基盤技術が確立している。
 4) 構造材として低誘導放射化フェライト鋼の使用
 フェライト鋼は、良好な耐照射特性と高温特性を有すると共に、広範な産業基盤を有する材料である。また、添加元素の調整により低誘導放射化特性を具備させることにより、廃棄物処理処分のシナリオを軽減できる可能性が示されている。
 5) 高性能化の可能性
 冷却材としてヘリウム・ガスを使用し、構造材料としても先進材料(低放射化フェライト鋼ODS化、SiC/SiC複合材等)を用いることにより、より高い発電効率の達成が可能となると共に、固有の安全性をより高めることが可能となる。また、これらの先進構造材料を使用することにより、より魅力ある低誘導放射化特性を実現することが可能である。なお、これらの高性能化に関しては、基本的な炉型や開発項目の大幅な変更は不要である。

表3.3.1-1 各極が開発を行っている増殖ブランケット方式と主要な特徴

 一方、液体増殖ブランケットとしては、表3.3.1-1に示す通り、世界的には、液体リチウム自己冷却方式(構造材料:バナジウム合金)、リチウム鉛増殖方式(構造材料:フェライト鋼、加圧軽水冷却)の開発が進められてきている。これらの方式は、放射線損傷がない、もしくは軽微である(リチウム鉛の場合、照射核変換に伴う組成の変化、ポロニウムの生成等が課題)などの特徴を有する。また、基本的に増殖材の温度を制御する必要がないので、ブランケット内部の構造が簡素化される可能性がある。一方、液体増殖ブランケットの一方式として検討が進められている溶融塩方式は、液体金属方式の利点の多くを共有すると共に、液体金属方式固有の課題である高いMHD圧力損失や化学的活性度による安全性の問題が大幅に軽減できる可能性を有していることから、文部省核融合科学研究所を中心にシステム設計研究や要素開発が進められている。

(3) 主要な研究開発の現状と今後の課題
 増殖ブランケットの開発課題は、1)製作技術開発、2)トリチウム増殖・回収技術の開発、3)除熱技術の開発、4)照射特性を中心とする健全性保持に係る開発、及び5)安全性や環境適合性を高める開発、6)経済性を高める研究に分類できる。以下に、先ず固体増殖方式に関わる開発課題と開発の現状を記述し、次に液体増殖方式について課題と現状をまとめる。
 1) 製作技術開発

