2.2 実験炉としてのITERとその展開
 原子力委員会が策定した第三段階核融合研究開発基本計画においては、研究開発の目標を、「自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標として実施する。これを達成するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発する。これらの研究開発により、第四段階以降の研究開発に十分な見通しを得ること」と定めた。
 また、この目標を達成するために実施すべき具体的な研究開発の内容として;

1) トカマク型の実験炉による自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を目指した研究開発
(i) 自己点火条件
 自己点火条件(エネルギー増倍率が20程度以上)を達成することを目指し、高性能プラズマの閉じ込め改善、全プラズマ加熱入力に占める高エネルギー・アルファ粒子による加熱入力の比率の向上等に関する研究開発を行う。
(ii) 長時間燃焼
 定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転(1000秒程度以上)を実現することを目指し、高効率電流駆動法、ダイバータ板への熱負荷軽減法、ヘリウム排出法、ディスラプション回避法等に関する研究開発を行う。

とされている。さらに;

(2)炉工学技術
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに、原型炉の研究開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため、実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。
 このため、大型・高磁界の超伝導コイル、遠隔保守技術とその適用が可能な炉構造機器、高熱負荷に耐える高い除熱性能を有するプラズマ対向機器、大出力・長時間動作の加熱・電流駆動装置、トリチウムの製造・増殖・取り扱い技術、ブランケット技術等の研究開発を進めつつ、これらの装置・機器の統合・集約化の技術を確立する。
とされている。
 本節では、上述の目標を達成する実験炉としてのITERの性能とITERを用いた研究開発によって実現されるものについて記述する。また、国際協力としてのITERの意義、国内誘致に関する考察、ITERを支援するトカマク研究について記述する。

2.2.1 ITER
2.2.1.1 ITERの目標
 ITERの計画目標は、平和目的のための核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性を実証することである。この目標を達成するためにITERは、1)定常状態を究極の目標とする重水素・三重水素プラズマの制御された点火及び長時間燃焼を実証し、2)統合されたシステムにおいて核融合炉に不可欠の技術を実証し、3)核融合エネルギーを実用の目的で利用するために必要な高熱流束及び核工学要素の統合された試験等を技術目標として進めている。これらの計画目標及び技術目標を実現するITERにおける具体的な設計諸元は、実験炉に続く原型炉への近接度や建設コスト並びに実験炉の規模によりかなりな幅がある。
 平成4年から10年までの6年間の設計の成果は、平成10年7月に完成した「最終設計報告書、FDR]に記述されており、以下、ITER-FDRと呼ぶが、平成10年に予定した建設への移行は実現しなかった。そこで規模を縮小して建設の実現を図ることとしたが、わが国は、第3段階核融合研究開発基本計画にある通り、核融合炉への研究開発として優先度の高い事項として定常運転を主張し、当初は反対したITERの他極の合意も得た。
 この結果、定常運転という概念を重要目標に据えることによりITERは有意義で低コストな設計が可能となった。

2.2.1.2 目標を達成するための技術ガイドライン概要
 上記のITERの新しい方針に沿って、平成10年にITER理事会で新しい技術ガイドラインを設定し、それを具体化するITERの設計を進めている(表2.2.1.2-1)。このガイドラインは、1)電流駆動による分布制御と高ブートストラップ電流での定常燃焼プラズマ、2)高熱流束の定常機器を含む高効率ダイバータを伴う高性能炉心プラズマ、3)高出力DT燃焼プラズマと両立する超伝導磁石、4)実規模の核融合パワーシステムにおける遠隔保守、5)トリチウム生産ブランケットと構造材料の試験、6)トリチウム技術、という原型炉までに解決が必要な事項の解決を図ることを意図したものである。この「新たな技術ガイドライン」では、主半径6~6.5m、エネルギー増倍率(核融合出力を加熱パワーで除した値)Q>10、燃焼時間300-500秒のパルス運転が達成出来ることを最優先課題とし、定常運転やQ=∞運転の可能性も確保できるように設計を進めている。

表2.2.1.2-1 ITERの技術ガイドライン

 本ガイドラインは、7年間の工学設計活動で得られた最新のプラズマ物理や実証された工学技術成果に基づき、核融合炉の早期実現を強く意識した指針であり、その位置づけは図2.2.1.2-1に示すようにわが国の第三段階核融合研究開発基本計画にも沿ったものであり、また第2.1.1節で述べた要求を包括するものである。

2.2.1.3 基本的設計思想
 新たな技術ガイドラインに沿って、FDRに記載された装置(ITER-FDR)に対するコスト比50%削減を目標とした低コストオプション(ITER)の概念設計検討を進めている。図2.2.1.3-1にITER検討例を示す。主な諸元は、プラズマ電流15~17MA(ITER-FDRの約71%~81%)、核融合出力500~700MW(同比33~47%)、エネルギー増倍率10以上で最大燃焼時間400秒(誘導方式)のプラズマ運転を可能とするものである。

図2.2.1.3-1 ITER-FDRとITER(検討例)のトカマク本体断面比較

2.2.1.4 プラズマ性能
 新たな技術ガイドラインを実現する上で、プラズマ物理性能及び工学技術性能の両面からの検討を進める必要がある。ITERでは、有限のエネルギー増倍率(≧10)で適切な閉じ込め裕度が確保できるように最新のデータベースを基に最適化を図っている。
 閉じ込め性能の指標、"核融合積" <nτT>、 とエネルギー増倍率 Q の間には、<nτT>/<nτT>= Q/(5+Q) の関係がある。ここで、<nτT>= (35 ± 5) x 1020 m-3.s.keV は Q = となるときの値である。図2.2.1.4-1に示すように、Qが1より小さいときは、Q と <nτT> は比例するが、Qが5より大きいときは、<nτT>は飽和してくる。ITERとSSTR とは、Q値は相当離れているが、性能面での核融合積の差は小さいことがわかる。

1)ITERの自己点火(エネルギー増倍率Qが20程度以上)性能
 ITERにおける自己点火(Qが20程度以上)領域での予測運転領域を図2.2.1.4-2に示す。運転領域は、プラズマ密度限界(グリーンワルド密度)、プラズマ圧力限界(ベータ値限界)、及びHモード/Lモード遷移条件等により制限を受け、これらの制限値で囲まれた領域となる。ここで、横軸に示す閉じ込め裕度とは、要求されるエネルギー閉じ込め性能を既存の実験データベースで予測されるエネルギー閉じ込め性能で割った、プラズマ性能の評価上重要な指標である。
 図から分かるように、ITERの場合、グリーンワルド密度の80%程度の密度、規格化ベータ値約2以下で、約15%の閉じ込め裕度を持ってエネルギー増倍率Q=10が達成可能と判断される。また、Q=20の場合には、閉じ込めの劣化に対して約10%の閉じ込め裕度をもって達成可能と判断される。
 なお、Q=の実現性については、図2.2.1.4-2の予測運転領域に示すように、プラズマ電流を高めることにより現状のデータベース(HH=1、グリーンワルド密度の90%)の範囲で実現可能性をもっている。
 従って、2.2.1.2節に述べた技術ガイドラインに従って設計が行われているITERは、第三段階計画が求める「Qが20程度以上」を満たし得ると判断される。

