はじめに
 我が国の核融合開発は、平成4年6月に原子力委員会が策定した「第三段階核融合研究開発基本計画」に沿って推進されている。この計画では自己点火条件の達成と長時間燃焼をその主要目標に掲げており、現段階でこの目標の達成が可能な中核装置としてトカマク型実験炉を採用している。その上で原子力委員会は、平成8年8月、国際協力により工学設計活動を進めている国際熱核融合実験炉ITERをこの中核装置と位置づけている。
 ITERは従来の核融合実験装置に比べて格段に規模が大きく、その建設には社会的合意の形成を図る必要がある。このため原子力委員会は国民を代表する各界の識者からなるITER計画懇談会を設けて、ITER建設の妥当性に関して鋭意検討を進めてきたところである。懇談会は平成10年3月に「懇談会における論点の整理と今後の課題について」と題する中間報告書を出し、その中で我が国が設置国になることに名乗りを挙げるか挙げないかを決断するためには、以下の課題が調査・研究によって明確にされる必要があると指摘した。

 (1) エネルギーの長期に亘る需給調査
 (2) 代替エネルギーのフィージビリティスタディ
 (3) 核融合エネルギーの技術的実現性
 (4) 計画の拡がりあるいは裾野としての基礎研究
 (5) 研究の資源配分
 (6) 国際関係

 核融合会議は、核融合エネルギーの実現に向けての開発戦略を検討するために、開発戦略検討分科会を平成10年6月12日に設置した。分科会は別紙1に示す通り、我が国の核融合研究開発に携わる大学、日本原子力研究所、産業界の専門家で構成されている。審議に際しては必要に応じて外部から学識経験者を迎えて意見を聴いた。
 ITER計画懇談会の中間報告書では(3)に関して、安全で確実な供給源としての核融合エネルギーの実現可能性を、我が国が持つ潜在技術力、経営能力、産業構造の特性等から整理することと、これを幅広く産業界の積極的参画を得て行うことを附言している。また(4)に関しては、仮にITERの設置国に我が国がなった場合、ITER計画さらにはそれ以降の核融合炉開発を長期に亘って支えることになるであろう先進炉方式や材料開発などの各種分野の基礎研究や教育、人材養成についての、大学や産業界の役割、これらとの連携体制がどのようになることが求められるかなど、核融合エネルギーの実現に向けての総合的な設計図を作成することを要請している。
 これを受けた核融合会議の決定(平成10年6月12日)に基づき、本分科会では以下の3項目について集中的に審議した。

 (1) 核融合エネルギーの技術的実現性
 (2) 核融合炉開発を長期間に亘って支えることになる各種分野の基礎研究、人材育成、大学や産業界の役割・連携体制等の基盤形成
 (3) 核融合炉の開発戦略に関する事項

 なお、本分科会ではITERと同じトカマク方式を例にとり、核融合炉の技術的実現性を検討した。「第三段階核融合研究開発基本計画」においては、次の段階の中核装置を選択するにあたってはトカマク以外の方式も含めて検討することとされており、今後の研究開発において代替方式のいずれかがトカマク方式を凌駕する可能性を排していない。また、トカマクの代替方式で得られる知見はITERを支援するものとしても極めて有用である。
 分科会は発足以来平成12年4月まで25回開催し、審議を行った。本報告書はその結果を取り纏めたものである。