構造材料の製造技術:フェライト鋼は広範な産業基盤を有すると共に、候補材料である低誘導放射化フェライト鋼(JLF-1やF82Hなど)に関しても、既に素材の化学成分の最適化はほぼ完了しており、5トンレベルの溶解インゴットの製作実績がある。今後、要求性能の特化とそれに向けた改良が必要である。また、機械特性データの充実、照射試験による強度劣化評価が必要である。
ブランケット容器(第一壁を含む)の製造技術:拡散接合をF82Hの構造体に適用した技術開発が進められつつあり、既に接合条件の初期選定をへて、第一壁パネルの試作と高熱負荷試験で所定の成果をあげている。今後は、接合条件熱処理条件の最適化と接合面の機械特性データが必要である。また、構造体の熱クリープ特性試験など多様な試験が必要である。それらの結果を受けて、実規模構造体の製作技術開発を進める必要がある。低コスト化は重要課題である。
増殖材、増倍材ペブルの製造技術:これまでの材料開発の成果として、転動造粒法やゾルゲル法(いづれも増殖材ペブル)、回転電極法(増倍材ペブル)等の製造技術が開発されてきている。リチウムタイタネートの製造に関しては、チタン酸の添加による結晶粒成長の抑制・焼結密度の向上が課題である。また、増殖材・増倍材ペブル製造技術の低コスト化を図る。
 2) トリチウム増殖・回収技術の開発
増殖・増倍材層熱機械特性の把握:運転中の増殖材の温度を適正範囲に保持することは、固体増殖材から生成されるトリチウムをその場回収するためのみならず、増殖・増倍材充填層の健全性確保のために最も重要な項目である。これまでに行われてきたペブル充填層の熱特性試験により、増殖材・増倍材ペブル充填層の有効熱伝導度、壁面熱伝達率データが蓄積されつつある。また、充填層機械特性に関しては、新たな研究分野であり、解析のためのモデリング、有効ヤング率、ポアソン比、など基礎データの取得が必要である。さらに、熱・機械の複合された挙動についてのデータ取得と解析が必要である。また、熱機械特性に及ぼす照射効果の測定も必要である。
トリチウムの生成・放出特性:IEAの下での国際協力として実施されたBEATRIX-II実験や生成放出機構に係る基礎研究、JMTRでの炉内照射試験等により、生成されたトリチウムを固体増殖材から有効に回収するためのパージガス条件、温度依存性などが明らかにされると共に、5%リチウム燃焼度(原型炉条件:約10-15%)までの照射下でも良好な放出特性が保持されることが明らかにされている。今後、パルス運転模擬などの照射試験を行ない、非定常挙動のデータが必要である。また、放出挙動の解析モデル開発も進める必要がある。また、より高バーンアップ領域での増殖材からのトリチウム生成回収特性を評価し、原型炉条件への見通しを得ることが必要である。
生成したトリチウムの回収と燃料循環技術:大量のヘリウムパージガスからトリチウムを回収する技術に関しては、TPL(日本原子力研究所)やTSTA(米国ロスアラモス国立研究所)でのトリチウム燃料循環系統の運転経験と、TPLでの技術開発の進展から、基盤技術はほぼ確立している。今後、スケールアップ実証試験、高効率プロセスの開発などが必要である。
 3) 除熱技術の開発
高磁場中でのMHD効果等の困難な課題を有する液体金属増殖方式と異なり、加圧軽水及びヘリウム冷却技術は、各々軽水炉及び高温ガス炉で培われた技術が基本的に転用でき、基盤技術はほぼ確立している。
第一壁に関しては原型炉用発電ブランケット開発に関しては、低放射化フェライト鋼F82H製の第一壁構造体(約10cmx20cm)の熱疲労試験が行われ、表面熱流束約2.7MW/m2(表面温度~500℃:原型炉での使用温度に相当)で 5000回という高い熱疲労寿命を有することが示されている。今後はクリープ特性を実験的に評価して材料の改良に資するとともに、冷却配管の伝熱促進を図るなどさらに改良していくことが必要である。
 4) 健全性保持に係る開発
想定される使用環境下において増殖ブランケットの健全性を保持するためには、材料の照射劣化、熱サイクルや長期高温運転による材料の劣化、高熱負荷に対する第一壁健全性、及び化学的環境効果(腐食、質量移行等)に対する健全性を十分に評価し、必要な対策を講じる必要がある。
低放射化フェライト鋼(F82H)に関しては、HFIR炉等での照射試験により、既に約30 dpaを上回る(原型炉条件:>100 dpa)照射によっても適切な引張り特性が保持されることが確認されると共に、低照射ながら破壊靭性試験からも良好な特性を示唆する結果が得られている。今後、ヘリウム生成の効果や水素脆化について研究を進める必要がある。
増殖材(酸化リチウム)に関しても、BEATRIX-II実験により5%リチウム燃焼度までの照射健全性が確認されると共に、アウトパイル熱サイクル試験により10000サイクルまでの耐久性が確認されている。さらに、構造材の接触による腐食に関しても測定結果を得た。今後、リチウムタイタネートの微小球についても同様の試験が必要である。また、照射による充填層の機械特性の変化について研究を進める必要がある。
増倍材(ベリリウム)に関しては、基本的な健全性データとして、微量水分混入時の酸化速度や、構造材との接触による腐食速度を取得し、評価式を得た。
健全性実証試験:実規模レベルの試験体を用いたアウトパイル試験により総合性能を実証する必要がある。
 5) 安全性・信頼性や環境適合性を高める開発
系統内でのトリチウム保持量の低減、非正常時や事故時の挙動評価、低誘導放射化特性を有する材料の開発、及び廃棄物量の低減と再利用技術の開発が上げられる。
トリチウム保持量:増殖材を適切な温度範囲に保持することにより増殖材中のトリチウム保持量は1 kg以下となる見通しが得られており、全体の保持量に比較して小さい。
誘導放射能の低減:低誘導放射化フェライト鋼の開発により、オーステナイト鋼に比べて、長期間放射能が低減される。
非正常時や事故時の挙動評価:ITERテストモジュールについての第一次的な安全評価を行なった。高温高圧水のモジュール内漏洩が重要影響を及ぼすが、圧力逃がしタンクを適切に設置することで回避可能である。今後は、ベリリウムの高温高圧水接触による水素発生の定量化などのデータ取得と、核融合炉全体の安全性確保シナリオの確定が必要である。
先進材料開発:先進構造材の開発や、高融点ベリリウム金属間化合物の適用など、潜在的に安全性を高めるような開発が長期的に必要である。
 6) 経済性を高める開発
ブランケットの遠隔保守方法は、炉の稼働率を左右する保守時間及びホットセル・炉本体建家等の構造に大きな影響を与える重要な因子である。
モジュール交換方式に関しては、ITER工学R&Dにおいて基本技術が実証されており、本技術を原型炉に適用していくに際しては高速化に係るR&Dが必要とされる。また、高速保守を目的とした水平一括引き抜き方式が提案されているが、今後は設計の詳細化に基づいた評価が必要である。

 以上の通り、これまでに材料開発や照射研究を中心に、固体増殖ブランケット概念の成立性に見通しを与える多くの成果が得られてきており、実験炉(ITER)でのモジュール試験に向けて工学規模での開発研究や実証試験を立ち上げる段階にあるといえる。
 一方、液体金属増殖方式に関しては、これまでに、先進構造材料としてのバナジウム合金の開発や評価、MHD圧力損失の評価(以上、リチウム自己冷却方式)、トリチウム透過防止用コーティング膜の開発、構造材と増殖材との共存性(以上、リチウム鉛増殖方式)等の基礎研究において進展を見ている。一方、これらの方式には、以下の技術的な課題があり、ITERでのモジュール試験に向けて技術的な見通しを得るための研究開発を進める必要がある。
 1) リチウム自己冷却方式
・MHD圧力損失を軽減するための自己修復性のある電気絶縁コーティング膜の開発
・強磁場下での液体リチウムの伝熱流動特性の評価
・液体リチウムからのトリチウムの回収技術の開発
・液体リチウムと構造材との共存性評価
・液体リチウムの安全取扱技術の確立
・バナジウム合金素材の製造に係る産業基盤の育成と容器製造技術の開発
・バナジウム合金の重照射データの取得
 2) リチウム鉛方式
・トリチウム透過防止用コーティング膜の開発
・増殖材の構造材に対するコロージョンの評価
・増殖材と水との反応性の評価
・トリチウム回収技術の実証
 3) 溶融塩(FLibe)方式
・トリチウム閉じ込め技術の確立
・材料耐腐食技術の確立
・トリチウム化学系制御
・FLibe取り扱い技術とフッ素ポテンシャル制御