図2.2.1.4-2 ITERにおけるQ=10, Q=20, Q=∞の運転領域

2) ITERの長時間燃焼性能
 ITERにおける燃焼時間は2.2.1.2節に述べた技術ガイドラインでは300~500秒であるものの、定常運転及び新たに誘導と非誘導電流駆動を混成したHモード-ハイブリッド運転、更には負磁気シアモードによる完全定常運転まで、様々な長時間/定常運転モードの研究ができるように配慮されている。ELMy Hモードでのハイブリッド運転は、新たに追記された実現性の見込みが高い運転モードであり、実燃焼核融合環境における統合的工学試験に適した運転モードである。
 図2.2.1.4-3はITERにおけるエネルギー増倍率Qと燃焼時間の関係の評価例を示している。図より、Q=5程度では、2500秒程度の長時間燃焼、Q~7-8程度では1000秒程度の燃焼時間が確保しうると考えられる。また、Q~10程度では400秒程度、Q~20程度では200秒程度の燃焼時間が確保される。

(1) 誘導運転による長時間燃焼
 第三段階計画における、
 「定常炉心プラズマの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転」
を規定する物理的な時間スケールとしては、まず、電流分布の緩和時間が考えられるが、誘導運転の場合、図2.2.1.4-4に示すITERのシミュレーション結果からわかるように、約200秒で定常状態が達成されることから、Q=10-20の高Q燃焼実験においても電流分布の観点ではほぼ緩和した状況を達成し得ると考えられる。
 一方、プラズマー壁相互作用に関する時定数としては、粒子のリサイクリングに関する過程を考慮する必要がある。リサイクリングは壁の温度に依存してガスの吸排特性が大きく変化し、一般的に壁の吸収が準平衡状態に達するのに要する時間は数10秒であることが実験的に確かめられている。また、ITERのプラズマに直面する第1壁及びダイバータ部高熱負荷機器の熱時定数は~300秒と予想している(ブランケットモジュール全体(主に中性子遮蔽部)が熱的に定常状態となるには~700秒必要)。しかしながら、ダイバータの排気時間は10秒程度であり、排気の粒子束は壁からの粒子束の10倍以上とれる。したがって、誘導運転では300-500秒の燃焼時間(ITERでは400秒の燃焼が可能)で、プラズマ特性の準定常条件を達成することが可能であると予測される。

(2) ハイブリッド運転による長時間燃焼
 また、非誘導運転では、図2.2.1.4-5の例に示すように電流のしみ込み(q0)がプラズマ特性の定常性を支配しており、1000秒以上の燃焼時間が必要となる場合もある。このため、ITERではハイブリッド運転を行って、2500秒程度の運転ができるように設計検討を進めている。

(3) 完全非誘導電流駆動による長時間燃焼
 ITERにおける定常運転の実現は、ITERの延長線上に高効率の定常トカマク型核融合原型炉を開発する上で極めて重要である。図2.2.1.4-6には、ITERにおける定常運転領域の検討例を示す。第3.1.4節のELMy Hモード比例則(IPB98(y,2))に対する閉じ込め改善度HHと核融合出力面上で定常運転を実現する条件(密度/グリーンワルド密度(ne/nGW)、規格化ベータ値(βN)、電流駆動パワー(Paux)、エネルギー増倍率(Q))を示す。ELMy Hモード程度の閉じ込め性能では、Q=3程度の定常運転に留まるが、ELMy Hモードに比べて1-2割程度の閉じ込め改善がなされれば、Q=5程度の定常運転の実現が見込める。さらに高い閉じ込め改善が得られ(HH~1.5)、規格化ベータ値として3.5程度が得られればQ=10程度の定常運転も視野に入れることができる。このような、ITERの物理基盤(HH=1,規格化ベータ値≦2.5)を上回るプラズマ性能を得ることができるかどうかは、今後の研究にゆだねるしかないが、少なくともそのようなポテンシャルを持った装置としてITERは設計されている。

図2.2.1.4-6 ELMy Hモード比例則に対する閉じ込め改善度HHと核融合出力面上でのITERにの定常運転領域(温度分布はパラボラ仮定)。エネルギー増倍率Qが5以上、電流駆動パワー100MW以下となる領域を黄色で示す。

 ITERは、比較的強磁場で高いプラズマ密度の運転が可能であり、この特徴により真空容器内機器、特にダイバータへの熱負荷の大幅な低減が期待できると共に、原型炉に向けてダイバータ形状の最適化に対する柔軟性があることも大きな特徴である。

2.2.1.5 工学機器
 トカマクを構成する機器は、プラズマの生成や立ち上げ等に供する中心ソレノイドコイルシステム、プラズマを閉じ込める強力な磁場を形成するトロイダル磁場コイルシステム、プラズマの形状を制御するポロイダル磁場コイルシステム、プラズマ空間を高真空に維持しトリチウムなどを閉じ込める真空容器、燃焼プラズマで発生する中性子や高温プラズマから真空容器を保護すると共に大部分の中性子エネルギーを吸収するブランケット及び燃焼プラズマからのヘリウムや不純物粒子を排気制御するダイバータ等であり、ブランケットの中性子遮蔽機能を除けば基本的にJT-60などの既存トカマク装置と同様である。
 大きな違いは、高いエネルギー増倍率の実燃料燃焼プラズマを長時間閉じ込めることにあり、このためにトリチウム燃料循環システムを備え、また構成機器は準定常もしくは定常的に要求性能を満たす必要がある。また、必要に応じてトリチウムの生産や小規模の発電システムを装備できる柔軟性がある。図2.2.1.3-1にITERトカマク機器構成例と主要諸元を示す。実燃焼プラズマ環境のもとに晒される各トカマク構成機器やトリチウム燃料循環システムは、従来の装置環境では実現できず、原型炉のための重要な工学技術の開発項目である。
 このように、ITERでは2.2節の冒頭に述べた第三段階計画書に記載された様々な工学技術の実証が可能となる。

 ITERにおける具体的機器設計では、コスト的に大きな割合を占める超伝導磁場コイルの最適化が実施されている。特に、トロイダル磁場コイル(TFコイル)では7年間の工学設計を通して達成された製作技術や成果を適用して技術裕度を合理化することにより、運転電流を従来より高めた超伝導導体設計を実施して大幅な小型化と高性能化を図っている(図2.2.1.5-1)。また、より先進的なプラズマ形状を実現するとともにプラズマ位置制御性を向上させるために、高さ方向を分割して各々を制御する分割型中心ソレノイドコイルを採用している。

図2.2.1.5-1 ITERトロイダルコイル性能諸元検討例

 また、真空容器はプラズマからの抵抗要求と構造強度の観点から、内壁と外壁の二重壁構造を採用し、この間をリブで補強した堅牢な構造である。この二重壁間に中性子遮蔽体を配置して、超伝導コイル部における核発熱及びコイル導体部の電気絶縁材の中性子損傷を最小限度にできるように設計している。真空容器内機器では、ブランケット構造体の合理化設計が実施された。ITER検討例では、ブランケットは機能分離の設計概念を積極的に導入して交換の必要なプラズマ第一壁と再使用する中性子遮蔽構造体で構成しており、原型炉で実証されるであろう廃棄物低減に関する構造概念を実証するものである。また、ダイバータはプラズマを閉じ込める磁力線と唯一交叉する位置に取り付けられて、最も高い熱負荷を定常的に処理すると共にプラズマからのヘリウムや不純物粒子を排気できるカセット構造とし、各々の受熱機器は容易に交換できるモジュール構造である。

