3.2 工学要素技術の現状と今後の課題
 本節においては、実験炉、原型炉、実用炉に要求される炉工学技術開発項目の概要について、達成状況、予想される問題点と開発の見通しを述べる。

3.2.1トカマク型核融合炉の工学要素技術開発項目
 図3.2.1-1にトカマク型核融合炉の工学要素技術開発項目を示す。

図3.2.1-1 トカマク型核融合炉の工学要素技術開発項目

トカマク装置本体を構成する要素機器の技術としては、

ブランケット技術(プラズマをとりまき、中性子等の運動エネルギーを熱に変換するとともに超伝導コイル等を遮蔽するブランケットを開発する)
プラズマ対向機器技術(プラズマから出てくる粒子と熱を受け止めるダイバータなどを開発する)
炉構造技術(プラズマを生成するための高真空を維持し、ブランケットやダイバータを収納する真空容器や支持構造を開発する)
超伝導コイル技術(電磁流体であるプラズマを磁場により閉じ込めたり、磁場変化によりプラズマ中に誘導電流を流すための超伝導コイルを開発する)
トカマク周辺の機器に関する要素技術としては、
加熱・電流駆動装置技術(プラズマを加熱したり、プラズマ電流を流す)
計測機器技術(プラズマを運転・制御するための温度、密度などを計測する)
燃料の給・排気技術(核融合燃料を供給し、排気する)
トリチウム工学・安全技術(燃料の中でも放射性であり天然には存在しないトリチウムを循環利用するとともに安全に取り扱う)
遠隔保守技術(プラズマから発生した中性子により放射化した機器を遠隔で保守・修理する)
さらに安全審査や将来の動力炉開発に向けて、
安全審査を行うために必要な安全基準の整備及び安全評価に必要なデータや評価手法の整備、
将来の動力炉へ向けたトリチウム増殖ブランケットの研究開発、
材料開発
が必要である。

3.2.2炉工学技術開発の段階的統合化
 図3.2.2-1に炉工学要素技術がどの段階でシステムに統合され、実証されていくかを示す。

図3.2.2-1 炉工学技術開発の現状と今後の課題

 まず、臨界プラズマ試験装置JT-60が15年以上の実験を積み重ね、最大で10秒程度のパルス運転を常伝導コイルで行い、重水素プラズマのトカマク装置としてシステム統合技術を育ててきた。この装置は核融合装置に特徴的な磁気閉じ込め、プラズマ制御、加熱、真空排気、冷却などの機能は備えており、図3.2.1-1に示す核融合炉の技術のうち、これらの基本的な技術の原型は既にJT-60などの統合装置の建設を通してシステムに統合化されているといえる。しかし、重水素プラズマから発生する中性子の量はDT燃焼に比べて桁違いに少なく、本格的な核工学装置とは言い難い。
 今後核融合エネルギーの実現に向かって要素機器技術がシステムとして中核装置に統合化されていくが、個々の工学技術によって、実験炉の段階で統合化されるものと、その次の原型炉の段階で統合化されるものとがあり、それらは組み込まれる技術の成熟度と、中核装置の能力とのバランスに於いてどの段階で組み込むことが核融合発電プラント実現に向けて最も効率的かの判断から決められている。
 核融合実験炉ITERにおいては、長時間パルス運転を可能にするために新たに超伝導コイル技術が、またトリチウムを燃料として用いることによりトリチウム工学技術が必要になる。さらにDT核融合反応の結果発生する中性子を遮蔽するためのブランケット技術及び中性子により放射化される機器を遠隔で保守修理するために遠隔保守技術が必要となる。そして今までと比べると格段に量が増える放射性物質を安全に管理するための安全技術が必要となる。
 これらの技術はITERの段階で初めて中核装置に統合化されるものであるが、この場合にも事前にトカマク装置への統合化を予想した着実な開発がなされてきており、いきなり要素機器開発から統合化されるものではない。例えば、超伝導コイル技術については国際協力としてIEAのもとで1977年から約10年間に亘って世界の代表的研究所や企業で製作した6個の大型超伝導コイルを米国オークリジ研究所に集めてトロイダル配置での組み合わせ試験が実施された(9T、1GJ)。また、中・小型装置では九州大学のTRIAM-1MやフランスのTore Supraでプラズマ閉じ込めのトカマク実験装置に、さらにより複雑な形状の文部省核融合科学研究所の大型ヘリカル装置に超伝導コイルが採用され、実験に使われている。トリチウム工学技術や安全技術は図3.2.2-2に示すようなトカマクを含めた模擬循環系でのループ試験や組み合わせ試験が米国TSTAや日本原子力研究所のTPLなどで既に実施されており、また、トリチウムは大型トカマク装置TFTRやJETにおけるDT実験で燃料として使用されている。遠隔保守技術については要素開発といえどもITER工学R&Dで実施しているものは実規模大のものであり、また、対象物が軽量ではあるが、JETで炉内機器の保守に遠隔操作技術が使われている。このように、これらの技術はITERに統合化される前に必要な開発ステップを経て統合化されるものである。

