第3章 トカマク方式による核融合エネルギー実現の技術課題と見通し
 ITER計画懇談会の中間報告書において指摘され、当分科会の調査審議事項である「核融合エネルギーの技術的実現性」について明らかにするために、本節においては、核融合炉を実現するための技術開発の現状と、核融合炉の実現に向けての技術開発の見通しについて述べる。
 トカマク型核融合炉の技術開発には、核融合反応を起こす炉心プラズマに関する「炉心プラズマ技術」、真空容器、超伝導コイル、加熱電流駆動装置等の「工学要素技術」、工学要素技術の中で発電技術に関わる「ブランケット・材料技術」、さらに、安全なシステムとして開発するために重要な「安全技術」、またプラントとしての運転と保守に関する「運転・保守技術」、等があり、以下の各節で議論する。前章で述べたように、核融合炉開発は、中核装置を中心とした研究開発を段階的に進めることが必要である。 段階が進むにつれて要求される技術内容は徐々に高度化するが、核融合炉を構成する諸技術の内、炉心プラズマ技術、工学要素技術、安全技術、運転・保守技術は、ITERとそれを支援する研究開発によって、その主要部分がほぼ確立されることになる。
 さらに、実用化段階で問題となり得る「製造業から見た技術課題」や「市場競争力獲得の課題」を3.6節、3.7節で議論する。3.8節には、それらを踏まえた核融合エネルギーの技術的実現性に関する評価を述べる。

3.1 トカマク型炉心プラズマ技術の現状と今後の課題
3.1.1 トカマク方式による閉じ込め性能の向上
 トカマク方式による核融合研究開発は1960年代に旧ソ連で開始され、その優れた閉じ込め性能のために70年代からは世界中に広がった。我が国でも、1974年のJFT-2による実験開始とともにその本格的な研究開発が開始された。1970年代は米ソが、80年代は米欧が中・大型装置を数多く建設し、プラズマ性能のトップを競った。その後1990年代は、JET(欧州)、TFTR(米国)、JT-60(日本)が世界のトップデータを競った。この間のプラズマ閉じ込め性能の進展は、図3.1.1-1のローソン図(プラズマ中心温度を横軸、プラズマ中心密度と閉じ込め時間の積を縦軸とした図)に示す通りである。

図3.1.1-1ローソン図(プラズマ中心温度を横軸、プラズマ中心密度と閉じ込め時間の積を縦軸とした図)に示すトカマク型装置のプラズマ閉じ込め性能の進展。右図に三大トカマク装置(JT-60、JET、TFTR)による性能の進展と国際熱核融合実験炉ITERの目標領域、原型炉/実用炉の目標領域を示す。

図3.1.1-2  核融合積(プラズマ中心密度・プラズマ閉じ込め時間・プラズマ中心温度の積)の年代変化と集積回路(DRAM)容量の進歩の比較

 1960年代から1990年代までのプラズマ閉じ込め性能の進展を、“核融合積”(密度・閉じ込め時間・温度の積)の年代変化として図示したのが、図3.1.1-2である。核融合積は、5年で1桁のペースで上昇し、核融合炉で必要となる値まであと一歩というところまで来ている。この進歩の速度は、戦後社会の技術革新の代表ともいうべき集積回路の容量の増加速度とほぼ一致している。
 また、三大トカマクの中では、TFTRとJETが実際にDT核燃焼を実証しており、DT核融合出力として、共に10MWを上回る核融合エネルギーの生成に成功している[3.1.1-1, 3.1.1-2]。またDTプラズマで生成するアルファ粒子を用いて様々な研究を行った。図3.1.1-3にJET及びTFTRにおけるDT核融合燃焼出力波形を示す。
 このようにプラズマ性能向上と初期的DT核燃焼実験は順調に進展しており、次世代の装置(実験炉)によって核融合炉に必要なプラズマ閉じ込め性能を狙える段階に来ていると言える。

図3.1.1-3 JET及びTFTRにおけるDT核融合燃焼出力波形

参考文献

[3.1.1-1] K.M., McGuire et al., Fusion Energy 1996 (Proc. 16th Int. Conf. Montreal, 1996), Vol.1, IAEA, Vienna (1997) 19.
[3.1.1-2] The JET Team, Nuclear Fusion vol.39(1999)1227.

  

3.1.2 JT-60による研究の進展
 臨界プラズマ試験装置JT-60 (JAERI Tokamak 60) 計画は、昭和50年7月31日、原子力委員会が国のプロジェクトに指定して推進することを決めた計画である。JT-60の建設は昭和53年(1978年)から始まり、昭和61年の加熱装置の据え付け完了をもって完成した。
 JT-60を用いた核融合研究開発は昭和60年4月のファーストプラズマ以来14年以上にわたり、臨界プラズマ条件の達成と炉心プラズマ性能の向上をめざした研究開発を行ってきた。この間、図 3.1.2-1に示すように、臨界プラズマ条件の目標領域の達成(昭和62年度)、自発電流率世界最高値80%の達成(平成元年度)、世界最高イオン温度の達成(平成4年度、平成8年度)、世界最高核融合積の達成(平成5年度、平成8年度)、世界最大360万アンペアの非誘導電流駆動の実現(平成5年度)、世界初の負イオンNBI入射(平成7年度)、負磁気シアプラズマで臨界プラズマ条件を達成(世界で2番目、平成8年度)、負磁気シアプラズマで世界最高エネルギー増倍率(Q)=1.25を実現(平成10年度)、負磁気シアプラズマ方式での連続運転法の実証(平成11年度)などの世界的研究成果を上げてきた。JT-60の最大のミッションである臨界プラズマ条件(等価)の達成に至る道は、当初の予測に比べて長くなった。JT-60は、他の大型装置(JET、TFTR)にない特徴(ダイバータ、金属第一壁など)を持ちながら初期実験結果はあまり芳しくなかった。そこで、補完装置としてのダブレットIII(日米協力)/JFT-2Mや諸外国の成果を積極的に取り入れた装置の改造(大電流化改造)を行うとともに多くの研究者が知恵を絞ってプラズマ生成法の最適化を行い、世界のトップに立ったものである。未知の科学技術を開発する上では、その成功に影響しうる様々な課題の現出に対して2重、3重に対応できるようなロバストで弾力的な構造を計画にもたせる必要がある。JT-60の場合、幸いなことにトロイダル磁場コイルを大きく作っていたことが、非円形断面プラズマの実現のための改造を可能とし、プラズマ性能の飛躍的な進歩につながった。改造にあたっては、ダブレットIII/JFT-2Mを含め、世界には10を超える中型装置が存在し、それらの成果を取り入れることが可能であった。

図3.1.2-1 ファーストプラズマから現在にいたるJT-60の研究成果の概要

3.1.3今後の炉心プラズマパラメータの進展と開発課題[3.1.3-1]
 実験炉以降の各段階の中核装置の設計を例に取り、図3.1.3-1に主要パラメータの進展と開発課題を定量的に概観し、今後の開発課題の概要を述べる。現世代装置としては、三大トカマク(JT-60、JET、TFTR)及び中型装置の代表としてDIII-Dの値を用いる。実験炉については、低コストITERの中間アスペクト比オプション、原型炉についてはSSTRとCRESTを、実証炉についてはA-SSTRとCRESTの概念検討を例として用いる。

1) 核融合出力:現在の三大トカマクでは、核融合反応出力として最大16MW(JET;欧州)を取り出しているが、今後、実験炉で~0.5GWの熱の取り出しを実現したあと、原型炉以降で3GWレベルに増やす必要がある。
2) エネルギー増倍率:現在、JT-60で1.25、JETで1.14を達成しているが、実験炉では誘導運転で20以上、定常運転で5以上を達成する。さらに、原型炉以降では定常運転で30程度以上を実現する必要がある。このためには、Lモードと呼ばれる閉じ込め状態では不十分で、Lモードに比べて2-3倍以上の閉じ込め改善が必要となる。その代表的な閉じ込め改善として1980年代にASDEX装置で実験的に発見されたHモードが挙げられる。Hモードに移行するためには、ある加熱入力(L-H遷移パワー)を超える必要がある(3.1-4節)。また、Hモード閉じ込め時間の比例則(3.1.4節)によって実験炉以降の装置の主要パラメータが決まる。また、装置のコンパクト化や定常運転の実現のためには、Hモードを上回る改善閉じ込め(3.1.4節)が望まれる。
3) パルス時間:現在の常伝導コイルを用いた大型トカマクにおいては10秒程度のパルス運転を行っている。実験炉ではそれを1000秒程度に伸ばし、原型炉では1日~数カ月の運転を実現する必要がある。また、実証炉では定期点検以外の期間が連続運転可能となるような高い信頼性が実現される必要がある。このためには、電流拡散時間を越える長時間プラズマ制御を行い、電流分布制御(3.1.5節)等によってプラズマの電磁流体的安定性を最適化しベータ限界を高め、運転ベータに対する裕度を高める(3.1.4節)とともに、ディスラプションを回避する技術の確立と、万一、発生した場合のディスラプション緩和技術を確立すること(3.1.5節)が重要である。