3.3.2 材料技術の現状と今後の課題
 ブランケット関連材料は、(1)構造材料、(2)ダイバータ関連材料、(3)トリチウム増殖関連材料、に大別される。 図3.3.2-1に原型炉SSTRの設計例における主要な構造物と材料の使用条件を示す。原型炉のブランケット第一壁やダイバータ板は実験炉に比べて格段に大きな中性子による照射損傷や熱負荷に耐える必要がある。一方、トリチウム増殖関連材料はDT反応の燃料サイクルを担うもので、核融合炉に特有の技術課題である。以下では、上記の3つの材料それぞれについて、実験炉、原型炉、実用炉に対応した材料技術の現状、課題、見通しを記述し、最後に全体の材料開発スケジュールと中性子源の役割や関連事項についてまとめる。

(1) 構造材料

図3.3.2-1 核融合炉の主要な構造物と材料の使用条件

 核融合炉を安全性に優れ経済的に競争力のある現実的なエネルギー源とするためには、耐高温高熱負荷・長寿命の条件を備えた構造材料の開発が鍵となる。高エネルギー中性子による構造材料の誘導放射能を著しく低減することにより、はじめて核融合炉を環境と共存できる次世代のエネルギー源とすることができる。低放射化については、メンテナンスのため崩壊熱が比較的小さく、かつ放射性廃棄物を低減するため浅地層処分や再利用を可能にするような材料を開発する必要がある。そのためには長半減期の元素生成を制限した新しい低放射化材料設計が重要である。経済性の向上には、低放射化に加えて稼動条件の高温化・高熱負荷化が必要である。またプラントの長寿命化には、使用期間における長時間にわたる材料特性変化を予測・制御するために、長期間の中性子照射によるミクロ組織変化を考慮して材料設計を行うことが重要である。
 核融合炉材料はこれまでになく厳しい環境で機能する必要がある。DT核融合反応により生成する14MeV中性子の重照射に曝される結果、大量の原子はじき出しが起こり、また核変換によりヘリウムや軽水素等のガス元素や、固体核変換元素の生成が伴う。このような高エネルギー中性子照射、高温かつ応力負荷下で構造を維持する必要がある。特に第一壁・ブランケット構造材料は、原型炉クラスで約100dpa以上のはじき出しを受け、数100appm以上のヘリウムや軽水素を生成すること、及び構造材料は炉型によらず必要でかつその開発には特に長期を要するために、その研究開発を計画的に進める必要がある。
 低誘導放射能、高熱効率、高中性子壁負荷という条件を満たす構造材料の候補は、鉄鋼材料のフェライト鋼、高融点金属のバナジウム合金、セラミックス系の炭化けい素複合材料(SiC/SiC)である。これらの材料はそれぞれ水・水蒸気冷却、液体リチウム冷却、ヘリウムガス冷却等との組み合わせでその特色を発揮すると期待されている。なお、増殖機能を有する液体冷却媒体としては液体リチウムの他にFLiBeなどの溶融塩も有望と考えられている。
 低誘導放射能の実現は、核融合炉の稼動時のメンテナンスや放射性廃棄物の低減のために、最重要課題である。図3.3.2-2は主要な構造材料における接触線量率の長期減衰傾向を示すものである。100年の冷却期間後に浅地埋設できる放射性廃棄物の割合を高めることが、低放射化の一つの目標である。そのためには、生成する放射性核種濃度を浅地埋設の濃度上限値より低くする必要があり、フェライト鋼とバナジウム合金では合金元素に低放射化元素を採用し、3つの材料ともに低放射化有害元素の低減が必要である。
 核融合炉の経済的競争力を高めるためには熱効率の向上が必要である。図3.3.2-3は熱利用系と適合材料の組み合わせの例である。フェライト鋼/水で飽和蒸気タービンによる30%以上、酸化物分散強化型(ODS)フェライト鋼/水、あるいはバナジウム合金/液体リチウムと過熱蒸気タービンによる40%以上、炭化けい素複合材料(SiC/SiC)/Heとガスタービンによる50%、を目指すことに対応して、これに見合う材料の耐熱性と冷却材との両立性を実現する必要がある。

