第2章 ITERを基調とした核融合エネルギー実現への開発戦略
2.1 実用化のためのアプローチ
2.1.1 核融合エネルギー実現に必要な研究開発
 人類全体の安定的なエネルギーを目指すという核融合エネルギー開発の目的は、実用核融合炉を市場に供給して始めて達成される。実用化にあたっては核融合炉発電システムとしての技術を確立するとともに、実用システムとして他のエネルギーシステムと市場で競合できるような経済性を有する必要がある。
 ITER計画懇談会の中間報告書にもあるように、実用化時点でのエネルギー事情を予想し実用システムとしての市場競争力をもった核融合炉を現時点で詳細に目標設定することは困難である。当検討分科会としては、実用炉の目標設定に当たって要請される市場競争力の幅を認識するために、21世紀中ー後半のエネルギーコストの幅として送電端発電単価7~15円/kWh(0.7-1.5COEn)を妥当な想定範囲と考えた。エネルギーコストに関する立地・廃炉などの他の要因を踏まえ、実用化目標領域としては、建設単価として30万円/kW~50万円/kW程度を実現することが望まれる。この目標を達成するためには、スケールメリットを利用して比較的高出力の炉を開発することが有望である。
 一方、エネルギーは生産の方法、供給の方法によっては社会的インパクトが大きく、このために生じる社会的要求は、消費の動向や経済性のみで決まるものではなく、環境保全性、安全性、エネルギーセキュリティなど様々な側面があることに留意する必要がある。さらに、核融合の実用化を目指す際には、他のエネルギー源が使用不可能になったときに直ちに期待される技術として、また、他のエネルギー源にない特徴を十分に生かした、大規模エネルギーとしての供給安定性、安全性、燃料サイクルの自立性などを具備したエネルギーシステムとして開発する必要がある。
 これらの社会的な要求に応える核融合エネルギー実現のためには、炉心プラズマ技術と炉工学技術間でバランスが取れた技術開発戦略が必要である。核分裂炉の例では、動力炉の実証段階では重水炉、黒鉛炉など極めて多くの炉型が建設、試験された。軽水炉への集中は、市場競争段階で生じてきたものである。核融合開発においても、市場の要求、技術開発の結果が明らかにならない原型炉までの段階では、柔軟な炉型選択の可能性を残しつつ広範な研究開発を進めることが、その後の実用化段階での展開をロバストなものにするために必要と考えられる。

(1) 研究開発から実用化の流れ
 新しいエネルギーが市場に定着するまでの過程を長期的な視野に立って見たとき、エネルギー生産の技術が確立されるまでの「研究開発」が必要な段階と、これらの技術をその後の継続的な改良によって市場に定着させる「実用化・利用」の段階があろう。研究開発段階で示すべき技術的フィジビリティは、他のエネルギー源が使用不可能になったときには代替エネルギー源として機能できるレベルであり、実際に核融合エネルギーを安定に発生でき、数十万kWレベルの発電がプラントとして実証されていなければならない。そのための装置は実用炉の全ての構成要素機器を備えていること、及びこの後の実用化・利用の段階において十分な魅力を有するような経済的見通しを有していることが必要である。その意味でこの最初の発電プラントは実用核融合炉の「原型」であり、その目標は現在の化石エネルギーや原子力エネルギーに匹敵する核融合発電炉技術の確立によって達成され、それ以前の開発が如何なるアプローチを採るかに依存せずに到達すべき、研究開発段階を完結させる装置でもある。それは、核融合研究開発がエネルギーの実現を目指す以上、ITERに向けての研究開発を「エネルギー開発」とみるか、「エネルギー科学」とみるかといった切り口に無関係に必要な、避けては通れないパスである。一方、この十年間の磁気核融合の研究開発と核融合炉の設計研究の成果から、発電プラントとして目指すべき原型炉の目標領域の中心部がより明確になってきている。
 研究開発段階の後に続く「実用化・利用」の段階は、21世紀中頃から後半にかけて進められ、民間主導による技術の改良によってもたらされる、エネルギー発生方式として意義を持つ社会的・商用的フィジビリティが問われるものである。市場競争力において他のエネルギー源に対して優位に立ち、商業的に魅力あるものとするための、高性能化、高効率化、合理化、標準化、単純化の追求など、絶え間ざる技術の改良が行われることは核分裂炉など他のエネルギーの場合と同様である。この段階では、エネルギー生産に対する多様な社会的要求に対応して、複数の設計オプションが共存し、経済性や社会的受容性の向上は、商品開発、改良の過程で行われる。この段階にどれくらいの期間を要するかは技術以外の要件、例えば、エネルギー需給や、安全性、環境保全への世論、他の選択肢などに依存して決まるため、現時点で実用化・利用段階の 開発計画を詳細に策定することは適切でなく、将来その時代の要請に応じて成すべき課題と考える。
 核融合炉実現への長期的な開発計画を考える上での技術的及び社会的要請として、「全体として最小のコスト、最短期間、最小限の開発リスクで実現できるものであること」との指針を十分考慮する必要が有る。しかし、先に述べたように、実用化段階までの長期的な研究開発では、技術的成立性実証を目指す原型炉までの研究開発段階と、重点的に経済性向上と信頼性向上を達成しつつ市場への参入拡大をはかる実用化段階では技術開発の性格が異なり、また、先に進むほどエネルギー利用形態の多様な可能性のために、目標領域の幅は広がる。したがって、上記要請は実用化段階のあるべき姿を強く認識しつつも、当面現在の知見で合理的に立案可能な原型炉までの研究開発計画に重点を置いて考慮する事が適切と考える。
 さらに、核融合炉の場合、核融合出力は多くのプラズマパラメータに依存するため、多様な設計が可能である。このため、ただ一つ最適な装置概念が成立するのではなく、炉心プラズマパラメータに関しては目標領域で示される性格のものである。さらに、そのような核融合炉は、今後のプラズマ物理の進展、炉工学技術の発展の見通しなどによって、性能予測の精度の向上とともに目標の方向性も変わり得るものであり、適切なタイミングでの成果のレビューと目標の修正は必要不可欠である。