2.2.2 ITERで実現するも
2.2.2.1 技術目標の達成
 国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合炉に必要なプラズマ閉じ込め性能を達成し、DT核融合反応による大量(500-700MW、300-500秒)のエネルギー生成を人類が初めて実証する試みである。プラズマは非線形であり、線形性が確保される原子炉物理に比べると外挿性が悪い。非線形の代表と言える流体伝熱は無次元則により外挿性を確保しており、プラズマの場合も同様な外挿性は確保できる。非線形性の故に、実験炉の規模でやって初めて見える課題があることも予想されるが、その場合でも、第3.1.2節のJT-60による研究の歴史から、ITER装置の柔軟性の確保、補完装置による課題解決、組織的/人的な広がりなどで計画全体にロバストな構造を持たせることができれば、技術目標は十分達成可能と言えよう。

2.2.2.2 大規模なエネルギー生成と総合技術実証
 核融合開発の中で、ITERは、核融合炉に必要なプラズマ閉じ込め性能(Qが20程度)を初めて達成するわけであるから、分裂炉による原子力エネルギーの平和利用に続いて、原子核の融合反応による新しいエネルギーの平和利用への道を開くという栄誉を担うことになる。また、“地上に太陽を”という国民と研究者のロマンを実現するものでもある。
 一方で、大規模な核融合エネルギー生成を実現するのが、核融合実験炉である。実験炉としての熱出力で言えば、世界で最初の高速実験炉 Clementineの25kWthに比べると20倍以上の熱出力であり、高速増殖原型炉もんじゅの熱出力714MWとほぼ同等である。さらに、その装置規模は、現在概念検討されているトカマク型核融合原型炉や実証炉と同規模である。米国の高速増殖炉開発においては、実験炉レベルだけでも Clementine、EBR-I、EBR-II、E.FERMI I、SEFOR、FFTFと6台も建設しているが、ITERは核融合エネルギーの平和利用への道を開くという役割を含めて多くの役割を果たす点で高速炉の開発戦略と異なっている。さらには、4.1節で述べるように、ITERは多彩な複雑現象の科学の場を提供する。
 核融合炉では地上に自然には存在しない数億度の超高温プラズマを燃焼媒体とするため、固体壁から隔離する強磁場発生用の超伝導磁石、高耐熱機器、14MeV中性子/γ線遮蔽ブランケット、真空容器、超高真空技術、トリチウム取り扱い技術、高エネルギー中性粒子ビーム技術、大電力高周波技術、超高温プラズマ計測技術、遠隔保守技術など多岐にわたる先端技術の開発が必要である。このような核融合炉に必要な炉工学技術は、ITERを実現する炉工学技術としてITER工学設計活動(1992~2001)で大きく進歩している。実験炉の建設によって、先進材料技術と発電技術を除く主要な炉工学技術がほとんど出揃うことが、核融合実験炉の特徴となっている。このような先端技術は分裂炉では必要とされず、高速炉の開発は除熱・高温構造材技術開発が中心であった。以上のことからわかるように、核融合実験炉は発電システムとしての核融合炉の技術統合にむけた大きな価値を付与されている。
 唯一、現在のITERに考慮されていないのは、熱の取り出しがトリチウム増殖ブランケットを用いたHigh Grade Heatとして行われないことである。第三段階計画における実験炉のミッション“自己点火と長時間燃焼”は、分裂炉におけるCritical Assemblyとしての役割に近く、ニュークリア環境下での熱の取り出し技術の試験を行う原子炉の実験炉と核融合実験炉は性格が異なる。トリチウム増殖ブランケットと発電の可能性については、今後の構造材料/ブランケット開発の動向とITERの最初の10年間の研究実績を基に、ITER計画のチェック&レビューを行い、ITER計画の後半の有力なオプションとして考慮すべき事項であろう。そのオプションを残すことが、実用化に要する開発期間の長さとそれに伴うエネルギー事情の変化に柔軟に対応するためには望ましい。但し、当初から、その機能までITERに持たせる必然性はないと考える。分裂炉では、ニュークリア環境下での熱の取り出し技術が長年にわたって研究されておりその英知に学びつつ発電技術の高度化を図る必要がある。

2.2.2.3 ITERによる原型炉物理R&Dと工学試験
 第三段階計画における実験炉による研究開発の内容は現段階で見通せる目標として適切に設定されているし、ITERによる研究開発で達成可能とみなせる。
 実験炉ITERの技術目標が達成された後は、実用化に向けて原型炉の建設を判断するために物理・工学的な基盤の確立を図る必要がある。それは、高ベータ定常運転法やITERを上回るダイバータ熱流束の制御であり、ディスラプションの回避・緩和技術の確立、発電用ブランケット/ダイバータ機器の開発、試験である。これらの事項は、ITERでの試験が確認試験とでも見なせる程度に、実機試験に先立って十分な開発を行い、拡張運転段階(ITERの後半の運転)で実施することになる。

2.2.2.4 実用化へのステップから見たITER
 現段階では、核融合エネルギーは実用化技術(産業技術)と位置付けられているわけではないが、エネルギーとしての利用を目的としている以上、核融合エネルギーの実用化へのステップのあり方を示すことは必要である。核融合開発では、実験炉(大規模な核融合エネルギーの取り出し)、原型炉(発電実証)、実証炉(経済性実証)という高速増殖炉と同様の開発ステップをとってはいるものの、前節で述べたように、実験炉としてのITERは高速増殖炉の実験炉と多くの点で異なっており、核融合の特徴を考慮して決められる各段階の中核装置の技術的内容は高速増殖炉と同じではないし、またそうすべきでもない。国が主導するのは、基本的には、原型炉までの2ステップのみである。2ステップで、産業界が主体になって、核融合実証炉の建設に踏み切れる技術ベースを確立する必要がある。実証炉では、その経済性が最大の課題である。各段階の中核装置の建設コストは、最終製品である実用炉のコストの指標として、常に注目されるところでもあるので、ITERについても、達成すべき目標を見失うことなく、常にコスト低減を念頭において、研究開発を進めることが重要である。

2.2.3 国際協力としてのITER建設の分担理念と意義
 20世紀は「対立」という構図が一方に存在し、これを如何に和らげ、調和を図っていくかが問われた時代であり、科学技術における「協力」もこのことと無関係ではなかった。むしろ、ITER活動の開始がそれまで半世紀に亘って続いた冷戦構造を変える東西融和のシンボル的事業としての先鞭的役割を演じたように、21世紀は「対立」から「協同」の構図へと大きく転換し、あらゆる機能が国際分担と協力によって実施される時代に入りつつある。世界の研究者や技術者が参加する大規模な国際協力としては、米国がホストとなって進められている宇宙ステーション計画や、EUがホストとなって進められている加速器科学計画LHCなどがある。これまでの日本の国際協力はなべて他国が主唱、あるいは主導する場への参加型のものが多かったが、ITERの建設誘致はもしこれが実現すれば、我が国がはじめて「協同」の時代に相応しい大規模な国際協力の主催国としての役割を担う事を意味している。
 第4.5 節に述べるように、核融合の国際協力は花盛りである。どのような国際協力の試みに対しても今や我が国に参加の呼びかけが無いことはない。これは、我が国の核融合研究のレベルの高さを示しており、「協同」の事業を主催するにふさわしい科学技術的ポテンシャルを十分備えていることを示している。一方において国際協力は世界への貢献という崇高な政治・政策的側面と表裏一体として、相互受益があって初めて成立する現実があり、この基本的認識無くして成立するものではないこと、科学技術分野での一つの国際間の戦略的な契約形態でもあることを同時に認識しておく必要がある。