図3.2.2-2 トリチウムの工学・安全技術

 以上のように、実験炉では発電ブランケットに代表される材料開発以外の全ての炉工学要素機器を備えており、これらを統合した技術の実証をめざす。ITER工学設計活動、なかでも、これまでにない大きな規模で4極が共同して実施した、7大工学R&Dを中心とするITER工学R&Dによる飛躍的な成果により、現在、実験炉建設に必要な技術は全体的にみてほぼ80%達成しており、また残されたITER/EDA期間に期待される成果によって、ITER建設開始に十分な技術データが整備される見通しである。その個別の内容については、第3.2.3節において示す。
 実験炉の次の段階である原型炉は発電炉の原型として開発段階の最終目標となるものであり、将来の核融合動力炉の構成要素が全て含まれ、プラント規模での発電の実証を目指す。この段階でシステムに統合される炉工学技術としては、発電ブランケットに代表される材料の開発がある。発電ブランケットの開発には材料素材の開発と、構造体の開発が必要である。
 構造体の開発のためには、材料試験用核分裂原子炉などによる中性子照射データに基づいて開発したブランケット試験体を核融合炉に近い環境、即ち、高いエネルギーの中性子束、高熱負荷、及び大きな電磁力の環境下で、高温の熱の取り出しやトリチウム増殖性能などの機能を試験する必要があり、ITERをそのような核融合環境試験の場(テストベッド)として使用する。他方、材料素材の開発には特に中性子照射損傷の評価が材料の使用可能寿命を決める上で重要である。このため、これまで、材料照射炉や小規模14MeV中性子源等により性能劣化の評価が行われてきたが、核融合炉に必要な大きな積算中性子束(フルーエンス)での試験(重照射試験)のためには強力な14MeV中性子源を開発して試験を行う必要がある。実験炉ITERの建設・運転と並行してこれら材料素材の開発と、ブランケットの機能試験を進め、両者を統合して原型炉のブランケット製作に反映させる。
 現在、このような方針によって、原型炉以降のブランケット構造材料としては、低放射化フェライト鋼F82Hを、またトリチウム増殖材としてはリチウム・チタン化合物などを中心とした開発を、さらにこれらを収納する除熱構造体としての筐体の接合製作技術を進めている。
 これらの基本的なシステム統合化によって核融合炉の原型としての技術は開発されるが、これらに加えて、個々の要素機器の改良研究は、核融合炉の信頼性の向上、経済性の追求、安全性、社会的受容性のより一層の向上を目指すうえで必要であり、それらの代表的なものとして、超伝導コイル発生磁場の向上、冷凍効率の向上、バナジウム合金、SiCなどの構造材料開発、長寿命受熱機器開発、遠隔保守交換技術の向上、トリチウムプラント定常連続運転への対応などがある。このうち 、超伝導コイル技術に関しては、ニオブ・アルミ導体による超伝導コイル開発や、現在その萌芽のあるもの、及び検討の必要のあるものとしてビスマス系高温超伝導材 がある。

