1.2 経営から見た核融合発電の商用化条件
1.2.1 はじめに
 電気事業者が電源を考えるときに検討する項目は、動力炉の構成要素個々の性能ではなく、系統の中における一つの電源としての総合的性能ということになる。
 事業者の立場からすれば、エネルギーを供給する反応が何であろうと、重要な要求特性は、
 ・発電コストが安く、
 ・信頼性(アベイラビリティー)も高く、
 ・エネルギーセキュリティーにすぐれ、
 ・立地点の選択の幅が広く、
 ・運転保守が容易
といった条件を満足することである。建設に当たっては、さらに電力系統個別の事情を考慮して仕様を決めることになる。核融合が特別に優遇される理由はなく、電力が求める条件は他の電源と大幅には変わらないはずである。核融合炉の個別性能項目を最適化することで、これらの要請に応えていかなければならない。
 核融合炉の望ましい特性値を直ちに示すことは難しいが、参考として、いくつの重要な要因について現行電源との比較という形にまとめた。核融合炉への要求が現行電源への要求とまったく同じとは限らないが、少なくともこれらを一つの基準として考えていく必要があるだろう。

1.2.2 火力・原子力の比較と核融合炉に要請される仕様の考察
(1) 稼働率
 火力発電、原子力発電における稼働率の現状を表1.2.2-1にまとめた。現行電源は、原子力、火力とも80%を越える高い稼働率(もしくはアベイラビリティー)を維持している。
 核融合炉はベース負荷電源としての高利用率での運転が期待されるため、稼働率は原子力と同様に高く維持することが必要であろう。計画外停止は、現状では議論できないであろうが、軽水炉なみを実現する必要がある。但し、初期炉で多少悪くても、本質的に改善できないものでなければ、理解される可能性はある。ブランケット交換による稼働率低下はかなり本質的なので、その他の部分も含めた長寿命化と補修・交換作業の簡易化は、必須課題である。

表1.2.2-1 現行電源の稼働率

図1.2.2-2 軽水炉の定期検査停止期間実績 [1.2.2-2]

図1.2.2-3 軽水炉の年間平均停止率および計画外停止平均回数 [1.2.2-1]

(2) 経済性
 表1.2.2-2に示すように原子力は、導入の比較的初期の時点で、火力より安いという建前で導入されていたことが分かる*。同様に考えれば、核融合が採用されるには、他電源よりかなり安いことが望ましいのは言うまでもない。もし同等程度にしかならないならば、コスト以外に電力にとっての大きな魅力が必要である。それがなければ、同等コストでも採用されるのは難しいだろう。長寿命化、高稼働率化はやはり必須項目である。

表1.2.2-2 現行電源の経済性

(3) 運転特性
 現行原子力と火力の運転特性については表1.2.2-3の通りである。日本においては、原子力は負荷追従運転をしていないが、部分負荷運転ができないわけではない。火力の負荷追従性は一般に優秀であるが、建設費が高く燃料費が安い石炭火力はベースロード運転が基本になっている。
 核融合炉の運転特性としては、可能であれば、火力なみの運転特性を有することが望ましいが、導入当初は、ベースロードとしての利用が予想されるので、少なくとも導入初期はとりわけ優れた特性は必要ないと考えられる。しかし、例えば、系統事故時などは、一時出力を下げ、タービンバイパスで待機することは要求される可能性がある。従って、負荷追従、部分負荷運転の重要性が低いとしても、部分負荷運転がまったくできないでよいとは言えない。緊急時でも安全に対処し、かつ容易に復旧できるよう、保護制御系を構成すべきことは当然である。

表1.2.2-3 現行電源の運転特性

(4) 立地環境
 立地に関しては、原子力、火力とも環境問題やPAの点で、困難さが増して来ているのが現状である。安全性は核融合炉の大きな特徴になりうるので、立地条件の緩和可能性についてはかなり高い目標を掲げる必要があろう。PAを確保するためには放射能放出はもちろん軽水炉以下、またバックエンド技術も十分成熟していることが必要である。事故時の安全性は、当然ながら、必ず確保されていなければならない。

表1.2.2-4 現行電源の立地条件

(5)その他
 その他の条件として、ユニット容量と熱効率の比較を表1.2.2-5に挙げた。ユニット容量は、系統規模、予備力などと関係する。参考として、アジアでの原子力開発の動向を表1.2.2-6にまとめてある。これから読み取れるように、概ね総発電設備が1000万kWに達するあたりから原子力発電導入が計画され、その初期の設備容量は総容量の20%程度であり、原子炉単機では10%程度である。実際に単機で系統容量の10%を越える設備の導入は、系統安定性の観点から難しい。したがって、核融合炉がより多くの地域で利用されるようにするためには100万kW級のユニットで技術的・経済的に問題のないことが望まれる。単機200万kW以上では、総設備容量2000万kWあたり1セット(2基)導入する程度が一つの目安となると予想でき、今後の設備容量の増加を考えにいれても、核融合導入初期における導入可能地域はかなり狭まるだろう。但し、現在のフランスのように発電電力量に占める原子力発電の割合が80%に達している例もあり、核融合の技術成熟が進めば、総容量の20%を大きく越える割合での導入が可能となる可能性はある。

表1.2.2-5 現行電源のユニット容量と熱効率
表1.2.2-6 アジアにおける原子力発電
参考文献
[1.2.2-1] Nuclear PowerStations in Japan, Nov. 1997, 電中研・原子力情報センター
[1.2.2-2] 日本の原子力発電所、1993年、 電中研・原子力情報センター

1.2.3 商用核融合炉への仕様要求値のまとめ
 上記で述べた現行電源(軽水炉と火力)の特性や、それから予想される核融合炉の仕様に関する考察をもとに、比較的初代の核融合炉が商用炉として使われうるのに必要と思われる特性をまとめてみると表1.2.3-1のようになろう。表右端の「初期核融合炉の目標」は、本節の検討に加え、核融合炉として実現しうる特性予測と核融合炉の利点と欠点も考えつつ予測した値であり、すべてにわたって現行電源に匹敵する、あるいはそれを凌駕する特性になっているわけではない。初期商用炉として最小限の目標と理解されるべきである。

表1.2.3-1 商用化を考えた場合の核融合炉の特性目標