2.2.3.1 ITERの分担理念 - ITERへの投資を何でバランスをとるか -
 ITERへの投資、とくにITERをホストする場合の投資に見合う成果を何で得るのかという議論がある。何でバランスをとるかについて考えられる具体的方法に照らして検討する。

 (1) ITERそのものでバランス
 これはITERだけで投資と受益をバランスさせようとの考え方である。二通りの考え方があり、一つはITER/工学設計活動(EDA)の基本原則である均等貢献、均等受益の理念をITERの建設に際しても採用しょうとするもので、ホスト極にしか出来ない特別なものを除いて、全ての参加極が均等に分担し、成果の共有はもとより運営時における発言権なども全て均等とする考え方である。
 もう一つの考え方は、均等な負担が困難である現実を踏まえて、負担に見合った受益の配分を目指すものであり、現在ITER協定の枠組みの中で予備的検討ではこの考え方で進められている。

 (2) 核融合全体でバランス
 ITERだけでバランスさせる必要はなく、核融合全体でバランスさせれば良いとの見方がある。これは、ITERだけで投資と受益をバランスさせることが困難である場合に持ち出されるもので、例えば、ある極AがITERをホストする場合に、B極が14MeV中性子照射施設を、また、C極が炉心プラズマ支援装置をホストすることによってバランスさせるというような考え方である。ITERの誘致に日、米、EUが熱心であったEDAの初期の頃、解決の一つの方法として「バスケットの中の果物の配分法(Basket of Fruits)」という呼び名で考えられたものである。

 これらに対して、
 1)核融合エネルギー開発を目指す各極においては、独自で開発することと比べれば国際協力によって負担が軽減され、また、より広範な知見が反映されることになるので、分担によって損失を被ることはなく、如何に分担に比べて受益を増やすかが議論の本質である。
 2)核融合の開発は先端的な技術開発の上に成り立つものであり、中核装置の建設(製作)そのものが技術開発の大きな目標となっている。さらに、核融合実験炉は世界に一つだけ建設されるので、ITERの技術が世界の標準となりえるものである。この点が、有る程度のR&Dは必要としても、大型装置の建設そのものは主目的ではなく、装置は単に研究目的を達成するための手段とする加速器科学分野の技術開発とは本質的に異なる点である。したがって、ITERの建設(製作)を分担した国には分担に応じた製作技術が蓄積され、製作の分担をせずに単に情報を得るだけの参加国との間には、技術の修得度に大きな差が生じる。すなわち、投資に相応する製作分担がなされれば、より多くを投資した国が相対的な比較においても決して損失を被ることにはならず、この投資は原型炉建設時のリスク軽減のための有効な投資となる。
 3)現在進められている、ITERの建設や運転に関わる非公式準備協議においても、基本的にはITERだけでのバランスを目指した考えのもとにすすめられている。これまでITER/EDAの「均等負担・均等受益」の考えをそのまま、1カ所にしか建設できないITER建設の分担に持ち込もうとして困難を生じていたが、今や「負担に応じた受益」という現実的な基本理念によって合意を図ろうとしている。
 4)各極の核融合に対するエネルギー開発政策上の位置づけ(必要性、重要度)は国による差異が生じることはやむを得ない面があり、例えば、国内に豊富なエネルギー資源のある米国と殆どのエネルギー資源を輸入に頼っている我が国が核融合研究開発に対して現時点でその重要度を同一視することは困難であり、参加国間で不均等な負担をする場合の原則として「負担に応じた受益」とする考えは現実的である。
 5)しかし、ITERの中でどこを分担すれば相対的にどの程度の益を得るかについては国際的な共通の判断基準が存在するものではない。その判断は各極が既に保有している技術や今後の見通しなど主観的な判断に依存するため、「負担に応じた受益」を巡っての合意形成が国際協議において必要となる。
 6)上記(2)の核融合全体でバランスをとるとの分担方法に関しては、この考えの根本が「均等貢献・均等受益」にあるにもかかわらず、ITERと他の計画との規模の差は10倍程度の開きがあるため、均等な負担になりにくく、「均等貢献・均等受益」の理念をみたすことは困難であった。したがって、当分科会としては、その他の柔軟な分担の考えを排除するものではないが、現在SWGで協議されている「負担に応じた受益」を基本理念とする考えが適切であると考える。

2.2.3.2 社会・経済・安全保障面からみた核融合国際協力の意義
     - 国際社会との繋がりの中で -
 国際協力は資金面や人材面から、より効率的に目的を実現しょうとする面が強調される。しかし、このように科学技術的側面のみから判断すべきものではなく、社会・経済・文化など広い視野に立ち、国際社会における我が国の在り方に関わる課題としての捉え方が必要である。

 (1) 核融合の技術と、核融合が先導して生み出す先端科学技術
     - ITERは将来の糧となるものへの先鞭 -

 資源小国である我が国が戦後の復興期、高度経済成長期を経てめざましい発展を遂げ、その後も2度にわたる石油危機を効率や体質の改善努力によってこれに耐え、世界の一流国の仲間入りをしたことは大変悦ばしいことである。しかし、これまでの我が国の発展が主として自動車産業やエレクトロニクスなど、民生用大量生産品の品質の高さを武器にした輸出によって培われてきたこと、これらの製造技術は発展途上国の急速な追い上げによって将来に亘っての我が国の絶対的優位性は崩れつつあること、その中で競争力を維持するために絶え間のない改変を余儀なくされている現状を認識する必要がある。このように、国際社会の中で現在の我が国の地位が将来にわたって保ち続けられるという保証があるわけではない。
 エネルギー資源や鉱業資源に乏しく、食料も多くを輸入に頼らざるを得ない我が国が、平和を維持しながら国際社会の中で生き続けるには常に高い技術力を身につけ、その技術を背景とした製品の輸出、技術の輸出に頼らざるを得ない。したがって、どのような科学技術分野で国際的地位を保とうとするのかは重要な課題であり、4半世紀、半世紀後の糧を求めようとするならば、今から準備を始めておく必要がある。核融合の装置はそれ自体開発によって得られる先端技術の集積品であると同時に、その技術がもたらす波及効果は広範かつ多様である。我が国がITERによって世界の先頭に立って核融合の開発を主導し、その技術を成熟させることが出来れば、かつての米国が軽水炉の世界戦略を展開したように、技術の輸出によって我が国の糧とすることが可能であり、また、核融合の立脚する広範な科学技術体系を考えれば、これが牽引する波及的技術輸出の効果も重要である。
 核融合で今世界のフロントランナーの地位にある我が国が、ITERを主導出来るか否かがその後4半世紀を経て産業・経済に影響を及ぼす規模での展開において国際的な主導権を握れるか否かの岐路となろう。