3.2.3 実験炉、原型炉の各段階に要求される炉工学技術開発項目の概要と現状
 実験炉ITERの個々の工学要素技術項目毎の開発目標と達成状況及び原型炉に向けて達成すべき炉工学技術目標の概要を各分野毎に以下に記述する。また、ITERに対する各分野の開発課題毎の現状の達成度をグラフに示した。さらに、それぞれの課題の重要度や達成の同時性、ここに書ききれない種々の小課題などの達成度を総合的に考慮した総合達成度を示した。また、原型炉を目標としての研究開発は直接原型炉用を目指す、材料やブランケット開発など一部の分野を除いてはまだ殆ど着手されていないが、これらについても現状の達成度を参考までに示した。これらの分野ではITERが達成されれば大きな技術的進展が得られ、後は改良を加えることによって、原型炉を見通すことが出来るもので、原型炉を目指してITERと並行して実施しなければならない長期的なR&Dは材料・ブランケットと超伝導導体などに限られよう。

 (1) 超伝導コイル技術(図3.2.3-1)

 ITERでは13Tという高い磁束密度が要求され、そのための超伝導線材としてNb3Snの使用が不可欠である。この線材は既に九大のトカマク装置TRIAM-1Mに使用され、15年以上の運転実績を持っている。ITERではさらに困難と予測される最大磁束密度13T、導体電流値42kAでパルス運転を行う中心ソレノイドコイル技術が必要であるが、それを実現するためのモデルコイルの製作・組立を終了し、コイル実験が開始されている。総合達成度は80%である。これらは極低温・超伝導工学の学問分野において、4Kの極低温を利用する技術の究極に迫りそれを実現する意義があり、またそれ以降の高温超伝導工学への橋渡しとなる学問領域を築く意義がある。前者の超伝導コイルについては、原型炉以降に必要な技術開発としては、16T以上の磁場を発生させる低温超伝導材料を用いたコイルとより高い運転熱効率(1/200)を達成する冷凍機システムを目標とする。前者については、図3.2.3-2に示すようにニオブ・アルミ導体の高性能化が課題であり、ニオブ・アルミを用いた16Tコイル技術の開発と高温超伝導材料を用いるコイルの基礎技術開発を平行して進めることを計画している。後者については、冷凍機要素機器の大型化と高効率化を図る。実証炉に向けては、さらなる超伝導素線のコスト低減と高性能なビスマス系高温超伝導材料等の開発を目標とする。

図3.2.3-1 超伝導コイル技術達成度

図3.2.3-2 原型炉コイル用導体の開発ステップ

 (2) 真空容器技術(図3.2.3-3)
 ITERの実機大(高さ15m、幅9m)真空容器の1/20セクタを開発目標を上回る製作精度±3mm以下、セクタ組立精度±10mm以下での製作・組立を達成した。今後は、既に完成して単体性能を確認した溶接・切断ツールによる水平ポート部の遠隔溶接・切断試験等を行う予定である。総合達成度は、80%と評価される。
 原型炉においては、真空容器の構造材料にはオーステナイト鋼の使用の他に高温・低放射化材料であるフェライト鋼を使用する可能性がある。いずれの場合も電気絶縁構造の開発による電磁力の低減が課題である。この対策として、セラミック系電気絶縁材料とフェライト鋼を接合した機能傾斜材料(FGM)を用いた高強度・電気絶縁構造の開発を進め、真空容器の現地接続部及び配管接続部に採用し、電磁力の低減を図る。ジルコニアとステンレス鋼を接合した電気絶縁継手については試作・開発を完了し、中性子照射条件下でも著しい特性劣化がないことを既に確認している。フェライト鋼とジルコニアの接合については接合条件の最適化と中性子照射条件での特性評価試験を進める必要がある。
 核融合炉の真空容器には、改良型フェライト鋼やSiC複合材料を構造材料に採用する設計例がある。前者に対しては、チップ材を加圧成形した遮蔽構造体を採用することにより二重壁真空容器の製作方法の合理化を図る。後者の場合には、優れた電気絶縁性能と低放射化特性を有するSiC複合材を採用するため、電磁力の問題はないが、ブランケット構造と一周抵抗の整合性を確保する。

図3.2.3-3 真空容器技術達成度

 (3) ダイバータ等高熱負荷機器技術(図3.2.3-4)