(2) 発電プラント原型炉と、その開発に必要な研究開発
 このような発電プラント原型炉に求められることは、
 1) 核融合エネルギーによる発電を実用化に繋がり得る技術において実証すること、
 2) 実用化に繋がり得る経済性についての見通しが盛り込まれていること、
であり、このためには装置がコンパクトで、高いエネルギー増倍率で定常的な炉心プラズマの運転ができ、発電を行いつつトリチウム燃料の自己供給が可能で、かつ材料についての基本的な課題が解決され、実用化への見通しが出来ていることが求められる。
 このような原型炉を開発段階の最終目標としたときの具体的な技術課題は、炉心プラズマについては、まず正味のエネルギー供給を可能とするQが30程度以上の定常連続核燃焼、高い自発電流率、駆動電流制御、中心プラズマ性能とダイバータの定常状態での両立性などが目標となる。炉工学分野では、超伝導コイルなど炉本体を構成する主要機器技術、遠隔保守技術、高い積算中性子照射に耐える材料、発電ブランケット技術、初装荷・増殖・廃棄物処理処分を含めたトリチウム燃料サイクル、低放射化材料、加熱・電流駆動装置技術、計測・制御技術が中心であり、それぞれについて技術的な実証試験が進められる。
 これらの研究課題にたいして、実験や研究開発(R&D)をすることなくいきなり原型炉を建設することは不可能であるため、如何なる研究開発のアプローチを採ることにより、適正なリスク、合理的な資金配分と開発期間で目標に到達できるかが論点となる。より具体的には、

 1) 原型炉に必要なさまざまなや技術やプラズマ特性を、目標を分割した複数の装置による試験を実施するだけで原型炉を建設できるか?
 2) 原型炉建設に先立って、原型炉を構成する要素技術の多くを含んだ一つの統合装置による工学システムや総合プラズマ性能の実証が必要か?
 3) 必要とすればどのようなステップを踏めばよいか?
が論点であり、また、統合装置を必要とした場合に、現在、建設に着手すべき技術レベルに達しているか否かが議論の対象となる。

(A) 多岐路線(モジュラー・アプローチ)
 これはITERのような大型統合装置を建設せずに、原型炉に向けての研究開発課題を分割し、複数の装置によって進めて、それらの結果から直接原型炉を建設できないかという検討である。
 この場合、炉心プラズマの開発目標の分割が論点となる。代表例として、一時米国で考えられたモジュラー方式がある。これは、実験炉建設以前の研究課題として、自己点火条件におけるプラズマの挙動に関する物理研究と長時間の定常プラズマ運転の研究が必要との観点から、実験炉よりも低コスト小型の次のような複数の目的別試験装置を考えるものである。

イ) DT反応による自己点火条件の達成を目的とした短時間パルス(約10秒程度)のプラズマ燃焼炉(常伝導銅コイル)、
ロ) DD反応による長時間定常プラズマ炉(超伝導コイル使用の場合、数100秒のパルス長)、
ハ) 材料開発用中性子照射装置。
 イ)-ハ)の装置を開発し、プラズマ物理やプラズマ制御の研究を並行に進展させたうえで、DEMO(発電実証目的、原型炉相当)を建設するとの考えである。

 このようなアプローチがITERの代替になり得るのか否かが米国も含めた国際的な場[2.1.1-1]で議論された。その結果、「イ)、ロ) の方式では遙かに低い核融合出力条件下、または遙かに短いパルス幅でしか実験できないこと、プラズマの統合的性質、例えば物理性能として重要な定常運転での核燃焼プラズマの課題や、核反応加熱、閉じ込め障壁、圧力や電流分布制御、ダイバータとの共存性の相互関連は統合装置でしか実験できないこと、プラズマと工学技術の統合的課題を調べられないこと、たとえばプラズマと構造物の電・磁・熱的連成問題を核融合炉に近い大規模条件で解決できないこと、また、複合環境(中性子場、温度場、腐食、疲労)のもとでの機器特性に関連した問題を解決することができないこと、及び原型炉に向かって必要なブランケット・モジュールの試験などの工学技術開発が出来ないこと」との認識に至った。このように、このアプローチは長期的な視野を欠いているため実験炉ITERの代替とはなり得ず、結局は原型炉の前にITERに匹敵する統合装置が必要となり、大きな資金が余分に必要、かつ核融合の研究開発を10年以上に亘って遅らせることになるとの結論となった。
 モジュラー方式は、自己点火条件でのプラズマの挙動や定常プラズマの制御技術の進展に寄与すると考えられるが、核燃焼プラズマの定常運転性を調べることが出来ないなど、DEMOまたは原型炉に対する外挿性やシステム統合の面で、開発期間やコスト面でのリスクを大きく増加させると考えられる。
 当分科会は、上記の結論を支持すると共に、工学技術開発を進める上でも原型炉に先だって中間段階の統合装置建設が必要と考える。