図3.3.2-2 定期交換シナリオにおけるフルーエンス10MWa/㎡後の接触線量率の長期トレンド

図3.3.2-3 目標とする熱利用系と適合材料の例

図3.3.2-4 構造材料の素材開発と耐久性・耐高温性の開発目標

 これらの材料の中で低放射化フェライト鋼が、第一候補材料に選ばれているが、これはその成熟度から最も現実的なものである。低放射化フェライト鋼の現状と今後の開発目標を、他の候補材料の目標と共に図3.3.2-4に示す。低温及び高温側の限界は、それぞれ延性脆性遷移温度(DBTT)に代表される低温脆性及びヘリウム脆性または照射クリープによって規制されるが、これらは全て照射によって加速される現象である。約10年前から核融合炉を目的としたフェライト鋼の改良研究が進められ、これまでに、低放射化の工夫をしていないフェライト鋼のうちで最も耐照射性に優れているものに比べて、同等以上の耐照射性を持つ低放射化鋼が開発された。フェライト鋼材料は高速増殖炉の燃料被覆管として15MWa/m2の中性子照射に耐えるとして使用されているが、核融合中性子環境を模擬した条件下でも最大4MWa/m2程度(核融合炉の約1年間の照射量に相当)の中性子フルエンスに対して使用に耐え得るとの結果が、核分裂炉等を利用した中性子照射効果を含む材料試験及び構造強度の力学的検討から得られており(図3.3.2-4の点線)、また、今後さらにフルーエンスの高い重照射試験が進めば、限界性能が明らかとなり、図3.3.2-4のグレーティングした範囲の特性を示すものと予想されている。即ち、低放射化フェライト鋼によって確認された範囲だけでも核融合炉の技術的成立性を満たす材料が既に開発されているとも言えるが、核融合炉が他のエネルギー源と競合し得る、経済性の面でも魅力あるものとすることは極めて重要であり、このため、耐中性子重照射試験や性能向上を目指した研究開発が日米協力などを利用して進められている。今後さらに、使用領域の拡大と精度の高い、限界性能の定量的評価を目的として核融合条件に最も近い、加速器型中性子源等による挙動の評価を行う必要がある。
 低放射化フェライト鋼の最重要課題は、高温強度向上と照射による低温側での照射脆化(DBTTの上昇)抑制とである。また、耐食性等の耐環境性の向上、実用規模の低放射化鋼材製造等も重要である。
 高温強度の向上に関しては、開発してきた低放射化フェライト鋼にナノメートルオーダーの微細な酸化物を多数分散させる方法(ODS鋼化)を採用する。さらに、耐食性向上や靭性確保の点から、複合材料化による解決法も範囲とする。次いで、加速器型中性子源等を利用しながら、照射特性のデータ蓄積及び知識ベース化を進める。
 照射脆化対策としては、微量添加元素等による特性改良と設計法の高度化という観点からの解決を目指す。照射脆化にはヘリウム等の核変換生成元素の寄与が大きいと考えられ、微量添加元素や加工熱処理を工夫してヘリウム等の微細分散化を図る。また設計法の高度化については、実験炉での実績に加えて、脆性破壊防止に関する最近の進歩を取り入れ、ブランケットの最小寸法が小さいことによる破壊発生への余裕を積極的に利用して材料の使用可能範囲を合理的に拡大する。
 一方、強磁性体のプラズマ制御に及ぼす影響についても評価する必要がある。理論的計算及び予備実験から見通しが得られているが、さらに広範なプラズマ運転方式との整合性を評価する。低放射化フェライト鋼については、2010年頃までには原型炉材料の化学組成などの決定を目指す。
 次に、炉寿命と想定される壁負荷についてみると、実用炉で軽水炉と競合するためには、30年以上の炉寿命と30%以上の熱効率が要求される。したがってもし、3 MW/m2の中性子壁負荷なら積算負荷は90 MWa/㎡となり、フェライト鋼の場合は~900 dpa、~10000 appmHe、40000 appmHとなり、これまでの使用実績や外挿からみると予測困難なレベルとなる。従来の高速炉での被覆材やラッパ材の使用経験約150 dpaから想定できるのは、フェライト鋼で定期交換と組み合わせることによる100-200 dpaである。これが原型炉の目標領域である。バナジウム合金は炉心材料としての経験はないが、高速炉を用いた照射実験データからみて、フェライト鋼を上回る性能が期待されている。これらの要因に加えて将来的には、他産業との資源の有効利用やリサイクルを考慮した材料システム全体のコスト評価も重要になると考えられる。
 第一壁構造材料の要件を原型炉の設計例をもとにまとめる。表3.3.2-1に、トカマク型原型炉の概念設計例である日本原子力研究所のSSTR炉、Proto-DREAM炉、米国のARIERS-RS炉等のブランケット第一壁構造材料の使用条件に関わる設計条件を示す。構造材料と冷却材との組み合わせにより、出入口温度、すなわち材料の使用温度が大きく異なっている。いずれの場合も、高熱流束から発生する熱応力に耐えることができ、高温での強度を有し、高中性子フルエンスに耐える材料が要求されている。これらの原型炉の建設着工は2030年代には可能であることが期待されている。
 原型炉の概念設計例には他に、核融合科学研究所の溶融塩(FLiBe)を用いたヘリカル型炉FFHRがある。