図3.1.3-1 各段階での主要パラメータの進展

4) 中性子壁負荷:実験炉では0.5MW/㎡程度であるが、原型炉以降では実用炉での経済性実証を考慮して3~5MW/㎡という高い中性子壁負荷を実現する高出力密度を実現する必要がある。プラズマの観点からは、このような高中性子負荷を得るためにはベータ限界を高めて(3.1.4節)高いプラズマ圧力を実現する必要がある。
5) トロイダル磁場強度:JT-60のトロイダル磁場は約4T、実験炉ITERでは約5.5Tである。原型炉では、CRESTで仮定しているような高いベータ(β)値が得られる場合には、トロイダル磁場は変える必要はないが、これまでの実験からは、規格化ベータ(βN)~5.5という高い値は得られておらず、原型炉で高い核融合出力密度を得るためには、トロイダル磁場を高くする必要がある(SSTRで9T、最大磁場16T)。磁場強度によって、L-H遷移パワーやρi/Lの低下による閉じ込め特性の変化が予想される(3.1.4節)。
6) プラズマ電流:核融合炉で自発電流割合を高めた高効率の定常運転を行うためには、プラズマ電流は低めの値(例:10-14MA程度)である必要がある。一方、閉じ込め時間はプラズマ電流に比例する(3.1.4節)ことから、高Qプラズマを得るためにはできるだけ高プラズマ電流が望まれる。
7) 規格化ベータ値:JT-60において準定常に保持できる規格化ベータ値は、2.5程度である。この値は、実験炉の誘導運転を実現するためには十分な値であるが、原型炉以降では、それを上回る値を実現する必要がある。壁安定化が期待できない場合は、規格化ベータ値は3程度で制限され、壁安定化が期待できる場合でも、トロイダルモード数n=1の抵抗性壁モードの安定化のみが可能な場合には、規格化ベータ値は3.5-4程度にとどまる。全てのトロイダルモード数の抵抗性壁モードが安定化できる場合には、原理的には理想安定性限界まで達することが可能となる。但し、電流分布、圧力分布の最適化制御や、新古典テアリング不安定性などの安定化が必要である(3.1.4節)。
8) 運転密度:現状のトカマク実験では高閉じ込めが得られる密度には上限があり、Greenwaldが提案したGreenwald密度の8割位までが高閉じ込めが得られる限界である(JT-60では6割程度)。中型装置による研究によると、アイスペレット入射によってGreenwald密度を上回る高密度運転が実現されているが、大型トカマクでの実証はこれからの課題である(3.1.4節)。実験炉ITERでは、Greenwald密度以下で設計されているが、原型炉以降は、出力密度向上のためGreenwald密度程度以上の密度領域での運転が望ましい。
9) 除熱量と放射冷却:三大トカマクにおけるプラズマ加熱入力はJT-60の40MWが最大である。実験炉ITERではプラズマの全加熱量は200MWレベル(アルファ加熱100MW、外部加熱数10MW)に増大し、その熱を300-500秒間連続して除熱する必要がある。その全熱量がダイバータ板に向かった場合には高い熱流束になり得ることから、低温高密度ダイバータプラズマで熱放射を起こし、入熱を大幅に削減する必要がある(80%程度の熱放射)。また、原型炉以降では、600~800MWの除熱に増やす必要があり、低温高密度ダイバータプラズマに対する要求性能も高くなる(3.1.5節)。
10) ヘリウム排気量:DT核融合反応によって生成されるアルファ粒子(3.5MeVのヘリウム)は、熱化したのち燃焼灰として炉心プラズマから排出する必要がある。JT-60では、ITERで発生するヘリウム量程度(1.5x1020個/秒)のヘリウムを定常的に排気することに成功している。ITERではほぼ同程度のヘリウム排気を長時間実証する必要がある。一方、原型炉以降は、ITERの6-7倍程度の高いヘリウム排気率を実現する必要がある(3.1.5節)。
11) 自己加熱割合と加熱制御:現状から実験炉へのステップでは、DT燃焼による自己加熱という、現状装置では実現不可能な質的な跳躍がある。実験炉から原型炉へのステップでは、核融合出力とエネルギー増倍率の大きな上昇があり、それに応じた熱負荷低減化技術と少ない外部加熱入力でも適切なプラズマ制御が行える技術の開発が鍵となる(3.1.4節)。
12) 電流駆動効率:定常トカマク核融合炉においては、高い自発電流割合を実現し、残りのプラズマ電流は、非誘導電流駆動法によって駆動する。この際、高い電流駆動効率を実現することが、核融合発電所内循環電力を下げるために必要である(3.1.5節)。SSTRでは、2MeVのビームにより0.5x1020A/㎡Wという高い駆動効率を実現することを予想しており、米国のARIESでは、高周波電流駆動により0.35x1020A/㎡Wという比較的低めの効率を期待している。
13) 同時達成:これらの炉心プラズマ技術課題はすべて同時に達成されなければならない。炉心プラズマ開発の要諦は、要求される性能全てを同時に満たす総合性能の実現にある。即ち、高い閉じ込め性能で、所要の出力を発揮し、ダイバータ板への熱流を許容限度内に保ちつつ、高い出力密度と小さな循環電力で経済性を向上すると同時に、完全非誘導電流駆動によって、十分に長い間プラズマを維持する。さらに、このような状態で燃焼度や安定性等を小さな外部加熱・電流駆動パワーで制御する。これら全てを同時に満足したとき定常核融合炉の炉心プラズマが実現される。図3.1.3-2に、日本原子力研究所で検討された定常核融合炉SSTRをベースとした、各段階での総合性能の達成度の変化を示す。

図3.1.3-2 定常核融合炉SSTRをベースとした、プラズマ性能の段階的進展例

参考文献

[3.1.3-1] 鎌田裕、菊池満、二宮博正、「核融合炉の実用化にいたる炉心プラズマ研究課題について」、本分科会 資料第5-4号

3.1.4 閉じ込め性能に関する課題と見通し
(1) 閉じ込め比例則
 ITER や核融合炉の閉じ込め性能が図3.1.1-1のローソン図の核融合炉の条件(自己点火領域、Q>10-20)に達するためには、炉心プラズマに蓄積された熱エネルギーの閉じ込め時間τEとして数秒以上が必要となる。この閉じ込め時間の予測には、世界のトカマク装置で得られた実験データに基づいた経験的な閉じ込め比例則を用いている。エネルギー閉じ込め時間の比例則とは、閉じ込め時間 (≡プラズマ閉じ込めエネルギー/加熱パワー) をプラズマ密度を含む工学的パラメータで記述するものである。 プラズマ閉じ込め状態としては、閉じ込め性能が良好でないLモード(Low confinement mode)やLモードの2倍程度の閉じ込め時間が得られるHモード(High confinement mode) [3.1.4-1] 等がある(図3.1.4-1参照)。

図3.1.4-1 トカマクにおける2種類の閉じ込め状態(LモードとHモード)の模式図。プラズマ加熱入力がある値(Hモード遷移パワー閾値)を超えるとプラズマの周辺部に輸送障壁が現れ、閉じ込めの良い状態(Hモード)になる。それぞれに対して閉じ込め時間の比例則が作られている。

Lモードに対する閉じ込め時間の比例則:
 Lモードの閉じ込め時間τE を表す比例則 ITER89-P 則は、ITER CDA(概念設計活動) において集積されていた閉じ込めのデータベースを活用して確立された [3.1.4-2]。

ここで、τE は (s)、 M はイオン質量数、 Ip はプラズマ電流 (MA)、 Bt はプラズマ中心のトロイダル磁場 (T)、 R は主半径 (m)、 a は副半径 (m)、 κ は楕円度、 n は線平均電子密度 ( n19:1019 m-3, n20:1020 m-3 )、 P は加熱パワー (MW) を示す。加熱パワーに対する τE の劣化が P-0.5 の依存性で示されている。
 エネルギー閉じ込め時間は、プラズマ内部の熱輸送を表す一つの指標であり、熱拡散係数 χ とほぼ χ~a2E の関係にある。熱拡散係数を χ = χBohm ρ*μ F(β, ν*) の形式で表す時、ρ* の冪乗μ が 0 の場合をボーム型輸送、μ が 1 の場合をジャイロ・ボーム型輸送と呼ぶ ( T:プラズマ温度、e:素電荷、χBohm∞ T/eBt:ボーム拡散係数、ρ* ∞ T0.5/BtR:規格化ラーマ半径、β ∞ nT/Bt2:ベータ値、ν* ∞ nR/T2:衝突度、F:無次元関数 ) 。Lモードでは、(1-1)式の ITER89-P則に相当する熱拡散係数はほぼボーム型となっている。
 エネルギー閉じ込め則として、(1-1)式の ITER89-P 則を選び核融合パワー増倍率 Q の燃焼プラズマ中のパワーバランスの式と組み合わせると、必要な閉じ込め性能の条件が得られる [3.1.4-3]。

ここで H ≡ τEEITER89P は閉じ込め改善度であり、A = R/a はアスペクト比、 Cf= 2nD,T/neは燃料希釈率、Ceff=P/ (Pα (1 + 5/Q))は実効加熱率(P:放射損失を引いた全実効加熱パワー、Pα:アルファ加熱パワー)。核融合炉において、プラズマ電流とアスペクト比の積をあまり大きくすることなく Q 値を大きくするためには、閉じ込め時間の改善 ( H > 1 ) を図るだけでなく、燃料の希釈が少なく ( Cf≒1 )、放射損失も小さい ( Ceff≒1 ) ようなプラズマを定常的に維持する必要がある。この観点から、プラズマ境界に局在し短周期 ( τperiod << τE )で間欠的に発生する不安定性;ELM ( Edge Localized Mode ) を伴った ELMy Hモードを ITER の標準運転に採用している。ITERのQ = 10 の運転で、He 濃度を 5% 程度、他の不純物濃度も低く押さえて、Cf= 0.8、Ceff= 0.8 が実現できるならば、(1-2)式は H Ip A ≧ 90 MA となり、A = 3.23、Ip = 14.5 MAとするとH ≧ 1.9という閉じ込め改善度でQ = 10 の運転が可能となる。このような閉じ込め改善度は、多くのトカマク装置のELMy Hモードで得られており、ITERにおいてQ≧ 10-20を達成することは十分可能と考えられる。このため、ELMy HモードはITERの標準運転モードに採用されている。

ELMy Hモード比例則:
 上記のように、ITER においては改善度 ( Hファクタ ≡ τEEITER89P ) が2程度以上の ELMy Hモードが要求されているが、直接 ELMy Hモードの閉じ込め時間の比例則を求める試みもなされた。 1995 年以降、多くの装置 ( Alcator C-Mod, ASDEX, ASDEX Upgrade, COMPASS-D, DIII-D, JET, JFT-2M, JT-60U, PBX-M, PDX, TCV ) からELMy Hモードデータを積極的に集積し、次のような ELMy Hモードの τE,th 比例則が構築された [3.1.4-4]。

この比例則と実験データとの比較を図3.1.4-2 に示す。

図3.1.4-2 ELMy Hモード閉じ込め比例則と実験データ(ITERは所要値と予測精度)との比較

 (1-3) 式は次元拘束条件を満たし矛盾無く時間の次元を持っており、これまでのHモード比例則や無次元輸送実験結果とほぼ同様なジャイロ・ボーム型輸送になっている;χ/χBohm∞ρ*0.70β*0.90ν*0.01 。比例則が示唆する通りELMy Hモード閉じ込めがジャイロ・ボーム型であるならば、ρ* の値が小さい ITER におけるHファクタは現トカマクに比べ大きくなることが期待できる。この比例則によりITER ( R = 6.2 m, a = 2.0 m, κa = 1.75, Ip = 15 MA, Bt = 5.3 T, n19 = 10 x 1019 m-3, P = 90 MW ) の閉じ込め時間を予測すると、 τE,th = 3.6 s となる。統計解析的考察を踏まえた予測の不確定性は、2.9 s < τE,th < 4.3 s である。このような閉じ込め時間の不確定性も考慮しつつ、ITER の設計は行われている。

 閉じ込め比例則研究の今後の課題としては、Hモード閉じ込め比例則の外挿性(精度)を向上することが上げられる。Hモードではプラズマ周辺部の輸送障壁により圧力のペデスタル分布が形成されることに注目すると、プラズマエネルギーをペデスタル部で支えられる(オフセット)成分と、ペデスタルからの積み上げ分である中心成分に分けて考え(オフセット型比例則)、ペデスタル成分と中心成分それぞれのパラメータ依存性を見いだすだけでなく、両者の独立性と相互関連性等を明確にすることによって、より精度の高い比例則の確立が可能となると考えられる。ペデスタルの特性は MHD 安定性に支配されているので、その安定性に大きな影響を及ぼすプラズマ断面の形状を変化させることにより、閉じ込めエネルギーのペデスタル成分を増大させることができる。実験的研究や理論的数値的研究の結果、プラズマ断面の尖り度及び三角度が特に安定化に有効であることが分かってきた[3.1-4.5]。この相互関連性があることも踏まえれば、ELMy Hモードの閉じ込め改善にプラズマ断面形状の最適化が非常に重要であることが理解できる。ITERの設計においてはプラズマ断面形状の最適化が可能となるような柔軟なポロイダルコイル系が考慮されており、現在の予想値を上回る閉じ込め性能が得られる可能性もある。

実験炉の閉じ込め実証の原型炉以降に対する外挿性:

 図3.1.4-3に既存装置の ρ* と実験炉 ITER 及び原型炉構想であるSSTR の ρ* を装置サイズ ( L ≡ V1/3 ) と磁場の積の関数として示す。ここで、それぞれの装置において、ベータ値はほぼ同じになるようにプラズマパラメータを設定している。この図からわかるように、既存の装置から実験炉への外挿に比べて、実験炉から原型炉へのステップが非常に小さいことが分かる。もし実験炉の閉じ込めデータが得られれば、それを現在のデータベースと組み合わせることにより、原型炉の閉じ込め性能を非常に精度良く予測することができる。つまり、LモードやHモードなどのプラズマ閉じ込め性能の観点から見る限り、実験炉による閉じ込め実証によって核融合炉の閉じ込め性能がほぼ外挿できると言える。代表的な原型炉の設計例であるSSTRでは、ITER-89P Lモード比例則に対する閉じ込め改善度H~2を仮定しており、ITERによるプラズマ閉じ込めの実証が進めば、原型炉の閉じ込め性能実証の展望も開ける。

