2.3 ITERから核融合原型炉へ
2.3.1 核融合原型炉の閉じ込め方式
 原子力委員会が平成4年に「第三段階核融合研究開発基本計画」(以下、第三段階計画)策定するにあたって核融合会議がまとめた、「核融合研究開発の推進について」では、第三段階における中核装置としてはトカマク装置を採用することが適当としているが、その後の段階(原型炉以降)における閉じ込め方式の選択については、トカマク型以外の閉じ込め方式の発展の結果をも含めて総合的に評価し、将来その最終決定をなすべきとしている。
 上記のように現段階では核融合原型炉の炉型は決まっていないものの、トカマク方式の実験炉による研究開発が順調に進展し、トカマク型以外の閉じ込め方式と比べても総合的な評価としてトカマク型の原型炉が優れていると判断でき、かつ、エネルギー開発戦略上も核融合原型炉の開発を進めるべきとの判断が行われる場合には、トカマク型核融合原型炉の開発を進めることになる。
 以下にITERからトカマク型核融合原型炉へと開発を進める際の開発シナリオについて記述する。また、トカマク以外の閉じ込め方式がトカマク方式より優れた特性を示した場合における、ITERでの研究開発の知見の有効性について述べる。

2.3.2 ITERの延長線上に考えられるトカマク型核融合原型炉
 第2.2.2節で記述した核融合炉ITERによる研究開発の成果に応じて、ITERの延長線上に開発し得るトカマク型核融合原型炉の仕様は異なってくる。ITERで達成されるであろう物理的・工学的知見をベースとすれば、仮に完全定常運転がトカマクにおいて達成できなくても、いわゆるパルス運転の核融合炉は設計できる。因みに、ITER設計と同等の科学的基盤でパルス運転炉を設計すると、10分程度の休止期間を挟みつつ、数時間から10時間程度の準定常的な運転が出来るトカマク型核融合原型炉が可能であり、技術的には発電プラントを実現できる[2.3.2-1]。しかしこのような準定常運転炉は比較的大型となり、経済性の観点から、発電プラントとしては不利になると考えられている[2.3.2-2]。
 ITERで原型炉の準備として開発すべき技術として定常運転技術、高温ブランケット技術等が開発され、並行して実施される材料の中性子照射試験が完了すれば、定常運転を基調とするトカマク型核融合原型炉の建設が可能となり、その建設・運転によって核融合エネルギーの技術的実現性が実証されることになる。この原型炉は実用核融合炉の「原型」であり、研究開発段階を完結させる装置でもある。
 魅力的なトカマク型核融合炉の開発のためには3.1節で述べるような様々な炉心プラズマ技術進展がなされる必要があるが、最も重要な物理パラメータは規格化ベータ値βNであり、ITERの物理ベースを上回る高い規格化ベータ値が得られることが前提となる。高い規格化ベータ値が得られれば、自発電流を高めることも容易となり、SSTR[2.3.2-3]で代表されるような循環電力割合が低い高効率の定常トカマク炉が可能となる。さらに、理想的なベータ限界値の維持が可能となった場合には、CREST[2.3.2-4]で代表されるような高経済性炉の可能性が高まる。
 実験炉から原型炉に向けて必要となる炉工学技術としては、新たに加わる発電ブランケットの開発、先進低放射化材料の開発と、実験炉技術の高度化(超伝導における~16テスラ化、遠隔保守技術の高速化、安全技術の高度化等)が必要となる。特に、核融合原型炉で行う発電システム統合に関しては、実験炉ITERでのテストモジュールの方式選択と試験結果が重要である。ITERにおいては、少なくとも数個の高温ブランケットモジュール(1m x 2m程度の大きさ)の試験が行われる。SSTR程度の大きさの原型炉の場合、400個程度のモジュール数となり、ITERにおけるブランケット性能試験は原型炉における発電実証にとって本質的なテストベッドとなる。さらに、1.3.5節で指摘したように、商用発電プラントとしての性能向上のため、起動電力と循環動力の低減を実現するための技術開発(低損失電動発電機、高温超伝導体による運転温度の上昇(例20K)など)、経済性改善のための機器合理化の努力を行う必要がある。
 表2.3.2-1に実験炉ITERから原型炉(SSTRの例)に向けて必要となる主要な性能向上のリストを示す。トカマク型核融合原型炉の運転方式としては、定常運転が有力である。実験炉ITERでのエネルギー増倍率Qの実証としては、誘導運転におけるQが20程度以上の実証は核燃焼プラズマ特性の理解と制御の観点から重要であるが、その先の原型炉の運転方式の展望を開くという意味で、定常運転のQ=5の実証も重要である。ブランケット構造材料に関しては、核融合会議計画推進小委員会構造材料ワーキンググループにおいて、主要構造材料としてSS316と同じ鉄鋼材料である低放射化フェライト鋼を取り上げている。その他の構造材料としてはバナジウムやSiC/SiC複合材料等が考えられている。ITERにおけるテストブランケットモジュールの機能テストとしては、中性子フルーエンスが重要である。ITERにおいてはトリチウム供給を外部のみから行う限度と想定される中性子フルーエンス0.3MWa/㎡の範囲でブランケット試験を行い、機能材料/構造材料の低フルーエンス領域での挙動評価や総合機能試験を行い、数MWa/㎡のフルーエンスに達する原型炉への展望を開くこととなる。このような原型炉の実現に向けた開発研究が進展した場合、図2.3.2-1に例示するようなパワーフローやプラント配置をもった核融合原型炉の開発に進み得ると考える。