表3.3.2-1 主なトカマク型核融合原型炉ブランケット第一壁の設計条件検討例

1) 技術目標
 材料技術の目標および課題と見通しを表3.3.2-2にまとめた。ブランケットの構造材料は、ブランケットの機能(トリチウムの増殖と熱の取り出し)を実現し、必要な寿命の範囲内で、これを保持するに必要な形状の安定性(変形、破壊を生じないこと)を有し、稼動時のメンテナンスや廃棄物として問題を生じないほどに誘導放射能が小さいことが要求される。
 ITERのブランケットは、遮蔽ブランケットとテストブランケットに大別される。後者は、原型炉の発電ブランケット開発を目指してブランケットの機能試験を行うための供試体である。遮蔽ブランケットでは、トリチウムの増殖及び高温での熱の取り出しは要求されず、主に中性子の遮蔽機能のみが必要とされる。また、寿命までの中性子フルエンスも~0.3 MWa/㎡と低い。テストブランケットでは、フルエンスは低い(~0.3MWa/㎡)がトリチウムの増殖と熱を取り出すための高温運転が行われる。
 原型炉ブランケットへの要求は、経済性を除き、実用炉のブランケットに対するものとの違いは少ない。このため、中性子による厳しい照射損傷、第一壁への高い表面熱流束、エネルギー取り出しのための高温運転用熱媒体 (水、ヘリウムガス、液体金属、溶融塩) による腐食等 (共存性) 、増殖材料による腐食 (共存性) 等を考える必要がある。従って、要求される性能としては、耐照射性の高いこと、強度が高いこと、高温で使用可能なこと、冷却材 (熱媒体としての水、ヘリウムガス、液体金属、溶融塩 ) 及び増殖材料等との共存性に問題がないこと、誘導放射能が低いこと、製造性 (材料の) ・加工性・成形性に問題がないことが重要である。核融合中性子照射環境でこのような性能を持つと期待される材料としては、低放射化フェライト鋼 (ODS鋼及び複合材料化含む) 、バナジウム合金、SiC/SiC複合材料等を挙げることができる。上記の原型炉で想定される中性子フルエンスまで機能する材料の開発には、DT核融合中性子照射環境に相当する照射実験を行うことが前提となる。実験炉でのテストブランケット試験は低フルエンスでブランケット機能を確認することに限定されるので、原型炉およびそれ以降の材料開発において加速器型の核融合近似中性子源による照射実験が不可欠である。これまでの核分裂炉照射による実験データを有効に活かし、各候補材料の可能性を明確にするために、適切な規模の中性子源を早期に実現すること、さらに設計に必要な信頼がおける工学データを取得できるよう中性子源の機能を増強していくことが必要である。低放射化フェライト鋼については、今後10年間程度で、主に核分裂炉照射を用いて材料の改良と接合法等の開発及び性能評価を実施し、加速器型の近似核融合中性子源等で限界性能評価のための照射試験を実施する。
2) 現状
 ITERで使用予定の材料はITERグレードの316鋼であるが、これの仕様は高速炉316鋼と同様のものである。照射特性を含めた構造材料の性能やその評価は進んでおり、使用条件が比較的厳しくないため大きな問題は無いと考えられている。但し、接合方法についてはこれが定まり次第、性能への影響評価が必要である。316鋼の構造材料については、このように大きな問題は見あたらないが、銅合金等との接合や銅合金の照射特性からは設計上の注意が必要な点の存在が指摘されている。原型炉以降の材料に関する技術的展開は低放射化性及び熱特性の観点から限られてくるが、照射による延性低下に対する構造設計法での対応の重要性が比較的高い。また、テストブランケットで検討されている材料には、原型炉の発電ブランケットでの使用が期待されている低放射化フェライト鋼やバナジウム合金があり、これらの材料の核融合条件での機能試験としての意義は大きいが、照射量が低いため耐中性子照射損傷という観点からは限られた評価にとどまる。
3) 課題と今後の見通し
 低放射化フェライト鋼の開発課題は、 耐照射性(低温での脆化、高温でのヘリウム脆性、スウェリング)、高温強度の向上、低放射化材料の製造法の確立、耐食性向上、トリチウム透過の低減、強磁性のプラズマ制御への影響、増殖材等との共存性である。靭性に関しては、熱流束による変形とヘリウムに起因する低射化フェライト鋼の高温割れ発生の抑制、低温脆化の抑制(脆性破壊の発生温度が80℃以下を目標)、平均使用温度での破壊靭性値が適当な値を維持すること(60kJ/m2; 暫定値)が条件として挙げられている。しかし、これまでに開発した低放射化フェライト鋼の低温での使用平均温度での破壊靭性値が60kJ/m2を下回った報告はない。また、脆性についてもヘリウムの効果が無い場合には、照射量に対して劣化が飽和するので大きな問題はない。但し、核変換によりヘリウムが材料中に導入されると、脆化が更に進むことが予測される。これに対しては、ヘリウムの分散状態を変える(分布を細分化)ことによる対策が有効である。
 スウェリングや共存性については大きな問題はなく、また、浅地埋設処分が可能な(使用停止後、適当な年数を経過した後)材料開発についても、すでに試作鋼で近い条件が達成されている。
 バナジウム合金については、 耐照射性の向上(低温での脆化、高温でのヘリウム脆性、スウェリング)、耐照射性の高い自己修復性のある電気絶縁皮膜の開発 (MHD効果の抑制)、低放射化合金の製造技術の確立、トリチウム透過の低減が重要な課題である。このうち、強度及び靭性に関しては、照射の効果も含めて、利用可能な範囲に入るとされている。絶縁皮膜に関しては、AINやCaOなどが有望と考えられ開発が進められている。大規模製造については、インゴット等の規模の拡大が進んでいる。
 SiC/SiC複合材料では、先ず工業材料としての基盤材料開発が重要である。またこの材料は、高温使用が期待されるため、高温強度特性と高い熱伝導率が要求される。更に中性子照射によるこれら特性の変化、即ち、強度低下や熱伝導率低下の他に、低温・高温脆性やスウェリングなどに対する耐照射性の向上が重要である。加えて、不純物を制御した材料の製造技術、接合技術を含む大型コンポーネント等の製造加工技術、気密性の確保技術などが重要課題である。また、セラミックス材料を対象とした構造設計の方法の確立も急がれる課題である。最重要課題の一つである熱伝導度に関しては、その向上に効果的な製造方法として、反応焼結法があり開発が進められている。SiC/SiC複合材料の照射によるスウェリングは結晶化度の向上により制御され得る。また、化学量論比に近い材料とし、結晶化度を調整することにより、強度の低下の抑制が'期待される。低放射化については、誘導放射能が問題である窒素(N)を含まない界面材料を開発する必要がある。製造性は、核融合以外の領域で急速に進歩している。 加速器型近似核融合中性子源が実現されていない現状では、照射実験(強度評価等)に利用できる照射施設は核分裂炉に限られる。しかし、中性子エネルギーが異なるため、照射中に核変換で生じる元素である水素やヘリウムの量が異なること、また弾き出しのエネルギー分布の違いによる点欠陥の空間分布の違いにより、照射損傷による特性変化が異なり、材料開発上重大な問題となっていた。このうち、ヘリウム原子生成量の違いによる影響は、微細組織についてはイオン照射法によるシミュレーションにより明確に示されている。照射損傷による特性変化の評価精度とそれに基づく候補材料の挙動評価を、設計等に利用しうるほど高いものとするためには、加速器型の核融合近似中性子源の建設と利用が不可欠である。なお、核分裂炉は今後、中性子源による評価に先行して、ブランケット要素としての材料の機能複合化や組み合わせの最適化など(材料インテグレーション)の課題に対応していくことが求められる。