その他の改善閉じ込めモードの閉じ込め比例則:
 核融合炉プラズマの運転モードとして、通常の ELMy Hモードだけではなく、高ポロイダルベータ ELMy Hモード、負磁気シアモード、RIモード等の改善閉じ込めモードがある。これらのモードはELMy Hモード以上のプラズマ性能が得られる可能性を持ち、核融合炉のコンパクト化への寄与が期待できる。しかし、それらの改善閉じ込めモードの閉じ込め比例則は未だ確立されておらず今後の研究課題である。

(2) L-H遷移加熱閾値
 図 3.1.4-1 に示したように、ITERでの標準運転モードに採用されている ELMy Hモードを達成するためには、加熱入力に閾値 (L-H 遷移加熱閾値) が存在する。その閾値が磁場強度や密度プラズマのサイズ、形状等にどのように依存するかは、下図中に示す 10 台のトカマク装置で得られた実験データベースの解析から、L-H 遷移加熱閾値比例則として求められる。1999 年の最新データベースに基づいた比例則は以下のように与えられる [3.1.4-6.1]。

ここで、Pth は L-H 遷移加熱閾値 (MW)、Bt はトロイダル磁場遷移 (T)、n20 はプラズマ密度 (1020m-3)、R は主半径 (m)、a は副半径 (m)、M は燃料の平均質量数 (DT で 2.5) である。質量の反比例依存性は、JET におけるH, D, T 及びそれらの混合プラズマの実験データから決定された [3.1.4-6]。

この比例則に基づく、ITER ( R = 6.2 m, a = 2.0 m, Bt = 5.3 T, n20 = 0.5 x 1020 m-3 ) の L-H 遷移加熱閾値はほぼ 30 MW と予測される。不確定性は、20 MW < Pth < 50 MW 程度と見積もられるので、50 MW 以上の加熱入力を用意する ITER では、Hモードへの移行が可能と考えられる。また、原型炉構想である SSTR ( R = 7 m, a = 1.8 m, Bt = 9 T, n20 = 0.5 x 1020 m-3 ) の場合には、Pth = 50 MWと予測される。電流駆動のための入力設備容量 80 MW と、更にLモード時のアルファ加熱があるので、Hモードへの移行は十分に可能であると予想できる。ITER においてHモード運転が実証され、Pth が決められたときは、核融合発電を目指す原型炉への外挿性は非常に確度の高いものとなる。

図3.1.4-4 L-H 遷移加熱閾値の比例則と実測値(ITERは予測値)の比較

 L-H遷移加熱閾値研究の今後の課題としては、まず、図3.1.4-4からわかるように、閉じ込め時間に関するデータベースに比べてデータのばらつきが大きいことである。
 遷移現象に関しては、ASDEXにおけるHモードの発見後、これまで多くの理論的[3.1.4-7][3.1.4-8]・実験的研究が行われ(例えば、JFT-2Mにおける電場形成実験[3.1.4-9]や高速電位分布計測[3.1.4-10]等)、プラズマ半径方向の電場分布の構造が輸送の分岐(遷移)発生に本質的な役割を果たすことが明らかになっており、プラズマ境界という特異面の近傍において、中性粒子の侵入、不純物の侵入、及び磁気シア等が、電場構造の形成に影響し、それを通じてデータのばらつきを起こしていると予想される。JT-60では、中性粒子の影響を考慮したデータベースの選別により、ばらつきの少ないデータベースの形成が可能であることを示した[3.1.4-11]。他の課題としては、ITERの定常先進運転フェーズを考慮すると、内部輸送障壁と周辺Hモードの両立性がある。内部輸送障壁の生成に関しても加熱入力に閾値が存在する事が最近の実験で明らかになっており、ITERで高い閉じ込め裕度を確保するためには、Hモードと内部輸送障壁の同時生成条件を定量的に評価しておく必要がある。

(3) 定常運転に適した改善閉じ込め方式
  (1)、 (2)においては、核融合実験炉(ITER)の標準運転モードであるELMy Hモードについて記述したが、改善閉じ込めとしては、プラズマの周辺部での輸送を低減するHモード以外に、中心部での輸送を低減する方式(中心閉じ込め改善モード)さらには両者を重畳した方式がある(図3.1.4-5)。

図3.1.4-5 閉じ込め改善モードの分類

 中心閉じ込め改善モードにおいては、プラズマ内部での輸送の低減により内部に温度・密度の急勾配が形成され、それを内部輸送障壁と呼ぶ。一方、中心閉じ込め改善モードをHモードと重畳することにより、Hモード以上の閉じ込め改善(Lモードの3~4倍)、およびベータ値の向上が得られ、高い自発電流率を必要とする定常炉での有力な運転モードと想定されている。

 中心閉じ込め改善モードには、大きく分けて電流分布が凸状のものと凹状のものの2つがある。前者(弱磁気シア方式と呼ぶ)としてはJT-60の高ポロイダルベータ(βp)モード[3.1.4-12]やTFTRのスーパーショット[3.1.1-1]が代表的なものであり、プラズマ中心部への強力な加熱・粒子補給によりピークした温度・密度分布を形成する。JETの最適シア配位[3.1.4-13]も、これに属すると考えられる。後者は負磁気シア方式と呼ばれ、TFTR [3.1.4-14]、DIII-D [3.1.4-15]、 JT-60 [3.1.4-16]、Tore-supra [3.1.4-17]等で得られている。JT-60の高βpモード(弱磁気シア方式)と負磁気シアモード(負磁気シア方式)の温度、電流、qの分布の例を図3.1.4-6に示す。高βpモードでは安全係数qは半径の単調増加関数であるのに対して、負磁気シアモードではqに極小値(qmin)が存在し、その内側でqが半径の減少関数(磁気シアが負)となっている。温度、密度分布としては、高βpモードでは中心に向かってピークした分布となることが多く、負磁気シアモードでは、勾配が急な領域がプラズマ小半径の1/2程度の場所に局在化し、その内側で平坦な分布となることが多い。輸送の低減度としては、負磁気シアモードでは新古典理論による値まで低減することがあるのに対し、高βpモードではそこまでは低減せず、閉じ込め改善度としても、負磁気シアモードの方が高い値が得られている。また、負磁気シアモードの場合、通常イオンと電子双方の熱輸送が低減するのに対して、高βpモードの場合は、電子の熱輸送の低減が見られないこともある。一方、プラズマの安定性(ベータ限界)においては、高βpモードの方が優れている(3.1.4節(4)ベータ限界参照)。

図3.1.4-6 高ボロイダルベータモード(弱磁気シア)と負磁気シアモード

 JT-60では高βpHモードにより世界最高のイオン温度(45keV)や世界最高の核融合積(1.5x1021m-3keVs)を得ている[3.1.4-18]。また、負磁気シアモードでは、高い閉じ込め性能を得て臨界プラズマ条件[3.1.4-18]や世界最高エネルギー増倍率(QDTeq=1.25)さらにはHモードの2倍の閉じ込め時間を達成している。これらの成果に代表されるように、中心閉じ込め改善モードは、プラズマの高性能化にとって本質的である。

 高自発電流率の運転を想定した場合にはq(0)>1の電流分布は定常的に維持できるので、中心閉じ込め改善も得やすい。逆に、中心部閉じ込め改善により得られる高い圧力勾配は自発電流を高めるのに有効である。よって、中心閉じ込め改善モードは定常トカマク炉で必要とされる高自発電流率運転に適合するものと考えられる。負磁気シアモードによる定常炉の概念を図3.1.4-7に示す。凹状の電流分布により内部輸送障壁が形成され、その高い圧力勾配の領域に大きな自発電流が流れる。定常炉においては、プラズマのベータ値を高め、自発電流割合を大きく(70%以上)し、残りの電流を外部から駆動することになる。すると、全プラズマ電流も自然と凹状となり、凹状の電流分布および内部輸送障壁を有する圧力分布が定常的に維持されることになる。実際、JT-60では、そのような状態を3秒間程度維持することに成功している。
実験炉において中心閉じ込め改善モードを実現すれば、Hモードのみの場合よりも閉じ込め性能を向上し、より高いQ値(~自己点火)も可能となると期待される。ただし、中心閉じ込め改善モードを得るための条件(加熱閾値のスケーリング則)は確立されておらず、現時点でのITERの設計で中心閉じ込め改善モードの実現には不確定性が残る。
 実験炉の定常運転シナリオあるいは原型炉以降におけるさらに高いQ値(高自発電流割合)での定常運転へ中心閉じ込め改善モードを適用するための研究課題としては、内部輸送障壁の制御、電子加熱、低粒子補給での閉じ込め特性の評価、等が挙げられる。その他、不純物の蓄積・排気(後述)も重要な課題である。

(4) ベータ限界とMHD安定性の最適化
 磁場閉じ込め方式においては、プラズマ圧力Pと磁場の圧力B2/2μ0の比がある値(典型的には数%程度)以上になるとプラズマが不安定になり、閉じ込め性能が失われる。この限界値をベータ限界と呼んでおり、核融合実験炉ITERや将来の核融合炉においては、ベータ限界以下で運転するように設計される。しかしながら、コンパクトで経済的な核融合炉を実現するために必要な高いプラズマ圧力を実現するためには、磁場の圧力を高める方法にも限度があるので、ベータ限界のパラメータ依存性を理解し、安定に保持できる範囲でできるだけベータ値を高めることが必要となる。
 トカマクプラズマにおいて到達可能なベータ値(β =<P>/Bt2/2μ0)は、1980年代の研究により理論的にも実験上も以下のような比例則に従うことが分かっている(図3.1.4-8参照)。

<β>(% ) = βN Ip(MA )/a(m)Bt (T)        (3-1)

ここで、係数 βNは規格化ベータ値と呼ばれる重要な安定性の指標である。
 安定に保持できる規格化ベータ値は、3.5程度以下であるが、図3.1.4-8に示すように、3.5を上回る値も得られている。
 規格化ベータ値限界に影響する要素としては、1)電流分布、2)圧力分布、3)プラズマ断面形状、4)安定化導体壁、5)抵抗性不安定性がある。

1) 電流分布
 MHD安定性がプラズマ電流の空間分布に大きく影響されることは、理論・実験的に調べられてきた(例えば、JIPP-T-II[3.1.4-19])。
 規格化ベータ値の上限が、プラズマ電流の中心尖頭度の指標である内部インダクタンスliにほぼ比例して上昇することが、DIII-D、JT-60、TFTR等で実証され、li ~2においてβN=6が得られた(DIII-D)[3.1.4-20]。これらは、電流分布制御によって高い規格化ベータ値が得られることを示した最初の重要な研究であった。
 ITERや原型炉の定常運転においては、電流分布は外部駆動電流と自発電流(中空電流分布)を組み合わせるため、電流分布の自由度は高い。SSTRでは、ビームによる中心電流駆動で中空電流分布を避ける弱磁気シア方式[3.1.4-21]と、中空電流分布をもつ負磁気シア方式[3.1.4-22]が相次いで考案された。特に、負磁気シア方式においては従来不安定と考えられていたが安定解が存在することが理論的に示され、その後、負磁気シアを用いた核融合炉設計(米国のARIES-RSや日本のCREST)が行われた。この負磁気シアプラズマにおいて高い規格化ベータ値を得るためには導体安定化効果が重要な役割を果たす。

2) 圧力分布
 ベータ限界のプラズマ圧力分布依存性は、JT-60において実験的に明らかにされた。図3.1.4-9に示すように、プラズマ圧力分布がブロードな場合にはプラズマ周辺部でELM(Edge Localized Mode)の不安定化によって規格化ベータ値が制限され、逆に、プラズマ圧力分布が中心ピーク分布の場合、中心部でキンクバルーニングモードが不安定化し、規格化ベータ値が制限される。このため、規格化ベータ値が最大となる圧力分布の中心尖頭度に最適値がある[3.1.4-23]。
 ITERや原型炉では、圧力分布がアルファ加熱により決まるので、圧力分布の尖頭度は高めになることも予想されるが、ITERによる研究によって最適値との関係は明らかになる。