図3.2.3-4 ダイバータ技術達成度

 ITERダイバータの開発においては、当初実現が困難と思われた0.1MWa/㎡の中性子負荷に耐えるとともに、100~150℃の冷却条件で5~20MW/㎡の高熱負荷に耐える要素機器の開発を終了し、所要の高熱流束の繰り返し負荷に耐えることが実証されている。今後は、ダイバータカセットに組み上げて熱流動試験等を実施し、総合的な性能実証を行う予定であり、総合達成度は85%である。  原型炉ではITERに比べ10倍以上高い中性子負荷を受けるとともに、ブランケットと同様に発電システムの一部として300℃以上の高温で高熱負荷を除去する性能が要求される。中性子負荷の観点からは低放射化フェライト鋼が最も有望な材料であり、高温域での高熱負荷除去技術の開発を進める。低放射化鋼を補完する材料として中性子照射に対する耐久性に優れた銅合金開発などの材料改良を進める。
 このほかに液体金属冷却との組合わせでバナジウム合金や、ヘリウムガス冷却との組み合わせでSiC複合材などの低放射化材料がオプションとして開発の対象となっている。ダイバータの開発ステップを図3.2.3-5に示す。

図3.2.3-5 ダイバータの開発ステップ

 (4) ブランケット技術(図3.2.3-6)
 高温等圧接合法(HIP)を用いて、ITERの実機大の遮蔽ブランケットのプロトタイプを製作し、製作性を実証するとともに、中規模の遮蔽ブランケットモデルを用いた熱サイクル試験により、ITERの熱流束条件に耐えることを示した。トリチウム増殖ブランケットに関しては、増殖材の候補材料のひとつであるリチウムタイタネイトについて中性子照射試験によりトリチウム放出性能について見通しを得た。ニュートロニクスに関しては、ブランケット中の各種開口部の中性子ストリーミング及び非均質な組成に伴う遮蔽性能が低い部分の中性子透過に伴う中性子束のピーキングの評価がなされた。総合達成度は、75%である。

図3.2.3-6 ブランケット技術達成度

図3.2.3-7 ブランケット開発ステップ

 原型炉においては、より高い熱流束に耐える低放射化フェライト鋼をブランケット構造材に使用するとともに、第一壁の水冷却にはスワール管あるいはスクリュー管を使用することにより、高い中性子負荷及び熱流束に対応できる見通しである。また、プラズマディスラプションの影響を軽減する研究の進展と相俟って熱流束や電磁力にも耐えるブランケット開発が課題である。ブランケット技術の開発ステップを図3.2.3-7に示す。原型炉に向けてのブランケット技術開発については材料開発と共に詳細を3.3節で示す。

 (5) 遠隔保守技術(図3.2.3-8)
 ITERのブランケット及びダイバータについては、それぞれ実機大のビークル型及び台車式の遠隔保守システムを開発し、それぞれ4トン、及び25トンの重量物の可搬性能を確認した。また冷却管内を自走する溶接・切断、溶接部検査ツール及び炉内観察ツールを開発し、性能を確認した。高い放射線場に耐える光学機器、電線、絶縁材などの機器・部品を開発した。総合達成度は70%である。
 原型炉においてもビークル型の遠隔保守システムを適用したブランケットの交換が可能で、その交換期間も現状技術の外挿で全量交換に50日間程度と評価されているが、稼動率向上のため交換期間のさらなる短縮と信頼性の向上が必要である。このため、耐放射線性機器の開発をさらに加速して計測・制御信号の無線化を進めると共に、耐放射線性バッテリーの開発に着手し、動力の無線化による交換作業の高速化を進める。高放射線場での耐久性・信頼性の向上に対しては、故障時のレスキュー用機器の開発と耐放射線性機器の耐久性改良試験を継続する。
 これらの技術は、軽水炉の保守や宇宙空間での遠隔操作、機器の遠隔保守にも適用できる共通技術である。また、ブランケット交換期間をさらに短縮する方法として、将来的に有望と考えられる水平にトーラスのセクタを一括して引抜く交換方式についても並行して検討を進める。