(B) 統合装置の役割と実験炉の必要性
 我々が日頃恩恵を受けている電力生産は、技術的には設計-製作-運転・管理のプロセスからなる。設計は忠実になされ、機器はおおむね設計通りに機能する。しかし、このように実用化段階にある技術の場合でさえ、個々の機器が全て100%の性能を出すとは限らないことを常に考慮しておく必要がある。これは設計段階で予測できないことが多々存在するためである。時間的に発展する物事の行方は正確に予測することは不可能であり、この視点から段階的な技術開発は人間の不完全性を補うための、一つの英知といえる手法である。ステップを刻んで、その中核装置でインテグレーションを行い、経験を積んでいくのは人間にとってごく自然な手法であると考えられる。
 統合装置の建設はプラズマ性能や工学要素技術など個々の要素の技術的成立性と同時に、システムとしての技術的成立性をも実証し得る。さらに、長期的な研究開発を考えた場合、このような統合は、合理的な範囲で出来る限り早く実施することが望ましい。これは、次の段階の目標設定に関わる不確定性を狭めるとともに、実験や運転、保守、改造などを通して得られる運転限界や故障事例などの貴重なデータや問題克服の経験が技術の成熟度を高め、早い段階から効率やコストの合理化に取り組むことが出来るからである。すなわち、統合システムとしての試験や運転によって、単に要素技術の集積としての総合的性能が実証されるだけでなく、初めて信頼性向上やコスト合理化に必要な各要素機器技術やシステム制御技術への改良要求が明らかとなり、この指針に基づいた改良が次の段階の統合化に生かされる。この循環が技術的成熟度を高める上で不可欠なものである。このためには、将来の核融合炉を構成する要素技術を統合化した、可能な限り炉に近い環境の大型装置を製作し、運転することが必要である。
 但し、見通しが困難な未成熟な要素技術を無理に統合化してしまうと、装置全体が機能を発揮できず、統合化の目的が達成できなくなる。したがって、個々の要素技術をどの段階で統合化すべきかは、長期的な研究開発中の、極めて重要なバランスの問題である。
 長期的な核融合炉開発を見たとき、とりわけ要素研究開発や理論解析を進めただけでは予測が困難なのが自律性が高い核燃焼定常プラズマの振る舞いであり、他方、プラズマの性能如何がその後の核融合炉の方向性に大きな影響を及ぼすことから、先ず第一にこれを実験的に把握することが核融合研究開発の中で一番重要で大きな課題である。このためには発電プラント原型炉に先だって、現状と原型炉の間にこれらの課題を見極め解決する装置として、実験炉が必要である。
 このような役割を持った実験炉を実現するために、装置に必然的に統合される工学技術と、実験炉での統合化が必然ではなく次の段階の原型炉で良いものとがある。発電ブランケット技術を除く炉工学技術は全て必然的に必要であり、実験炉で取り込むべきか、否かが検討の対象となるのは材料の選択と、それによって方式が異なる発電ブランケット技術のみである。図2.1.1-1は工学技術に関する統合化の段階を表したもので、後で述べるように、核燃焼プラズマの高い重要性、材料開発の技術的成熟度を総合的に考えて、発電ブランケットの完全統合化は原型炉の段階が適当と考える。

図2.1.1-1 発電プラント核融合炉に向けての技術の統合

(3) 段階的開発と中核装置
 統合装置にプラズマ物理や工学技術を統合しながら研究開発を進めていく場合、当該統合装置が中核的な役割を演ずる期間に対応して「段階」を定義する。また、次の統合装置に向けて必要な準備をすすめ、この活動が終わった段階で全ての成果の評価と、それに基づいた次期計画策定を行い、段階的に開発を進めていくことを段階的開発と呼んでいる。この場合、これらの多額の研究開発への投資にあたっては、計画が社会的要請や、研究実績等に照らし合わせて、十分満足が行く進捗が得られているかが重要である。さらに、研究の活力を維持し続けるには常に中期的で明確な目標を持つことが重要である。そのためにも、長期にわたる開発計画の中で、マイルストーンを段階的に設定する必要があり、これが中核装置の目標となるものであり、中核装置の担うべき役割と、次の段階への繋がりの明確化が必要である。
 段階的開発の基本的な考え方は、(1)前段階までの技術やプラズマに関する知見を統合し中核装置を建設・運転し、統合化されたミッションを達成するとともに、(2)並行して炉心プラズマ技術と材料を含めた炉工学技術の高度化を図り、次の段階の中核装置の計画策定や方式選定に必要な技術開発を進めることである。
 現在建設の是非を議論している実験炉に関する判断の材料も、日本のJT-60や欧州のJET、米国のTFTRなどでの臨界プラズマ条件の達成やDT核融合エネルギーの発生など、これまでの中核装置が先導した研究によって得られたものである。
 投入資金の配分については、中核装置の建設・運転に資金の過半を投入するものの、炉心プラズマ技術と炉工学技術開発にも有為な資金投入を行い計画全体としてのコスト、期間、及びリスクを最小化することが必要である。一方、各段階の中核装置の建設費は実用炉の建設費の指標になることから、電力会社等が受け入れ可能な設備投資額の上限値を踏まえた制限を設け、各段階のミッションがその制限内で実現可能となるように低コスト化技術を開発することが必要となる。