3) プラズマ断面形状
 プラズマ断面形状、特に三角度の増加は周辺部圧力限界を上昇させ、ベータ限界を改善することが、JT-60やDIII-Dの実験から明らかになっており(図3.1.4-10)、ITERの設計では 、三角度0.35-0.4程度を確保できるように設計がなされている。これに加えて、最近、プラズマ断面の尖り度も周辺ベータ限界の改善に有効であることが理論的に指摘されており、プラズマ断面形状の最適化によって、安定に保持できる規格化ベータ値が向上する可能性がある。

4) 安定化導体壁
 ITERや原型炉の高効率定常運転では、高い規格化ベータ値βN~3.5 - 4の定常維持が必要である。その実現には、安定化導体壁による安定性向上が必要である。理想MHDのベータ限界は、プラズマに近接した電気伝導性壁によって改善され得る。この安定化効果は、プラズマ電流・圧力分布に強く依存し、不安定性がプラズマ表面にまで広がるモードに対して顕著になる。特に、負磁気シアモードのベータ限界向上には、導体壁の安定化が有効であることが理論的に示されている(図3.1.4-11)[3.1.4-24]。

図3.1.4-11 導体壁効果で大きく上昇するベータ限界(左:正磁気シア配置、右:負磁気シア配置)横軸は、不安定揺動の固有関数が持つトロイダル方向の波数。

一方、導体壁無しでのベータ限界を越えた場合、導体壁への磁場透過時間で成長する不安定性の発生が理論的に予測されている。実験的にも、本モードと思われる不安定性の出現により、ベータ値が導体壁による安定化効果で期待される限界を下回ることが分かってきた(DIII-D[3.1.4-25])。この抵抗性壁モードは、プラズマ回転を数十kHz~数kHzで保持することや導体壁への磁場の摂動磁場の染み込みを抑制する磁場を印加することによって安定化されることが理論的に予想されており、抵抗性壁モードとその安定化手法の開発が進められている。
図3.1.4-12にはS.JardinによってまとめられたITERや核融合炉設計例(ARIES-I, SSTR, ARIES-RS)のMHD運転領域区分である(CRESTを追記)[3.1.4-26]。ITERの誘導運転やARIES-Iは、壁安定化を期待しない設計であるが、SSTRではn=1抵抗性壁モードの安定化が、ARIES-RSやCRESTではn≧1の抵抗性壁モードの安定化が必要な領域にある。

 図3.1.4-13に、DIII-Dにおける弱磁気シア方式の実験結果を示す。本実験では、核融合原型炉構想であるSSTRの規格化ベータ値3.5を上回るプラズマ性能を2秒間にわたって維持している[3.1.4-27]。

5) 抵抗性不安定性
 1)~4)までは理想MHD不安定性(成長率の高い不安定性として観測される)に関する議論であるが、各国のデータから、準定常プラズマで抵抗性MHD不安定性(プラズマの電気抵抗が有限であるために生じる不安定性で、成長率は小さい)が発生する規格化ベータ値は、理想MHD不安定性の限界値を下回ることが分かってきた。図3.1.4-14にJT-60の例を示す。そのベータ限界値は、新古典テアリング不安定性の理論が予測する衝突周波数依存性を持っていると言われている。現在、各国の装置で、電子サイクロトロン電流駆動による局所的な電流分布制御を用いた安定性向上が図られており、ASDEX-U装置でその効果が実証されている[3.1.4-28]。

図3.1.4-14 準定常プラズマでは抵抗性MHD不安定性の発生によって、理想MHD安定限界よりも規格化ベータ値が低下する(JT-60)

6) ELM(Edge Localized Mode) を利用した熱粒子制御
 ITERや原型炉では、閉じ込め性能を大きく損なうことなく、プラズマ中への過度の不純物の蓄積を回避するためにELMのあるHモード(ELMy Hモード)を想定している。ASDEXにおけるHモードの発見[3.1.4-1]後の各国トカマクによる長年の研究から、ELMは、プラズマ周辺部の圧力や電流の勾配が駆動する不安定性であるが、プラズマ全体の損失には至らず、プラズマから熱と粒子を排出するために積極的に利用することが可能である。ELMには、3種類(タイプI,II,III)あることがわかっている。通常、高閉じ込め状態で発生するELM(タイプI)は図3.1.4-15に示すように、大振幅低周波数であり、ELM毎に放出される瞬間的熱流束が大きく、ダイバータ板損耗が大きくなる。ITER程度であれば、タイプIでもその高熱流束に耐えることは可能であるが、長時間運転のためには小振幅で高周波数のELM(タイプII)の方が望ましい。このタイプII ELMの発生領域の同定が行われている。JT-60の場合、このようなELMは、高三角度で高安全係数の場合に発生し、また、高い閉じ込め性能で不純物の蓄積も小さいことが明らかになっている。このような運転領域(高安全係数で高三角度)は、定常運転を行う場合のITERや原型炉の運転領域であり、この観点からも開発戦略としてはより良い選択と言える。

図3.1.4-15 タイプI 、 II ELMとタイプII ELMの発生領域 (βp>1.5-1.6)

 以上、プラズマを安定に保持しうるベータ限界やELMについて主要な課題とその見通しについて記述してきたが、そのいずれに対しても適切な対応法が提案され、解決もしくは、解決に向けて研究が進展している。

(5) 高エネルギー粒子の閉じ込め
1) 高エネルギー粒子(アルファ粒子)による加熱・閉じ込め
 ITERや核融合原型炉の核燃焼プラズマでは、核融合反応生成物として発生するアルファ粒子を熱化するまでプラズマ中に閉じ込め、高効率なプラズマ加熱を実現する必要がある。図3.1.4-16に示すように、多くのトカマクで観測された高エネルギー粒子の減速は古典論に一致している[3.1.4-29]。バルクイオンが異常輸送を示すのと対照的に、高エネルギー粒子が新古典拡散に従う理由は、プラズマ乱流の特性長に比し高エネルギー粒子軌道が大きいため「軌道による平均化」が起こるためと考えられている。

 また、核P融合生成物を含めた高エネルギー粒子に対する拡散係数の実験値は、0.1-0.01 ㎡/sであり、新古典拡散程度の良好な閉じ込めを示す。ITERにおいてもアルファ粒子に対する新古典拡散係数は0.1-0.01 ㎡/sと予測されることから、以下に示すような磁場摂動による閉じ込め劣化に対処すれば、良好なアルファ粒子の閉じ込めが期待できる。

2) リップル損失
 トロイダル磁場の微小な非軸対称性(リップル)によって生ずる高エネルギー粒子のリップル損失は、核融合実験炉や原型炉ではアルファ粒子損失を招き、第一壁への定常的な熱負荷となる。このことから、リップル損失の定量的な把握が必要であるが、近年の大型トカマクにおける実験をとおして理解が十分進んでおり、実験炉及び原型炉におけるリップル損失の定量評価が可能である。負磁気シア運転ではリップル損失の増大が見込まれるが、フェライト鋼板の装着等によるリップル磁場の低減により、リップル損失を抑制できる[3.1.4-30]。

3) アルフヴェン固有モード(AEモード)
 高エネルギー粒子がねじれアルフヴェン波の位相速度程度になった時には、高エネルギー粒子とアルフヴェン波の共鳴的な相互作用によってAEモードが不安定化される可能性がある。AEモードは磁場揺動を引き起こし、揺動の大きさによっては高エネルギー粒子の輸送及び損失をもたらす。中・大型トカマクの実験により、AEモードの不安定化周波数、モードの空間構造、不安定化閾値(高速イオンベータ値)など線形理論で予測できる物理量の正当性は明らかになったが、AEモードの飽和レベル、モード間の相互作用、モードと粒子輸送の関わりなど非線形効果に関する理解は未だ初期段階にある。AEモードに関しては、モードの安定化機構、モードの空間構造などにおいて既存装置と実験炉には大きな隔たりがある。AEモード線形理論によると、実験炉コンパクトITERはAEモードの安定・不安定境界付近にあり、運転領域によっては低波長のAEモードが多数(数10以上)不安定化すると予測されている[3.1.4-31]。このような多数AEモードの不安定化は、アルファ粒子分布の平坦化と部分的損失を招くと考えられ、実験炉で調べる必要がある。

4) 実験炉から原型炉への外挿性
 実験炉と原型炉では、高エネルギー粒子の挙動を決める物理機構が基本的に同じなので、実験炉におけるAEモード、高エネルギー粒子による鋸歯状振動安定化等のデータの蓄積は、原型炉への外挿を可能にすると考えられる。原型炉では、アルファ粒子ベータ値が高くなるため、非線形性によってAEモードの性質が実験炉と異なる可能性もある。これに対しては、実験炉での観測に基づいた非線形モデルの構築により、信頼性のある予測が見込まれる。

(6) DT燃焼と燃焼制御
 3.1.1節に示したように米国のTFTRと欧州のJETにおいて10MWを上回るDT燃焼が実証されるとともにDT燃焼プラズマの特性研究が行われた。 (2)に示したように、JETにおいて、DTの混合比を変えてL-H遷移加熱閾値が調べられ、DTプラズマでは、L-H遷移加熱閾値が顕著に低下することが明らかになった。これらのデータから決定された燃料平均質量数に対する依存性(M-1)を加えて (2-1)式に示したL-H遷移加熱閾値の比例則が新たに得られた。また、DTプラズマにおいてもこれまでのELMy Hモード比例則が適用できることが示され、L-H遷移加熱閾値の比例則と併せて、ITERに対する予測精度が向上した[3.1.4-32]。
 JETのDT実験において、最大16.1MWの核融合出力が得られた。アルファ粒子の閉じ込め、減速(熱化)過程及びそれに伴うアルファ粒子加熱は古典的であることが実証された[3.1.4-29,3.1.4-33]。また、アルファ粒子加熱の効果を考慮すれば、コア部での電子の熱拡散係数は、DTプラズマとDDプラズマで同じである。核融合出力はDDプラズマからの予測とほぼ一致したことから、DT混合比を最適化できれば、これまで調べられてきたDDプラズマの特性から、DTプラズマの性能が予測可能であることが確認された[3.1.4-32]。
 ITERや将来の核融合炉において定常運転を実現する有力な運転モードと期待されている負磁気シアプラズマにおける輸送障壁の形成についても調べられた。DTプラズマにおいても輸送障壁が形成され、その結果大きな圧力勾配ができることが確認された[3.1.4-33]。
 前述したアルヴェン固有モードは、DT反応で発生するアルファ粒子により不安定化される危険性が指摘されたことから、実験及び理論の面から精力的に研究が進められてきた。TFTRのDT実験において、線形理論の予測どおりにトロイダルアルヴェン固有モード(TAEモード)が観測された。アルファ粒子のベータ値が低く、TAEモードの振幅が小さいため、アルファ粒子の異常輸送は観測されなかった[3.1.4-34]。しかし、ITERにおいては、アルファ粒子のベータ値はTFTRの場合に比べ約1桁大きく、また、前述されているように、既存の装置とはモードの空間構造が大きく異なることが予測されている。そのため、ITERにおいて、アルファ粒子とアルヴェン固有モードとの相互作用が高エネルギーアルファ粒子の輸送に及ぼす影響を詳細に調べる必要がある。
 燃焼制御は実験炉及び原型炉に求められる最も重要な課題の一つである。ITERや核融合原型炉においては、核燃焼プラズマの基本的加熱パワーは、3.5MeVのアルファ粒子加熱であり、アルファ粒子加熱が支配的な系での閉じ込め特性とアルファ粒子分布の特性把握が第一の課題である。第二は、そのような系での燃焼制御手法の確立である。燃焼制御のためには、重水素とトリチウムの注入量制御や外部加熱制御に加えて、エネルギー、燃料粒子及び不純物粒子(ヘリウム灰を含む)の閉じ込めを制御する必要がある。核燃焼プラズマにおける外部からのプラズマ制御の状況を図3.1.4-17に示す。