図3.2.3-8 遠隔保守技術の達成度

 (6) プラズマ加熱・電流駆動技術(図3.2.3-9、図3.2.3-10)
 ITERでは50MW入射の加熱・電流駆動装置が必要であり、これを技術的に実現するには高周波(RF)方式では、170GHz, 1MWの高周波源(ジャイロトロン)が不可欠である。この開発において、人工ダイヤモンド窓搭載ジャイロトロンを用いて、170GHz、500kWx6秒などの出力に成功し、JT-60用では1MWx2秒を達成した。人工ダイヤモンド窓で非照射状態ではあるが、10気圧(差圧)に耐えることを実証するなど総合達成度は70%である。
 中性粒子ビーム入射(NBI)方式においては、多段静電加速系によりITERの目標値である1MeVに負イオンを加速することに成功した。またJT-60用負イオン源で400keV、13.5Aの重水素負イオンビーム出力を達成した。総合達成度は、85%である。

図3.2.3-9 高周波加熱・電流駆動技術の達成度

図3.2.3-10 NBI加熱・電流駆動技術の達成度

 原型炉以降に向けて、プラズマ閉じ込めの磁場強度が高くなることに対応して、RF方式では300GHz帯への高周波数化が課題であり、これには人工ダイヤモンドの性能を最大限に発揮させるとともに、より高次の発振が可能な共振器開発を行う。同時に、システムの簡素化と高信頼性化、高効率化、長寿命化に向けて、周波数可変型発振システム及び入射結合方式の開発を行う。
 NBI方式では、機器の信頼性を高め、保守時間の短縮、高効率化のために高周波負イオン源開発、2MeV級加速技術・プラズマ中性化セル開発が課題である。

 (7) トリチウム工学・安全技術(図3.2.3-11)
 ITERのトリチウム(プロセス)工学技術においては、精製システムを開発し、ITER設計値の 107のトリチウム除去係数が得られることを証明した。処理流量がITERの1/30規模の模擬燃料循環システムを構築し、その運転試験によって燃料循環システムの成立性を総合実証した。さらに運転試験を進め、機器・システムの動作性能及び運転制御に係る知見を深め、ITERにおける設計を完成させる。図3.2.3-12にトリチウム供給・取扱技術の開発ステップを示す。燃料確保に必要な大量トリチウム輸送容器については、開発し実用化している25g容量輸送容器を基に250g規模までの輸送容器の実現性の技術的検討を終了しており、必要に応じて実用化を図る。
 トリチウム安全確保技術においては、ITERにおけるトリチウムの計量管理に必要な従来に比べて10倍以上高速のガス分析システムと自己計量型トリチウム貯蔵ベッドを開発、試験し性能を実証した。さらにITER使用条件における動作特性試験を進め、ITERにおける設計を完成させる。トリチウム汚染機器・部品等の処理に関しては、ITERのための効率的トリチウム除染方法の試験を進めている。トリチウムの閉じ込め・除去に関しては、空間や壁等におけるトリチウムの詳細な挙動の解明及び閉じ込め・除去設備の性能実証試験を進めてITER閉じ込め・除去設備の設計を完成させる。総合達成度は80%である。

図3.2.3-11 トリチウム工学技術の達成度

原型炉においては、連続運転であるので、運転は楽になるが長期間にわたる信頼性向上が必要

 

図3.2.3-12 トリチウム供給・取扱技術の開発ステップ

 原型炉に向けては、定常連続長時間運転への対応、発電に対応した安全確保、トリチウムの生産・確保、廃棄物からのより効率的なトリチウムの回収・除去、が課題となる。
 定常連続長時間運転には連続処理燃料循環システムと冷却材からのトリチウムの連続回収除去システムが新たに必要となる。これらはその基礎技術開発を継続しつつ、ITERにおける燃料循環システムやトリチウム回収除去システムの開発及び運転試験を通して動作特性の長期信頼性等の必要な知見を獲得し、実現を図る。
 発電のために原型炉で新たに必要となる機器・設備についてのトリチウム安全確保技術については、ITERのブランケットモジュール試験を通して開発する。
 トリチウムの生産・確保については、ブランケットトリチウム回収技術と初期装荷トリチウム生産技術の確立が必要である。ブランケットトリチウム回収技術はITERのブランケットモジュール試験を通して開発する。初期装荷トリチウム生産技術については基本技術開発を継続し、必要に応じて開発規模の拡大を図る。
 トリチウム汚染廃棄物の増加に対応し、トリチウム回収・除去技術の研究開発を継続する。