 (2) 多面的な人的交流。相互理解の深化。社会的、経済的、政治的緊張緩和への役割。
 核融合の分野では1970年代の後半から国際協力が大々的に展開されてきた。その実施形態は、大きな国際会議から、大小のワークショップ、相互の実験参加や、超伝導コイルLCTなどの共同実験、実験炉INTORや 材料照射用中性子源IFMIFなどの共同設計等、実に多種多様であり、このような協力を通して各国の研究者や事務レベルの担当者のみならず、国の政策決定に関わる人々の間での交流と信頼関係が醸成され、より大きな協力関係の構築に動いてきた現実がある。
 東西の壁がまだ存在していた1985年に米ソの大統領が東西平和希求のシンボル的事業としてITER計画を呼びかけたのも、それまでに核融合に関する国際協力の基盤が整ってきており、新たに大きな進展が望めたからである。そして、このITERの事業は核融合に関してこれまでに行われたどの計画よりも大々的かつ広範であり、これに関与している人々も実に多様である。科学的、技術的活動に参加している研究機関や大学、産業界からの研究者、技術者はもとより、協定の枠組み設定や、事業の監督にあたる関係省庁の関係者、共同活動センターのCADデザイナーや計算機システムエンジニアなどの技術支援員、各極からの派遣員の生活支援や子弟の国際教育に携わる人、これら海外からの滞在者を迎える地元住民や自治体の関係者の数はこれまでの国際協力に比べて桁違いに大きい。
 さらに、これまでの国際協力の殆どが、各国が個別に研究計画や研究目的を持っていて、その目的達成の手段として実施してきたのに対して、ITERの場合は目的もアプローチも全て共同して作り出した事業であることが大きな違いである。このため、参加する研究者・技術者間に求められる相互理解や合意のレベルはこれまでの協力計画にはない高いものが求められ、また、活動を支える政府関係者間の交渉や協議も他の国際協議には見られない厳しさが必要であった。さらに、これらITER活動の参加者が生活面で、社会的、文化的、経済的活動をする場合に生まれる、地域住民や日本各地の人々との対話や交流が国民個人のレベルでの相互理解を育むことと考えられる。ITERが我が国に建設されるようになれば、我が国にとってこのような対話の規模は拡大することになり、交流する人々がもたらす科学技術面以外の役割も大いに期待することが出来る。

 (3) 平和的なディベート、国際的、及び近隣諸国との融和の手段として
 今後の国際協力については、広い視野で見たときの我が国の国際社会、人類史の上での意義についても考慮する必要がある。戦後数十年にわたって、あるいは更に遡って明治維新以来、先進国への「追いつけ、追越せ」をかけ声にして経済的、社会的発展を遂げてきた我が国としては、初めて国際社会への大規模な主導的貢献として研究開発の意義付けが議論される段階に到達したといえる。
 核融合のように、全人類に役立つ分野での主導的な貢献をはたすことができることは、我が国が単に先進国の中で核融合の技術において世界的に優位に立つことではなく、その科学技術や目的の持つ全人類への普遍性の故に、他分野での協議に於いても有効なディベートの手段を持つことを意味する。しかも、この手段は軍事的、或いは経済的手段とはほど遠い、ひとえに平和的な手段であり、国際的な平和を希求する我が国としてITER計画の主導は極めて適切な手段となろう。
 また、我が国の近隣諸国は、最近急速な経済開発に成功した国々や発展途上国が多く、これまでのところ積極的に核融合研究を行い、その成果をいち早く享受する立場にはないが、我が国が核融合開発を進めるにあたっては、近隣の国々も長期的な展望においては利益を得られるようなメカニズムをつくり、それを理解したうえで参加できる体制を確立することが望まれる。ITERのような協力は、先進国の中での役割に加えて、南北間の所得格差、生活水準の大幅な格差を縮める可能性について考察し、努力する機会と捕らえることもできる。

2.2.4 ITERの国内誘致の価値
はじめに
 本報告書では、既にITERそのものの建設の価値については記述したので、本節ではITERを建設するとした場合の、国内に誘致することの価値、並びに誘致にあたって留意しておかなければならない事項を述べる。

2.2.4.1 実験炉建設段階における国際協力と平等の原則について
 実験炉建設へ向けた本国際協力計画は、当初は①資源(人・物・固定資産)の均等提供、②資金の均等負担、③均等貢献(設計・製作・据付・試験・建設・運転)、④成果の均等配分、という「平等の原則」の下に設計作業が開始された。
 この国際協力は、EDA段階までは均等貢献ならびにその活動結果の情報の共有により成果の均等享受が成立した。しかし建設段階を考えると、参加各極が協力して一基の実験炉を建設する事から、完全に平等に物造りの機会とその量が配分され、成果を各極が均等に享受する事は非現実的であるといえる。つまり一基のみの建設は、不平等性の宿命を内包していたといえる。現時点では、各極は、資金分担の点からも平等の原則は不適当との考え方に立っていると思われる。一方、各極ともこうした条件の中で、実験炉以降の自極内での次期炉の建設段階を考えると、そのために必須である中核技術取得のために必要な機器製作の機会は(量は別として)実験炉建設段階においても与えられる事を望んでいると思われる。

以下に実験炉誘致の基本的考え方とその利害得失を記述する。

2.2.4.2 ITER国内誘致の利害得失
 (1)国内誘致に関する基本的考え方
 ITERは、世界の核融合研究開発において重要なマイルストーンとなる、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現ならびに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎形成の達成を実現しようとするものであり、これは参加極全てに共通する目標である。
 したがって、ITERの誘致を考慮する際には、ホスト国が享受できるメリットのみに注目するのではなく、その国にITERが建設されれば、このようなITERの目標を達成する実現可能性が高まることを示すことが重要である。こうしたことから、日本は国内誘致が決まれば、責任を持って着実にこのプロジェクトを推進するという強固な国家的意志をもって当たるとともに、その実現に最大限の努力を払うという姿勢を他極に明確に示しておく必要がある。
 我が国はエネルギー資源に乏しく、世界の中でもエネルギーの安定供給に向けて自立を目指していかなければならない国である。したがって、核融合開発についてのニーズは、欧州やロシア以上に高くITERのようなプロジェクトについては、自らが先頭に立って推進するべき立場にある。日本は核融合分野において、先進国であり、世界をリードできる立場にあり、高度な技術とそれを創生し活用できる層の厚い人材を擁している。さらに、これまでに大型実験装置を含む多くの装置建設経験を有する産業界が存在する。このことは、日本がITERを誘致するための十分な基盤が備わっていることを意味する。
 日本がホスト国として名乗りをあげる場合には、プロジェクトの円滑な遂行に責任ある態度で臨み、また、他極から参加する海外の人に対しては、最先端の研究施設にふさわしいインフラストラクチャーの提供とともに、各種関連情報へのアクセスや研究に参加できる機会が十分開かれるよう配慮する役割があることを念頭において、その実現に努めなければならない。