(4) 原型炉に先立つ中核装置としての実験炉と第三段階計画
 原型炉に先だって、現時点で最も確実な最先端の炉心プラズマ技術や工学技術を結集させ、十分見通しのある目標を設定した中核装置としての実験炉を製作し、次の発電プラントである原型炉へ進む技術基盤を確立することが必要である。加えて、開発段階の計画全体のコストを最小化するには原型炉に先だって必要な中核装置は可能な限り1段階であるべき(single step to DEMO)との考えが貫かれている。

図2.1.1-2 核融合エネルギー研究開発と実用化への道

 現状の研究レベルから核融合発電を見通すにあたり、第一のマイルストーンとしては、自己点火条件の達成と定常炉心プラズマの長時間運転の達成が必須である。これらが達成されることにより核融合発電への見通しが明確となり、原型炉段階への更なる投資の適否を判断することが可能となる。実験炉においては自己点火条件等の未踏領域を目指すことになるが、JT-60、JET、TFTR等の大型トカマク研究の成果をもとに十分実現可能と判断できる。
 現在検討中のITERは、エネルギー増倍率が当初のITERより小さくなるよう修正されたが、この選択は原型炉に向かって一段階で到達するためにそのステップをより適切としたものであり、ITERの基本理念であるsingle step to DEMO方式を変更するものではない。他方、現在検討中のITERは同時に密度限界に対する裕度の確保や、定常運転時における増倍率を維持することにより、定常性や経済性を高める役割を加えるなど、性能/コスト比は高くなっていると判断される。
 これまでに、発電プラント原型炉に至る前にITERのような統合装置の必要性について言及してきたが、実験炉(ITER)が中核的役割を担う段階が必要である。我が国ではこれを「第三段階核融合研究開発基本計画(以下第三段階計画と呼ぶ)」において定めている(図2.1.1-2)。

表2.1.1-1 各国の核融合エネルギー開発戦略

 第三段階計画では実験炉を中核装置としつつ、これと並行して原型炉に必要な研究開発を進めるとしている。すなわち、プラズマの研究開発についてはプラズマの振る舞いを自律性の高い、核燃焼定常プラズマにおいて確認することがまず必要であり、このミッションを担う中核装置としてITERが構想されている。ITERを中心とした研究開発と、ITERに先駆けて新しい試みを試験したり、プラズマ性能の高度化を目指してITERで探索できない領域での実験を行うトカマク型先進・補完研究装置、ヘルカル型装置などトカマク型以外の装置による研究開発がすすめられる。また、炉工学技術については、ITERにおいて大部分の技術を取り入れて統合することができる。原型炉に向けての材料開発やブランケット開発などはITERと並行して、及びITERを利用して進められる。このためITER以外に材料試験用強力中性子源や、ブランケット、燃料サイクルなどの開発のための設備が必要と考えられている。原型炉に至る過程でのブランケットや材料の開発などは数多くのオプションについての要素開発を国内外で並行して行うことができ、またそれらの成果をITERや原型炉に同時並行的に組み込んで試験を行うことができるので、統合化に向けての技術開発を効率よく、継続して進めることができる。
 表2.1.1-1は日本、米国、欧州の開発戦略をまとめて比較したものである。欧州においても、基本的に日本とほぼ同様な段階的開発計画(single step to DEMO)を策定しており、実験炉の次は、経済的な発電実証を目的としたDEMO炉の開発を想定している。欧州のDEMOの目的は、第一壁とブランケットにおける低放射化材料の実証、増殖ブンランケット内でのトリチウム生産を含むトリチウム燃料サイクルの実証、安全性と環境保護システムの実証、および実規模遠隔保守の実証・発電実証である。
 米国においてはこの数年間に核融合をエネルギー開発からエネルギー科学へと視点を変更してきており、国内計画としてトカマク型の先進概念に重点を置いているのみで、ITERに参加の道を確保しつつも、長期的戦略は将来に委ねているものと見られる。米国内においても核燃焼実験炉の必要性が再認識され、米国エネルギー省長官諮問委員会(SEAB:Secretary of Energy Advisory Board)ではITER計画がスタートすれば部分的にせよ再参加を検討すべきであるとの結論を出している。