図3.1.4-17 核燃焼プラズマにおける外部からのプラズマ制御

ITERの高燃焼度運転や長時間燃焼では、外部加熱パワーが、全加熱パワーの1/3程度であり、このパワーと燃料注入量等のバランスで定常出力制御を行うことが想定される。一方、ITERの定常運転では、高いベータ値と高自発電流率完全非誘導電流駆動を維持しながらの燃焼制御法を確立する。さらに、原型炉ではその状態を外部加熱入力割合<10%で実証することが求められる。
 現在までの実験では、加熱パワーは、外部加熱パワーで決まり、それによって圧力分布を制御してきた。原型炉や実証炉では、DT燃焼による自己加熱パワーが90%以上を占めるため、加熱分布の大部分はプラズマが自ら決定する(自律的なプラズマ)。また、自発電流割合が70-80%を占めるため、残りの20-30%の外部駆動電流によって電流分布制御を行うことになる。
 則ち、このような自律系としての側面を強める核燃焼プラズマの制御は、ITERにおいて初めて行われるものであり、そこに、ITERの重要性がある。

参考文献

[3.1.4-1] F.Wagner et al., Phys. Rev. Lett 49 (1982) 1408
[3.1.4-2] P.N. Yushmanov, T. Takizuka, K.S. Riedel, et al., Nucl., Fusion 30 (1990) 1999.
[3.1.4-3] 滝塚知典 他, プラズマ・核融合学会誌 72 (1996) 498.
[3.1.4-4] ITER, "ITER Physics Basis", Nucl. Fusion 39 (1999).
[3.1.4-5] T.H. Osbone, et al., Controlled Fusion and Plasma Physics (Proc. 24th Eur. Conf. Berchtesgaden, 1997) Vol.21A, Part III (EPS, Geneva, 1997) 1101.
[3.1.4-6.1] J. Snipes, ITER H-mode Threshold Database Working Group, 7th H-mode Workshop, Oxford, 1999; to be published in Plasma Phys. Control. Fusion.
[3.1.4-6] The JET Team Nucl. Fusion 39 (1999) 1763
[3.1.4-7] S.I. Itoh, K. Itoh, Phys. Rev. Lett. 6081988)2276.; also K.I. Itoh, S.I. Itoh, Plasma Physics and Controlled Fusion 38(1996)1.
[3.1.4-8] K.C. Shaing,E.C. Crume, Jr., Phys. Rev. Lett. 63(1989)2369.
[3.1.4-9] K.Ida, S.Hidekuma, Y.Miura, et al., Phys. Rev. Lett. 65, 1364-1367 (1990).
[3.1.4-10] Y.Hamada, et al., 17th Fusion Energy Conference, IAEA-F1-CN-69/PD(1998).
[3.1.4-11] T. Fukuda, et al., Nucl. Fusion 37 (1997) 1199.
[3.1.4-12] Y. Koide et al, Phys. Rev. Lett. 72 (1994) 3662.
[3.1.4-13] F.X Soldner et al., Nucl. Fusion 39 (1999) 407.
[3.1.4-14] F.M.Levinton et al., Phys. Rev.Lett. 24 (1995) 4417
[3.1.4-15] E.J. Strait et al., Phys. Rev.Lett. 24 (1995) 4421.
[3.1.4-16] T. Fujita et al., Phys. Rev. Lett. 78 (1997) 2377.
[3.1.4-17] Equipe Tore Supra, Plasma Phys. Control. Fusion 38 No 12A (December 1996) A251-A268
[3.1.4-18] S. Ishida et al., 16th Fusion Energy Conf.1996, Vol. 1, IAEA, Vienna (1997) 315.
[3.1.4-19] K. Toi et al., Nucl. Fusion 19 (1979) 1643
[3.1.4-20] E.J.Strait , Phy. Plasmas 1 (1994) 1415
[3.1.4-21] M. Kikuchi, Nuclear Fusion 30 (1990) 265
[3.1.4-22] T. Ozeki et al. Plasma Phys. Control. Nucl. Fusion Res. (IAEA, Vienna,1993) vol.2 p 187
[3.1.4-23] Y. Kamada et al. Plasma Phys. Control. Nucl. Fusion Res. (IAEA, Vienna,1995) vol.1 p 247
[3.1.4-24] J. Manickam et al. Phys. Plasmas 1 (1994) 1601
[3.1.4-25] M. Garofalo et al., Phys. Rev. Lett 82 (1999) 3811
[3.1.4-26] S. Jardin, Snowmass Summer Study, 1999.
[3.1.4-27] C. M. Greenfield, et al., Invited paper, 1999, Plasma Physics Division, APS.
[3.1.4-28] H. Zohm et al., Proc. 26th EPS Conf. Contr. Fusion and Plasma Phys, Vol.23J (1999) 1373
[3.1.4-29] 飛田健次 他,プラズマ・核融合学会誌 75 (1999) 582.
[3.1.4-30] S. Zweben et al., Plasma Phys. Control. Fusion 39 (1997) A275.
[3.1.4-31] 福山淳、小関隆久,プラズマ・核融合学会誌 75 (1999) 537.
[3.1.4-32] The JET Team (Presented by M.L. Watkins), IAEA Yokohama Conf., IAEA-F1-CN-69/OV1/2.
[3.1.4-33] K.M. McGuire, et al., IAEA Montreal Conf., IAEA-F1-CN-64/01-2.
[3.1.4-34] R. Nazikian, et al., Phys. Rev. Lett. 78 (1997) 2976.

3.1.5 定常運転にむけた課題と見通し
(1) 電流駆動・電流分布制御
 トカマクの閉じ込め磁場はプラズマ中に電流を流すことによって形成されている。しかし、トランスの原理を用いた誘導方式では、一次コイルに流す電流を単調に増加させ続けなければプラズマ電流を維持することができない。このため、誘導方式ではプラズマ閉じ込め磁場の定常維持は困難である。したがって、定常運転のためには、誘導方式に頼らずにプラズマ電流を駆動する必要がある(非誘導電流駆動)。トカマクの非誘導電流駆動は、JFT-2における最初の原理実証[3.1.5-1]以来20年近く研究がなされてきた。
 外部入力を伴う非誘導電流駆動としては、図3.1.5-1に示すように、粒子ビームを用いる方法と高周波を用いる方法がある。一方、プラズマの圧力が(ポロイダル磁場の磁気圧に比べて)高くなるとプラズマ自身が自発的に電流を流すようになる。これを自発電流(英語で、ブートストラップ電流(靴ヒモ電流))と呼んでいる。トカマク型核融合炉の連続運転は、この自発電流とビームや高周波などの外部入力を伴う非誘導電流駆動の組み合わせによって実現する。

図3.1.5-1 トカマク方式における粒子ビームと高周波により電流発生機構

1) 外部入力を伴う非誘導電流駆動
 外部から入射するパワーによって電流を駆動する手法として実験炉ITERで検討されているのは以下の4手法である。1)中性粒子ビーム入射(NBI);1MeV、2)電子サイクロトロン周波数帯(ECRF);170GHz、3)イオンサイクロトロン周波数帯;40‐70MHz、4)低域混成周波数帯(LHRF);5GHz。1)は高速の中性粒子ビームをプラズマに入射するもので、2)~4)はそれぞれの周波数帯域の高周波を用いるものである。また、各々に示した数値はITERで検討されている加速エネルギーまたは周波数である。
 京都大学のWT-2では、図3.1.5-2に示すように世界で初めてEC+LHによるプラズマ電流の立ち上げ及び維持に成功し[3.1.5-2]、その後のWT-3で電流駆動性能を向上する等、RFを用いたトカマクプラズマの生成、維持及び、電流分布制御による安定性向上などの先駆的研究が行われた。
 外部電流駆動を行う際最も重要な指標の一つが電流駆動効率(ηCD)である。これは駆動電流ICD、プラズマ大半径R、電子密度ne、入射パワーPを用いて、ηCD=ICDRne/Pと表される。この駆動効率に優れているのは、低域混成波を用いた電流駆動(LHCD)である。

図3.1.5-2 WT-2トカマクにおけるEC+LHによるプラズマ電流の立ち上げ及び維持

 JT-60では、(他の手法も含めて)これまでの世界最高の電流駆動効率0.35×1020MAm-2MW-1を達成し、また完全電流駆動での駆動電流値としても世界最高の3.6MAを得た[3.1-5.3]。
 また、九州大学のTRIAM-1Mでは、LHCDによる完全電流駆動によって、図3.1.5-3に示すような世界最長のトカマク放電(2時間)を達成した[3.1.5-4]。TORE SUPRAでは、2分間の完全電流駆動が達成されている[3.1.5-5]。

 一方、運転領域や工学的制約が厳しくなる核融合炉では、プラズマへの入射が容易なNBIやECRFが有効であると期待されている。特にNBIはこれまでに多くのトカマク装置の高加熱パワー実験に用いられて高い閉じ込め性能を得てきた実績があり、ITERやそれ以降の装置で主力と想定されている。しかし、NBIを高密度で大型の炉心級プラズマに適用するには中性粒子ビームの加速エネルギーを1MeV程度まで上げる必要があり、高い中性化の効率が得られる負イオンを用いる必要がある。我が国では早くからその重要性を認識し負イオン源を用いたNBI(N-NBI)システムの開発をすすめ、0.5MeVのN-NBIシステムを完成し、JT-60に実装し実験を開始した。これまでに、関連する物理過程の解明やN-NBIによる駆動電流分布の同定を行いクーロン衝突理論ととよく一致することが明らかになっている[3.1.5-6]。また、電流駆動効率においても0.13×1020MAm-2MW-1を得る等着実な進展をしている。これらの成果から,N-NBIを用いた電流駆動は現在ある理論で十分説明でき、また炉心級プラズマでの振る舞いを十分予測可能であるとの見通しを得た。これにより、ITERにおけるN-NBIの電流駆動効率は、要求されるレベルが期待できることが確認された。
 ECRFについては、第3.1.4節における抵抗性不安定性の安定化への貢献が期待されており、今後の研究開発が望まれる。ICRFについても、各国で電流駆動の検証実験が行われているが現状の装置では十分な効率を得ていない。しかしその値は理論予測とよく一致している。

2) 自発電流を最大限に利用した定常運転
 外部電流駆動源を用いたトカマクの定常運転シナリオは、自発電流の実験的検証及びそれに基づいて原研が提唱した定常トカマク炉SSTRによって大きく変化した。自発電流とは、プラズマの圧力勾配が駆動する電流で、JT-60では自発電流が全プラズマ電流の80%に達する放電を実証した[3.1.5-7]。自発電流は新古典理論により予測されるが、様々な装置での実験結果は理論予測に良く一致している。これらの実績を踏まえ、自発電流が全プラズマ電流の大部分を占める定常トカマク運転、いわゆる先進トカマク運転の考えが急速に広まった。さらにこの概念の優位性は、JT-60をはじめとする種々のトカマク装置で見い出された高閉じ込め弱磁気シア/負磁気シアプラズマによって鮮明なものとなった(3.1.4節)。自発電流はプラズマの圧力勾配が駆動するため、プラズマ中心では流れない。したがって、自発電流の割合いが高くなると、プラズマ内での電流密度の空間分布は平坦あるいは凹状の分布になる。これが弱磁気シア/負磁気シアプラズマである。このような高自発電流割合を基にした先進トカマク運転においては、外部電流駆動源により流す必要が有る電流は全体の数十%であり、プラズマによって決まる自発電流の分布を補って、全体として安定な電流分布を形作ることが主な目的である。
 図3.1.5-4には、JT-60の弱磁気シアプラズマにおいて実証された完全非誘導電流駆動プラズマの放電波形を示す。この放電は、自発電流率~70%、残りをビーム電流駆動で流す完全非誘導電流駆動を、規格化ベータ値2.9、Lモードに対する閉じ込め改善度2.5で達成しており、ITERや核融合原型炉における弱磁気シア方式での定常運転の可能性を実証したものである[3.1.5-8]。