 (2)国際プロジェクトの取りまとめ、システム統合技術、建設・運転・保守・管理の経験について
 日本がホスト国になる場合には、国際プロジェクトの取りまとめに主導的役割を果たす経験が得られるばかりでなく、システム総合技術の修得や実験炉の建設・運転・保守・管理の経験を積む機会を、我が国の多くの研究者・技術者に与えられるメリットがある。このことは、装置製作・運転・保守・管理に携わる産業界の関連技術ポテンシャルの向上の視点からも特に重要な要素である。我が国がホスト国になれば、このプロジェクト実施にあたって日本の国際貢献の姿勢を世界に示すことになるであろうし、さらに、原型炉段階で使用できるインフラストラクチャーを国内に残すこととなるため、日本の段階的核融合開発の推進にとって、大きな資産になる。
 大型プロジェクトによる研究開発にあたっては、最先端の成果の外挿上に概念を構築し、設計と研究開発(R&D)とを総監しながら全体の調整を行い、最適化した装置の建設を進め、目的とした性能を発揮すべく総合試験を実施するなどの、システム統合の機能や役割が極めて重要である。なぜなら、当該プロジェクトの神髄に関わる性能の確認や技術課題の克服など、全ての重要情報がここに集約され、またここで重要な判断がなされるからであり、ここでの人と技術情報が一体となった技術の蓄積は、将来の展開や発展に極めて重要な役割を果たすことになる。当該プロジェクトの成否が重要と考えたとき、また、実験炉の技術が将来の核融合炉にとって重要と考えたとき、最前線のシステム統合を担う組織に優秀な人材を派遣し、有意な役割を担っていくことが、最も効率的にその技術を発展させ、また、将来の牽引者を育成することに繋がる。すなわち、ホスト国になれば国内という地理的に身近な場所に建設されるため、我が国は他極に比較し、多くの関係する人員が建設等に携わることができるので、その過程をこれら技術者がつぶさに観察・経験できることから、技術蓄積の機会が増えることになる。
 一方、日本がホスト国になるということは、我が国はこのITERプロジェクトが、定められた資金と期間で予定通りに所定の目標が達成されるよう、最大限の努力をしなければならない。このことは、例えば、国内で反対運動などが高まる等のため、ITER計画の遂行に支障が出るようなことになれば、他極に対しても損害を与えることになる。特に我が国への立地を考えたとき、国民の合意形成の問題は重要な項目である。

 (3)核融合開発に対する一般国民の理解・認識の向上について
 現在、我が国では実用原子力発電所が51基運転中であり、一般国民の認識も高いが、核融合開発に対しては、まだ一部の研究機関・大学で研究開発がなされている段階であり、現状のレベルに対する認識や意義に関する理解が必ずしも十分に行き渡っているとは言えない。
 ITER建設という国際協力プロジェクトが、我が国をホスト国として実施されることになれば、核融合開発に関する国民の関心や認識がより一層向上すると考えられる。自国に装置を建設し、世界の研究者が利用するという形態で、我が国がこの国際協力プロジェクトに参加することになれば、日本が国際貢献の面で中心的な役割を担っていることを国内外に示せるものと思われる。また、我が国が核融合発電を将来の重要なエネルギー源の一つと位置づけて開発推進しているという事やその開発段階についての実状の認識が深まるなど、原子力開発利用全体に対する一般国民の理解促進の効果が得られると考えられる。
 しかしながら、近年相次いで発生した原子力事故やデータ改ざんなどの不祥事により、現在、国民の原子力開発に対する信頼は大きく揺らいでいる。国民は原子力に対して安全性と信頼性を兼ね備えた「安心出来る技術」であることの保証を求めている。
 したがって、ITERを国内に誘致し、円滑な研究を推進していくためには、以下の点について現段階から広く各界、各層へ充分な説明を行い、コンセンサスを得ていくことが重要である。また、誘致・建設段階のみならず、長期にわたる運転段階においても、引き続き一般国民に対しては情報を公開し、安全性についての理解を得つつ研究開発活動を進めていくことが肝要である。

①放射性物質の取り扱いと環境影響
 ITERが日本に建設されることになれば、サイト内ではトリチウムを数kg使用する事になり、またそのトリチウムは海外から輸送しなければならない。我が国ではこれまで、60gまでのトリチウムを用いて核融合炉燃料システムの研究開発を行い、現在この分野で世界のトップレベルにある。実際、ITERの燃料循環系を模擬しうるループは、我が国にしか現在存在しない。ITERのプラント内で流通するトリチウムは100gオーダーであり、現在の我が国の技術と経験に基づいて十分見通せる範囲であるが、そのことは一般に十分認識されているとは言えない。ITERのトリチウム取り扱いについては、その安全対策についての説明を行い、理解を求める必要がある。
 また、核融合反応に伴って発生する強力な中性子により、廃止措置まで含めると、約四万トンの核融合炉構造材料が放射化物質として生ずる。これら放射性廃棄物は計画終了後も一定期間にわたり継続管理しなければならない。その安全管理方法、処理処分方法等は、通常の低レベル放射性廃棄物と同様であり、技術的に確立しているが、ITERについての具体的な安全確保策についての説明を行い、理解を求める必要がある。

②ITERの建設・運転・利用・運転終了の全期間にわたるサイト周辺地域への影響
 ITERの建設から運転終了までの長期間にわたって、どのようなこと(実験等)が実施され、それらに伴ってサイト周辺へどのような影響があり得るかについて説明し、理解を得ることが重要である。大規模なプラントであるため、通常時の運転についても、廃熱、トリチウム放出、取水、生態系への影響など環境影響の評価と説明が必要であろう。

③住民の安全に関する理解
 安全性に関しては、ITER建設に先駆けて、想定し難い事故をも考慮して、安全審査に基づいて建設が進められる事になろう。ITERの運転終了までの全工程を通しての具体的な安全確保策等についての説明を行い、理解を求めておくことが必要である。運転開始後は、安全運転を確保するとともに、情報を迅速・正確に発表し、地元住民の安心感を培うことが必要である。

④研究開発プロジェクトとしての特殊性
 ITERは実験を行うという性格を持つとともに、世界で初めて作られる大型核融合装置であるため、常時決められた運転を行うプラントと異なる。この点について、社会の理解を得る必要がある。安全上の懸念は無くても、予定外の故障等が生じる可能性があることや、運転内容や手順、計画の変更があり得ることについて説明を行い、理解を求めておくことが重要である。

 (4)諸規制と許認可手続きの確立および建設コストへの影響について
 実験炉建設にかかわる許認可は、ホスト極の法令に従うことになると考えられるため、日本に建設されることになれば、我が国の安全基準が適用されることになる。したがって、耐震設計などの面で、他極に建設される場合に比較して、基準・規制が厳しいものとなるならば、建設費の増大につながるため、経費の点からはディメリットとなる。
 しかしながら一方、我が国では他極に先がけて規制体制や許認可手続きを確立できることになる。このことはITER以降の段階で他極に次期核融合炉が建設される場合に、我が国での建設経験をモデルとして、他極の規制や許認可手続き基準が作られることになり、この面での国際貢献ができるというメリットがある。また、我が国に実験炉ITERが建設されることになれば、核融合炉の安全規制や許認可手続きが整備される中で、これらに呼応した設計基準が作られることになるが、これはかつて軽水炉の実用化にいたる過程で米国が整備したASMEコードに相当するものである。すなわち、ITERを我が国に建設することになれば、核融合炉に対する我が国の基準が世界の基準になり得ることを意味しており、これは世界への貢献と同時に、我が国産業界による将来の核融合炉技術の輸出を有利なものとなし得る手段を手にすることを意味している。