(2) ダイバータ関連材料
 ダイバータ関連材料では、ダイバータ構造材料そのもと冷却管材料及び表面材料がある。 ダイバータの開発では、材料開発はブランケット構造材料の開発に委ね、その成果と既存材料を基に構造体の開発を行う(表3.3.2-3参照)。
1) 技術目標
 ダイバータでは、定常、非定常表面熱負荷がそれぞれ5 MW/㎡、20 MW/㎡ に耐える構造材料が要求される。 また、原型炉以降では、さらに50dpa以上の中性子負荷に耐えることが要求される。実証炉以降では、さらに高い耐熱性、耐照射性、耐久性を目指す。これらの要求は、冷却管材料及び表面材料でもほぼ同じである。
2) 現状
 ITERでは、ダイバータ構造材料としてブランケットと同じステンレス鋼が採用されている。原型炉以降においてもダイバータ構造材料は基本的にブランケット構造材料と同じ材料が使用可能である。ダイバータ部分の中性子フルエンスは第一壁部分の数分の1になるため、照射損傷、誘導放射能の観点からも裕度のある設計が可能である。
 ITERでのダイバータ冷却管材料では、最大20 MW/m2の表面熱負荷を除熱するため、ダイバータ冷却管材料に銅合金(クロム・ジルコニウム銅、アルミナ分散強化銅)を採用し、冷却媒体には低温・低圧水(~100℃、~4 MPa)を使用している。これらの材料は高い熱負荷で冷却管に発生する応力に十分耐えるものである。
 ITERでは、20 MW/㎡の熱負荷が入射する部分の表面材料には耐熱性に優れる炭素繊維複合材料を採用し、それ以外のダイバータ表面はプラズマ粒子による損耗量が少ないタングステンを採用している。
3) 今後の課題及び見通し
 原型炉以降のダイバータ表面熱負荷はITERの数分の一になると想定されるが、発電のために高温・高圧冷却媒体を使用する。このため、冷却管材料に構造材料と同じ高温強度や耐熱負荷特性の向上が要求される。同時に、材料の局所的な塑性等も考慮した設計技術を確立する必要がある。このブランケット構造材の候補材に関する開発を進め、さらにこれらの材料を補完する目的で、ITERと同じ銅合金やタングステン合金などの開発をあわせて進める。
 ダイバータ表面材料に関しては、原型炉以降では構造材料そのものを表面材料に使用できるようにプラズマディスラプション制御技術の進展が望まれる。しかし表面材料が必要となる場合を想定して、タングステンの粒子損耗などに関する照射データの蓄積を進めると共に、耐照射特性に優れたタングステン材料やプラズマ溶射などの炉内補修技術の開発を並行して進める。

(3) トリチウム増殖関連材料
 トリチウム増殖関連材料の構成は、ブランケットの方式に依存し、固体ブランケット方式ではセラミックス系トリチウム増殖材料と中性子増倍材料を使用し、液体ブランケット方式のうち液体リチウム増殖材では中性子増倍材を用いないことも可能であり、溶融塩(FLiBeなど)増殖材では中性子増倍材を使用する。以下では主として固体ブランケット方式を例にとり現状と課題についてまとめる。
 トリチウム増殖関連材料はトリチウム増殖材料及び中性子増倍材料からなり、それぞれの使用環境は表3.3.2-4の通りである。トリチウム増殖関連材料に要求される主要なパラメータとしてはトリチウム増殖比があり、1以上の値が必要とされている。トリチウム増殖比はトリチウム増殖材料及中性子増倍材料の種類及び配置、トリチウム増殖材料のリチウム6 (6Li)濃縮度の選び方等によって決定される。また、使用温度はトリチウム増殖材料及中性子増倍材料の適切な配置により自由に設定することが可能である。このため、材料的な問題は、中性子照射下での健全性及び非定常時の化学反応性、安全性が主要課題となる。また、これらの材料は、熱応力やスエリングの緩和を目的にした微小球の2次球充填方式が選定されており、微小球の製造技術開発及び低コスト化も主要開発目標に位置づけられている。

表3.3.2-2 材料技術の目標及び課題と見通し(構造材料)

表3.3.2-3 材料技術の目標及び課題と見通し(ダイバータ関連材料)