 (8) 燃料給排気技術(図3.2.3-13、図3.2.3-14)
 核融合炉に燃料(重水素及びトリチウム)を効率的、定常的に補給するための燃料注入技術の開発では、炉心プラズマ周辺部に燃料を補給するガス注入技術と固体燃料ペレット注入技術、及び炉心内部に燃料を注入できる高速ペレットや超高速コンパクトトロイド(小さいプラズマの塊)入射技術の開発が必要である。ITERでは、燃料ガス注入技術の要求圧力応答性能を実現している。ペレット燃料注入技術は、ペレット燃料の連続製造技術と連続加速技術が開発課題であり、スクリュー式ペレット連続生成法により約3000秒間の連続製造を実現しているが、ペレット速度、射出頻度、射出時間の開発目標は未達成である。
 ヘリウムなどの不純物を除去する真空排気技術の開発では、耐熱性、耐磁場性、耐放射線性を有し、且つ不純物を連続排気できる真空ポンプの開発、および真空リーク探知技術の開発が必要である。核融合炉用真空ポンプには機械式ポンプとクライオポンプの2方式があり、機械式ポンプは、金属製回転翼では磁気シールドが必要であるが、連続排気が可能でトリチウム蓄積量が低いという利点がある。一方、クライオポンプは耐磁場性を有するが、溜込式ポンプであるので頻繁に排気と再生を繰り返す間欠運転となる。
 真空排気技術では、両ポンプ方式について開発を行っており、特に機械式ヘリカル溝真空ポンプでは、金属製回転翼に磁気シールドを施し、ITER目標値(出口水素圧200 Pa)を上回る1,000 Paでの水素の排気に成功した。また、核融合炉用真空リーク探知技術の開発はITERで行われる。総合達成度は65%である。
 原型炉以降の炉は定常運転となるため、燃料の連続注入と不純物の連続排気が求められ、耐熱性、耐磁場性、耐放射線性、長寿命及び高信頼性の一層の向上が要求される。そのため、燃料注入技術では効率改善と炉壁や周辺機器のトリチウム蓄積量低減の観点から燃料を炉心高温部に補給できる高速ペレットやコンパクトトロイド加速のための先進的電磁加速技術の開発と、ITER技術の耐久性、信頼性の向上により、燃料補給制御技術の確立を図る。他方、真空排気技術では耐熱性、耐磁場性に優れたセラミックス(窒化珪素など)製回転翼、気体軸受、気体タービン駆動から成る連続排気大容量大型セラミックスポンプ(機械式ポンプ)を開発して、トリチウム蓄積量の低減化を図るとともに、排気システムの簡素化により耐久性、信頼性の向上を図る。

図3.2.3-13 燃料注入技術の達成度

図3.2.3-14 真空排気技術の達成度

 (9) 計測制御技術(図3.2.3-15)
 核融合炉の出力のモニター、核燃焼炉心プラズマ制御等により炉を安全に運転するための必須、基盤技術であり、厳しい中性子、ガンマ線環境での使用に耐える耐放射線性、長寿命、高信頼性のある計測制御技術の開発が必要である。
 開発課題は高い耐放射線性、耐熱性、耐機械性を有する計測機器要素(セラミックス絶縁材、光学要素(反射鏡、窓材、光ファイバー)、各種センサー(磁気プローブ、ボロメータ等)、電気ケーブル等とプロトタイプ機器(各種センサー、計測用窓真空シール、光ファイバー/電気信号導入端子等)の開発である。
 ITERでは、中性子、ガンマ線による計測機器要素の照射試験を実施し、ITERの物理実験フェーズ(中性子照射量= 1 MWa/㎡、放電回数= 10,000回)で、紫外域使用の鏡と光ファイバー以外は交換不要との評価を得た。また、真空環境で使用でき、圧力差5気圧、温度220℃、衝撃15Gに耐える計測用窓真空シールプロトタイプと52チャンネル光ファイバー導入端子、高エネルギー分解能の人工ダイヤモンド中性子検出器を開発した。しかし計測器の開発は多種多様であり、それぞれのシステムの開発はITERの建設と並行して進められる。総合達成度は65%である。