 (5)資金負担について
 2000年1月に行われたITER会合に報告されたITER特別作業部会報告によると、「建設に係る共通範囲のコスト(超伝導コイル等、各極が共通して技術的に貢献可能な機器のコスト、建設コストの約3/4と見込まれる)は各極が可能な限り均衡(balanced)に分担」、また、「ホスト極は、残りの建設コストを分担すると共に、「ITERサイト要件」を満たすサイト準備のためのコストを負担」とされている。したがって、我が国がホスト極になることを想定した場合、最も多くの資金分担をすることになるであろう。しかしながら、ITERが我が国の第三段階核融合研究開発基本計画の中核装置に位置付けられていることからも、今後長期間にわたるITERの建設・運転を成功に導くことは、将来の我が国の核融合開発の円滑な推進上極めて重要であると考える。一方、この資金分担は、我が国の他の科学技術分野の発展に影響するのではないか、またITERへの研究開発費の集中が進めば、多様な実験研究が困難になり、国内の創造性ある研究の実施を阻害する影響が出るのではないか、という懸念が生じる可能性もある。したがって、ITERへのホスト国としての応分の資金負担と同時に、他の科学分野やITER以外の国内核融合研究開発への適正な予算措置を図っていくことが強く望まれる。

 (6)地域振興効果について
 実験炉建設に関連して、社会的なインフラストラクチャーの整備や建設に伴って地元からの資材の調達、雇用機会の増大なども見込まれることになる。さらに、建設、運転、運転終了の各段階では、各極からの研究者・技術者、建設関係者ならびにその家族が、実験炉建設地を含む周辺地域で長期間にわたり生活することになる。このため、住居、教育設備など生活関連施設の充実とともに、地元地域での消費の拡大や異文化交流による地域の国際化が図られるなど、サイト周辺の地域振興効果はかなり大きいものと予測される。また、国際協力プロジェクトの誘致により、世界の先端技術研究センターとしての地域のイメージアップにもつながるものと考えられる。

 以上述べたとおり、ITER誘致に関しては各種の利害得失が考えられる。しかし総体的に評価すると、我が国がホスト国としてITERを国内に建設し、核融合エネルギーの実現へ向けてその役割と国際的な貢献を果たしていく意義は大きいと考える。

参考文献: 「ITER建設段階を想定した産業界の考え方」 日本原子力産業会議

2.2.5 ITERを支援するトカマク研究
2.2.5.1 先進・補完研究の位置付け
 我が国の核融合研究開発を定める「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年、原子力委員会策定:以下、第三段階計画)の中で、先進・補完研究の必要性が明確に示されている(図2.1.1-2)。今後ともこれに則り、日本原子力研究所及び大学等において、「実験炉による研究開発だけでは十分解明できない炉心プラズマ技術分野の課題を解明するための補完的な研究開発(補完的研究)」及び「実験炉に新技術を取り入れる前に確認・実証を行うための先進的研究開発(先進的研究)」を推進し、ITERを支援していかなければならない。
 2.2.1節に述べたコンパクトなITERへの展開を図ったITER計画においては、核燃焼プラズマの研究に加えて、核融合炉の定常運転に向けた炉心研究がますます重要となってきている。現在最も有力な原型炉概念である定常トカマク炉構想(SSTR)は、このITERで実証される科学的・技術的基盤の延長線上に位置付けられることから、ITERを支援する先進・補完研究は、原型炉へ向けた研究開発課題と密接に結びついている[2.2.5-1]。核融合炉の定常運転を目指す先進トカマク研究を進め、高ベータプラズマ並びに高閉じ込めと両立する高密度・高放射率プラズマの生成と長時間制御に取り組んでいく必要がある[2.2.5-2]。
 一方、トカマクプラズマ研究の歴史において、Hモード等の閉じ込め改善モードの発見、高周波電流駆動研究の原理実証実験などのプラズマ高性能化に関する多くの研究に対して、国内外における数多くの中小規模のプラズマ実験装置は、その牽引車としての役割を果たしてきた。従ってITERにおけるプラズマ性能の質的向上を図る上でも、ITERプラズマに直結した補完的研究のみならず、高い機動性を有した中小装置を積極的に活用して、多角的側面からの先進プラズマ研究を実施することも肝要である。しかも、大学等を中心としたこのような先駆的・萌芽的研究は、核融合研究の裾野を広げる上でも大いに貢献するものであり、ITER計画の基盤充実の観点からも非常に重要である。

2.2.5.2 ITERを支援する研究の現状
1) 国内の現状と研究課題
 JT-60は、定常炉心プラズマ概念の原理実証を行い、先進運転により臨界プラズマ条件を超える世界最高性能のプラズマを生成するなど、定常核融合炉に向けた炉心プラズマ研究の成果で世界を先導し、コンパクトなITERへの展開に大きな役割を果たしてきた[2.2.5-1]。しかし、ITERやSSTRのプラズマ条件との比較において、高ベータ化、高密度化、ダイバータ熱負荷制御の面で課題を残しており、現在、同時達成性能の改善に向けて実験を重ねている(図2.2.5-1)。

図2.2.5-1 同時達成性能の向上の必要性

 JFT-2Mは機動性の高い中型トカマク装置として、先駆的な研究課題を選択し、JT-60を補完する役割を担っている。その中で、世界的にも未だ例を見ない、先進的な低放射化フェライト鋼(核融合炉構造材料の最有力候補)の利用に係わる原理検証的実験に着手した[第3.1節参照]。この先進材料プラズマ試験計画の推進は、核融合会議計画推進小委員会(核融合炉構造材料開発ワーキンググループ)の審議に基づく核融合構造材料開発への重要な貢献として位置付けられている[2.2.5-3]。
 大学におけるトカマク研究は、1970年代においてTORIUT、TNT、HYBTOK、NOVA、OTなどの小型装置が建設・運転され、プラズマ加熱・制御に関する先駆的・萌芽的研究が推進されてきた。特にその当時のMHD特性に関する研究などは、現在のトカマク研究へと受け継がれてきている。またこれらの装置による研究において、その研究成果と同時に数多くの人材を輩出してきた点も見逃せない。中規模トカマクとして長年稼動してきたJIPP T-II/T-IIU装置(日本)では、大電力高周波加熱による閉じ込め特性の評価、各種の高周波加熱・電流駆動実験、精緻なプラズマ計測による閉じ込め機構の解明、などの分野において先駆的な研究を推進してきた。また現在のトカマク研究における中心的課題である電流分布制御とプラズマ閉じ込め特性との関連に関する研究も、世界に先駆けて行っており、いわゆる負磁気シア分布の重要性を指摘している。
 トカマクの定常化にとって、非誘導方式による電流駆動は必須である。WT-2/WT-3トカマク装置(日本)では、高周波電流駆動研究にいち早く着手し、低域混成波(LHW:Lower Hybrid Wave)による電流駆動に成功した。その後、高周波のみによる電流立ち上げや、電子サイクロトロン波(ECW:Electron Cyclotron Wave)による電流駆動実験などにも成功し、電流駆動研究の牽引車的な役割を果してきた[2.2.5-4]。
 トカマクの定常化研究は、超伝導装置であるTRIAM-1M装置(日本)に引き継がれてきている。TRIAM-1M装置では、低域混成波を用いた電流駆動により、2時間を超える超ロングパルスのトカマク放電に成功した(図3.1.5-2参照)。これは既存のトカマク装置が、高々数十秒の放電時間であるのに対して、画期的な長さであり、ITER装置の標準的運転時間(数百秒)より長い。なおこのような長時間放電における課題として、プラズマ・壁相互作用の重要性、データ収集系の課題などが指摘されており、ITERをはじめとした超ロングパルス運転などの計画に対して大変有益な寄与をしている。なお最近では、数keVの高イオン温度、負磁気シア-電流分布、高密度電流駆動実験などでも成果を挙げており、大型トカマク装置での研究と相補的な先進トカマク研究としての役割を果している[2.2.5-5]。