 図3.1.5-5は、同じくJT-60の負磁気シアプラズマにおいて実証された完全非誘導電流駆動プラズマの放電波形である。この放電においては、自発電流率は80%に達し、残りをビーム駆動電流で流している。その規格化ベータ値は~2と比較的低いものの、閉じ込め改善度はLモードに対して3.6倍、Hモードに対しても2.2倍に達しており、ITERや核融合原型炉における負磁気シア方式での定常運転に向けた極めて重要な成果である[3.1.5-9]。

 電流駆動に関する研究課題は、電流分布制御による高閉じ込め・高ベータプラズマの定常維持手法の開発である(3.1.4節)。先進運転方式においては、電流分布形状に従って変化する内部輸送障壁構造と、その圧力分布が決定する自発電流分布が互いに強く結合している。このようなプラズマが安定な定常解を持つために必要な電流分布制御を実証することが大きな課題である。JT-60では、LHRFを用いた凹状駆動電流分布によって負磁気シア配位を準定常的に維持し[3.1.5-10]、また、負磁気シア放電で自発電流を80%程度まで高め、それに適切な分布のNBIによる電流駆動を組み合わせて完全電流駆動を実証している。TORE-SUPRAにおいても、LHRFのみにより負磁気シアを形成・維持している[3.1.5-5]。電流分布が定常状態に達する長い時間スケールでの実証が今後の課題である。
 新古典テアリングモード等の磁気島発生を伴う抵抗性モードの安定化も重要な開発課題である。そのためには、磁気島位置で局所的に強くピークした電流を駆動する必要があり、そのような駆動電流分布を得ることのできるECRFによる電流駆動が最適であると考えられている。現在各国の装置で実験が行われており、特にドイツの中型トカマクASDEX-Uにおいてその効果が実証された。より大型、高磁場トカマクにおける検証が望まれている。
 実験炉ITERにおいては、特にその定常運転において、高自発電流核燃焼プラズマにおける電流分布制御性の把握と、高閉じ込め高ベータ定常運転法の確立が大きな課題である。さらに、アルフベン固有モード(3.1.4節)が発生した場合の、NBI電流駆動効率及びその駆動電流分布に対する影響を定量化することが課題である。

(2) 粒子排気・不純物制御
 核融合炉では、DT核融合反応で生じる3.5 MeVのアルファ粒子はプラズマを加熱し、自らは熱化する。エネルギーを失ったアルファ粒子(ヘリウム)は燃焼灰としてプラズマ中から除去する必要がある。ヘリウム灰をうまく取り除けない場合、炉心プラズマ中にヘリウム灰が蓄積して燃料が希釈され、核融合出力が低下し、核燃焼を持続させることが困難になる。従って、核融合炉では、ヘリウム灰の制御及び連続的な排出は必須の技術である。プラズマ中のヘリウムイオンは、ダイバータにおいて壁との相互作用によりヘリウムの中性粒子となって、最終的にポンプで排気される。核燃焼プラズマでのヘリウムの条件として、核燃焼を長時間維持するためには、プラズマ中のヘリウム灰をエネルギー閉じ込め時間の10倍以内で取り除く必要がある。すなわち、ヘリウムの残留時間割るエネルギー閉じ込め時間を5以下(τ*HeE≦ 5)にする必要がある。ITERでは、この条件を満たして、ヘリウム濃度を5%以下に抑制することが要求されており、DIII-D、JT-60をはじめ各国装置で研究が進められて来た。
 JT-60では排気付きW型ダイバータに改造した後、ヘリウムを排気できるようにアルゴンフロスト化したクライオポンプを使用して、ヘリウム灰の排気を模擬する実験を実施した。その結果、核融合炉での必要条件を満足する良好なヘリウム灰の排気を定常状態で実証することに世界で初めて成功した[3.1.5-11]。ヘリウム灰を模擬するために60 keVのヘリウムビームを、ITERの運転シナリオと同じ閉じ込め改善モードプラズマ中に6秒間入射して、ヘリウムをプラズマ中心に連続注入した(図3.1.5-6の左図)。ヘリウム排気用のポンプを動作させると、1秒間当たり1.5x1020個の割合(ITERの核融合燃焼で生じるヘリウム灰の80%に相当)で注入されたヘリウムが、注入開始後1.5秒程度でポンプによる排気と釣り合い、定常状態に達する。この時、ヘリウム濃度は4%で定常的に維持されている。図3.1.5-6の右図には、ヘリウム排気ありとなしの場合のヘリウム密度の比較を示す。ヘリウム排気有りではτ*HeE = 4となり、ITERで要求されている比5を下回る良好な排気性能が得られた。排気なしの場合、時間と共にヘリウム密度が増大し、ヘリウムが蓄積する。また、ヘリウムの濃縮係数は排気有りで1.0を達成し、ITERで要求されている0.2を大きく上回る良好な結果を得た。

図3.1.5-6 JT-60におけるヘリウム灰排気の模擬実験(ヘリウムビームを使用した定常排気)

   ヘリウム灰の排気を考える場合、τ*HeEと共にヘリウムの濃縮係数が重要となる。ダイバータにおけるヘリウムの濃縮係数は、ダイバータ部の重水素の中性粒子圧力に対するヘリウムの圧力を主プラズマ端のヘリウム濃度で割った係数で、燃料粒子に対するヘリウムの濃縮の度合いを表し、トリチウムのインベントリに関連する物理量となる。この濃縮係数を大きく取れるということは、ヘリウム排気用ポンプの排気速度を小さくできるので、同時に起こる燃料粒子の排気を少なく抑えることになる。これらの成果は、ITERの設計を支持するものであり、ヘリウム排気の観点からQ=10の燃焼を長時間維持できることを実験的に示している。
 核融合炉では、ヘリウム灰の排気と同時に、第一壁からの不純物、及び放射冷却を増進させるための不純物(ネオン、アルゴン等の希ガス)を取り除き、ITER では実効荷電数Zeff ≦ 1.8に抑制する必要がある。第一壁の中でも、特に主要な不純物発生源となるダイバータ板からの不純物発生を抑制するには、次の2つの不純物発生機構に注目する。①放射冷却によりダイバータ板への熱流束を低減させ、物理スパッタリングによる発生を極力抑制する。②中性粒子による化学スパッタリングを抑制するため、ダイバータのプライベート領域にドームを導入する。実際、JT-60ではW型ダイバータにおいてドーム構造を導入した結果、化学スパッタリングに伴って発生する炭素化合物(CD4)の分子スペクトル帯線の減少が観測され、炭素不純物の混入量も低減させることに成功した[3.1.5-12]。放射冷却用不純物については、これらの不純物(ネオン、アルゴン)の濃縮係数が密度とともに増大することから、できるだけ主プラズマ端及びダイバータ密度の高い運転により容易に排気ができると期待される。
 ヘリウム排気の課題としては、先進運転のヘリウム排気がある。内部輸送障壁を伴う負磁気シアプラズマにおけるヘリウム排気については、JT-60において内部輸送障壁の内側からのヘリウム排出が外側に比べて2倍程度困難であるとの結果を得ている。閉じ込め改善度=1.5程度の閉じ込め性能のプラズマのヘリウム排気性能はτ*HeE ~10であり、充分な排気性能は得られていない[3.1.5-13]。今後、主プラズマ端の密度をできるだけ上昇させるとともに、高閉じ込め性能(閉じ込め改善度≧ 2)の負磁気シアプラズマでの良好なヘリウム排気を実証することが、ITERの先進運転(非誘導電流駆動、Q= 5)の設計の重要な課題となる。
 ITERでは、高核燃焼運転、長時間燃焼運転、及び定常運転において、ヘリウム灰排気特性の把握と制御法の確立が必須の課題である。また、核融合炉サイズのプラズマにおける高熱流束時の不純物の発生、逆流及び主プラズマ中への侵入に関する特性、加えて、放射冷却に導入する不純物の輸送特性の把握と制御法の確立が課題である。

(3) ダイバータ熱流束制御

 ダイバータ板への熱負荷を抑制するためには、ダイバータ板上流に到達するパワーを低温高密度プラズマからの放射損失で散逸させる事(放射冷却ダイバータの生成)が求められる。周辺プラズマ研究の最大の課題は、主プラズマの高密度化(Greenwald密度の0.8から1.1倍)と放射冷却ダイバータの生成(全放射損失率 > 0.8~0.95)を、主プラズマの改善エネルギー閉じ込め性能(閉じ込め改善度~2)及び低Zeff( Zeff < 1.9 )と両立させ、ITER等核融合炉プラズマに要求される総合性能を得ることである。
 近年のダイバータ研究の進展によりELM y Hモードプラズマについて、ITERに要求される総合性能(閉じ込め改善度~2、全放射損失率~80%、電子密度~0.8 x Greenwald密度)を同時に達成できるめどがついている。現状では高閉じ込めが得られる密度には限界があり、Greenwald密度の約8割までが高閉じ込めが得られる限界である。ダイバータシミュレーションの進歩とそれを駆使した閉ダイバータ設計により、ASDEX-UのLyla II型ダイバータでは、高加熱パワーELMy Hモードプラズマ条件下でも、強い燃料ガスパフなしで、80%の放射損失量が得られるようになった[3.1.5-14]。このように、シミュレーションによる予測通りの熱流束軽減が、実験結果で得られたことから、核融合炉におけるダイバータ熱設計の高い信頼性が確保された。一方、DIII-DではELM y Hモードプラズマに燃料ガスとアルゴンガスを注入して密度と放射損失を増大させる一方、強力なダイバータ排気によりスクレープオフ層(SOL)フローを生み出した。中心部への注入不純物の蓄積は抑制され、Zeff=1.8、全放射損失率=0.72、閉じ込め改善度= 1.7を得た[3.1.5-15]。またSOLフローには、アルゴンのダイバータへの濃縮を高め、より低Zeffでダイバータ放射損失を高める効果も実証された。
 一方、ペレット入射による粒子補給は、主プラズマ周辺からの燃料粒子補給であるガスパフに比べ、プラズマ中心への燃料粒子補給によるプラズマの高密度化に適している。さらに近年開発された、高磁場側入射ペレットが従来の低磁場側入射ペレット入射に対して高い燃料粒子補給率を有することが、実験的及び理論的に確かめられた。DIII-Dでは、強力にダイバータ排気したHモードプラズマで、Greenwald密度の1.5倍もの高密度において閉じ込め改善度=1.8を得た[3.1.5-16]。
 負磁気シア放電における放射冷却ダイバータの生成に関しては、JT-60において80%以上の放射損失によるダイバータデタッチと内部輸送障壁が共存できることが実証された[3.1.5-17]。最近負磁気シアプラズマ定常化の進展とともに、高閉じ込め性能で準定常なターゲットとして実験することが可能になってきた。JT-60ではまた、アルゴンの注入によりGreenwald密度の82%で閉じ込め改善度=1.8及び66%の放射損失率が得られている[3.1.5-18]。今後の研究の最大の課題は、内部輸送障壁内部に蓄積する注入不純物アルゴンをいかに低減させるかである。
 高プラズマ密度、高放射損失率の観点からは、RIモード及びCDHモードと呼ばれる運転モードが見いだされた。TEXTORのリミター放電で発見されたRIモードでは、ネオン等の不純物イオンの注入により主プラズマ端の放射冷却を増大させることによって、密度分布が中心ピーキングする改善エネルギー閉じ込めに遷移する。TEXTORのリミター放電では80%以上の全放射損失率、1.4x Greenwald密度で高閉じ込めの達成に成功した [3.1.5-19]。このRIモードを排気付きのダイバータ装置で再現させるべく、中型大型トカマクで実験が開始されてきた。DIII-Dにおいてダイバータプラズマでは初めて、Greenwald密度の40-50%のプラズマ密度ながらRIモード閉じ込めが得られた[3.1.5-20]。今後のダイバータ配位でのプラズマ高密度化が期待される。ASDEX-Uにおいては、95%以上の放射損失率を有するCDHモードが見いだされており、放射損失の増大にともなって平坦なH-modeの密度分布から中心ピーキングした密度分布へ移行する。Greenwald密度の90%に近い密度が得られている[3.1.5-21]。
 既に述べたように、近年のダイバータ研究の進展によりELM y Hモードプラズマについて、ITERに要求される総合性能(閉じ込め改善度~2、全放射損失率~80%、電子密度~0.8 x Greenwald密度)を同時に達成できるめどがついている。ITERにおいては、燃焼プラズマと高放射率ダイバータプラズマとの共存性の実証を行う。ITERでは原型炉のために高放射率(>80%)の運転手法を確立する必要がある(原型炉では90%を越える放射率が求められる)。
 負磁気シアモードでの不純物注入やRI モード及びCDHモード放電等の試みが行われているが、これらに共通する問題点としては、改善閉じ込めモードに遷移するために必要な不純物注入を行うと、低Zeffの条件を満足できないことである。例えばCDHモードでは、Zeff > 3であり、不純物混入の低減が大きな開発課題である。さらに、そのような放電の長時間維持も今後の課題である。
 原型炉以降は、Greenwald密度を数割上回る密度が想定されている(望ましい)が、そのような高密度領域で高い閉じ込め性能を確保する運転方式の開発が課題である。ペレット入射は有力な手段の一つであり、中型装置ではGreenwald密度を大きく上回る密度が得られているが、大型トカマクにおける実証は今後の課題である。
 ELM y Hモードプラズマにおいて、ELM周波数が低くなると、ELM時の瞬間的熱流束によるダイバータ板温度上昇が顕著になり、ダイバータ板損耗をもたらす懸念がある。第3.1.4節に示した高周波数ELMを持つHモードの開発が課題である。