表2.3.2-1 実験炉ITERからトカマク型核融合原型炉へ

参考文献

[2.3.2-1] N.Inoue,et al.,; Feasibility Study on Inductively Operated Day-long Tokamak Reactor,Nuclear Fusion Supplement (Plasma Physics and Controlled Nuclear Fusion Research 1992)vol.3(1993),347-353
[2.3.2-2] Y.Ogawa and N.Inoue;Cost Analysis of IDLT Reactors Using the ARIES System Code,Journal of Plasma and Fusion Research 72(1996),953-959.
[2.3.2-3] 関泰、菊池満、他、' The Steady State Tokamak Reactor'、第13回IAEA制御核融合とプラズマ物理に関する国際会議(1990)、ワシントン
[2.3.2-4] 岡野邦彦、他、「高経済性核融合動力炉CREST」(1999)、電力中央研究所報告、T98027。および、同、'Compact Reversed Shear Tokamak Reactor with Super-heated Steam Cycle', 第17回IAEA核融合エネルギー会議(1998)、横浜

2.3.3 核融合原型炉方式がトカマク方式以外となった場合のITERの有用性
 第4章に述べるトカマク方式以外の磁場閉じ込め方式やレーザー核融合等の慣性核融合方式などの中から、トカマク方式以外のプラズマ閉じ込め方式が有力になった場合においても、ITERにおける研究開発は様々な観点で有効である。
まず、ヘリカル装置などの磁場閉じ込め方式においては、超伝導磁石、真空容器、ブランケット、真空技術、加熱機器、トリチウム設備、等ほとんどの工学技術に共通性があり、ITERにおける研究開発の成果はほとんど無駄なく使用可能である。さらに、2.1.1節に述べたように実験炉は、発電ブランケット開発のテストベッドとしての役割を果たすことから、原型炉がトカマクと異なる閉じ込め方式となってもその試験結果は核融合炉開発にとって重要な貢献となる。炉心プラズマの観点からも核燃焼プラズマの挙動には、多くの共通点がありITERにおいて得られた知見は他の磁場閉じ込め方式にも極めて有益な知見となる。
原型炉方式が慣性核融合となった場合には、ヘリカル方式などの磁場閉じ込め方式に比べると、その科学的知見の有効性は低下せざるを得ない。しかしながら、トリチウム取り扱いや、安全性技術、発電技術等における有用性は確保される。