2.1.2 開発のマスタープラン
(1) 考慮すべき核融合の特徴
 プラズマを支配するパラメータの多様性のために、現在の知見から判断するプラズマ性能の最適領域やその制御法は、各段階の研究開発の結果によって十分な評価と見直しが行われるべきであり、一旦定めた次段階以降の目標が固定的なものとみるべきではない。核融合開発の場合はプラズマに関する理解が進むことによりその後に進むべき方向をより確実に示すことが出来、一つの段階が終了する時点での深く、総合的な評価作業によって、次の段階の目標領域の最適化を図るべきである。このように、炉心プラズマの閉じ込めには、大きな装置を必要とすることなどから、長い周期での大きなステップが必然的に想定されている。
 他方、核エネルギー変換システムとしての核融合炉の際だった特徴は、核分裂炉と比較した場合、核反応を起こし制御する部分と、エネルギー変換・取り出し部分を完全に分離して開発を進められることが挙げられる。核分裂炉では燃料-減速材-冷却材の組み合わせで炉型が決定されるため、原型炉段階以降において様々な要求と可能性に対して多様な炉型の開発が必要とされた。これに対して核融合炉の燃料サイクルシステムと、エネルギー取り出しを担うブランケットシステムについては、炉心プラズマとほぼ独立に、漸進的に、しかも同時に多様な形式と性能を開発することが可能である(図2.1.2-1)。この特徴はとくに工学要素技術と材料の開発において顕著であり、核融合の長所を生かしたエネルギー源としての可能性は、多様な未来社会の要求に答えつつ、必要となったときには即応できるような広範な技術開発により対応できることを示している。
 炉工学の現状では、実験炉建設に必要な技術はほぼ完成しているが、エネルギー取り出しに関する研究開発はごく初期的な段階にある。実験炉段階で初めて発電ブランケットと燃料サイクルの連結に向けた開発が開始され、研究開発の中心となる。このための開発がITERを核融合炉環境のテストスタンドと見立てて実施され、更に原型炉段階において複数のエネルギー発生システムが開発、試験されることになる。そして、原型炉段階までで、核融合発電に必要な技術は、経済性を除いてほぼ完成する。これは、エネルギー供給装置として要求される性能が技術的に達成されることであり、核融合が確実な供給能力を持った代替エネルギー源として成立することを意味している。この段階で、「保険」として要求される核融合の役割は満たされることになる。
 原型炉段階より将来の実用化段階では、発電技術の開発によって他のエネルギー源と競合しながら市場への展開が図られ、熱供給など、社会の要求に応じたエネルギーを生産するための多様な技術開発も行われるが、市場による選別と標準化により方式は絞られていこう。この場合でもブランケット交換による需要変化への対応力は核融合の特徴である。

図2.1.2-1 エネルギー利用(炉工学)から見た核融合実用化のステップ

(2) マスタープラン
 本節の前提としては、第1章に述べたように地球環境問題への対処のために石炭資源の使用制限が起こり2050年頃から代替エネルギーの必要性が高まり得るとして、実用化段階に入る、即ち、産業界が実用炉建設の是否を技術的・経済的見通しを持って判断できる状況に至る時期を2040-2050年頃と想定した。このためには、

 1)実験炉ITERをEDAの終了後に建設に着手し、運転開始後10年程度の“基本性能段階”でその基本性能(自己点火(Qが20程度以上)、1000秒程度の長時間燃焼、Q~5定常核燃焼)を達成すること、
 2)ITERでの基本性能の達成によって実験炉段階から原型炉段階への移行は可能と考え得るので、他の閉じ込め方式の進展も考慮しつつ、原型炉方式の選定を行い、原型炉段階への移行と原型炉の工学設計、建設、運転段階に進むこと、

が必要である。

 実験炉については、原型炉段階への移行後も性能拡張を目指した試験を継続し、原型炉や実用炉に経済性向上の面から要求される高出力密度、高稼動率運転の実証を図るとともに、原型炉用のブランケット試験を進めることが妥当である。これによって、炉心、運転技術、機器の開発の継続性が確保され、計画のスムーズな進展が期待される。
以上に述べた開発スケジュール例を図2.1.2-2に示す。

図2.1.2-2 トカマク型核融合炉開発計画例

 また、表2.1.2-1に代表的なトカマク型核融合炉の設計例を示す。実証炉は、経済性の観点から原型炉より小型化することが必要であるが、それには、1)プラズマの高性能化、2)強磁場コイルの開発、3)高耐中性子照射材の開発の3つが重要である。1)と2)によりプラズマ圧力が上がれば核融合出力密度が増加することで核融合炉の小型化が可能となる。しかし出力密度の増加は必然的に第一壁の中性子照射の増大を伴うため、3)の材料開発も同時に達成する必要がある。実現可能と予想される磁場の強化とプラズマ性能の改良で、プラズマ圧力はITERの2倍以上に上げられると考えられ、現在実証炉の有力な候補として考えられている先進フェライト鋼との組合わせで、1.3.6節で述べた経済性からの要請を満足することが可能と考えられる。なお、将来のプラズマ性能改善見通しについては3.1.3節を、磁場コイルの開発については3.2.3節を、それらによる経済性の改善については3.7.4節を参照されたい。

表2.1.2-1 代表的なトカマク型核融合炉の設計例

   図2.1.2-2をみても判るように、各段階の実験成果の次段階への反映はタイトであり、エネルギー環境問題に対応するため核融合炉が21世紀後半に市場への定着するためには早期に実験炉計画の実現を図ることが必要である。原型炉での発電実証より先の開発については、核融合エネルギーの取り出しが実証された後だけに、民間主導となるであろうこと、国際的、国内的な競争原理が強く働くであろうことなどから技術開発の態様は現在の予測を超えるものがあろう。このため、目標とすべき実用炉の概念は、特に経済性などの視点から現下においても絶えず検討し方向性を示すべきであるが、それへの具体的なアプローチの仕方、計画については現下の知識でもって固定化するのではなく、段階を進めてから具体化することが適切と考える。
 以下の各節に於いて、それぞれの段階について詳細に記述する。