(4) ディスラプション制御
ディスラプションでは、第1段階で熱エネルギーの急速な放出が発生し、第2段階で磁気エネルギーの放出(プラズマ電流の急速な消滅)が発生する。前者を熱消滅、後者をプラズマ電流消滅と名付けている。ディスラプションで発生する現象の概略を図3.1.5-7に示す。
 熱消滅では第一壁(特にダイバータ板)にプラズマの熱エネルギーが流入し、その熱負荷が大きい場合には第一壁材が損耗する。縦長非円形断面のプラズマでは、プラズマ電流消滅時にプラズマの垂直位置移動現象が発生しやすく、プラズマが第一壁に押し付けられてハロー電流を励起する。ハロー電流はトロイダル磁場と作用して真空容器内構造物に局所的に電磁力を及ぼす。この電磁力により、第一壁タイル等の破損が発生することがある。プラズマ電流消滅時にプラズマの移動が小さいときには、数十MeVのエネルギーを持つ逃走電子テイルが発生し、これが第一壁と接触する場合には局所的な高熱負荷で大きな損耗が生じる。このように、装置が受ける損傷が深刻であるとして、ディスラプションは克服すべき大きな課題とされていた。しかし、JT-60を初めとする各国装置での最近の5年間の研究の進展は目覚ましく、上記全ての問題に対して本節に示す緩和手法が実証され、課題を解決する物理的な見通しが得られた。現在の研究の主眼は、ディスラプションをより信頼性高く緩和するための工学技術開発とディスラプション回避の研究に移行している。

図3.1.5-7 ディスラプション現象: (a) 熱消滅、プラズマ電流消滅と逃走電子電流テイルの発生、(b)垂直位置移動現象とハロー電流の発生

1) ディスラプション緩和研究の現状
熱消滅:
 熱消滅時には、約1ミリ秒の短時間に、第一壁(特にダイバータ板)にプラズマの熱エネルギーが流入する。核融合炉では、第一壁タイルの交換回数が限られているため、その損耗を極力低減する必要がある。このためには、理論予測されている蒸気シールド効果の検証が必要である。これは、第一壁への熱流束が第一壁材の蒸発により遮蔽され、壁に達する熱流束が低下する効果である。ただし、現存装置では熱エネルギーが低いために検証が難しい。
 一方、プラズマ熱エネルギーを急速に散逸させることができれば、第一壁の損耗を大きく低減できる。JT-60では、ネオンアイスペレットをプラズマに入射して、熱エネルギーの大半を放射エネルギーに短時間で変換し、第一壁への熱負荷を激減できることを実証した[3.1.5-22]。その後、ASDEX-U,DIII-D等の多くの装置で追試がなされ、不純物入射が有効であることが確認されている。
プラズマ電流消滅:
 プラズマ電流の消滅時間を決める要因は電子温度である。各国装置の消滅時間に関するデータベースを作成し、消滅時間がL/R(L:プラズマ電流のインダクタンス、R:トロイダル抵抗)で決まるとするモデルと比較することにより、電子温度を評価すると約3eVとなる。これに基づきプラズマ電流の最少消滅時間(最大の電流低下速度)を評価し、ITER-FDRに適用した場合、約50ミリ秒となる。
垂直位置移動現象とハロー電流:
 プラズマ電流消滅時には、多くの場合、プラズマの垂直移動現象(VDE: Vertical Displacement Event )が発生する。この移動は、垂直方向の位置不安定性だけで決まるのでなく、プラズマ電流消滅時に真空容器等に誘起されるトロイダル方向の渦電流の上下非対称がひきおこす垂直方向の力で決まる。この時、渦電流が上下対称となる位置にプラズマの電流中心を設定すればVDEが発生しない。本現象は、JT-60で発見されたものであり[3.1.5-23]、プラズマの移動方向を炉構造の設計により決めることができることを示す極めて重要な概念である。プラズマ電流消滅の時定数が長い場合は、垂直位置の検出精度の劣化がVDEを発生する要因の1つとなる。しかし、垂直位置を正確に検出できれば、VDEを回避・抑制できることも実証されている[3.1.5-24]。
 ハロー電流は、プラズマをとりまくスクレープオフ層と第一壁、真空容器内の構造物を介して流れ、トロイダル方向に分布して流れるヘリカル電流である。結果として、ハロー電流のポロイダル成分が、トロイダル磁場と作用して真空容器内の構造物に電磁力を局所的に誘起する。このため、ハロー電流の評価は炉設計において重要である。そこで、ALCATOR-Cmod、ASDEX-U、. Compass-D、DIII-D、JET、JT-60等、各国装置のデータが集められ特性が評価された [3.1.5-25]。
 ハロー電流の強度と、そのトロイダル方向のピーキング度から、構造物に発生する電磁力が評価できる。
 ・最大ハロー電流はディスラプション前の電流値の 50 % に達する。
 ・トロイダル方向のピーキング率は最大4になる。
 ・最大ハロー電流とピーキング率とは反比例の関係にある。
 大型トカマク装置では、ハロー電流が低い。プラズマの大型化とともにハロー電流のプラズマ電流に対する割合が低下する傾向は好ましく、その原因の解明が進められている。なお、ネオンなどのアイスペレットや不純物ガスの注入によりハロー電流が低減することがASDEX-Uを始めとする複数の装置で観測されており、ハロー電流を抑制する手法として検討されている[3.1.5-26]。
逃走電子:
 熱消滅により電子温度が大きく急激に低下するとポロイダル磁束を保存するためにトロイダル方向に高電場が発生し、場合によっては高エネルギー(数十MeV)の逃走電子が発生する。この逃走電子は、局所的に大きな熱負荷(100MJ/㎡以上)を第一壁に与える可能性があり、回避・抑制シナリオを構築する必要がある。JT-60ではディスラプションで発生する大きな磁場揺動の存在下では、逃走電子の発生を回避でき [3.1.5-27]、加えて、プラズマ表面での安全係数qsが2以下では、逃走電子の発生が観測されていない[3.1.5-28]。揺動磁場中での逃走電子の理論・計算機シミュレーション解析でも、低m/nモードの大きな磁場揺動の存在下では電子のもつトロイダル方向の運動量が保存されないことが原因で、無衝突でも損失が発生することが解明されている[3.1.5-29]。これらの結果から、逃走電子テイルが生成された場合でも、VDEによりプラズマ半径が縮小してqsが2近傍まで低減すれば不安定性の発生により自然に逃走電子テイルを遮断できることが期待できる。

2) ディスラプション回避の現状
 ディスラプションの発生原因は多数あるが、今では定量的に良く理解されている。それらは、密度限界、不純物混入、低すぎるあるいは高すぎる内部インダクタンス、プラズマ圧力の安定限界、外部エラー磁場、垂直位置不安定性、プラズマ表面での安全係数が整数値2又は3の近傍、負磁気シアプラズマで安全係数の最少値が整数値2又は3の近傍、等である。これらのディスラプションは、慎重な装置設計と運転シナリオの最適化により、回避することができる[3.1.5-30]。従って、核融合炉でディスラプションが発生する状況としては、運転シナリオの最適化過程、運転ミス、装置故障、安全対策の為の緊急停止が想定される。

3) ディスラプション回避・緩和の課題
 ITERのディスラプションでは、現在の大型トカマクに比べてさらに巨大な熱及び磁気エネルギーが開放される。その挙動が、現在の予測範囲内に入るか否かの検証が必要である。
 実証炉では、ディスラプション頻度を十分少なくする(1回/2年程度)ことが必要である。これを実現するには、トカマク炉心プラズマの運転領域が各種の運転限界(ベータ限界、密度限界、内部インダクタンス限界、等)に対し十分な裕度を持つことが必要である。しかしながら、実験炉から原型炉へ進むにつれて、ベータ値、密度、放射損失率を高める必要がある。これらの上昇は、ディスラプション頻度を高くすることがわかっている。運転限界近傍でのディスラプション回避手法の考案と実証が大きな課題である。
 ディスラプションは、運転限界の近傍にて発生するため、運転限界に対する裕度からディスラプションの確率を評価する方法と予兆現象を捕まえる方法を個別または複合的に用いることにより、その発生を予測することが出来る。時間的裕度がある場合は、ディスラプションの発生を予測してから、回避制御をすることが可能である。密度限界によるディスラプションなどのように、抵抗性MHD不安定性により引き起こされる場合は、時間的余裕が十分にある。理想的MHD不安定性により引き起こされる場合は、予兆現象を捉えても時間的余裕が無いため、運転限界に対する裕度を常に評価する必要がある。これに対し、ニューラルネットワークの手法を用いたディスラプションの発生予測手法の有効性がD-III-D等で実証されている[3.1.5-31]。今後の計算機技術の飛躍的な進展を考慮すれば、MHD的な安定度を実時間で評価しつつプラズマ運転をすることが可能となり、ディスラプション回避の信頼性を十分に高められると予測される。