図3.2.3-15 計測制御技術の達成度

 原型炉以降に向けては、原子炉、強力中性子源等を用いて先進材料の開発と既存/先進材料について、原型炉以降の目標である損傷量が約20dpaまでの重照射試験を実施し、数MWa/㎡の中性子照射量に耐える計測機器要素及びプロトタイプの開発を進め、長寿命、高信頼性のある計測制御機器を開発する。また、実験炉ITERの運転経験に基づいて計測制御系システムの見直しを図り、耐放射線性が高く信頼性が高い必要最小限の計測器により効率的なプラントの運転制御を達成する。

 (10) 安全技術(図3.2.3-16)
 ITER真空容器内の放射性物質放出に至る可能性を有する真空容器内冷却材侵入事象及び真空境界破断事象に関する予備試験を行い、解析手法の妥当性を検証した。原理実証試験に基づいて、真空容器内の放射化ダスト除去系の概念を構築した。また、放射性物質の閉じ込め境界として重要度が高い真空容器の健全性を確保するための構造設計ガイドライン及び診断技術を構築し、基礎試験及び予備解析による技術データを取得した。また、免震構造設計ガイドラインを構築し、基礎試験及び予備解析による技術データを取得した。今後これらのガイドラインに基づいた設計基準が整備され、それに照らしてITERが製作される。総合達成度は60%である。
 原型炉以降においては、発電のための冷却材高温化、高熱流束化、高中性子束化に伴う冷却系異常事象に対する安全系の信頼性の向上、合理化と受動化による社会受容性の向上の最適化が必要となる。
 本項目については、別途第3.4節で詳述する。

図3.2.3-16 安全技術の達成度

 (11) 材料開発(図3.2.3-17)
 実験炉ITERの第一壁ブランケット構造材料として316LNステンレス鋼が選択されている。最大の課題であった照射による延性低下の問題は、材料照射挙動解析と設計法の高度化により対応できる見通しであり、引き続き、応力腐食割れ、熱疲労特性の評価に取り組んでいる。また、機器交換等のための照射後再溶接についても見通しを得た。
 真空容器構造材料については、ブランケット構造材料と同様のステンレス鋼が使用される。この材料については、基本特性への照射効果の評価を終了し、溶接部を含む材料の不均質性を考慮した照射効果、応力腐食割れ特性等の評価に取り組んでいる。
 トリチウム増殖材料及び中性子増倍材料に関しては、トリチウム増殖材として酸化リチウム(Li2O)やリチウムタイタネート(Li2TiO3)の特性評価が、また中性子増倍材料としてベリリウムの評価が進められている。さらに、これらについて実際の使用形態である微小球の製造見通しが得られ、現在、微小球に対する照射特性の評価を進めつつある。
 ITERでの材料開発に関する総合達成度は80%である。
 原型炉以降の構造材料としては、優れた耐照射性をもつ低放射化フェライト鋼や、高熱効率化が期待できるSiC/SiC複合材料及びバナジウム合金等の先進的な材料の開発を進めている。原型炉の第一候補構造材料である低放射化フェライト鋼の今後の開発目標と達成度をITERの構造材料であるオーステナイト鋼とともに図3.2.3-17に示す。原型炉以降の構造材料については第3.3節に詳細を示す。
 真空容器構造材料では、熱利用系やブランケットの温度等により材料は異なる。原型炉では低放射化フェライト鋼をブランケット構造材料とする設計がベースであるが、この場合には、真空容器材料としては低放射化フェライト鋼やニッケルを含まない低放射化オーステナイト鋼(鉄、クロム、マンガンが主要組成)の利用が検討されている。いずれの場合でも構造設計にはブランケット構造材料技術が利用できる。
 トリチウム増殖材料及び中性子増倍材料では、高温且つ重照射に耐える材料として、前者では、リチウムタイタネート(Li2TiO3)にチタンの微細な酸化物分散粒子を添加して高温強度を向上させる改良を中心に、また後者では、ベリリウム金属間化合物を用いることにより使用温度の上限を高める方向の開発を進めている。それぞれ、2010年頃までに開発を目指している。

図3.2.3-17 構造材料の達成度