表3.3.2-4実験炉、原型炉及び実証炉におけるトリチウム増殖関連材料の使用環境

 トリチウム増殖材料及び中性子増倍材料の利用に関して、ITERにおいては、比較的厳しくない使用条件であることから既存材料で対応可能である。しかし、原型炉や実証炉では、高温、高中性子照射時の健全性が要求される。このため、改良材料や先進材料の材料開発が必要である。また、高中性子照射時の健全性評価は、国際協力による高中性子照射試験及びIFMIFを用いた照射試験によって達成できると考えられる。以下に、トリチウム増殖材料及び中性子増倍材料について、技術目標、現状、今後の課題と見通しについて記述する(表3.3.2-5参照)
1) 技術目標
 トリチウム増殖材料に関しては、微小球の製造技術開発、良好なトリチウム増殖特性及び放出特性、高中性子照射時における材料の健全性等が主要開発目標に位置づけられている。
 微小球の製造技術開発に関しては、大きさの異なる2種類の微小球(小球:直径0.1~0.2mm、大球:直径1~2mm)がITERで約50トン、原型炉及び実証炉で約100トンのトリチウム増殖材料が使用される。また、良好なトリチウム増殖特性及び放出特性に関しては、適切なリチウム6 (6Li)の濃縮度を選定するとともに、トリチウムインベントリ(ITER:<100g)を小さくすることが要求されている。また、原型炉以降では、20%Li燃焼度、~80dpa、400~1000℃までの照射条件におけるトリチウム増殖材料の健全性を目指す。  液体増殖材料では、液体リチウム、リチウム鉛合金、溶融塩FLiBeが代表的な候補材料である。液体リチウムにおいては、トリチウムインベントリーの回収と抑制、純度管理、MHD圧損の低減が、リチウム鉛合金ではトリチウムの閉じ込め、腐食制御が、溶融塩FLiBeでは、トリチウム閉じ込め、配管防食、照射による化学特性変化などが主な課題である。これらにおいて、絶縁性、トリチウム透過バリアー性、耐腐食性を有するコーティングの開発が極めて重要である。
 中性子増倍材料に関しては、ベリリウムが第一候補材となっているが、高温で使用できるベリリウム金属間化合物も候補材として提案されている。中性子増倍材料の技術目標としては、大球(直径12mm)及び小球(直径 0.1~0.2mm)の大量製造技術開発と中性子照射環境下における健全性(顕著な割れやスエリングがないこと)が主要開発目標に位置づけられている。大量製造技術に関しては、ITERの使用量が約150トン、原型炉及び実証炉の使用量が約300トンとされている。 また、実験炉ITERで想定される使用条件は、照射温度、ヘリウム生成量 及び照射損傷量がそれぞれ150~350℃、20,000ppm、~3dpaと、また原型炉及び実証炉では、400~900℃、~20000appmHe、~20dpaである。
2) 現状
 固体増殖材料に関しては、数多くのリチウム含有セラミックスについて研究が進められ、その結果、Li2O、Li2TiO3、Li2ZrO3、Li4SiO4及びLiAlO2の5種類の既存材料が選定されている。微小球の製造技術に関しては、上記既存材料について溶融造粒法、転動造粒法及び湿式造粒法による試作試験を行った結果、湿式造粒法が大量製造性、製造コスト等の観点から選定されている。選定された湿式造粒法は、大球製造法と小球製造法に大別され、脱水型ゲル化法と置換型ゲル化法が各々考案されている。なお、脱水型ゲル化法を用いた微小球の製造技術は、年間約150 kgまで製造ができるレベルに達している。特性評価に関しては、Li2TiO3 を除いて未照射時における既存材料の各種特性はほぼ取得されている。一方、ブランケット設計に必要不可欠な中性子照射時におけるトリチウム増殖材料の熱的特性(熱伝導率、熱膨張率等)、機械的特性(圧潰強度、クリープ、破壊強度等)及び照射特性(トリチウム放出特性、スエリング等)に関する材料データは、実験炉のためにも十分に整備されていないのが現状である(原型炉増殖ブランケットの設計に使用可能な照射データはない)。実験炉用材料データとして最もデータ取得が進んでいる日米国際研究協力(BEATRlX-II計画)においても、~5%Li燃焼度までのディスク状Li2O及び微小球形状Li2ZrO3 (日本と異なる製造法により製造されたカナダ製のもの)のみの基礎的材料データは取得されているが、一定温度で所定のリチウム燃焼度まで照射された時に得られるような工学データは取得されていない。従って、増殖ブランケットを設計する上で必要不可欠な材料特性データは非常に不十分な状態である。また、さらなるトリチウム増殖材料の開発に関しては、トリチウム増殖比を向上させること等のため、微小球の焼結密度を90%以上にし、かつ結晶粒径を10 μm以下にするための改良材料の開発として、既存材料に他の化合物を添加したものの製造技術開発と基本的特性試験が開始されている。一方、トリチウム増殖材料の第1次選定を行うための中性子照射場を日本に整備するためには多額の費用と期間が必要になるため、ISTC(International Science and Technology Committee)等の国際協力を有効活用した核分裂炉等での高中性子量照射試験等について検討を開始している。
 液体リチウムに関しては、200リットルの熱流動ループ試験、各材料との共存性試験が進行中である。また、MHD圧損を抑えるための各種絶縁被覆の製作と評価が進められている。リチウム鉛合金については腐食試験、コーティング材の開発と性能試験、溶融塩FLiBeについては、各材料との共存性試験が進行中で、熱流動ループ試験の準備が進められている。
 中性子増倍材料に関しては、ベリリウムが第一候補材に選定されており、製造技術と中性子照射挙動評価を中心とした研究が進められている。
 ベリリウム微小球の製造技術に関しては、回転電極法により年間120 kgまでの製造が可能である。中性子照射挙動評価に関しては、下記の様な観点から各種の挙動を明らかにするための研究が進められているが、ブランケットの詳細設計を行えるほどのデータは揃っていない。

・充填層の熱設計
 熱伝導率、熱拡散率、熱膨張率等
・寿命評価
 圧潰強度、充填層強度、スエリング等
・トリチウムインベントリ評価

 トリチウムの溶解度、拡散係数等実験炉(ITER)レベルの中性子照射挙動評価に関しては、EBR?IIを用いた照射試験において~400℃、~3000 appmHe、~30 dpaの条件におけるトリチウム拡散係数及びスエリングが測定されているのみである。原型炉及び実証炉レベルの中性子照射挙動評価に関しては、データがない上に、600℃以上の高温と実験炉の10倍の高中性子照射環境での使用が課せられているため、既存のベリリウムは使用できない可能性が高く、高融点の先進材料を開発する必要がある。高融点の材料としては、近年航空宇宙材料として研究されている(公開論文2報)ベリリウム金属間化合物(Be12Ti等)があり、水との反応性が少ないこと等が明らかになっているが、基礎的な物理特性の取得が開始されたばかりである。更に、寿命評価を実施する必要があるが、原型炉の照射条件(400~900℃、~20000 appmHe、~20 dpa)を満たせる照射施設が国内には存在しない。