2.1.3 実験炉段階
 原子力委員会が定めた第三段階計画によると、実験炉の目的は、重水素(D)+トリチウム(T)燃焼プラズマによる自己点火条件(Qが20程度以上)の達成と長時間燃焼(1000秒程度)の実現及び原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成にある。
 この段階においては中核装置として実験炉を建設し、DT核融合反応によって発生するアルファ粒子が主要な加熱源となる核燃焼プラズマの挙動を把握することが求められる。
 具体的な課題としては、誘導運転においてエネルギー増倍率Qが20程度以上を実現するとともに、原型炉で想定されている定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長時間燃焼(1000秒程度以上)を行う。また、トカマク型核融合原型炉で想定される非誘導運転においてはQ~5を実現する。さらに、トリチウム(外部)供給が可能な範囲で有意な核融合エネルギー発生(例:0.3MWa/m2~数百MW×10年×0.05) を実証し、低フルーエンス領域での14MeV中性子照射の影響評価を行うこととする。
 炉心プラズマに関する具体的なITERの核燃焼プラズマの基本的課題としては、

イ) 3.5MeVアルファ粒子による高自己加熱割合(67~80%)プラズマの核燃焼制御
ロ) トロイダルアルベン固有モード等の巨視的MHDモードのアルファ粒子への影響評価と制御
ハ) JT-60に比べてL/ρiが大幅に大きくなることによる熱粒子輸送特性の把握と制御
ニ) ヘリウム灰排気特性の把握と制御、及び、高放射率ダイバータプラズマとの共存性
ホ) 新古典テアリングモードなどの抵抗性MHDの核燃焼プラズマでの挙動把握と制御
ヘ) プラズマ圧力分布と自発電流分布に加えて自己加熱分布が強く結合する高自発電流核燃焼プラズマの挙動とその制御
等が挙げられる。
 また、ITERの拡張運転段階では、原型炉の閉じ込め方式がトカマク方式となった場合は、原型炉物理R&DとしてQ>5の高自己加熱・高自発電流割合プラズマ制御法の確立、βN=3.5-4.0の定常核燃焼運転法の確立などを行い、原型炉による高Q(Qが30程度以上の)定常炉心プラズマの技術基盤を確立することが適切と考えられる。
 実験炉段階における炉心プラズマ技術としては、核融合会議が定めた「核融合研究開発の推進について」(平成4年5月18日)に記載されているように、実験炉に並行してトカマク装置による以下の研究開発を進めることが重要である。

 実験炉の建設・運転に必要な炉心プラズマ技術の課題について、既存の設備を活用することによりその研究開発を進める。この主要課題は、低温ダイバータ・プラズマの実現、ディスラプションの制御技術の確立、Hモード閉じ込め制御法の確立、プラズマの生成・維持の条件(運転シナリオ)の最適化、アルファ粒子挙動の把握などである。これらと並行して、前述の補完的・先進的研究開発を進める。この主要課題は、プラズマ電流に占める自発電流の割合の高い高ベータ・プラズマの実現によるプラント内の循環電力の低減、遠隔放射冷却法及びセパラトリックス掃引法の併用によるダイバータ板への熱流束の抑制等である。

 現在、実験炉の建設に必要な炉心プラズマ技術の課題は解明されつつあり、今後は運転に必要な課題の研究や、補完的・先進的研究開発が重要となる。また、本報告書3.1節において明らかにした今後の課題の研究を進めることが肝要である。
 実験炉段階における炉工学機器の開発研究は、核融合炉実現の技術的基盤を与えるとともに、システム総合炉工学や先進材料工学分野を開拓するものである。ITERを実現するための主要な炉工学機器の開発研究では、これまでのITER工学設計活動を通して、現存試験施設や解析手法を最大限に活用して、超伝導技術、高熱流束除熱技術、加熱技術、保守・保全技術等に係る個々の工学技術課題を着実に克服し、ITERに必要な性能を実証するなど機器開発が格段に進展した。
 実験炉から原型炉に向けた研究開発の中で、炉工学的な観点で重要なものは、原型炉に必要な発電用ブランケットの開発である。これは、トリチウム製造と発電システムの機能を併せ持つものであるが、その開発には材料素材の改良・開発と、機能構造体としてのブランケットシステムの開発を並行して進める必要がある(図2.1.1-1)。材料素材の開発については、過去10年以上に亘ってフェライト鋼の改良により、100~200dpaの14MeV中性子照射に耐える低放射化構造材料の開発を目指してきたが、これまでに核分裂炉により核融合を模擬した条件下で40dpaまでの照射健全性が調べられており、引き続きより高い中性子照射量に耐えられるかを実験中である。材料素材の開発は最終的には核融合中性子スペクトルと類似の14MeV中性子源による重照射試験での確認が必要となる。機能構造体としての発電ブランケットはITERの建設運転に並行してR&Dを実施したあと、テストモジュールを製作してITERに装着し、中性子照射環境下で機能試験を行う必要がある。ここでの開発によって原型炉に全面的に取り付けられる発電用ブランケットの機能が技術的に担保されることになる。即ち、原型炉の発電ブランケットの開発のためにはITERのように、大きな体積の試験体を照射できる中性子照射場が不可欠である。
 さらに、原型炉段階でプラズマの高ベータ化に必要となる高磁場(高温)超伝導磁石技術、及び核融合炉の実用化に向けてブランケット交換頻度を下げるために~200dpa程度の高い中性子フルーエンスに耐えるブランケット構造材料の開発を行い、原型炉の設計研究や方式選択に資することが重要である。また、核融合炉の安全性を一層高めるための環境放射能安全研究、工学的安全研究、安全評価研究を進めるとともに、最新の炉心プラズマと炉工学技術の知識に基づいて核融合原型炉、実用炉等の設計研究を行い、研究開発の指針を与えることが求められている。
 原型炉に向かって開発を進める場合に、実用炉の姿を示しつつそれに繋がるものとして原型炉、実験炉のパラメーターが適切に選択されている必要がある。実用炉としては、現在最も開発が進んでいるトカマク型核融合炉で、かつパルス運転方式よりは定常運転方式を基本として開発計画を定めることが、コスト、技術的課題の観点より妥当である。定常運転を行うトカマク炉においては、非誘導電流駆動用電力などの循環電力を低減しプラント全体のエネルギー効率を高く保つことが必要となる。プラント全体のエネルギー効率はプラズマのエネルギー増倍率Qや発電機の熱効率の関数であり、各国の原型炉構想の設計点はQ=20~50、エネルギー効率としては30-40%である。このような観点よりみれば実験炉の運転パラメーターは原型炉への唯一のステップの装置のパラメーターとして妥当なものである。