参考文献

[3.1.5-1] T. Yamamoto, et al., Physical Rev. Lett. 45(1980)716.
[3.1.5-2] S. Kubo et.,al, PRL Vol.50, No.25, pp.1994-1997, 1983
[3.1.5-3] Y. Ikeda, et al., Proc.15th IAEA Conf. Plasma Phys. and Contr. N.F. Res. 1(1994)415.
[3.1.5-4] S. Ito, et al., 17th IAEA Fusion Energy Conference(1998,Yokohama), CN-69/OV2/3.
[3.1.5-5] Equipe Tore Supra, Plasma Phys. Control. Fusion 38 No 12A (December 1996) A251-A268
[3.1.5-6] T. Oikawa, et al., 17th IAEA Fusion Energy Conference(1998,Yokohama), CN-69/CD1/1.
[3.1.5-7] M. Kikuchi, et al., Nuclear Fusion 30(1990)343.
[3.1.5-8] Y. Kamada et al., in Plasma Phys. Controlled Nucl. Fusion Research 1994 (Proc.15th Int. Conf. Seville, 1994), Vol.1, Vienna, IAEA (1995) 651
[3.1.5-9] S. Ide et al, APS(1999), invited talk, Phys. Plasmas to be published
[3.1.5-10] S. Ide, et al., Proc.16th IAEA Conf. Plasma Phys. and Contr. N.F. Res. 3(1996)253.
[3.1.5-11] A. Sakasai, et al., Journal of Nuclear Materials 266-269 (1999) 312.
[3.1.5-12] S. Higashijima, et al., Journal of Nuclear Materials 266-269 (1999) 1078.
[3.1.5-13] A. Sakasai, et al., 17th IAEA Fusion Energy Conference(1998,Yokohama),CN-69/EX6/5.
[3.1.5-14] J. Fuchs et al., EPS, 1999.
[3.1.5-15] M. Wade 266-269 (1999)
[3.1.5-16] M.A. Mahadavi, et al., Fusion Energy 1996, IAEA Vienna, 1 (1997) 397
[3.1.5-17] K. Itami et al, Phys. Rev. Lett,78, (1997) 1270.
[3.1.5-18] S. Sakurai Nucl. Fusion to appear
[3.1.5-19] A.M. Messiaen EPS, 1999.
[3.1.5-20] G. Jackson et al, EPS, 1999.
[3.1.5-21] O. Gruber et al, Phys. Rev. Lett,74, (1995) 4217.
[3.1.5-22] R. Yoshino, et al., in Plasma Phys. and Controlled Nucl.Fusion Research 1994 (Proc. 15th Int. Conf. Seville, 1994), Vol. 1, Vienna, IAEA (1995) 685.
[3.1.5-23] R. Yoshino, et al., Nucl. Fusion 36 (1996) 295.
[3.1.5-24] R. Yoshino, et al., Nucl. Fusion 37 (1997) 1161.
[3.1.5-25] J. Wesley, et al., Fusion Energy (16th Int. Conf. Montreal, 1996), Vol. 2, (1997) 971.
[3.1.5-26] G. Pautasso et al., Nucl. Fusion 36 (1996) 1291.
[3.1.5-27] Y. Kawano, et al., Fusion Energy (16th Int. Conf. Montreal, 1996), Vol. 2, (1997)345.
[3.1.5-28] R. Yoshino, et al., Nucl. Fusion 39 (1999) 151.
[3.1.5-29] S. Tokuda. et al., Nuc. Fusion, 39 (1999) 1123.
[3.1.5-30] R. Yoshino, et al., J. of Plasma and Fusion Research 70 (1994) 1081.
[3.1.5-31] D. Wroblewski et al., Nucl. Fusion 37(1997)725.

3.1.6 定常核融合炉のプラズマ制御
(1) 負荷調整運転
 核融合炉は、基本的にはベース電力を担う基盤電力供給源と想定されているが、容易に出力調整できれば、極めて魅力的な電力生産システムとなり得る。現在、電力需要の時間変動は主に火力発電の出力調整運転によって対応されているが、核融合炉の出力調整が容易にできることになればベース電力源としてのみならず、出力調整をも分担できる主要電力供給源として位置づけられることになる。
 外部から電流駆動用の電力を必要とし、有限のエネルギー増倍率を有する定常核融合炉においては、閉込め改善度が一定のもとで電流駆動パワーと密度を制御しプラズマ電流を変化させ、核融合出力を大きく調整することができることが報告されている[3.1.6-1]。図3.1.6-1は、定常核融合炉における出力制御の計算機シミュレーション結果を示すもので、プラズマ電流を定格(12MA)の75%に、また、電子密度を定格の60%に下げ電流駆動に必要な外部電力を定格(60MW)の75%下げることにより、核融合出力を3.8GWから1.3GW(34%)に下げることが可能であることが示されている。この例では、200秒間の出力調整期間中、閉込め改善度はほぼ一定で、中性粒子ビームによる電流と自発電流により放電が維持されている。
 このような定常核融合炉の出力調整運転を実現するためには、実験炉における核燃焼プラズマの制御に関する技術開発が不可欠であり、それに基づいて中性子・熱負荷の変動に対応したブランケットの最適設計及び実証試験を行う必要がある。原理的には、核融合出力をゼロとなるまで減少させることが可能であり、送配電系統の不具合等の緊急時に柔軟に対応できる発電プラントに成り得る。

図3.1.6-1 定常核融合炉の出力調整運転の計算機シミュレーション結果。閉込め改善度=1.05+0.05、ヘリウム濃度8%のA-SSTRの場合。

(2) 高自発電流プラズマの制御
 高自発電流率プラズマの完全電流駆動は、第3.1.5節に記述したように、JT-60等において実証されている。しかしながら、アルファ粒子加熱が主となるITERや核融合原型炉では、加熱-プラズマ圧力-電流の間の結合が強まるので、その制御は重要な課題である。
 図3.1.6-2にA-SSTRの電流立ち上げ時の電流分布のシミュレーション結果を示す。図からわかるように、電流分布はほぼ定常に保たれており、高い自発電流割合は安定に保ち得ると考えられる。 プラズマ制御の観点からは、上述の出力調整運転時の方が課題がある。則ち、出力調整運転はプラズマ電流を定格値未満に下げて行うことを想定すると、電流分布が変動するからである。図3.1.6-3に出力調整運転時の電流分布の変化を示す。

参考文献
[3.1.6-1]K. Okano et al.,Proc. 17th IEEE/NPSS Symp. Fus. Eng.2 (1997)1043

3.1.7 先進材料・プラズマ相互作用
 DT核融合炉では、プラズマから発生する14MeVの高速中性子により核融合炉の構造材料が放射化される。そのため、高速中性子下で誘導放射化のレベルが低い材料の開発が重要である。最も中性子フラックスの条件が厳しいのは、真空容器内のブランケット構造材であり、ここでは低放射化だけでなく、熱伝導性、耐照射性等に優れた材料が必要となる。低放射化フェライト鋼、バナジウム合金、炭化ケイ素複合材料は、それらの特性を有しており、核融合炉構造材料の有力候補材と期待されている。本節ではこれら先進材料(低放射化フェライト鋼)、次世代先進材料(バナジウム合金、炭化ケイ素複合材料)とプラズマとの適合性に関する実験の現状と今後の課題について述べる。

(1) 低放射化フェライト鋼
 低放射化フェライト鋼の組成は、フェライト鋼の合金組成元素の中から、放射化の観点から好ましくない元素を他の元素に(モリブデンをタングステンに)置換することにより、合金の優れた基本特性を維持しつつ低誘導放射化が実現できるように決められている。原研で検討している定常トカマク炉(SSTR)において、低放射化フェライト鋼はブランケット構造材料の第一候補材料になっている。

1) トカマクへの適用試験の現状
 フェライト鋼は強磁性体であり、フェライト鋼が作り出す不整磁場がプラズマ生成・制御及び閉じ込め特性に悪い影響を与えることが懸念されている。しかし、磁性体の性質をうまく利用して磁場構造の改良、即ち、フェライト鋼をトロイダル磁場コイルの内側に挿入して、磁性体をトロイダル磁場リップルの低減に用いる提案もある。コンパクトITERでは、定常運転シナリオである負磁気シア放電でのアルファ粒子等の高エネルギーイオンのリップル損失による壁への熱流束が過大になるため、磁場リップルの低減が重要である。
 フェライト鋼のトカマクへの適用実験に関しては日本の中小型装置で先駆的研究が進められている。小型トカマクHT-2 (日立製作所)における先駆的な試験(フェライト鋼板を真空容器の内部に設置し、通常のトカマク放電が得られることを実証) [3.1.7-1]に引き続き、中型トカマク装置JFT-2Mを用いて低放射化フェライト鋼F82Hのトカマクへの適用可能性を調べる先進材料プラズマ試験(AMTEX)計画を段階的に進めており[3.1.7-2,3]、その第一段階としてリップル低減試験を実施した[3.1.7-4]。図3.1.7-1にフェライト鋼板の真空容器外部への装着概念図を示す。設計計算ではフェライト鋼板(FB)装着によりリップル率はプラズマ境界で2.2%から1.1%に減少しており、これを磁気プローブによる実測でも確認した。図3.1.7-2、3.1.7-3に示すようにフェライト鋼板の装着により高エネルギーイオンのリップル損失低減に有効であることを実証した。

図3.1.7-2 (a):赤外線TVで見込む真空容器内壁外側(壁面材にグラファイト使用)視野. (b)、(c):FB装着前後のNBI加熱(Vacc=36kV, PNBI~0.54MW)中の表面温度上昇(ΔTs).イオン∇Bの方向は下向き. 

2) 今後の課題
 低放射化フェライト鋼は強磁性体でありプラズマへの影響が懸念され、また超高真空材料として酸化やガス放出などの問題がある。従って低放射化フェライト鋼が将来の核融合炉構造材料として使用可能との見通しを得るためにはフェライト鋼と高性能プラズマとの両立性を実証する必要がある。その具体的な研究課題は以下のとおりである。
   ・フェライト鋼が及ぼす磁気的影響の総合評価と対策の確立
   ・フェライト鋼のプラズマ-壁相互作用の究明
   ・フェライト鋼製真空容器壁で高性能プラズマの実現

(2) 次世代先進材料
 次世代の先進材料として想定されている低放射化特性が更に優れたバナジウム合金、炭化ケイ素複合材料(SiC/SiC)等についてもトカマク環境下における整合性を検討しておく必要がある。
1) バナジウム合金
 バナジウム合金は米国の原型炉概念検討(ARIES-RS炉)における主要な構造材料の候補であるが、トカマク環境下における水素、ヘリウム等の吸蔵による脆化の問題があり、その実験的評価が必要とされる。これまでDIII-D、JFT-2Mでトカマク環境下試験が行われてきたが、とくに最近日米協力のもと、JFT-2Mで行われた9ヵ月に渡るトカマク環境下試験では、高温(300度)環境における吸蔵軽水素の析出(18ppmから8ppm)や燃料粒子である重水素吸蔵量が少ない(2ppm)事などが確認された。今後の課題としては、作用粒子のフルーエンス、エネルギー等を変えて、原型炉まで外挿可能なデータベースを構築する必要がある。
2) 炭化ケイ素複合材料
 炭化ケイ素複合材料については、米国の原型炉(ARIES-I炉)、我が国の商用炉(DREAM炉:原研)の概念設計で構造材料として想定されている。プラズマ・壁相互作用の観点に立った試験は未だあまり行われていないので、今後構造材料として成熟していく過程で、スパッタリング特性や熱負荷特性等の実負荷試験、トカマク環境下試験などの実績を踏む必要がある。

参考文献

[3.1.7-1] 阿部充志、中山武、他、 J. Plasma and Fusion Res. 73, 1283 (1997)
[3.1.7-2] 佐藤正泰、三浦幸俊、J. Plasma and Fusion Res. 74, 448 (1998)
[3.1.7-3] M. Sato et al., J. Plasma and Fusion Res. 75, 741 (1999)
[3.1.7-4] M. Sato et al., "Design and first experimental results of toroidal field ripple reduction using ferritic insertion in JFT-2M", submitted to Fusion Engineering and Design