表3.3.2-5 材料技術の目標及び課題と見通し(トリチウム関連材料)

3) 今後の課題と見通し
 原型炉以降は、大量のトリチウム増殖関連材料が使用されるとともに、中性子による厳しい照射損傷、第一壁への高い表面熱流束、エネルギー取り出しのための高温運転等のような実験炉条件よりもさらに厳しいブランケット使用環境となる。
 トリチウム増殖材料の課題としては、製造コストの低減化等の観点から同一製造法による微小球製造が必要になる。このため、湿式造粒法の内、置換型ゲル化法による大球製造について技術開発を行う。また、結晶粒径微細化の観点から、酸化物を添加した改良材料の微小球製造技術開発及び特性評価を開始する。さらに、原型炉における使用環境下でのトリチウム増殖材料の特性を明らかにすることが急務である。そのため、ISTC等の国際協力を有効活用し、核分裂炉を用いた中性子照射試験を効率的に行う。今後は、大量のトリチウム増殖材料が必要になるため、6Li濃縮技術及び資源の有効利用を念頭においたリチウムリサイクル技術開発も引続き行っていく。更に、将来、これらの特性結果を踏まえて、材料選定を行った後、実際の核融合炉環境下における諸特性を実証するための14MeV中性子源を用いた照射試験を行う必要がある。
 液体リチウムの熱流動、化学特性、トリチウム回収特性の研究開発は、強力中性子源のターゲット開発と共通課題が多いので、一環した研究計画の下に進めるのが適している。また、コーティングの開発が液体増殖材において重要であり、核融合炉条件での使用を想定した、体系的な研究開発が必要である。液体リチウム、溶融塩FLiBeともに、先進的な液体ダイバータ・第一壁への適用も検討されているので、共通の課題から重点的に進めるのが適当である。液体ブランケット材料の開発研究においては液体/コーティング材/配管材料システムの中性子照射の影響を把握することも必要であり、他の研究開発と整合性をとりつつ、原子炉照射におけるキャプセル開発を進める必要がある。溶融塩FLiBeについては、トリチウム閉じ込め、腐食制御に関する基礎的研究を国際協力を有効に使いつつ研究することが必要である。
 中性子増倍材料の課題としては、ヘリウム生成量とdpaとの比を調整した高中性子照射量時の挙動評価が必要である。しかし、これらの照射試験が国内では不可能であること及び研究費の有効活用の観点からISTC等による国際協力を利用した照射試験が必要である。ベリリウム金属間化合物の開発に関しては、回転電極法による微小球の製造技術開発を実施する必要がある。さらに、資源の有効利用を念頭においた乾式法によるベリリウムリサイクル技術を開発する必要がある。

(4) 材料開発のスケジュールと中性子源の役割
 核融合炉材料開発戦略の概略を、炉開発と中性子源計画との関係をもとに、図3.3.2-5に示す。材料開発については、材料素材と構造機能体の開発に大別して示した。材料素材開発には、詳細な合金組成の決定、製造プロセスの確立、広範な材料特性の評価、溶接や接合方法の確立、冷却材や増殖材との両立性、種々の特性に及ぼす中性子照射の影響評価、が含まれる。構造機能体開発は機器コンポーネントの製造に関わるもので、ブランケット要素構造体の製造、ブランケット機能の特性評価、フェライト鋼構造体の強磁性影響評価、などが含まれる。
 核融合強力中性子源は、国際協力による重水素-リチウム加速器型中性子源(IFMIF)に対応するもので、IEA活動で合意が得られつつある段階的建設スケジュールを想定している。その役割は、高エネルギー中性子による特有のミクロ組織の発達を制御することによる耐重照射材料の開発、各種機器材料の核融合中性子による特性変化データの取得、および原型炉の設計工学データの構築までカバーするものである。このような強力中性子源の開発には、加速器技術、ターゲット技術、照射および照射後試験技術などを確立する必要がある。要素技術の開発をもとに、重水素ビーム50mAの性能をできるだけ早く達成し、高エネルギー中性子照射試験を早期に開始することが必要である。
 一方、核融合炉の運転条件を考えると温度などのパラメータの変動条件下での材料挙動や照射中にのみ現れる動的現象が重要になる。変動照射実験や照射下その場特性試験については、核分裂炉を用いて研究を進めているところであり、各種微小試験技術と共に上記の核融合中性子照射試験に不可欠な知見である。材料素材開発をブランケット開発に効率的に活かすためには、構造材料、冷却材、増殖材、中性子増倍材等が材料システムとして核融合炉照射環境で機能するための材料インテグレーションが重要な課題となる。これらには異種材料の接合、気体-液体-固体材料間の両立性、およびそれらの中性子照射下の健全性が含まれる。これらの材料インテグレーションは核融合中性子源開発に先だって見通しをつけておく必要があるので、照射体積に余裕のある原子炉照射を国際協力で活用するなどにより、早急に開始する必要がある。

参考文献

[3.3.2-1] 関泰、菊池満、他、'The Steady State Tokamak Reactor'、第13回IAEA制御核融合とプラズマ物理関する国際会議(1990)、ワシントン
[3.3.2-2] F. Najmabadiet al., "Overview of ARIES-RS Tokamak Fusion Power Plant", 4th Int. Symp. On Fusion Nuclear Technology, April 1997, Tokyo.
[3.3.2-3] S. Nishio, et al., " Prototype Fusion Reactor based on SiC/SiC Composite Material focusing on Easy Maintenance",IAEA-TCM on Fusion Power Plant Design, Culham, March 24-27, 1998.(to be published in Fusion Engineering Design)