2.1.4 原型炉段階
 統合装置として原型炉を建設し、正味電力50-100万kWの発電を実証する。このために、高いエネルギー増倍率(Qが30程度以上)をもった定常炉心プラズマを実現する。また、構造材料の進展を踏まえて選定された発電方式(構造材料、冷却材、運転温度など)による発電ブランケットの設置によって発電実証を行う。さらに、運転の信頼性を高め稼働率の向上を図る。これらを通じて、ブランケット第一壁における高い中性子フルーエンス(3-7MWa/㎡)を実現し、ブランケット等の構造健全性を実証する。
 原型炉は国主導で建設する大型装置であり、研究開発段階の最終目的であると同時に、また実用炉に繋がるものとして欠くことのできない装置である。  原型炉段階において中核装置の他にこれと並行して進めるべき研究開発の有無を現時点で詳しく議論することは余り意味がないので図2.1.2-2では表記していない。前節で述べたように、ITERの拡張性能段階の活用などにより、実用化にむけて、より高い信頼性、経済性、環境保全性を目指すことは当然のこととして、そのためにどのような課題が重要課題であるかはITERを中心とする実験炉段階の成果や変化し得る社会からの要請如何に依るところが大きいからである。実験炉による研究開発が進み、一連の評価が成されると共に、そのことによって実用炉の方向性がより明確になった段階で明確化することが適切と考える。
 原型炉段階の研究開発の結論として、それが実用炉建設に結びつくことが求められる。そのために、民間(電力会社)が実用炉建設を決断できる経済性を有していること、プラント特性の改善見通しが得られること、すなわち実用化に向けて原型炉の完成度を高めるための技術課題が明確になり解決されること、運転管理、運営システム、コスト低減などの技術ベースを提供できること、実験炉よりさらに高性能化、コスト低減を目指した先進的な技術が取り入れられ実証されること、増殖ブランケット及び低放射化材料開発が技術的に実証されること、などの成果がここに含まれていることが必要である。
 表2.1.4-1に各国で概念設計研究が行われている原型炉の設計パラメーターをITERのそれと比較して示す。この中には実用炉として設計されたものも比較のため含めてある。

表2.1.4-1 各種トカマク型核融合炉設計のパラメータ

 日本原子力研究所では、高ブートストラップ電流放電の実証や高磁場超伝導コイル技術や高エネルギー中性粒子入射技術の進歩等の炉心プラズマと炉工学における知識を集めて1990年に定常トカマク動力炉SSTR(Steady State Tokamak Reactor)の概念設計が行われた。この設計では、現実的な物理、工学技術を用いて電気出力100万kW程度の核融合発電プラントのエネルギーバランスが実現可能であることが示された(図2.1.4-1)。
 SSTRでは高効率定常運転を実現するために、高いポロイダルベータ値(βp~2)と高い安全係数(qa~5)が特徴となっている。また、2MeVビーム電流駆動による高効率の定常運転、高磁場(9T)高安全係数運転によるデイスラプション頻度低減、電流分布制御による高規格化ベータ、ダイバータガスパフによる低温高密度放射ダイバータなどの特徴をもっている。さらに、経済性改善のためにコイルの最大経験磁場を16.5Tとし装置のコンパクト化にも留意した。ヘリウム冷凍機容量は液化負荷も含めると総計64kW(冷凍機用電力22MW)である。加熱・電流駆動はビームエネルギー2MeV、ビームパワー60MWの中性粒子入射装置(システム効率50%)を採用している。また、ビームライン偏向を実現するためにビームラインが大きくなっている。 ブランケット横造材には耐照射特性等に優れた低放射化フェライト鋼F82Hを採用し、この運転温度領域での冷却媒体としては除熱性能と遮蔽性に優れた高温加圧水(15MPa)としている。トリチウム増殖材は、固体増殖材Li2Oを採用している。また、中性子増殖材としてはベリリウム(Be)を採用し、高いトリチウム増殖率(TBR=1.2)と中性子エネルギーの増倍率(1.36)を実現している。核融合ブランケット横造材料に対して過度の開発リスクを負わせないために、許容フルーエンスを7MWa/㎡と設定している。ブランケットは2層構造とし、薄型(~20cm)の交換ブランケットを2-3年毎に定期交換する方式としている。交換ブランケットを前面に設置する永久ブランケットは炉寿命中(30年間)使用する設計となっている。