2) 先進トカマク研究の現状と展望
1998年10月に横浜で開催されたIAEA国際会議の報告によれば、トカマク研究の現状において、表2.2.5-1の通り、常伝導トカマクでは閉じ込め改善を中心とする高性能化研究について幅広い研究が行われているものの、長時間プラズマ運転を含めた定常化研究については必ずしも充分な取り組みがなされていない[2.2.5-1]。

表2.2.5-1 先進トカマク研究の現状

 図2.2.5-2において、ITER及び代表的なトカマク装置(計画中を含む)のプラズマ寸法と形状と比較した。既存の超伝導トカマク(TRIAM-1M、Tore Supra)は、トロイダル磁場コイルのみの超伝導化あるいは円形プラズマ断面であるため、非円形プラズマ制御を備えた全超伝導トカマクによる先進的な研究開発が望まれる。

 現在、国レベルで認可されている中規模以上のトカマク建設計画は、韓国のKSTAR装置(主半径1.8 m)と中国のHT-7U装置(主半径1.7 m)のみであり、いずれも全超伝導トカマクであるが、等価エネルギー増倍率で0.1未満の低いプラズマ性能目標に留まっている。また、1999年7月に米国で開催されたスノーマス会議の報告[2.2.5-6]によれば、ヨーロッパでは、1999年を越えるJETの運転延長が検討されるとともに、加熱パワーを増力することでより高いα加熱を目指した改造計画(QDT<2)の検討が進められている。
 10年に及ぶITER建設期においては、ITERの実機製作に反映可能な研究開発(ダイバータ構造など)や、ITERの運転に必要な研究開発(長時間プラズマ制御技術など)を実施することが重要である。すなわち、ITERと相似なプラズマ断面形状やダイバータ構造を採用した実験をITER建設期に実施することにより、ダイバータ設計の改良、種々の運転方式の最適化や改良への方向付け、遠隔実験参加も含めたITERの運転形態の模擬などへ取り組みがITERへの直接的な貢献となる。さらに、原型炉で必要な高ベータ化や高ベータ・プラズマの長時間制御など、ITERの補完研究を実施し、ITER計画と並行して研究開発を着実に進めることが肝要である。また、ITERを支援する研究の広がりの観点からは、燃料注入、リサイクリング、電流駆動、電流密度分布、断面形状等の制御法などの研究を大学等で推進することが肝要である。これはまた核融合研究の裾野を広げ、新進気鋭の若手研究者養成に役立つものである。

2.2.5.3 今後の重要な研究課題
1) 高性能・高ベータプラズマの長時間制御
 ITERで必要となる規格化ベータ値 βNは、誘導方式で~2、定常運転(完全電流駆動)で3程度であり、これらを実現するため、高非円形(κ≧1.7程度)かつ高三角度(δ~0.35程度)のプラズマ配位を採用している。このように、安定性の改善と閉じ込め性能の改善を両立させるため、非円形度と三角度を同時に高める必要がある。βN~3の準定常運転はJT-60等で実現しているが、ITERの運転裕度の向上に向けて高性能プラズマの定常化研究を発展させるためには、ITERで重要性が増しているプラズマ断面形状制御に優れたプラズマによる長時間運転の実証が重要である。
 さらに、発電実証を行う原型炉や経済性実証を行う実証炉では、ITERの目標を上回るベータ値(βN~3.5-4)が必要となる。長パルス運転時に予測される不安定性(抵抗性壁モード、新古典ティアリングモード等)を抑制しベータ値をできるだけ高めるために、近接導体壁と高ベータ安定化コイルによる不安定性の帰還制御、ビーム入射によるプラズマ回転制御、局所高周波電流駆動などの先進的な研究開発を先行的に導入し、高ベータプラズマ制御の技術基盤を確立していくことが必要である。

2) 高密度・高放射率プラズマの長時間制御
 JT-60では、ITER-FDR設計に対応した低三角度配位に対する排気ダイバータとしてW型ダイバータを用い、高いヘリウム排気性能を実証するとともに、ドーム効果によって炭素不純物の発生の抑制効果を実証した。しかし、ITERで想定している先進ダイバータを、ITERと同等のプラズマ配位で実証した例は未だない。今後は、ITERの高非円形・高三角度配位に対応する排気ダイバータを設け、高いヘリウム排気性能を確保しつつ、バッフルの構造を工夫して、粒子の逆流防止効果を高めることにより、高い閉じ込め性能と両立するダイバータ放射冷却技術を開発していくことが、ITERにおけるダイバータ構造の改良にとって重要な貢献となる。
 ITERで重視されている定常運転(約50~60%のブートストラップ電流割合)の実現のためには、高ブートストラップ電流割合での完全電流駆動プラズマの生成とその長時間制御が重要な課題である。JT-60は世界に先駆けて、負磁気シアプラズマにより80%の高ブートストラップ電流割合をもつ高性能プラズマの準定常維持を実現したが、グリーンワルド密度指数やダイバータ放射率はITERの定常運転シナリオに比べてまだ低い。ITERで採用される非円形断面プラズマ制御やダイバータ制御技術等を取り入れてこれらを改善し、炉心整合性のある完全電流駆動プラズマの長時間制御への取り組みを通じて、ITER及び原型炉に向けた定常運転法を確立していく必要がある。

2.2.5.4 今後の展望
 ITERを支援する研究の展開に当たっては、我が国において築かれた世界最先端の核融合研究設備を最大限に利用することが合理的である。ITERで採用が予定されている諸技術・機能を可能な限り取り入れ、ITERの運転を模擬する研究開発に重点を置くことにより、優れた断面形状制御性、高い定常運転性能、先進ダイバータによる熱粒子制御、長時間制御を通じてITERの運転シナリオの最適化に貢献することが望ましい。
 また、三重水素を使用したQ~1の核燃焼プラズマの研究はJET等による研究に任せ、先進・補完研究の国際的な分業を図るべきであろう。
ITER建設期におけるトカマク研究の継続は、我が国の最先端の研究レベル・技術力を維持・発展させるだけでなく、ITERの運転に向けた人材育成の側面からも確実に貢献する点で大きな意義がある。特に、ITERによる開発研究のリーダーシップをとる指導的な実験・理論研究者や運転員の育成のためにも極めて重要である。
 上述の役割のうち、共通基盤としてのプラズマ物理、人材育成としての役割は、第4.3節で述べるトカマク方式以外の閉じ込め方式にも当てはまり、広い意味でITERを支援する研究として重要な役割を果たし得る。

参考文献

[2.2.5-1]石田 真一、「ITERをサポートするトカマク研究」、原子力委員会第14回核融合会議開発戦略検討分科会、資料14-3号、平成11年7月30日
[2.2.5-2]鎌田 裕、他、「核融合炉の実用化にいたる炉心プラズマ研究課題について」、原子力委員会第5回核融合会議開発戦略検討分科会、資料5-4号、平成10年10月7日
[2.2.5-3]核融合会議計画推進小委員会、「中期的展望に立った核融合炉第一壁構造材料の開発の進め方について」、平成12年5月17日
[2.2.5-4]嘩道 恭、 「WTトカマクの研究」、本分科会、資料17-4号
[2.2.5-5]伊藤智之、「超伝導強トロイダル磁場実験装置「TRIAM-1M」の現状と将来計画」、本分科会、資料 18-3号
[2.2.5-6]スノーマス会議、平成11年7月、米国