図2.1.4-1 SSTR動力炉の概念図

2.1.5 実用化段階
 実用化の段階で、経済性の実証(市場競争力実現のためのベースの構築)という特定の目的で一つの統合装置(実証炉)が必要となるか否かは現時点で予測が困難である。それは原型炉段階で達成される技術の深さや、半世紀後のエネルギーを取り巻く社会的要請などによって異なるからである。原型炉で達成される成果によっては一気に市場への実用化が図られることも有り得ることであり、その場合は実証炉という装置は必要ないこととなる。
 実用化の段階では原型炉における実績とその時点でのエネルギーコストを考慮して核融合発電としての経済性を強く意識しつつ実用化が図られることになる。この段階では経済性や信頼性について絶え間のない改良が加えられることとなるが、実用化段階の第1号炉における性能を現在の設計や知見に基づいて予測すると、原型炉段階までに開発した構造材料と発電技術の進展を踏まえて選択された発電方式(構造材料、冷却材、運転温度など)により、正味電力100(-150)万kWの発電を行い、高い稼働率(~70%)で運転の信頼性が図られる。これらを通じて、ブランケット第一壁における高い中性子フルーエンス(7-14MWa/㎡)を実現し、ブランケット等の長寿命構造健全性も実証される。
 原型炉は、既存の発電プラントと同様に、運転管理、運営システム、コストの低減、市場競争力のポテンシャルを備えている必要がある。実用化段階ではリスク回避の観点より、基本的には原型炉をもととして、そこで実証された多くの技術の改良が中心となる。
 実用炉を見通して核融合炉を開発していくとき核融合炉の実用化要件に注目する必要がある。すなわち、建設費や価格優位性がまず重要であり、また、高い安全性、環境保全性が求められる。
 トカマク型核融合炉の運転方式には、誘導電流駆動によるパルス運転方式と非誘導電流駆動による定常運転方式がある。パルス運転方式の場合、蓄熱器を用いない12時間程度の長パルス運転方式では建設費は定常炉の1.5倍、蓄熱器を用いる1時間程度の短パルス運転方式でも1.3倍と概算されている。米国の同様の評価でも、主に炉本体などのコスト増により定常炉の1.5倍程度の建設費と見積もられている。さらに、パルス運転方式では繰り返し運転に伴う熱サイクル疲労などの技術的な課題も発生することから、定常運転方式のトカマク炉を基本として開発計画を定めることが妥当である。定常運転を行うトカマク炉においては、非誘導電流駆動用電力などの循環電力を低減しプラント全体のエネルギー効率を高く保つことが必要となる。プラント全体のエネルギー効率はプラズマのエネルギー増倍率Qや発電機の熱効率の関数であり、各国の原型炉構想の設計点はQ=20~50、エネルギー効率としては30-40%である。従って核融合実用炉として適切な定常運転方式を考えるときQ=20~50が求められる条件であり、逆にQ=∞を目指すことは必要でない。
 我が国の核融合動力炉の設計研究は1980年代からあるが、大型トカマクJT-60の研究成果に立った現実的な設計は、1990年の定常核融合炉SSTRの設計研究(日本原子力研究所)に代表される。SSTRは工学的には保守的な設計とし低放射化フェライト鋼を構造材料とし軽水炉の温度条件を用い原型炉段階での建設を意識している。実証炉以降の核融合炉で要求される経済性改善を命題とした炉としてはA-SSTR炉(日本原子力研究所)やCREST(電力中央研究所)がある。また、環境安全性などに優れたDREAM炉(日本原子力研究所)もある。
 SSTRは、現在の知見を基にした場合であっても科学的には実現性が比較的高い核融合炉の概念である。しかしながら、その建設単価は軽水炉の2倍程度に達し、建設費に比例して燃料費、運転費が経費率が軽水炉と同じとすると軽水炉の2倍の発電単価となる。燃料費、運転費に特段の削減ができたとしても軽水炉の1.5倍の発電単価となる。核融合が核暴走がないという利点をもっていても、建設運転にあたる電力会社の負担は過大となり、既存のエネルギー源に変えて開発を推進するモーティベーションは生まれにくい。これを踏まえて、核融合実用炉の概念構築のために、まずユーザー側の視点に立って核融合炉の要件を考察し、それを実現できるような炉の基本構想をまとめたのがA-SSTRである。その特徴は、高温超伝導線を低温(27K)で用いることにより、高磁場の発生と冷凍機容量の削減を期待している。また、構造材に低放射化フェライト網の酸化物分散強化(ODS)鋼を用い、一般火力並みの高い熱効率を実現するというものである。規格化ベータ値はSSTRにくらべると若干高いβN=3.7に設定されている。炉の核融合出力は3.53GW、熱出力は4.3GW、正味の電気出力は1.63GWである。熱効率の改善とベータ値の増加によって、正味電気出力を増やしている。また、炉のコンパクト化にも留意し、2基をセットで建設・運転することにより周辺設備の共用化を考慮した構想となっている。トカマク核融合炉本体の直径は約22m、総重量は約2万トンである。ブランケット横造材の第一候補はODS低放射化フェライト綱であり、耐熱温度は600℃程度まで向上することを期待している。

参考文献

[2.1.1-1] ITER特別作業グループ第2タスク報告書、1999年1月:米国のITER活動からの撤退が明らかとなったなかで、米国を含んだ4極が広い視野に立って核融合戦略とITERの関係についてに議論し、纏めた報告書である。